説明

電気泳動システム

【課題】 電気泳動の実施、電気泳動パターンの撮影、および分離した生体高分子試料の切り出しが可能な電気泳動システムにおいて、電気泳動の画像を獲得する際に電気泳動結果を可視化する蛍光試薬あるいは呈色試薬の発色波長特性を反映した、ノイズの少ない電気泳動画像を獲得する。
【解決手段】 電気泳動の画像をカラー画像として獲得した後、色成分毎に分割した画像を得る。次に色成分に分割した画像を蛍光試薬あるいは呈色試薬の発色波長特性に応じた比率で再構成することにより波長特性を反映したノイズの少ない電気泳動画像の獲得可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体高分子、とりわけ核酸を分析するための電気泳動システムに関するものである。
【0002】
本発明は、核酸の電気泳動システムに関し、より詳細には、電気泳動システムにより核酸を分子量毎に分離し、その画像を撮影すると共に、電気泳動の支持体より、核酸の切り出し、および抽出回収を行う技術に関する。
【0003】
本発明は、電気泳動システムに関し、特に電気泳動により核酸を分子量毎に分離させた結果の画像を得るために、発色波長、あるいは呈色波長に応じた画像を、簡便に獲得可能とするものである。
【背景技術】
【0004】
従来より、生体高分子、とりわけ核酸の電気泳動装置による分子量に基づいた分離、解析方法は、簡便かつ安価であると共に、分析精度も高いため、核酸分析の装置として、広範囲に利用されている。以下、核酸の電気泳動に関して述べる。
【0005】
電気泳動による核酸の分析は、まず、両端に電圧を導電する電極を緩衝液で接触させる電気泳動槽に、核酸試料が移動する支持体を付設することにより構成されている。この電気泳動の支持体としては、アガロース、あるいはポリアクリルアミドなどのゲル状物質が使用されている。また、装置の形態としては、取り扱いの容易さから、支持体を横面に設置する水平方式の電気泳動装置が汎用されている。電気泳動の動作は、支持体の一端に形成した溝に核酸試料を滴下し、支持体の両端に電圧を印加させ、支持体中の核酸試料を電気的に移動させる。この時に、支持体の網目構造により核酸試料の移動が制約を受け、分子量が大きい程移動度が遅くなることにより、核酸の分子量に基づいた分離が可能となる。さらにこのようにして分離した核酸を、支持体より核酸画分毎に切り出し、VogelsteinとGillespieの方法(非特許文献1)、あるいはMolecular Cloningに記載の方法(非特許文献2)などの適当な方法で、核酸を抽出回収することが可能であり、核酸試料からの不純物質の分離除去、ベクターへの組み込み、配列マッピングなどへ利用されている。
【0006】
なお、この核酸分画を回収する方法としては、電気泳動装置を利用する方法以外にも、高速液体クロマトグラフィーに代表されるカラムクロマトグラフィーを利用する方法などがあるが、核酸の分離精度に対する装置の簡便性、融通性、装置価格、維持費用などを勘案した場合、電気泳動装置による方法は、極めて高効率であるため、専ら核酸画分の回収には、電気泳動による方法が利用されている。
【0007】
この電気泳動装置の利便性をさらに向上させるため、支持体の小型化を図り、電圧印加により生じるジュール熱を抑制する提案がなされており、これにより、電気泳動の短時間化が可能となり、設置場所も、制約を受けないものとなり、作業効率の向上に貢献するものとなっている(特許文献1、および特許文献2)。
【0008】
次に、電気泳動により分離した核酸の検出方法については、臭化エチジウム等の核酸結合性蛍光試薬を、電気泳動前に予め支持体中に混合するか、あるいは電気泳動後、支持体をこれらの溶液中に浸漬してこれらの溶液を支持体中に浸潤させ、支持体中の核酸試料とこの蛍光試薬とを結合させた後、蛍光試薬を紫外線により励起し蛍光発色させて、支持体中の分離した核酸試料を可視化させるようにしている。ここで、この紫外線を照射する装置は、トランスイルミネーターと呼ばれている。
【0009】
この紫外線照射により可視化した核酸試料の電気泳動結果は、従来、フィルム式カメラを利用した画像撮影によりデータを取得していたが、近年の電子デバイスの進歩と共に、電荷結合素子(CCD)式カメラを採用した電気泳動画像撮影装置が提案され(特許文献3、非特許文献3)、画像をデジタル化することが可能となり、フィルム式に比べ、撮影の簡便性、データの保存性、およびコンピュータ等のデジタルデバイスとの親和性が高く、電気泳動の短時間化と共に、一連の電気泳動手技の作業効率の向上に貢献している。
【0010】
このCCD式カメラにおいては、周囲温度が高くなるに従い、CCD自体に暗電流が増加し、結果として撮影した画像にノイズが発生してしまう、という欠点があったが、これに対しては、CCDへ冷却素子を設置する方法(特許文献4、特許文献5、および特許文献6)、電気泳動撮影装置全体を冷却、放熱する方法(特許文献7)などが提案されている。一方、CCDを冷却しない場合、ノイズ防止方法として、CCDに、画像読取領域と、非読取領域とを設け、画像読取領域のデータから非読取領域のデータを減算する方法(例えば特許文献8)など、暗電流を補正する方法や、さらにフィルム式カメラでは、電気泳動の画像を獲得する時に励起光である紫外線、及び紫外線のガイド光である青紫色光の、カメラレンズへの入射を防止するために、カメラレンズ手前にこれらの波長の透過をカットするフィルターを設置する方法等があったが、CCD式カメラでは、フィルターの設置のみでは、完全に上記紫外線、及び青紫色光のカメラレンズへの入射を防止することは困難であり、これらのカメラレンズへの入射は、獲得した画像のノイズの原因となるため、励起光照射時の画像データから非励起光照射時の画像データを減算し、励起光に起因する散乱ノイズを除去する方法(特許文献9)、あるいは、ダイクロイックミラーを設置して励起光に起因するノイズを除去する方法(特許文献10)などが多数提案され、CCD式においても、フィルム式と同等のノイズのない画像の獲得を可能としている。
【0011】
また近年、これら電気泳動装置と、画像撮影装置とを一体化させて、電気泳動のリアルタイムモニタリングを行うものが提案されており、電気泳動による最適な核酸分離分析、及び画像の取得を可能にしている(特許文献11、特許文献12、および特許文献13)。
【0012】
