説明

電気化学電池のスマート管理システム

本発明は、電気化学電池のスマート管理システムであって、電池の内部状態を推定する方法を使用し、かつ電気化学電池の動作時に電気化学電池を管理し、特に直接測定できない電池の特性を推定する数学的モデルを用いるシステムに関する。ハイブリッド車両および電気車両に関する用途では、最も重要な内部特性は充電状態(SoC)、健全状態(SoH)、および熱状態である。内部特性の再構成は、電池の数学的モデルを使用することによって行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接測定することのできない、電池型の電気化学システムの特性を推定する方法の使用に関する。この方法によって、電気化学電池を、特にハイブリッド車両または電気車両における動作時に管理することができる。
【0002】
電気化学電池は、ハイブリッド車両または電気車両の最も重要な構成部材の1つである。車両の円滑な動作は、様々な動的負荷レベル同士の間の折り合いを最適化して電池を動作させることが目的であるスマート電池管理システム(BMS)に基づいて実現される。BMSには、充電状態(SoC)、健全状態(SoH)、および熱状態(T)についての厳密で信頼できる知識が必須である。
【0003】
電池の充電状態(SoC)は、その利用可能な容量(その公称容量の割合として表される)である。SoCが分かると、どのくらいの間電池が一定の電流でエネルギーを供給し続けることができるか、またはどのくらいの間電池がエネルギーを吸収することができるかを推定することができる。この情報は、車両全体の動作と、特に車両の構成部材同士の間の管理とを条件付けるものである。
【0004】
電池が持続している間、電池の性能は、使用中に生じる物理的および化学的変化のために、電池が使用不能になるまで徐々に低下していく傾向がある。健全状態(SoH)は、再充電後の利用可能な容量であり(Ahで表される)、したがって、電池のライフサイクルにおいて到達した点の測定値である。
【0005】
電池の熱状態はその性能を条件付けるものである。なぜなら、電気化学システムに関与する化学反応および輸送現象は熱的に活性化されるからである。初期熱状態は、通常−40℃から+40℃の間の広い温度範囲内で動作させられる可能性のある車両の外部の温度に関連している。動作中の熱状態は、充電条件および放電条件の下での電池ドロー、電池の構成、および電池の周囲環境に応じて変化する。
【0006】
したがって、電池のSoC、SoH、および熱状態Tをより厳密にかつ確実に推定することにはいくつかの利点がある。この推定によって、車両監視装置が電池のエネルギーポテンシャルの使用に関して過度に慎重に振る舞うかまたは過度に不注意に振る舞うのを防止することができる。また、電池のセーフティオーバーサイジングを回避し、したがって車載重量を少なくし、それによって消費燃料を節約することができ、さらに、車両の総コストを減らすことができる。したがって、正確な推定装置は、車両の全動作範囲にわたって効率的かつ確実な電池容量の使用を可能にする。
【0007】
本発明は、特に、直接測定することのできない参照モデルの電池の特性を推定することから成る、(電池型の)再充電可能な電気化学システムの内部状態を推定する方法の使用に関する。この方法は、従来の手段によって容易に得られる測定値を使用して、有利なことに電池自体の動作と同期的(リアルタイム)に使用することができる電池の数学的モデルによって電池の内部状態を再構成することから成る。特に、この方法では、ハイブリッド車両および電気車両に対する用途についての最も重要な内部特性である電気化学電池の充電状態(SoC)、健全状態(SoH)、および熱状態を推定することができる。
【0008】
この方法は、特に、ハイブリッド車両の車載制御およびエネルギー管理に簡略的に使用することのできる参照モデル(縮小モデル)を導くことを含んでよい。
【0009】
本発明は、動作時の電池のエネルギーおよび熱管理用のスマートシステムに関する。
【0010】
本発明の他の目的は、上記の方法を使用する電池充電器/放電器である。
【0011】
上記の方法は、管理システムに属する電気化学システムの熱状態のシミュレータで使用することもできる。
【背景技術】
【0012】
クーロンカウンティングまたはブックキーピングと呼ばれるSoC推定方法が当技術分野で公知であるが、自己放電などの現象を無視することによって推定誤差が生じる。
【0013】
SoCインジケータとしての非負荷電圧測定も公知の方法である。たとえば内部抵抗の推定のような他のインジケータの使用(米国特許第6191590B1号、ヨーロッパ特許第1835297A1号)も公知の方法である。
