説明

電気化学デバイス

【課題】リチウムイオン二次電池などの電気化学デバイスにおいて、ウィスカーのような針状の活物質粒子が電極に存在する場合の短絡の発生を抑制しうる手段を提供する。
【解決手段】本発明の電気化学デバイスは、正極と、セパレータに電解液が保持されてなる電解質層と、負極とがこの順に積層されてなる積層体を有する。そして、当該正極または当該負極の少なくとも一方が針状活物質粒子を含む。さらに、当該セパレータは、複数のサブセパレータからなる積層構造を有する点に特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイスに関する。特に本発明は、電気化学デバイスの信頼性を向上させるための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、全ての電池の中で最も高い理論エネルギを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダを用いて正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、バインダを用いて負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、電解質(リチウム塩)を保持したセパレータからなる電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
【0004】
ところで、リチウムイオン二次電池に関するものではないが、ナノサイズのウィスカーをレドックスキャパシタの電極材料として用いる技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。ここで、JIS H 0400によれば、「ウィスカー」とは「単結晶の微小金属繊維成長物」と定義されている。同様の発想から、ウィスカー状の材料をリチウムイオン二次電池の活物質として用いることが考えられる。しかしながら、何らの手当てもせずただ単にウィスカー状の活物質を用いて電池を構成すると、かような活物質の形状に起因して、以下のような問題が生じる。すなわち、リチウムイオン二次電池のセパレータは、1枚の樹脂製微多孔質フィルムからなるのが一般的である。かようなセパレータの有する細孔の平均孔径は通常、例えば特許文献2に開示されているように0.1〜15μm程度である。この程度の孔径の細孔を有する微多孔質フィルムからなるセパレータに、上述したウィスカー状の活物質を組み合わせて用いると、セパレータの細孔にウィスカーが入り込み、セパレータを貫通して正負極間で短絡が発生する虞があるのである。
【特許文献1】特開2005−252217号公報
【特許文献2】特開2005−268096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、リチウムイオン二次電池などの電気化学デバイスにおいて、ウィスカーのような針状の活物質粒子が電極に存在する場合の短絡の発生を抑制しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行なった。その結果、セパレータを複数のサブセパレータからなる積層構造とすることで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明の電気化学デバイスは、正極と、セパレータに電解質が保持されてなる電解質層と、負極とがこの順に積層されてなる積層体を有する。そして、当該正極または当該負極の少なくとも一方が針状活物質粒子を含む。さらに、当該セパレータは、複数のサブセパレータからなる積層構造を有する点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池などの電気化学デバイスにおいて、ウィスカーのような針状の活物質粒子が電極に存在する場合であっても、短絡の発生が抑制されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の形態のみに制限されることはない。
【0010】
本発明は、正極と、セパレータに電解質が保持されてなる電解質層と、負極とがこの順に積層されてなる積層体を有し、前記正極または前記負極の少なくとも一方が針状活物質粒子を含む電気化学デバイスであって、前記セパレータが、複数のサブセパレータからなる積層構造を有する、電気化学デバイスである。
【0011】
以下、図面を参照しながら、非水電解質リチウムイオン二次電池を例に挙げて、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書においては、説明の都合上、図面が誇張されて記載されている。従って、本発明の技術的範囲は、図面に掲示する形態のみに限定されず、図面以外の実施形態も採用されうる。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態であるリチウムイオン二次電池の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【0013】
図1に示す本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の電池要素21が、外装であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池10の電池要素21は、複数の単電池層19を含む。単電池層19は、電解質層17と、電解質層17の一方の面に形成された正極活物質層13と、電解質層17の他方の面に形成された負極活物質層15と、から構成される。そして、各正極活物質層13間には正極集電体33が配置され、各負極活物質層15間には負極集電体35が配置される。すなわち、電池要素21は、複数の単電池層19および複数の各集電体(正極集電体33および負極集電体35)から構成される。
【0015】
さらに、正極集電体33および負極集電体35は、それぞれ正極タブ25および負極タブ27に電気的に接続される。そして電池要素21は、これらの正極タブ25および負極タブ27が外部に導出するように、外装であるラミネートシート29により封止されている。
【0016】
なお、図1に示すリチウムイオン二次電池10においては、負極活物質層15が正極活物質層13よりも一回り小さいが、かような形態のみには制限されない。正極活物質層13と同じかまたは一回り大きい負極活物質層15もまた、用いられうる。
