説明

電気化学セル

【課題】簡易な構成により、良好にエネルギー密度を維持することができ、さらには、電極の内部抵抗を抑制することのできる電気化学セルを提供すること。
【解決手段】正極2と、正極2に対して対向配置される負極3と、正極2および負極3が浸漬される電解液6とを備えるハイブリッドキャパシタ1において、正極2および/または負極3に、その厚み方向を貫通する貫通部10を備える。そして、このハイブリッドキャパシタ1では、正極2および/または負極3に、その厚み方向を貫通する貫通部10が備えられているため、電解液6の酸化分解によって発生するガスを、その貫通部10を介して除去することができる。そのため、このハイブリッドキャパシタ1によれば、良好にエネルギー密度を維持することができ、さらには、内部抵抗を低減することができ、その結果、出力特性の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに関し、詳しくは、電気化学キャパシタ、二次電池などに用いられる電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハイブリッド車両や燃料電池車両に搭載される蓄電デバイスとして、リチウムイオン電池などの二次電池、電気二重層キャパシタおよびハイブリッドキャパシタなどの電気化学キャパシタの検討および開発が進められている。
このような蓄電デバイスは、一般的に、正極と、負極と、これら電極間に介在されるセパレータと、電極およびセパレータを収容し、これらを浸漬するように電解液が満たされているセル槽とを有している。そして、各電極において、電気二重層および/または酸化還元反応により蓄電されるエネルギーが放電されることにより、蓄電デバイスの充放電が行なわれる。
【0003】
しかし、電解液として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)などのリチウム塩を、エチレンカーボネート(C)などの有機溶媒に溶解させた有機電解液を用いる場合において、正極に高電圧(例えば、4.23V vs.Li/Li以上)を印加すると、充放電サイクルにおいてフッ酸(HF)が発生し、そのHFによって、負極において、フッ化リチウム(LiF)が生成する。そして、このLiFが負極を被覆して、負極の電気容量および充放電サイクル特性の低下を生じる。その結果、蓄電デバイスに蓄えられるエネルギー密度が低下する場合がある。
【0004】
このような不具合を解決するために、例えば、セラミックスフィルタ製のセパレータと、KOH賦活ソフトカーボン、ケッチェンブラックECPおよびPTEFディスパーションを、85:5:10の重量比で配合した混合物からなる正極と、人造黒鉛、ソフトカーボンおよびPVdFを、22.5:67.5:10の重量比で配合した混合物からなる負極と、LiPFを含むエチレンカーボネート+ジエチルカーボネート溶媒からなる電解液と、LiCO粉末およびPTFEを、80:20の重量比で配合した混合物からなる捕捉剤とを備えるハイブリッドキャパシタが提案されている(例えば、特許文献1(実施例2)参照。)。
【0005】
特許文献1に記載のハイブリッドキャパシタでは、正極に高電圧(例えば、4.23V vs.Li/Li以上)を印加した場合にも、負極の劣化を抑制でき、エネルギーの高密度化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−103697号公報(実施例2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のハイブリッドキャパシタでは、とりわけ、最初の充電時において、電解液の酸化分解によってガス(例えば、COなど)が発生し、そのガスがハイブリッドキャパシタのセル内に滞留する場合がある。そのため、特許文献1に記載のハイブリッドキャパシタでは、十分な充放電耐久性を得ることができず、また、エネルギー密度を良好に維持できない場合がある。
【0008】
さらに、特許文献1に記載のハイブリッドキャパシタにおいて、ガスがハイブリッドキャパシタのセル内に滞留すると、ハイブリッドキャパシタの内部抵抗が高くなる場合があり、その結果、十分な出力特性を得ることができない場合がある。
一方、近年では、大容量のリチウムイオン電池用正極活物質として、例えば、LiMnOなど、Liを過剰に含有したリチウム遷移金属酸化物(一般式:Li1+xMe1−x(式中、Meは、単独または複数の遷移金属元素を示す。))が、提案されている。しかし、この正極活物質をリチウムイオン電池に用いる場合には、初回に高電圧を印加する必要があるため、やはり、初回の充電時に多くのガスが発生および滞留し、リチウムイオン電池が劣化するという不具合がある。
【0009】
本発明の目的は、簡易な構成により、良好にエネルギー密度を維持することができ、さらには、内部抵抗を抑制することのできる電気化学セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の電気化学セルは、正極と、前記正極に対して対向配置される負極と、前記正極および前記負極が浸漬される電解液とを備え、前記正極および/または負極は、その厚み方向を貫通する貫通部を備えることを特徴としている。
また、本発明の電気化学セルでは、前記貫通部が、電流の流れる方向に沿ってスリット状に形成されていることが好適である。
【0011】
また、本発明の電気化学セルでは、前記正極の電位が、4.23V vs.Li/Li以上であることが好適である。
また、本発明の電気化学セルでは、前記正極が、分極性カーボン材料を含有し、前記負極が、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能な材料を含有し、前記電解液が、リチウム塩を含む有機溶媒を含有することが好適である。
【0012】
また、本発明の電気化学セルでは、前記正極が、KOH賦活ソフトカーボンを含有することが好適である。