【0014】
後者の2つの方法は、SoCが最初に、静的マッピングまたは分析的機能依存性によって、測定可能であるかまたは容易に評価可能な1つ以上の数量に関連付けられることを特徴としている。しかし、これらの依存性は、実際には、SoC推定誤差を度々生じさせる、通常BMSで考慮される依存性よりずっと複雑である。
【0015】
潜在的により有望な方法は、SoCによってパラメータ化される物理量のインピーダンス分光法(EIS)によって測定される測定値に基づく方法である。たとえば、米国特許出願第2007/0090843号は、容量/誘導遷移に関連する周波数f±をEISによって求めることを示唆している。周波数f±とSoCとの相関関係が、鉛電池、Ni−Cd電池、およびNi−MH電池について示されている。
【0016】
同様な手法として、Cadex Electroics Companyによって出願された米国特許第6778913B2号に記載されたように、構成部材がSoCによってパラメータ化される等価電気回路によるEISスペクトルのモデル化に基づく手法があり、この手法では、酸−鉛の対の多周波数電気化学インピーダンス分光法に基づく自動車電池テスタSpectro CA−12を開発することができる。EISスペクトルが等価電気回路によって近似され、構成部材の変化がSoCによってパラメータ化される。同様に、K.S. Champlinによって出願された米国特許第6037777号は、鉛電池または他のシステムの複素インピーダンス/アドミッタンスの実部および虚部を測定することによって充電状態および他の電池特性を判定する。
【0017】
他の手法として、他の分野で公知の推定技法を使用するために数学的電池モデルに基づいて行われる手法がある。米国特許出願第2007/0035307A1号は、特に、数学的電池モデルを使用して動作データ(電圧U、電流I、T)から電池の状態変数およびパラメータを推定する方法を記載している。この数学的モデルは、複数の数学的サブモデルを有し、かつより高速の応答を可能にすることを特徴としている。サブモデルは、制限された周波数範囲に関連するRCモデルと呼ばれる等価電気回路型のモデルである。
【0018】
RCモデルの使用は、RCモデルの開発を支援する働きをする電極でのおよび電解液中の電気化学現象および物理現象を記載したヨーロッパ特許第880710号(Philips)にも記載されており、この場合、電池の温度が、外部測定値に対して正確さが増すようにモデルによってシミュレートされる。
【0019】
RC型のモデルでは、SoCは常に、他の変数をパラメータ化するためにのみ導入される。SoC自体は、電気化学変数として述べられてはいない。
【0020】
文献([Gu、Whiteなど])で公知の他のSoC推定方法は、電気化学システムの反応についての数学的な説明に基づく方法である。SoCはシステムの状態の変数から算出される。この説明は、電荷、エネルギー、物質収支、および半経験的相関に基づいている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、(電池型の)再充電可能な電気化学システムの内部状態を推定する方法であって、
・再充電可能な電気化学システムの物理量を表す少なくとも1つのパラメータの少なくとも1つの入力信号を測定することと、
・少なくとも以下のことを含むシステムの参照モデルを確立することと、
・界面濃度を考慮した、各電極と電解液との間の界面で生じる電気化学反応の反応速度論の数学的表現、
・各電極での電荷の空間的蓄積の電気的表現、
・固相および液相(電解液)での電荷の収支、
・システムのすべての相における物質収支、
・電池の温度を算出するシステムのエネルギー収支、
・計算から導かれる少なくとも1つの出力信号を生成することと、を含む方法の使用に関する。
【0022】
有利なことに、界面濃度および局所濃度C=f(x,T)が、電気化学システムにおける各活性種に区別される。
【0023】
有利なことに、電気化学システムの電位および/または充電状態および/または温度は出力信号として記録される。
【0024】
一実施態様では、参照モデルは、電気化学システムの各領域における各活性種に局所濃度を平均濃度c=f(f)で置き換えることによってシステムの縮小モデルを得るように導かれる。
【0025】
有利なことに、縮小モデルを使用する方法では、電気化学システムの健全状態が出力信号として記録される。
【0026】
本発明は、電気化学電池のスマート管理システムであって、
・電池上の測定手段に接続され、電池の物理量を表す少なくとも1つのパラメータの入力値を受け取るようになっている入力手段と、
