説明

電極用バインダー組成物、電極用スラリー組成物、電極および電池

【課題】製造工程の高速化や、集電体のロール長を長くしても、容量維持率が高い電池を安定して製造可能な電極用バインダー組成物、該電極用バインダー組成物を用いた電極用スラリー組成物、電極および電池を提供する。
【解決手段】電極用バインダー組成物は、コールター法により測定した粒子の球体積相当径が3μm以上である、粗大粒子および/または凝集物の濃度が2000ppm以下である。電極用バインダー組成物と電極活物質を含有する電極用スラリ組成物とし、電極用スラリ組成物を集電体に塗布、乾燥して電極とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学素子に使用される電極(以下、総称して「電気化学素子用電極」と記載することがある)の形成に用いられる電極用バインダー組成物、該電極用バインダー組成物を用いた電極用スラリー組成物、電極および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能な特性を活かして、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタおよびリチウムイオンキャパシタなどの電気化学素子は、その需要を急速に拡大している。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が比較的大きいことから、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどの分野で利用されている。また、電気二重層キャパシタは急速充放電が可能なので、パーソナルコンピュータ等のメモリーバックアップ小型電源として利用されている。さらに電気二重層キャパシタは電気自動車用の大型電源としての応用が期待されている。また、高いエネルギー密度と充放電速度の両立を目指し、正極、負極の2つの電極のうち、一方にファラデー反応電極、もう一方に非ファラデー反応電極を使用するハイブリッドキャパシタも開発が進められている。また、金属酸化物や導電性高分子の表面の酸化還元反応(疑似電気二重層容量)を利用するレドックスキャパシタもその容量の大きさから注目を集めている。これら電気化学素子には、用途の拡大や発展に伴い、低抵抗化、高容量化、機械的特性の向上など、より一層の特性の改善が求められている。そのようななかで、電気化学素子の性能を向上させるために、電気化学素子電極を形成する材料についても様々な改善が行われている。
【0003】
電気化学素子電極の製造は、重合体粒子水分散液である電極用バインダー組成物と電極活物質とを含む電極用スラリー組成物を、集電体上に塗布して電極活物質層を形成し、乾燥後、ロールプレスなどの加圧処理をすることにより行われている(特許文献1)。
【0004】
近年においては、電気化学素子電極の製造工程の高速化や、電気化学素子電極に用いられる集電体のロール長を長くすることで、電気化学素子電極の生産性を向上させることが望まれるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−135262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の方法では、電気化学素子電極の製造工程を高速化したり、集電体のロール長を長くすると、平滑な電極活物質層や容量維持率が高い電池を安定して生産することが困難であった。
【0007】
従って、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、製造工程の高速化や、集電体のロール長を長くしても、容量維持率が高い電池を安定して製造可能な電極用バインダー組成物、該電極用バインダー組成物を用いた電極用スラリー組成物、電極および電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、重合体粒子水分散液中に、視認できるほどの大きさの粗大粒子あるいは凝集物が含まれることを見出し、これを少なくすることにより前記課題が解決できることを見出した。すなわち、この粗大粒子あるいは凝集物を含むスラリーを用いて、集電体上に電極活物質層を形成すると、電極活物質層の平滑性が悪化し、電池容量を低下させることがあった。さらにまた、電極活物質層を加圧処理する際に、ロール等の装置に、粗大粒子あるいは凝集物が付着し、装置が汚染されると共に、ロール等に付着した粗大粒子あるいは凝集物が電極活物質層に再付着し、電極活物質層の平滑性を悪化させ、電池容量が低下することがわかった。
【0009】
本発明者らは、さらに鋭意検討した結果、コールター法により測定した粒子の球体積相当径が特定粒径以上である粗大粒子および/または凝集物の濃度が所定濃度以下である電極用バインダー組成物を用いることで、製造工程の高速化や、集電体のロール長を長くした場合においても、容量維持率が高い電池を安定して提供できることを見出した。
【0010】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、以下の事項を要旨として含む。
(1)コールター法により測定した粒子の球体積相当径が3μm以上である、粗大粒子および/または凝集物の濃度が2000ppm以下である電極用バインダー組成物。
(2)上記(1)に記載の電池用バインダー組成物と電極活物質とを含有する電極用スラリー組成物。
(3)上記(2)に記載の電極用スラリー組成物を集電体に塗布し、乾燥してなる電極。
(4)上記(3)に記載の電極を用いてなる電池。
