説明

電気接点及びそれを用いた電気機器

本発明の課題は、毒性に問題の無いCdフリーのAg合金からなり、絶縁性能が良く、ロウ付け性や消耗特性の安定性が確保でき、ブレーカーや高負荷な電磁開閉器に適用可能な優れた電気接点やそれを用いた電気機器を提供する。本発明の解決手段は、Snを1〜9質量%含み、不純物としてのCdが0を含み0.01質量%未満であるAg合金からなり、表面側の第一の層と内部側の第二の層の二層構造であり、第一の層の厚みが10μm以上で、その平均硬度がJISに規定されるマイクロビッカース基準で150以上であり、第二の層の同じ基準での平均硬度が130を超える電気接点である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電気接点およびそれを用いた電気機器に関する。
【背景技術】
電気エネルギーを伝達、遮断または制御する部位に使われるブレーカーなど各種電気機器には、それぞれの実用機能や電気的な負荷に応じて、各種の電気接点が使われてきた。
その材料としてカドミウム(Cd)、錫(Sn)およびインジウム(In)などの酸化物の粒子が分散された銀(Ag)合金がある。中でもAgマトリックス中にCd酸化物の粒子が分散された材料は、実用上この種の電気接点に最適であるため、現在もなお多くの電気機器に使われている。しかし、Cdには毒性があるため、これを含まない、いわゆるCdフリーで接点性能に優れた材料の開発が望まれている。
その候補の一つが、SnやInの酸化物が分散されたものである。この材料は、いわゆる温度特性に優れているとともに、接触時の電気抵抗が低く通電性が良くいわゆる接触抵抗が小さいため、このような性能が重視される軽負荷の電気機器には適している。しかし、この材料を用いた電気接点は、定格電流10A以上、遮断電流1.5kA以上の高負荷の電気機器に使われると、遮断時に接点を通じて大きな遮断電流が流れるため、消耗が大きい。またこの消耗により材料やその周辺の電気絶縁性が下がる、いわゆる絶縁特性の低下が起こる。したがって、現状ではこのような高負荷の電気機器には使えない。このため、高負荷の電気機器では未だにCd元素が1質量%以上、さらには10質量%以上分散されたAg合金が、接点材料として用いられており、Cdフリーのものは一部の電磁スイッチやリレー、接触抵抗を問題とするコンタクターなどにしか用いられていない。例えば、電磁スイッチでも定格電流が100A以上のものや、フォークリフト用のように直流電圧86V、突入電流1.9KA〜2KAの接点には、Cdを10質量%以上含んだ接点が未だに使われている。電気接点に要求される特性には、(1)耐溶着特性、(2)初期段階での温度特性、(3)過負荷試験後の温度特性、(4)耐久試験後の温度特性、(5)遮断試験後の絶縁特性、(6)耐消耗特性などが挙げられる。これらの特性を同じ化学組成・微細組織の単一材料で確認すると、例えば(1)と(2)のようにトレードオフの関係にある特性がある。したがって一つの材料からなる電気接点を用いる場合には、トレードオフの関係にある一方の要求特性を犠牲にする必要がある。また電気接点(以下単に接点とも言う)の仕様の多様化が進み、接点周辺の仕様も多様化している。これによって、例えば、実用上、上記のように互いにトレードオフの関係にある複数の特性を、それぞれの割合で一つの接点で併存させなければならない場合もある。このような情勢の中、電気機器の多様な仕様に追随し、接点材料の種類も巧く使い分ける必要がある。CdフリーのAg合金からなる電気接点が、電気機器、例えばブレーカーのCd入り電気接点にとって変わるためにレベルアップしなければならない特性の第一は、耐溶着特性であり、第二は、同じ材料ではこれとトレードオフの関係にある温度特性である。またブレーカーは、比較的高い定格電流・遮断容量の領域で安定して使えることが重要であり、耐消耗特性や遮断特性についてもある程度のレベルまで上げる必要がある。そこでトレードオフの関係にある一方の特性に秀でた別の材料と組み合わせてこれと複合化し、複合接点とする試みがなされてきた。その中から本発明に比較的近い従来技術について以下に述べる。
例えば日本の許開昭58−189913号および特開昭62−97213号の両公報には、複合化の例が載っている。これらに記載された電気接点は、表面層に耐消耗特性と耐溶着特性に優れた材料が、内層に遮断特性に優れた材料が、それぞれ配置されたものであり、いずれの発明の電気接点も表面層にAg−Sn−In系合金を、また実質的には内層に純AgやAg含有量の多い高電導性の材料をそれぞれ配置し、アーク切れを良くするように工夫したものである。前者は、短絡時のアーク遮断に備え内層に比べ表面層をかなり厚目(内層が300ないし1200μm程度であるのに対し、表面層が100〜300μm程度)にするとともに、表面層が消耗した場合を考えて内層との境界に凹凸状の継ぎ目を作り、アークによって継ぎ目より上の表面層が消損した後にも表面層の一部が残り、継続して使えるように工夫したものである。一方後者は、表面層が前者に比べ少し薄目(10〜200μm)であるが、短絡時のアーク遮断に備え表面層に分散される酸化物の量を多くして(例えば表面層がSnとInの酸化物が分散されたAg合金の場合、酸化物の総量は10質量%以上)、その硬度を高めている。これらの電気接点は、内層にAgやAg量の多い合金を使っているので、確かに遮断時のアーク切れ時間は短いと思われるが、6KA以上の大電流を遮断するブレーカー用の接点に使う場合、大きなアークが発生し表面層が消損した直後に溶着事故の発生が懸念される。また上下のAg合金素材の合わせ面に凹凸を入れ、嵌め合わせる作業は生産性が悪く経済的ではない。また、耐消耗性と耐絶縁性の改良を目的とした本願とは目的や方法が異なるものである。