・この方法によって縮小モデルを使用して算出された少なくとも1つの特性の少なくとも1つの出力信号を生成する処理手段と、
・電池の物理量に関する情報を与え、かつ/あるいは処理および/または比較手段の出力信号に応答して電池の充電/放電および/または冷却を制御する情報/制御手段と、を有するシステムに関する。
【0027】
処理手段は、再帰フィルタを有することが好ましい。
【0028】
上記管理システムは、ハイブリッド車両の車載制御およびエネルギー管理に使用することができる。
【0029】
本発明は、上記の管理システムを有する電池充電器/放電器にも関する。
【0030】
本発明は、上記の方法を使用し、かつスマート管理システムに属する電池の熱状態のシミュレータにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1から図8は、非制限的な例によって本発明を示す、Ni−MH電池に関する図である。ただし、本発明によるモデルは任意の電気化学システムに適用することができる。
【図1】Ni−MH電池セルを概略的に示しており、ここで、MH−elは金属水素化物ベースの多孔性負電極であり、Ni−elはニッケルベースの多孔性正電極であり、ReGはガス保存室であり、Sepは2つの電極を電気的に絶縁するセパレータであり、Colは電流コレクタであり、xは行なわれている方向である。電流の流れがあるときの2つの電極間のイオン伝導を確保するために、電極およびセパレータに濃縮アルカリ溶液が含浸させられる。電池の充電時に放出させることのできるガス(酸素)は、セルの上方の共通の空間内で濃縮させられる。
【図2】この方法で使用されるモデルの考えられるフローシートを表す図であり、図中の略語は以下の意味を有する。EBV:バトラー−ボルマー式、式(4)〜式(8)(電気化学反応速度論)(1):I、(2):J1、(3):J2、(4):J3、(5):J4;BCh:荷電収支;(6):ΔФpos、(7):ΔФneg;BMa:物質収支;(8):cn、(9):cm、(10):po;(11):V、(12):q;Ech:充電状態;BEn;エネルギー収支、(13):T。セル端子の所の電流はモデルの入力とみなされ、一方、電圧はモデルの出力の1つである。入力信号、電流、および温度は、電池上で測定される物理量を表す。バトラー−ボルマー式、荷電収支、物質収支、およびエネルギー収支に基づく処理手段は、入力信号に基づいて電池の状態を算出し、かつ処理手段は、電位、充電状態、および温度のような、計算から導かれる出力信号を生成する。
【図3】電流(太い点線)を積分し、かつ本発明によるモデル、すなわち、縮小モデル(点線)および参照モデル(太い実線)を使用することによって得られる、関連するSoC推定曲線の一例を示している。
【図4】本発明の方法によって電気化学セルに適用されるカルマンフィルタを示しており、Xは推定器によって算出される内部状態を示し、Uは入力を示し、Yは出力を示し、Fはモデルによる内部状態の変化を示す。
【図5】SoC推定アルゴリズムのフローシートであり、Sphは物理システムを示し、Mはモデルを示し、FNLは非線形フィルタを示し、Estは推定器を示し、Uは測定値入力を示し、Yは測定値出力を示し、Yeはモデルによって算出された出力を示し、Xeは推定器によって算出される内部状態を示し、Fはモデルによる内部状態の変化を示し、Lは非線形フィルタの出力の所の増幅率を示す。
【図6】本発明による内部特性を推定する方法を使用するハイブリッド車両シミュレータのフローシートである。
【図7a】様々な電流モードおよび周囲温度における充電/放電の一例を示し、充電1Cおよびストローブ1Cを示している。点線の曲線は本発明による縮小モデルを示し、実線の曲線は本発明による参照モデルを示す。
【図7b】様々な電流モードおよび周囲温度における充電/放電の一例を示し、充電1Cおよびストローブ10Cを示している。点線の曲線は本発明による縮小モデルを示し、実線の曲線は本発明による参照モデルを示す。
【図8】本発明で使用される方法によってシミュレートされた電気化学インピーダンス分光曲線の一例を示し、インピーダンスの虚部Imag(Z)をインピーダンスの実部Real(Z)の実部の関数として表している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
参照モデルの開発
電気化学反応速度論の数学的説明
電気化学反応は、電極と電解液との間の界面で生じる。正電極は、放電の間に酸化種の還元の電気化学反応が生じる場所であり、負電極は、還元種の酸化の反応が生じる場所である。電気化学反応の反応速度論は、バトラー−バルマー式によって説明することができ、一般的反応≪z≫の一般式は以下のとおりである。
【0033】
【数1】