(5)上記(1)に記載の電極用バインダー組成物、電極活物質を含んでなる電極用スラリー組成物を集電体の少なくとも片面に3m/min以上で塗布、加熱乾燥して電極活物質層を形成する工程と、
前記電極活物質層を3m/min以上でプレス加工する工程とを有する電極の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電極用バインダー組成物は、コールター法により測定した粒子の球体積相当径が3μm以上である、粗大粒子および/または凝集物(以下において「粗大粒子等」と記載することがある)の濃度が2000ppm以下であるため、電気化学素子電極の製造工程の高速化や、集電体のロール長を長くしたとしても、平滑な薄い電極活物質層を形成することができる。また、ロール等の装置に粗大粒子がほとんど付着しないため、装置の汚染が防止され、平滑な電極活物質層を高速で形成することができる。そのため、本発明の電極用バインダー組成物を用いた電池は、従来の電極用バインダー組成物を用いた電池に比べ、電池容量やサイクル試験での容量維持率が低下した電池の発生する確率が低く、生産性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<電極用バインダー組成物>
本発明の電極用バインダー組成物は、コールター法により測定した粒子の球体積相当径が3μm以上である、粗大粒子等の濃度が2000ppm以下、好ましくは1500ppm以下、特に好ましくは1000ppm以下である。特に、球体積相当径が11μm以上である粗大粒子等の濃度が500ppm以下であることが好ましい。粗大粒子等が少ないと、電気化学素子電極の製造に伴う、塗工不良(塗工ムラ)やプレス加工に伴うロール汚れ等の不良不具合の発生頻度が低下し、生産性が向上する。また製造された電池の電池容量やサイクル試験での容量維持率が低下する電池の発生確率も少なくなる。
【0013】
粗大粒子等は、バインダー分散液の製造過程で発生した微細凝固物の総称である。これらは主に重合組成物の重合反応工程で発生するが、pH調整時、残留モノマー除去等の工程等の後工程で発生することもある。これらは必要に応じて除去し、電極用バインダー組成物を得ている。
【0014】
粗大粒子等の球体積相当径は、コールター法により測定することができる。なお、コールター原理(細孔電気抵抗法)を使った粒度分布測定に関する手引は、国際規格ISO13319「Electrical sensing zone method」に記載されている。
【0015】
粗大粒子等の球体積相当径は、コールター法(電気的検知帯法)により、個々の粒子の体積(3次元)を直接計測して測定する。また、粗大粒子等の濃度は、以下の測定溶液を調製して測定する。まず、バインダーの分散液を#325メッシュの金網で、ろ過し、200mlメスフラスコ内に約1.0g精秤する。次に、アイソトン(ISOTON−II:電解液:ベックマン−コールター社製)により、メスアップを行い、測定溶液とする。測定溶液を、ベックマン・コールター社製 MuItisizer 3(アパチャーサイズ 100μm、吸引量2000μm)で、1試料につき、3回測定し、その平均値を粗大粒子等の濃度とする。分解チャンネル数を32分割とし、測定粒子サイズ範囲を3〜67μmとして測定し、測定結果と初期試料の固形分濃度から、バインダー分散液中の粗大粒子等の濃度を、ppm濃度に換算して表す。
【0016】
本発明の電極用バインダー組成物は、後述する電極活物質および導電材を相互に結着させることができる化合物であり、結着力を有するバインダー(重合体)粒子が水に溶解又は分散された溶液又は分散液(以下、これらを総称して「バインダー分散液」と記載することがある)を濾過したものである。
【0017】
(バインダー分散液)
バインダー分散液は、通常、重合体粒子水分散液であり、例えば、ジエン系重合体粒子水分散液、アクリル系重合体粒子水分散液、フッ素系重合体粒子水分散液、シリコン系重合体粒子水分散液などが挙げられる。電極活物質との結着性および得られる電極の強度や柔軟性に優れるため、ジエン系重合体粒子水分散液、又はアクリル系重合体粒子水分散液が好ましい。
【0018】
ジエン系重合体粒子水分散液とは、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンを重合体してなる単量体単位を含む重合体の水分散液である。ジエン系重合体中の共役ジエンを重合してなる単量体単位の割合は通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。ジエン系重合体としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエンの単独重合体;共役ジエンと共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。前記共重合可能な単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステル化合物;β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート等のヒドロキシアルキル基含有化合物;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアミド系単量体などが挙げられる。
【0019】
