説明

電子銃、電子線描画装置、物品製造方法および電子線装置

【課題】 クロスオーバの輝度均一性の点で有利な電子銃の提供。
【解決手段】 共通の軸に沿って順に配置されたカソードとバイアス電極とアノードとを有する電子銃であって、前記カソードの電子放出面は、前記軸上の点を含む第1領域の曲率半径(第1曲率半径)より該第1領域の外側にある第2領域の曲率半径(第2曲率半径)が大きく、かつ、前記第1領域および前記第2領域がともに前記第1曲率半径を有する場合よりクロスオーバの輝度が均一となる形状である、電子銃とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子銃、電子線描画装置、物品製造方法および電子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
共通の軸に沿って順に配置されたカソードとバイアス電極とアノードとを有する電子銃であって、比較的高い輝度を保ちつつ広い視野にわたって均一な電流密度(照度)で電子線を照射するのに有利な電子銃が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−285840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された電子銃は、クロスオーバの輝度均一性の点で有利である。しかしながら、カソードの電子放出面を球面としている点において当該均一性に限界があることを本願発明者は見出した。
【0005】
本発明は、クロスオーバの輝度均一性の点で有利な電子銃を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の電子銃は、共通の軸に沿って順に配置されたカソードとバイアス電極とアノードとを有する電子銃であって、
前記カソードの電子放出面は、前記軸上の点を含む第1領域の曲率半径(第1曲率半径)より該第1領域の外側にある第2領域の曲率半径(第2曲率半径)が大きく、かつ、前記第1領域および前記第2領域がともに前記第1曲率半径を有する場合よりクロスオーバの輝度が均一となる形状である、ことを特徴とする電子銃である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば、クロスオーバの輝度均一性の点で有利な電子銃を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態1に係る電子銃の模式図
【図2】カソードの電子放出面の形状を示す模式図
【図3】電子銃の要部の構成を示す模式図
【図4】電子放出面が球面である場合の放出電子の軌跡を示す模式図
【図5】実施形態1の電子放出面からの放出電子の軌跡を示す模式図
【図6】電子放出面の形状を求めるのに使用する基準曲面の他の例を示す模式図
【図7】従来の電子銃および実施形態1の電子銃の輝度均一性を示すグラフ図
【図8】実施形態2に係る電子線描画装置の模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0010】
[実施形態1]
図1は、本発明の実施形態1に係る電子銃の構成を示す模式図である。図1において、1は電子を放出するカソード、2はカソード1を加熱するためのヒータ、3はカソード1とヒータ2とを挟み込んで固定するするともに、カソード1に電圧を印加し、ヒータ2に電流を流すための支持電極である。また、4aおよび4bはバイアス電極(それぞれ第1バイアス電極・第2バイアス電極)、5はバイアス電極により規定される第1のアパーチャ、6はカソード1から放出された電子を加速して所定のエネルギーにするためのアノードである。7および8はそれぞれアノードにより規定される第2のアパーチャおよび第3のアパーチャである。さらに、9は支持電極3とバイアス電極4aおよび4bとを絶縁するための絶縁体、10a・10b・10cはバイアス回路である。11はバイアス回路10a・10b・10cを介してカソード1に電圧を印加するための高圧電源、12はヒータ2に電流を供給しカソード1を加熱するための加熱電源である。なお、カソード1、バイアス電極4aおよび4b、およびアノード6は、同軸構造をなし、共通の軸(電子ビームの光軸ともいう)に沿って順に配置されている。カソード1は、その側面をヒータ2(例えば、グラファイトヒータ)で挟み込まれ、さらにその外側から支持電極3で挟み込まれて固定されている。