【0017】
以下、本実施形態のリチウムイオン二次電池10を構成する部材について簡単に説明するが、下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態が同様に採用されうる。
【0018】
[集電体]
集電体(33、35)は導電性の材料から構成される。集電体(33、35)を構成する材料に特に制限はない。例えば、金属や導電性高分子が採用されうる。具体的には、例えば、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、銅などの金属材料が挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス鋼、銅が好ましい。
【0019】
また、集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギ密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。
【0020】
集電体(33、35)の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
【0021】
なお、図1に示すように、複数の単電池層が積層されてなる発電要素を有する電池において最外層に位置する電極は電池反応に関与しないため、最外層に位置する集電体においては、発電要素の内側のみに活物質層が存在すればよい。
【0022】
[活物質層]
活物質層は活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
【0023】
本実施形態においては、活物質層が針状の活物質粒子を含む点が特徴の1つである。本明細書において、「針状活物質粒子」とは、活物質粒子の粒子長径(a)の粒子短径(b)に対するアスペクト比(c=a/b)が5以上の活物質粒子を意味する。なお、針状の活物質粒子は、ナノワイヤやナノロッドなどとも称される。かような活物質粒子は比表面積が大きい。従って、かような活物質を採用することで、電池の出力特性が向上しうるという利点がある。一方、アスペクト比が大きくなりすぎると、活物質層に含まれる活物質粒子の数の減少に伴って、セパレータを貫通する可能性のある粒子の先端の数も同様に減少する。かような観点のもと、本発明の作用効果をより一層発揮させうるには、上述したアスペクト比(c)は好ましくは10〜100000であり、より好ましくは20〜10000である。ただし、これらの範囲を外れても勿論よい。
【0024】
正極活物質層13に含まれる活物質の構成材料は特に制限されず、リチウムイオン二次電池の正極活物質として従来公知の材料が同様に用いられうる。正極活物質としては、例えば、LiMnやLiNiO等のリチウム−遷移金属酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。これらの材料はいずれも、電池のエネルギ密度を向上させうる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である(下記を参照)。
【0025】
負極活物質層15に含まれる活物質の構成材料についても特に制限はなく、リチウムイオン二次電池の負極活物質として従来公知の材料が同様に用いられうる。負極活物質としては、例えば、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化バナジウム等の金属酸化物、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、上述したようなリチウム−遷移金属化合物、金属材料、リチウム−金属合金材料などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である(下記を参照)。
【0026】
針状活物質粒子のサイズについて特に制限はない。ただし、針状活物質粒子の粒子長径(a)は、好ましくは0.1〜1000μmであり、より好ましくは1〜500μmであり、さらに好ましくは5〜200μmである。また、当該針状活物質粒子の粒子短径(b)は、好ましくは10nm〜10μmであり、より好ましくは20nm〜2μmであり、さらに好ましくは30〜500nmである。なお、本明細書において、針状活物質粒子のサイズは、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される活物質粒子における測定値の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0027】
場合によっては、集電体としての金属基体の表面に形成されてなるウィスカーを活物質粒子として用いてもよい。以下、かような形態について詳細に説明する。
【0028】
本形態において、集電体として機能しうる金属基体としては、例えば、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、インジウム(In)、銀(Ag)、ガリウム(Ga)、錫(Sn)、銅(Cu)、スカンジウム(Sc)またはゲルマニウム(Ge)、亜鉛(Zn)、およびこれらの任意の組み合わせに係るものが挙げられる。これらは蒸気圧の高い金属であり、これらの金属を蒸発させて金属基体の表面に析出させることで、ウィスカーが形成されうる。また、後述するように、析出時の雰囲気に酸素が存在すると、酸化物ウィスカーが形成されうる。
【0029】
さらに、自らウィスカーを形成可能な上述の材料を含まない金属基体が用いられてもよい。かような材料としては、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などが挙げられる。
【0030】
ここで、上述した金属基体の表面に形成されるウィスカーの形態としては、幹部の先端に球状頭部を有する構成や、幹部のみの構成が挙げられる。ただし、これらの他にも枝分かれ状、モール状、毛玉状などの構成であってもよい。また、ウィスカーが形成されることによって金属基体の集電体としての機能や他の製作工程が阻害されなければ、基本的に集電体としての金属基体の表面の任意の部位にウィスカーが形成されうる。
【0031】