アクリル系重合体粒子水分散液とは、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを重合してなる単量体単位を含む重合体の水分散液である。アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを重合してなる単量体単位の割合は、通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。アクリル系重合体としては、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの単独重合体、これと共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。前記共重合可能な単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸類;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル化合物;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート等のヒドロキシアルキル基含有化合物等が挙げられる。
【0020】
正極用バインダー分散液としては、充電における耐酸化性に優れるため、重合体主鎖に不飽和結合を有しない飽和型重合体の分散体であるアクリル系重合体粒子水分散液が好ましい。また、負極用バインダー分散液としては、耐還元性に優れ、強い結着力が得られるため、ジエン系重合体粒子水分散液が好ましい。
【0021】
バインダー分散液は、例えば、上記単量体を水中で乳化重合することにより製造できる。バインダー分散液中のバインダー粒子の数平均粒径は、50〜500nmが好ましく、70〜400nmがさらに好ましい。バインダー粒子の数平均粒径がこの範囲であると得られる電極の強度および柔軟性が良好となる。
【0022】
バインダー分散液中の重合体のガラス転移温度(Tg)は、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常−100℃〜+100℃、好ましくは−80℃〜+50℃、さらに好ましくは−50℃〜+30℃の範囲である。重合体のTgがこの範囲にあるときに、電極の柔軟性、結着性及び捲回性、電極活物質層と集電体層との密着性などの特性が高度にバランスされ好適である。
【0023】
バインダー分散液の固形分濃度は、通常15〜70質量%であり、20〜65質量%が好ましく、30〜60質量%がさらに好ましい。固形分濃度がこの範囲であると電極用スラリー組成物の製造における作業性が良好である。
【0024】
(電極用バインダー組成物の製造)
本発明のバインダー組成物は、上記単量体を水中で乳化重合することにより製造されたバインダー分散液を、ステンレス製の金網やろ過フィルターを用いて、ろ過処理することにより効率良く得ることができる。
【0025】
ろ過フィルターを用いるろ過処理方法においては、ろ過フィルターの種類や構造の詳細は特に限定されず、5〜50μmの孔径を通過しない異物を除去できるろ過フィルターであればどのようなものでもよい。それらのろ過フィルターを用いて粗大粒子等を除去するためのシステムも特に限定されず、ろ過に大きな問題を発生しなければ、特に限定されない。
【0026】
これらのろ過フィルターの素材例としては、紙、布、セルロースアセテートポリマー、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリエーテル、フッ素系ポリマー(ポリフッ化ビニリデン、四フッ化エチレン)、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ステンレス、セラミックなどを挙げることができる。その形態は、平膜、カートリッジ化膜、中空糸膜などであり、特に限定されない。カートリッジろ過フィルターでろ過するには、カートリッジろ過フィルターを装着するハウジングを用いることが特に好ましい。
【0027】
これらのろ過フィルターは、各社から多数市販されている。例えば、カートリッジタイプのポリオレフィン系複合繊維であれば、チッソCPフィルター(CP−10(10μm)、CP−25(25μm)、CP−50(50μm)等の各種サイズ)(以上、チッソフィルター(株)製)、ポリプロピレン製であれば、マイクロシリア フィルターカートリッジ EXタイプ(各種サイズ)(以上、ロキテクノ製)、マイクロ・ワインドIIHPシリーズフィルターカートリッジ(各種サイズ)(以上、住友スリーエム(株)製)などが挙げられ、四フッ化エチレン製であれば、マイクロシリア フィルターカートリッジ BOタイプ(各種サイズ)(以上、ロキテクノ製)などが挙げられる。
【0028】
これらのろ過フィルターの使用にあたっては、その使用法に特に限定はなく、目詰まりすることなく、かつ粗大粒子等を除去できればよい。しかし、一般に上記のろ過フィルターは、ハウジングに装着されて利用することで設置面積もとることなく有効である。ハウジングのサイズや形状は特に限定されず、円形や角型あるいは一本のフィルター装填型でもよく一度に2本以上のフィルターを装填してもよい。さらにまた、フィルターを2本以上接続して、ろ過フィルター面積を大幅にアップすることもできる。さらに本発明においては、平膜タイプも利用できる。具体的には、受け部の上にろ過フィルターを設置し、その上に液収納部となる装置を固定し、フィルター装着部を締め部材で締め付けてろ過液をもれないようにする。この時、フィルター設置部にはパッキンを装填し、液漏れを防ぐことも行われる。
【0029】
