説明

電波吸収体およびその製造方法

【課題】優れた電波吸収性能を有するとともに、軽量性、力学的特性に優れ、さらに複雑形状に成形することができる電波吸収体を、安価に提供する。
【解決手段】少なくとも導電性短繊維23と非導電性短繊維21とを含む不織布22と樹脂で構成される複合材料からなる電波吸収体の製造方法において、少なくとも前記不織布を成形型内に配置し、樹脂容器と連通させ、前記成形型内と前記容器内の間に圧力差を生じせしめ、その差圧により、前記成形型内に樹脂を注入すると同時に前記不織布に樹脂を含浸し、硬化させることを特徴とする電波吸収体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、船舶や航空機などの輸送用機器、橋梁、鉄塔などの構造物、電波暗室、無線通信のための装置や設備、ビルなどの建築物、オフィス用品に適用し、電波障害を防止するような場合に好適な電波吸収体と、その製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電波吸収体は、到来電波の反射を防止するインピーダンス整合層、到来した電波を取り込んで減衰させる電波吸収層、電波吸収層を通過した電波を電波吸収層に反射する電波反射層からなる。なお、所望の電波吸収性能を満たせば、インピーダンス整合層と電波反射層は無くても良い。
【0003】
電波吸収層は取り込んだ電波を自身の電気的損失や磁気的損失を利用して吸収するように構成されている。インピーダンス整合層は、表面から見た規格化インピーダンスを1または可能な限り1に近くして到来電波の反射を防止し、到来電波が電波吸収層により多く取り込まれるように作用するものである。電波反射層は、電波吸収層を通過した電波を電波吸収層に反射し、1回の通過では吸収しきれなかった電波を電波吸収層で再び吸収させるように作用するものである。
【0004】
そのような電波吸収体およびその製造方法には多種多様なものがある。
【0005】
たとえば、フェライトや金属片などの磁性、導電粉末を混用し、その混用比によって所定の電波吸収性を得る方法(特許文献1,2参照)、磁気的損失と電気的損失層の2層効果を持つもの(特許文献3参照)などが知られている。しかしながら、これらの従来の電波吸収体は、電気的損失材や磁気的損失材を基材の中に均一になるように混合するのが非常に困難であるため製造コストが高く、また、軽量性、力学的特性に劣るなどの欠点があった。
【0006】
また、導電体と無機質中空体の粉粒体を無機接着剤で接着した電波吸収体(特許文献4)が、従来例に比較し力学的特性と軽量性に優れる方法として知られている。しかしながら、該電波吸収体は、比重は軽いものの、所望の電波吸収効果を得るためには板厚が厚くなるため、構造体とした時の重量が重くなる。また、力学的特性も従来例に比較して向上はしているものの、構造体として使用するためには、構造体に用いられる材料の力学特性と比較すると圧倒的に低いと言う問題があった。
【0007】
それらの課題を解決するための方法として、特許文献5に示すような、炭素短繊維および非導電性短繊維と樹脂とを含む複合材料からなる電波吸収層からなる電波吸収体が知られている。該電波吸収体の製造方法としては、該混抄紙のプリプレグを成形する方法が主に用いられている。しかしながら、該電波吸収体の製造方法の場合、混抄紙のプリプレグ化の工程が必要であり、さらに、プリプレグを成形して電波吸収体を製造する際には、加熱、加圧するための高価な設備、たとえばプレス機やオートクレーブが必要であった。また、混抄紙のプリプレグは樹脂が含浸されているため、賦形性が良くなく、たとえば曲面などの形状を成形する場合には、皺が入るなどの問題があり、複雑形状への適用は困難であった。
【0008】
また、従来の技術では、インピーダンス整合層、電波吸収層、電波反射層を別々に製造した後、機械的あるいは2次接着により接合する方法が一般的である。各層の接合には、接合の材料・作業に要するコスト、接合部材による重量増、あるいは、接合の強度・耐久性の問題があった。
【特許文献1】特開昭51−58046号公報
【特許文献2】特開昭58−71698号公報
【特許文献3】特公昭50−4423号公報
【特許文献4】特開2000−082892号公報
