説明

電気化学セルシステムおよびこれを搭載した車両

【課題】水素を迅速に供給することができる応答性に優れた電気化学セルシステムを提供する。
【解決手段】電池110の電極または該電極の近傍に設けられて該電極に電気的に接続され、通電により水素を吸蔵または放出する水素吸蔵合金と、電池110で使用される水素を水素吸蔵合金が放出するように、電極の通電状態を制御する制御手段160と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルシステムおよびこれを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の少ない電源として、燃料電池が注目されている。燃料電池は、酸素および水素の供給を受けて電力を生成する。燃料電池に水素を供給する技術としては、たとえば、特許文献1に開示されている燃料電池システムが知られている。
【0003】
特許文献1の燃料電池システムは、水素ガスが供給される燃料電池の負極部もしくはその近傍に水素吸蔵合金からなる水素吸蔵手段を備える。このような構成の燃料電池システムによれば、燃料電池に要求される電気的な出力が大きく変動する際に、水素吸蔵手段から補助的に水素が供給されるため、発電性能の安定性が向上する。
【特許文献1】特開2001−006697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記燃料電池システムでは、水素圧力によって水素吸蔵合金からの水素の放出が制御されるため、応答性が低く、急激な水素の欠乏には対応することができないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものである。したがって、本発明の目的は、水素を迅速に供給することができる応答性に優れた電気化学セルシステムを提供することである。
【0006】
また、本発明の他の目的は、上記電気化学セルシステムを搭載した車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0008】
本発明の電気化学セルシステムは、電池の電極または該電極の近傍に設けられて該電極に電気的に接続され、通電により水素を吸蔵または放出する水素吸蔵合金と、前記電池で使用される水素を前記水素吸蔵合金が放出するように、前記電極の通電状態を制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の車両は、上記電気化学セルシステムを電池の水素供給源として搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電気化学セルシステムによれば、電池に水素を迅速に供給することができる。
【0011】
本発明の車両によれば、電池に水素が迅速に供給されるため、安定性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の実施の形態では、本発明を燃料電池自動車の燃料電池システムに適用した場合を例にとって説明する。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態における電気化学セルシステムが用いられた燃料電池システムの概略構成を示す図である。以下に説明する本実施の形態の電気化学セルシステムは、燃料電池に供給される水素が欠乏した場合に、水素吸蔵合金を含む燃料電池のアノード(燃料極)の通電状態を制御して水素吸蔵合金から水素を放出させることにより、燃料電池に水素を補助的に供給するものである。
【0014】
図1に示すとおり、本実施の形態の燃料電池システム100は、燃料電池110、燃料タンク120、検出部130、負荷140、二次電池150、および制御部160を備える。
【0015】
燃料電池110は、水素および酸素の供給を受けて電力を生成するものである。燃料電池110は、単位電池としての単セルが複数積層されて構成される。燃料電池110の各単セルは、通電により水素を放出または吸蔵する水素吸蔵合金をアノードに含む。燃料電池110についての詳細な構成については後述する。
【0016】
燃料タンク120は、燃料電池110に供給されるアノードガス(水素を含む燃料ガス)を貯蔵するものである。燃料タンク120は、水素供給用配管を通じて、燃料電池110のアノードにアノードガスを供給する。
【0017】
検出部130は、第1検出手段として、燃料電池110のセル電圧を検出するものである。検出部130は、燃料電池110に取り付けられる電圧センサを含み、燃料電池110を構成する複数の単セルのうち一の単セルのセル電圧を検出する。
【0018】
負荷140は、燃料電池110が生成した電力を消費するものである。負荷140は、燃料電池110に電気的に並列に接続されている。本実施の形態の負荷140は、燃料電池自動車を駆動させるための駆動モータおよび燃料電池110の補機を含む。