また、本発明の電気化学セルでは、前記正極と前記負極との間、前記正極内部および前記負極内部の少なくともいずれかに、前記電解液に含まれるアニオンから誘導される負極活性阻害物質を捕捉する捕捉剤を含有することが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電気化学セルでは、正極および/または負極に、その厚み方向を貫通する貫通部が備えられているため、電解液の酸化分解によって発生するガスを、その貫通部を介して除去することができる。
そのため、本発明の電気化学セルによれば、良好にエネルギー密度を維持することができる。
【0014】
また、本発明の電気化学セルでは、貫通部によってガスを除去できるため、内部抵抗を低減することができ、その結果、出力特性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の電気化学セルの一実施形態を示すハイブリッドキャパシタの概略構成図である。
【図2】丸孔状の貫通部が形成される正極および負極の正面図である。
【図3】スリット状の貫通部が形成される正極および負極の正面図である。
【図4】各実施例および比較例の充放電サイクル数とエネルギー密度の維持率との関係を示すグラフである。
【図5】各実施例および比較例の内部抵抗を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の電気化学セルの一実施形態を示すハイブリッドキャパシタの概略構成図である。
図1において、ハイブリッドキャパシタ1は、正極2と、正極2に対して間隔を隔てて対向配置される負極3と、正極2と負極3との間に介在されるセパレータ4と、正極2、負極3およびセパレータ4を収容するセル槽5と、セル槽5に貯留され、正極2、負極3およびセパレータ4が浸漬される電解液6とを備えている。なお、ハイブリッドキャパシタ1は、ラボスケールで採用される電池セルであって、工業的には、このハイブリッドキャパシタ1を、公知の技術によって適宜スケールアップしたものが採用される。
【0017】
正極2は、分極性カーボンからなる正極材料(分極性カーボン材料)を含有し、例えば、正極材料と、導電剤と、ポリマーバインダとを配合して得られる混合物からなる電極シートを、所定の形状(例えば、矩形状)に成形した後、必要により乾燥させることにより形成される。
正極材料は、例えば、カーボン材を賦活処理することにより得られる。
【0018】
カーボン材としては、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。
ソフトカーボンは、例えば、不活性雰囲気中での熱処理によって、炭素原子で構成される六角網面が、ハードカーボンの六角網面よりも相対的に規則的な積層構造(黒鉛構造)を形成しやすいカーボンの総称である。具体的には、不活性雰囲気中、2000〜3000℃、好ましくは、2500℃で熱処理されたときに、(002)面の平均面間隔d002が3.40Å以下、好ましくは、3.35〜3.40Åとなる結晶構造を形成するカーボンの総称である。
【0019】
具体的なソフトカーボンとしては、例えば、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、メソフェーズ系ピッチなどのピッチ類、例えば、石油系ニードルコークス、石炭系ニードルコークス、アントラセン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどの易黒鉛化性コークス類などの熱分解物などが挙げられる。これらは単独使用または2種以上併用することができる。
【0020】
また、ハードカーボンは、例えば、不活性雰囲気中、2500℃で熱処理されたときに、(002)面の平均面間隔d002が3.40Åを超える結晶構造を形成するカーボンの総称である。
具体的なハードカーボンとしては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フルフラール樹脂、レゾルシノール樹脂、シリコーン樹脂、キシレン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、例えば、サーマルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、チャネルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、例えば、フリュードコークス、ギルソナイトコークスなど易黒鉛化性コークスとは異なる難黒鉛化性コークス、例えば、やしがら、木粉などの植物系原料、例えば、ガラス状炭素などの熱分解物などが挙げられる。
【0021】
これらは、単独使用または併用することができる。また、これらのうち、好ましくは、ソフトカーボンが挙げられる。
賦活処理としては、例えば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)などを賦活剤として用いるアルカリ賦活処理、例えば、塩化亜鉛(ZnCl)、リン酸(HPO)などを賦活剤として用いる薬品賦活処理、例えば、二酸化炭素(CO)、空気などを賦活剤として用いるガス賦活処理、例えば、水蒸気(HO)を賦活剤として用いる水蒸気賦活処理などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、アルカリ賦活処理が挙げられ、さらに好ましくは、水酸化カリウム(KOH)を賦活剤として用いるアルカリ賦活処理(KOH賦活処理)が挙げられる。
【0022】
賦活処理は、例えば、KOH賦活処理の場合、窒素雰囲気下において、カーボン材を、例えば、500〜800℃で予備焼成し、次いで、700〜1000℃でKOHとともに焼成する。用いられるKOHの量は、例えば、カーボン材1重量部に対して、0.5〜5重量部である。
上記賦活処理によって得られる正極材料を正極2に用いたハイブリッドキャパシタでは、例えば、正極2の電位が4.23V vs.Li/Li以上となる充放電サイクルにおいて、正極2に比較的大きな不可逆容量を発現させることができる。そのため、放電過程において、より低い電位にまで正極の放電が可能となる。その結果、正極2の電気容量を拡大することができる。
【0023】
正極材料は、混合物全量に対して、例えば、固形分の重量割合が70〜99重量%の割合となるように配合される。
導電剤としては、例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
