説明

電気絶縁用基材とその製造方法、および同基材を用いたプリプレグとプリント配線用基板

【課題】本発明は、高機能電子機器の部品実装に必須な、誘電率および誘電正接が小さく、寸法安定性と熱的な安定性を有し、かつ、低吸湿性、低熱膨張係数を示す電気絶縁用基材、およびそれを用いたプリプレグおよびプリント配線用基板を提供する。
【解決手段】ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維およびポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールパルプとバインダー繊維を含有する電気絶縁用基材であって、該バインダー繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレートを芯とする芯鞘繊維、のうち少なくとも1種の繊維を含有することを特徴とする電気絶縁用基材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いシート強度を有し、かつ樹脂含浸性が良好で、低吸湿性を有し、電気的特性や熱的特性に優れた電気絶縁用基材とその製造方法、およびその電気絶縁用基材を用いたプリプレグとそのプリプレグで絶縁層を構成したプリント配線用基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高密度化が進行し、プリント配線板に実装される部品は挿入型から面付け型に替わり、それに伴い、プリント配線板への実装方式も表面実装方式が主流となっている。この表面実装方式において、表面実装されるチップ等の部品とプリント配線板との接続信頼性が大きな問題となる。一つは熱膨張の問題であり、チップ等の部品とプリント配線板の熱膨張係数をできるだけ近い値にする必要がある。
【0003】
また、誘電率についても考慮すべきである。一般に従来のガラス布基材にエポキシ樹脂を含浸した積層プリント配線用基板であるガラス/エポキシ複合体(例えばFR−4)の誘電率は4.7〜5.1程度であり、このように比較的高い誘電率は隣接する信号回路の電気パルスの伝播速度を遅くし、過度の信号伝播遅延時間を生じる。部品が高機能になればなるほど、プリント配線板内の信号伝播による遅延時間は重要になるので、高機能部品には低い誘電率の積層板材料が必要とされる。
【0004】
上記の要請から、プリント配線板の基本材料である積層板として、芳香族ポリアミド繊維からなる不織布を基材とした積層板が検討されている。その代表的な例として、特許文献1にはp−フェニレンテレフタルアミド繊維フロックとm−フェニレンイソフタルアミドフィブリドとを混合抄紙後、加熱圧縮処理を施した基材が開示されている。上記基材は、熱膨張係数が小さく高密度実装に適するうえ、軽量であるため携帯電話等の携帯機器に適している。しかしながら、その基材は水吸収性が高いので、これを用いたプリント配線板は、吸湿により誘電率および誘電正接が大きくなり、電気的な問題を発生させる。
【0005】
また、プリント配線板においては、その厚さが薄いことが要求される。従来、一般的なプリプレグ及びプリント配線板の芯材としては、ガラスクロスが用いられているが、ガラスクロスは薄くすることが困難である。また薄くできた場合でも、ハンドリング性が非常に悪という問題があり、それ以外にも、いくつかの問題がある。例えば、ガラスクロスは、ガラス繊維を織っているために織り目が存在するが、薄くなればなるほど、織り目に顕著な凸凹ができる。これに樹脂を含浸させプリプレグを作製した場合、織り目の凸凹の凸部分ではガラス繊維が表面近傍に突出し、凹部分では樹脂リッチとなる。このような樹脂とガラスの比率のバラツキは、電気特性に影響を及ぼす。ファインパターン化が進むと、このバラツキ自体が問題となる。
【0006】
また、ガラスクロスの織り目の凸部分の樹脂量が少ないところに銅箔等の金属を積層、一体成形し、回路を形成するが、この場合、ガラス部分が直接金属箔と接触する恐れがある。また、接触しない場合でも、ガラス部分と金属箔間がわずかな樹脂を介するだけとなり、イオンマイグレーション等による電気絶縁性の不良が生じる恐れがある。特に、ガラスクロスはガラス繊維の織物で、繊維が繋がっているので、銅張板の表裏即ちZ軸方向でイオンマイグレーションがおこり、電気的導通を引き起こす恐れがある。
