説明

電気ブレーキを備えたブレーキシステムにおけるサーボコントロールの方法

【課題】本発明は乗り物のブレーキシステムにおけるサーボコントロールの方法を与えることを目的とする。
【解決手段】前記システムは少なくとも1つのアクチュエーター8を備えた少なくとも1つの電気ブレーキを有し、前記アクチュエーターはプッシャー13を備え、プッシャー13は摩擦要素11に面し、電動モーターによって駆動され、ブレーキ設定値に応答して前記摩擦要素に選択的に力を加える。前記方法は、プッシャー13によって加えられるブレーキ力の設定値を前記プッシャーの位置の設定値に変換するために関係 R を利用する。本発明の方法は、前記プッシャーの位置に停止部を導入することによって前記特別な関係 R を調整する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気ブレーキを備えたブレーキシステムにおけるサーボコントロールの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の航空機は電気機械式アクチュエーターを備えた電気ブレーキを含むブレーキシステムを有している。
【0003】
各アクチュエーターはプッシャーを備え、プッシャーは多層ディスクに面し、電動モーターで駆動され、選択的に多層ディスクにブレーキ力を加える。
【0004】
このようなブレーキは普通ブレーキの設定値に基づいた力の制御をされている。
本発明は特に、プッシャー位置を感知する位置センサーを備えているがプッシャーによって多層ディスクに加えられる力を測定する力センサーを備えていないアクチュエーターに適用される。
【0005】
このような条件のもとで、これらのアクチュエーターから加えられた力をサーボコントロールできるようにするためには、プッシャーから加えられた力を、測定できるパラメーターすなわちプッシャーの位置や、電動モーターに供給される電源電流などのようなパラメーターの関数として推定する必要がある。
【0006】
あるいは、前記ブレーキ力の設定値は位置の設定値に変換でき、この場合、位置のサーボコントロールを実施することができる。
【0007】
普通実施されるサーボコントロールは、演繹的に推定されたパラメーターや、関係関数や、モデルに基づいている。しかし、ブレーキが作動する条件はブレーキの寿命期間の間に変わりうるので、サーボコントロールを不正確にする。
【0008】
ブレーキの運転条件、特にブレーキの温度又はディスクの磨耗度合いを考慮するために前記ブレーキ力の設定値と前記位置の設定値との間の関係を調整することが知られており、特に米国特許文献1により知られている。
【0009】
【特許文献1】U.S. Patent No.6178369
【0010】
この目的のために、前記ブレーキは、前記プッシャーから前記摩擦要素に加えられる力が電動モーターに供給される電流に特に依存するような条件下で操作され、1以上の運転点について、プッシャーの位置とプッシャーが発生する力が観測される。この方法で測定された位置と力の数値の組は、前記関係を調整するのに使用され、例えば伝統的な回帰方法によって調整される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、上述した一般理論の特定の実施例を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題を達成するために、本発明は、
乗り物のブレーキシステムにおけるサーボコントロールの方法を提供し、
前記プッシャーによって前記摩擦要素に加えられる力を、前記プッシャーの位置の設定値に変換する関係を利用する方法を提供し、
前記位置の設定値と前記力の設定値の間の関係を調整する工程からなる方法を提供するものであり、
前記ブレーキシステムは少なくとも1つの電気ブレーキを有し、電気ブレーキは少なくとも1つの電気機械式アクチュエーターを有し、電気機械式アクチュエーターは、摩擦要素に対面し、電動モーターによって駆動され、ブレーキ設定値に応答して前記摩擦要素に選択的に力を加えるプッシャーを備え、
前記工程は、前記プッシャーから前記摩擦要素に加えられた力が前記電動モーターを流れる電源電流に特に依存するという作動条件のもとでブレーキを操作し、
少なくとも1つの与えられた作動点に対し、位置と、対応する電流を特定し、対応する力をこのように測定した電流から導き出し、
このように決められた前記位置と前記力を使用して前記位置の設定値と前記力の設定値の間の関係を調整することからなる。
本発明によれば、前記ブレーキの運転条件は前記プッシャーの位置に1以上の停止部を与えることを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の方法は図1に示すようなブレーキ付き車輪をいくつか有する航空機への適用においてここに詳述される。各ブレーキ付き車輪はタイヤ(図示せず)を受けるのに適したリム5を備え、航空機の車台によって支持される車軸6上を回転するように取付けられている。車軸6にはアクチュエーター8を保持するリング7が取り付けられている。トーションチューブ9がリング7にしっかり固定されており、リム5の中に延設されていて、バックストップ10まで延びている。リング7、及びトーションチューブ9は、車軸6に関して回転しないようにキー(図示せず)止めされている。
