説明

電子顕微鏡の分解能評価用試料及び電子顕微鏡の分解能評価方法並びに電子顕微鏡

【課題】
走査電子顕微鏡の分解能をモニタする場合,計測する分解能指標値のパターン依存性を低減できるようなサンプルの準備と計測アルゴリズムの採用が,電子ビームサイズの変化を高精度に計測するために必要である。
【解決手段】
本発明では,分解能モニタに適した断面形状のパターンを有するサンプルを提供する。分解能モニタに適した形状とは,具体的には,照射された一次電子ビームがパターンの側壁に当たることのない程度に,側壁が傾斜している断面形状のことである。これにより,パターンの断面形状に依存しない分解能モニタを実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板上に形成された微小パターンの寸法計測を行うための電子顕微鏡及びその分解能評価方法、更に電子顕微鏡の分解能評価用試料に係り、特に取得画像から装置の分解能を評価する機能を備えた走査電子顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程においては,パターンの微細化に伴い,より計測精度の高い寸法計測装置が求められている。数十ナノメートルオーダの微細パターンの大きさを計測する寸法計測ツールとしては,それらのパターンを10万から50万倍の拡大倍率で撮像可能な,パターン幅計測用の走査電子顕微鏡(測長SEM(Scanning Electron Microscope),またはCD(Critical Dimension)SEM)が従来から用いられている。
【0003】
これらの装置の計測精度に対する要求は,計測装置単体での計測精度の向上のみならず,生産ラインにある複数台の装置間での計測寸法差を低減することや,装置の経時変化による計測寸法の変動を低減することにまで及ぶ。
【0004】
このような複数台の装置間での計測寸法差や,装置の経時変化による計測寸法変動の発生要因のひとつに,ビームサイズの違いおよび/またはビームサイズの経時変化による,分解能の違いおよび変化が挙げられるが,これに対し,電子ビームの大きさを直接計測することは困難である。このことから,走査電子顕微鏡においては,各装置で取得したSEM画像から,分解能の指標値を計測し,指標値の比較評価によりビームサイズの違いを評価する手法が採用されている。
【0005】
具体的な分解能計測手法の例として,シリコン基板上に金粒子を蒸着させたサンプルを用いて画像を取得し,取得画像の高速フーリエ変換を行って周波数を解析することで分解能の指標値を算出する手法が,特許文献1および非特許文献1で提案されている。また,基板上に形成されたパターンの画像を取得し,取得画像よりパターンエッジ部分に相当する幅を計測することで分解能の指標値を算出する手法が特許文献2および非特許文献2で提案されている。また,取得画像中の各部分領域から部分分解能を求め,画像全体の部分分解能の平均を算出することで分解能の指標値を算出する手法が特許文献3および非特許文献3で提案されている
【特許文献1】米国特許6545275号公報
【特許文献2】米国特許5969273号公報
【特許文献3】特開2005−268231号公報
【非特許文献1】Metrics of resolution and performance for CD-SEMs,D.C.Joy et.al,Metrology,Inspection, and Process Control for Microlithography XVII,pp.108
【非特許文献2】Modeling and Experimental Aspects of Apparent Beam Width as an Edge Resolution Measure, C.Archie et.al, Metrology,Inspection, and Process Control for Microlithography XIII,pp.669
【非特許文献3】Contrast-to-gradient method for the evaluation of image resolution taking account of random noise in scanning electron microscopy, T.Ishitani et.al, J. Electron Microscopy 53(3), pp.245