電気泳動により分離した核酸の支持体からの抽出回収については、従来、鋭利な刃物を利用して支持体より目的の核酸画分を切り出し、非特許文献1、あるいは非特許文献2などの適当な方法により核酸を抽出回収していたが、近年、機械的に支持体より核酸分画を切り出す装置、および機械的に抽出回収を行う装置(特許文献14、特許文献15、特許文献16、特許文献17)が提案され、従来の手動による方法に比べ、作業効率を大幅に向上している。
【特許文献1】特開平10−288597号公報
【特許文献2】特開2002−328113号公報
【特許文献3】特許第2838117号公報
【特許文献4】特開平10−209419号公報
【特許文献5】特開平10−215395号公報
【特許文献6】特開2000−101888号公報
【特許文献7】特開平11−266382号公報
【特許文献8】特許第2686166号公報
【特許文献9】特開2000−292353号公報
【特許文献10】特開2003−35672号公報
【特許文献11】特開2000−105219号公報
【特許文献12】特開2002−357590号公報
【特許文献13】特開2003−240756号公報
【特許文献14】特許第3381484号公報
【特許文献15】特開2001−22176号公報
【特許文献16】実用新案310144号公報
【特許文献17】特開2000−88804号公報
【非特許文献1】ヴォーゲルステイン(Vogelstein.B.),ギレスピー(Gillespie.D.)、「米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)」、1979年、76巻、615−619頁
【非特許文献2】サンブルック(Sambrook. J.),フリッチ(Fritsch. E. F.),マニアティス(Maniatis. T.)編、「Molecular Cloning(モレキュラークローニング)第2版」、1989年、コールドスプリングハーバー研究所出版(Cold Spring Harbor Laboratory Press)刊、6.22−6.35頁
【非特許文献3】サザーランド(Sutherland.J.F.)ら、「アナリティカルバイオケミストリー(Anal.Biochem.)」、1987年、163巻、446−457頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前記従来の電気泳動装置では、装置本体を小型化することにより、核酸試料量を軽減し、電気泳動時間の短縮に貢献できているが、この場合、その利用用途は、少ない試料数の核酸試料に対し試料中の核酸の分子量の決定をすること、核酸試料の夾雑物の有無の判定をすること、のみに限定され、多量、あるいは多数の試料に対する電気泳動を実施すること、および電気泳動により分離した核酸画分の適当量を分取すること、は困難となるという課題を有していた。
【0014】
次に、電気泳動画像撮影装置は、CCDカメラの採用により利便性は向上したが、従来からのフィルム式カメラの場合と同様に、少ない試料数から多量試料数までの電気泳動結果、および泳動長が50〜300mm程度までの大小さまざまな寸法の支持体に対して、対応可能とするために、撮影範囲を広く設計する必要があり、結果として、装置の占有面積、装置自身の外寸が大きくなり、設置場所を制約してしまうことがフィルム式カメラによる撮影装置からの課題として残されていた。
【0015】
このCCD式カメラにおいては、フィルム式に比べ、画像にノイズを取り込みやすいという欠点を有しているため、励起光と、非励起光を照射し、2種類の画像からノイズ成分を減算する方法、あるいはダイクロイックミラーを設置し、励起光に起因するノイズを除去する方法が提案されているが、励起光画像と、非励起光画像を減算する方法は、画像撮影を2度しなくてはならず煩雑であり、ダイクロイックミラーを設置する方法は、撮影素子の構成が複雑になるなど、電気泳動画像撮影の利便性、簡便性を低下させる要因となっている。
【0016】
また、比較的大きな寸法の支持体全体を撮影しようとする場合、被写体である支持体と、カメラ位置との間の距離を遠くにしなければならないが、遠距離になるに従い、支持体中の核酸試料の蛍光強度が減衰するため、カメラ距離が遠くても撮像可能なように、蛍光を励起するための過度の紫外線光量を必要としなければならず、そのため通常は、高光量の紫外線蛍光管を、複数本並列に設置されている。
【0017】
しかしながら、蛍光管のソケット形状、および蛍光管交換の作業性の観点から、蛍光管同士には若干の間隔が生じているため、蛍光管配置位置と、蛍光管同士の隙間位置では、紫外線光量のムラが発生する。また、蛍光管と平行方向の位置に存在する支持体により保持される核酸試料の蛍光強度は、一定であるのに対し、蛍光管と垂直方向の位置に存在する支持体により保持される核酸試料の蛍光強度は、一定しないという課題を有していた。
【0018】
さらに、蛍光管の経時変化や温度特性により、規定の電圧を印加しても常に一定の紫外線光量を照射することは困難であるという課題を有していた。
【0019】
このカメラ距離によって生ずる課題を解決するため、カメラレンズを広角仕様にすることにより、カメラ距離が遠くなくても撮像範囲を広くすることは可能であるが、この場合、広角レンズによる被写体の取り込みは画像を湾曲させてしまうという欠点を有しているため、その使用を困難にしているという課題を有している。
【0020】
このように被写体である支持体と、カメラ位置との間の距離により生じる課題を解決するためには、支持体に対し必要以上の高光量の紫外線を照射しなければならないが、そのために、紫外線暴露により誘引される核酸分子の部分断絶、核酸分子に存在する塩基であるチミン同士の重合(チミンダイマー)形成を回避することはできず、支持体から回収した核酸試料を利用した後続の試験結果には、これらの影響が存在していることを考慮しなければならないという課題を有していた。
また、核酸の電気泳動の結果を可視化するための核酸結合性蛍光試薬には、従来、臭化エチジウムが利用されていたが、近年、臭化エチジウムに比べ、高感度、高選択性、低毒性の核酸結合性蛍光試薬が開発されているが、図8の臭化エチジウム(図8中のA)、SYBR Green I(図8中のB)、POPO−1(図8中のC)の蛍光スペクトルに示されるように、各種核酸結合性蛍光試薬の蛍光波長は、蛍光試薬毎に異なるため(Molecular Probes社発行、Haugland,R.P.編、Handbook of Fluorescent Probes and Research Products 第8版より引用)、使用する試薬に応じて、カメラレンズ前に設置する透過波長を制限するフィルターを、適時交換しなければならないという課題を有していた。