【0014】
静止体10とアクチュエーター8の間には、多層ディスク11が延設されていて、ディスクはリム5とともに回転するようにされているローターディスクと、トーションチューブ9とともに回転しないようにされている静止ディスクとから構成されている。
【0015】
各アクチュエーター8はプッシャー13が多層ディスク11に面して電動モーターからの駆動により線形に動くように取り付けられている本体12を備え、電動モーターは本体12の内部に保持されていて多層ディスク11に選択的に力を伝え、この力は多層ディスクの中のローターとステーターの間に摩擦力を発生させ、リム5の回転を減速させ、これによって航空機にブレーキをかける。
各アクチュエーター8は位置センサー14を有し、位置センサーはプッシャー13の線形変位を測定する。
【0016】
アクチュエーター8は制御されたモードで作動することが可能なコントロールモジュール50と接続されており、アクチュエーター8の中では各プッシャー13がブレーキ設定値に対する応答として電動モーターによって多層ディスク11に対して動かされ、当該ブレーキ設定値はパイロットによって操作されるブレーキペダル51から来る信号に特に基づいて発生される。
【0017】
このようなアクチュエーターにおいては、モーターの回転運動をプッシャーの線形運動に変換するモーターとギアボックスのユニットの上のモーターにより発生したトルクは、モーターに供給される電流の大きさに直接比例する。このことは Cem=K・i と書くことができ、ここでCemは電磁トルク、Kは比例定数、は電動モーターへ流れる電源電流である。
【0018】
しかし、電磁トルクCemの全てが多層ディスクに対してプッシャー13が加える動作に消費されるわけではない。電磁トルクCemの一部は慣性効果(プッシャーの加速又は減速とそれに関する質量)に打ち勝つために消費される。電磁トルクCemの他の一部はプッシャー13の変位に対する静止摩擦と粘性摩擦(すなわち速度に依存する摩擦)を補償するために消費される。このことは次のように書くことができる。
Cem=Ci+Cfs+Cfv+Cu
ここで、Ciは慣性トルク
Cfsは静止摩擦トルク
Cfvは粘性摩擦トルク
Cuは利用できるトルク
利用できるトルクは力 F に対して Cu=a・η・F で発生し、ここで は変換定数で、モーターとギアボックスのユニットの構成に直接関係し、ηは前記変換の効率である。
【0019】
コントロールモジュール50は図2に示す態様でアクチュエーターのサーボコントロールをするために採用される。
【0020】
ブレーキの設定値 F1 は初めに位置の設定値 x1 に変換される。この目的のため、プッシャー13の位置と多層ディスク11上にプッシャー13から加えられた力との間の関係 R が利用される。
【0021】
この設定値 x1 は位置フィードバックループへのインプットとなる。この設定値は位置センサー14で測定されたプッシャー13の位置 から差し引かれる。
【0022】
上記により算出された制御偏差 εx はPID(比例、積分、微分)タイプの第1伝達関数 G によって処理され、電流設定値 i1 に変換される。この設定値は電流センサー15で測定された電流 から差し引かれる。電流センサー15はこのケースではコントロールモジュール50に組み込まれている。
【0023】
制御偏差 εi は次に伝達関数 H (PID)によって処理され、更にアクチュエーターの電動モーターに伝達される。
【0024】
位置とプッシャーが発生する力との間の関係 R は特にディスクの磨耗に敏感であることがわかった。本発明の特定の課題は、この関係 R を、このような磨耗を考慮するように調整することである。
【0025】
この目的のため、そして上述した特定の実施例のために、プッシャーの複数の位置 xp に対応する力 Fp が推定され、得られた推定値の組(xp、Fp)が位置と力の間の関係 R を、例えば伝統的な回帰法を用いて調整するのに、使用される。
【0026】
本発明によれば、そして図3A及び図3Bに示すように、プッシャー13は初めは一定速度で前進させられる。
【0027】
速度は一定に保たれているので、慣性の効果はゼロであり、トルクCiはゼロである。
また、粘性摩擦力 Cfv が常に無視できるように速度を十分小さい値に保つよう注意が払われる。
【0028】
グラフ3Aでは、プッシャー13によって得られた位置を表わす太線グラフは、時間の原点をプッシャー13が多層ディスク11と接触するときに取ると、直線となる。
【0029】
プッシャー13が多層ディスクに接触していない第1段階の間は、利用できるトルク Cu はゼロであり、全電磁トルクは静止摩擦に打ち勝つために使用される。この場合には、電源電流 i0 を測定することによって、静止摩擦の測定ができる。
