説明

電気電子部品用複合材料、電気電子部品および電気電子部品用複合材料の製造方法

【課題】金属基材と絶縁皮膜との界面を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施した後に折り曲げ加工を施しても、金属基材と絶縁皮膜との密着性が高い状態を保つ電気電子部品用複合材料を提供する。
【解決手段】打ち抜き加工により加工された後に折り曲げ加工されて形成される電気電子部品の材料として用いられる、金属基材上の少なくとも一部に実質的に1層の絶縁皮膜が設けられており、金属基材と絶縁皮膜との間に、打ち抜き加工後の材料端部における前記絶縁被膜の剥離幅が10μm未満となり、かつ前記曲げ加工後の材料の曲げ内側における前記絶縁皮膜の付着状態および曲げ外側を延長した先の端部における前記絶縁皮膜の付着状態がともに維持されるように金属層が設けられている電気電子部品用複合材料。金属基材としては、銅系金属材料または鉄系金属材料を用いることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材上に電気絶縁皮膜が設けられた電気電子部品用複合材料、電気電子部品および電気電子部品用複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基材上に電気的な絶縁皮膜(本発明において単に絶縁皮覆ともいう。)が設けられた絶縁皮膜付きの金属材料は、例えば回路基板等におけるシールド材料として利用されている(特許文献1参照)。この金属材料は、筐体、ケース、カバー、キャップなどに用いることが好適であるとされており、とりわけ、素子内蔵用低背化(内部空間の高さをより低くすること)筐体に用いることが特に好適であるとされている。
【0003】
また、絶縁皮膜付きの金属材料の、金属基材と絶縁皮膜との密着性を高める方法としては、金属基材の表面にカップリング剤を塗布する方法(特許文献2参照)や、金属基材の表面にデンドライト状結晶を有しためっき層を形成する方法(特許文献3参照)が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−197224号公報
【特許文献2】特許第2802402号公報
【特許文献3】特開平5−245432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属基材上に絶縁皮膜が設けられた金属材料を、その他の電気電子部品用の材料として適用する場合、この材料は、金属基材上に絶縁皮膜が設けられているため、金属基材と絶縁皮膜との界面を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施してコネクタ接点等を形成することにより、前期コネクタ接点を狭ピッチで配置することも可能となり、様々な応用が考えられる。また、打ち抜き加工等の加工を施した後に折り曲げ加工を施すことにより、様々な機能を有する電気電子部品への適用も考えられる。
【0006】
ところで、金属基材と絶縁皮膜との界面を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施したところ、加工した箇所において金属基材と絶縁皮膜との間に数μm〜数十μm程度のわずかな隙間ができることがある。この状態を図2に概略的に示す。図2において、2は電気電子部品、21は金属基材、22は絶縁皮膜であり、金属基材21の打ち抜き加工面21aの近傍で金属基材21と絶縁皮膜22との間に隙間23が形成されている。この傾向は、上記打ち抜き加工の際のクリアランスが大きいほど(例えば上記金属基材の厚さに対して5%以上では)、より強まる。上記打ち抜き加工の際のクリアランスを小さくすることは実際上限度があるため、上記被加工体が微細化するほどこの傾向が強まると換言することもできる。
【0007】
このような状態になると、経年変化などにより金属基材21から絶縁皮膜22が完全に剥離してしまうこととなり、金属基材21上に絶縁皮膜22を設けても意味がなくなる。また、微細加工後に絶縁皮膜を後付けするのは極めて手間がかかり、製品のコストアップにつながるため実用的ではない。さらに、形成された電気電子部品の金属露出面(例えば打ち抜き加工面21a)をコネクタ接点等として使用したい場合、金属露出面(例えば打ち抜き加工面21a)にめっき等で金属層を後付けすることも考えられるが、めっき液に浸漬した際に隙間23からめっき液が浸入して金属基材21から絶縁皮膜22が剥離することを助長してしまうおそれがある。
【0008】