ウィスカーの構成材料としては、例えば、上述した金属基体に含まれる金属元素またはその酸化物を主成分とする材料が例示される。かような形態によれば、ウィスカーが金属基体から連続的に形成されることとなる。また、ウィスカー形成成分が金属基材の表面部の構成材料と同じであるため、金属基体とウィスカーとの密着強度が高められ、耐久性も向上しうる。なお、本明細書において「主成分」とは、50〜100質量%程度含まれることを意味する。
【0032】
一方、金属基体の表面に、上述したウィスカーの主成分である元素を含むウィスカー形成層が配設されてもよい。かような形態によれば、金属基体にウィスカー形成成分が含まれない場合であってもウィスカーの形成が可能となる。さらに上記と同様に、ウィスカー形成成分が金属基材の表面部の構成材料と同じとなるため、金属基体とウィスカーとの密着強度が高められ、耐久性も向上しうる。
【0033】
ここで、ウィスカーの主成分である元素としては、例えば、スズ、亜鉛、インジウム、タングステン、バナジウム、シリコン、マンガン、アルミニウム、クロム、銀、ガリウム、銅、スカンジウムまたはゲルマニウム、およびこれらの任意の組み合わせに係るものが挙げられる。
【0034】
針状活物質粒子としてのウィスカーのサイズについて特に制限はない。ただし、上述したウィスカーの長さ(粒子長径(a)に相当)は、好ましくは0.1〜1000μmであり、より好ましくは1〜500μmであり、さらに好ましくは5〜200μmである。また、当該針状活物質粒子の粒子短径(b)は、好ましくは10nm〜10μmであり、より好ましくは20nm〜2μmであり、さらに好ましくは30〜500nmである。
【0035】
このように、金属基体の表面にウィスカーを形成させる手法について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、金属基体またはその前駆体を減圧下または不活性ガス雰囲気中で加熱処理することにより、金属基体の表面にウィスカーが形成されうる。この際、微量酸素の存在中で加熱処理を施すと、上述した元素の酸化物からなるウィスカーが形成される。なお、「金属基体またはその前駆体」と記載したのは、金属基体が加熱処理によって組成変化する場合を考慮したものである。ここで、「微量酸素」とは、ウィスカー原料となる元素やその含有率によって異なるが、通常は1〜1000体積ppmの酸素量である。また、加熱処理は、通常700〜1100℃の範囲で行われうる。
【0036】
また、金属基体の表面にウィスカーを形成する際、好ましくは、金属基体またはその前駆体の表面に、酸化物ウィスカーの主成分である元素を含むウィスカー形成層を配設し、このウィスカー形成層の表面に酸化物ウィスカーを形成するとよい(後述する実施例を参照)。かような形態によれば、金属基体がウィスカー形成材料を含まない場合であっても、ウィスカー形成層を金属基体の表面に配設することで、金属基体の任意の部位にウィスカーが形成されうる。
【0037】
好ましい形態においては、上述した金属元素の酸化物(例えば、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化バナジウムなど)からなるウィスカーが、同様に上述した金属基体の表面に形成されて、負極に用いられる。かような金属酸化物は活物質としての容量が大きい。このため、これらの材料を負極活物質として用いると、電池のエネルギ密度が向上しうる。なお、この際、ウィスカーが針状負極活物質粒子に相当し、金属基体が負極集電体に相当することとなる。
【0038】
正極活物質層13および負極活物質層15に含まれうる添加剤としては、例えば、バインダ、導電助剤、電解質塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等が挙げられる。
【0039】
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、合成ゴム系バインダ等が挙げられる。
【0040】
導電助剤とは、正極活物質層13または負極活物質層15の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、気相成長炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層(13、15)が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
【0041】
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(CSON)、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO等が挙げられる。
【0042】
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
【0043】
正極活物質層13および負極活物質層15中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0044】
各活物質層(13、15)の厚さについても特に制限はなく、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、各活物質層(13、15)の厚さは、2〜100μm程度である。
【0045】
[電解質層]
電解質層17は、電解質を含む層である。電解質層17に含まれる電解質(具体的には、リチウム塩)は、充放電時に正負極間を移動するリチウムイオンのキャリアーとしての機能を有する。
【0046】
そして、本実施形態のリチウムイオン二次電池において、電解質層17は電解質を保持するセパレータを有し、さらに、当該セパレータは複数のサブセパレータからなる積層構造を有する点に特徴がある。かような形態によれば、リチウムイオン二次電池などの電気化学デバイスにおいて、ウィスカーのような針状の活物質粒子が電極に存在する場合であっても、正負極活物質層間での短絡の発生が抑制されうる。
【0047】
以下、本実施形態の特徴的な構成であるセパレータについて、より詳細に説明する。
【0048】
まず、セパレータの材質について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。好ましい形態としては、セパレータを樹脂から構成する形態が挙げられる。かような形態によれば、樹脂の柔軟性に起因して、セパレータのハンドリング性に優れる。セパレータを構成しうる樹脂としては、例えば、オレフィン系のポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系のポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロースなどが挙げられる。ただし、これら以外の材料が用いられても勿論よい。