Cf=K・i0
【0030】
電流 i0 は電流についての細線グラフ上に見ることができる。これはプッシャー13が多層ディスク11と接触する前にモーターに流れる一定電流である。
【0031】
プッシャー13が多層ディスク11と接触している第2段階の間は、利用できるトルクはゼロではなく、測定した電流 から直接導き出すことができる。
Cu=K・(i−i0
【0032】
本発明の一般理論によれば、変位はプッシャー13にある数の停止部を有して伝達され、停止部ではプッシャー13は静止している。図3Aのグラフでは、この停止部の1つの間に取られた時間 tp に対して、対応する位置 xp と電流 ip が示されている。
【0033】
いったんプッシャーの位置が安定すると、位置 xp と対応する電源電流 ip が測定される。このような条件のもとでは、慣性トルク Ci と粘性摩擦トルク Cfv はゼロであり、加えられた力は次の関係を使って電流から直接導き出すことができる。
p=K・(ip−i0)/aη
【0034】
これらの測定を何回か繰り返すことによって、また、上述の関係を使って各測定電流 ip を力Fp と関係付けることにより、一連の数値の組 (xp、Fp) が図3Bのグラフ中の×印で示すように得られる。これらの数値の組は本発明によって、前記位置の設定値と前記力の設定値との間の関係 R をサーボコントロールの実施時に使われるように調整するために使用され、この調整は伝統的な回帰法を用いて行われる。
【0035】
力は電流から色々な異なった方法で推定することができる。
第1の変形では、位置を使用するに当って、利用できるトルク Cu が静止摩擦トルク Cf よりずっと大きい位置、すなわち電源電流 ip が電流 i0 よりずっと大きい位置では、i0 は無視できることに注意すべきである。そこで、測定された電源電流 ip から次の関係式を使って、対応する力 Fp を推定することが可能である。
p=K・ip/a・η
【0036】
他の変形では、前記プッシャーは一定速度で前進するようにされているが、しかし時間の節約のため、高速である。そのような条件下では、粘性摩擦はもはや省略できず、電流i0 に含まれている。
【0037】
上述で説明した本発明の一般理論を用いて、本発明の特別な実施例を以下に記述する。
【0038】
図4に示す第1の実施例では、位置の停止部は停止部を含む位置の設定値 x1 を使用することによって得られる。
【0039】
このようにして得られた各停止部において、位置、電流、及びプッシャーによって加えられた力は安定している。この安定はアクチュエーターの位置センサーからの信号の変動を監視することにより容易に識別できる。そこで、数値の組 (xp、ip) を得るためには対応する位置と電流を識別すれば十分である。上述のように測定した電流から力を導き出すことにより、数値の組(xp、Fp) が最終的に得られる。
【0040】
位置の設定値 x1 がプッシャーが一定速度で変位する初期部分を含み、それにより電流 i0 を測定することが可能であることが理解できよう。
【0041】
実際においては、もしアクチュエーター位置が直接サーボコントロールができるならば、図4に示す位置の設定値 x1 を使用すれば十分である。あるいは、関係 R の逆の関係を使って位置の設定値 x1 を対応する力の設定値に変換すれば十分である。
【0042】
図5Aに示す本発明の第2の実施例においては、位置の設定値は一定速度で増加し続ける位置の設定値 x1 を使用することによって得られる。
【0043】
図5Bに示すように、位置の設定値 x1 を追跡するのに必要な電源電流は接触の瞬間(グラフ上に時間の原点として取れば)から始まって、おおむね線形で増加し、最大利用可能電流 Imax の閾値に到達した瞬間の t* に最大となる。
【0044】
この点から先は、電流 は電流値 Imax で安定し、図5Aに示すようにプッシャーが停止したことを示し、プッシャーに位置の停止部を与える。
【0045】
プッシャーの停止位置が安定したときには、対応する位置 xp が測定される。電流ip はもちろん Imax である。電流から力を導き出すことにより、組(xp、Fp)が最終的に得られる。
【0046】
実施においては、最大利用可能電流の閾値は、電源の構造的な限界に依存するか、
又はソフトウェアの限界に依存し、
電源の構造的な限界とは、前記最大利用可能電流が電源が供給できる最大電流であるような場合であり、
ソフトウェアの限界とは、ある設定レベルでアクチュエーターが使用できる電流の限界(もちろん供給できる最大電流以下)を設定し、最大利用可能電流に対して複数のレベルを選択して複数の停止部を実施することを可能とするようにした限界である。
【0047】
もちろん、プッシャーの位置には、関係 R を調整するのに十分な数値の組を入手するために必要に応じてしばしば停止部が設けられる。そこで、もし関係 R が1つのパラメーターにのみ依存し、パラメーターが1つの停止部を実施することにより測定されるトルクの閾値(xp、Fp)によって決定できるならば、1つの停止部で十分である。しかし、好ましくは、複数の停止部が実施されるのが好ましい。