また、打ち抜き加工等の加工を施した後に折り曲げ加工を施す場合、打ち抜き加工等の加工を施した段階で加工した箇所において金属基材と絶縁皮膜との間に隙間ができていない場合でも、折り曲げ加工を施した後に金属基材と絶縁皮膜との間に隙間ができることがある。この状態を図3に概略的に示す。図3において、3は電気電子部品、31は金属基材、32は絶縁皮膜であり、金属基材31の折り曲げ箇所の内側に隙間33が、電気電子部品3の端部(特に折り曲げた際の外側)に隙間34が形成されている。これらの隙間33、34は図3に示すとおり、折り曲げられた電気電子部品の折り曲げ箇所の側面や内表面側、電気電子部品の端部に目立ち、このような隙間があると金属基材31から絶縁皮膜32が剥離する原因となる。
【0009】
また、金属基材と絶縁皮膜との密着性を高める方法として、特許文献2の方法を適用しようとする場合、カップリング剤の液寿命が短いため、液の管理に細心の注意をはらう必要があるという問題がある。また、金属基材表面全体に均質な処理を施すことが難しいため、前記した微細な隙間に対しては効果がないことがある。特許文献3の方法を適用しようとする場合、形成されるめっき層の結晶状態を制御するためには限定されためっき条件でめっきを施す必要があり、管理に細心の注意をはらう必要がある。また、十分な密着性を得るためにはめっき厚さをより厚くする必要があるため、経済的にも好ましくない。
【0010】
本発明は、金属基材と絶縁皮膜との界面を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施しても金属基材と絶縁皮膜との密着性が高い状態を保つ電気電子部品用複合材料を提供し、あわせてこの電気電子部品用複合材料により形成される電気電子部品およびこの電気電子部品用複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等が前記問題点について鋭意検討した結果、金属基材上に特定の金属層を介して絶縁皮膜を設けると、前記金属層の結晶状態や厚さによらず、金属基材と絶縁皮膜との密着性が十分に得られることを知見し、さらに検討を進めて本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、以下の第1〜9の解決手段を提供するものである。
本発明の第1の解決手段は、前記金属基材と前記絶縁皮膜との間に、打ち抜き加工等により加工された後に折り曲げ加工されて形成される電気電子部品の材料として用いられる、金属基材上の少なくとも一部に金属基材上の少なくとも一部に実質的に1層の絶縁皮膜が設けられた電気電子部品用複合材料であって、前記金属基材と前記絶縁皮膜との間に、前記折り曲げ加工後の材料端部における前記絶縁被膜の剥離幅が10μm未満となり、かつ前記曲げ加工後の材料の曲げ内側における前記絶縁皮膜の付着状態および曲げ外側を延長した先の端部における前記絶縁皮膜の付着状態がともに維持されるように金属層が設けられていることを特徴としている。
【0012】
本発明の第2の解決手段は、第1の解決手段において、前記金属基材が、銅系金属材料または鉄系金属材料により構成されていることを特徴としている。
【0013】
本発明の第3の解決手段は、第1または第2の解決手段において、前記金属基材の厚さが、0.04〜0.4mmであることを特徴としている。
【0014】
本発明の第4の解決手段は、第1の解決手段において、前記金属層が、Ni、Zn、Fe、Cr、Sn、Si、Tiから選択される金属またはこれらの金属間の合金により構成されることを特徴としている。
【0015】
本発明の第5の解決手段は、第4の解決手段において、前記金属層の厚さが、0.001〜0.5μmであることを特徴としている。
【0016】
本発明の第6の解決手段は、第1から第5までのいずれかの解決手段において、前記絶縁皮膜が熱硬化性樹脂で形成されたことを特徴としている。
【0017】
本発明の第7の解決手段は、金属基材上の少なくとも一部に絶縁皮膜が設けられた電気電子部品用複合材料が打ち抜き加工等により加工された後に折り曲げられた状態で、前記金属基材上の一部に絶縁皮膜が残存するように形成された電気電子部品であって、前記電気電子部品複合材料が、前記第1から第6までのいずれかの解決手段に記載された電気電子部品用材料であることを特徴としている。
【0018】
本発明の第8の解決手段は、第7の解決手段において、前記電気電子部品が、打ち抜き加工等により加工された後に折り曲げられた状態で、前記絶縁皮膜が設けられていない箇所に湿式の後処理が行われたことを特徴としている。
【0019】