【0011】
カソード1は、バイアス回路10a・10b・10cを介して高圧電源11によって負の高電位が与えられ、当該電位は本実施形態では−15kVである。バイアス電極4a・4bには、カソード1に与える電位より10〜100V程度低い電位が与えられる。カソード1は、加熱電源12から電流を供給されたヒータ2により加熱されて電子を放出する。放出された電子ビーム13は、アノード6によって加速されるとともに、バイアス電極4a・4bによる電界レンズの効果で収束し、アノード6により規定される第2のアパーチャ7の後側にクロスオーバ14を形成する。アノード6により規定される第3のアパーチャ8は、制限開口として作用し、電子ビーム13の周辺部分を遮蔽して輝度が均一とみなせる中心部分だけを通過させる。
【0012】
図2(a)〜(d)は本実施形態に係る電子銃において、カソードの電子放出面の形状を示す模式図である。カソード1の電子放出面は、光軸を含む或る断面において光軸上の点からその外側に向けて曲率半径(例えば、電子放出面を各点で近似する球面の半径)が増大するように加工してある。具体的には、図2(a)に示すように、光軸上の点での曲率半径は小さく、外側に向かうにつれて曲率半径が段階的に大きくなる形状をしている。ここで、カソード(例えば六ホウ化ランタン単結晶から構成しうる)の加工を容易にして価格を安価なものとするために、図2(b)または(c)のように、2または3種類の異なる曲率半径を持つ形状としうる。このようにしても十分な効果を得られる。例えば、中心付近の曲率半径R1は0.03〜0.3mm、外側の半径R2およびR3は0.4mm以上としうる。また、電子放出面の曲率半径をより連続的に変化させて理想的な非球面に近づける場合であっても、加工を容易にして価格を安価なものとするために、図2(d)のように、当該理想非球面を模した微視的には階段状の形状を採用することができる。
【0013】
図3は、本発明の電子銃の要部を示す模式図である。カソードの電子放出面の曲率半径R1・R2は、前述の値である。バイアス電極4aの位置は、図示のZ方向(光軸の方向)において、曲率半径がR1からR2へ変化する電子放出面の境界の位置と一致するようにしている。アノードによる加速電圧が15kVの場合、カソード半径L1は0.3〜0.8mmが好適なサイズである。このとき、バイアス電極4aのアパーチャの半径L2はL1の1.1〜1.3倍、バイアス電極4bのアパーチャの半径L3はL2の0.7〜1.0倍が好適なサイズである。バイアス電極4bとアノード6との距離L4は、電界強度を10kV/mmとなるように設定し、アノード6による加速電圧を15kVとした場合、約1.5mmである。アノード6のアパーチャの半径L5は、電子線と接触しない程度に径を小さく設定することにより輝度が増し、好適な半径は0.05〜0.2mmである。曲率半径R1に対応する曲率中心の位置と曲率半径がR1からR2へ変化する上述の境界の位置との距離L6は、Z軸の方向において−0.01〜0.03mmが好適な位置範囲である(負の値は、当該曲率中心が当該境界より下方にあることを意味する)。ここで、本実施形態では、バイアス電極を上述のように2つ配置することにより、クロスオーバの輝度均一性を向上させている。しかし、カソード・アノード・バイアス電極の位置関係は適宜変更可能であり、当該位置関係によっては、複数のバイアス電極は必ずしも必要でない。また、本実施形態では、アノードによる加速電圧を15kVとして、従来の電子銃と比べて低圧にしている。これにより、加速された電子の速度が従来の電子銃と比べて低速となり、電子ビームが照射される対象物(アパーチャ部材等)の温度上昇も低減しうる。また、電子銃および後述する電子線装置内部の高圧部の電位を低下できるため、放電への対策が簡略化でき、電子銃または電子線装置の小型化にも有利である。
【0014】
図4は、電子銃のカソードの電子放出面を球面とした場合の電子の軌跡を示す模式図である。尚、電子の軌跡は、図不示のバイアス電極およびアノードがカソードに対して好適な電位差および配置を有するものとして算出したものである。当該電位差および配置の条件下で、カソードから放出された電子の軌跡は一意に定まる。このとき、電子放出面上の電子放出位置が光軸上の位置からその外側に向かうにつれて、放出された電子が光軸と交差する位置がカソード側に移動する。よって、実際のクロスオーバ径は、目標とするクロスオーバの位置(Z軸方向における位置)で目標とするクロスオーバ径Δdより大幅に肥大する。そのため、電子銃より後側の受光面を想定した場合、当該受光面に向かう電子の軌跡は、光軸上の位置から外側に向かうにつれて急激に外側に傾く傾向を示す。このため、当該受光面における電流密度(照度)は、光軸上の位置から外側に向かう(ビーム半角の増加)につれて急激に低下する。