また、導電剤は、混合物全量に対して、例えば、固形分の重量割合が0〜20重量%の割合となるように配合される。つまり、導電剤は、配合しても配合しなくてもよい。
【0024】
ポリマーバインダとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、フルオロオレフィンビニルエーテル共重合体架橋ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。また、これらのうち、好ましくは、PVdFが挙げられる。
【0025】
また、ポリマーバインダは、混合物全量に対して、例えば、固形分の重量割合が1〜20重量%の割合となるように配合される。
そして、正極2を形成するには、正極材料、導電剤およびポリマーバインダを配合した混合物を、溶媒中で攪拌してスラリー(固形分:10〜60重量%)を得る。次いで、スラリーを正極側集電体8aの表面に塗工し、正極側塗工層9aを形成した後、例えば、ロールプレスを用いて加圧延伸して電極シートを得る。次いで、電極シートを所定の形状(例えば、矩形状)に裁断した後、必要によりさらに乾燥させる。これにより、正極2が得られる。
【0026】
溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性極性溶媒、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、水などのプロトン性極性溶媒、例えば、トルエン、キシレン、イソホロン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、フタル酸ジメチルなどの低極性溶媒が挙げられる。これらのうち、好ましくは、非プロトン性極性溶媒が挙げられ、さらに好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。
【0027】
正極側集電体8aとしては、例えば、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔などの金属箔が挙げられる。
正極側集電体8aの厚さは、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なるが、例えば、ラボスケールでは、10〜50μmである。
このような方法により得られる正極2の厚さおよび大きさは、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なるが、例えば、ラボスケールでは、厚さが30〜150μm(正極側集電体8aを除く厚さ(すなわち、正極側塗工層9aの厚さ)が10〜140μm)であり、また、大きさが、例えば、矩形状の場合には、長手方向長さが、例えば、10〜200mm、長手方向と直交する方向(幅方向)長さが、例えば10〜200mmである。
【0028】
負極3は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出する電極であって、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能な負極材料を含有している。
より具体的には、負極3は、例えば、負極材料と、ポリマーバインダとを配合して得られる混合物からなる電極シートを、所定の形状(例えば、矩形状)に成形した後、必要により乾燥させることにより形成される。
【0029】
負極材料としては、特に制限されないが、例えば、上記したハードカーボン、上記したソフトカーボン、グラファイトなどが挙げられる。
グラファイトとしては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン小球体、黒鉛化メソフェーズカーボン繊維、黒鉛ウィスカ、黒鉛化炭素繊維、ピッチ、コークスなどの縮合多環炭化水素化合物の熱分解物などのグラファイト系炭素材料が挙げられる。
【0030】
これらは単独使用または2種以上併用することができる。また、グラファイトは、粉末状のもの(例えば、平均粒径が25μm以下のもの)が好ましく用いられる。
そして、上記のような負極材料は、混合物全量に対して、例えば、固形分の重量割合が80〜99重量%の割合となるように配合される。
ポリマーバインダとしては、例えば、上記したポリマーバインダが挙げられ、好ましくは、PVdFが挙げられる。また、ポリマーバインダは、混合物全量に対して、例えば、固形分の重量割合が1〜10重量%の割合となるように配合される。
【0031】
また、負極の製造においては、必要により、さらに、導電剤を配合することもできる。
導電剤としては、例えば、上記した導電剤が挙げられる。また、導電剤は、混合物全量に対して、例えば、固形分の重量割合が0〜20重量%の割合となるように配合される。
そして、負極3を形成するには、例えば、まず、負極材料およびポリマーバインダを配合した混合物を、溶媒中で攪拌してスラリー(固形分:10〜60重量%)を得る。次いで、スラリーを負極側集電体8bの表面に塗工し、負極側塗工層9bを形成した後、例えば、ロールプレスを用いて加圧延伸して電極シートを得る。次いで、電極シートを所定の形状(例えば、矩形状)に裁断した後、必要によりさらに乾燥させる。これにより、負極3が得られる。
【0032】
溶媒としては、例えば、上記した溶媒が挙げられ、好ましくは、非プロトン性極性溶媒が挙げられ、さらに好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。
また、負極側集電体8bとしては、例えば、上記した金属箔が挙げられる。
負極側集電体8bの厚さは、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なるが、例えば、ラボスケールでは、10〜50μmである。
【0033】
上記のような方法により得られる負極3の厚さおよび大きさは、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なるが、例えば、ラボスケールでは、厚さが5〜70μm(負極側集電体8bを除く厚さ(すなわち、負極側塗工層9bの厚さ)が5〜60μm)であり、大きさが、例えば、矩形状の場合には、長手方向長さが、例えば、10〜200mmであり、幅方向長さが、例えば、10〜200mmである。