【0021】
次に、電気泳動、および画像撮影を一体化させた装置においては、電気泳動のリアルタイムモニタリングを実現し、最適な核酸分離状態を検出可能とするが、一体型装置の外寸は、電気泳動装置の外寸により規定され、電気泳動装置の外寸が大きくなるに従い、一体型装置自身の外寸も大きくなるため、設置場所が制約されると共に、断続的に紫外線を暴露するため、上述した通り、核酸分子の部分断絶、チミンダイマーの形成を回避することができず、支持体からの核酸回収に不適切であるという課題を有していた。
【0022】
そのため、かかる一体型装置においての電気泳動は、核酸の分子量に応じた分離分析のみにその使用が制限されている、という課題を有していた。
【0023】
また、リアルタイムモニタリングすることで、最適な核酸分離状態を決定し、電気泳動を停止する方法は、従来通り、手動によるものであるため、電気泳動停止までの待機時間を回避することが困難であり、また、タイマー設定による電気泳動の停止も考案されているが、最適な条件で停止する時間を設定するには、条件設定を十分に理解するなど電気泳動に関し、高い経験を要するため、電気泳動に不慣れな場合、有効な手段とはなりえないという課題を有していた。
【0024】
さらに、電気泳動停止後、核酸試料は支持体内で滞留せず、経時的に自然拡散するため、電気泳動停止後直ちに画像撮影する必要があり、タイマー設定による電気泳動自動停止も、待機時間解消の有効な解決手段になりえないという課題を有していた。
【0025】
最後に、電気泳動後の支持体からの核酸画分の切り出しは、専ら手動で鋭利なナイフを利用し切り出すため、紫外線を直視しながら操作する必要がある。この際、紫外線の暴露から作業者を保護する保護具を着用するが、通常、紫外線ランプには紫外光以外にもガイド光として青紫色可視光を混合させているため、高光量の青紫色可視光を直視しなければならず、作業者に重篤な眼性疲労を誘引する原因となっている。
【0026】
また、核酸分画の切り出し中においても、上述した電気泳動停止後に発生する核酸試料の支持体中での自然拡散が生じ、限定された時間内に切り出し操作をしなければならない、という課題を有していた。
【0027】
本発明は、前記従来の課題を解決するためになされたもので、装置の可動が容易で、設置場所に制限を受けることがなく、かつ、支持体の寸法に柔軟に対応可能で、電気泳動画像撮影時にノイズの少ない、蛍光発色、あるいは呈色発色に起因した画像を獲得することができる、小型で安価な電気泳動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
前記従来の課題を解決するために、本発明にかかる電気泳動システムは、生体高分子試料を分離解析する電気泳動システムにおいて、前記生体高分子試料を、支持体を用いて電気泳動させるための電気泳動槽と、前記電気泳動槽内に設けた前記支持体の両端に電圧を印加し、前記生体高分子試料を電気泳動させる電圧印加手段と、前記生体高分子試料の電気泳動の結果を撮影する画像撮影手段と、前記画像撮影手段により獲得した画像より、前記支持体中における生体高分子画分の位置情報を算出し、該支持体で分離させた前記生体高分子画分を切り出す切り出し手段とを有し、前記生体高分子画分を電気泳動させるその開始から、該電気泳動させた生体高分子試料画分を抽出回収するまでを一連に実施可能とした電気泳動システムであって、前記電気泳動結果の画像を撮影する画像撮像手段が該画像を色成分毎に分割して獲得した後、該画像の発色波長、あるいは呈色波長に応じて、色成分比率を変えて電気泳動画像を再構成する、ことを特徴とするものである。
【0029】
また、本発明にかかる電気泳動システムは、画像撮影手段により分割撮影された複数の電気泳動結果の画像を合成するための、あるいは該各電気泳動結果の画像の前記支持体上での位置情報を獲得するための位置マーカーが、前記電気泳動結果の画像の発色波長、あるいは呈色波長の領域以外のものであり、前記電気泳動結果の画像を色成分毎に分割した後に、該画像の発色波長、あるいは呈色波長に応じて、色成分比率を変えて電気泳動画像を再構成する際に、該位置マーカーは非表示とされる、ことを特徴とするものである。
【0030】
さらに、本発明の電気泳動システムは、電気泳動結果の画像を撮影する画像撮像手段へ取り込む光波長を、画像の発色波長、あるいは呈色波長に応じて制限するフィルターを、前記発色波長、あるいは呈色波長を有する蛍光試薬、あるいは呈色試薬の分光特性を用いることなく、可視光波長領域透過フィルターとした、ものである。
【0031】
また、本発明の電気泳動システムは、電気泳動結果の画像を、少なくとも3種類の色成分に分割して獲得したのち、各色成分の画像を、画像の発色波長、あるいは呈色波長に応じた上記と異なる各色成分の画像に再構成し、電気泳動画像を獲得する、ことを特徴とするものである。
また、本発明にかかる電気泳動システムは、前記電気泳動結果の画像を、少なくとも3種類の色成分に分割できるよう、前記電気泳動結果の画像を、初期にカラーで獲得する、ことを特徴とするものである。
【0032】
また、本発明の電気泳動システムは、前記電気泳動結果の画像を撮影する画像撮像手段が、カラー方式の電荷結合素子(CCD)、あるいは相補型金属酸化膜半導体(CMOS)デバイス、あるいはフォトダイオードよりなる固体撮影素子であり、電気泳動結果の画像をデジタル化して獲得する、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明にかかる電気泳動システムによれば、電気泳動の実施をし、電気泳動による核酸試料の分離をして電気泳動結果の画像の撮影をした後、該撮影した画像データから分離した核酸画分の位置情報に基づいて、該核酸画分を支持体より切り出す動作を一連に実施可能とした電気泳動システムにおいて、電気泳動を実施した結果の画像を撮影する際、ノイズ成分が少なく、蛍光発色、あるいは呈色発色に起因した画像を、簡便に獲得可能であり、かつ、システム本体の設置場所を制限しない可動性を有する、小型で安価な電気泳動システムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の電気泳動システムの実施の形態を、図面とともに詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1による電気泳動システムの内部の概略構成の斜視図を示し、図2は、本実施の形態1による電気泳動システムのブロック構成図を示す。