また日本の特開昭61−114417号公報には、SnおよびInを含むAg合金からなり、表面層のSnやInの酸化物、特にSnの酸化物の量が、内層のそれよりも少ない複合電気接点が開示されている。したがってこの接点は、内層よりも低硬度の表面層からなるため、ブレーカー用の接点として用いた場合、表面層の耐消耗特性が低くなり溶着事故が発生し易くなる。また、耐消耗性と耐絶縁性の改良を目的とした本願とは目的や方法が異なるものである。さらに日本の特開平10−188710号公報には、別の二層構造の複合電気接点が紹介されている。この発明の電気接点は、定格電流が100A以下のブレーカーを対象としたものである。二つの層は、主に耐溶着特性に優れた外周層と、主に温度特性に優れた中央層とで構成されるが、両層とも主としてCd、SnおよびNiの酸化物が分散されたAg合金からなる。この接点では両層の硬度と接点表面部での両層の面積比率とを制御することによって、主に耐溶着特性と温度特性とが適正レベルに調整される。なおこの電気接点の外周層の硬度はマイクロビッカース基準で135以上、内層のそれは135未満である。この発明によって、定格電流100A以下のブレーカーに適した電気接点が提供される。しかしこの接点は、多量のCdを含むため毒性の問題がある。
またCdフリーの接点は、実用時のばらつきが大きい。具体的には接点を台金に蝋などで接合した後の接合強度のばらつきが大きいこと、さらに上述のように実用時の消耗量が大きいだけでなく、そのばらつきが大きいことである。このようなこともCdフリーの接点材料が使い難い理由の一つである。
ブレーカーや電磁開閉器には、その製造メーカーや定格電流またはその最終使用先・使用途によって様々な種類がある。例えば、それが家庭用と工業用のいずれなのか、一般配線用なのか漏電遮断用なのか、設備用なのか分電盤用なのか、つまり用途の違い、さらに価格と性能のどちらを重視するのか等々、ブレーカーによって様々である。したがってこのように電気機器の仕様が多岐に渡るため、接点およびその材料にも、それぞれの機器に応じた多様な仕様がある。接点に求められる品質が多様化する理由は、このような電気機器の仕様以外にも左右される。例えば、同じ50Aフレームの定格の機器においても、機器の構造は様々であり、そのため接点の形状やサイズも様々である。また接点は、通常台金に接合され、これにリード線を接続して接点アッセンブリの形態で使われるが、その台金の形状やサイズ、それとの接合手段も様々である。これらは、機器の実用性能に大きな影響を与える。またアークシューターといわれる電流を遮断するための部品、電気的または機械的にアークを消滅させる消弧機構が有るか無いか、これらの部材の形状や材質が何か、さらにはこれらの配置形態も様々である。これらも機器の実用的な特性に大きな影響を与える。このように接点の仕様は、それ自身の性能よりも、むしろ以上述べたような機器の仕様の多様化の方に多大な影響を受ける。その一方で、前述のように、接点に求められる特性にはトレードオフの関係にあるいくつかのものがあり、全ての特性を要求されても、それを満たす接点材料の提供は、困難である。したがって、個々の電気機器の性能と接点周辺の設計の自由度に合わせて、それに最適な電気接点材料を提供する必要がある。
本発明者等は、このような実状に鑑み、特に耐溶着性と温度特性に優れ、こうしたブレーカに好適なCdフリーの電気接点を、日本の特願2001−011121号の発明にて提案した。しかし、その後電気機器の新たな仕様として、耐溶着性と温度特性は多少犠牲にしても、実用時に摩耗量が小さく電気絶縁性に優れた電気接点も求められているため、上記発明と同じ材質系で新たな材料を研究してきた。その結果、本発明に至った。
本発明の目的は、CdフリーもしくはCd量の少ないAg合金からなり、従来のそれらに比べ、実用時の消耗量が小さく(耐消耗性が優れていると言う)、その耐消耗性のバラツキが小さく、絶縁特性に優れ、しかも上記した実用上のばらつきの少ない電気接点ならびにそれを用いた電気機器を提供することである。
【発明の開示】
本発明の提供する電気接点は、Snを1〜9質量%、Cdを0を含め0.01質量%未満含むAg合金からなり、表面側の第一の層とそれより内部側の第二の層との二層構造からなるもであり、第一の層は、その平均硬度が、JISに規定されるマイクロビッカース基準で150以上、その厚みは10μm以上であり、前記第二の層は、その平均硬度が前記マイクロビッカース基準で130を超える。好ましくは、第一の層の平均硬度は、190以上である。
なお、この中には、第二の層の同じ基準での平均硬度が、第一の層と同じか、またはそれに比べ低い電気接点が含まれる。
本発明でCdの量を0.01質量%未満とする理由は、実質Cdフリーとするためである。
また、本発明の電気接点は、望ましくは、Snに加え、Inを1ないし9質量%含む。
また、本発明に係る電気接点は、Sn、In以外の添加成分として、Sb、Ca、Bi、Ni、Co、Zn、Cu、Mo、W、Ge、Te、CrおよびPbの元素群から選ばれた少なくとも1種を含む場合がある。
なお、本発明での「表面」とは、相手側の接点と接触する側の表面である。
さらに、本発明には、以上の電気接点を用いた電気機器も含まれる。この電気機器には、例えば、本発明の電気接点と台金とを組み合わせた接点アッセンブリやそれを用いた電気機器が含まれる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の電気接点の一具体例を模式的に示す図である。
図2は、本発明の電気接点の他の具体例を模式的に示す図である。
図3は、本発明の電気接点の別の具体例を模式的に示す図である。
図4は、本発明の電気接点を台金に取り付けたアッセンブリ状態の一具体例を模式的に示す図である。