【特許文献5】特開2004−119450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の課題は、従来通り優れた電波吸収性能を有するとともに、軽量性、力学的特性に優れ、さらに複雑形状に成形することができる電波吸収体を、安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために、本発明は以下の各手段をとる。すなわち、
(1)少なくとも導電性短繊維と非導電性短繊維とを含む不織布と樹脂で構成される複合材料からなる電波吸収体の製造方法において、少なくとも前記不織布を成形型内に配置し、樹脂容器と連通させ、前記成形型内と前記容器内の間に圧力差を生じせしめ、その差圧により、前記成形型内に樹脂を注入すると同時に前記不織布に樹脂を含浸し、硬化させることを特徴とする電波吸収体の製造方法。
(2)成型下型とバッグ材で構成される成形型を用い、前記成形型の内部を減圧することで大気圧の樹脂容器との間に差圧を生じさせることを特徴とする前記(1)に記載の電波吸収体の製造方法。
(3)前記成形型内部に、樹脂拡散媒体を配置することを特徴とする前記(1)または(2)のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
(4)前記型内で前記不織布のいずれか片面側に導電性繊維布帛を配置し、樹脂を注入・硬化することで、前記不織布と一体化することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
(5)前記型内で前記不織布のいずれか片面側に非導電性繊維布帛を配置し、樹脂を注入・硬化することで、前記不織布と一体化することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
(6)前記型内で前記不織布の第1の面側に導電性繊維布帛を、第2の面側に非導電性繊維布帛を、配置し、樹脂を注入・硬化することで、前記不織布と一体化することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
(7)前記導電性繊維布帛が炭素繊維布帛であることを特徴とする前記(4)または(6)のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
(8)前記非導電性繊維布帛がガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維布帛であることを特徴とする前記(5)または(6)のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
(9)少なくとも導電性短繊維と非導電性短繊維とを含む不織布と樹脂で構成される電波吸収層と導電性繊維布帛と樹脂で構成される電波反射層を有する電波吸収体であって、電波反射層と電波吸収層が同一組成の樹脂で一体的に構成され、かつ周波数2〜20GHzの帯域において、少なくとも幅1GHzの、10dB以上の反射損失を示す帯域を有することを特徴とする電波吸収体。
(10)導電性短繊維と非導電性短繊維とを含む不織布と樹脂で構成される電波吸収層と、前記吸収層の第1の面側に非導電性繊維布帛と樹脂で構成されるインピーダンス整合層、第2の面側に導電性繊維布帛と樹脂で構成される電波反射層を有する電波吸収体であって、インピーダンス整合層と電波反射層と電波吸収層の3つの層が同一組成の樹脂で一体的に構成されることを特徴とする前記(9)に記載の電波吸収体。
(11)前記電波反射層が炭素繊維強化プラスチックであることを特徴とする前記(9)または(10)のいずれかに記載の電波吸収体。
(12)前記インピーダンス整合層が少なくともガラス繊維強化プラスチックまたは芳香族ポリアミド繊維強化プラスチックであることを特徴とする前記(10)または(11)のいずれかに記載の電波吸収体。
(13)前記電波反射層が輸送用機器の構造部材であることを特徴とする前記(9)〜(12)のいずれかに記載の電波吸収体。
(14)前記導電性短繊維が炭素繊維であることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
(15)前記導電性短繊維が炭素繊維であることを特徴とする前記(9)〜(13)のいずれかに記載の電波吸収体。
(16)前記不織布が紙状体であることを特徴とする前記(1)〜(8)、及び(14)のいずれかに記載の電波吸収体またはその製造方法。