本発明の第9の解決手段は、金属基材上の少なくとも一部に絶縁皮膜を設ける電気電子部品用複合材料の製造方法において、前記金属基材表面に、前記金属基材と前記絶縁皮膜との密着性を向上させる金属層を、めっき等により設けることにより、前記第1から第6までのいずれかの解決手段に記載された電気電子部品用複合材料を形成することを特徴としている。
【0020】
本発明において、打ち抜き加工後の材料端部における絶縁被膜の剥離幅は、クリアランス5%の金型を用いて5mm×10mmの矩形状に試料を打抜いた後、赤インクを溶かした水溶液中に浸漬して測定されたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、前記金属基材と前記絶縁皮膜との間に、前記金属基材と前記絶縁皮膜との密着性を向上させる金属層が介在されているため、金属基材と絶縁皮膜との界面(具体的には金属基材と金属層との界面および金属層と絶縁皮膜との界面)を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施した後に折り曲げ加工を施しても金属基材と絶縁皮膜との密着性が高い状態を保ち、打ち抜き加工および曲げ加工等による加工性に優れた電気電子部品用複合材料を得ることができる。
【0022】
さらに、本発明において、以下の構成を併用すると、金属基材と絶縁皮膜との密着性が高い状態を保つ電気電子部品用複合材料をさらに容易に得ることができる。
(1)金属基材を銅系金属材料または鉄系金属材料により構成すること。
(2)金属基材の厚さを0.04〜0.4mmとすること。
(3)金属層をNi、Zn、Fe、Cr、Sn、Si、Tiから選択される金属またはこれらの金属間の合金により構成すること。
(4)金属層の厚さを0.001〜0.5μmとすること。
【0023】
また、本発明の電気電子部品は、金属基材上の少なくとも一部に絶縁皮膜が設けられた電気電子部品用複合材料が打ち抜き加工等により加工された後に折り曲げられた状態で、金属基材上の一部に絶縁皮膜が残存するように形成された電気電子部品であって、電気電子部品用複合材料として金属基材と絶縁皮膜との密着性を向上させる金属層が介在された材料を用いているため、金属基材に絶縁皮膜が金属層を介して密着し、打ち抜き加工および曲げ加工等による加工性に優れた電気電子部品を容易に得ることができる。
【0024】
さらに、本発明の電気電子部品は、金属基材と絶縁皮膜とが密着しているため、絶縁皮膜が設けられていない箇所にめっき等の後加工により後付け金属層が設けられていることにより、絶縁皮膜が金属基材から剥離することがない。
【0025】
また、本発明の電気電子部品用複合材料の製造方法は、金属基材表面に、前記金属基材と絶縁皮膜との密着性を向上させる金属層を、めっき等により設けることにより、金属基材と絶縁皮膜との界面(具体的には金属基材と金属層との界面および金属層と絶縁皮膜との界面)を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施した後に折り曲げ加工を施しても、金属基材と絶縁皮膜との密着性が高い状態を保ち、打ち抜き加工等および曲げ加工等による加工性に優れた電気電子部品用材料を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の望ましい実施形態を説明する。
【0027】
本発明の第1の実施形態に係る電気電子部品用複合材料の断面の一例を図1に示す。図1に示すように、この電気電子部品用複合材料1は、金属基材11上に絶縁皮膜12が設けられており、金属基材11と絶縁皮膜12との間に、両者の密着性を向上させる金属層13が設けられている。この金属層13は、金属基材11および絶縁皮膜12との密着性が高いものとすることが、打ち抜き加工等による加工性に優れた電気電子部品用複合材料1を実現する観点で望ましい。
【0028】
図1において、絶縁皮膜12は金属基材11の上面の一部と金属基材11の下面の全体に設けられている例を示すが、これはあくまでも一例であって、絶縁皮膜12は金属基材11の上面全体および下面全体に設けられていてもよく、金属基材11の上面の一部および下面の一部に設けられていてもよい。すなわち、金属基材11上の少なくとも一部に絶縁皮膜12が設けられていればよい。
【0029】
金属基材11としては、導電性などの観点で、銅系金属材料または鉄系金属材料を用いることが望ましい。銅系金属材料としては、りん青銅(Cu−Sn−P系)、黄銅(Cu−Zn系)、洋白(Cu−Ni−Zn系)、コルソン合金(Cu−Ni−Si系)などの銅基合金が適用可能なほか、無酸素銅、タフピッチ銅、りん脱酸銅なども適用可能である。また、鉄系金属材料としては、SUS(Fe−Cr−Ni系)、42アロイ(Fe−Ni系)などの鉄基合金が適用可能である。