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パターンの寸法計測を行う走査電子顕微鏡装置において,従来技術による撮像画像を用いた分解能計測手法では,(A−1)シリコン基板上に金を蒸着させたサンプルや,多孔質シリコンのサンプルを用いて画像を取得し,(B−1)取得画像の高速フーリエ変換を行って周波数を解析することで分解能の指標値を算出している。他に,(A−2)基板上に形成されたパターンの画像を取得し,(B−2)取得画像よりパターンエッジ部分に相当する幅を計測することで分解能の指標値を算出している。
【0007】
走査電子顕微鏡で得られる2次電子画像は,一般に,サンプルの材質やパターンの形状によって決まる信号f(x,y)と,照射する電子ビーム形状g(s,t)の畳み込み積分により表される。すなわち,2次電子画像より電子ビームのサイズを計測するには,画像中に含まれるサンプルによって決まる信号f(x,y)の影響を考慮する必要がある。
【0008】
専用のサンプルを使って分解能の計測を行うことを想定すると,材質による信号の変化は考慮しなくてよいが,サンプル上のどこを見ても全く同じパターン形状,パターン断面形状,パターン分布であることが望まれる。しかしながら,このようなサンプルを作ることは不可能であり,次のような課題を抱えている。
【0009】
(A−1)で用いているサンプルは,数十ナノメートル程度の類似パターンがサンプルの一面にランダムに分布している特徴をもつことから,多数のパターンを含む画像を取得すれば,信号f(x,y)の平均的な値に対する分解能指標値が算出されることが期待される。しかし,類似パターンの分布密度や,平均サイズ,パターンサイズのばらつき,断面形状などが異なれば,信号f(x,y)の平均的な値も当然変化してしまい,サンプル依存性を小さくするためには,これらの項目を制御してサンプルを作成しなくてはならない。同様に,(A−2)で用いている基板上に形成されたパターンでも,パターン形状が異なれば,信号f(x,y)は異なり,分解能指標値はサンプルに依存した値となる。
【0010】
また,分解能評価アルゴリズムに関しても,(B−1)で用いている手法は,サンプル上のパターン分布が異なると算出される分解能指標値も異なる特性を持っており,パターン依存性が小さくない。(B−2)で用いている手法では,分解能算出に用いる画像領域内で,パターンのラフネスが異なると,分解能指標値が異なる特性を持っており,やはりパターン依存性を無視することができない。
【0011】
以上の状況から,分解能モニタにおいては,計測する分解能指標値のパターン依存性を低減できるようなサンプルの準備と計測アルゴリズムの採用が,電子ビームサイズの変化を高精度に計測するために必要な課題である。
【0012】
本発明の目的は、上記課題を解決して、分解能を安定して高感度に評価できる電子顕微鏡の分解能評価用試料及び電子顕微鏡の分解能評価方法並びに電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上で述べた課題を解決するため,本発明では,分解能モニタに適した断面形状のパターンを有するサンプルを提供する。分解能モニタに適した形状とは,具体的には,照射された一次電子ビームがパターンの側壁に当たることのない程度に,側壁が傾斜している断面形状のことである。これにより,パターンの断面形状に依存しない分解能モニタが実現できる。
【0014】
さらに,本サンプルを用いて、取得画像中の各部分領域から部分分解能を求め,画像全体の部分分解能の平均を算出することで分解能の指標値を算出する手法特許文献3に開示されているアルゴリズムにより分解能を評価する,分解能計測手法を提供する。これにより,パターン分布やパターン形状,パターン断面形状の影響を受けにくい分解能モニタが実現できる。
【0015】
また,本発明では上記手法を用いて,分解能を管理することのできる走査電子顕微鏡装置を提供する。
【0016】
すなわち、本発明による複数の電子顕微鏡装置間の分解能のばらつき、または、所定の電子顕微鏡の分解能の経時的な変化を評価するための試料は、表面に凹凸パターンが形成されており、この凹凸パターンは上部に対して下部の方が狭い逆テーパ状の断面形状を有していることを特徴とする。
【0017】
また、本発明による複数の電子顕微鏡装置間の分解能のばらつき、または、所定の電子顕微鏡の分解能の経時的な変化を評価するための試料は、表面に凹凸パターンが形成されており、この凹凸パターンは、試料に垂直に入射する電子ビームに対してこの凹凸パターンの側壁面部がこの凹凸パターンの上面の影部に入るように形成されていることを特徴とする。
【0018】