(17)前記不織布が紙状体であることを特徴とする前記(9)〜(13)、及び(15)のいずれかに記載の電波吸収体またはその製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電波吸収体およびその製造方法によれば、従来通り優れた電波吸収性能を有した上に、軽量性、力学的特性に優れ、さらに、複雑形状への成形を可能にした安価な電波吸収体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施態様に係る電波吸収体1の断面図を示している。図1に示すように、本発明は、導電性短繊維および非導電性短繊維を含む不織布と樹脂の複合材料からなる電波吸収層12を含む電波吸収体1およびその製造方法に関する。本実施態様では、電波吸収層12と、この電波吸収層12の第1の面に設けたインピーダンス整合層11、電波吸収層12の第2の面に設けた電波反射層13を有する構成を示しているが、インピーダンス整合層11と電波反射層13は無くても良い。インピーダンス整合層11の材料は、到来電波を反射させにくい材料であれば特に限定はしないが、電波吸収層12と一体化する点から、少なくとも非導電性繊維布帛と樹脂で構成される複合材料からなることが好ましい。また、電波反射層13の材料は特に限定されるものでは無いが、電波吸収層12と一体化する点から、少なくとも導電性繊維布帛と樹脂で構成される複合材料からなることが好ましい。
【0014】
図2は、本発明の一実施態様に係る電波吸収体1の製造方法を示している。図3は、本発明の一実施態様に係る積層体2の断面図を示している。
【0015】
図2に示すように、まず、成形下型30の上に、少なくとも前記不織布22を任意の枚数積層した積層体2を配置する。本実施態様では、不織布を任意の枚数積層して積層体2としているが、本発明で言う積層体2とは、不織布が単層(1層のみ)である場合も含まれる。その上から、積層体2全体を、バッグ基材としてのバッグフィルム34で覆う。バッグフィルム34には、真空ポンプ43へと接続された吸引管45と、樹脂を収容した樹脂槽42にバルブ40aを介して接続された樹脂送給管41とが接続されている。吸引管45の接続位置と樹脂送給管41の接続位置は、積層体2に関して互いに反対側となるように設定されている。積層体2の面積が大きい場合には、積層体2の表面上には、たとえば網状体からなる樹脂拡散媒体32を配置すると、積層体2の面内方向に樹脂が素早く拡散できる点から好ましい。
【0016】
バッグフィルム34と、成形下型30との間には、シール部材としての両面テープ35が介装されており、全体を周囲からシールすることで成形型を形成している。この状態で、真空ポンプ43を作動させ、吸引管45を介しての吸引により、バッグフィルム34で覆われた内部(成形型内)を真空状態(減圧状態)にする。その状態にした後、バルブ40aを開いて樹脂槽42内の樹脂を樹脂送給管41を介してバッグフィルム34内に注入する。内部が真空状態にされているので、注入された樹脂は、樹脂拡散媒体32に沿って速やかに拡散されるとともに、積層体2へと含浸される。本発明の方法を用いれば、樹脂が積層体2全体に効率よくかつ速やかに含浸され、空洞や局部的な未含浸部分が生じにくい。
【0017】
しかる後に、含浸させた樹脂を硬化し、バッグフィルム34と樹脂拡散媒体32を除去し、電波吸収体1を得る。
【0018】
本実施態様では、積層体2をバッグフィルム34で覆って内部を減圧しているが、樹脂の圧力との差圧により積層体2に樹脂を注入する製造方法であれば、特に制限は無い。たとえば、成型下型と成型上型の両面を金型にして積層体を含むキャビティを形成する場合も含まれ、この場合、樹脂槽42を大気圧以上に加圧して、樹脂圧力との差圧を利用して、樹脂を注入することもできる。
【0019】
実質的に積層体を成形下型上に配置し、バッグ基材で覆い内部を真空状態にして、樹脂を注入するだけで良いため、高価な設備が必要となるプリプレグ法や手作業で基材に樹脂を含浸させるハンドレイアップ法と比較して、設備が非常に安価であり、かつ、簡便な製造方法であるため、製造コスト、ひいては電波吸収体製造全体に要するコストが極めて安価である。さらには、樹脂拡散媒体を使用することにより、面内方向に素早く樹脂を含浸させることができるため、従来法では困難であった、例えば10m以上の大型の電波吸収体を製造することも可能となった。
【0020】