なお、図中の符号、1は第二の層すなわち内部層、2は第一の層すなわち表面層、3は接続層、4は接点チップ、5は接点チップ、6は可動側台金、7は固定側台金である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の電気接点は、Snを1〜9質量%、Cdを0を含め0.01質量%未満含むAg合金からなり、表面側の第一の層とそれより内部側の第二の層との二層構造からなり、第一の層は、その平均硬度が、JISに規定されるマイクロビッカース基準で150以上、その厚みは10μm以上であり、第二の層は、その平均硬度が同じマイクロビッカース基準で130を超える。好ましくは、第一の層の平均硬度は、190以上である。以下、マイクロビッカース基準の硬度が例えば130の場合130mHvとも表示する。
これは、実質Cdフリーの電気接点である。
なおいずれの接点も添加成分のSnは、その化合物、通常は酸化物の形態でAgマトリックス中に分散されている。
Snの量を1ないし9質量%とする理由は、1質量%未満では、実用時の耐溶着特性が低下することである。また実用時の消耗の増加、さらには固体間での、または接点の部位間での実用時の消耗量や絶縁特性のばらつきが大きくなるからである。なお耐溶着特性とは、所定の負荷で電気回路を遮断した場合、自身が溶融し、それによって相手側の接点と溶着せず、繰り返し正常に電流遮断機能を果たすことのできる性能である。
他方9質量%を超えると、前記した実用時の温度特性が、低下する。さらに接点材料の製造過程での塑性加工がし難くなったり、台金との接合強度のばらつきが、接点の固体間または部位間で大きくなる。その結果、接点に損傷が生じ易くなったり、実用時に接点が台金から剥離したり、台金上で位置ずれし易くなる。
Snの量は好ましくは、2ないし7質量%である。
表面の平均硬度を150mHv以上にする理由は、上記と重なるが、特にCdフリーかまたはその量が少ない場合に実用時の消耗量やそのばらつきおよび台金との接合強度のばらつきを抑え、それによって絶縁性を高めることである。好ましくは190mHv以上、さらには220mHv以上である。
本発明の目的は、実用時、例えば、接点が数10%以上消耗した後であっても良好な耐消耗特性の維持できる接点を提供することであるので、この第二の層の硬度が高いことは有利に働く。
なお平均硬度は、JISのマイクロビッカース基準の硬度計量法に準じて確認される。接点面の第一の層内または第二の層内の任意の複数点、通常5点で確認し、それらの値を算術平均したものである。確認点数は、30点以上が望ましい。
本発明の電気接点は、望ましくはSnに加え、Inを1ないし9質量%含む。InもSn同様、その化合物、通常は酸化物の形態でAgマトリックス中に分散されている。
Inの量をこの範囲にする理由は、この範囲を外れると、主に製造時の塑性加工がよりし難くなることと実用時の耐消耗特性がより低下することである。さらに9質量%を超えると、共存するSnの量にもよるが、温度特性が低下し易くなる。
好ましくは、Inの量は3ないし8質量%である。
なお、本発明の電気接点には、SnおよびIn以外の添加成分として以下のものが含まれる場合がある。例えば、アンチモン(Sb)、カルシウム(Ca)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ゲルマニウム(Ge)、テルル(Te)、クロム(Cr)および鉛(Pb)の群から選ばれた少なくとも1種である。これらの望ましい含有量は、それぞれの元素に換算された質量%単位で表すと、Sbが0.05ないし2、Caが0.03ないし0.3、Biが0.01ないし1、Niが0.02ないし1.5、Coが0.02ないし0.5、Zn、Cu、Mo、WおよびGeがいずれも0.02ないし8、Te、CrおよびPbがいずれも0.05ないし5である。これらの成分の量が、以上の範囲内であれば、場合によっては実用時の耐溶着性や温度特性の低下を抑えることができる。また、接点材料を製造する過程での塑性加工がし易くなる。範囲外の場合、ブレーカーの種類によっては、耐消耗性が低下することがある。
なお、上記以外の成分でも本発明の目的が達成されれば、以下のようなものが微量含まれていても良い。以下の表示単位は、元素換算の質量%である。例えば、セリウム(Ce)、リチウム(Li)、ストロンチウム(Sr)、チタニウム(Ti)、マンガン(Mn)の中から選ばれた少なくとも1種が5以下、GeまたはGaを3以下、Siを0.5以下、FeまたはMgを0.1以下含んでいても良い。また例えば、弗化アルミニウム(AlF)、弗化クロム(CrF)、弗化カルシウム(CaF)のような弗化物を含めハロゲン化物の形態で、それらの分子換算で5質量%以下含まれていても良い。
他の形態としては、(2)第一の層の平均硬度が、150mHv以上190mHv未満であり、第二の層の同硬度が、第一の層のそれと同等かそれよりも低いものである。
すなわち、本発明の電気接点は、前述のように、実質CdフリーのAg合金からなり、従来のそれに比べ、実用時の消耗量が小さく(耐消耗性が優れていると言う)、耐消耗特性のバラツキが小さく、絶縁特性に優れ、しかも台金との接合強度のばらつきの少ないものである。