また本発明による電子顕微鏡の分解能評方法は、上記した電子顕微鏡の分解能評価用試料を複数の電子顕微鏡装置で順次撮像し、この複数の電子顕微鏡装置で順次撮像して得た画像をそれぞれ処理することにより複数の電子顕微鏡装置間の分解能のばらつきを評価することを特徴とする。
【0019】
また本発明による電子顕微鏡の分解能評方法は、上記した電子顕微鏡の分解能評価用試料を撮像して画像を得、該得た画像を処理して得た情報を記憶手段に記憶しておいた情報と比較することにより電子顕微鏡装置の分解能の経時的な変化を評価することを特徴とする。
【0020】
また本発明による電子顕微鏡は、上記した分解能評価用試料を搭載したことを特徴とする。
【0021】
更に本発明による電子顕微鏡は、上記した分解能評価用試料を用いて分解能を評価した結果を用いて、観察用の試料を観察して得た画像またはこの画像を処理して得たデータを補正する機能を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明による分解能計測用のサンプルを用いた走査電子顕微鏡装置によれば,より高精度な分解能計測を行うことが可能となり,その結果,走査電子顕微鏡装置の分解能変化や,装置間での分解能差を高精度に管理することができるようになる。これは,例えば,半導体パターン製造工程において,より信頼性の高い,高精度な寸法計測を可能とし,製品の性能向上や歩留の向上につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0024】
本実施例では,走査電子顕微鏡装置で取得した,分解能評価用サンプルの画像を評価することで,画像を取得した装置の分解能を評価および管理することを目的とする。
【0025】
(0)シーケンス
図1に本発明にかかる分解能評価シーケンスの概要を示す。本シーケンスでは,まずはじめに分解能を評価する走査電子顕微鏡装置(A)に,分解能評価用サンプル(B)をセッティングする(0101)。次に,分解能評価用サンプル(B)の画像(C)を取得する(0102)。次に,取得画像(C)から装置の分解能指標値(D)を算出する(0103)。最後に,算出した分解能指標値(D)を,装置ごと,時系列ごとに記憶し,装置状態のモニタ(E)を行い(0104)、分解能評価用サンプル(B)を走査電子顕微鏡装置(A)から取り出す(0105)。さらに,(0104)で装置状態をモニタした結果をもとに,分解能指標値(D)が予め設定した範囲を超えたときに走査電子顕微鏡装置(A)や取得画像(C)に対して分解能変動分(F)の補正を行う(0106)。
【0026】
ステップ(0101)でセッティングした分解能評価用サンプル(B)は,あらかじめ走査電子顕微鏡装置(A)にセッティングされていてもよい。もしくは,分解能評価用サンプル(B)はあらかじめ走査電子顕微鏡装置(A)内外の所定の位置に保管しておき,装置によって自動的にセッティングされる機能を有していてもよい。
以下に,上記シーケンス中の各項目について,詳細を述べる。
【0027】
(A)走査電子顕微鏡装置
図2に本発明にかかる,寸法計測を目的とした走査電子顕微鏡装置(A)の構成を示す。本装置は大別して電子線画像を取得するための電子光学系2000と,それらの画像を処理することで対象パターンの計測を行う情報処理系2100の2つの部位からなる。
【0028】
電子光学系2000の主な構成は,サンプル0202を搭載するステージ0201,電子ビーム0208を放出する電子源0203,電子ビーム0208を偏向する偏向レンズ0204,画像を合焦点位置で撮像するために制御される対物レンズ0205,試料から発生した2次電子を電気信号に変換する機能を持つ2次電子検出器0206, 検出された電気信号をデジタル信号に変換するA/D変換機0207,上記の各部を制御するための制御部0211である。
【0029】
一方,画像データから撮像パターンの計測を行う情報処理系2100の主な構成要素は,画像処理などを行う処理部0213,画像データや,その他の処理で用いられる各種のデータを記憶する記憶部0212,ユーザが撮像条件や画像処理のパラメータを入力したり得られた結果を出力する機能を持つ入出力部0214であり,これらの各部位はデータバス0210を通じて互いにデータが送受信されるようになっている。また,本図における制御部0211は電子光学系の制御を行うのみならず,撮像画像からパターンの寸法計測を行う際の制御も行う (図2に示した本発明による走査電子顕微鏡装置(A)の構成においては、制御部0211を情報処理系2100の中に入れて示している)。