【0035】
本実施の形態1による電気泳動システムは、主にY軸方向に駆動可能なテーブル機構40、X軸方向に駆動可能なキャリッジ機構60、Z軸方向に駆動可能な切り出し手段62、画像撮影手段61、および紫外線照射部70から構成されている。テーブル機構40は、テーブル機構動力伝達部42に対して歯車を介してステッピングモータなどの駆動量を制御可能な駆動用モータ(図示せず)が接続され、駆動用モータの回転動力を直線運動に変換することにより該テーブル機構40が駆動される。このテーブル機構40の中心部は、窓状に開口されているか、または紫外線透過性アクリル樹脂(例えば、住友化学製スミペックス010など)、あるいは紫外線透過性ガラス(例えば、旭テクノグラス製UV−33S、UV−29など)などの紫外線透過性の高い材料で構成されている。さらに、前記テーブル機構40は、Y軸方向にスライド移動可能なスライドテーブル45を挿入可能であり、該スライドテーブル45は、前記テーブル機構40と同様に中心部が窓状に開口しているか、または前述のような紫外線透過性の高い材料で構成され、テーブル機構40内をY軸方向に移動することができる。また、スライドテーブル45は、電気泳動槽10の設置部、および切り出し器具ホルダー30の設置部、を有している。前記スライドテーブル45に設置可能な電気泳動槽10は、電気泳動の支持体となる電気泳動用ゲルを付設するための支持体付設面11を有し、該支持体付設面11に設置された電気泳動用ゲル101の両端に電圧を印加するための白金線等の電極14を備えており、かつ、該電極に電圧を印加するための受電部(図示せず)を有し、電気泳動システム本体に設けられた電力供給部(図示せず)と脱着可能な構造となっている。
【0036】
前記テーブル機構40の直上には、画像撮影手段61と、前記切り出し器具21を把持可能な切り出し手段62とを一体として有するキャリッジ機構60が設けられており、該キャリッジ機構60は、これをスクリューナット66、リードスクリュー64、直動シャフト63、歯車58等によってX軸方向に駆動可能とされている。本実施の形態1では、該キャリッジ機構60に搭載された画像撮影手段61は、エリアCCD方式のカメラを採用し、撮影された電気泳動パターン画像をデジタル化することが可能なものである。また、上記キャリッジ機構60に搭載された切り出し手段62は、電気泳動槽より支持体を切り出すための切り出し器具20を、切り出し器具動作用モータ56によりZ軸方向に駆動可能に有しており、ここで、該Z軸方向は電気泳動槽10内の支持体付設面11に対して垂直な方向である。
【0037】
さらに、上記切り出し手段62は、その下面に、上記切り出し器具20を把持する切り出し器具把持ピン65を備えて構成され、該切り出し器具把持ピン65は、上記切り出し器具20の上部接続部21に接続可能な構成となっている。
【0038】
また、前記テーブル機構40の下部には、紫外線照射部70が設けられている。紫外線照射部70は、紫外線光源71を設け、かつ該紫外線光源71とテーブル機構40との間に、紫外線光源71に由来する可視光領域の波長の透過を防止する第1の光学フィルター91を設置する。また、前記キャリッジ機構60に搭載された画像撮影手段61には、紫外線の透過を防止する第2の光学フィルター92を設置してある。
【0039】
さらに、図2は、上記本実施の形態1の電気泳動システムのブロック構成を示すが、本実施の形態1では、この図2に示すように、さらに、紫外線照射部70の点灯、消灯、画像撮影手段61の撮影の制御、撮影された画像を元にした電気泳動槽10の電圧の制御、自動的に、または手動により指定した箇所のゲルを切り出すためのテーブル機構40の駆動、キャリッジ機構60の駆動、切り出し手段62の駆動を制御するシステム制御部120を備えている。
【0040】
さらに、システム制御部120においては、前記テーブル機構40およびキャリッジ機構60、前記画像撮影手段61を操作するためのCPU124およびインターフェース部125、分割撮影して得た複数枚のゲル画像を保持する記録装置126、該分割撮影した複数枚の画像を1枚の画像に合成するための画像合成手段121、合成画像の色成分毎の分割を行い、かつ、その色成分比率を変換した上での画像の再構成を行う色成分比率変換・再構成手段122、及び撮影したゲル画像から核酸画分の位置を計測する核酸画分位置計測手段123、を有している。
【0041】
以上のように構成された本実施の形態1の電気泳動システムについて、以下その動作および作用を説明する。
まず、電気泳動槽10内の支持体付設面11に電気泳動用ゲル101を設置する。支持体である電気泳動用ゲル101の一端に設けた注入口に核酸試料を注入した後、ゲルの両端に設置された1対の電極14間に規定の電圧を印加する。電圧を印加することで負に帯電している核酸試料は陰極から陽極方向に向かって移動を開始する。ゲル内部は微細な網目状となっているため、ゲル内部を移動する核酸試料はその分子量の大きさによって移動する速度が異なり、一定時間、電圧を加えたゲル内部では、分子量に基づいてゲルの注入口とほぼ同じ幅の帯状に分離される。このとき、紫外線光源71を点灯して核酸試料に紫外線を照射すると、核酸試料に予め混合、あるいは電気泳動用ゲルに予め混合しておいた臭化エチジウムなどの核酸結合性蛍光試薬が蛍光発色する。この蛍光を画像撮影手段61にて撮影することで、核酸試料が分子量に基づいて帯状に分離している電気泳動パターンの画像を得ることが出来る。このとき、第1の光学フィルター91(例えば、前記、住友化学製スミペックス010、旭テクノグラス製UV−33S、UV−29など)により、紫外線光源71から発している核酸結合性蛍光試薬が蛍光発色するための紫外線以外の不要な可視光領域の波長が電気泳動用ゲル101に照射することを機械的に防止する、また、核酸試料に混合した核酸結合性蛍光試薬の蛍光発色のみを画像撮影手段61に獲得させるため、紫外線光源由来の紫外光が画像撮影手段61へ透過することを機械的に防止する第2の光学フィルター92(例えば、富士写真フィルム製SC−40Mなど)を設置する。