【0049】
本実施形態において、単電池層19を構成する電解質層17は、上述したように複数のサブセパレータからなる積層構造を有する。上述したように、活物質として針状活物質粒子を活物質層に含ませた場合には、単層からなるセパレータを用いると電池の製造時や使用時にセパレータを貫通して、正負極活物質層間で短絡が発生してしまうという問題がある。かような問題への対処として、単層セパレータの膜厚を増加させたり、空孔率の小さいセパレータを用いるという手法が考えられる。しかしながら、セパレータの膜厚を増加させることは、電池のエネルギ密度を低下させるため、好ましくない。また、セパレータの空孔率を一律に低下させると、電解質が十分に保持されなくなる結果、電池の電気抵抗が増大してしまうという問題がある。これに対し、本発明の構成によれば、電池の出力特性の低下を最小限に抑制しつつ、正負極活物質層間での短絡の発生を確実に防止することが可能となる。
【0050】
なお、1枚のセパレータを構成するサブセパレータの枚数に特に制限はなく、2枚以上であれば本発明の作用効果が発揮されうる。製造が容易であるという観点からは、1枚のセパレータを構成するサブセパレータの枚数は2〜7枚程度であり、好ましくは3〜5枚である。また、サブセパレータの厚さにも特に制限はないが、製造が容易であるという観点からは、好ましくは1〜20μmであり、より好ましくは2〜10μmである。複数のサブセパレータが積層されてなる構造を有するセパレータ全体の厚さについても特に制限はなく、従来公知のリチウムイオン二次電池の電解質層の厚さと同様の5〜100μm程度であればよい。
【0051】
本明細書では、以下、本発明の好ましい実施形態として、代表的な4つの実施形態を例に挙げて説明するが、下記の形態のみに本発明の技術的範囲が限定されるわけではない。
【0052】
本発明の好ましい一実施形態(実施形態(1))では、分子配向を有するサブセパレータの分子配向の方向に基づき、複数のサブセパレータの配置形態を制御する。本実施形態において、セパレータを構成するサブセパレータはそれぞれ、自身の面方向に分子配向を有する。さらに、1枚のセパレータを構成する複数のサブセパレータは、隣接するサブセパレータと分子配向が直交するように配置されている。換言すれば、複数のサブセパレータは、分子配向が90°ずつずれるように積層されている。なお、本実施形態において隣接するサブセパレータの分子配向のなす角は90°であるが、かような形態のみには限定されず、隣接するサブセパレータの分子配向が異なっていれば本発明の技術的範囲に包含される。ただし、本発明の作用効果をより一層発揮させるという観点からは、隣接するサブセパレータの分子配向の方向のなす角は、好ましくは45〜90°であり、より好ましくは60〜90°である。例えば、分子配向を有する3枚のサブセパレータを、それぞれの分子配向の方向を60°ずつずらして積層することによりセパレータを構成する形態が例示される。同様に、分子配向を有する4枚のサブセパレータを、それぞれの分子配向の方向を45°ずつずらして積層することによりセパレータを構成する形態もまた、例示される。
【0053】
ここで、針状の活物質がセパレータを貫通する場合を考えると、完全に垂直に貫通することは稀であり、ある程度の傾きを持って貫通するのが一般的である。そして、面方向に分子配向を有するセパレータに対してある程度の傾きで貫通しようとする場合には、分子配向の方向に平行か垂直かによって貫通時の応力が大幅に異なる。単層のセパレータの場合には、分子配向が存在してもその方向に平行に針状の活物質が貫通しようとすると容易に貫通してしまう虞がある。一方、本発明のセパレータを貫通しようとする場合には、必ず単層の場合と比較して大きい応力がかかる。その結果、針状活物質粒子がセパレータを貫通することが抑制され、ひいては正負極活物質層間の短絡が防止されうる。
【0054】
なお、分子配向を有するサブセパレータとしては、市販品が存在すれば当該市販品を購入して用いてもよいし、自ら作製する場合には樹脂を一軸延伸することで容易に作製することが可能である。
【0055】
本発明の他の好ましい実施形態(実施形態(2))では、サブセパレータの空孔率を制御する。本実施形態において、セパレータを構成する複数のサブセパレータのうち、正極活物質層13および負極活物質層15に隣接するサブセパレータ(以下、「サブセパレータ(A)」とも称する)は、セパレータを構成する他のサブセパレータ(以下、「サブセパレータ(B)」とも称する)よりも空孔率が小さい。かような形態によれば、空孔率の比較的小さいサブセパレータ(A)により針状活物質粒子がセパレータを貫通することが防止される。また、空孔率の比較的大きいサブセパレータ(B)によって電解質が十分に保持され、電池の優れた出力特性が維持されうる。
【0056】
本実施形態において、サブセパレータの空孔率の具体的な値について特に制限はない。一例を挙げると、針状活物質粒子の貫通を効果的に抑制するという観点からは、サブセパレータ(A)の空孔率は、好ましくは10〜30%であり、より好ましくは15〜25%である。一方、サブセパレータ(B)の空孔率は、好ましくは30%超70%以下であり、より好ましくは40〜65%である。サブセパレータ(B)の空孔率が30%超であれば、セパレータに電解質が十分に保持されうる。また、サブセパレータ(B)の空孔率が70%以下であれば、電池要素21としてラミネートシート29の内部に真空パックされた際の応力にも十分耐えうる。
【0057】
なお、セパレータを構成するサブセパレータの空孔率を上述した範囲内の値とするには、所望の空孔率を有する樹脂製微多孔質フィルムの市販品を用いてもよいし、突刺やプレスなどの手法によって自ら所望の空孔率を有する樹脂製微多孔質フィルムを作製してもよい。
【0058】
本発明のさらに他の好ましい実施形態(実施形態(3))では、サブセパレータの屈曲度を制御する。本実施形態において、セパレータを構成する複数のサブセパレータのうち、正極活物質層13および負極活物質層15に隣接するサブセパレータ(サブセパレータ(A))は、セパレータを構成する他のサブセパレータ(サブセパレータ(B))よりも屈曲度が大きい。かような形態によれば、屈曲度の比較的大きいサブセパレータ(A)により針状活物質粒子がセパレータを貫通することが防止される。また、屈曲度が大きくなると2乗で電池の電気抵抗を増加させる方向に影響する。このため、セパレータの内部に位置するサブセパレータ(B)の屈曲度については小さい値としておくことで、電池の電気抵抗の増大が防止され、電池の優れた出力特性が維持されうる。