【0015】
図5(a)〜(e)は、本実施形態に係る電子銃のカソードの電子放出面から放出された電子の軌跡を示す模式図である。図5(a)は、図4の電子放出面と同じ半径(第1曲率半径)の球面の電子放出面において、目標とするクロスオーバ位置においてクロスオーバ径が目標のクロスオーバ径Δdとなる範囲(第1領域)から放出される電子の軌跡を示している。ここで、図示の範囲より外側から放出される電子は、目標のクロスオーバ位置で目標のクロスオーバ径Δdの範囲に入らない。
【0016】
そこで、図5(a)に示した範囲より外側(第2領域)では、放出された電子が目標のクロスオーバ位置で目標のクロスオーバ径Δdに入るように電子放出面の球面の半径を(第1曲率半径より大きな第2曲率半径に)増大させる(図5(b))。図5(b)は、放出された電子が目標のクロスオーバ位置で目標のクロスオーバ径Δdに入る球面領域を実線で、放出された電子が目標のクロスオーバ位置で目標のクロスオーバ径Δd入らない球面領域を破線で示している。2つの球面の中心は光軸上に位置する。ここで、図3に示すXYZ座標系において、2つの球面の中心は、X座標・Y座標が一致し、Z座標は一致しない。そして、カソードの電子放出面は、2つの球面のうちアノードにより近い球面の領域を接続して構成される面である。
【0017】
ここで、外側の球面の半径は大き過ぎても小さ過ぎても、目標のクロスオーバ位置で目標のクロスオーバ径Δdの範囲に電子が入らないため、適切な半径の設定が必要である。そして、図5(b)に示すように適切な半径を設定した場合でも、放出された電子が目標のクロスオーバ位置で目標のクロスオーバ径Δdの範囲に入る領域はそれほど大きくない。そのため、図5(b)より更に外側の領域(第3領域・第4領域・・・・)に、図5(c)および(d)に示すように、更に大きな半径を有する電子放出面の部分領域を追加する必要がある。このような繰り返しにより、最終的に、図5(e)に示すようなカソードの電子放出面の形状が求まる。ここで、カソードの電子放出面は、光軸上の位置から外側に向けて曲率半径が段階的または連続的に大きくなる形状をしている。このとき、電子放出面から放出される電子は、目標のクロスオーバ位置で目標のクロスオーバ径Δdの範囲に入る。このようにすれば、当該クロスオーバ位置の後側に想定した受光面における電流密度は、光軸上の位置から外側に向かう(ビーム半角の増加)につれて急激に低下することはなく、一様とみなせる。また、電子銃の後側に配置したコンデンサーレンズを通過後の電子線の軌跡は、光軸と平行とみなせる。このため、当該コンデンサーレンズの後側に想定した受光面の電流密度は、受光領域内全域にわたり均一とみなせる。
【0018】
図6(a)〜(d)は、カソードの電子放出面の形状(理想形状)を求める場合の基準形状を示している。図5を参照した説明では、球面を基準形状として電子放出面の形状を求める例を説明した。しかしながら、採用できる基準形状は、それに限られるものではない。例えば、光軸を含む断面において、図6(a)に示す楕円形状、図6(b)に示す流線形状、図6(c)に示す放物線形状であっても、電子放出面の形状(理想形状)を求めることは可能である。また、図6(d)に示すような、X軸若しくはY軸に平行な軸を有する円筒面形状を基準形状とする電子放出面を求めることもできる。
【0019】
図7(a)、(b)は、アノードによる加速電圧を15kVとした場合の電子銃の輝度対ビーム半角の特性(関係)を示すグラフである。ここで、クロスオーバの輝度は、それを観測する方向の光軸に対する角度に依存するため、当該角度をビーム半角と定義し、当該ビーム半角と輝度との関係を示している。図7(a)は、電子放出面が球面(図4)である場合の輝度対ビーム半角の特性を示すグラフを、図7(b)は、電子放出面が本実施形態の面(図2(b))である場合の輝度対ビーム半角の特性を示すグラフである。グラフ中の破線は、ピークから3%輝度が低下するビーム半角値を示している。ここでの3%は、後述の電子線描画装置において、電子光学系の調整等により、実質的に均一な輝度として扱える場合の例である。この例において、(実質的に)輝度が均一とみなせるビーム半角値は、電子放出面が球面(図4)である場合は3mrad程度である。これに対して、電子放出面が本実施形態の図2(b)の面である場合は20mrad程度、図2(c)の面である場合は20.5mrad程度(図不示)にすることができる。