【0042】
また、本実施の形態1においては、電気泳動槽10がテーブル機構40の直上に設置されていることと、画像撮影手段61がゲル面上を移動可能なキャリッジ機構60に搭載されていることとから、画像撮影手段61であるカメラと被写体であるゲルとの距離が小さく、それに伴い撮影範囲も小さくなる。そこで、前記画像撮影手段61の撮影範囲を超えるような大面積ゲルの撮影を行う場合は、システム制御部120を用いて、テーブル機構40の駆動用の駆動用モータ(図示せず)と、キャリッジ機構60の駆動用のキャリッジ用モータ55を駆動させることで、テーブル機構40、およびキャリッジ機構60をゲル面上の任意の場所に移動させることができ、画像撮影手段61にてゲルを部分的に分割して撮影し、システム制御部120内の記録装置125に記録する。システム制御部120内の記録装置に記録された分割画像は、システム制御部120内に設けられた画像合成手段121を利用することで、1枚の電気泳動パターン画像とし、画像色成分分割・色成分比率変換・再構成手段122を利用することで、画像合成手段121で合成した画像に対し色成分毎に画像分割し、各色の色成分比率を、核酸結合性蛍光試薬の蛍光波長特性に応じた色成分比率に再構成して、ノイズの少ない蛍光試薬の特性に反映した画像を得ることができる。
【0043】
このように、本実施の形態1においては、核酸試料の泳動中の状態を、連続的に、または一定の時間間隔で撮影し、その電気泳動撮像結果から、各核酸画分の位置を核酸画分位置計測手段123により求め、最適な泳動パターンを自動で判断し電気泳動槽10の電極14への印加電圧を制御するようにすることが可能である。
【0044】
また、この画像撮影手段61により、電気泳動支持体中の電気泳動の泳動状態の基準となるサイズマーカーの泳動パターンを、連続的にあるいは一定時間間隔毎に撮影し、システム制御部120において、取得した画像情報に基づいてサイズマーカーの泳動パターンを演算することにより、電気泳動の好適な停止を実現することができる。
【0045】
また、画像撮影手段61が電気泳動用ゲル101上を走査するため、画像撮影手段61による電気泳動用ゲル101の画像は、ゲルサイズに影響されず、同一の解像度の画像を獲得することが可能となり、従来の画像撮影装置のようにゲルサイズが大きい場合のズーム機能による縮小撮影が必要でなくなり、縮小による画像解像度の低下も発生しない。
【0046】
また、画像撮影手段61と、被写体であるゲル101と、紫外線照射部70とが、比較的近距離に設置した構造であるため、紫外線光源71の光量を必要最小限にすることが可能となり、従来は紫外線光源の光量が90ワット程度要していたが、本実施の形態1においては15ワット程度で画像撮影が可能であり、核酸試料に対する過度の紫外線の暴露を、回避可能としている。
【0047】
次に、電気泳動実施後の分離した核酸を核酸画分毎に切り出す本実施の形態1におけるゲル切り出し手段62について説明する。
これまでにも述べたように、電気泳動から撮影まで実施した核酸試料を、さらに後の実験にて使用する際には、ゲルの切り出しによる核酸試料の抽出が必要となる。
【0048】
本実施の形態1による電気泳動システムにおいては、まず前記のような方法によって電気泳動パターンを撮影する。その電気泳動パターン画像を元に、目的とする核酸試料が含まれる核酸画分を自動的に検出するか、または表示部に表示された電気泳動パターンの画像を元に、作業者によって手動で指定する。
【0049】
作業者によって切り出し開始命令が実行されると、キャリッジ機構60がスライドテーブル45上の切り出し器具ホルダー30に収納された切り出し器具21の直上まで移動し、切り出し手段62を下方向に移動させることで、切り出し器具21を把持する。
【0050】
次に、電気泳動パターン撮影画像を元に、指定された場所へ切り出し手段62を移動させるため、その移動すべき距離をシステム制御部120においてテーブル機構40とキャリッジ機構60の駆動量に変換し、駆動用モータを回転駆動させる。
【0051】
キャリッジ機構60が指定した位置へ移動したのちは、切り出し器具動作用モータ56を駆動させることにより、切り出し器具把持ピン67をゲル設置方向へ降下させ、把持している切り出し器具20をゲルに押し付け、ゲルの切り出しを行う。
【0052】
切り出されたゲルが切り出し器具20の内部に留まった状態でキャリッジ機構60は切り出し器具ホルダー30の直上まで移動し、ゲルを内部に留置した状態の切り出し器具21を切り出し手段62から外して切り出し器具20を切り出し器具ホルダー30へ収納して、切り出し作業を終了する。
【0053】
さらに、テーブル機構40は、テーブル排出動作に移行し、電気泳動槽10および切り出し器具ホルダー30を、電気泳動システムの外部へと排出し、作業者は切り出し器具ホルダー30から切り出し器具20を取り出し、ピペットなどで切り出し器具20内部に留置された核酸試料を、ゲルごと取り出す。
【0054】
本実施の形態1においては、画像撮影手段61と切り出し手段62とを一体ユニット化してキャリッジ機構60を構成しているが、このように画像撮影手段61と切り出し手段62をユニット化することで、電気泳動ゲル101の切り出しの過程、および切り出し手段62による切り出し器具20の切り出し器具ホルダー30からの把持、収納の過程を、キャリッジによる影が生じることなく、画像撮影手段61によって詳細に追跡することが可能となる。その後は、背景技術に示したVogelsteinとGillespieの方法、あるいはMolecular Cloningに記載の方法などの適当な方法で、核酸試料を抽出回収することが可能となる。
【0055】