本発明の電気接点が好適に用いられる電気機器は、その仕様に応じていくつかあるが、代表例として、定格電流30A以下、遮断電流2.5kA以下ではあるが、比較的高負荷であり接点サイズが小さい場合がある。なお、接点は、サイズや厚みが小さくなりつつある。このような機器の場合、接点には耐溶着性と温度特性が要求されるが、それ以上に耐消耗特性と絶縁特性が要求される。通常この種の機器(ブレーカー)は、接点同士を引き剥がす力を比較的大きくするような機構や消弧機構を配置したり、台金やリード線の線径を大きくして放熱を良くしたりすることによって、温度特性や溶着のリスクを軽減するように設計されている場合が多い。このような場合、日本の特願2002−01121号に開示されたものより、本発明のものは、実用上有利である。なおこのような仕様の機器であっても、その細かい仕様に応じて、上記の様々な形態の内の最適なものを適用しないと、接点本来の性能が十分に発揮できなくなる。そこで接点が実装されるアッセンブリの形態や使われる電気機器の定格容量など仕様の違いによって、上記のように異なった形態の電気接点を使い分ける必要がある。本発明の二層構造の電気接点は、上記のように表面と内部の適正な添加成分組成と表面の厚みおよび両層の適正な硬さバランスを制御することによって、特に表面および内部とも従来のもの以上に硬さを高めたものである。これによって、本発明の電気接点は、耐消耗性や絶縁特性、さらには実用上のばらつきの小さいことを求められるより高負荷の電気機器に好適なものである。
上記二層構造の電気接点で、第一の層の厚みを10μm以上にする理由は、これより薄くなると、温度特性や耐溶着特性が低下することである。一方厚過ぎれば、製造コストが嵩むからである。好ましくは、第一の層の厚みは20ないし120μmである。
この第一の層の厚みは、接点の表面に垂直な断面上で確認する。具体的には、この面を光学顕微鏡で観察し、接点表面に平行な方向に5点第一の層の厚みを確認し、それらの算術平均値をその厚みとする。なおこの二層構造の接点では、各層内に硬度の分布があっても良い。例えば、各層にSn、In濃度の少ない部分が生じる場合があるが、その場合でも各層の平均硬度が、上記臨界値をクリアしておれば良い。但し、接点中央部の希薄層と呼ばれる部分は硬度の測定から除いて測定する。二層の平均硬度は、上記のように接点に垂直な断面上のそれぞれの層の領域内で、各層の上下端付近を含めた厚み方向の5点で確認されたマイクロビッカース硬度データを算術平均したものである。
本発明の二層構造の電気接点には、二つの層の平均硬度が同じかまたは第一層から第二層にかけての境目に若干の硬度落差のある場合がある。後者の場合、この境目には両層の中間の硬度を有する、すなわち、その硬度が、第一層の下限硬度未満かつ第二層の上限硬度を超える範囲内にある領域(以下中間部とも言う。)がある。この領域の厚みは、主に製造時のAg合金段階で合金成分の層間熱拡散の進展や加工歪みの入り具合がどの程度であるかによって変わる。中間部の厚みが極めて薄い場合、実質無い場合もある。
例えば、本発明の電気接点は、上記構成の範囲内であれば、両層の境目においても厚み方向に順次連続的または段階的に低下するものであってもよい。このような傾斜機能的な組織は、例えば化学組成の異なるAg合金素材を三層以上積層圧着したり、Ag合金段階での熱処理条件を制御したり、最終工程で加工硬化処理などを追加することによって得ることができる。
本発明には上記の基本構成の範囲内にあり、第一の層と第二の層とが同じ化学組成であるものも含まれる。両層が同じ化学組成で硬度レベルが異なるのは、それぞれの微細組織が制御されているからである。
また本発明には上記の基本構成の範囲内にあり、しかも第一の層中のSn、さらにはInの含有量が第二の層のそれと同じか、またはそれより多いものも含まれる。第一の層のSnの量を第二の層のそれよりも多くすることによって、第二の層の硬度よりも第一の層のそれの方が、ほぼ確実に高くなる。
なお、本発明の電気接点は、ブレーカーに組み込むため台金などの他の部材と接続する必要がある。したがって、第二層の第一層とは反対側の面に台金などの他の部材との接続を容易にするため、純Ag、蝋材などの金属からなる薄い接続層を設けてもよい。なおこの層は、通常この種の目的で配設される金属層と同じような形態であればよい。図1ないし図3は、本発明の接点の断面例を模式的に示しているが、これらの図において、符号3で示されるところが接続層である。
なお、符号1で示されるところは第一の層であり、符号2で示されるところは第二の層である。図1のものは、表面側の第1の層が一方側にのみ形成された場合であり、図2のものは、第二の層が裏面及び側面にも形成された場合である。
次に本発明の電気接点の製造方法について説明する。本発明の接点は、従来から行われてきたこの種のAg合金と基本的にはほぼ同じ手順で作られる。例えば溶解・鋳造法では以下の手順がある。
まず、第一の層および第二の層それぞれの化学組成となるように溶解・鋳造されたインゴットを作り、これらを粗く圧延した後、二種の圧延材を熱間圧着する。その際またはその後必要により上記した純Agなどの薄い接続層を圧着する。これをさらに圧延して所定の厚みのフープ状にした後、同フープを打ち抜き、またはさらに成形し、最終形状に近いサイズのAg合金素材とし、さらにこの素材を内部酸化してSn、Inなどの金属成分を酸化物に転換する。なお溶解・鋳造に先立ち成分元素の酸化物以外の化合物を含ませることもできる。さらに酸化条件を調整したり、圧延以降に適宜熱処理や形状を調整する工程などを入れる。この場合、酸化や熱処理の条件を工夫することによって各層の微細組織を意識的に制御して、上記の硬度を中心とする材料特性やそのレベル、接点内でのその分布などを変えることができる。
本発明の接点のように硬度レベルを細かく制御しようとすると、その製造においては、例えば、通常の酸化温度よりも低い温度で保持し、その後昇温してより高い温度で酸化を行う手段が有効である。例えば、酸化工程において、600℃前後の温度で2時間程度保持して前段加熱した後、昇温して750℃で酸化するのも一法である。目的の硬度レベルに応じて前段加熱時間を延長したり、酸化後、同保持温度より低い温度で保持してもよい。この手段は、酸化温度を従来より低く設定することにより、酸化反応が進む段階で酸化物分散粒子の大きさを小さくし、より高い硬度レベルにするために有効である。またさらに高い硬度レベルを狙うには、温度を600℃以下、さらに400℃、さらには200℃までの範囲で設定することも場合によっては必要である。この場合には保持時間を10時間以上、さらには20時間以上に延長する。また酸化での酸素圧力を3kg/cm以上、さらには10kg/cm以上にすることも有効である。表面側と内部側の硬度レベルをより高くするためには、その目的レベルに応じて、温度、時間、圧力を酸化の途中で適正に制御することも大切である。例えば酸化温度での保持の途上で酸素圧力を上記のレベル以上に上げることも有効である。