また、本発明にかかる製造方法においては、前記樹脂を自由に選択することができ、粘度の低い樹脂を使用することにより、不織布22の密度が高い場合にも均一に含浸させることができる。さらに、内部を減圧することによって、ボイドを極めて少なく成形することができ、品質、特に力学的特性に優れる電波吸収体を容易に製造することができる。前記樹脂は、たとえば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビスマレイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。特に、力学特性に優れた電波吸収体を得る点では、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂を使用することが好ましい。
【0021】
また、本発明にかかる製造方法によれば、電波吸収性能に影響を与える板厚や表面の平滑性の点においても、金型、あるいは、バッグフィルムなどにより、積層体に均一に圧力が付加されるため、従来例に比較して、板厚の均一性および表面の平滑性、ひいては電波吸収性能に優れた電波吸収体を得ることができる。
【0022】
また、プリプレグは樹脂が含浸されたシートであるため、賦形性が低く、曲面などの複雑形状では変形が追従しない部分に皺が生じるという問題があったが、前記積層体2は布帛であるため、賦形性に優れており、曲面などの複雑形状であっても追従することができるため、複雑形状の電波吸収体を容易に製造することができる。
【0023】
前記積層体2において、不織布22のいずれか片面側に導電性繊維布帛23が含まれ、前記不織布22と一体的に樹脂を注入・硬化することもできる。導電性繊維布帛23と樹脂の複合材料は電波反射層13を形成することができ、電波吸収層12と電波反射層13を同一組成の樹脂で一体化することができる。従来技術における電波吸収層12と電波反射層13の接合は、各層を別々に製造した後に、ボルトなどの機械的接合、接着剤などによる2次接着が一般的であった。本発明にかかる製造方法を用いれば、不織布22と導電性繊維布帛23を積層して樹脂を注入・硬化させることで、電波吸収層12および電波反射層13の形成と接合が1度のプロセスでできるため、接合にかかる材料・作業時間のを減少することができることから、コストが削減できる上、接合にかかる重量を減少させることができる。また、従来の技術における接合は、両層の接合強度、特に耐久性の点で問題があったが、本発明の製造方法によれば、電波吸収層12と電波反射層13は同一組成の樹脂で化学的に一体化されるため、接合強度が問題となることはない。
【0024】
また、前記導電性繊維布帛23が炭素繊維布帛であり、電波吸収層12が炭素繊維強化プラスチックであることが、より本発明の効果が得られる点から好ましい。たとえば、航空機、船舶、自動車などの輸送機器に炭素繊維強化プラスチックの使用比率が高くなってきていることは言うまでも無いが、本発明の製造方法によれば、輸送機器の構造部材として炭素繊維強化プラスチックを用いる場合、炭素繊維布帛と前記不織布を積層するだけで、電波吸収体の機能を持つ炭素繊維強化プラスチック部材を製造することが可能となり、材料の無駄が省けることから非常に低コストで、かつ、高強度の電波吸収体を製造することができる。
【0025】
前記積層体2において、不織布22の第1の面側に非導電性繊維布帛が含まれ、前記不織布22と一体的に注入・硬化することもできる。非導電性繊維布帛21はインピーダンス整合層11を形成し、電波吸収層12とインピーダンス整合層11を同一組成の樹脂で一体化することが可能となる。前記非導電性繊維布帛21はガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリ乳酸繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維布帛が含まれていることが好ましい。特にガラス繊維や芳香族ポリアミド繊維を使用することが、同一の樹脂で形成することにより、電波吸収層12及び電波反射層13を高強度、高剛性化することが可能となる点から好ましい。繊維の形態は、短繊維であっても長繊維であってもよく、また、織物、編物、不織布等の布帛形態であってもよい。また、不織布22の第2の面側に前記導電性繊維布帛23が含まれていても良く、電波吸収層12、電波反射層13、インピーダンス整合層11の3層を同時に樹脂を注入・硬化させることもできる。
【0026】