【0034】
上式で、Jzは電荷移動電流密度であり、Jz0は交換電流密度であり、ΔФzは固相(電極)と電解液との電位差であり、Ueq,zは反応平衡電位であり、αzは対称性因子≪下付き文字≪c≫の正電極と、下付き文字≪a≫の負電極とで異なる)であり、Kは温度Tの関数であり(K=F/RT)、Ea,zは活性化エネルギーである。
【0035】
Ni−MH電池の場合、反応種はニッケルオキシ水酸化物NiOOH、ニッケル水酸化物Ni(OH)2、金属水素化物MH、気相と平衡して電解液に部分的に溶解した酸素O2である。正電極での電気化学反応は、放電時には次式のとおりである。
【0036】
【数2】

【0037】
一方、負電極での電気化学反応は次式のとおりである。
【0038】
【数3】

【0039】
z=1,…,4として4つの反応(2)〜(3)に数式(1)を適用することによって、次式が得られる。
【0040】
【数4】

【0041】
【数5】

【0042】
【数6】

【0043】
【数7】

【0044】
上式で、cnは正電極(ニッケル水酸化物)中の陽子の濃度であり、ceは電解液、すなわちOH-イオンの濃度であり、coは負電極中の酸素の濃度であり、上線付きの同じ変数は、気相と平衡する界面酸素濃度であり、cmは負電極(金属材料)中の水素の濃度であり、下付き文字≪ref≫および≪max≫はそれぞれ、基準値および最大値に関し、最後に、μは反応次数を表す。
【0045】
スーパーポテンシャルηzは次式のように定義される。
【0046】
【数8】


【0047】
上式で、ΔФposおよびΔФnegはそれぞれ、正電極および負電極での固−液電位差である。温度の関数としてのUeq,ref,1、Ueq,ref,2、Ueq,ref,3、およびUeq,ref,4の表現は公知である。たとえば、次式が公知である。
【0048】
【数9】

【0049】
上式で、θはSoCであり、k1は定数であり、U1は、その導関数によって温度Tに対して特徴付けられる。同様に、z=2,…,4についての次式のパラメータ化が公知である。
【0050】
【数10】

【0051】
電荷収支
図2によれば、動態方程式(4)〜(7)は、固相および液相における質量収支および電荷収支に関する数式に関連している。液相(電解液)では、種≪i≫の質量保存は次式のように書かれる。
【0052】
【数11】

【0053】
上式で、ciは濃度であり、Niは物質流密度であり、Riは物質転換率であり、ε(k)はセルの領域≪k≫の空隙率である(正電極についてはk=1、セパレータについてはk=2、負電極についてはk=3)。従来、物質流は、相関関係が従来存在している3つの寄与、すなわち、移動、拡散、および対流に分離される。対流は度々無視され、したがって、物質流は次式のように書かれる。
【0054】
【数12】

【0055】
iは拡散係数であり、ti0は移動係数(イオン種の場合のみ)、ieは液相の電流密度であり、Fはファラデー定数である。転換率は電気化学反応に関係している。
【0056】
【数13】

【0057】
κi,zは反応≪z≫における種≪i≫の化学量論係数であり、a(k)は領域≪k≫における比界面表面積である。
【0058】
液相における電荷保存は次式のように書かれる。
【0059】
【数14】

【0060】
上式で、cwは溶媒濃度であり、κは電解液のイオン伝導率であり、Φeは液相の電位であり、fはceの関数である。電流密度の勾配は転移電流に関係している。
【0061】
【数15】

【0062】
上記の数式は、電気的中性の場合、KOH濃度はOH-イオン濃度に等しいことを考慮して電解液に関して述べられている。数式(11)によって下記の数式16として算出されるOH-イオンの転換率を求め、かつ数式(10)も考慮すると、種OH-の転換の数式(9)は次式のように書かれる。
【0063】
【数16】

【0064】
【数17】

【0065】
酸素種の場合、転換率は従来、次式のように見積もられる。
【0066】
【数18】

【0067】
数式(9)は次式のようになる。
【0068】
【数19】

【0069】
数式(12)〜(14)、(16)は、4つの変数ce、co、Φe、およびieを有する4つの数式の系を構成する。これらの数式は、図1に示されるように定義域xにおける偏微分方程式である。
【0070】
この系の解は適切な境界条件を必要とする。2つの種OH-および酸素の境界条件は、電極とセパレータとの間の界面の所の連続性と、セル(電流コレクタ)の端部でのゼロフロー条件よって決定される。コレクタでは、液相中の電流も零である。なぜなら、セルの全電流Iは固相を通過するのに過ぎないからである。まとめると、次式のようになる。
【0071】
【数20】