なお、以上の手段は、以下で述べる粉末冶金法や前述の塑性加工された板を貼り合わせる工程を採る場合にも有効である。
また、粉末冶金法で作ることもできる。例えば、予めSnなどの微細な酸化物他の化合物、または加熱によって酸化物他の新たな化合物になるこれらの元素の化合物とAgの粉末とを二種の所定組成にて配合・混合した後、必要によりこれを熱処理する。得られた二種の粉末を型内に積層・充填して圧縮成形しプリフォームとする。
一種の組成物でプリフォームとしてもよい。
次いでこのプリフォームを塑性加工する。その手段には熱間押し出し、熱間・冷間ロール圧延、熱間鍛造など各種の手段が適用できる。さらに上記した鋳造法と同じ様に、酸化条件を調整したり、圧延以降に熱処理や形状を調整する工程などを入れる。
また、その素材を上記に準じた手順で作成した後、第一の層は、溶射、CVDなどによる厚膜形成、スクリーン印刷などによる厚膜印刷、塗布後焼き付など、様々な冶金的手段によって形成してもよい。さらに二つの合金板の接合には、例えば熱間静水圧成形法による拡散接合、熱間押し出しなど種々の手段が適用できる。また熱処理を施すことによって各層の微細組織を意識的に制御して、所望の特性を得ることもできる。
硬度の制御手段には、上記の他にも、以下に例示される種々の方法がある。例えば、第一の層の硬度を高めるために、上記の方法によって得られた接点の第一の層だけを急熱・急冷し、第一の層の残留応力を第二の層のそれより大きくする方法、表面の第一の層だけにショットプラスト加工を施して加工硬化する方法がある。また、例えば、上記の方法において、Ag合金板に熱間圧延や冷間圧延に加え熱処理を施す、いわゆるサーモメカニカルプロセッシング(熱加工処理)を行った後、内部酸化を行なって、第一の層に第二の層より微細な針状の酸化物粒子を析出させ、表面の硬度を高める方法がある。また例えば上述した圧延加工や熱間圧着の際に第一の層と第二の層の鍛練加工比を変えて行う方法がある。
以下実施例によって、本発明の電気接点の製造方法の一例と、本発明の電気接点を用いた接点アッセンブリならびに電気機器の一例を紹介する。
【実施例】
[実施例1]
表面側の第一の層(表面層)と内部側の第二の層(内部層)としてそれぞれ表1の化学組成を有する2種のAg合金を、個別に溶解・鋳造してインゴットを作製した。これらをそれぞれ粗加工した後、2種のインゴットを重ね合わせ、アルゴン雰囲気中にて850℃で熱間ロールによって接合し、2層のAg合金からなる複合素材を作製した。得られた複合素材を、いずれも同じ条件下で予備加熱した後、最終的に全体の厚みの1/10の厚みとなるように、薄い純Ag板を複合素材の表面とは反対側の裏面に熱間圧着して接続層とした。以下、実施例では、便宜上、第一の層を表面層、第二の層を内部層という。
その後、冷間圧延してフープ状素材とし、これを打ち抜いて、幅7.5mm、長さ8mm、厚み2mmの形状Aと、幅と長さが5mm、厚み1.5mmの形状Bとの、2つの形状の複合接点チップを作製した。得られた各チップを15気圧の酸素雰囲気中にて750℃で210時間保持して、表1に示す試料1〜34及び7´、7´´の各接点を作製した。酸化の途中では、所望の硬度を得るためにチップ毎に異なる条件にて200〜750℃の範囲で段階的に昇温して最終的に750℃になるようにした。得られた各試料の接点のマイクロビッカース基準による表面層の平均硬度と、表面層の厚みを下記表1に示した。尚、試料33と7´´を除き、内部層の硬度は表面層よりも低くなっている。
平均硬度の測定は、各試料の接点の表面に垂直な方向の断面上において、表面層と内部層それぞれの域内で、それぞれの厚み方向に各層の上下端付近を含め5点ずつマイクロビッカース硬度を測定し、試料の中央付近においてこの作業を6ヶ所行った。これら30点の測定値の算術平均値を各層の平均硬度とした。尚、表面層の厚みが狭い場合には、接点表面に平行な方向に30点の測定を行った。また、同じ断面上の中央付近にて、チップ表面に平行な方向に5点で表面層の厚みを測定し、それら5点の測定値の算術平均値をもって表面層の厚みとした。


尚、表1に示す各試料の組成において、試料11〜18の他成分Sb、Ni、Biの量は、いずれも0.2質量%である。また、試料19〜32の表面層と内部層は、いずれも化学組成が同じである。そして、試料19〜27の両層の他成分とその量は、Sb、Co、Znがいずれも0.05質量%、Niが0.2質量%である。試料28の両層の他成分とその量は、Sb、Pb、Ni、Bi、Co、Znがいずれも0.1質量%、Caが0.2質量%である。試料29の両層の他成分とその量は、Sb、Ni、Ca、Bi、Co、Znがいずれも0.1質量%、Pbが0.5質量%である。更に、試料30〜32の両層の他成分とその量は、Ni、Znがいずれも0.2質量%である。
試料1〜10はSnとInの量を変化させて各層の硬度を制御した試料群、試料11〜18はSnとInの量を変えると共に、他成分を更に添加した試料群、試料19〜27は表面層の厚みを変化させた試料群である。尚、試料27では、接点全体が同じ硬度であるため、表面層の厚みを接点厚みと表記とした。また、試料19〜30は表面層と内部層が同一化学組成であり、その内の試料27以外は表面層と内部層の製造過程において表面層の圧延加工比を内部層の50%増しとすると共に、圧延加工の途中において真空中で素材を450℃×30分の比較的低温にて短時間焼鈍することにより作製し、また硬度を更に高くするように酸化後にショットブラスト加工を施すことにより、表面層の硬度を制御した試料群である。また、試料7´と7´´は、その他の添加成分を含まないものであり、試料7と同じ方法で作製したものである。尚、試料31は硬度が140mHv未満の例であり、試料32はInを含まない例である。