【0034】
セパレータ4としては、例えば、ガラス繊維、セラミックス繊維、ウィスカなどの無機繊維、例えば、セルロースなどの天然繊維、例えば、ポリオレフィン、ポリエステルなどの有機繊維などからなるセパレータが挙げられる。
また、セパレータ4の厚さおよび大きさは、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なるが、例えば、ラボスケールでは、厚さが15〜150μmであり、大きさが、例えば、矩形状の場合には、長手方向長さが、例えば、15〜220mmであり、幅方向長さが、例えば、15〜220mmである。
【0035】
電解液6は、リチウム塩を含む有機溶媒を含有しており、具体的には、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解させることにより調製される。
リチウム塩としては、ハロゲンを含むアニオン成分を有し、例えば、LiClO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiCSO、LiC17SO、LiB[C(CF−3,5]、LiB(C、LiB[C(CF)−4]、LiBF、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFCO、LiN(CFSOなどが挙げられる。なお、上式中[C(CF−3,5]は,フェニル基の3位と5位に、[C(CF)−4]はフェニル基の4位に、それぞれ−CFが置換されているものを意味する。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0036】
有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、プロピレンカーボネート誘導体、エチレンカーボネート、エチレンカーボネート誘導体、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,3−ジオキソラン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジオキソラン、リン酸トリエステル、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、1,3−プロパンスルトン、4,5−ジヒドロピラン誘導体、ニトロベンゼン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン誘導体、シドノン化合物、アセトニトリル、ニトロメタン、アルコキシエタン、トルエンなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0037】
そして、電解液6を調製するには、例えば、リチウム塩の濃度が、例えば、0.5〜5mol/L、好ましくは、1〜3mol/Lとなるように、また、電解液6中の水分量が、例えば、50ppm以下、好ましくは、10ppm以下となるように、リチウム塩を有機溶媒に溶解する。
図2は、丸孔状の貫通部が形成される正極および負極の正面図、図3は、スリット状の貫通部が形成される正極および負極の正面図である。
【0038】
このハイブリッドキャパシタ1において、正極2および/または負極3は、その厚み方向を貫通する貫通部10を備えている。
より具体的には、このハイブリッドキャパシタ1では、上記により得られた正極2、および、上記により得られた負極3のいずれか、または、それらの両方の、塗工層9(正極側塗工層9aおよび/または負極側塗工層9b)が形成される領域に、塗工層9および集電体8(正極側集電体8aおよび/または負極側集電体8b)の厚み方向を貫通する貫通部10が、形成されている。好ましくは、正極2および負極3の両方に、貫通部10が形成されている。
【0039】
正極2または負極3に形成される貫通部10の形状としては、特に制限されず、例えば、丸孔状(図2参照)、スリット状(図3参照)などが挙げられる。好ましくは、スリット状(図3参照)が挙げられる。
図2に示すように、貫通部10が丸孔状に形成される場合において、貫通部10の大きさ(直径)および数は、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なり、目的および用途に応じて適宜設定される。
【0040】
このような丸孔状の貫通部10は、例えば、金属製の針などを、正極2および/または負極3に対して、その厚み方向を貫通するように突き刺すことにより、形成される。
なお、丸孔状の貫通部10が複数形成される場合において、各貫通部10の間隔は、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なり、目的および用途に応じて適宜設定される。好ましくは、塗工層9が形成される領域の全体において、均一に形成される。
【0041】
また、図3に示すように、貫通部10がスリット状に形成される場合において、貫通部10の大きさ(長手方向長さおよび幅方向長さ)および数は、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なり、目的および用途に応じて適宜設定される。
また、このような貫通部10がスリット状に形成される場合には、貫通部10は、好ましくは、電流の流れる方向(図3における矢印E参照)に沿って延びるように形成される。
【0042】
貫通部10が、電流の流れる方向に沿ってスリット状に形成されていれば、ハイブリッドキャパシタ1の内部抵抗を低減することができ、出力特性の向上を図ることができる。
また、このようなスリット状の貫通部10は、電流の流れる方向に沿う軸線上において、連続的に形成されていてもよく、また、断続的に形成されていてもよい。
すなわち、電流の流れる方向に沿う1つの軸線上に、1つの貫通部10が連続的に形成されていてもよく(図3の実線参照)、また、複数(例えば、4つ)の貫通部10が、互いに長手方向に間隔を隔てて断続的に形成されていてもよい(図3の2点鎖線参照)。
【0043】