【0020】
なお、本実施形態では、カソードの材質として六ホウ化ランタン(LaB)の単結晶を用いているが、他の材質、例えば、タングステン(W)などの高融点金属、または、リン(P)ドープダイヤモンドなどの低仕事関数の化合物結晶を用いてもよい。
【0021】
また、本実施形態では、3%以内の輝度低下を許容して均一な輝度としているが、輝度低下の許容量は、電子銃の用途(組み込む装置の仕様等)によって異なりうる。例えば、半導体露光装置用マスクの作成のための電子ビーム描画装置においては、10%程度の輝度低下まで許容しうる。よって、電子銃のカソードの電子放出面は、当該用途に応じた形状にすることができる。すなわち、電子放出面は、電子銃を組み込む電子線装置が必要とするビーム半角の範囲において該電子線装置が許容する輝度範囲(例えば、最大輝度の97%以上最大輝度以下の範囲)にクロスオーバの輝度が収まるような形状であればよい。本実施形態の電子放出面の形状を用いれば、従来の電子放出面の形状(例えば球面)を用いる場合より、所定のビーム半角の範囲においてクロスオーバの輝度を均一にすることができる。または、従来の電子放出面の形状(例えば球面)を用いる場合より、クロスオーバの輝度が所定の輝度範囲に収まるビーム半角の範囲を大きくすることができる。
【0022】
[実施形態2]
次に、実施形態1として説明した電子銃を組み込んだ電子線描画装置(電子線露光装置)に係る実施形態を説明する。図8は、実施形態1に係る電子銃を光源(電子源)として含む電子線描画装置の概要を示す模式図である。電子線描画装置は、電子線(電子ビーム)の照射により潜像を生成するフォトレジスト層を表面に有する基板(被描画または被露光物体)に電子光学系を介して電子線を照射して潜像パターンを描画する装置である。同図において、28は実施形態1に係る電子銃であって、電子線描画装置の光源として機能する。この光源から放射された電子ビームは、その前側焦点位置を上述のクロスオーバの位置とするコンデンサーレンズ15(電子光学系に含まれるコンデンサー要素)によって集光され、平行とみなせる電子ビームとなる。この略平行の電子ビームは、複数の要素電子光学系17が配列されてなる成形系16に入射する。複数の要素電子光学系17により複数の電子ビームが生成される。ブランキング電極(不図示)を含む各要素電子光学系17は、光源(クロスオーバ)の中間像(18a・18b)をブランキングアパーチャアレイ19の開口付近に形成する。各ブランキング電極は、電圧を印加されて、対応する電子ビームを偏向する。偏向された電子ビームは、ブランキングアパーチャ19により遮蔽される。
【0023】
21a・21bは、それぞれ磁界レンズであって、両方合わせて磁気対称ダブレットとして縮小投影系を構成している。当該縮小投影系は、制限開口25を有している。ここで、磁界レンズ21a・21b相互の距離は、各々の焦点距離の和に等しく、前記光源の中間像18a・18bは、磁界レンズ21aの前側焦点位置にあって、磁界レンズ21bの後側焦点位置に再結像される。このとき、磁界レンズ21aの焦点距離と磁界レンズ21bの焦点距離との比が投影倍率となる。さらに、磁界レンズ21a・21bの磁界が互いに逆方向に作用するように設定されている。このため、球面収差・非点収差・コマ収差・像面湾曲、光軸周りの像の回転、および倍率の色収差が打ち消される。
【0024】