【0019】
二次電池150は、燃料電池110が生成した電力のうち余剰な電力を貯蔵するものである。二次電池150は、燃料電池110に電気的に並列に接続されている。二次電池150は、制御部160で制御されるスイッチ(不図示)を用いて燃料電池110との接続/切断が切り替えられる。二次電池150は、たとえば、鉛蓄電池である。なお、本明細書において電気的に接続するという表現は、直接的に接続されている場合および他の部材(たとえば、スイッチ)を介して接続されている場合の両方を含む。
【0020】
制御部160は、制御手段として、検出部130からの信号を受信し、これらの信号に基づいて、負荷140を制御するものである。より具体的には、制御部160は、燃料タンク120から燃料電池110に供給される水素が欠乏した場合に、燃料電池110から取り出す電流を増加させることによって、燃料電池110のアノードに含まれる水素吸蔵合金から水素を放出させる。
【0021】
次に、図2を参照しつつ、本実施の形態における燃料電池110の構成を説明する。本実施の形態の燃料電池110は、アノードガスとカソードガス(酸素を含む酸化剤ガス)との反応により起電力を生じる単位電池としての単セルが複数積層されて構成されたものであり、各単セルのアノードには、通電により水素を吸蔵または放出する水素吸蔵合金が設けられている。
【0022】
図2は、図1に示す燃料電池システムにおける燃料電池のセル構造を示す斜視図である。図2に示すとおり、燃料電池110を構成する各単セル111は、MEA112と、MEA112の両面にそれぞれ配置されるセパレータ113とから構成される。
【0023】
MEA112は、固体高分子電解質膜114と、固体高分子電解質膜114を両側から挟み込むアノード115およびカソード116と、を有する。固体高分子電解質膜114は、水素イオンを通す高分子電解質膜から構成される。アノード115は、アノード触媒層115Aおよびガス拡散層115Bから構成され、カソード116は、カソード触媒層116Aおよびガス拡散層116Bから構成される。さらに、本実施の形態におけるアノード115は、通電により水素を吸蔵または放出する水素吸蔵合金を有する。本実施の形態では、アノード触媒層115Aの白金または白金合金を含む触媒粉末に、水素吸蔵合金として、粉末状のパラジウム(Pd)またはパラジウム合金が混合される。
【0024】
セパレータ113は、導電性を有する材料により形成される。セパレータ113の一方の面の発電に寄与するアクティブ領域には、MEA112にアノードガスを流通させるアノードガス流路117Aをなす溝部117が形成されている。一方、セパレータ113の他方の面のアクティブ領域には、MEA112にカソードガスを流通させるカソードガス流路118Aをなす溝部118が形成されている。アノードガスは、アノードガス導入口より導入されて溝部117を流れ、アノードガス排出口より排出される。カソードガスは、カソードガス導入口より導入されて溝部118を流れ、カソードガス排出口より排出される。
【0025】
アノードガス流路117Aおよびカソードガス流路118Aにアノードガスおよびカソードガスをそれぞれ流通させると、(1)式に示すとおり、水素はアノード触媒層115Aの触媒作用で水素イオンに変わり電子を放出する。
【0026】
→2H+2e…(1)
電子を放出した水素イオンは固体高分子電解質膜114を通過する。カソード触媒層116Aでは固体高分子電解質膜114を通過してきた水素イオンと外部回路(不図示)を経由してきた電子がカソードガス中に含まれる酸素と反応して水を生成する。この作用によってアノード115がマイナスに、カソード116がプラスになり、図2に示すとおり、アノード115とカソード116との間で直流電圧が発生する。この直流電圧は、検出部130によって検出される。通常、アノード115を流通するアノードガスは、燃料タンク120から供給される。本実施の形態の燃料電池システム100では、燃料タンク120から供給されるアノードガスが欠乏する場合には、アノード115に含まれる水素吸蔵合金から水素が放出されて燃料電池110の電解質膜114に補助的に供給される。
【0027】
次に、図3を参照しつつ、本実施の形態における水素吸蔵合金について説明する。上述したとおり、本実施の形態の水素吸蔵合金は、通電により水素を吸蔵または放出するものであり、アノード触媒層115Aに粉末状に設けられている。
【0028】
図3は、図2に示す燃料電池のアノードに設けられる水素吸蔵合金の電圧−電流特性を示す図である。図3の横軸は、水素吸蔵合金に印加される電圧を示し、縦軸は、水素吸蔵合金を流れる電流を示す。上述したとおり、本実施の形態の水素吸蔵合金は、通電により水素を吸蔵または放出する。