【0059】
なお、「屈曲度」とは、微細孔の複雑さを表す指標として知られており、同形状のバルク電解液との伝導率の比として定義される。屈曲度が1に近ければ、細孔がほぼ直線的に開いており(針状活物質粒子は貫通し易い)、屈曲度が大きいほど細孔が曲がりくねった形状を有している(針状活物質粒子は貫通し難い)ことが定性的に表される。
【0060】
本実施形態において、サブセパレータの屈曲度の具体的な値について特に制限はない。一例を挙げると、針状活物質粒子の貫通を効果的に抑制するという観点からは、サブセパレータ(A)の屈曲度は、好ましくは2〜5であり、より好ましくは2.5〜4である。サブセパレータ(A)の屈曲度が2以上であれば、針状活物質粒子がセパレータを貫通することが効果的に抑制される。また、サブセパレータ(A)の屈曲度が5以下であれば、電池の電気抵抗の増大が抑制されうる。一方、サブセパレータ(B)の屈曲度は、好ましくは1以上2未満であり、より好ましくは1〜1.5である。サブセパレータ(B)の屈曲度が2未満であれば、電池の電気抵抗の増大が抑制されうる。
【0061】
なお、セパレータを構成するサブセパレータの屈曲度を上述した範囲内の値とするには、所望の屈曲度を有する樹脂製微多孔質フィルムの市販品を用いてもよいし、微細な針などによる突刺などの手法によって自ら所望の屈曲度を有する樹脂製微多孔質フィルムを作製してもよい。
【0062】
本発明のさらに他の好ましい実施形態(実施形態(4))では、セパレータを構成する複数のサブセパレータのうち、正極活物質層13および負極活物質層15に隣接するサブセパレータ(サブセパレータ(A))の、それぞれ正極活物質層13または負極活物質層15に隣接する面に、当該サブセパレータ(A)の構成材料よりも硬度の大きい高硬度物質が配置されている。かような形態によれば、セパレータの表面に配置された高硬度物質によって針状活物質粒子がセパレータを貫通することが防止される。ここで、セパレータ自体の硬度を増加させて針状活物質粒子の貫通を防止することも考えられるが、かような形態ではセパレータのハンドリング性が低下する虞がある。これに対し、本実施形態の構成によれば、セパレータのハンドリング性の低下を招くことなく、針状活物質粒子の貫通が効果的に抑制されうる。
【0063】
なお、本発明において「硬度」とは、ビッカース硬度(Hv)を意味し、「高硬度物質」とは、ビッカース硬度(Hv)が1000以上の物質を意味する。サブセパレータ(A)の表面に配置される高硬度物質の具体的な形態については、針状活物質粒子の貫通を抑制でき、電池の作動に悪影響を及ぼさない限り特に制限はない。高硬度物質の一例としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、セリア、マグネシア、カルシア、イットリアなどが挙げられるが、これらに限定されない。ここで、高硬度物質の硬度は針状活物質粒子の硬度よりも大きいことが好ましい。なお、針状活物質粒子の硬度は一般的に、Hv500程度である。また、上記で具体的に列挙した高硬度物質の硬度はいずれも、Hv1000以上である。
【0064】
高硬度物質の配置量については、針状活物質粒子の貫通を抑制でき、電池の作動に悪影響を及ぼさない限り特に制限はない。好ましくは、サブセパレータ(A)の表面の面積に対して0.1〜10mg/cm程度の量の高硬度物質が配置される。
【0065】
高硬度物質の配置形態についても特に制限はない。一例としては、上述した高硬度物質の粉末を適当な溶媒に分散させ、これをサブセパレータ(A)の表面に塗布し、溶媒を蒸発させて高硬度物質を含む層を形成するという形態が例示される。ここで、高硬度物質の粒子径は1〜50μm程度とすればよい。また、高硬度物質を含む層の形成に用いられうる溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アセトニトリル、水などが挙げられる。必要に応じて、バインダを溶媒中に添加してもよい。用いられうるバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、メチルセルロースなどが挙げられる。
【0066】
以上、正極活物質層13および負極活物質層15の双方にそれぞれ針状活物質粒子が含まれる形態を例に挙げて本発明の好ましい4つの実施形態を説明した。ただし、正極活物質層または負極活物質層のいずれか一方のみに針状活物質粒子が含まれる場合には、針状活物質粒子の貫通を防止できるように適宜変更を加えて実施可能である。
【0067】
電解質層17において、セパレータに保持される電解質に特に制限はなく、液体電解質、および子ゲル電解質などが適宜用いられうる。
【0068】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として用いられる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)などのカーボネート類が挙げられる。また、支持塩(リチウム塩)としては、LiN(SO、LiN(SOCF、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSOCFなどの電極の活物質層に添加されうる化合物を同様に用いることができる。
【0069】
一方、ゲル電解質は、リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体などが挙げられる。かようなマトリックスポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。ゲル電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発揮しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合などの重合処理を施せばよい。なお、上記電解質は電極の活物質層中に含まれてもよい。
【0070】
[タブ]