なお、貫通部10が複数形成される場合において、各貫通部10の幅方向における間隔、および、長手方向における間隔は、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なり、目的および用途に応じて適宜設定される。好ましくは、正極2および/または負極3の、塗工層9が形成される領域の全体において、均一に形成される。
このようなスリット状の貫通部10は、特に制限されないが、例えば、金属製の刃物によって、正極2および/または負極3を、その厚み方向を貫通するように切り込むことにより、形成される。
【0044】
このようにして、正極2および/または負極3に貫通部10を形成することにより、電解液6の酸化分解によって発生するガスを、その貫通部10を介して除去することができる。
すなわち、このハイブリッドキャパシタ1では、例えば、ハイブリッドキャパシタ1を、公知の方法によってラミネートセルとして形成した後、充電させ、その後、ラミネートセルを一度開封することにより、充電時(とりわけ、初回の充電時)に発生するガスを除去することができる。
【0045】
具体的には、例えば、上記した正極2、負極3およびセパレータ4を積層するとともに、正極2および負極3と、集電タブとを接合し、得られた積層体を、セル槽5(例えば、アルミニウム製のラミネートフィルムなど)に収容する。その後、セル槽5に電解液6を注入することにより、ラミネートセルとしてハイブリッドキャパシタ1を形成する。
そして、この方法では、得られたハイブリッドキャパシタ1を、製品として出荷する前に、1回以上(数回〜数百回)充電させ(プレサイクル)、電解液6を酸化分解させることにより、ガスを発生させる。次いで、ハイブリッドキャパシタ1のラミネートセルを一旦開封して、貫通部10を介してガスを除去し、その後、ラミネートセルを再度封止する。
【0046】
これにより、電解液6の酸化分解によって発生するガスを、ハイブリッドキャパシタ1から、貫通部10によって良好に除去することができる。
さらに、このハイブリッドキャパシタ1では、例えば、ガス捕集部をハイブリッドキャパシタ1に連通するように形成し、充電時に発生するガスを、そのガス捕集部とともに、ハイブリッドキャパシタ1から除去することもできる。
【0047】
すなわち、この方法では、例えば、上記したハイブリッドキャパシタ1を形成するとともに、その内部と連通するガス捕集部を設ける。次いで、そのハイブリッドキャパシタ1を、製品として出荷する前に、1回以上(数回〜数百回)充電させ(プレサイクル)、電解液6を酸化分解させることにより、ガスを発生させ、そのガスを、正極2および/または負極3に形成されている貫通部10を介して、ガス捕集部に導入する。そして、この方法では、ハイブリッドキャパシタ1からガスが捕集されたガス捕集部を切り離すとともに、その切り離された部分を、再度封止する。
【0048】
これにより、電解液6の酸化分解によって発生するガスを、貫通部10およびガス捕集部によって、簡易かつ確実に除去することができる。
そのため、このようなハイブリッドキャパシタ1によれば、良好にエネルギー密度を維持することができ、さらには、内部抵抗を低減することができ、その結果、出力特性の向上を図ることができる。
【0049】
そして、このハイブリッドキャパシタ1では、正極2の電位が、好ましくは、4.23V vs Li/Li以上とされる。
正極2の電位を4.23V vs Li/Li以上とするには、例えば、負極3にソフトカーボンおよび/またはハードカーボンを用いた場合には、セル電圧を3V以上で印加する。
【0050】
正極2の電位を4.23V vs Li/Li以上とすれば、ハイブリッドキャパシタ1のエネルギー密度の向上を図ることができる。
一方、このハイブリッドキャパシタ1では、正極2の電位を4.23V vs Li/Li以上などの高電位とした場合に、正極2の不可逆容量の発現に起因して、電解液6に含まれるアニオン(例えば、LiPFに含まれるPFなど)から誘導される負極活性阻害物質が生成する場合がある。
【0051】
負極活性阻害物質が生成する過程、例えば、正極2の不可逆容量の発現に起因してHFが生成する過程は、以下のように推考される。
まず、正極2および負極3に上記した所定電圧(すなわち、4.23V vs Li/Li以上)を印加すると、電解液6内では、例えば、正極2や電解液6に含まれる水分や有機物から、下記式(1)(2)に示すように、プロトン(H)が生成する。
【0052】
(1)2HO→O+4H+4e
(2)R−H→R+H+e(Rは、アルキル基)
そして、生成したプロトンが、電解液6に含まれるアニオン(例えば、LiPFに含まれるPFなど)と反応し、HFが生成する(下記式(3)参照)。
(3)PF+H→PF+HF
HFのような負極活性阻害物質は、負極3の電気容量を低下させて、ハイブリッドキャパシタ1のエネルギー密度を低下させるおそれがある。
【0053】
そのため、このハイブリッドキャパシタ1では、好ましくは、正極2と負極3との間、正極2内部および負極3内部の少なくともいずれかに、電解液6に含まれるアニオンから誘導される負極活性阻害物質を捕捉する捕捉剤を含有させる。
ハイブリッドキャパシタ1に捕捉剤を含有させることにより、例えば、正極2の不可逆容量の発現に起因して負極活性阻害物質が生成しても、その負極活性阻害物質を捕捉剤で捕捉することができる。
【0054】
捕捉剤としては、例えば、炭酸リチウム(LiCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)など、アルカリ金属の炭酸塩などが挙げられる。これらは、単独または2種以上併用することができる。また、これらのうち、好ましくは、炭酸リチウムが挙げられる。
より具体的には、例えば、捕捉剤が、正極2と負極3との間に含有(配置)される場合には、捕捉剤は、好ましくは、捕捉部材7として形成される。
【0055】
捕捉部材7は、例えば、負極活性阻害物質を捕捉するための捕捉剤と、ポリマーバインダとを加圧延伸することにより得られるシートである。
ポリマーバインダとしては、例えば、上記したポリマーバインダが挙げられ、好ましくは、PTFEが挙げられる。