【0029】
図3に示すとおり、本実施の形態の水素吸蔵合金は、燃料電池110が通常使用される通常発電領域において、燃料タンク120から燃料電池110に供給される水素を吸蔵する。一方、水素吸蔵合金に印加される電圧および電流が通常発電領域よりも高い水素放出電位領域では、水素吸蔵合金は、内部に含有する水素を放出する。本実施の形態では、(2)式に示すとおり、パラジウムまたはパラジウム合金から水素が解離する際に、電子およびプロトンが生成されるものと考えられる。
【0030】
H(ab)→H+e…(2)
このような水素放出電位領域は、水素吸蔵合金の材質によって定まり、パラジウム合金の場合、80mV付近の領域である。また、図3に示すとおり、水素吸蔵合金に印加される電圧と電流との関係を示す特性曲線は、水素放出電位領域において極大点を呈する。
【0031】
なお、本実施の形態では、水素酸化反応における活性が比較的に高く、水素吸蔵量性能が高い点から、水素吸蔵合金としてパラジウムまたはパラジウム合金を用いる。しかしながら、本実施の形態とは異なり、水素吸蔵合金としては、希土類元素−ニッケル合金、チタン−鉄合金、チタン−クロム合金などを用いることができ、特に、パラジウムの代替材料としては、パラジウムの次に水素酸化反応活性と水素吸蔵性能が高い希土類元素−ニッケル合金を用いることが好ましい。また、水素吸蔵合金は、アノード触媒層115Aで効率的に電子を受け渡す見地から、1×10−10以上の電気伝導度を有することが好ましい。さらに、本実施の形態の水素吸蔵合金は、効果的に水素を吸蔵または放出する見地から、0.1m/g以上の比表面積を有することが好ましく、かつ、水素吸蔵合金の耐久性を維持する見地から、200m/g未満の比表面積を有することが好ましい。
【0032】
以上のとおり構成される本実施の形態の電気化学セルシステムおよびこれを用いた燃料電池システム100によれば、燃料タンク120から燃料電池110に供給されるアノードガスが欠乏する場合、水素吸蔵合金を含むアノード115の通電状態が制御されることによって、水素吸蔵合金から水素が放出され、電解質膜114に補助的に供給される。以下、本実施の形態の水素発生処理について説明する。
【0033】
図4は、図1に示す燃料電池システムにおける水素発生処理を示すフローチャートである。本実施の形態の水素発生処理は、たとえば、燃料電池自動車の急峻な加速またはアノードフラッディングなどにより、燃料タンク120から燃料電池110に供給される水素が欠乏した場合に、水素吸蔵合金を含む燃料電池110のアノード115の通電状態を制御して水素吸蔵合金から水素を放出させることにより、水素の欠乏を補うものである。
【0034】
図4に示すとおり、本実施の形態の水素発生処理によれば、まず、燃料電池110のセル電圧が検出される(ステップS101)。本実施の形態では、検出部130によって燃料電池110の端部に位置する単セル111のセル電圧が検出される。
【0035】
次に、セル電圧が閾値未満か否かが判断される(ステップS102)。セル電圧が閾値未満の場合(ステップS102:YES)、燃料タンク120から供給される水素が欠乏していると判断されて、ステップS103以下の処理に移行する。一方、セル電圧が閾値以上の場合(ステップS102:NO)、水素の欠乏が発生するまで待機する。
【0036】
以上のとおり、ステップS101〜S102に示す処理によれば、セル電圧の急激な低下を検知することによって、燃料タンク120から燃料電池110に供給される水素の欠乏が検知される。なお、本実施の形態とは異なり、たとえば、水素供給用配管に圧力センサを設け、燃料タンク120から燃料電池110に供給される水素の圧力低下を検知することによって、水素の欠乏を検知することもできる。
【0037】
次に、燃料電池110に供給される水素が欠乏していると判断された場合、燃料電池110から取り出される電流が増加される(ステップS103)。本実施の形態では、たとえば、駆動モータの回転数を上昇させ、電流負荷を増大させることによって、燃料電池110から取り出される電流を増加させる。このようにすると、燃料電池110から取り出される電流の増加にともなって、燃料電池110のアノード115に設けられる水素吸蔵合金を流れる電流が増加して、水素吸蔵合金の電位が通常発電領域から水素放出電位領域の極大点に向かって上昇する。
【0038】
次に、セル電圧が検出され、検出されたセル電圧が上昇しているか否かが判断される(ステップS104,S105)。セル電圧が上昇している場合(ステップS105:YES)、水素吸蔵合金の電位が水素放出電位領域の極大点に到達していないとして、セル電圧の上昇が停止するまで待機する。一方、検出されたセル電圧が上昇していない場合(ステップS105:NO)、水素吸蔵合金の電位が水素放出電位領域の極大点に到達したとして、電流負荷が維持される(ステップS106)。