次に、本発明で用いられるバインダー分散液のろ過を実施するにあたっては、送液のための圧力についての限定はないが、一般に加圧あるいは減圧にてろ過フィルターを通過させ粗大粒子等を除去することが好ましい。特に加圧はバインダー分散液をポンプなどで送る方法がとられることが多いが、バインダー分散液をろ過フィルターよりも高所に配置して自然圧(自重による加圧)でろ過することも好ましい。さらにまた、バインダー分散液に気体で圧力をかけることも好ましく、その場合はバインダー分散液の存在するタンクは密閉系であることが好ましい。送液時にポンプで圧力をかけたり、自重で加圧やさらには気体での加圧による場合は、その加圧にあたってはろ過フィルターを破損したり目詰まりさせたりして性能を劣化させない限り、特に限定されない。フィルターの寿命・処理速度の観点から、予め150メッシュ等の金網等で、バインダー分散液中の凝集物を事前にろ過してからフィルターろ過処理すると、更に好ましい。
【0030】
本発明の電極用バインダー組成物は、粗大粒子等が少ない為、二次電池電極用バインダー組成物の他に、二次電池電極の保護膜等として使用される多孔膜用のバインダー組成物としても用いることができる。
【0031】
<電極用スラリー組成物>
本発明の電極用スラリー組成物は、上記電極用バインダー組成物と電極活物質とを含有する。
【0032】
(電極活物質)
本発明に用いる電極活物質は、電気化学素子用電極内で電子の受け渡しをする物質である。具体的には、主としてリチウムイオン二次電池用活物質、電気二重層キャパシタ用活物質などが挙げられる。
【0033】
リチウムイオン二次電池用活物質には、正極用、負極用がある。リチウムイオン二次電池用電極の正極に用いる電極活物質(正極活物質)としては、具体的には、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiFeVOなどのリチウム含有複合金属酸化物;TiS、TiS、非晶質MoSなどの遷移金属硫化物;Cu、非晶質VO・P、MoO、V、V13などの遷移金属酸化物が例示される。さらに、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子が挙げられる。好ましくは、リチウム含有複合金属酸化物である。
【0034】
リチウムイオン二次電池用電極の負極に用いる電極活物質(負極活物質)としては、具体的には、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、及びピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子などが挙げられる。好ましくは、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)などの結晶性炭素質材料である。
【0035】
リチウムイオン二次電池用電極に用いる電極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。
【0036】
リチウムイオン二次電池用電極に用いる電極活物質の体積平均粒子径は、正極、負極ともに通常0.1〜100μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは5〜20μmである。
【0037】
リチウムイオン二次電池用電極に用いる電極活物質のタップ密度は、特に制限されないが、正極では2g/cm以上、負極では0.6g/cm以上のものが好適に用いられる。
【0038】
電気二重層キャパシタ用電極に用いる電極活物質としては、通常、炭素の同素体が用いられる。炭素の同素体の具体例としては、活性炭、ポリアセン、カーボンウィスカ及びグラファイト等が挙げられ、これらの粉末または繊維を使用することができる。好ましい電極活物質は活性炭であり、具体的にはフェノール樹脂、レーヨン、アクリロニトリル樹脂、ピッチ、およびヤシ殻等を原料とする活性炭を挙げることができる。
【0039】
電気二重層キャパシタ用電極に用いる電極活物質の体積平均粒子径は、通常0.1〜100μm、好ましくは1〜50μm、更に好ましくは5〜20μmである。
【0040】
電気二重層キャパシタ用電極に用いる電極活物質の比表面積は、30m/g以上、好ましくは500〜5,000m/g、より好ましくは1,000〜3,000m/gであることが好ましい。電極活物質の比表面積が大きいほど得られる電極活物質層の密度は小さくなる傾向があるので、電極活物質を適宜選択することで、所望の密度を有する電極活物質層を得ることができる。
【0041】
これらの電極活物質は、電気化学素子の種類に応じて、単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
電極用スラリー組成物における電極用バインダー組成物および電極活物質の合計使用量は、電極用スラリー組成物100質量部に対して、好ましくは10〜90質量部であり、さらに好ましくは30〜80質量部である。また、電極用スラリー組成物における電極活物質の使用量は、電極用スラリー組成物100質量部に対して、好ましくは5〜80質量部であり、さらに好ましくは10〜60質量部である。各成分の合計量および電極活物質の使用量がこの範囲であると得られる電極用スラリー組成物の粘度が適正化され、塗工を円滑に行えるようになる。
【0043】
電極用スラリー組成物における電極用バインダー組成物の使用量は、通常、電極活物質100質量部に対して固形分で0.1〜10質量部であり、好ましくは0.5〜8質量部、さらに好ましくは0.7〜1.2質量部である。使用量がこの範囲であると得られる電極の強度および柔軟性が良好となる。
【0044】
(増粘剤)