【0072】
(k)が領域「k」の幾何学的表面である場合、x=I1およびx=I2のときie(t)=I(t)/A(k)である。
【0073】
固相について数式(12)に置き換わる数式は以下のとおりである。
【0074】
【数21】

【0075】
上式で、isは、固相における電流密度であり、セル上の全球電荷収支によって電流にも関係しており、すなわち、is(t)+ie(t)=I(t)である。この場合、σ(k)は領域≪k≫における導電率であり、Φsは固相における電位である。
【0076】
物質収支
質量の保存は、図2に示されているように、数式(4)〜(7)の結果として得られる電流密度項に関連付けられる。固相における質量の保存に関して、従来技術でいくつかの手法が示されている。疑似二次元手法では、電解液に含浸させられた球形または円筒形の微粒子としての固相が検討される。陽子(ニッケルを表す)または原子状水素(金属水素化物を表す)の保存は次式のように書かれる。
【0077】
【数22】

【0078】
上式で、Dhは水素拡散係数である。半径r=Rに相当する電解液との界面における物質収支は次式のように書かれる。
【0079】
【数23】

【0080】
上式で、下付き文字jは、電流密度J1を有するニッケルと電流密度J3を有する金属水素化物の両方に割り当てられている。
【0081】
本発明で使用される方法では、参照モデルにおいて局所濃度c(x,t)と界面濃度とを区別する。界面濃度cmおよびcnは、バトラー−ボルマー式(4)および(6)における平均濃度の代わりに使用される。界面濃度は、数式(20)に代わる以下の近似式によって算出される。
【0082】
【数24】

【0083】
上式で、Iseは界面長であり、D(1)は種の拡散係数である。
【0084】
気相の場合、酸素濃度を表す変数cg(t)が付加される。この変数の変化形は次式のように書かれる。
【0085】
【数25】

【0086】
上式で、Vは、酸素が発生する液相の体積であり、R0,egはたとえば、次式によって各ゾーン≪k≫ごとに算出される。
【0087】
【数26】

【0088】
上式で、Kは界面質量輸送係数である。界面濃度は次式のように求められる。
【0089】
【数27】

【0090】
上式で、Hはヘンリー定数であり、H’=RTHである。
【0091】
熱平衡
セルの温度は、図2に従ってエネルギー収支の出力として算出することができる。一方、セル活性によって生成される内部熱流束φgenは次式によって与えられる。
【0092】
【数28】

【0093】
上式で、項(Ueq,ref,z−V)は、各電気化学反応zについての不可逆的損失に関連付けることができ、可逆的生成項TdUeq,ref,z/dTは、電気化学反応のためにエントロピー変動に直接関係付けることができる。一方、温度Taで周囲に移動させられる流束φtraはフーリエの法則によって与えられる。
【0094】
【数29】

【0095】
上式で、hは、対流および放射現象に関連する熱移動係数であり、Acellはセルの表面積である。電池内の正味熱流束ψは、内部流束と外部流束との差として容易に算出することができ、すなわち、φ=φgen−φtraである。熱流束を時間積分することによって得られる電池に蓄積された熱量によって、以下の関係式に従って電池の温度を算出することができる。
【0096】
【数30】

【0097】
上式で、Cpはセルの比熱容量であり、Mcellはセルの質量である。
【0098】
参照モデルにおける電極での電荷蓄積の電気的表現
電極での電荷の蓄積を考慮することによって、本発明で使用される方法では、数式(4)および(6)の有効領域が、たとえば≪二重層効果≫のような固液界面での容量効果が顕著な非静的ケースに拡張される。数式(4)は次式のようになる。
【0099】
【数31】

【0100】
上式で、C(1)は電極1(たとえばニッケル)の二重層容量である。関数fは数式(4)の右項を表す。
【0101】
同様に、数式(6)は次式のようになる。
【0102】
【数32】

【0103】
上式で、C(3)は電極3(たとえばMH)の二重層容量である。関数gは数式(6)の右項を表す。
【0104】
縮小モデルの開発
上述の数式の系は偏微分系の形態である。通常車両上で利用可能な計算能力によって課される制約のために、このような種類の系をリアルタイムで解くことはできない。したがって、本発明で使用される方法は、縮小されているが、数式(1)〜(20)に基づくモデルを導くことを可能にする。
【0105】
このモデルを導くには、種の濃度および他の変数が電池セルの4つの領域のそれぞれにおいて均一であると想定しなければならない(零次元均一近似)。電解液の濃度については、次式のように書かれる。
【0106】
【数33】