【0039】
以上のとおり、ステップS103〜S106に示す処理によれば、燃料電池110にかかる電流負荷を増大させて燃料電池110から取り出す電流を増加させることにより、水素吸蔵合金の電位が水素放出電位領域の極大点まで上昇される。その結果、水素吸蔵合金から迅速に水素が放出されて電解質膜114に補助的に供給され、燃料電池110の発電性能が維持される。なお、本実施の形態とは異なり、たとえば、別途に電流計を設けることによって、燃料電池110を流れる電流を検出しつつ、水素吸蔵合金を流れる電流が水素放出電位領域の極大点に到達したか否かを判断することもできる。
【0040】
次に、時間が計測されて、所定時間(たとえば、0.1〜10秒)が経過したか否かが判断される(ステップS107,S108)。所定時間経過していない場合(ステップS108:NO)、所定時間が経過するまで、たとえば、駆動モータの回転数を制御することによって、水素吸蔵合金の電位を水素放出電位領域の極大点に維持する。一方、所定時間が経過した場合(ステップS108:YES)、駆動モータの回転数を低減することによって、燃料電池110から取り出す電流が低減され、処理が終了される(ステップS108)。
【0041】
以上のとおり、ステップS107〜S108に示す処理によれば、所定時間だけ水素吸蔵合金から水素が放出され、処理が終了される。水素吸蔵合金は、水素を放出する水素放出電位領域から通常発電領域に復帰して、燃料タンク120から水素供給用配管を通じて燃料電池110に供給される水素を吸蔵する。
【0042】
以上のとおり、図4に示すフローチャートの処理によれば、まず、燃料タンク120から燃料電池110に供給される水素の欠乏が検知される。そして、水素が欠乏する場合、燃料電池110にかかる電流負荷が増大されて、燃料電池110から取り出される電流が増加される。その結果、水素吸蔵合金の電位が水素放出電位領域に到達することによって、水素吸蔵合金から迅速に水素が放出される。したがって、水素が燃料電池110に補助的に供給されることにより、燃料タンク120からの水素の供給が追いつかない場合であっても、燃料電池110の発電性能が維持される。
【0043】
なお、上述した本実施の形態における水素発生処理では、水素吸蔵合金の電位を水素放出電位領域の極大点まで上昇させ、一定時間維持することにより、水素吸蔵合金から水素を放出させた。しかしながら、燃料電池110から取り出す電流を所定量だけ増加させて水素吸蔵合金から水素を放出させ、セル電圧が回復するまでその状態を維持することもできる。
【0044】
図5は、本実施の形態における水素発生処理の変形例を示すフローチャートである。
【0045】
図5に示すとおり、本実施の形態の水素発生処理の変形例によれば、まず、燃料電池110のセル電圧が検出され、検出されたセル電圧が閾値未満か否かが判断される(ステップS201,S202)。
【0046】
セル電圧が閾値未満の場合(ステップS202:YES)、燃料タンク120から供給される水素が欠乏していると判断して、ステップS203以下の処理に移行する。一方、セル電圧が閾値以上の場合(ステップS202:NO)、水素の欠乏が発生するまで待機する。
【0047】
次に、燃料電池110に供給される水素が欠乏していると判断された場合、燃料電池110から取り出される電流が予め設定される電流値だけ増加される(ステップS203)。本実施の形態では、たとえば、駆動モータの回転数の上昇数を予め設定しておいて、水素の欠乏が発生した場合には、設定した上昇数だけ駆動モータの回転数を上昇させることにより、燃料電池110から取り出す電流が増加される。その結果、水素吸蔵合金から迅速に水素が放出されて電解質膜114に補助的に供給される。
【0048】
次に、セル電圧が検出されて、急激に低下する前のセル電圧まで回復したか否かが判断される(ステップS204,S205)。セル電圧が回復しない場合(ステップS205:NO)、セル電圧が回復するまで通電状態を維持する。一方、セル電圧が回復した場合(ステップS205:YES)、駆動モータの回転数が低減されて、処理が終了される(ステップS206)。
【0049】
以上のとおり、図5に示すフローチャートの処理によれば、水素吸蔵合金の電位が水素放出電位領域に到達するように、予め設定された電流値だけ燃料電池110から取り出される電流が増加され、セル電圧が回復するまで水素吸蔵合金が水素を放出する状態が維持される。このような構成にすると、図6に示すとおり、燃料電池110のセル電圧を確実に回復させることができる。
【0050】