本発明の電極用スラリー組成物は、増粘剤を含有してもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸およびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプンなどが挙げられる。
【0045】
増粘剤の配合量は、電極活物質100質量部に対して、0.5〜1.5質量部が好ましい。増粘剤の配合量がこの範囲であると、塗工性、集電体との密着性が良好である。本発明において、「(変性)ポリ」は「未変性ポリ」又は「変性ポリ」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタアクリル」を意味する。
【0046】
(導電材)
本発明の電極用スラリー組成物は、導電材を含有してもよい。導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、およびカーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。導電材を用いることにより、電極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、非水電解質二次電池に用いる場合に放電レート特性を改善することができる。導電材の使用量は、活物質100質量部に対して通常0〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。
【0047】
(電極用スラリー組成物の製造)
電極用スラリー組成物は、上記電極用バインダー組成物と、活物質および必要に応じ用いられる増粘剤、導電材とを混合して得られる。
【0048】
混合法は特に限定はされないが、例えば、撹拌式、振とう式、および回転式などの混合装置を使用した方法が挙げられる。また、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミル、プラネタリーミキサーおよび遊星式混練機などの分散混練装置を使用した方法が挙げられる。
【0049】
<電極>
本発明の電極は、本発明の電極用スラリー組成物を塗布、乾燥してなる電極活物質層および集電体を有する電極である。本発明の電極の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上記電極用スラリー組成物を集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に、3m/min以上の速度で塗布、加熱乾燥して電極活物質層を形成する方法である。
【0050】
電極用スラリー組成物を集電体へ塗布する方法は特に限定されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、コンマダイレクトコート、スライドダイコート、およびハケ塗り法などの方法が挙げられる。乾燥方法としては例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥時間は通常5〜30分であり、乾燥温度は通常40〜180℃である。活物質層は、複数回塗布、乾燥を繰り返すことにより形成しても良い。
【0051】
次いで、3m/min以上の速度で、プレス加工等の加圧処理をして電極活物質層の空隙率を低くすることが好ましい。空隙率の好ましい範囲は5%〜15%、より好ましくは7%〜13%である。空隙率が高すぎると充電効率や放電効率が悪化する。空隙率が低すぎる場合は、高い体積容量が得難かったり、電極活物質層が集電体から剥がれ易く不良を発生し易いといった問題を生じる。さらに、硬化性の重合体を用いる場合は、硬化させることが好ましい。
【0052】
プレス加工は、例えば、金属ロール、弾性ロール、加熱ロールによるロールプレス機やシートプレス機等を用いて行なう。本発明においてプレス温度は、活物質層の塗工膜を乾燥させる温度よりも低い温度とする限り、室温で行っても良いし又は加温して行っても良いが、通常は室温(室温の目安としては15〜35℃である。)で行う。
【0053】
ロールプレス機によるプレス加工(ロールプレス)は、ロングシート状の負極板を連続的にプレス加工できるので好ましい。ロールプレスを行う場合には定位プレス、定圧プレスいずれを行っても良い。プレスのライン速度は通常、5〜50m/minとする。ロールプレスの圧力を線圧で管理する場合、加圧ロールの直径に応じて調節するが、通常は線圧を0.5kgf/cm〜1tf/cmとする。
【0054】
また、シートプレス機によるプレス加工(シートプレス)を行う場合には通常、4903〜73550N/cm(500〜7500kgf/cm)、好ましくは29420〜49033N/cm(3000〜5000kgf/cm)の範囲に圧力を調節する。プレス圧力が小さすぎると活物質層の均質性が得られにくく、プレス圧力が大きすぎると集電体を含めて電極板自体が破損してしまう場合がある。活物質層は、一回のプレスで所定の厚さにしてもよく、均質性を向上させる目的で数回に分けてプレスしてもよい。
【0055】
発明の電極の電極活物質層の厚さは、通常5μm以上、300μm以下であり、好ましくは30μm以上250μm以下である。
【0056】
(集電体)
本発明で用いる集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するため金属材料が好ましく、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。
【0057】