本発明において、前記導電性繊維の短繊維としては、たとえば、炭素繊維、あるいは金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄などの金属繊維のような繊維がある。導電性繊維は、特別な処理を施さなくてもそれ自身で導電性を有し、かつ高強度、高弾性、しかも比重が小さいという優れた特長を有する炭素繊維であることが好ましい。上記短繊維の長さは0.1〜20mmが好ましい。繊維長があまり短かすぎると、繊維同士が重なりにくくなって接点の数が減少するようになり、また、平均繊維長が長くなると、折れやすくなるため、接点数が効率的には増加しない。炭素短繊維は、電波吸収層中に0.02〜5重量%の範囲内で含まれているのが好ましい。すなわち、炭素短繊維の量は、電波吸収層の電気的損失に影響を与える。極端に少ないと電気的損失が低くなって電波吸収性能が低下するようになるし、極端に多いと電気的損失は高くなるものの反射される電波も増えるようになる。
【0027】
非導電性短繊維は、その体積抵抗率が炭素短繊維のそれよりも2桁以上大きい、たとえば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキザゾール繊維、ポリ乳酸繊維がある。なかでも、ガラス繊維や芳香族ポリアミド繊維は剛性が高く、高強度、高弾性率の特性をもつ炭素繊維との相性がよいので好ましい。このような非導電性短繊維は、極端に少なかったり極端に多かったりすると、炭素短繊維間に介在する非導電性短繊維が少なくなり、炭素短繊維同士の重なり合いの制御が難しくなるので、電波吸収層中に30〜99重量%の範囲内で含まれるようにするのが好ましい。
【0028】
前記導電性短繊維および非導電性短繊維を用いることにより、極めて軽量な電波吸収体を得ることができる。さらに、前記短繊維が樹脂の強度を向上させるため、力学特性に優れた電波吸収体を得ることができる。
【0029】
少なくとも導電性短繊維と非導電性短繊維とを含む繊維シートの形態は、両繊維を混合して不織布にしてシート化したものを用いる。不織布は短繊維が均一にシート状に分散されてなる形態のものであれば特に制約はされない。また、ここでいう不織布には紙状体も含まれる。ここでいう紙状体とは、周知の抄紙方法で得られるシートが含まれる。また、この紙の材料はパルプなどの植物性繊維や、ポリエステルやナイロン、芳香族ポリアミド繊維といった有機合成繊維や、ガラス繊維などの無機繊維などの繊維や、水酸化アルミニウム等の無機粒子が挙げられる。、不織布の目付は50〜200g/m2、厚みは50μm〜300μmの範囲内にあるのが望ましい。1枚当たりの目付が小さすぎると何枚も大量に積層しなければならず手間がかかり、逆に目付が大きすぎると重くなり、取り扱いが難しくなるため、使いやすさの面から、この範囲にあることが好ましい。
【0030】
本発明にかかる電波吸収体1は、厚みは好ましくは1〜30mmの範囲内にあり、周波数2〜20GHzの帯域において、少なくとも幅1GHzの、10dB以上の反射損失を示す帯域を有することが、電波吸収性能の点で好ましい。
【0031】
本発明の電波吸収体は、電波暗室、船舶や航空機等の移動体、橋梁、鉄塔等の構造物、無線通信のための装置や設備、ビル等の建築物、オフィス用品に貼り付けたり装着したりして電波障害を防止するのに使用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の一実施例について、図面を参照しながら説明する。
(実施例1)
図2において、まず、表面に離型剤が塗布されたアルミ製の成形下型30上に、炭素短繊維(3重量%)とガラスチョップドファイバー(77重量%)と芳香族ポリアミドパルプ(20重量%)が湿式抄紙された東レ株式会社製の電波吸収材用混抄紙(目付100g/m)を6ply積層させた積層体2(厚み1.3mm、300mm×300mm)を配置した。
【0033】
つぎに、積層体2上に離型性のあるピールプライ31(ナイロン製タフタ)と樹脂拡散媒体32として#400メッシュのポリエチレン製網状体を配置した。
【0034】
次に樹脂拡散媒体32の左側にアルミ製のCチャンネル材の開口部を下にした樹脂注入口46を配置した。樹脂槽42は樹脂注入口の近くに設置して、樹脂送給管41で連通させた。一方、右側にはアルミ製のCチャンネル材を減圧吸引口47として配置した。減圧吸引口47はチューブを使用した吸引管45で真空トラップ44と真空ポンプ43と連通させた。
【0035】
次に、積層体2の周りに両面テープ35を配置して、バッグ材としてバッグフィルム34で全体を覆った。吸引側のバルブ40bを開き、減圧吸引口47よりバッグ内を1torrまで減圧した。