【0030】
本実施例では,電子光学系の個体差,経時変化などによる,電子ビームの形状変化をモニタすることを目的としている。図3に電子ビームの形状模式図0301を示す。ビームが最も細く絞られた位置(ビームウエスト)0302を中心に,ビーム入射方向に対して前後方向に,開き角α:0303で広がっている。開き角αは,本実施例においては,おおよそ1度以下を想定している。
【0031】
(B)サンプル
本実施例では,分解能評価用サンプル上に,上記電子ビームを走査させて得られた2次電子信号画像を解析することにより,分解能指標値を算出する。2次電子信号画像は,サンプル上に走査電子ビームを照射させた際に放出される2次電子信号の強度を画像化したものである。2次電子信号は,一般的に,サンプル上のパターンの形状や材質によって決まる信号f(x,y)と,電子ビームg(s,t)の畳み込み積分により表される。
【0032】
図4に,パターン断面形状と2次電子信号の関係を模式的に示す。パターン0401より放出される2次電子信号0402の強度fは,ビーム入射方向とパターンの側壁との相対角度β0403に依存する。相対角度β0403は,電子ビームがパターンの側壁部を直接照射する場合をプラス0404とし,直接は接触しない場合をマイナス0405とすると,とり得る範囲はマイナス90度からプラス90度の間であり,相対角度βが0度より大きく90度以下の範囲において,次のような関係式(式1)が成り立つといわれている。
f ∝ 1/cos(β) ・・・(式1)
また,この式からもわかる通り,パターンのエッジ部分からは,特に強い2次電子信号が放出され0406,この現象はエッジ効果と呼ばれている。
【0033】
これらの原理を考慮し,様々な断面形状に対する2次電子信号強度を模式的に表したものを図5(a)〜(e)に示す。パターン上面と底面が電子ビームの入射方向とおおよそ垂直に交わるようなサンプルを想定すると,図5(a)の0501や図5(b)の0503のようにサンプルに対して垂直に入射する電子ビームがパターンの側壁部に接触しない場合,すなわちビーム入射方向(垂直方向)とパターンの側壁との相対角度βが0度以下の場合(パターンの断面で上部(表面側)のほうが下部(根元側)よりも幅が大きい場合、即ち、パターンの断面形状が逆テーパ状になっている場合)には,2次電子を検出して得られる信号fの波形は、図5(a)の0502や図5(b)の0504のようにエッジ効果のみが強調されて相対角度βに依存しない形状となる。
【0034】
これに対し,図5(d)の0507や図5(e)の0509のようにサンプルに対して垂直に入射する電子ビームがパターンの側壁部に接触する場合(パターンの断面で下部の方が上部よりも幅が大きい場合、即ち、パターンの断面形状が順テーパ状になっている場合),すなわちビーム入射方向(垂直方向)とパターンの側壁との相対角度がプラスの場合には,パターンの側壁傾斜角度が変化し,ビーム入射方向との相対角度βが変化すると,前出の関係式0406に従い,図5(d)の0508や図5(d)の0510のように2次電子信号fも変化していくことがわかる。
【0035】
以上のように,2次電子信号画像は電子ビーム形状だけでなくパターンの断面形状によっても変化してしまうため,取得画像より分解能指標値を算出する際には,パターンの断面形状に依存した分解能指標値の変化を低減することが課題となる。
【0036】
ところが,サンプル上のどこをとっても全く同じ断面形状のパターンを作成することは,技術的に不可能に近い。そこで,図5に示す結果に基づき,サンプル上のパターン断面形状にばらつきがあっても,得られる2次電子信号画像が変化しにくいサンプルとして,パターンの断面形状が図5(a)の0501や図5(b)の0503に示すように,できるだけ電子ビームが側壁部に接触しないような側壁角度となっているもの,すなわちビーム入射方向とパターンの側壁との相対角度βが0度以下となるものを用いることとする。このように、サンプルの表面に対して垂直に入射する電子ビームに対して、パターンの上面が側壁面上に影を作るような形にすることにより、サンプルに入射する電子ビームが側壁面に直接入射することがなく、側壁面の情報が入っていない2次電子信号を検出することができる。
【0037】