23はMOL(Moving Objective Lens)条件を満足する磁界偏向器である。24は電界によって偏向を行う静電偏向器である。これら2つの偏向器は、複数の中間像18a・18bからの電子ビームを偏向して、当該複数の中間像の像を基板26上で走査させるようになっている。ここで、磁界偏向器23および静電偏向器24は、電子ビームの偏向量によって使い分けている。23は偏向器を作動させた場合に発生するフォーカスのずれを補正するためのダイナミックフォーカスコイル、24は同様の場合に発生する非点収差を補正するダイナミックスティグコイルである。また、27はX・Y・Z直交座標系の各軸の方向に基板26を移動するためのステージであり、複数の計測器により計測されて位置や速度が正確に制御される。なお、Z軸は、縮小投影系の光軸に平行な軸である。パターンの描画は、パターンデータに応じた複数の中間像を縮小投影系によって基板26上に投影することによりなされる。パターンデータに応じた複数の中間像は、それぞれブランキング電極を含む複数の要素電子光学系により形成される。さらに、パターンの描画は、磁界偏向器23・静電偏向器24による電子ビームの基板26上での走査およびステージ27の移動と協動してなされる。
【0025】
本実施形態では、電子銃におけるカソードの電子放出面を、光軸上の位置から外側に向けて、その曲率半径が増大する形状にしている。これは、基板上の電子線照射領域内の電流密度(複数の電子ビームの強度)が均一とみなせるようにするためである。ここで、電子光学系(電界レンズまたは磁界レンズ)に、電子のエネルギーの変化なしに凹レンズの作用をさせることは困難である。そのため、クロスオーバの輝度不均一性に係る基板上での電流密度(照度)不均一性を電子光学系により補正することは困難である。この課題は、上述した電子放出面の形状により解決できるものである。すなわち、電子銃と電子光学系との協働により、電子線描画装置における基板上での電流密度の均一性を改善することができる。
【0026】
なお、製造された電子銃および電子光学系は、製造誤差や収差を有するのが常である。したがって、電子銃および電子光学系それぞれの誤差(収差)を計測し、一方だけでは補正が困難な誤差(収差)を他方の調整により補正することは有効である。例えば、電子銃におけるカソードは、クロスオーバの輝度不均一性のみならず電子光学系の収差をも補正するように電子放出面の形状を求め、当該形状を有するように形成することができる。なお、本実施形態の電子線描画装置は、単一の電子銃を有するものである。しかしながら、複数の電子銃とそれに対応する複数の電子光学系とを有するマルチカラム方式のものであってもよい。また、本願発明に係る電子銃は、電子線描画装置以外の電子線装置、例えば、電子顕微鏡にも適用できる。
【0027】
[実施形態3]
つづいて、本発明の一実施形態の物品(液晶表示デバイス、光学素子、リソグラフィー装置(露光装置)用マスク、等)の製造方法について半導体デバイスを例にして説明する。半導体デバイスは、ウエハ(基板)に集積回路を形成する前工程と、前工程でウエハに形成された集積回路を製品として完成させる後工程とを経ることにより製造される。前工程は、前述の電子ビーム描画装置(電子ビーム露光装置)を使用して、レジスト(感光剤)が塗布されたウエハに電子ビームで描画を行う工程と、該描画工程で描画を行われたウエハを現像する工程とを含む。後工程は、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)と、パッケージング工程(封入)とを含む。本実施形態の物品製造方法は、従来の方法と比較して、物品の性能・品質・生産性・製造コストの少なくとも一つの点で有利である。
【0028】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。例えば、カソードの電子放出面の形状は、以上の説明では、上記第1領域の曲率半径と上記第2領域の曲率半径との間の大小関係で規定した。しかしながら、カソードの電子放出面の形状は、上記第1領域および上記第2領域がともに同じ曲率半径を有する場合よりクロスオーバの輝度が均一となるように、電子銃において生成される電界に基づき決定した形状であればよい。換言すれば、カソードの電子放出面は、当該電子放出面が球面の形状を有する場合よりクロスオーバの輝度が均一となるような非球面の形状であればよい。
【符号の説明】
【0029】
1 カソード
4a・4b バイアス電極
6 アノード
14 クロスオーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の軸に沿って順に配置されたカソードとバイアス電極とアノードとを有する電子銃であって、