なお、上述した変形例では、予め設定される回転数だけ駆動モータの回転数を上昇させることによって、水素吸蔵合金の電位を水素放出電位領域まで上昇させた。しかしながら、強制的に水素吸蔵合金の電位を上昇させることなく、水素の欠乏に起因して自然に上昇するアノードの電位を維持することによって、水素吸蔵合金から水素を放出させることもできる。したがって、本変形例では、水素吸蔵合金に応じて、0〜500mA/cm程度電流値が増加するように、駆動モータの回転数が設定される。
【0051】
以上のとおり、説明した本実施の形態は、以下の効果を奏する。
【0052】
(a)本実施の形態の電気化学セルシステムは、燃料電池のアノードに設けられ、通電により水素を吸蔵または放出する水素吸蔵合金と、燃料電池で使用される水素を水素吸蔵合金が放出するように、アノードの通電状態を制御する制御部と、を有する。したがって、燃料電池に迅速に水素を供給することができる。その結果、応答性に優れた燃料電池システムを提供することができる。
【0053】
(b)水素吸蔵合金は、燃料電池のアノード触媒層に粉末状に設けられている。したがって、水素吸蔵合金の比表面積を大きくとることができる。
【0054】
(c)制御部は、水素吸蔵合金に応じて定まる水素放出電位領域に水素吸蔵合金の電位が達するようにアノードの通電状態を制御して、水素吸蔵合金から水素を放出させる。したがって、アノードの通電状態を制御することによって、水素吸蔵合金から水素を放出させることができる。
【0055】
(d)水素吸蔵合金に印加される電圧と電流との関係を示す特性曲線は、水素放出電位領域において極大点を呈し、制御部は、水素放出電位領域の極大点近傍に水素吸蔵合金の電位が達するように、アノードの通電状態を制御する。したがって、水素吸蔵合金に水素放出電位領域に容易に調節することができる。
【0056】
(e)本実施の形態の電気化学セルシステムは、燃料電池のセル電圧を検出する検出部をさらに有し、制御部は、燃料電池に供給される水素の欠乏に起因してセル電圧が低下する場合、アノードの通電状態を制御する。したがって、要求される出力値が大きく変動することにより、燃料電池に供給される水素の欠乏が発生した場合であっても、水素吸蔵合金から水素が迅速に供給されるため、燃料電池の発電性能が維持される。
【0057】
(f)制御部は、燃料電池にかかる負荷を変動させることによって、アノードの通電状態を制御する。したがって、アノードの通電状態を容易に制御することができる。
【0058】
(g)制御部は、水素吸蔵合金が水素を放出するように、燃料電池を流れる電流を増加させる。したがって、燃料電池にかかる負荷を増大させることによって、水素吸蔵合金から水素を放出させることができる。
【0059】
(h)制御部は、水素吸蔵合金が水素を放出するように、燃料電池を流れる電流を所定の電流値だけ増加させる。したがって、燃料電池のセル電圧をモニタリングすることなく、水素吸蔵合金から水素を放出させることができる。
【0060】
(i)制御部は、水素吸蔵合金が水素を放出するように、水素の欠乏に起因して増加するアノードの電位を維持する。したがって、燃料電池のセル電圧をモニタリングすることなく、水素吸蔵合金から水素を放出させることができる。
【0061】
(j)制御部は、水素吸蔵合金が水素を放出する状態を所定時間維持する。したがって、制御プログラミングが簡素化される。また、システムの構成が簡略化される。
【0062】
(k)制御部は、水素の欠乏に起因して低下する燃料電池のセル電圧が回復するまで、水素吸蔵合金が水素を放出する状態を維持する。したがって、より確実に燃料電池の発電性能を維持することができる。
【0063】
なお、上述した実施の形態では、粉体状の水素吸蔵合金がアノードのアノード触媒層に混合された。しかしながら、水素吸蔵合金は、燃料電池のアノードに電気的に接続されればよく、たとえば、図7に示すとおり、メッシュ形態に形成され(参照符号119)、セパレータ113とアノード115との間に配置されることもできる。あるいは、水素吸蔵合金は、粉体からなる多孔質形状または板状に形成されて、セパレータ113とアノード115との間に配置されることもできる。
【0064】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、燃料電池から取り出される電流を制御することによって水素吸蔵合金からの水素の放出を制御した。本実施の形態では、燃料電池に印加する電圧を制御することによって、水素吸蔵合金からの水素の放出を制御する。
【0065】
図8は、本発明の第2の実施の形態における電気化学セルシステムが用いられた燃料電池システムの概略構成を示す図である。
【0066】
図8に示すとおり、本実施の形態の燃料電池システム100は、燃料電池110、燃料タンク120、負荷140、二次電池150、制御部160、およびポテンショスタット170を備える。本実施の形態では、ポテンショスタット170が、アノードの通電状態を制御していることを除けば、本実施の形態における燃料電池システム100の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。なお、図中、図1に示す概略構成図と同様の部材には同一の符号を用いた。