このような、本実施の形態1による電気泳動システムによっては、電気泳動槽10を搭載可能なY軸方向に直線移動が可能なテーブル機構40と、電気泳動槽10内のゲルの一部を切り出すことが可能な切り出し器具20と、切り出し器具20を把持しゲル面に対して垂直なZ軸方向に該切り出し器具20を移動させてゲルの切り出しを行う切り出し手段62と、該切り出し手段62と画像撮影手段61とを搭載しゲル面上X軸方向に平行移動可能なキャリッジ機構60と、テーブル機構40に搭載された電気泳動槽10内のゲル101に紫外線を照射可能な紫外線照射部70と、キャリッジ機構60に搭載されたゲル101の電気泳動パターンを撮影する画像撮影手段61と、泳動パターンを撮影するための紫外線照射部70の点灯・消灯の制御、画像撮影手段61の撮影動作の制御、電気泳動槽10に印加する電圧の制御、および、テーブル機構40、キャリッジ機構60、切り出し手段61の駆動の制御を行うシステム制御部120とを備えることにより、電気泳動の実施および電気泳動パターン画像の取得、支持体より分離した核酸画分の切り出し回収の作業を作業者が介在することなく実施可能となり、電気泳動をさせる際における感電、作業者の紫外線暴露の防止などの電気泳動に関する作業の安全性の向上と、作業の自動化に伴う研究作業の効率化を達成できると共に、小型で安価な電気泳動システムを提供することができる。
【0056】
図3、及び図4は、本発明の実施の形態1による電気泳動システムにおいて、電気泳動画像を色成分毎に分割し、核酸蛍光試薬の蛍光波長に応じて色成分の比率を変えて再構成し蛍光試薬の特性を反映した画像を獲得する方法を例示したものであり、およびそのフローチャートを示す図である。
【0057】
図3には、0.1μg/mlの臭化エチジウムを含有する1%アガロースゲルを電気泳動用ゲルとし、25ng/μlのφX174ファージDNA(Deoxyribo NucleicAcids、デオキシリボ核酸)の制限酵素Hae III加水分解断片を試料として、電気泳動を実施し、1353塩基対、1078塩基対、872塩基対、603塩基対、310塩基対、281塩基対、および271塩基対混合物の電気泳動パターンを例に、本実施の形態1の蛍光試薬の特性を反映した画像を獲得する様子が、図示されているものである。
【0058】
画像撮影手段61にカラーCCD(Mintron社製1/4インチCCD、MTV−54KON)を、第2の光学フィルター92に富士写真フィルム製SC−40Mを使用し、電気泳動のカラー画像を獲得した(図4中のステップ201)。
【0059】
なお、図3に例示するように、CCDでカラー画像を獲得するには、一般にCCD素子の上に青色成分、赤色成分、緑色成分を認識する各色成分のフィルターを、ベイヤー配列している。
【0060】
次に、図2中の画像色成分分割・再構成手段122において、以下の操作を実行した。
まず、メディアンフィルターにより、CCDに取り込んだ画像信号の平滑化処理を実施した(図3中のI、図4中のステップ202)。
【0061】
次に、カラーCCDの赤色成分信号処理領域(図3中のR:波長領域約580〜750nm)、緑色成分信号処理領域(図3中のG:波長領域約480〜600nm)、青色成分信号処理領域(図3中のB:波長領域約400〜480nm)に分割して、画像を獲得した(図4中のステップ203)。
【0062】
次に、図8中Aの蛍光スペクトルに示すように、臭化エチジウムの蛍光発色波長領域は、550〜750nmであることから、図4中のステップ204で、蛍光試薬が臭化エチジウムであることを認識し、550〜750nm以外の色成分である青色成分信号処理領域で獲得した画像は、ノイズ成分であると判定する。
【0063】
最終的に、赤色成分信号処理領域100%、緑色成分信号処理領域10%、青色信号処理領域0%の画像明度にて画像を再構成し(図4中のステップ205)、臭化エチジウムの波長特性に応じた画像信号を構築し(図4中のステップ206)、モニターにおいて再構成した画像を表示した(図4中のステップ207)。
【0064】
これにより、図3中のIでの画像の露出超過を軽減し、臭化エチジウムの蛍光発色波長特性を反映したノイズの少ない核酸の電気泳動画像の獲得が可能となる。
【0065】
従来は、臭化エチジウムを核酸結合蛍光試薬とした画像を撮影する際に、図8中Aの蛍光スペクトルに示す通り、臭化エチジウムの蛍光極大波長は600nm付近であり、600nm以下の波長領域の画像は、ノイズ成分となるため、600nm以下の光が撮影デバイスに透過しないように赤色フィルターを装着させていたが、本発明においては、色成分毎に画像を分割させることにより、ノイズ成分を除去することが可能であり、撮影デバイスに蛍光を励起する紫外線のみにつき、その透過を防止するようにすればよい。
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2による電気泳動システムにおける、電気泳動画像の位置検出および位置制御を行うための蛍光位置マーカー16を有する支持体ホルダー13を示す図であり、図6は、本実施の形態2による電気泳動システムのブロック構成を示す図であり、図7は、本実施の形態2における、画像の色成分分割・色成分比率変換・再構成を行うことにより、支持体ホルダー13の蛍光位置マーカー16を、見かけ上画像非表示とする方法を示す模式図である。
【0066】
本実施の形態2においては、実施の形態1におけると同様に、テーブル機構40、スライドテーブル45、および電気泳動槽10を設けるが、実施の形態1と異なる点は、図7に示すように、電気泳動槽10の支持体据付面11にこれに設置可能な支持体ホルダー13を設け、この支持体ホルダー13に紫外線蛍光塗料による蛍光位置マーカー16を塗抹し、さらに画像撮影手段61で撮影した蛍光位置マーカー16の位置情報からテーブル機構40あるいはキャリッジ機構60の位置情報を算出する位置情報算出手段127、および位置情報算出手段127で得た位置情報を元にテーブル機構40およびキャリッジ機構60を駆動する駆動制御手段128を有している点である。
【0067】
前記蛍光位置マーカー16は、紫外線を照射すると可視光領域の光を蛍光発色する物質(例えば、シンロイヒ社製ルミライトカラー、あるいはマジックルミノなど)であり、支持体ホルダー13の表面の一つ以上の所定箇所に異なる記号または形状となるように蛍光位置マーカーが塗抹されている。
【0068】
例えば、図5のように、個々の蛍光位置マーカー16の塗抹位置を、核酸試料の泳動に影響が無いようにマトリックス状に配置し、塗抹する形状、または記号を、位置に応じて異なる形状、または記号とする。
【0069】
また、塗抹したそれぞれの形状毎の蛍光位置マーカー16の位置情報は、事前に位置情報算出手段127に記録しておくことで、テーブル機構40およびキャリッジ機構60の位置情報を算出可能とする。
【0070】