【特許文献1】特公平5−65640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の技術における上記の問題点を改善することを目的として成されたものであって、その目的は、高機能電子機器の部品実装に必須な、誘電率および誘電正接が小さく、寸法安定性と熱的な安定性を有し、かつ、低吸湿性、低熱膨張係数、良好な樹脂含浸性を示す電気絶縁用基材とその製造方法を提供することにある。本発明の他の目的は、その電気絶縁用基材を用いたプリプレグ及びプリント配線用基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決した本発明の電気絶縁用基材は、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維およびポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールパルプとバインダー繊維を含有する電気絶縁用基材であって、該バインダー繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレートを芯とする芯鞘繊維、のうち少なくとも1種の繊維を含有することを特徴とする(請求項1)。同基材は、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維およびポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールパルプの物理的絡み合いにより、また、バインダー繊維による繊維およびパルプ間の接着により、シート状に形成されている。また、前記ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールパルプのろ水度は750ml以下であることが好ましい(請求項2)。
【0009】
前記ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維と前記ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールパルプの配合割合が1:9から9:1の範囲であることが好ましく(請求項3)、前記バインダー繊維の配合量が電気絶縁用基材全体の1〜20重量%の範囲であることが好ましい(請求項4)。また、本願発明の電気絶縁用基材の厚さは10μm以上、500μm以下であることが好ましい(請求項5)。
【0010】
本発明の電気絶縁用プリプレグは、前記電気絶縁用基材に熱硬化性樹脂を含浸し乾燥してなることを特徴としており(請求項6)、本発明のプリント配線用基板は、絶縁層上に金属箔を積層したプリント配線用基板であって、その絶縁層が前記プリプレグを加熱加圧成形してなることを特徴とするものである(請求項7)。なお、本発明のプリント配線用基板には、前記電気絶縁用基材が複数に積層された、多層プリント配線用基板も包含される。
【0011】
本発明の電気絶縁用基材の製造方法は、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維とポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールパルプとを水中に分散させた後、バインダー繊維である、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレートを芯とする芯鞘繊維、のうち少なくとも1種の繊維を添加、水中分散させ、水分散スラリーを得る工程と、湿式抄紙法により該水分散スラリーの抄紙を行なった後、水分を除去し、1次シートを得る工程と、該1次シートに加熱加圧処理を施し、バインダー繊維の溶融によって該繊維およびパルプ間を融着させる工程とを有することを特徴とする(請求項8)。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気絶縁用基材は、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維およびポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールパルプとバインダー繊維を含有する電気絶縁用基材であって、該バインダー繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレートを芯とする芯鞘繊維、のうち少なくとも1種の繊維を含有することを特徴とするものであるから、高シート強度および良好な樹脂含浸性を有し、吸湿性が低く、誘電率および誘電正接が小さく、熱的安定性、低熱膨張係数、寸法安定性にも優れている。また、プリプレグやプリント配線用基板の製造工程において必要とされる十分なシート強度と樹脂含浸性を有している。