【0030】
金属基材11の厚さは、0.04mm以上が望ましい。0.04mmより薄いと電気電子部品として十分な強度が確保できないためである。また、あまり厚いと打ち抜き加工の際にクリアランスの絶対値が大きくなり、打ち抜き部のダレが大きくなるため、厚さは0.4mm以下とすることが望ましく、0.3mm以下とすることがさらに望ましい。このように、金属基材11の厚さの上限は、打ち抜き加工等による加工の影響(クリアランス、ダレの大きさ等)を考慮して決定される。
【0031】
絶縁皮膜12は、適度な絶縁性を有することが望ましいため、エポキシ系樹脂などの樹脂を用いることが望ましい。特に耐熱性が求められる用途では、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂などの耐熱樹脂で形成されることが望ましい。このような耐熱性樹脂の中でも熱硬化性樹脂が好ましい。
【0032】
絶縁皮膜12の材料としては、上記のとおり合成樹脂等の有機材料を用いることが加工性の点などから望ましいが、電気電子部品用複合材料1の要求特性等に応じて、絶縁皮膜12の材料を適宜選択することができる。例えば合成樹脂等の有機材料を基材としてこれに基材以外の添加物(有機物、無機物いずれも可)を添加したものや無機材料なども採用することができる。
【0033】
金属基材11の表面に金属層13を介して絶縁皮膜12を設ける方法には、金属基材上の絶縁を要する箇所に、(a)接着剤付き耐熱性樹脂フィルムを配し、前記接着剤を誘導加熱ロールにより溶融し、次いで加熱処理して反応硬化接合する方法、(b)樹脂または樹脂前躯体を溶媒に溶解したワニスを塗布し、溶媒を揮発させ、次いで加熱処理して反応硬化接合する方法などが挙げられる。本発明の実施形態に係る電気電子部品用複合材料1においては、前記(b)の方法を用いることが、接着剤の影響を考慮しなくてもよくなる点で望ましい。
なお、上記(b)の方法の具体例は、絶縁電線の製造方法などでは一般的な技術であり、特開平5−130759号公報などでも知られている。当該公報は本発明の参考技術として取り扱われる。
【0034】
ここで、前記(b)の方法は繰り返してもよい。このようにすると、溶媒の揮発が不十分となるおそれが少なくなり、絶縁皮膜12と金属層13との間に気泡などが発生するおそれを低減することができ、絶縁皮膜12と金属層13との密着性をさらに高めることができる。このようにしても、複数回に分けて形成された樹脂硬化体が実質的に同一のものであれば、金属層13上に実質的に1層の絶縁皮膜12を設けることができる。
【0035】
また、金属基材11の面の一部に絶縁皮膜12を設けたい場合には、金属基材11の表面に金属層13を設けた後に、例えば、塗装部をオフセット(平版)印刷やグラビア(凹版)印刷のロールコート法設備を応用した方法、或いは感光性耐熱樹脂の塗工と紫外線や電子線によるパターン形成と樹脂硬化技術を応用する方法、さらには回路基板における露光現象エッチング溶解による微細パターン形成技術の樹脂皮膜への応用などから、樹脂皮膜の形成精度レベルに応じた製造工法を採用することができる。このようにすることで、金属基材11の面のうち必要な部分のみに絶縁皮膜12を設けることが容易に実現可能となり、金属基材11を他の電気電子部品または電線等と接続するために絶縁皮膜12を除去することが不要となる。
【0036】
絶縁皮膜12の厚さは、薄すぎると絶縁効果が期待できず、厚すぎると打ち抜き加工が困難になるため、2〜20μmが望ましく、3〜10μmがさらに望ましい。
【0037】
金属層13は、金属基材11と絶縁皮膜12との密着性を向上させるために設けられる。金属基材11と絶縁皮膜12との密着性は打ち抜き加工後の材料端部における前記絶縁被膜の剥離幅が10μm未満であり、5μm未満とすることがさらに好ましい。
金属層13は、電気めっき、化学めっき等の方法で形成されることが望ましく、Ni、Zn、Fe、Cr、Sn、Si、Tiから選択される金属またはこれらの金属間の合金(Ni−Zn合金、Ni−Fe合金、Fe−Cr合金など)により構成することが望ましい。
【0038】
金属層13をめっきにより形成する場合は、湿式めっきでも乾式めっきでもよい。前記湿式めっきの例としては電解めっき法や無電解めっき法が挙げられる。前記乾式めっきの例としては物理蒸着(PVD)法や化学蒸着(CVD)法が挙げられる。
【0039】