【0107】
上式で、V(k)およびc(k)は領域≪k≫の体積および濃度である。濃度c(k)の変動率は次式によって与えられる。
【0108】
【数34】

【0109】
上式で、3つの領域の厚さI(k)および互いに隣接する領域間の界面の所の物質流量NI、I=0,…,3を除いてすべての変数は明示されている。後者は、数式(10)および境界条件(17)から次式のように書かれる。
【0110】
【数35】

【0111】
したがって、数式(21)は次式のように書かれる。
【0112】
【数36】

【0113】
しかし、数式(13)を考慮することによって、数式(24)は次式と明白に等価になる。
【0114】
【数37】

【0115】
したがって、いわゆる零次元(0−d)均一近似における電解液の濃度は定数である。
【0116】
MHおよびニッケル電極を表す固体種の保存は、0−d法では、拡散を無視することによって数式(19)〜(20)から次式のように書かれる。
【0117】
【数38】

【0118】
【数39】

【0119】
rは金属水素化物を表す微粒子の半径であり、y(1)は、ニッケルを表す円筒形微粒子を囲む活性基板の厚さである。
【0120】
本発明で使用される方法では、領域c(t)の平均濃度と縮小モデルにおける界面濃度とを区別する。界面濃度cmおよびcnは、バトラー−ボルマー式(4)と(6)における平均濃度の代わりに使用される。界面濃度は、参照モデルの場合と同様に、数式(20)に代わる次式の近似によって算出される。
【0121】
【数40】

【0122】
上式で、Lseは界面長であり、D(1)は種の拡散係数である。
【0123】
気相の酸素濃度は、数式(19a)〜(19c)を使用し、かつ液相の濃度が常に界面値を有する準静的平衡にあると仮定して次式のように書かれる。
【0124】
【数41】

【0125】
【数42】

【0126】
上式は、反復的にあるいは他の公知の方法(緩和など)によって解かれる陰的代数式である。公知の0−d法では、従属関係(27a)が常に無視され、バトラー−ボルマー式(4)〜(7)が、上線付きのc0の関数、したがって直接圧力の関数として算出される。
【0127】
電荷の保存について、数式(12)〜(13)は、0−d近似において次式を与える。
【0128】
【数43】

【0129】
厳密に言えば、この数式は静的条件でのみ有効であり、一方、従来技術では一般に非静的条件で使用されている。
【0130】
電極での電荷の蓄積の電気的表現
電極での電荷の蓄積を考慮することによって、本発明で使用される方法では、数式(28)の有効領域が、たとえば≪二重層効果≫のような固液界面での容量効果が顕著な非静的ケースに拡張される。したがって、数式(28)は、各数式が一方の電極に対して有効な2つの数式に分割される。
【0131】
【数44】

【0132】
上式で、Cdlは、2つの電極間で変化することのできる値である二重層容量である。
【0133】
0−dモデルは、セル上の電位の全球収支によって補足される。
【0134】
【数45】

【0135】
上式で、Vはセル端子の所の電圧であり、Rintは、固相および液相の導電性によって生じるセルの内部抵抗である。
【0136】
要するに、本発明で使用される方法の縮小モデルは数式(4)〜(8)、(25)〜(27)、(29)〜(30)、すなわち、15個の変数J1,...,J4、η1,...,η4、cm、cn、p0、ΔΦpos、ΔΦneg、V、Tに関する合計で15個の数式を含む。
【0137】
この方法を構成する数式に現れる他の数量は、較正すべきパラメータとして対処される。数式(8)の第1の関係式に現れるパラメータUeq,ref,1に特殊な公式が与えられる。この値は、従来技術では、セルの放電ケースと充電ケースとで異なる可能性があることが分かっている。たとえば、Ni−MH電池の場合、経験上、充電と放電との間にヒステレシス効果が生じることが分かっている。この効果は、本発明で使用される方法では次式によって考慮される。
【0138】
【数46】

【0139】
本発明による充電状態の推定
本発明による充電状態の定義
本発明で使用される方法におけるセルの充電状態q(t)は、1つの反応種の濃度、特にNi−MH型電池のcnによって与えられる。
【0140】
【数47】