集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、電極活物質層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、電極活物質層の接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0058】
<電池>
本発明の電池は、本発明の電極を正極および負極の少なくとも一方の電極として具えてなる。適用できる電池としては、マンガン電池、アルカリ電池、ニッケル系一次電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池、鉛蓄電池、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池、ニッカド電池、アルカリ蓄電池、太陽電池、燃料電池などが挙げられる。中でも、リチウムイオン二次電池が好ましい。以下、リチウムイオン二次電池に使用する場合について説明する。
【0059】
リチウムイオン二次電池の製造方法は、負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する。さらに必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をすることもできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
【0060】
(電解液)
本発明に用いられる電解液は、特に限定されないが、例えば、非水系の溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものが使用できる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどのリチウム塩が挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF、LiClO、CFSOLiは好適に用いられる。これらは、単独または2種以上を混合して用いることができる。支持電解質の量は、電解液に対して、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、また通常は30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。支持電解質の量が少なすぎても多すぎてもイオン導電度は低下し、電池の充電特性、放電特性が低下する。
【0061】
電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、通常、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびメチルエチルカーボネート(MEC)などのアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類、1,2−ジメトキシエタン、およびテトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、およびジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。これらは、単独または2種以上を混合して用いることができる。また、前記電解液には添加剤を含有させて用いることも可能である。添加剤としてはビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が好ましい。
【0062】
上記以外の電解液としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、LiI、LiNなどの無機固体電解質を挙げることができる。
【0063】
(セパレータ)
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン製や芳香族ポリアミド樹脂製の微孔膜または不織布;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート;など公知のものを用いることができる。例えば、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)、及びこれらの混合物あるいは共重合体等の樹脂からなる微多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂からなる微多孔膜またはポリオレフィン系の繊維を織ったもの、またはその不織布、絶縁性物質粒子の集合体等が挙げられる。
【0064】
セパレータの厚さは、通常0.5〜40μm、好ましくは1〜30μm、更に好ましくは1〜10μmである。この範囲であると電池内でのセパレーターによる抵抗が小さくなり、また電池作成時の作業性に優れる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。
【0066】
実施例及び比較例において、充放電サイクル特性、充放電レート特性(負荷特性)、及びロールプレス加工性判定は、以下のように行った。
【0067】
<充放電サイクル特性>
以下の実施例及び比較例において得られたラミネートセル型電池を用いて、それぞれ25℃で0.1Cの定電流定電圧充電法方式で、4.2Vになるまで定電流で充電、その後定電圧で充電し、また0.1Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルを行った。充放電サイクルは100サイクルまで行い、初期放電容量に対する50サイクル目の放電容量の比を容量維持率とし、この容量維持率が80%以下となる電池の発生確率で判定した。なお、50サイクル目の放電容量を電池容量とした。