実際には,電子ビームの入射角度が鉛直方向から傾いていたり,図3に示すように広がり角をもっているため,このことも考慮して,パターンの側壁角度を選択する必要がある。例えば,図6に示すように,鉛直方向から入射している電子ビーム0301のビームウェスト0302をパターン0601の上面近傍に合わせた状態とすると、ビームウェスト0302より先の部分(パターン0601の根元側)ではα度の広がり角が発生する。したがって,このα度の広がり角を持つ電子ビームで制度よく分解能を評価するためには、側壁がパターン内側に鉛直方向からα度以上傾いたサンプルを用いるのがよいということになる。
【0038】
上述の条件を満たしていれば,パターンの断面形状にばらつきがあっても,得られる2次電子信号のばらつきを低減することができ,パターンの断面形状の影響を低減した分解能指標値の算出が可能となる。
【0039】
このような条件を満たすサンプルの例として,ラインやトレンチ,ドットやホール,その他任意の形状を描いたエッチングパターンがある。図6に示すような,側壁がパターン内側に傾いたサンプルの作成法の一例として,半導体製造前工程において,図7に示すように,エッチングレートの高い材料による膜0701の上に,エッチングレートの低い材料で10ナノメートル程度の薄膜0702を形成し,この積層膜をエッチングしてパターンを形成する手法が挙げられる。エッチングレートの違いにより,下の膜0701がより多くエッチングされるため,側壁がパターン内側に傾いたサンプルの生成が可能となる。
【0040】
パターン断面形状の指標として,側壁傾斜角度以外に,図10に示すようなパターン下部の角の丸まり(フッティング)1001とパターン上部の角の丸まり(トップラウンディング)1002が挙げられる。フッティング1001があると,その形状に応じて2次電子信号が変化するため,フッティング1001はできるだけ小さいことが望ましい。
または,図11に示すようにパターン1101の高さが十分に高く,フッティング部分1102から放出される2次電子1103が,2次電子検出器0206に到達できないような断面形状のサンプルであれば,2次電子信号画像にフッティング1102の影響が現れないため,サンプルの形状依存性を小さくすることが可能である。
【0041】
図10に示したトップラウンディング1002についても,その形状に応じて2次電子信号が変化するため,トップラウンディング1002はできるだけ小さく,パターン上面は平らであることが望ましい。ただし,図12に示すように,トップラウンディング1002が発生する箇所は,上述のエッジ効果により2次電子信号強度がとても強い部分であり,フッティング1001又は1102の箇所から発生する2次電子と比べて、形状変化の影響を受けにくい。特に,エッジ効果により強い2次電子信号が得られる領域は,エッジの頂点を中心としたパターン内での電子散乱領域1201とほぼ等しいと考えられることから,この領域内にトップラウンディング1002があっても,2次電子信号は比較的変化しにくいと考えられる。
【0042】
このことから,パターン内での電子散乱領域を半径Rの円とすると,トップラウンディングは半径Rの円弧よりも小さい丸まりであることが望ましい。サンプル内での電子散乱領域は,サンプルの材質および電子ビームの光学条件(加速電圧や,プローブ電流等)などによって変化するが,電子ビーム照射位置を中心として,半径数ナノメートルから十数ナノメートル程度の領域である。
【0043】
C.画像取得
上述のようなサンプルを用いて分解能を評価するために、サンプルの所望の領域を電子ビームで走査して1フレーム分の2次電子検出信号を得ることを同じ領域に対して複数回繰返して複数フレーム分の2次電子検出信号を得、これら複数フレーム分の2次電子検出信号を足し合わせる(フレーム加算)ことにより分解能評価用の画像を取得する。電子ビームサイズの変化を検出するには,1画素の大きさが,ビームサイズよりも小さい方が検出感度がよいため,この条件を満たすような倍率での画像取得を行うことが望ましい。
【0044】
上述のようなサンプルを用いることで,パターンの断面形状ばらつきによる分解能計測誤差をある程度までは小さくできるが,それでも残ってしまうパターン形状,パターン断面形状,パターン分布のばらつきの影響を低減するため,同一サンプル上のN箇所で取得したN枚の画像より分解能指標値を算出し,この平均値を用いて対象装置の分解能評価を行う。必要な画像取得枚数Nは,要求される分解能計測精度によって変わる。一例として,用いるサンプル上における分解能指標値の計測ばらつきをV,要求される計測精度をSとすると,計測ばらつきVを画像取得枚数Nの平方根で割った値が,要求計測精度Sよりも小さくなるようなNを採用する方法がある。本手法は,中心極限定理として知られている。
【0045】