【0141】
この計算は、「クーロンカウンティング」と呼ばれ、次式を与える、従来技術で公知の計算とは著しく異なる。
【0142】
【数48】

【0143】
この数式では、図3に示されている様々な結果が得られる。cn,maxとQmaxとの関係は次式によって与えられる。
【0144】
【数49】

【0145】
したがって、qの推定はcnの推定に基づくものであり、一方、この変数を、特に車両に搭載された電池から直接測定することはできない。
【0146】
再帰フィルタの提示
有利なことに、この方法は、図4に示されている、利用可能な測定値からこの力学系の状態を推定する再帰フィルタを使用する。この推定問題の重要な特性は、測定値がノイズの影響を受け、かつ本発明によるモデル化された系の非線形度が高いことである。好ましくはこの方法で使用される再帰フィルタは、当業者に公知の拡張カルマンフィルタである。
【0147】
この方法のモデルによれば、電気化学電池セル(図4)の状態ベクトルは、x={cn、cm、po、ΔΦpos、ΔΦneg、T}のように書かれ、ここで、第1の構成要素は、数式(32)によって推定すべき充電状態に関係している。利用可能な測定値は、モデルの出力yを表わすセル端子の所の電圧および電池の温度と、モデルの入力uを表す端子の所の電流である。公知の再帰フィルタ法によれば、モデルの数式は以下のように再構成される。
【0148】
【数50】

【0149】
SoC推定アルゴリズム
この方法は次に、モデルが数式(34)に従って算出される変動fのベクトル(図5のF)および出力y(図5のYe)を与える段階(図5のM)を実現する。この2つの変数は次に、F、Ye、およびYの測定値から状態Xeを再構成する第2段階(図5のEst)によって処理される。したがって、推定アルゴリズムは、再構成された状態、電気化学システムの特性(この方法のモデルに依存する)、および測定に影響するノイズの特性の関数として変数Lを与える第3段階(図5のFNL)の出力を使用する。段階FNLは、当業者に公知の方法、たとえば拡張カルマンフィルタによって実施することができる。
【0150】
この縮小モデルは、充電状態を直接、モデルの状態変数として表す。一方、公知の方法は、充電状態が、モデルの動的変数ではなく、他の動的または静的変数がパラメータ化された関数としての外生変数である「等価電気回路モデル」と呼ばれるモデルを使用する。本発明による方法を使用して一般に利用可能な測定値から電池の測定不能な特性を推定する電気化学電池管理システム(BMS)は、より信頼できかつより厳密な情報を出力において与えることが理解されよう。
【0151】
本発明による健全状態推定
本発明による縮小モデルは、系の物理パラメータに基づくものであり、従来技術で公知のRCモデルなどの等価全球パラメータに基づくものではない。この特性によって、経年劣化、したがって電池の健全状態の推定が容易になる。
【0152】
すなわち、充電状態を推定するのに使用され、状態観測器に基づく方法は、モデルのパラメータのスローアダプテーションを伴うように拡張することができる。この拡張は、従来技術ではいくつかの異なる用途に関して公知である。本発明の場合、図4で循環しているのと同じ信号をこの適応的拡張に使用することもできる。
【0153】
縮小モデルのパラメータの変動の推定は、電池の挙動の考えられる微視的変動、したがって、一般に経年劣化と呼ばれる電池の性能における交番を検出する働きをする。パラメータの相対的な変動による経年劣化認識および定量化は健全性の望ましい推定を可能にする。
【0154】
本方法のモデルの他の使用法
電池シミュレータ
参照モデルは、ハイブリッド車両牽引チェーン用の寸法決定支援ツールとしても有用である。電池モデルを一体化するハイブリッド車両シミュレータの一例が図6に示されている。通常、これらの用途は、常に特定の計算速度が望ましいにもかかわらず、リアルタイム条件の下で動作するシミュレーションモデルを必要としない。本発明で使用される方法の参照モデル(1−Dモデル)は、等価電気回路型のモデルより効率的かつより確実に牽引電池の動的挙動をシミュレートすることができ、したがって、電池シミュレータで使用することができる。特に、電気化学参照モデルは、(本発明による縮小0−dモデルを使用する)オンライン推定器の効率を「オフライン」で試験し、推定器のパラメータを、試験中の特定の電池に適応させることによって較正するように働くことができる。
【0155】
本発明で使用される方法の参照モデルと縮小モデルは、電池のすべての内部電気化学変数、特に充電状態の経時的な変動を算出することができる。モデルの入力は電池端子の所の電流であるので、シミュレートされる場合は後者の変数の選択に依存する。たとえば、制御される充電または放電を一定の電流で表すか、または固定されたプロファイルに応じた可変電流で表すか、または電圧に応じた可変電流で表すことができる。後者の場合は、車両の電池ドロー条件を表し、電池に課される電流は、関連する電気構成部材(パワーエレクトロニクス、電気モータなど)の特性に応じて、電圧に依存する。本発明による方法を使用した電池シミュレータの典型的な結果が図7に示されている。
【0156】
インピーダンス分光シミュレータ
本発明による推定方法のモデル(参照モデルおよび縮小モデル)は、実験的なインピーダンス分光法試験を再現して、このような測定値と電池の内部充電状態との関係を予測するのも可能にする。そして、数式(30)は、セル同士の間の接続および端子との接続のための誘導効果を考慮するように修正される。
【0157】
【数51】