そして、捕捉部材7を形成するには、例えば、まず、捕捉剤と、ポリマーバインダとを、例えば、捕捉剤:ポリマーバインダの配合割合が、固形分の重量割合で20:80〜98:2、好ましくは、50:50〜90:10となるように配合して、混合物を調製する。次いで、混合物を、例えば、ロールプレスを用いて加圧延伸して捕捉剤含有シートを得る。
【0056】
そして、捕捉剤含有シートを所定の形状(例えば、矩形状)に打ち抜いた後、必要により乾燥させる。これにより、捕捉部材7が得られる。
そして、このハイブリッドキャパシタ1では、例えば、図1に示されるように、セパレータ4として、正極2側に配置されるセパレータ4aと負極3側に配置されるセパレータ4bとを設け、これらセパレータ4aと4bとの間に、捕捉部材7を設ける。
【0057】
捕捉部材7を設けることによって、例えば、正極2の不可逆容量の発現に起因して負極活性阻害物質が生成しても、その負極活性阻害物質を捕捉部材7で捕捉することができる。また、このような捕捉部材7は、捕捉剤含有セパレータとして、セパレータを兼ねることができる。
また、このハイブリッドキャパシタ1では、例えば、捕捉部材7を形成することなく、捕捉剤として、上記の炭酸塩を、セパレータ4aとセパレータ4bとの間に配置することもできる。
【0058】
炭酸塩をセパレータ4aとセパレータ4bとの間に配置するには、例えば、粉末状の炭酸塩をセパレータ4aまたはセパレータ4bの一方の表面に添加し、当該表面と他方のセパレータ4a(4b)の表面とで、炭酸塩を挟み込む。
また、このハイブリッドキャパシタ1において、炭酸塩は、正極2および/または負極3の表面にコーティングされていてもよい。
【0059】
炭酸塩を正極2および/または負極3の表面にコーティングするには、例えば、炭酸塩および結合剤を配合した混合物を、溶媒中で攪拌混合し、それを正極2および/または負極3上に塗布後、乾燥させる。
結合剤としては、例えば、上記したポリマーバインダなどが挙げられる。
溶媒としては、例えば、上記した溶媒が挙げられ、好ましくは、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)や水が挙げられる。
【0060】
さらに、このハイブリッドキャパシタ1では、捕捉剤として、リチウム箔を用いることもできる。
リチウム箔としては、公知のリチウム箔を用いることができ、例えば、円形状、矩形状に形成される。
また、リチウム箔は、好ましくは、その表面積が正極2および負極3の表面積と略同一面積、または、より広い面積となるように形成される。リチウム箔の表面積がこのような面積であると、負極活性阻害物質(例えば、HFなど)を、効率よく捕捉することができる。
【0061】
さらに、その厚みは、例えば、0.01〜0.1mmであり、好ましくは、0.01〜0.05mmである。
また、リチウム箔には、その厚み方向に複数の孔が形成されている。このような孔が形成されることによって、電解液6が、セパレータ4aとセパレータ4bとの間を通過することができ、充放電することができる。
【0062】
なお、リチウム箔は、リチウム金属であればよく、例えば、捕捉剤として、リチウム粉末やペースト状のリチウムを設けることもできる。
また、上記したリチウム金属のほか、Si−N結合を有する化合物(例えば、ペルヒドロポリシラザン、メチルポリシラザンなど)をセル槽5内に含めることによっても、負極活性阻害物質を捕捉することができる。この場合、負極活性阻害物質は、Si−N結合を有する化合物に捕捉されて安定化する。
【0063】
また、捕捉剤が、正極2内部および/または負極3内部に含有される場合には、捕捉剤は、例えば、正極2および/または負極3の材料成分として用いられる。
すなわち、このような場合には、捕捉剤(例えば、炭酸塩、リチウム粉末など)が、正極2および/または負極3の製造工程において、正極材料または負極材料とともに配合される。これにより、捕捉剤が、正極2内部および/または負極3内部に含有される。
【0064】
そして、このような捕捉剤(捕捉部材7)は、正極2で発現する不可逆容量1mAhに対して、好ましくは、2×10−5mol〜175×10−5molの割合で含まれる。
捕捉剤の量が、このような範囲であると、より一層優れたエネルギー密度を発現することができる。
例えば、上記式(1)〜(3)を参照すると、電子1molの流れに伴い、HFが1mol生成する。すなわち、正極2で発現する不可逆容量をQ(mAh)とし、ファラデー定数を96500(C/mol)すると、ハイブリッドキャパシタ1で発生するHFの発生量MHFは、MHF=3.6×Q×F−1(mol)となる。
【0065】
また、LiCOを捕捉剤として用いた場合、下記式(4)に示すように、HFがLiCOに捕捉されて(LiCOと反応して)、LiFおよびHCOが生成する。
(4)LiCO+2HF→2LiF+HCO
上記式(4)に示すように、1molのHFを捕捉するためには、0.5molのLiCOが必要である。より具体的には、LiCOの必要量MLi2CO3は、MLi2CO3=0.5MHF=1.8×Q×F−1(mol)であり、F=96500を代入すると、MLi2CO3=2×10−5×Q(mol)である。すなわち、LiCOが、不可逆容量Q(mAh)に対して2×10−5×Qmol以上含まれることによって、HFを十分捕捉することができる。その結果、負極活性阻害物質(HF)に起因するエネルギー密度の低下を抑制できるので、より一層優れたエネルギー密度を発現することができる。
【0066】
そして、このハイブリッドキャパシタ1では、正極2および/または負極3に、その厚み方向を貫通する貫通部10が形成されているため、電解液6の酸化分解によって発生するガスを、その貫通部10を介して除去することができる。
そのため、このハイブリッドキャパシタ1によれば、良好にエネルギー密度を維持することができる。
【0067】
また、このハイブリッドキャパシタ1では、貫通部10によってガスを除去できるため、内部抵抗を低減することができ、その結果、出力特性の向上を図ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、ハイブリッドキャパシタ1を、電気二重層キャパシタやリチウムイオン電池に変更することができる。
【0068】
例えば、電気二重層キャパシタの場合には、負極および負極の材料として、例えば、活性炭が用いられる。