以上のように構成された本実施の形態2による電気泳動システムについて、その動作および作用を臭化エチジウムにて蛍光発色した電気泳動画像を例に説明する。
【0071】
支持体ホルダー13上の蛍光位置マーカー16として、可視光下で無色透明であり、紫外線下で青色発色を呈す塗料である、青色のマジックルミノ(シンロイヒ社製)を塗沫しておく。
【0072】
紫外線照射部70により、支持体であるゲルに対して紫外線照射を行い、画像撮影手段61にてゲルを撮影する。
【0073】
紫外線照射により撮影された画像に、支持体ホルダー13に塗抹された蛍光位置マーカー16が青色に発色し、電気泳動画像とともに、画像撮影手段61に撮影される。
【0074】
この青色の蛍光位置マーカー16の形状、および画像内での位置を測定し、位置情報算出手段127により、テーブル機構40およびキャリッジ機構60の位置を推定することができる。
【0075】
このようにして、蛍光位置マーカー16を利用して得た位置情報を元に、駆動制御手段128によりインターフェース部124を介してテーブル機構40およびキャリッジ機構60を、目的の位置に移動させることができる。
【0076】
また、前述のような青色の蛍光位置マーカー16の撮影、該蛍光位置マーカー16の位置情報の算出、テーブル機構40、またはキャリッジ機構60の駆動制御を、所定の微小時間間隔で繰り返し実施することで、テーブル機構40およびキャリッジ機構60の駆動の位置精度を向上することができ、画像撮影手段61により分割撮影した複数の電気泳動ゲル101の画像を一体の画像として合成することができ、電気泳動ゲル101で観察される核酸試料の帯の状態はスメアな状態でも、好適に分割撮影、画像合成をすることが可能である。
【0077】
以上のように、本実施の形態2においては、支持体ホルダー13に紫外線により青色発色する蛍光位置マーカー16をあらかじめ塗抹し、テーブル機構40およびキャリッジ機構60を駆動させる際には、画像撮影手段61にて撮影した蛍光位置マーカー16の撮影画像を元にして、該テーブル機構40およびキャリッジ機構60の位置制御を実現することができ、ステッピングモータなどの高価な駆動用モータを利用した位置決め手段を用いることなく、安価なDCモータを利用した位置情報算出手段126と駆動制御手段220よりなる位置決め手段を構成してなる電気泳動システムを提供することが出来る。
【0078】
また、本実施の形態2では、撮影画像に関しては、前述の蛍光位置マーカー16を利用した位置検出手段(位置情報算出手段127)を利用して核酸画分の蛍光位置マーカー16との位置関係を測定することで、核酸画分の支持体101内での位置を把握するようにすることができ、これにより、生体高分子試料の分離が最も良い状態となるような電気泳動を実施するよう、電気泳動槽の電極への電圧印加を自動的に制御することのできる電気泳動システムを実現可能となる。
【0079】
さらに青色の蛍光位置マーカー16は、電気泳動の画像合成、および画像位置情報獲得に活用されるが、合成後の電気泳動画像、およびディスプレイ画面の表示においては不要となるため、画像の合成後においてはこれを用いず、実施の形態1に示す方法に従い、撮影した電気泳動画像を色分割・色成分比率変換・再構成処理をする。
【0080】
まず、画像撮影手段にて、撮影可能な範囲毎に電気泳動の画像を撮影する(図7(a))。
次に、青色の蛍光位置マーカーに従い、分割撮影した画像を1枚の画像に合成する(図7(b))。
最後に、青色の蛍光位置マーカーの画像は、青色(B)成分であり、緑色(G)成分、赤色(R)成分に位置する臭化エチジウムの蛍光波長領域と区別され、図7中の(c)に示すように、ディスプレイ画面に電気泳動画像が表示される。
【0081】
その後は、上述の通り、撮像した画像の色分割・色成分比率変換・再構成処理を行うことで、容易に位置マーカーを削除することが可能となり、画像をディスプレイなどで表示する場合、電気泳動画像表示の際に不要となる位置マーカーを削除した本来の電気泳動画像を表示することが可能となる。
【0082】
以上、臭化エチジウム(I)を核酸結合蛍光試薬とした画像獲得方法について例示したが、これに限定することなく、SYBR GreenI、SYBR GreenII、SYBR Gold、SYBR Safe、POPO−1、TOTO−1、YOYO−1、JOJO−1あるいはGel Starなどの、他の蛍光試薬においても、分割した色成分をこれらの蛍光発色波長特性に応じた適当な比率に変換し再構成することにより、各蛍光発色波長特性を反映したノイズの少ない核酸の電気泳動画像の獲得が可能となる。
【0083】
また、本発明においては、カラーCCDとして原色系による色成分の信号処理を例示したが、イエロー、シアン、マジェンタ成分による補色系による信号処理も採用可能である。
【0084】
また、画像をカラーで撮影するためのCCDの上に装着するカラーフィルターの構成は、ベイヤー配列、各色毎のストライプ配列など様々な構成が採用可能である。
【0085】
さらに、カラーCCDは単板CCDを例示したが、これに限定されることなく、分光プリズムなどを利用し各色成分に分割した後、CCDで信号処理することも可能である。
【0086】
また、画像撮影手段も、CCDに限らず、CMOS、電荷注入素子(CID)、フォトダイオード、LBCAST(横型埋め込み式電荷蓄積部を有する増幅型撮像センサ、Lateral Buried Charge Accumulator and Sensing Transistor array)など、固体撮影素子を利用することも可能である。
【0087】
なお、本発明の実施の形態1及び2における臭化エチジウムの蛍光波長特性に応じた、色成分の再構成比率の割合は一例であり、各種CCD、CMOSなどの特性により、その再構成比率の割合を、任意に可変可能である。
【0088】
また、画像撮影手段で取り込んだ画像信号の平滑化処理も、メディアンフィルターに限定せず、移動平均フィルター、あるいは加重平均フィルターなど、さまざまな平滑化信号処理が実施可能である。
【0089】