また、試料33は特開昭61−114417号公報、試料34は特開昭58−189913号公報の記載に基づいてそれぞれ作製した試料である。即ち、試料33の接点は、表1に示す組成の表層面と内部層の各Ag合金を溶解鋳造し、熱間圧着・圧延した後、打ち抜きして作製した接点を、1気圧の酸素雰囲気にて780℃で210時間保持して酸化処理したものである。試料34の接点は、表面層と内部層の各Ag合金を溶解鋳造し、互いの合わせ面上に水平方向に1mmピッチで深さ0.5mmの凹凸を形成し、両層の凹部と凸部を互いに噛み合わせた状態で400℃に加熱しながら2ton/cmで加圧して熱間圧着した後、冷間圧延し、更に1気圧の酸素雰囲気にて650℃で酸化処理したものである。
次いで、図4に示す形状Bの固定側及び形状Aの可動側の電気銅製台金を準備した。なお、可動側台金6の長手方向の長さは50mmで、厚みは4mm、接点4を取り付けた側の幅は12mmである。一方、固定側台金7の長手方向の長さは30mmで、厚みは3.3mm、幅は全体に同じで14mmである。前記形状Aの接点チップ5を固定側台金7に、前記形状Bの接点チップ4を可動側台金6に、それぞれ銅蝋付けした。その後、定格AC30〜50Aフレームの漏電遮断器(以下ブレーカーと略記する)に固定した。このようなブレーカーアッセンブリーを、各試料の接点対毎に各3台用意した。試料1〜34の全てのアッセンブリーを使って、220V負荷状態で、30Aフレームの場合は1.5KAの遮断電流で、50Aフレームの場合は5KAの遮断電流で、それぞれ遮断試験を行って絶縁特性を確認した。絶縁特性は、電源負荷間の抵抗値を測定し、その最低値を下記表2に示した。また、元の接点と遮断試験後の接点の消耗状態を比較して、接点の消耗状態とそのバラツキを10点満点で評価した。
同様にして、電磁開閉器についても、接点の消耗状態のバラツキ特性を確認した。即ち、試料1〜34の各接点を用いた400AF定格の電磁開閉器にて、4000Aの遮断試験を行うと共に、2400Aにて閉状態とし、400Aで開状態とする動作で開閉を10万回行った。各試験前後の比較において、接点消耗量のバラツキの度合いを目視で確認し、消耗状態のバラツキの大きさを10点満点で評価した。前者が表2の「耐消耗性」の欄の結果に対応し、後者が「ブレーカー消耗バラツキ」の欄の結果に対応する。また、これらの各試料を作製する段階で、台金に接点を接合する際の接点の接合性を、蝋流れ状態、接点表面に発生する割れ等の異常の有無、爆火と呼ばれる接合異常の発生状況により、10点満点で評価した。上記の各評価結果を、下記表2に示した。


以上の結果から、以下のことが分かる。(1)表面層のSn濃度を1〜9質量%の範囲内に制御し、JIS規定のマイクロビッカース基準の硬度を表面層の平均値で150mHv以上とし、更に好ましくは表面層の厚みを10μm以上、内部層の硬度をより高いレベルに制御した本発明の接点を用いたブレーカーや電磁開閉器は、上記総合評価において充分実用可能な範囲内にある。一方、上記範囲外の比較例の接点を用いたブレーカーや電磁開閉器は、総合評価において実用レベルに達していない。(2)Sn及びInに加え、他の成分を少量含んだ場合でも同様のことが言える。(3)特開昭61−114417号公報及び特開昭58−189913号公報の記載に基づいて作製した各接点は、特段の硬度を制御する処理を行っていないため、表面の硬度レベルが本発明の範囲外となり、共に総合的に実用レベルの性能が得られなかった。
[実施例2]
上記表1の試料3、8及び9と表面層及び内部層の化学組成が同じ複合接点を作製した。ただし、内部層は実施例1と同じ鋳造圧延法にて形成し、表面層は減圧プラズマ溶射法にて形成した。即ち、まず内部層と同じ化学組成のAg合金からなる圧延素材を実施例1と同様に溶解鋳造した後、実施例1と同様に片方の面に薄い純Agの接続層を熱間圧着し、圧延してフープ形状とした。得られたそれぞれのフープ材から、幅7.5mm、長さ8mm、厚み約2mmの形状Cと、長さと幅が5mm、厚みが約1.5mmの形状Dの素材を打ち抜き、実施例1と同様にして、内部層の素材とした。
その後、それぞれの素材を真空チャンバー内に接続層を裏面にして置き、表側の面上に以下のようにして表面層を形成した。即ち、上記試料3、8及び9の表面層と同じ化学組成であり、サブミクロンから2μmまでの粒度分布を有するAg合金プレアロイ粉末を原料として準備した。フィード用のキャリアガスとしてアルゴンガスを使い、用意したプレアロイ粉末を減圧プラズマ溶射法によって上記内部層素材の表面に吹き付けて固着させ、表面層を形成した。尚、溶射中には溶射ガンの先端を自動的に揺動させ、溶射される表面層が均質になるようにした。また、表面層と内部層の密着度を上げるため、溶射前に内部層の表面を予めプラズマ炎に曝した。
得られた複合化素材を実施例1と同じ条件で酸化して、試料35〜37の接点チップを得た。いずれの接点チップも最終的な表面層の厚みは50μmであり、純Agの接続層の厚みは総厚みの約1/10であった。得られた接点チップの表面層の平均硬度を実施例1と同様に確認した。また、実施例1と同様に各接点チップを同型のブレーカー及び電磁開閉器に組み付け、実施例1と同様に電気試験を行った。得られた結果を、下記表3に示した。