一方、リチウムイオン電池の場合には、正極の材料として、上記した正極2に用いられる材料の代わりに、種々の酸化物、硫化物が用いられ、例えば、二酸化マンガン(MnO)、リチウムマンガン複合酸化物(例えば、LiMn,LiMnOなど)、リチウムニッケル複合酸化物(例えば、LiNiOなど)、リチウムコバルト複合酸化物(例えば、LiCoOなど)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムマンガンコバルト複合酸化物、バナジウム酸化物(例えば、Vなど)などが用いられる。また、導電性ポリマー材料、ジスルフィド系ポリマー材料などの有機材料も用いることができる。
【0069】
そして、本発明の電気化学セルは、例えば、自動車(ハイブリッド車両など)に搭載される駆動用電池、ノートパソコン、携帯電話などのメモリバックアップ電源などの各種工業製品として、好適に用いることができる。
【実施例】
【0070】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
実施例1〜2および比較例1
1.正極の作製
メソフェーズ系ピッチ(三菱ガス化学株式会社製 AR樹脂)を大気中350℃で2時間加熱した。次いで、加熱後のピッチを、窒素雰囲気下800℃で2時間予備焼成した。これにより、ソフトカーボンを得た。得られたソフトカーボンをアルミナ製の坩堝に入れ、ソフトカーボン1重量部に対して4重量部のKOHを加えた。次いで、ソフトカーボンを、窒素雰囲気下800℃で2時間、KOHとともに焼成することにより、KOH賦活した。次いで、KOH賦活したソフトカーボンを超純水で洗浄した。洗浄は、廃液が中性になるまで行なった。これにより、KOH賦活ソフトカーボン(正極材料)を得た。洗浄後、KOH賦活ソフトカーボンを乳鉢で粉砕し、篩(32μm)で分級した。そして、ほぼ全てのKOH賦活ソフトカーボンが篩を通過できる粒径になるまで、乳鉢での粉砕操作を繰り返した。
【0071】
分級後、KOH賦活ソフトカーボン粉末と、導電剤(カーボンブラック、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク製 VXC−72R)と、ポリマーバインダ(株式会社クレハ製 PVdF)とを、固形分75:8.3:16.7の重量割合で、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶媒に投入し、室温(25℃〜30℃)で12時間攪拌することにより、混合物のスラリー(固形分:30重量%)を得た。
【0072】
次いで、得られたスラリーを厚み15μmのアルミニウム箔(正極側集電体)の表面に塗工し、80℃で12時間乾燥させて、正極側塗工層を形成した。次いで、乾燥後のアルミニウム箔を、ロールプレスで加圧延伸することにより、アルミニウム箔を除く正極側塗工層(正極活物質の塗工層)の厚さが72μmの電極シートを得た。
次いで、電極シートを、長手方向長さ(縦)46mm×幅方向長さ(横)41mmの正極側塗工層が形成されている領域と、縦14mm×横41mmの正極側塗工層が形成されていない領域(アルミニウム箔露出部)とを一体的に備える縦60mm×横41mmの矩形状に裁断し、正極を形成した。
【0073】
その後、実施例1では、この正極における正極側塗工層が形成されている領域に、金属製の針を突き刺すことによって、丸孔状の貫通部を、互いに2mmの間隔を隔てるように、均一に形成した。
また、実施例2では、この正極における正極側塗工層が形成されている領域に、金属製の刃物を用いて切り込みを入れることによって、スリット状の貫通部(長さ38mm)を、電流の流れる方向に沿って、幅方向に4mm間隔を隔てるように、互いに平行に形成した。
【0074】
また、比較例1では、正極に貫通部を形成しなかった。
2.負極の作製
人造黒鉛と、ソフトカーボンと、ポリマーバインダ(株式会社クレハ製 PVdF)とを、固形分67.5:22.5:10の重量割合で、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶媒に投入し、室温(25℃〜30℃)で12時間攪拌することにより、混合物のスラリー(固形分:40重量%)を得た。
【0075】
次いで、得られたスラリーを厚み10μmの銅箔(負極側集電体)の表面に塗工し、80℃で12時間乾燥させて、負極側塗工層を形成した。次いで、乾燥後の銅箔を、ロールプレスで加圧延伸することにより、銅箔を除く負極側塗工層(負極活物質の塗工層)の厚さが14μmの電極シートを得た。
次いで、電極シートを、縦50mm×横45mmの負極側塗工層が形成されている領域と、縦10mm×横45mmの負極側塗工層が形成されていない領域(銅箔露出部)とを一体的に備える縦60mm×横45mmの矩形状に裁断し、負極を形成した。
【0076】
その後、実施例1では、この負極における負極側塗工層が形成されている領域に、金属製の針を突き刺すことによって、丸孔状の貫通部を、互いに2mmの間隔を隔てるように、均一に形成した。
また、実施例2では、この負極における負極側塗工層が形成されている領域に、金属製の刃物を用いて切り込みを入れることによって、スリット状の貫通部(長さ42mm)を、電流の流れる方向に沿って、幅方向に4mm間隔と隔てるように、互いに平行に形成した。
【0077】
なお、比較例1では、負極に貫通部を形成しなかった。
3.捕捉剤含有セパレータの作製
炭酸リチウム(LiCO)粉末(キシダ化学社製 平均粒径85.0μm)と、ポリマーバインダ(ダイキン工業株式会社製 PTFEディスパージョン)とを、固形分80:20の重量割合で、乳鉢で混練することにより、それらの混合物を得た。
【0078】
次いで、混合物を、手動ロールプレスを用いて加圧延伸することにより、厚み30μmのセパレータシートを得た。次いで、セパレータシートを、54mm×49mmに裁断した後、乾燥機に搬入し、120℃で12時間真空乾燥した。そして、乾燥機内を窒素パージした後、捕捉剤含有セパレータを、ドライAr雰囲気のグローブボックスへ大気に触れないように搬入した。以上の操作により、捕捉剤含有セパレータを作製した。
4.セパレータの作製