したがって、この電気絶縁用基材を用いて作製されるプリント配線用基板は、非常に優れた電気絶縁性、はんだ耐熱性、電気特性(低誘電率、低誘電正接)、寸法安定性、低熱膨張係数、高弾性率を有するものであって、高機能電子機器に用いられる絶縁用プリント配線板としての提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に於いて用いられるポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(以下、「PBO」と略す)繊維は、例えば、特開平8−41728号公報などにも記載されているように、現在市販されているスーパー繊維の代表であるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の2倍以上の強度と弾性率(270GPs)を持ち、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維より優れた耐熱性(分解温度650℃)、低吸湿性(0.6%)、低誘電性(誘電率3.0/誘電正接0.001)、負の熱膨張係数(−6ppm/℃)等の特性を併せ持つ次世代のスーパー繊維として期待されている繊維である。またこのPBO繊維は、ポリベンザゾール重合体のポリリン酸溶液から製造しうることも公知であり、その紡糸方法については、例えば、米国特許5296185号、米国特許5294390号があり、水洗乾燥方法についてはWO94/04726号、熱処理方法については米国特許5296185号に提案されている。具体的には、例えば、東洋紡績株式会社の商品名「ZYLON(ザイロン)」が用いられる。このPBO繊維の繊維径は12μm程度であるが、本発明ではこれに限定されるわけではない。また、その繊維長は3mmから9mm程度のものが本発明では好ましく使用される。
【0014】
また、PBOパルプは、PBO繊維をフィブリル化したものであって、PBO繊維の長繊維または数mm程度の短繊維を用いて、叩解処理によって作製することが出来る。PBOパルプの製造手段としては、一般的な叩解機であるボールミル、ビーター、ランペンミル、コーラーガング、PFIミル、ジョクロミル、SDR(シングルディスクリファイナー)、DDR(ダブルディスクリファイナー)その他リファイナー等を使用することができる。
【0015】
PBOパルプの役割としては、シート強度の向上、シートの薄葉化、シート密度の調整、抄造時の配向抑制等の役割があげられる。シート強度が向上するのは、フィブリル化された細い繊維が繊維間の物理的な絡み合いを増大させることによるものである。
【0016】
シートの薄葉化とは、PBO繊維をパルプ状にしたために達成される。すなわちパルプ状にすることにより繊維径が細くなり、かつ、繊維が潰れて偏平形になる為にシート厚さをPBO繊維のみを使用した場合よりも薄く作製できるのである。このようなシート状基材の薄葉化によって、シート状基材を芯材として熱硬化樹脂を含浸させたプリプレグ、およびそれを用いたプリント配線用基板も薄いものを作製することができる。また、シートの薄葉化とも関連しているが、PBOパルプの繊維径は細いため、PBOパルプを使用したシートは、PBO繊維のみを使用しているシートよりその密度が高くなる。したがって、PBO繊維にPBOパルプを混合することにより、シート密度を調整することも可能となる。
【0017】
PBOパルプによる抄造時の配向の抑制とは、次のことがらをいう。ある長さを有する繊維を抄造した場合、抄造の流れ方向と幅方向において、繊維がどちらかの方向に配向する傾向がある。繊維長が長ければ長いほどその傾向は顕著になる。このような配向を持ったシートにおいて、シート強度はその配向の影響を受け、抄造の流れ方向と幅方向で異なる。PBOパルプはPBO繊維から繊維が裂けて枝のように細い繊維が多数あらゆる方向に伸びて存在し、且つ短繊維化しているために、そのPBOパルプを抄造したものは、PBO繊維に比べて抄造による配向を示しにくく、抄造方向、幅方向、その他あらゆる方向において均一なシートとなる。その無配向性は当然シート強度にも影響をおよぼし、抄造方向と幅方向のシート強度の差を極力抑えることが可能となる。
【0018】
以上のPBOパルプの役割を十分果たすためには、それに適したパルプ状態のものを使用する必要がある。本発明では、PBOパルプの状態として、一般的な天然パルプの指標として用いられるろ水度を用いて表す。ろ水度とは、パルプの水切れの程度を表す指標(数値)であり、繊維の叩解の度合いを示す。ろ水度が小さいほど、水切れが悪いことを示し、叩解の度合いが高く、パルプ化されていることを示す。本発明のPBO繊維をフィブリル化したPBOパルプのろ水度の試験方法はJIS P 8121に規定されているカナダ標準ろ水度試験方法を採用している。前記方法により測定されたPBOパルプのろ水度は750ml以下が好ましい。750mlより大きいと、フィブリル化が十分でなく、繊維間の十分な絡み合いが得られない。さらに好ましくは、ろ水度は500mlから750mlの範囲である。ろ水度が500mlより小さいと、抄造時の水引きが悪くなり、ワイヤーの目つまり等、抄造工程に不具合が生じるおそれがある。また、シートの密度が高く、シートが詰まった状態となり、空隙率が低下し、樹脂を含浸する際の樹脂含浸性が悪くなる。
【0019】