【0068】
<充放電レート特性(負荷特性)>
測定条件を、定電流量2.0Cに変更したほかは、充放電サイクル特性の測定と同様にして、各定電流量における50サイクル目の放電容量を測定した。上記の電池容量に対する本条件での放電容量の割合を百分率で算出して充放電レート特性とし、70%未満となる電池の発生確率で判定した。
【0069】
<ロールプレス加工性判定>
電極活物質層をロールプレス機で圧延した後のロール表面を目視にて確認し、以下のように判定した。
A:ロール表面に電極活物質層等の付着なし、かつ、ロール表面は鏡面
B:ロール表面に電極活物質層等の付着なし
C:ロール表面に電極活物質層等の付着あり、または、ロール表面に曇りあり
D:ロール表面に電極活物質等の付着、またはロール表面に曇りあり、もしくは電極活物質層の一部にハガレあり
【0070】
(実施例1)
(負極の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧オートクレーブに、スチレン47部、1,3−ブタジエン49部、メタクリル酸2部、アクリル酸2部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部、イオン交換水150部、連鎖移動剤として、t−デデシルメルカプタン 0.3部、重合開始剤として過硫酸カリウム1部を入れ、十分に攪拌した後、45℃に加温して重合を開始した。反応率が96.0%になった時点で冷却し反応を停止して、ガラス転移温度−15℃、数平均粒子径100nmのジエン系重合体粒子水分散液(ジエン系バインダー分散液)を得た。
【0071】
得られたジエン系バインダー分散液は、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後イオン交換水で固形分濃度調整を更に行いながら、200メッシュ(目開 約77μm)のステンレス製金網でろ過を行い、固形分濃度40%の負極用バインダー組成物を得た。
【0072】
1%水溶液粘度が2000mPa・sであるカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学工業株式会社製「Daicel2200」)を用いて、1%水溶液を調整した。ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、平均粒子径25μmの人造黒鉛100部を入れ、これに上記水溶液100部を加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整した後、25℃で60分間混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度50%に調整した後、さらに25℃で15分間混合した。次に、上記負極用バインダー組成物(固形分濃度40%)2.5部を入れ、さらに10分間混合し、次いで減圧下で脱泡処理して電極用スラリー組成物を得た。
【0073】
電極用スラリー組成物を、コンマダイレクトコートで、3m/minの速度で、厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が100μm程度になるように両面に塗布し、60℃で2分間乾燥、120℃で2分間加熱処理して電極活物質層を得た。この電極活物質層をロールプレス機で、3m/minの速度で、圧延して厚さ170μm、(密度1.7g/cc)の負極用電極をそれぞれ得た。
【0074】
(正極の製造)
正極活物質としてスピネル構造を有するLiMn 100部にバインダー組成物としてポリフッ化ビニリデンを固形分相当量が2部となるように加え、さらに、アセチレンブラック2部、N−メチルピロリドン20部を加えて、プラネタリーミキサーで混合して正極用スラリー組成物を得た。この正極用スラリー組成物を厚さ18μmのアルミニウム箔に塗布し、150℃で3時間乾燥した後、ロールプレスして活物質層の厚みが100μmの正極用電極を得た。
【0075】
アルミニウムシートの両面がポリプロピレンからなる樹脂で被覆されたラミネートフィルムを用いて電池容器を作成した。次いで、上記正極用電極および負極用電極を用い、それぞれ端部から活物質層を除去して、除去した箇所に正極はNiタブを、負極はCuタブを溶接し、正極及び負極とした。得られた正極及び負極を、両極の活物質層面が対向するようにしてポリエチレン製の微多孔膜からなるセパレータを挟み、捲回して上記の電池容器に収納した。続いてここに、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを混合した混合溶媒(25℃における体積比は1:2)に、LiPFを1モル/リットルの濃度になるように溶解させた電解液を注入した。次いで、ラミネートフィルムを封止させてラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を作製した。このようなラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を100個作製した。この電池の性能の評価結果を表1に示す。
【0076】
(実施例2)
実施例1におけるジエン系重合体粒子水分散液(ジエン系バインダー分散液)を、200メッシュのステンレス製金網と400メッシュ(目開 約43μm)のステンレス製金網とを用いてろ過を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物を得、ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を作製し、性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例3)