金属層13の厚さは、薄すぎると金属層13と金属基材11および絶縁皮膜12との密着性が向上せず、厚すぎると金属層13に割れが発生するおそれが高まるため、0.001〜0.5μmが望ましく、0.005〜0.5μmがさらに望ましい。
【0040】
また、電気電子部品用複合材料1を打ち抜き加工等により加工した後に折り曲げられた状態で、絶縁皮膜12が設けられていない箇所に湿式の後処理が行われてもよい。絶縁皮膜12が設けられていない箇所とは、例えば図1における金属基材11の側面や、金属基材11の上面の一部の絶縁皮膜12が設けられている部分以外の箇所などを意味する。ここで用いられる湿式処理としては、例えば、湿式めっき(Niめっき、Snめっき、Auめっき等)、水系洗浄(酸洗い、アルカリ脱脂等)、溶剤洗浄(超音波洗浄等)などが挙げられる。例えば、湿式めっきにより後付け金属層を設けることにより、金属基材11の表面を保護することができるが、本実施形態の電気電子部品用複合材料1は、金属基材11と絶縁皮膜12との密着性を向上させた結果、めっき等の後加工により後付け金属層(図示せず)を設けても絶縁皮膜12が金属基材11から剥離しない利点がある。
【0041】
ここで、後付け金属層の厚さは金属層13の厚さにかかわらず適宜決定されるが、金属層13と同様に0.001〜0.5μmの範囲にしてもよい。後付け金属層として用いられる金属は、電気電子部品の用途により適宜選択されるが、電気接点、コネクタなどに用いられる場合は、Au、Ag、Cu、Ni、Snまたはこれらを含む合金であることが望ましい。
【0042】
以下、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明の実施形態の範囲は、これに限られないことはいうまでもない。
【実施例】
【0043】
[実施例1]
(試料の説明)
本発明の具体例として、厚み0.1mm、幅10mmの金属条(金属基材)に電解脱脂、酸洗処理をこの順に施した後、Niめっき、Znめっき、Feめっき、Crめっき、Snめっき、Ni−Zn合金めっき、Ni−Fe合金めっき、Fe−Cr合金めっき、Siめっき、Tiめっきをそれぞれ0.001μm、0.005μm、0.01μm、0.05μm、0.1μm、0.5μm施し、次いで各条の絶縁を要する箇所に絶縁コーティング層を設けて電気電子部品用複合材料を製造した。金属条にはJIS合金C5210R(リン青銅、古河電気工業(株)製)を用いた。なお、めっき厚は、蛍光X線膜厚計SFT−3200(セイコープレシジョン(株)製)を用いて10点の平均値により測定した。
また、比較例として、これとは別に、電解脱脂、酸洗処理をこの順に施した後、めっきを施さずに絶縁を要する箇所に絶縁コーティング層を設けて電気電子部品用複合材料を製造した。さらに他の比較例として、めっきを1.0μm施した以外は上記具体例と同様に電気電子部品用材料を製造した。
【0044】
(各種条件)
前記電解脱脂処理は、クリーナー160S(メルテックス(株)製)を60g/l含む脱脂液中において、液温60℃で電流密度2.5A/dmの条件で30秒間カソード電解して行った。
前記酸洗処理は、硫酸を100g/l含む酸洗液中に室温で30秒間浸漬して行った。
前記Niめっきは、スルファミン酸ニッケル400g/l、塩化ニッケル30g/l、ホウ酸30g/lを含むめっき液中において、液温55℃で電流密度10A/dmの条件で所定のめっき厚になるようにめっき槽長とライン速度を調整して行った。
前記Znめっきは、硫酸亜鉛350g/l、硫酸アンモニウム30g/lを含むめっき液中において、液温45℃で電流密度20A/dmの条件で所定のめっき厚になるようにめっき槽長とライン速度を調整して行った。
前記Feめっきは、硫酸鉄400g/l、硫酸アンモニウム50g/l、尿素80g/lを含むめっき液中において、液温60℃で電流密度30A/dmの条件で所定のめっき厚になるようにめっき槽長とライン速度を調整して行った。
前記Crめっきは、無水クロム酸250g/l、硫酸2.5g/lを含むめっき液中において、液温55℃で電流密度20A/dmの条件で所定のめっき厚になるようにめっき槽長とライン速度を調整して行った。
前記Snめっきは、硫酸スズ55g/l、硫酸100g/lを含むめっき液中において、液温25℃で電流密度2A/dm条件で所定のめっき厚になるようにめっき槽長とライン速度を調整して行った。
前記Ni−Zn合金めっきは、塩化ニッケル75g/l、塩化亜鉛30g/l、塩化アンモニウム30g/l、チオシアン化ナトリウム15g/lを含むめっき液中において、液温25℃で電流密度0.2A/dmの条件で所定のめっき厚になるようにめっき槽長とライン速度を調整して行った。