ろ水度はパルプの水切れの程度を表す指標(数値)であるために、PBO繊維をフィブリル化してPBOパルプを得る工程で、PBO繊維の切断が激しく、極短繊維状になった場合でも、ろ水度の値は低い値となる。しかし、ただ単に繊維が切断され短繊維化されただけでは、繊維間の絡みあいの効果が期待されないため、本願発明に用いるPBOパルプとしては適当ではない。本願発明には、太い主PBO繊維から小さな枝が少し分かれ、且つ繊維が切断され短繊維化し、且つ繊維が潰れて偏平形になった状態のPBOパルプが好ましく使用される。
【0020】
本発明では、PBO繊維およびPBOパルプを含有するシートに熱硬化性樹脂を含浸してプリプレグを得るために、シートには樹脂含浸の為に必要な空隙が存在しなければならない。ただし、空隙率が高ければ高いほど樹脂含浸性に有利というわけではなく、樹脂含浸性からみた空隙率の値の好ましい範囲は、10%から60%である。10%より小さいと樹脂が含浸する余裕がなく、含浸性が悪化する。60%より大きいとシートがスカスカな状態になり、樹脂を含浸しても、空隙を全て樹脂で埋めることが困難になり、プリプレグ、銅張板にした場合、内部に空隙が残る可能性がある。空隙率のより好ましい値は20%から40%の範囲である。樹脂含浸に適する空隙率を得るために本発明においてPBO繊維とPBOパルプの配合比率は1:9から9:1の範囲であることが好ましい。PBOパルプの配合比率が1より小さいと、空隙率が過大となり、PBOパルプの配合比率が9より大きいと、空隙率が過小となる。その理由は、PBOパルプはPBO繊維よりも繊維径が小さく、パルプ状態(幹繊維から多数の枝わかれした細い繊維が出ている状態)であるために、PBOパルプの比率を多くするとシートの密度が大きくなり、空隙率が低下するためである。PBO繊維とPBOパルプの配合比率は、より好ましくは2:8から7:3の範囲である。更に好ましくは3:7から5:5の範囲である。
【0021】
本発明に於いて用いられるバインダー繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンテレフタレートを芯とした芯鞘繊維、のうち少なくとも1種の繊維を用いることを必須とする。PBO繊維は非常に高い耐熱性を有しており、このPBO繊維を用いた本発明の電気絶縁用基材は当然高い耐熱性を有するものとなる。しかし、PBO繊維は高い耐熱性を有するために、PBO繊維同士を熱融着させることができない。そこで、バインダーを用いてPBO繊維間を融着してシート状基材を形成することが必要となる。この場合、バインダーの融点が低く、耐熱性がなければ、形成されたシート状基材の耐熱性はバインダーに支配されて、PBO繊維を用いている意味が薄れる。したがって、本発明では、PBO繊維の耐熱性を十分に活かすために、バインダーとして、融点が260℃と高く、耐熱性のあるポリエチレンテレフタレート繊維を用いる。
【0022】
また、ポリエチレンテレフタレートを芯とし、ポリエチレンテレフタレートより融点が低い樹脂を鞘とする、芯鞘繊維も使用可能である。この繊維を用いることによって、鞘部分のみ溶融する温度域での処理によりバインダー効果を得、芯部分のポリエチレンテレフタレートをそのまま存在させることにより耐熱性を保つことが可能となる。さらに、この芯鞘繊維をバインダー繊維として用いると、下記に述べるようなメリットもある。
【0023】
シート強度向上の為のバインダー効果を得るためには、バインダー繊維を溶融させてPBO繊維間を融着させなければならない。ただし、バインダー繊維を溶融し、溶融したバインダー繊維の流動性が高まると、バインダー効果によるシート強度が向上するという効果のほかに、シート基材表面にバインダー樹脂被膜を作りやすくなり、この皮膜が、プリプレグ作製時における熱硬化性樹脂の含浸性を阻害するという弊害も生じる。このバインダー樹脂被膜形成による樹脂含浸性低下を抑制する手段として、芯鞘構造のバインダー繊維が有効になる。例えば、芯鞘繊維の芯部分にポリエチレンテレフタレートを用い、鞘部分に芯のポリエチレンテレフタレートより融点の低い樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、低融点ポリエチレンテレフタレート等を用いることにより、バインダー効果を得る加熱加圧処理において、鞘部分のみ溶融させてPBO繊維間を融着させる。一方、芯部分のポリエチレンテレフタレートは繊維のまま存在するので、シート基材表面をバインダー樹脂被膜で覆うようなことが起こらない。且つ芯部分がそのまま存在するために、シート空隙率が低下せず、シート内の空間に溶融樹脂が浸入する。したがって、樹脂含浸性低下という問題を解決することができるのである。なお、本発明の融点とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定された融点の値である。また、上記で述べたバインダー繊維である、ポリエチレンテレフタレート繊維と、ポリエチレンテレフタレートを芯とする芯鞘繊維は、両者併用することも可能である。