リチウムイオン二次電池10においては、電池外部に電流を取り出す目的で、集電体(33、35)に電気的に接続されたタブ(正極タブ25および負極タブ27)が外装であるラミネートシート29の外部に取り出される。具体的には、正極集電体33に電気的に接続された正極タブ25と、負極集電体35に電気的に接続された負極タブ27とが、外装の外部に取り出される。
【0071】
タブ(正極タブ25および負極タブ27)を構成する材料は特に制限されず、リチウムイオン二次電池用のタブとして従来用いられている公知の材料が用いられうる。タブの構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等が例示される。なお、正極タブ25と負極タブ27とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。また、本実施形態のように、別途準備したタブ(25、27)を集電体(33、35)に接続してもよいし、集電体を延長することによりタブとしてもよい。
【0072】
[正極および負極端子リード]
必要に応じて、正極端子リードおよび負極端子リードを用いてもよい。例えば、各集電体から出力電極端子となる正極タブおよび負極タブを直接取り出す場合には、正極端子リードおよび負極端子リードは用いなくてもよい。
【0073】
正極端子リードおよび負極端子リードとしては、従来公知のリチウムイオン電池で用いられる端子リードが用いられうる。なお、ラミネートシート29から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器など)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0074】
[外装]
リチウムイオン二次電池10においては、使用時の外部からの衝撃や環境劣化を防止するために、電池要素21は、ラミネートシート29などの外装内に収容されることが好ましい。外装としては特に制限されず、従来公知の外装が用いられうる。自動車の熱源から効率よく熱を伝え、電池内部を迅速に電池動作温度まで加熱しうる点で、好ましくは、熱伝導性に優れた高分子−金属複合ラミネートシート等が用いられうる。
【0075】
なお、上述した本発明の実施形態のリチウムイオン二次電池10の製造方法については特に制限はなく、電池の製造分野において従来公知の知見を参照して、製造されうる。
【0076】
また、本発明の電気化学デバイスがリチウムイオン二次電池である場合に、当該電池は双極型電池であってもよい。
【0077】
図2に本発明の一実施形態である双極型電池の全体構造を模式的に表した断面概略図を示すが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0078】
図2に示すように、本実施形態の双極型電池10’の電池要素21は、集電体11の一方の面に正極活物質層13が形成され他方の面に負極活物質層15が形成された複数の双極型電極を有する。各双極型電極は、電解質層17を介して積層されて電池要素21を形成する。この際、一の双極型電極の正極活物質層13と前記一の双極型電極に隣接する他の双極型電極の負極活物質層15とが電解質層17を介して向き合うように、各双極型電極および電解質層17が積層されている。
【0079】
隣接する正極活物質層13、電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。従って、双極型電池10’は、単電池層19が面を介して電気的に直列に接続されてなる構成を有するともいえる。よって、図1に示す形態の並列接続型の電池と比較して、高出力が得られうる。なお、電池要素21の最外層に位置する集電体(最外層集電体)(11a、11b)には、片面のみに、正極活物質層13(正極側最外層集電体11a)または負極活物質層15(負極側最外層集電体11b)のいずれか一方が形成されている。
【0080】
さらに、図2に示す双極型電池10’では、正極側最外層集電体11aが延長されて正極タブ25とされ、外装であるラミネートシート29から導出している。一方、負極側最外層集電体11bが延長されて負極タブ27とされ、同様にラミネートシート29から導出している。
【0081】
[絶縁層]
双極型電池10’においては、通常、各単電池層19の周囲に絶縁層31が設けられる。この絶縁層31は、電池内で隣り合う集電体11同士が接触したり、電池要素21における単電池層19の端部の僅かな不揃いなどに起因する短絡が起こったりするのを防止する目的で設けられる。かような絶縁層31の設置により、長期間の信頼性および安全性が確保され、高品質の双極型電池10’が提供されうる。
【0082】
絶縁層31を構成する材料としては、絶縁性、固体電解質の脱落に対するシール性や外部からの水分の透湿に対するシール性(密封性)、電池動作温度下での耐熱性などを有するものであればよく、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ゴムなどが用いられうる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、作り易さ(製膜性)、経済性などの観点から、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂が、絶縁層31の構成材料として好ましく用いられる。
【0083】
(蓄電モジュール;組電池)
上述したリチウムイオン二次電池(10、10’)は、複数電気的に接続されて、蓄電モジュールである組電池とされてもよい。
【0084】
図3は、本発明の一実施形態である組電池を示す斜視図である。
【0085】
図3に示すように、組電池40は、上記のリチウムイオン二次電池(10、10’)が複数個接続されることにより構成される。各リチウムイオン二次電池の正極タブおよび負極タブがバスバーを用いて接続されることにより、各リチウムイオン二次電池が接続されている。組電池40の一の側面には、組電池40全体の電極として、電極ターミナル(42、43)が設けられている。
【0086】
組電池を構成する複数個のリチウムイオン二次電池を接続する際の接続方法は特に制限されず、従来公知の手法が適宜採用されうる。例えば、超音波溶接、スポット溶接などの溶接を用いる手法や、リベット、カシメなどを用いて固定する手法が採用されうる。かような接続方法によれば、組電池の長期信頼性が向上しうる。
【0087】
本発明の組電池によれば、上記のリチウムイオン二次電池を用いて組電池化することで、長期信頼性に優れる組電池が提供されうる。