【0067】
ポテンショスタット170は、参照極の電位を基準として燃料電池110のアノードのアノード電位を制御するものである。本実施の形態のポテンショスタット170は、燃料電池110に電気的に並列に接続されて、燃料電池110に電圧を印加する。
【0068】
図9は、本実施の形態におけるポテンショスタットの概略構成を示す図である。図9に示すとおり、本実施の形態のポテンショスタット170は、電圧計(第2検出手段)171、可変電源172、および参照極173を備える。電圧計171は、参照極173と燃料電池110のアノード115との電位差であるアノード電位を検出するものであり、可変電源172は、参照極173とアノード115との電位差に基づいて、アノード電位を制御する。
【0069】
以上のとおり構成される本実施の形態の燃料電池システム100によれば、燃料タンク120から燃料電池110に供給される水素ガスが欠乏する場合、水素吸蔵合金を含むアノード115のアノード電位が制御され、アノード115に含まれる水素吸蔵合金から水素が補助的に放出される。以下、燃料電池のアノード電位に基づいて、アノードに印加する電圧を制御する本実施の形態の水素発生処理について述べる。
【0070】
図10は、図8に示す燃料電池システムにおける水素発生処理を示すフローチャートである。
【0071】
図10に示すとおり、本実施の形態における水素発生処理では、まず、燃料電池110のアノード115のアノード電位が検出される(ステップS301)。次に、アノード電位が閾値(たとえば、0.05V)以上か否かが判断される(ステップS302)。本実施の形態では、ポテンショスタット170内部に設けられた電圧計171によって、燃料電池110を構成する一の単セル111のアノード115のアノード電位が検出される。
【0072】
アノード電位が閾値以上の場合(ステップS302:YES)、燃料電池110に供給される水素が欠乏していると判断して、ステップS303以下の処理に移行する。一方、アノード電位が閾値未満の場合(ステップS302:NO)、水素の欠乏が発生するまで待機する。
【0073】
次に、燃料電池110に電圧が印加される(ステップS303)。本実施の形態では、ポテンショスタット170から燃料電池110に電圧が印加され、水素吸蔵合金から水素が放出される水素放出電位領域までアノード電位が上昇される。
【0074】
次に、アノード115のアノード電位が検出されて、水素放出電位領域まで到達しているか否かが判断される(ステップS304,S305)。アノード電位が水素放出電位領域まで到達していない場合(ステップS305:NO)、アノード電位が水素放出電位領域に到達するまで待機する。一方、アノード電位が水素放出電位領域まで到達した場合(ステップS305:YES)、アノード電位が水素放出電位領域の極大点近傍(たとえば、80±10mV)に維持される(ステップS306)。本実施の形態では、ポテンショスタット170の電圧計171によって検出されるアノード電位に基づいて、可変電源172が調整されつつ、アノード電位が維持される。
【0075】
次に、時間が計測されて、所定時間(たとえば、0.1〜10秒)が経過したか否かが判断される(ステップS307,S308)。所定時間経過していない場合(ステップS307:NO)、所定時間が経過するまで、アノード115のアノード電位を水素放出電位領域の極大点に維持する。一方、所定時間が経過した場合(ステップS308:YES)、燃料電池110への電圧の印加が停止されて、処理が終了される(ステップS309)。
【0076】
以上のとおり、図10に示すフローチャートの処理によれば、まず、燃料タンク120から燃料電池110に供給される水素ガスの欠乏が検知される。そして、水素ガスが欠乏する場合、燃料電池110に電圧が印加されて、燃料電池110のアノード電位が上昇される。その結果、水素放出電位領域に到達した水素吸蔵合金から迅速に水素が放出され、燃料電池110に補助的に供給される。したがって、燃料タンク120からの水素の供給が追いつかない場合であっても、燃料電池110の発電性能が維持される。
【0077】
以上のとおり、説明した本実施の形態は、第1の実施の形態の効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0078】
(l)本実施の形態の電気化学セルシステムは、参照極の電位を基準としてアノード電位を制御するポテンショスタットを有し、ポテンショスタットは、燃料電池に供給される水素の欠乏に起因してアノード電位が閾値以上になる場合、水素吸蔵合金が水素を放出するように、参照極の電位を基準とするアノードのアノード電位を上昇させる。したがって、参照極を基準として、アノード電位が制御されるため、アノード電位を高精度に制御することができる。