【0024】
本発明におけるバインダー繊維の配合量は、電気絶縁材用基材全体の1〜20重量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは3重量%〜15重量%、さらに好ましくは5重量%〜10重量%である。1重量%以下であると、バインダーとしての機能が低下し、最適なシート強度が得られなくなる。また、20重量%以上であると、PBO繊維あるいはPBOパルプの特徴である耐熱性、低誘電性、低吸湿性等の特性が損なわれる可能性がある。バインダー配合量は、必要なバインダー性能を維持できる中で、より少ない方が好ましい。なお、本発明の電気絶縁用基材には、通常の製紙に用いられている各種の紙力増強剤、分散剤、消泡剤、界面活性剤、合成粘剤や顔料成分等の添加剤が含まれていてもよい。
【0025】
本発明の電気絶縁用基材は、従来の一般的なプリプレグ及びプリント配線用基板の芯材として用いられているガラスクロスと比較して、次のような利点が存在する。すなわち、ガラスクロスは薄くすることが困難であり、織り目の凸凹部の樹脂とガラスの比率にバラツキが生じ、電気特性に悪影響を及ぼすという問題がある。一方、本発明のシート状の電気絶縁用基材は、織物と違って、シート表面に凸凹が存在せず、表面平坦性が優れている。これらのガラスクロスに比較した優位点は、シートの厚さが薄くなるほど顕著になる。
【0026】
また、PBO繊維は高弾性率を持つという特徴を有しており、そのPBO繊維およびPBOパルプを主体としたPBO繊維シートに樹脂を含浸したプリプレグ、そのプリプレグを積層したプリント配線用基板の弾性率も高くなる。このために、これらの基板の厚さを薄くした場合でも、応力が加わったときの伸びや曲げなどの変化量が小さく、電気接続信頼性、クラック発生防止、強度、寸法安定性等に優れるといった特性を保持している。
【0027】
本発明の電気絶縁用基材は、以下に説明する方法で作製できるが、本発明はこの方法に限定されるものではない。まず、PBO繊維とそのPBO繊維をフィブリル化したPBOパルプを水中に分散させて、その後バインダー繊維を添加し、更に攪拌し水中に分散させる。得られた水分散スラリーを通常の抄紙機により抄紙網上で脱水してウェブを形成し、ドライヤーを通して水分を除去して乾燥し、1次シートを得る。その後、該1次シートを熱カレンダー等の1対の熱ロールにより加熱加圧処理を施し、バインダー繊維を溶融融着しシートを形成する。本発明の電気絶縁用基材は、後に、熱硬化性樹脂を含浸するために空隙を有していなければならないが、空隙率は、このときの加圧圧力に依存する。加圧圧力を高くすると空隙率は小さくなり、加圧圧力を小さくすると空隙率は大きくなる。したがって、含浸する樹脂によって、所望の空隙率を得るために加圧圧力および加熱温度を調整する必要がある。なお、本発明の電気絶縁用基材の作製には、通常の製紙に用いられている各種の紙力増強剤、分散剤、消泡剤、界面活性剤、合成粘剤や顔料成分等の添加剤を使用することが出来る。
【0028】
また、電気絶縁性基材として十分な電気絶縁性を有するためには、抄造工程中に含まれる不純物、特に有機物等を除去するために、得られた電気絶縁性基材を、使用したバインダーの融点以下の温度に長時間さらして、付着含有された有機物を熱分解除去する工程を加えることもできる。それにより電気絶縁性基材としての十分な電気絶縁性を付与することができる。
【0029】
以上のようにして得られる本発明の電気絶縁用基材は、不織布の製造に使用されている乾式法と比較して、湿式法であるために厚みが薄く、地合が均一という優れた特徴を有している。本発明の電気絶縁用基材の厚さは、10〜500μmが好ましい。厚さが10μmより薄くては、実用的な強度を保つ事ができない。また、500μmより厚い場合は生産性が低下する。
【0030】
本発明におけるプリプレグは、上記のようにして得られた電気絶縁用基材に不純物を含まず、電気抵抗の高い熱硬化性樹脂ワニスを含浸し、乾燥、硬化して製造することができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂等が使用できる。形成されるプリプレグの厚さは、15mm以上の厚さに設定することができる。
【0031】
本発明におけるプリント配線用基板は、上記のようにして得られたプリプレグの層に金属箔を重ね、これらを加熱加圧成形して製造する。得られたプリント配線用基板の金属層に回路形成を行い、これにプリプレグを介して金属箔を重ね、加熱加圧成形により一体化すると、回路層数を増やした多層プリント配線用基板を作製することもできる。また、複数枚のプリント配線板の間にプリプレグを介在させ、表面にはプリプレグを介して金属箔を重ね、これらを加熱加圧成形により一体化することによって、多層プリント配線用基板を作製することもできる。