サンプル上のN箇所の画像取得領域の決め方は,ランダムであってもよいが,図8に示すように,あるサンプル0801上において取得する各N箇所0802が,分解能評価ごとに隣接している0803ようにとり,サンプル上での隣接パターンにおける分解能評価結果を比較することもできる。隣接パターンの比較により,サンプル内でパターン形状や断面形状に偏った分布がある場合にも,その影響を受けずに安定した分解能計測を行うことができる。
【0046】
D. 分解能指標値算出アルゴリズム
上述のようにして取得した分解能評価用画像から,分解能指標値を算出するアルゴリズムについて述べる。分解能算出アルゴリズムは,非特許文献1乃至3の例にも挙げたように一般的に知られた複数の手法があり,いずれの手法を用いることも可能であるが,本実施例では,この中でもサンプル依存性の小さな手法として,非特許文献3に開示されているCG法(Contrast to Gradient法)を用いる。CG法は,画像中の局所領域から局所分解能指標値を算出し,画像全体での局所分解能指標値の重みつき平均を分解能指標値として求める手法である。本手法では,最初のステップで局所領域から指標値を算出しているため,サンプル上のパターン形状やパターン分布の違いによる,分解能計測誤差を小さくすることが可能となる。
【0047】
前出の「C.画像取得」で述べたように,N枚の画像の分解能指標値を求め,その平均値を評価対象装置の分解能指標値として求めることで,よりパターンの影響を受けにくい分解能計測ができる。
E.装置状態のモニタ
算出した分解能指標値を用いて装置状態をモニタするシステムのGUI例を,図9に示す。画面上の選択ボタン0910で指定した日又は期間に測定した各装置間での分解能指標値を比較表示する部分0901と,画面上の選択ボタン0911で指定した装置単体での分解能指標値の経時変化を表示する部分0902をもつ。また,各指標値があらかじめ設定した範囲0903又は0903’を外れたときや,装置間での指標値のばらつき0904や,経時変化量0905が予め設定した値よりも大きくなった場合には,アラームを出して知らせる0906ことが可能である。
【0048】
このように分解能指標値を用いて装置状態をモニタすることで,状態をモニタされた装置の性能は保証され,信頼性の高い寸法計測結果を得ることができる。
【0049】
F.補正
最後に,得られた分解能指標値に基づき,各装置,もしくは画像,もしくは画像より計測されたパターン寸法の補正を行う機能について説明する。
【0050】
装置を補正する場合には,分解能指標値が所望の値となるまで,装置パラメータ調整と分解能指標値の計測を繰り返す方法が挙げられる。装置パラメータの例としては,加速電圧,電子ビームの収差を調整するパラメータ,フォーカスパラメータ,電磁レンズを調整するパラメータなどが挙げられる。これ以外に,分解能調整用のパラメータ調整量と,分解能指標値の関係をあらかじめ調べておき,この情報に基づいてパラメータ調整を行うことも可能である。
【0051】
画像を補正する場合には,分解能指標値が所望の値となるような,画像フィルタを作用する方法が挙げられる。フィルタの種類は,電子ビームの形状に近いものとして,例えばガウス関数型のフィルタなどがある。このようなフィルタの指標値を分解能指標値をもとに調整し,調整したフィルタを用いて画像に対しコンボリューションやデコンボリューション等の処理をすることにより,分解能指標値の異なる装置で取得した画像を,分解能指標値が同じ装置で取得したような画像に作り変えることができる。この画像からパターン寸法の計測を行えば,分解能の違いによる計測寸法ばらつきを小さくすることができる。
【0052】
また,画像より計測されたパターン寸法を直接補正する場合には,計測寸法にオフセットを加える方法が挙げられる。分解能指標値と代表的なパターンでの寸法計測結果の関係をあらかじめ調べておき,目標とする分解能指標値での計測寸法と現状の分解能指標値での計測寸法の差分を,オフセットとすることで,分解能の違いによる計測寸法の違いを低減することができる。
【0053】
以上により,図1に示したシーケンスによる,走査電子顕微鏡装置の分解能評価および補正が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明にかかる,分解能評価シーケンスである。
【図2】電子顕微鏡の構成を示した図である。
【図3】電子ビームの形状を示した図である。
【図4】2次電子信号強度について説明した図である。
【図5】パターン断面形状と2次電子信号画像の関係を示した図である。