さらに、本発明の電気泳動システムの利用に当たっては、励起光源による蛍光発色の画像を撮影するため、外部の光を避けるよう、暗箱に設置することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明にかかる電気泳動システムは、ゲル電気泳動、および電気移動パターンの撮影、電気泳動後の核酸試料の切り出し作業を、一連実施可能な電気泳動システムにおいて、電気泳動画像撮影の際に、蛍光発色波長特性を反映したノイズの少ない核酸の電気泳動画像を獲得する、小型で安価な装置を提供でき、生体高分子の分析で一般的に利用される、電気泳動に関連する技術分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施の形態1による電気泳動システムの内部の概要を示した斜視図
【図2】本発明の実施の形態1による電気泳動システムのブロック構成図
【図3】本発明の実施の形態1による電気泳動システムにおける、電気泳動により取得される電気泳動画像の色成分毎の分割と、再構成を示す概念図
【図4】本発明の実施の形態1による電気泳動システムにおける、電気泳動により取得される電気泳動画像の色成分毎の分割と、再構成を示すフローチャート図
【図5】本発明の実施の形態2による電気泳動システムにおける電気泳動画像合成、および支持体位置情報獲得に利用される蛍光位置マーカーを施した電気泳動支持体を示した斜視図
【図6】本発明の実施の形態2による電気泳動システムのブロック構成図
【図7】本発明の実施の形態2による電気泳動システムにおける電気泳動画像表示における蛍光位置マーカー非表示方法を示す概念図
【図8】各種核酸結合性蛍光試薬の蛍光スペクトル図
【符号の説明】
【0092】
10 電気泳動槽
11 支持体付設面
13 支持体ホルダー
14 電極
16 蛍光位置マーカー
20 切り出し器具
21 上部接続部
30 切り出し器具ホルダー
40 テーブル機構
42 テーブル機構動力伝達部
45 スライドテーブル
55 キャリッジ機構動作モータ
56 切り出し器具動作モータ
58 歯車
60 キャリッジ機構
61 画像撮影手段
62 切り出し手段
63 直動シャフト
64 リードスクリュー
65 切り出し器具把持ピン
66 スクリューナット
70 紫外線照射部
71 紫外線光源
91 光学フィルター
101 電気泳動用ゲル
110 電力供給部
120 システム制御部
121 画像合成手段
122 画像色成分分割・再構成手段
123 核酸画分位置計測手段
124 CPU
125 インターフェイス部
126 記録装置
127 位置情報算出手段
128 駆動制御手段
201 カラー画像の獲得
202 画像信号の平滑化処理
203 画像のR、G、B成分分割
204 蛍光試薬、呈色試薬の発色波長特性認識
205 蛍光試薬、呈色試薬の発色波長特性に応じたRGB画像成分の分配再構成
206 蛍光試薬、呈色試薬の発色波長特性に応じた画像信号の構築
207 画像表示

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体高分子試料を分離解析する電気泳動システムにおいて、
前記生体高分子試料を、支持体を用いて電気泳動させるための電気泳動槽と、
前記電気泳動槽内に設けた前記支持体の両端に電圧を印加し、前記生体高分子試料を電気泳動させる電圧印加手段と、
前記生体高分子試料の電気泳動の結果を撮影する画像撮影手段と、
前記画像撮影手段により撮影した画像より、前記支持体中における前記生体高分子画分の位置情報を算出し、該支持体で分離させた前記生体高分子画分を切り出す切り出し手段とを有し、
前記生体高分子画分を電気泳動させるその開始から、該電気泳動させた生体高分子試料画分を抽出回収するまでを一連に実施可能とした電気泳動システムであって、
前記電気泳動結果の画像を撮影する画像撮影手段が、該画像を色成分毎に分割して獲得した後、該画像の発色波長、あるいは呈色波長に応じて、色成分比率を変えて電気泳動画像を再構成する、
ことを特徴とする電気泳動システム。
【請求項2】
請求項1記載の電気泳動システムにおいて、
前記画像撮影手段により分割撮影された複数の電気泳動結果の画像を合成するための、あるいは該各電気泳動結果の画像の前記支持体上での位置情報を獲得するための位置マーカーが、前記電気泳動結果の画像の発色波長、あるいは呈色波長の領域以外のものであり、
前記電気泳動結果の画像を色成分毎に分割した後に、該画像の発色波長、あるいは呈色波長に応じて、色成分比率を変えて電気泳動画像を再構成する際に、該位置マーカーは非表示とされる、
ことを特徴とする電気泳動システム。
【請求項3】
請求項1記載の電気泳動システムにおいて、
前記電気泳動結果の画像を撮影する前記画像撮影手段へ取り込む光波長を、該画像の発色波長、あるいは呈色波長に応じて制限するフィルターを、前記発色波長、あるいは呈色波長を有する蛍光試薬、あるいは呈色試薬の分光特性を用いることなく、可視光波長領域透過フィルターとした、
ことを特徴とする電気泳動システム。
【請求項4】
請求項1記載の電気泳動システムにおいて、
前記電気泳動結果の画像を、少なくとも3種類の色成分に分割して獲得したのち、各色成分の画像を、画像の発色波長、あるいは呈色波長に応じた上記と異なる各色成分の画像に再構成し、電気泳動画像を獲得する、
ことを特徴とする電気泳動システム。
【請求項5】
請求項4記載の電気泳動システムにおいて、
前記電気泳動結果の画像を、少なくとも3種類の色成分に分割できるよう、前記電気泳動結果の画像を、初期にカラーで獲得する、
ことを特徴とする電気泳動システム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の電気泳動システムにおいて、
前記電気泳動結果の画像を撮影する画像撮影手段が、カラー方式の電荷結合素子(CCD)、あるいは相補型金属酸化膜半導体(CMOS)デバイス、あるいはフォトダイオードよりなる固体撮影素子であり、電気泳動結果の画像をデジタル化して獲得する、
ことを特徴とする電気泳動システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図3】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−163186(P2007−163186A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356937(P2005−356937)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】