【0032】
次に、本発明の電気絶縁用基材およびこの基材を用いたプリプレグ、プリント配線用基板を実施例によって説明する。
【0033】
(実施例1)
PBO繊維(東洋紡績社製、商品名:ザイロン、繊維径12μm、繊維長6mm)とそのPBO繊維をフィブリル化処理して、カナダ標準ろ水度670ml(JIS P 8121)で、図1のように細い枝分かれが少ないPBOパルプを5:5(重量比)の割合で配合したPBO繊維/PBOパルプの繊維原料を水中に分散させた。その後バインダー繊維としてポリエチレンテレフタレート(PET)繊維(クラレ社製:EP133(1.3d×5mm))をPBO繊維/PBOパルプ混合原料に対して10重量%添加して攪拌し水中に分散させ湿式抄紙して、不織布を得た。その不織布を240℃に加熱調整した熱カレンダーを用いて、線圧50Kg/cmの条件で加熱加圧による熱圧着処理を行い、バインダーを溶融融着させて、坪量40g/cm、厚み40μmの本発明の電気絶縁用基材を得た。得られた電気絶縁用基材に臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニスを含浸し、乾燥、硬化して、樹脂含有量50重量%のプリプレグを得た。得られたプリプレグを4枚重ね合わせて、その上下面に銅箔(18μm/電解銅箔)を配置し、温度170℃、圧力4MPaで加熱加圧成形し、プリント配線用基板を得た。
【0034】
(実施例2)
バインダー繊維としてPET繊維(クラレ社製:EP133(1.3d×5mm))をPBO繊維/PBOパルプ混合原料に対して5重量%使用した以外は実施例1と同様の方法で本発明のプリント配線用基板を得た。
【0035】
(実施例3)
バインダー繊維としてPET繊維(クラレ社製:EP133(1.3d×5mm))をPBO繊維/PBOパルプ混合原料に対して15重量%使用した以外は実施例1と同様の方法で本発明のプリント配線用基板を得た。
【0036】
(実施例4)
PBO繊維とPBOパルプの配合比率が7:3(重量比)である以外は実施例1と同様の方法で本発明のプリント配線用基板を得た。
【0037】
(実施例5)
PBO繊維とPBOパルプの配合比率が3:7(重量比)である以外は実施例1と同様の方法で本発明のプリント配線用基板を得た。
【0038】
(実施例6)
バインダー繊維として芯にPETを用い、鞘に変性PETを用いた芯鞘繊維(クラレ社製:N720K(2.0d×5mm))を使用した以外は実施例1と同様の方法で本発明のプリント配線用基板を得た。
【0039】
(実施例7)
PBOパルプとして、カナダ標準ろ水度520ml(JIS P 8121)であり、図2のいように細かい枝が多数存在するPBOパルプを用いた以外は実施例1と同様の方法で本発明のプリント配線用基板を得た。
【0040】
(比較例1)
バインダー繊維として、ポリプロピレン(PP)繊維(ダイワボウ社製:PZ(2.0d×5mm))を用いた以外は実施例1と同様の方法でプリント配線用基板を得た。
【0041】
(比較例2)
PBOパルプを使用せずに、PBO繊維のみ使用したこと以外は実施例1と同様の方法でプリント配線用基板を得た。
【0042】
(比較例3)
PBO繊維およびPBOパルプの代わりに、アラミド繊維およびアラミドパルプ(デュポン社製ケブラー)を用いた以外は実施例1と同様の方法でプリント配線用基板を得た。
【0043】
(比較例4)
ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸した銅張板FR−4を比較に用いた。
【0044】
上記各例における電気絶縁用基材、プリプレグ、プリント配線用基板の評価項目と評価方法を以下に示す。
(1)電気絶縁用基材のシート強度
JIS P 8113に準じて室温にて測定した。
(2)電気絶縁用基材の透気度
JIS P 8117に準じて測定した。
(3)電気絶縁用基材の樹脂含浸性
電気絶縁用基材より50×50mmを切り出し、ひまし油上にシートを浮かべて、シート全体にひまし油が含浸するまでの時間を室温にて測定した。
(4)はんだ耐熱性
JIS C 6481に準じて、測定試料を8時間煮沸し、260℃のはんだ浴に30秒つけて、プリント配線用基板の銅箔の膨れ等外観不良の有無を確認し、外観不良が生じたものは×、生じないものは○とした。
(5)絶縁性
プリント配線用基板をプレッシャークッカーにて200時間処理した後、JIS C 6481に準じて絶縁抵抗を測定し、1.0×1013Ω以上のものを○、それ未満のものを×とした。
(6)誘電率
JIS C 6481に準じて、1MHzの周波数帯での誘電率を測定した。
(7)熱膨張係数