【0158】
本発明で使用される方法の潜在的可能性は図8に示されている。
【0159】
熱状態シミュレータ
本発明で使用される方法の縮小モデルおよび参照モデルにエネルギー収支が存在すると、系の熱変化をシミュレートするのが可能になる。したがって、本発明で使用される方法は、電池の寸法を決定し、かつ電池自体が必然的に備えなければならない熱管理システムの妥当性の確認をする働きをすることができる。すなわち、発生する熱流束および電池の温度は、このような流束およびこの温度を許容値に近い値に調整することが目的であるこのようなシステムの入力変数である。
【0160】
したがって、熱過渡の表現は、熱管理システムに関連する制御および最適化方式を合成しかつその妥当性の確認をすることを可能にする。したがって、これらの方式は、そのオンライン使用時に縮小モデルが存在すると有利であり、測定不能であるか、または測定可能であるが、関連する検出器の応答時間がかかり過ぎるある変数(特定の点での温度、熱流束など)の推定値を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学電池のスマート管理システムにおいて、
a)前記電池上の測定手段に接続され、前記電池の物理量を表す少なくとも1つのパラメータの入力値を受け取るようになっている入力手段と、
b)前記電気化学電池の内部状態を推定する方法によって算出された少なくとも1つの特性の少なくとも1つの出力信号を生成する処理および/または比較手段であって、前記方法が、前記電池のすべての内部電気化学変数の経時的な変動を算出するのを可能にする参照モデルを確立することと、前記電気化学電池の各領域において各活性種に局所濃度を平均濃度c=f(t)で置き換えて前記電気化学電池の縮小モデルを得ることによって前記参照モデルを導くこととを含み、前記参照モデルが、
・界面濃度を考慮した、各電極と電解液との間の界面で生じる電気化学反応の反応速度論の数学的表現と、
・各電極での電荷の空間的蓄積の電気的表現と、
・各固相および液相(電解液)における電荷の収支と、
・各活性種に前記界面濃度と前記局所濃度C=f(x、t)を区別する前記システムのすべての相における物質収支と、
・前記電池の温度を算出する前記システムのエネルギー収支と、を含む処理および/または比較手段と、
c)前記電池の物理量に関する情報を与え、および/または、前記処理および/または比較手段の出力信号に応答して前記電池の充電/放電および/または冷却を制御する情報/制御手段と、を有するシステム。
【請求項2】
前記電気化学電池の健全状態は出力信号として記録される、請求項1に記載の管理システム。
【請求項3】
前記電気化学電池の電位は出力信号として記録される、請求項1または2に記載の管理システム。
【請求項4】
前記電気化学電池の充電状態は出力信号として記録される、請求項1から3のいずれか1項に記載の管理システム。
【請求項5】
前記電気化学電池の温度は出力信号として記録される、請求項1から4のいずれか1項に記載の管理システム。
【請求項6】
前記処理手段は再帰フィルタを有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の管理システム。
【請求項7】
前記管理システムはハイブリッド車両の車載制御およびエネルギー管理用である、請求項1から6のいずれか1項に記載の管理システム。
【請求項8】
前記電池の熱状態をシミュレートする手段を有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の管理システム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の管理システムを有する電池充電器/放電器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−521402(P2011−521402A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501265(P2011−501265)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000339
【国際公開番号】WO2009/133262
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】