【0088】
なお、組電池を構成する電池の接続は、複数個全て並列に接続してもよく、また、複数個全て直列に接続してもよく、さらに、直列接続と並列接続とを組み合わせてもよい。
【0089】
[車両]
上述した電池や組電池(蓄電モジュール)は、車両に搭載されうる。車両に搭載された電池は、例えば、車両のモータを駆動する電源として用いられうる。
【0090】
電池または組電池をモータ用電源として用いる車両としては、例えば、ガソリンを用いない完全電気自動車、シリーズハイブリッド自動車やパラレルハイブリッド自動車などのハイブリッド自動車、および燃料電池自動車などの、車輪をモータによって駆動する自動車が挙げられる。場合によっては、二輪車、列車などの他の輸送機器用の電源として採用されてもよい。
【0091】
参考までに、図4に、組電池40を搭載する自動車50の概略図を示す。自動車50に搭載される組電池40は、上記で説明したような特性を有する。このため、自動車50に組電池40を搭載することで、自動車50の長期信頼性が向上しうる。
【0092】
以上、リチウムイオン二次電池を例に挙げて、本発明の電気化学デバイスを詳細に説明したが、本発明は他の電気化学デバイスにも適用可能である。例えば、電気二重層キャパシタやレドックスキャパシタなどのキャパシタにも適用可能である。また、上述した針状活物質粒子の表面に白金等の触媒成分を担持し、これを触媒層として用いることで、本発明は燃料電池にも適用可能である。
【実施例】
【0093】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例に示す形態のみに制限されるわけではない。
【0094】
<実施例1>実施形態(1)に対応
以下の手法により、集電体としての金属基体の表面に針状活物質粒子であるウィスカーが形成されてなる電極を作製した。
【0095】
まず、集電体としての金属基体として、ニッケル基板(厚さ:100μm)を準備した。次いで、このニッケル基板の一方の表面にスズめっき処理を施し、スズめっき層(厚さ:20μm)を形成した。その後、このスズめっきニッケル基板を、100%アルゴン雰囲気下で800℃まで昇温し、昇温後100体積ppmの酸素雰囲気下で1時間維持して、基板上にスズ酸化物の針状結晶(ウィスカー)を成長させた。得られたウィスカーを走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した写真(倍率:1000倍)を図5に示す。このようにして得られたウィスカー形成基板をφ16mmで打ち抜き、負極とした。なお、基板上に形成されたウィスカーのアスペクト比は約2000であった。
【0096】
一方、正極活物質であるマンガン酸リチウム(LiMn)(粒子径:1μm、85質量%)、導電助剤であるアセチレンブラック(10質量%)およびバインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)(5質量%)を混合し、次いでスラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して、正極活物質スラリーを調製した。
【0097】
一方、正極用の集電体として、アルミニウム箔(厚さ:20μm)を準備した。準備した集電体の一方の表面に、上記で調製した正極活物質スラリーをドクターブレード法により塗布し、塗膜を形成させた。次いでこの塗膜を乾燥させて、正極活物質層(厚さ:30μm)を形成した。その後、得られた積層体をφ15mmで打ち抜き、正極とした。
【0098】
一軸延伸ポリプロピレン微多孔質膜(厚さ:8μm、空孔率:60%、屈曲度:1.7)からなるサブセパレータを3枚積層して、セパレータとした。この際、それぞれのサブセパレータの分子配向の方向が90°ずつずれるように積層を行なった。なお、セパレータについてはφ18mmで打ち抜いたものを用いた。
【0099】
電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との等体積混合液にリチウム塩であるLiPFを1mol/Lの濃度に溶解させた溶液を調製した。
【0100】
上記で作製した正極、セパレータおよび負極を、正極活物質層および負極活物質層(ウィスカーが形成された側)が向き合うようにこの順に積層し、上記で調製した電解液をセパレータに注入して電池要素を作製した。得られた電池要素を2032型コインセル中に封止して、本実施例の電池を完成させた。
【0101】
<実施例2>実施形態(2)に対応
一軸延伸ポリプロピレン微多孔質膜(サブセパレータ(B)、厚さ:8μm、空孔率:60%、屈曲度:1.7)の両面に、一軸延伸ポリプロピレン微多孔質膜(サブセパレータ(A)、厚さ:8μm、空孔率:30%、屈曲度:1.9)がそれぞれ積層されてなるセパレータを用いたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、本実施例の電池を完成させた。なお、3枚のサブセパレータの分子配向の方向が揃うように積層を行なった。
【0102】
<実施例3>実施形態(3)に対応
一軸延伸ポリプロピレン微多孔質膜(サブセパレータ(B)、厚さ:8μm、空孔率:60%、屈曲度:1.7)の両面に、一軸延伸ポリプロピレン微多孔質膜(サブセパレータ(A)、厚さ:8μm、空孔率:50%、屈曲度:2.5)がそれぞれ積層されてなるセパレータを用いたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、本実施例の電池を完成させた。なお、3枚のサブセパレータの分子配向の方向が揃うように積層を行なった。
【0103】
<実施例4>
一軸延伸ポリプロピレン微多孔質膜(厚さ:8μm、空孔率:60%、屈曲度:1.7)が3枚積層されてなるセパレータを用いたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、本実施例の電池を完成させた。なお、3枚のサブセパレータの分子配向の方向が揃うように積層を行なった。
【0104】
<比較例>
一軸延伸ポリプロピレン微多孔質膜(厚さ:24μm、空孔率:60%、屈曲度:1.7)をそのまま単層のセパレータとして用いたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、本比較例の電池を完成させた。
【0105】
<評価>