上記の結果から、表面層を溶射法で形成する方法によっても、実施例1の鋳造法と同様に、表面層と内部層の化学組成が同じであり、且つ表面層の平均硬度が150mHv以上で内部層のそれが130mHvを越える複合電気接点の製造が可能であること、更にこの接点を使用することによって実用上優れたブレーカーの提供が可能であることが分かる。
[実施例3]
上記表1の試料1、2及び6と表面層及び内部層の化学組成が同じ複合電気接点を作製した。ただし、内部層は実施例1と同じ鋳造圧延法にて形成し、その上に表面層を蒸着法にて形成した。即ち、内部層と同じ化学組成のAg合金からなる圧延素材を実施例1と同様に溶解鋳造した後、実施例1と同様に片方の面に薄い純Agの接合層を熱間圧着し、更に圧延してフープ形状とした。得られた各フープ材から実施例2の形状Cと形状Dの素材を打ち抜きし、内部層の素材とした。
その後、それぞれの素材を真空チャンバー内に純Agの接続層を裏面にして置き、表面上に以下のようにして表面層を形成した。まず、表1の試料1、2及び6の表面層と同じ化学組成のターゲットを用意した。真空チャンバー内の温度はSnの再蒸発を防ぐため180℃に保ち、圧力は数Torr〜数十Torrのアルゴンガス分圧に保持しつつ、上記ターゲットを使ってマグネトロンスパッタ法で蒸着し、内部層表面に同ターゲットと同じ組成の表面層を形成した。尚、表面層と内部層の密着度を上げるため、蒸着前に内部層の表面を予め高周波によって発生させたイオンによりクリーニングを施した。
得られた各複合化素材を実施例1と同じ条件で作製し、試料38〜40の接点チップとした。いずれの接点チップも最終的な表面層の厚みは30μmであり、純Agの接続層の厚みは総厚みの約1/10であった。得られた接点チップの表面層の平均硬度を実施例1と同様に確認した。また、実施例1と同様にして各接点チップを実施例1と同型のブレーカー及び電磁開閉器に組み付け、実施例1と同様に電気試験を行った。得られた結果を、下記表4に示す。


この結果から、表面層を蒸着法で形成する方法によっても、実施例1の鋳造法と同様に、表面層と内部層の化学組成が同じであり、且つ表面層の平均硬度が150mHv以上で内部層のそれが130mHvを超える複合電気接点の製造が可能であること、更にこの接点を用いることによって実用上優れたブレーカーの提供も可能であることが分かる。
[実施例4]
上記表1の試料19及び20の内部層と化学組成が同じ複合接点素材を、実施例1と同様に、溶解鋳造、純Ag接続層の圧着、冷間圧延法にて作製した。これらの素材を表面層を上にしてショットブラストチャンバー内に配置した後、その表面のみを#120のアルミナビーズによって選択的にショットブラスト加工を施した。その際の条件は、通常のショットブラスト仕上げ加工とは異なり、6kgf/cmの高い投射圧で30分とした。
その後、実施例1と同様に750℃で210時間保持して内部酸化を施し、試料41、42の接点チップとした。最終的な接点チップの組み合わせサイズは実施例1と同じであり、表面層の厚みはいずれも20μmであり、純Ag層の厚みは総厚みの約1/10であった。各接点チップの表面層の平均硬度を実施例1と同様に確認した。また、各接点チップを実施例1と同様にして同型のブレーカー及び電磁開閉器に組み付け、実施例1と同様に電気試験を行った。得られた結果を、下記表5に示す。

この結果から、内部層と表面層を溶解鋳造法で形成し、更にその表面層の表面を加工硬化する方法によっても、表面層の平均硬度が150mHv以上であり、内部層のそれが130mHvを越える複合電気接点の製造が可能であること、更にこの接点を用いることによって実用上優れたブレーカーの提供も可能であることが分かる。
[実施例5]
上記表1の試料1〜4、6、7、16、21、25〜27と表面層及び内部層の化学組成が同じ複合電気接点を作製した。ただし、表面層と内部層を実施例1と同様に溶解鋳造法により別々に作製し、表面層となる素材に圧下率50%の強加工を冷間で加えた後、これらを熱間圧着し、更に内部層の裏面側に薄い純Ag層を熱間圧着し、全体を圧延加工してフープ素材とした。これを10−5Torr以下の真空中にて300℃で2時間焼鈍した後、実施例1と同じサイズの2種の形状に打ち抜いて複合素材を得た。得られた各複合素材を実施例1と同様に酸化処理し、試料43〜53の接点チップとした。
最終的なチップの組み合わせサイズは実施例1と同じであり、表面層の厚みは表1の対応する各試料の厚みと±2%以内で同じになるようにした。得られた各試料の表面層の平均硬度は表1の対応する各試料の硬度より10〜20mHvだけ高い値となった。純Agの接続層の厚みは、いずれも総厚みの約1/10であった。各接点チップを実施例1と同様に同型のブレーカー及び電磁開閉器に組み付け、実施例1と同様に電気試験を行った。得られた結果を、下記表6に示す。
また、上記試料43〜53と同一の化学組成であるが、上記のように表面層と内部層の2枚の溶解鋳造材を熱間圧着するのではなく、表面層の化学組成を有する1枚の溶解鋳造材を用い、これを薄い純Agの接続層と熱間圧着した後、上記と同様の工程で酸化処理を行って、試料54〜64の接点チップを作製した。ただし、上記酸化処理の際には、それぞれの層の所望の平均硬度を得るためにチップ毎に200〜750℃の範囲で段階的に昇温した。その後、酸化初期における酸化温度を600℃とし、後に750℃で酸化する方法にて行った。また、表面層の厚みと平均硬度は、表1の対応する各試料の厚み及び平均硬度と±2%以内で同じになるように、低温での酸化温度と酸化時間をコントロールした。
得られた試料43〜64の各接点チップについて、実施例1と同様に同型のブレーカー及び電磁開閉器に組み付け、実施例1と同様に電気試験を行った。得られた結果を、下記表6に示す。



この結果から、溶解鋳造法による上記方法によっても、表面層の平均硬度が150mHv以上で、内部層のそれが130mHvを越える複合電気接点の製造が可能であること、更にこの接点を用いることによって実用上優れたブレーカーの提供も可能であることが分かる。