【0048】
このような条件の下で、前記調整は第1に、ブレーキを疲労させディスクの磨耗を早める不適切な過剰圧力を多層ディスクにかけることを防止し、第2に、不適切なブレーキ操作につながる不適切な力をかけることを防止する。
【0049】
本発明は上述に限定されず、請求項で定義した範囲内の変形を全て含む。
【0050】
特に、本発明の調整は車台が下げられ、航空機が着地する前に実施されるのが好ましい。こうして、位置の設定値と力の設定値の間の関係 R は各着地の前に再調整され、ディスクの磨耗状態が考慮される。また、前記調整工程は他の状況下、例えば摩擦要素が磨耗限界を超えたときの応答時に、又は、定期的に10又は100フライトに1回磨耗要素を交換する時に、又は、工場でメインテナンスを行う時に、実施することができる。
【0051】
また、ここに記述したブレーキ設定値は力の設定値であるが、本発明を最大力のパーセンテージで表現した設定値に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】電気・機械式アクチュエーターを備えた電気ブレーキの断面図。
【図2】前記アクチュエーターの制御に使用するサーボコントロールのブロック線図。
【図3A】位置(太線)と電源電流(細線)が本発明の方法における時間の関数としてどのように変化するかを示すグラフ。
【図3B】力とプッシャー位置の関係が本発明の方法においてどのように調整されているかを示すグラフ。
【図4】本発明の方法の第1実施例で使用された位置の設定値について時間の関数としての変化を示すグラフ。
【図5A】本発明の方法の第2実施例で使用された位置の設定値について時間の関数としての変化を示すグラフ。
【図5B】図5Aの位置の設定値と関係づけられたアクチュエーターの電源電流について時間の関数としての変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0053】
5 リム
6 車軸
7 リング
8 アクチュエーター
9 トーションチューブ
10 バックストップ
11 多層ディスク
12 アクチュエーター本体
13 プッシャー
14 位置センサー
15 電流センサー
50 コントロールモジュール
51 ブレーキペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物のブレーキシステムをサーボコントロールする方法であって、
当該ブレーキシステムは、アクチュエーター(8)を有する少なくとも1つの電気ブレーキを備え、当該アクチュエーターはプッシャー(13)を備え、当該プッシャーは摩擦要素(11)に面し、かつ電動モーターによって駆動されて前記摩擦要素に対しブレーキ設定値に応答して選択的に力を加えるものであり、
前記方法が、前記プッシャーによって加えられるブレーキの設定値を前記プッシャーの位置の設定値に変換する関係(R)を利用する方法であって、
前記方法が、位置の設定値と力の設定値の間の関係(R)を調整する工程を備え、
当該工程が、前記プッシャーから前記摩擦要素に加えられた力が電動モーターを流れる電源電流に特に依存するという作動条件のもとでブレーキを操作し、
少なくとも1つの運転点に対し、前記プッシャーの位置(xp)とこれに対応する電源電流(ip)を特定し、測定した電流から対応する力(Fp)を導き出し、
前記位置の設定値と前記ブレーキの設定値の間の関係(R)をこの方法で決められたように位置と力の関数として調整する工程であり、
前記運転条件は前記プッシャーに1以上の位置の停止部を与えることを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記停止部が、1以上の停止部を含む、位置の設定値を利用する結果である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記停止部が、前記プッシャーを前記電動モーターの電源電流が最大利用可能電流レベルに達するように動かす、位置の設定値を利用する結果である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記位置と力の間の関係の調整の工程が、乗り物の利用サイクル当り少なくとも1回実施されることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate


【公開番号】特開2006−232270(P2006−232270A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48531(P2006−48531)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(591131361)メシエ−ブガッティ (64)
【氏名又は名称原語表記】MESSIER BUGATTI
【Fターム(参考)】