前記Ni−Fe合金めっきは、硫酸ニッケル250g/l、硫酸鉄50g/l、ホウ酸30g/lを含むめっき液中において、液温50℃で電流密度5A/dmの条件で所定のめっき厚になるようにめっき槽長とライン速度を調整して行った。
前記Fe−Cr合金めっきは、硫酸鉄40g/l、硫酸クロム120g/l、塩化アンモニウム55g/l、ホウ酸40g/lを含むめっき液中において、液温45℃で電流密度20A/dmの条件で所定のめっき厚になるようにめっき槽長とライン速度を調整して行った。
前記SiめっきおよびTiめっきは、巻取式スパッタリング装置SPW−069((株)アルバック製)を用い、PVD法により行った。
前記絶縁コーティング層は、ワニス(流動状塗布物)を塗装装置の矩形状吐出口から走行する金属基材表面に垂直に吐出し、次いで300℃で30秒間加熱して形成した。前記ワニスにはn−メチル2−ピロリドンを溶媒とするポリアミドイミド(PAI)溶液(東特塗料社製)を用い、樹脂厚が8〜10μmの範囲となるように形成した。なお、n−メチル2−ピロリドンを溶媒とするポリイミド(PI)溶液(荒川化学工業(株)製)、メチルエチルケトンを溶媒とするエポキシ樹脂溶液(大日本塗料(株)製)を用いて樹脂厚が8〜10μmの範囲となるように形成したサンプルも得たが、同様の結果が得られた。
【0045】
(評価結果)
得られた電気電子部品用複合材料について、打抜き加工性及び曲げ加工性の評価を行った。
打抜き加工性の評価は、クリアランス5%の金型を用いて5mm×10mmの矩形状に試料を打抜いた後、赤インクを溶かした水溶液中に浸漬し、打抜き端部における樹脂の剥離幅が、5μm未満の場合を◎、5μm以上10μm未満の場合を○、10μm以上の場合を×とした。
曲げ加工性の評価は、クリアランス5%の金型を用いて5mm×10mmの矩形状に試料を打抜いた後、試料端部から1mmの位置に曲げ加工が施される様に構成された曲率半径0.1mm、曲げ角度120度の金型を用いて曲げ加工を施し、曲げ内側における樹脂の剥離有無と曲げ外側を延長した先の端部における樹脂の剥離有無を光学実態顕微鏡40倍で観察することにより判定した。剥離のないもの(樹脂の付着状態が維持されているもの)を○、剥離の発生したもの(樹脂の付着状態が維持されていないもの)を×とした。また同時に、曲げ加工部におけるめっき素地の割れの有無を観察し、めっき曲げ性を○×で評価した。その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
比較例の試料No.61は、下地めっき処理を施していないため、樹脂の打抜き性及び曲げ性が劣った。比較例62〜71は、樹脂の打抜き性及び曲げ性は優れるが、めっき層が厚くめっき部に割れを生じた。これに対し本発明の試料No.1〜60では、樹脂の打抜き性及び曲げ性に優れ、かつめっき部にも割れを生じていないため、精密プレス加工用途に適し、曲げ加工を伴う用途にさらに適する。特にNiめっき及びZnめっきを施した試料No.1〜12は、めっき厚が薄い領域においても優れた効果が得られる。
【0048】
[実施例2]
金属条としてJIS合金C7701R(洋白、三菱電機メテックス(株)製)を用いた他は、実施例1と同様に行った。その結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
比較例の試料No.132は、下地めっき処理を施していないため、樹脂の打抜き性及び曲げ性が劣った。比較例133〜142は、樹脂の打抜き性及び曲げ性は優れるが、めっき層が厚くめっき部に割れを生じた。これに対し本発明の試料No.72〜131では、樹脂の打抜き性及び曲げ性に優れ、かつめっき部にも割れを生じていないため、精密プレス加工用途に適し、曲げ加工を伴う用途にさらに適する。特にNiめっき及びZnめっきを施した試料No.72〜83は、めっき厚が薄い領域においても優れた効果が得られる。すなわち、実施例1と同様、実施例2の試料No.72〜131は、樹脂の打抜き性が優れるため、精密プレス加工用途、特に曲げ加工を伴う用途に適することがいえる。
【0051】
[実施例2]
金属条としてSUS304−CPS(ステンレス、日新製鋼(株)製)を用いた他は、実施例1と同様に行った。その結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