[実施例6]
上記表1の試料6及び8と表面層及び内部層の化学組成が同じ複合電気接点を作製した。ただし、実施例1と同様に表面層と内部層の組成を有する各素材を溶解鋳造し、板状に圧延した。次に、これらの板材を張り合わせ、両素材間の気密性を保持するため、予め張り合わせ部分をミクロ溶接した後、大気中にて800℃で加熱し、押出比(断面積比)80にて熱間押出成形した。押出された複合化素材の内部層裏面側に薄い純Agの接続層を実施例1と同じ条件で熱間圧着し、更に圧延した後、実施例1と同じサイズの2種の形状に打ち抜いた。得られた複合化素材を実施例1と同様に内部酸化し、試料65〜66の接点チップを得た。
最終的なチップの組み合わせサイズは実施例1と同じであり、表面層の厚みはいずれも50μm、純Agの接続層の厚みはいずれも総厚みの約1/10であった。試料65〜66の各接点チップについて、表面層の平均硬度を実施例1と同様に確認した。また、各接点チップを実施例1と同様に同型のブレーカー及び電磁開閉器に組み付け、実施例1と同様に電気試験を行った。得られた結果を、下記表7に示す。

この結果から、溶解鋳造法で作製された表面層と内部層を張り合わせた後、熱間押出・圧延することによって、実施例1と同様に、表面層と内部層の化学組成が同じであり、且つ表面層の平均硬度が150mHv以上で、内部層のそれが130mHvを越える複合電気接点の製造が可能であること、更にこの接点を用いることによって実用上優れたブレーカーの提供も可能であることが分かる。
[実施例7]
上記表1の試料8及び15と表面層及び内部層の化学組成が同じ複合電気接点を、粉末冶金法によって作製した。即ち、これらに対応する化学組成のAg合金粉末をそれぞれ用意し、ロータリーキルン内で実施例1と同じ雰囲気・温度条件で内部酸化した。その後、表面層と内部層が試料8及び15と同じ組成の組み合わせとなるように、それぞれの粉末を積層して粉末成形し、直径80mm、総高さ200mmの円柱状プリフォームを作製した。その際、表面層に相当する部分は、全体の1/10となるようにした。
次に、このプリフォームをアルゴンガス中にて800℃で加熱し、直ちに熱間押出成形して板状にした。この押出体の内部層側の裏面に実施例1と同様に薄い純Agの接続層を熱間圧着し、更に圧延してフープ状とした後、実施例1と同じサイズの2種の形状に打ち抜いて、試料67〜68の接点チップとした。最終的なチップの組み合わせサイズは実施例1と同じであり、純Agの接続層の厚みはいずれも総厚みの約1/10であった。
得られた試料67〜68の各接点チップについて、表面層の平均硬度と表面層の厚みを実施例1と同様に確認した。また、これらの接点チップを実施例1と同様にして同型のブレーカー及び電磁開閉器に組み付け、実施例1と同様に電気試験を行った。得られた結果を、下記表8に示す。


この結果から、粉末冶金法で作製された複合接点でも、表面層の平均硬度が150mHv以上であり、内部層のそれが130mHvを越える複合電気接点の製造が可能であること、更にこの接点を用いることによって実用上優れたブレーカーの提供も可能であることが分かる。尚、上記いずれの試料もCd濃度は0.01質量%未満であった。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は2003年7月18日出願の日本特許出願(特願2003−199389)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、Snを含むAg合金からなるCdフリーの電気接点で、少なくとも表面側の第一の層の平均硬度を150mHv以上、内部側の第二の層のそれを130mHvを越えるように制御することによって、更に好ましくは表面層の厚みを10μm以上に制御することにより、従来CdフリーAg合金接点で問題であった耐消耗性とそのバラツキならびに絶縁性能さらには台金との接合強度のバラツキ性能が改善され、優れた特性を有する接点電気を提供することができる。従って、本発明の電気接点は、Cdフリーのため毒性に問題の無い接点として、従来のCd入りのAg合金からなる電気接点に代わって、ブレーカーや電磁開閉器などの電気機器に利用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snを1〜9質量%、Cdを0を含め0.01質量%未満含むAg合金からなり、表面側の第一の層とそれより内部側の第二の層との二層構造からなり、第一の層は、その平均硬度が、JISに規定されるマイクロビッカース基準で150以上、その厚みは10μm以上であり、前記第二の層は、その平均硬度が前記マイクロビッカース基準で130を超えている電気接点。
【請求項2】
前記第一の層の前記基準の平均硬度が、190以上である請求の範囲第1項に記載の電気接点。
【請求項3】
Snに加えInを1ないし9質量%含む請求の範囲第1項または第2項に記載の電気接点。
【請求項4】
Sn、In以外の添加成分として、Sb、Ca、Bi、Ni、Co、Zn、Cu、Mo、W、Ge、Te、CrおよびPbの元素群から選ばれた少なくとも1種を含む請求の範囲第1項〜第3項のいずれか1項に記載の電気接点。
【請求項5】
請求の範囲第1項〜第4項のいずれか1項に記載の電気接点を使った電気機器。

【国際公開番号】WO2005/007907
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511925(P2005−511925)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010535
【国際出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】