厚さ50μmのセルロース製セパレータ(ニッポン高度紙製 TF40−50)を、縦54mm×横49mmの矩形状に裁断することにより、セパレータを作製した。
5.電解液の調製
LiPF(リチウム塩)を、濃度が2mol/Lとなるように、エチレンカーボネート−エチルメチルカーボネート混合溶媒(体積比1:1)に溶解することにより調製した。
6.ラミネートセルの組み立て
正極1枚、負極1枚、捕捉剤含有セパレータ1枚およびセパレータ2枚を積層した。具体的には、まず、1枚の捕捉剤含有セパレータを、2枚のセパレータで挟み、その後、積層されたセパレータの一方側に正極を、他方側に負極を、それぞれ積層した。
【0079】
次いで、正極のアルミニウム箔露出部と、シーラントが事前に溶着されたアルミニウム板(正極集電タブ)を超音波接合した。また、同様に、負極の銅箔露出部と、シーラントが事前に溶着されたニッケル板(負極集電タブ)を超音波接合した。以上の操作により、電極体を得た。次いで、電極体をアルミニウムラミネートフィルム(矩形状)で包み、3辺を熱溶着によって封止した。
【0080】
次いで、アルミニウムラミネートフィルムで包んだ電極体を、乾燥機に搬入し、120℃で12時間真空乾燥した。そして、乾燥機内を窒素パージした後、ドライAr雰囲気のグローブボックスへ大気に触れないように搬入した。
次いで、このアルミニウムラミネートフィルムで包んだ電極体をチャンバー内で減圧し、電解液を注入し、最後の4辺目を熱溶着によって封止し、常圧に戻した。以上の操作により、ラミネートセルを得た。
評価実験
1.充放電試験
上記実施例および比較例で組み立てた試験セルそれぞれに対して、以下に示す方法により充放電試験を実施した。
(1)1サイクル目
セル電圧が4.8Vに上昇するまで1mA/cmで定電流充電した。充電後、電流値が0.3mA/cmに降下するまでセル電圧を4.8Vに保持し、その後、セル電圧が2.3Vに降下するまで1mA/cmで定電流放電した。
(2)2〜6サイクル目
セル電圧が4.6Vに上昇するまで1mA/cmで定電流充電した。充電後、セル電圧が2.3Vに降下するまで1mA/cmで定電流放電した。
(3)7サイクル目以降
セル電圧が4.6Vに上昇するまで5mA/cmで定電流充電した。充電後、セル電圧が2.3Vに降下するまで5mA/cmで定電流放電した。
【0081】
この充放電試験では、上記の6サイクル目まで(プレサイクル)の充放電が完了した後、試験セルを、アルゴン雰囲気のグローブボックス内において開封し、減圧チャンバー内で減圧して、さらにその後、減圧状態において、試験セルの開封箇所のラミネートフィルムを熱融着することにより、再封止した。
2.評価
充放電試験によって得られた試験結果に基づいて、各試験セルのエネルギー密度維持率および内部抵抗を算出した。
(1)エネルギー密度の維持率の算出方法
以下の式から、プレサイクル後の充放電サイクルにおけるエネルギー密度の維持率を算出した。その結果を図4に示す。
ER=(DE/VP+N)/(DE/VP+N)=DE/DE
ER:エネルギー密度の維持率(Energy density retention)
DE:Xサイクル目の放電エネルギー量(Discharging energy)[Wh]
DE:7サイクル目の放電エネルギー量(Discharging energy)[Wh]
P+N:正極側塗工層の厚みおよび負極側塗工層の厚みの和と、塗工層面積との積(Volume)[L]
なお、上記式のVP+Nにおいて、塗工層面積としては、正極側塗工層と負極極側塗工層とで大きいほう(負極側塗工層)の塗工面積を採用した。
(2)内部抵抗の算出方法
以下の式から試験セルの内部抵抗を算出した。その結果を図5に示す。
IR=V2IR/CD/2
IR:内部抵抗(Internal resistance)[Ω・cm
2IR:休止の無い定電流充放電におけるIRドロップ(充電後、放電に切り替わる際の電圧降下)(Voltage)[V]
CD:電流密度(Current density)[A/cm
【符号の説明】
【0082】
1 ハイブリッドキャパシタ
2 正極
3 負極
4 セパレータ
5 セル槽
6 電解液
7 捕捉部材
8a 正極側集電体
8b 負極側集電体
9a 正極側塗工層
9b 負極側塗工層
10 貫通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
前記正極に対して対向配置される負極と、
前記正極および前記負極が浸漬される電解液とを備え、
前記正極および/または負極は、その厚み方向を貫通する貫通部を備えることを特徴とする、電気化学セル。
【請求項2】
前記貫通部が、電流の流れる方向に沿ってスリット状に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記正極の電位が、4.23V vs.Li/Li以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記正極が、分極性カーボン材料を含有し、
前記負極が、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能な材料を含有し、
前記電解液が、リチウム塩を含む有機溶媒を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記正極が、KOH賦活ソフトカーボンを含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記正極と前記負極との間、前記正極内部および前記負極内部の少なくともいずれかに、
前記電解液に含まれるアニオンから誘導される負極活性阻害物質を捕捉する捕捉剤を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の電気化学セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−66324(P2011−66324A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217625(P2009−217625)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】