比較例の試料No.203は、下地めっき処理を施していないため、樹脂の打抜き性及び曲げ性が劣った。比較例204〜213は、樹脂の打抜き性及び曲げ性は優れるが、めっき層が厚くめっき部に割れを生じた。これに対し本発明の試料No.143〜202では、樹脂の打抜き性及び曲げ性に優れ、かつめっき部にも割れを生じていないため、精密プレス加工用途に適し、曲げ加工を伴う用途にさらに適する。特にNiめっき及びZnめっきを施した試料No.143〜154は、めっき厚が薄い領域においても優れた効果が得られる。すなわち、実施例1と同様、実施例3の試料No.143〜202は、樹脂の打抜き性が優れるため、精密プレス加工用途、特に曲げ加工を伴う用途に適することがいえる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態に係る電気電子部品用複合材料の一例を示す断面図。
【図2】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図。
【図3】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図。
【符号の説明】
【0055】
1 電気電子部品用複合材料
2、3 電気電子部品
11、21、31 金属基材
12、22、32 絶縁皮膜
13 金属層
21a 打ち抜き加工面
23、33、34 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打ち抜き加工により加工された後に折り曲げ加工されて形成される電気電子部品の材料として用いられる、金属基材上の少なくとも一部に実質的に1層の絶縁皮膜が設けられた電気電子部品用材料であって、前記金属基材と前記絶縁皮膜との間に、前記打ち抜き加工後の材料端部における前記絶縁被膜の剥離幅が10μm未満となり、かつ前記曲げ加工後の材料の曲げ内側における前記絶縁皮膜の付着状態および曲げ外側を延長した先の端部における前記絶縁皮膜の付着状態がともに維持されるように金属層が設けられていることを特徴とする電気電子部品用複合材料。
【請求項2】
前記金属基材が、銅系金属材料または鉄系金属材料により構成されていることを特徴とする、請求項1記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項3】
前記金属基材の厚さが、0.04〜0.4mmであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項4】
前記金属層が、Ni、Zn、Fe、Cr、Sn、Si、Tiから選択される金属またはこれらの金属間の合金により構成されることを特徴とする、請求項1記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項5】
前記金属層の厚さが、0.001〜0.5μmであることを特徴とする、請求項4記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項6】
前記絶縁皮膜が熱硬化性樹脂で形成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項7】
金属基材上の少なくとも一部に絶縁皮膜が設けられた電気電子部品用材料が打ち抜き加工等により加工された後に折り曲げられた状態で、前記金属基材上の一部に絶縁皮膜が残存するように形成された電気電子部品であって、前記電気電子部品材料が、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料であることを特徴とする電気電子部品。
【請求項8】
前記電気電子部品が、打ち抜き加工により加工された後に折り曲げられた状態で、前記絶縁皮膜が設けられていない箇所に湿式の後処理が行われたことを特徴とする請求項7記載の電気電子部品。
【請求項9】
金属基材上の少なくとも一部に絶縁皮膜を設ける電気電子部品用複合材料の製造方法において、前記金属基材表面に、前記金属基材と前記絶縁皮膜との密着性を向上させる金属層を、めっき等により設けることにより、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料を形成することを特徴とする電気電子部品用複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−179889(P2008−179889A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333316(P2007−333316)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】