実施例1におけるジエン系重合体粒子水分散液(ジエン系バインダー分散液)を、200メッシュのステンレス製金網とポリプロピレン製カートリッジフィルター(ろ過精度25μm)とを用いてろ過を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物を得、ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を作製し、性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例4)
実施例1におけるジエン系重合体粒子水分散液(ジエン系バインダー分散液)を、200メッシュのステンレス製金網、ポリプロピレン製カートリッジフィルター(ろ過精度25μm)およびポリプロピレン製カートリッジフィルター(ろ過精度10μm)を用いてろ過を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物を得、ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を作製し、性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例5)
攪拌機付き5MPa耐圧オートクレーブに、n−ブチルアクリレート80部、アクリロニトリル15部、メタクリル酸3部、アクリル酸1部、アリルグリシジルエーテル 1部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部、イオン交換水150部、重合開始剤として過硫酸カリウム1.2部を入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始した。反応率が80%になった時点で、更に過硫酸カリウムの水溶液3部(3%水溶液)を加え70℃に加温した。反応率が97.0%になった時点で冷却して反応を停止し、ガラス転移温度−35℃、数平均粒子径250nmのアクリル系重合体粒子水分散液(アクリル系バインダー分散液)を得た。
【0080】
得られたアクリル系バインダー分散液は、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後イオン交換水で固形分濃度調整を更に行いながら、100メッシュ(目開 約154μm)及び325メッシュ(目開 約44μm)のステンレス製金網を用いてろ過を行い、固形分濃度40%の負極用バインダー組成物を得た。この負極用バインダー組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を作製し、性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(比較例1)
実施例1におけるステンレス製金網を200メッシュから、100メッシュ(目開 約154μm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、負極用バインダー組成物を得、ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を作製し、性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(比較例2)
実施例5におけるステンレス製金網を100メッシュ(目開 約154μm)のみでろ過したこと以外は、実施例5と同様にして、負極用バインダー組成物を得、ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を作製し、性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1から分かるように、実施例1〜5のラミネートセル型のリチウムイオン二次電池では、比較例1及び2のラミネートセル型のリチウムイオン二次電池に比べて、電極のロールプレス加工性が良好であり、充放電サイクル特性の容量維持率が低下した電池、及び充放電レート特性の低下した電池の発生する確率が低かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コールター法により測定した粒子の球体積相当径が3μm以上である、粗大粒子および/または凝集物の濃度が2000ppm以下である電極用バインダー組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の電池用バインダー組成物と電極活物質とを含有する電極用スラリー組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の電極用スラリー組成物を集電体に塗布し、乾燥してなる電極。
【請求項4】
請求項3に記載の電極を用いてなる電池。
【請求項5】
請求項1に記載の電極用バインダー組成物、電極活物質を含んでなる電極用スラリー組成物を集電体の少なくとも片面に3m/min以上で塗布、加熱乾燥して電極活物質層を形成する工程と、
前記電極活物質層を3m/min以上でプレス加工する工程とを有する電極の製造方法。

【公開番号】特開2011−76917(P2011−76917A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228329(P2009−228329)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】