【0079】
(第3の実施の形態)
本実施の形態は、上記第1および第2の実施の形態の電気化学セルシステムが燃料電池の水素供給源として搭載されている燃料電池自動車の実施の形態である。
【0080】
図11は、本発明の第3の実施の形態である燃料電池自動車を示す図である。本実施の形態の燃料電池自動車200は、燃料電池システム100を備える。第1および第2の実施の形態で説明したとおり、燃料電池システム100は、自動車200の急峻な加速により燃料電池に供給される水素が欠乏した場合であっても、水素吸蔵合金から迅速に水素が供給されることにより、燃料電池の発電性能が維持される。
【0081】
以上のとおり、説明した本実施の形態は、第1〜第3の実施の形態の効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0082】
(m)本実施の形態の燃料電池自動車は、上記電気化学セルシステムを燃料電池の水素供給源として搭載している。したがって、燃料電池の発電性能が維持されて、燃料電池自動車の安定性が向上する。
【0083】
以上のとおり、第1〜第3の実施の形態において、本発明における電気化学セルシステムおよびこれを搭載した車両を説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略することができることはいうまでもない。
【0084】
たとえば、上述した実施の形態では、燃料電池に電気的に接続される駆動モータの回転数を上げることによって、燃料電池を通電する電流および電圧を増加させた。しかしながら、外部の二次電池から電力を供給することによって、燃料電池に印加する電流および電圧を増加させることもできる。
【0085】
また、第1〜第3の実施の形態では、本発明の電気化学セルシステムが燃料電池自動車に搭載されている場合を例にとって説明した。しかしながら、本発明の電気化学セルシステムは、燃料電池自動車のみならず、家庭用発電装置といった定置用燃料電池、ダイレクトメタノール燃料電池などに用いられることができる。さらに、本発明の電気化学セルシステムは、燃料電池に水素を供給する用途に限定されず、ニッケル水素電池といった水素を必要とする種々の用途に応用される。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1の実施の形態における電気化学セルシステムが用いられた燃料電池システムの概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す燃料電池システムにおける燃料電池のセル構造を示す斜視図である。
【図3】図2に示す燃料電池のアノードに設けられる水素吸蔵合金の電圧−電流特性を示す図である。
【図4】図1に示す燃料電池システムにおける水素発生処理を示すフローチャートである。
【図5】図4に示す水素発生処理の変形例を示すフローチャートである。
【図6】図1に示す燃料電池システムにおける燃料電池のセル電圧の回復を説明するための図である。
【図7】図1に示す燃料電池システムにおける燃料電池のセル構造の変形例を示す斜視図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態における電気化学セルシステムが用いられた燃料電池システムの概略構成を示す図である。
【図9】図8に示す燃料電池システムにおけるポテンショスタットの概略構成を示す図である。
【図10】図8に示す燃料電池システムにおける水素発生処理を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第3の実施の形態である燃料電池自動車を示す図である。
【符号の説明】
【0087】
100 燃料電池システム、
110 燃料電池、
120 燃料タンク、
130 検出部、
140 負荷、
150 二次電池、
160 制御部
170 ポテンショスタット、
200 燃料電池自動車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の電極または該電極の近傍に設けられて該電極に電気的に接続され、通電により水素を吸蔵または放出する水素吸蔵合金と、
前記電池で使用される水素を前記水素吸蔵合金が放出するように、前記電極の通電状態を制御する制御手段と、を有することを特徴とする電気化学セルシステム。
【請求項2】
前記電池は、水素および酸素の供給を受けて電力を生成する燃料電池であって、