JIS C 6481に準じて測定した。測定範囲は室温から200℃とした。
得られた結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1記載のとおり、本発明の、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維およびポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールパルプと、バインダーとして、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレートを芯とする芯鞘繊維、のうち少なくとも1種の繊維を含有することを特徴とする電気絶縁用基材は、プリプレグやプリント配線用基板の製造工程において十分な強度を有し、樹脂含浸性が良好である。また、その電気絶縁用基材を用いたプリプレグ、プリント配線用基板は、非常に優れた電気絶縁性、はんだ耐熱性、電気特性、低熱膨張係数を有することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本願発明の実施例1に用いたポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)パルプの顕微鏡写真である。
【図2】本願発明の実施例7に用いたポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)パルプの顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維およびポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールパルプとバインダー繊維を含有する電気絶縁用基材であって、該バインダー繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレートを芯とする芯鞘繊維、のうち少なくとも1種の繊維を含有することを特徴とする電気絶縁用基材。
【請求項2】
前記ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールパルプのろ水度が750ml以下であることを特徴とする請求項1記載の電気絶縁用基材。
【請求項3】
前記ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維と前記ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールパルプの配合割合が1:9から9:1の範囲であることを特徴とする請求項1または2記載の電気絶縁用基材。
【請求項4】
前記バインダー繊維の配合量が前記電気絶縁用基材全体の1〜20重量%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電気絶縁用基材。
【請求項5】
前記電気絶縁用基材の厚さが10μm以上、500μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電気絶縁用基材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の電気絶縁用基材に熱硬化性樹脂を含浸し乾燥してなることを特徴とする電気絶縁用プリプレグ。
【請求項7】
絶縁層上に金属箔が積層されたプリント配線用基板において、該絶縁層が請求項6記載の電気絶縁用プリプレグを加熱加圧成形してなることを特徴とするプリント配線用基板。
【請求項8】
ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維とポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールパルプとを水中に分散させた後、バインダー繊維である、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレートを芯とする芯鞘繊維、のうち少なくとも1種の繊維を添加、水中分散させ、水分散スラリーを得る工程と、湿式抄紙法により該水分散スラリーの抄紙を行なった後、水分を除去し、1次シートを得る工程と、該1次シートに加熱加圧処理を施し、該バインダー繊維の溶融によって該繊維およびパルプ間を融着させる工程とを有することを特徴とする請求項1の電気絶縁用基材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−22432(P2006−22432A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201325(P2004−201325)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】