【図6】分解能評価用サンプルのパターン断面形状を示した図である。
【図7】分解能評価用サンプル例の断面形状を示した図である。
【図8】分解能計測用画像取得手順の例を示した図である。
【図9】分解能評価結果の出力画面を示した図である。
【図10】一般的なパターン断面形状の模式図である。
【図11】分解能評価用サンプル例の断面形状を示した図である。
【図12】分解能評価用サンプル例の断面形状を示した図である。
【符号の説明】
【0055】
0201・・・ステージ,0202・・・サンプル,0203・・・電子源,0204・・・偏向レンズ,0205・・・対物レンズ,0206・・・2次電子検出器,0207・・・A/D変換機,0208・・・電子ビーム,0210・・・データバス,0211・・・制御部,0212・・・記憶部,0213・・・処理部,0214・・・入出力部,0301・・・電子ビーム,0302・・・ビームウエスト,0303・・・開き角,0401・・・サンプル断面図,0402・・・2次電子信号,0403・・・ビーム入射方向に対するパターン側壁傾斜角度,0406・・・2次電子発生効率の式,0801・・・分解能評価用サンプル,0906・・・アラーム表示例,1001・・・フッティング,1002・・・トップラウンディング,1102・・・2次電子,1201・・・パターン内での電子散乱領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電子顕微鏡装置間の分解能のばらつき、または、所定の電子顕微鏡の分解能の経時的な変化を評価するための試料であって、該試料は表面に凹凸パターンが形成されており、該凹凸パターンは該凹凸パターンの上部に対して下部の方が狭い逆テーパ状の断面形状を有していることを特徴とする電子顕微鏡の分解能評価用試料。
【請求項2】
複数の電子顕微鏡装置間の分解能のばらつき、または、所定の電子顕微鏡の分解能の経時的な変化を評価するための試料であって、該試料は表面に凹凸パターンが形成されており、該凹凸パターンは、前記試料に垂直に入射する電子ビームに対して前記凹凸パターンの側壁面部が前記凹凸パターンの上面の影部に入るように形成されていることを特徴とする電子顕微鏡の分解能評価用試料。
【請求項3】
前記凹凸パターンの側面は、前記試料に対して垂直に入射する電子ビームのビームウェスト付近のビーム広がり角よりも大きい角度傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子顕微鏡の分解能評価用試料。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の電子顕微鏡の分解能評価用試料を複数の電子顕微鏡装置で順次撮像し、該複数の電子顕微鏡装置で順次撮像して得た画像をそれぞれ処理することにより複数の電子顕微鏡装置間の分解能のばらつきを評価することを特徴とする電子顕微鏡の分解能評方法。
【請求項5】
前記複数の電子顕微鏡装置間の分解能のばらつきを評価した結果を用いて、前記複数の電子顕微鏡装置の内から装置パラメータを調整する電子顕微鏡装置を特定することを特徴とする請求項4記載の電子顕微鏡の分解能評方法。
【請求項6】
請求項1乃至3の何れかに記載の電子顕微鏡の分解能評価用試料を撮像して画像を得、該得た画像を処理して得た情報を記憶手段に記憶しておいた情報と比較することにより電子顕微鏡装置の分解能の経時的な変化を評価することを特徴とする電子顕微鏡の分解能評方法。
【請求項7】
前記電子顕微鏡装置の分解能の経時的な変化が予め設定した範囲を超えた場合には、アラームを発することを特徴とする請求項6記載の電子顕微鏡の分解能評方法。
【請求項8】
請求項1乃至3の何れかに記載の電子顕微鏡の分解能評価用試料を搭載したことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項1乃至3の何れかに記載の電子顕微鏡の分解能評価用試料を用いて分解能を評価し、該評価した結果を用いて観察用の試料を観察して得た画像または該画像を処理して得たデータを補正する機能を備えたことを特徴とする電子顕微鏡。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2008−77897(P2008−77897A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253718(P2006−253718)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】