上述した各実施例および比較例について、それぞれ10個ずつの電池を作製した。そして、それぞれの電池を4Vに保持した状態で1日間放置し、その際の電圧降下を測定した。その結果を下記の表1に示す。表1では、実施例/比較例ごとに、10個の電池の電圧降下の値が範囲を区切って分類されている。
【0106】
【表1】

【0107】
表1に示す結果から、本発明によれば、負極活物質としてウィスカー形状の針状活物質粒子を用いた場合であっても、電池電圧の低下(すなわち、出力特性の悪化)が抑制されうることが示される。これは、セパレータを積層構造とすることで、ウィスカーのセパレータの貫通が抑制され、単電池層の内部における微小短絡が防止されたことによるものと考えられる。また、特に実施形態(1)〜(3)のような形態とすることで、上述の効果がより一層顕著に発現することも示される。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の一実施形態であるリチウムイオン二次電池の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【図2】本発明の一実施形態である双極型電池の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【図3】本発明の一実施形態である組電池を示す斜視図である。
【図4】図3に示す組電池を搭載する自動車の概略図である。
【図5】実施例1で得られたウィスカーを走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した写真(倍率:1000倍)である。
【符号の説明】
【0109】
10 リチウムイオン二次電池、
10’ 双極型リチウムイオン二次電池、
11 集電体、
11a、11b 最外層集電体、
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 電解質層、
19 単電池層、
21 電池要素、
25 正極タブ、
27 負極タブ、
29 ラミネートシート、
31 絶縁層、
33 正極集電体、
35 負極集電体、
40 組電池、
42、43 電極ターミナル、
50 自動車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、セパレータに電解質が保持されてなる電解質層と、負極と、がこの順に積層されてなる積層体を有し、前記正極または前記負極の少なくとも一方が針状活物質粒子を含む電気化学デバイスであって、
前記セパレータが、複数のサブセパレータからなる積層構造を有する、電気化学デバイス。
【請求項2】
前記針状活物質粒子の粒子長径(a)の粒子短径(b)に対するアスペクト比(c=a/b)が10〜100000である、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
前記セパレータの積層方向に隣接する任意の2つのサブセパレータが、当該サブセパレータの略面方向の分子配向をそれぞれ有し、かつ、当該2つのサブセパレータの分子配向の方向が異なる、請求項1または2に記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
前記2つのサブセパレータの分子配向の方向のなす角が45〜90°である、請求項3に記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
前記針状活物質粒子を含む前記正極または前記負極に隣接するサブセパレータ(A)は、セパレータを構成する他の少なくとも1つのサブセパレータ(B)よりも空孔率が小さい、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項6】
前記サブセパレータ(A)の空孔率が10〜30%であり、前記サブセパレータ(B)の空孔率が30%超70%以下である、請求項5に記載の電気化学デバイス。
【請求項7】
前記針状活物質粒子を含む前記正極または前記負極に隣接するサブセパレータ(A)は、セパレータを構成する他の少なくとも1つのサブセパレータ(B)よりも屈曲度が大きい、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項8】
前記サブセパレータ(A)の屈曲度が2〜5であり、前記サブセパレータ(B)の屈曲度が1以上2未満である、請求項7に記載の電気化学デバイス。
【請求項9】
前記針状活物質粒子を含む前記正極または前記負極に隣接するサブセパレータ(A)の、前記正極または前記負極に隣接する面に、当該サブセパレータ(A)の構成材料よりも硬度の大きい高硬度物質が配置されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項10】
前記高硬度物質の硬度が前記針状活物質粒子の硬度よりも大きい、請求項9に記載の電気化学デバイス。
【請求項11】
前記セパレータの構成材料が樹脂である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項12】
非水電解質二次電池である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項13】
リチウムイオン二次電池である、請求項12に記載の電気化学デバイス。
【請求項14】
前記負極が、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化タングステン、および酸化バナジウムからなる群から選択される1種または2種以上の金属酸化物からなるウィスカーを針状活物質粒子として含む、請求項12または13に記載の電気化学デバイス。
【請求項15】
キャパシタである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれか1項に記載の電気化学デバイスを用いた蓄電モジュール。
【請求項17】
請求項11〜15のいずれか1項に記載の電気化学デバイス、または請求項16に記載の蓄電モジュールを搭載した車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−33968(P2010−33968A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196956(P2008−196956)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】