前記電極は、水素の供給を受ける燃料極であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セルシステム。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金は、前記燃料極の触媒層に粉末状に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の電気化学セルシステム。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金は、前記燃料極にメッシュ板状または多孔質状に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の電気化学セルシステム。
【請求項5】
前記水素吸蔵合金は、0.1〜200m/gの比表面積を有することを特徴とする請求項3または4に記載の電気化学セルシステム。
【請求項6】
前記水素吸蔵合金は、1×10−10S/cm以上の電気伝導度を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気化学セルシステム。
【請求項7】
前記水素吸蔵合金は、パラジウム、パラジウム合金、希土類元素−ニッケル合金、チタン−鉄合金、およびチタン−クロム合金からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気化学セルシステム。
【請求項8】
前記制御手段は、前記水素吸蔵合金に応じて定まる水素放出電位領域に前記水素吸蔵合金の電位が達するように前記燃料極の通電状態を制御して、前記水素吸蔵合金から水素を放出させることを特徴とする請求項2に記載の電気化学セルシステム。
【請求項9】
前記水素吸蔵合金に印加される電圧と電流との関係を示す特性曲線は、前記水素放出電位領域において極大点を呈し、
前記制御手段は、前記水素放出電位領域の極大点近傍に前記水素吸蔵合金の電位が達するように、前記燃料極の通電状態を制御することを特徴とする請求項8に記載の電気化学セルシステム。
【請求項10】
前記燃料電池のセル電圧を検出する第1検出手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記燃料電池に供給される水素の欠乏に起因して前記セル電圧が低下する場合、前記燃料極の通電状態を制御することを特徴とする請求項2に記載の電気化学セルシステム。
【請求項11】
前記制御手段は、前記燃料電池にかかる負荷を変動させることによって、前記燃料極の通電状態を制御することを特徴とする請求項2に記載の電気化学セルシステム。
【請求項12】
前記制御手段は、外部の二次電池から電力を供給することによって、前記燃料極の通電状態を制御することを特徴とする請求項2に記載の電気化学セルシステム。
【請求項13】
前記制御手段は、前記水素吸蔵合金が水素を放出するように、前記燃料極を流れる電流を増加させることを特徴とする請求項2に記載の電気化学セルシステム。
【請求項14】
前記制御手段は、所定の電流値だけ前記燃料極を流れる電流を増加させることを特徴とする請求項13に記載の電気化学セルシステム。
【請求項15】
前記制御手段は、前記水素吸蔵合金が水素を放出するように、水素の欠乏に起因して増加する前記燃料極の電位を維持することを特徴とする請求項2に記載の電気化学セルシステム。
【請求項16】
前記制御手段は、前記水素吸蔵合金が水素を放出する状態を所定時間維持することを特徴とする請求項2に記載の電気化学セルシステム。
【請求項17】
前記制御手段は、水素の欠乏に起因して低下する前記燃料電池のセル電圧が回復するまで、前記水素吸蔵合金が水素を放出する状態を維持することを特徴とする請求項2に記載の電気化学セルシステム。
【請求項18】
前記燃料極の電位を検出する第2検出手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記燃料電池に供給される水素の欠乏に起因して前記燃料極の電位が閾値以上になる場合、前記燃料極の通電状態を制御することを特徴とする請求項2に記載の電気化学セルシステム。
【請求項19】
前記制御手段は、参照極の電位を基準として前記燃料極の電位を制御するポテンショスタットを有し、
前記ポテンショスタットは、前記水素吸蔵合金が水素を放出するように、前記燃料極の電位を上昇させることを特徴とする請求項18に記載の電気化学セルシステム。
【請求項20】
請求項1に記載の電気化学セルシステムを電池の水素供給源として搭載したことを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−293778(P2008−293778A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137833(P2007−137833)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】