前記カソードの電子放出面は、前記軸上の点を含む第1領域の曲率半径(第1曲率半径)より該第1領域の外側にある第2領域の曲率半径(第2曲率半径)が大きく、かつ、前記第1領域および前記第2領域がともに前記第1曲率半径を有する場合よりクロスオーバの輝度が均一となる形状である、ことを特徴とする電子銃。
【請求項2】
前記クロスオーバより後側の電子線を遮蔽して該電子線の半角を制限するアパーチャを有し、
前記放出面は、前記アパーチャにより制限された前記半角の範囲において前記場合より前記輝度が均一となる形状である、ことを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項3】
前記電子放出面は、前記第2領域の曲率半径より該第2領域の外側にある第3領域の曲率半径が大きい形状である、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子銃。
【請求項4】
前記電子放出面は、階段状に形成されている、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電子銃。
【請求項5】
前記バイアス電極は、前記軸に沿って前記順に第1バイアス電極と第2バイアス電極とを含み、前記軸の方向において前記第1バイアス電極は前記第1領域と前記第2領域との境界の位置に配置されている、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電子銃。
【請求項6】
電子線で基板に描画を行う電子線描画装置であって、
前記電子線を発生する請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電子銃と、
前記電子銃の発生した前記電子線を前記基板に照射する電子光学系と、
を有することを特徴とする電子線描画装置。
【請求項7】
前記電子光学系は、前記電子銃の発生した前記電子線を集光するコンデンサー要素を有する、ことを特徴とする請求項6に記載の電子線描画装置。
【請求項8】
前記電子放出面は、前記コンデンサー要素より後側の電子線が平行となる形状である、ことを特徴とする請求項7に記載の電子線描画装置。
【請求項9】
前記電子放出面は、前記電子光学系の収差を補正する形状である、ことを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載の電子線描画装置。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9のいずれか1項に記載の電子線描画装置を用いて基板に描画を行う工程と、
前記工程で描画を行われた基板を現像する工程と、
を有することを特徴とする物品製造方法。
【請求項11】
電子線を物体に照射する電子線装置であって、
前記電子線を発生する請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電子銃と、
前記電子銃の発生した前記電子線を前記物体に照射する電子光学系と、
を有することを特徴とする電子線装置。
【請求項12】
共通の軸に沿って順に配置されたカソードとバイアス電極とアノードとを有する電子銃であって、
前記カソードの電子放出面は、該電子放出面が球面の形状を有する場合よりクロスオーバの輝度が均一となる非球面の形状である、ことを特徴とする電子銃。
【請求項13】
電子線で基板に描画を行う電子線描画装置であって、
前記電子線を発生する請求項12に記載の電子銃と、
前記電子銃の発生した前記電子線を前記基板に照射する電子光学系と、
を有することを特徴とする電子線描画装置。
【請求項14】
請求項13に記載の電子線描画装置を用いて基板に描画を行う工程と、
前記工程で描画を行われた基板を現像する工程と、
を有することを特徴とする物品製造方法。
【請求項15】
電子線を物体に照射する電子線装置であって、
前記電子線を発生する請求項12に記載の電子銃と、
前記電子銃の発生した前記電子線を前記物体に照射する電子光学系と、
を有することを特徴とする電子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−9428(P2012−9428A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117137(P2011−117137)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】