【0036】
次に、注入側のバルブ40aを開放して、樹脂槽42の樹脂を樹脂注入口46より注入した。樹脂は昭和高分子製のビニルエステル樹脂R−806を使用した。樹脂は瞬時に樹脂注入口46に充填され、樹脂拡散媒体32内を1分あまりで拡散した後、積層体2に含浸した。
【0037】
樹脂が積層体2全体に含浸を完了したため、注入側のバルブ40aを閉鎖した。次に、積層体2内の樹脂を硬化させた。樹脂の硬化を確認した後に、成形品を脱型し、電波吸収層12のみからなる電波吸収体1(厚み1.2mm)を得た。
【0038】
一方、目付460g/m2の芳香族ポリアミド繊維織物5plyの積層体2を、前記と同じ方法でビニルエステル樹脂を注入・硬化させて、インピーダンス整合層11(厚み2.8mm)を得た。
【0039】
次に、電波反射層13となる厚み1mmのアルミニウム板の上に、この電波吸収体1について、2〜18GHzにおける反射損失を測定した結果を図4に示す。
【0040】
なお、反射損失は、縦30cm、横30cm、厚み1mmのアルミニウム板に垂直に電波を当てたときの反射レベル(単位:dB)と平板型電波吸収体に同様に電波を当てた時の反射レベル(単位:dB)との差から求めた。測定には、アジレントテクノロジー(株)製のネットワークアナライザーを使用した。
【0041】
本実施例においては、電波反射層13としてアルミニウム板を使用しているが、前記積層体2において、前記芳香族ポリアミド繊維織物5ply、前記混抄紙6ply、炭素繊維織物を順次積層した積層体2を配置し、前記と同じ方法で樹脂を注入・硬化することにより、同等の性能を有する電波吸収体1を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、船舶や航空機などの輸送用機器、橋梁、鉄塔などの構造物、ビルなどの建築物などの電波吸収効果かつ力学特性が要求される構造物に適用することが、より特徴を発揮できる点から好ましいが、その他、電波暗室、無線通信のための装置や設備、オフィス用品などの用途にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係る電波吸収体の概略側面図である。
【図2】本発明に係る電波吸収体の製造方法の一実施太陽の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る積層体の概略側面図である。
【図4】実施例1に係る電波吸収体の反射損失を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1:電波吸収体
2:積層体
11:インピーダンス整合層
12:電波吸収層
13:電波反射層
21:非導電性繊維布帛
22:不織布
23:導電性繊維布帛
30:成形下型
31:ピールプライ
32:樹脂拡散媒体
33:ブリーザ
34:バッグフィルム
35:両面テープ
40a,b:バルブ
41:樹脂送給管
42:樹脂槽
43:真空ポンプ
44:真空トラップ
45:吸引管
46:樹脂注入口
47:吸引口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも導電性短繊維と非導電性短繊維とを含む不織布と樹脂で構成される複合材料からなる電波吸収体の製造方法において、少なくとも前記不織布を成形型内に配置し、樹脂容器と連通させ、前記成形型内と前記容器内の間に圧力差を生じせしめ、その差圧により、前記成形型内に樹脂を注入すると同時に前記不織布に樹脂を含浸し、硬化させることを特徴とする電波吸収体の製造方法。
【請求項2】
成型下型とバッグ材で構成される成形型を用い、前記成形型の内部を減圧することで大気圧の樹脂容器との間に差圧を生じさせることを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体の製造方法。
【請求項3】
前記成形型内部に、樹脂拡散媒体を配置することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
【請求項4】
前記型内で前記不織布のいずれか片面側に導電性繊維布帛を配置し、樹脂を注入・硬化することで、前記不織布と一体化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
【請求項5】
前記型内で前記不織布のいずれか片面側に非導電性繊維布帛を配置し、樹脂を注入・硬化することで、前記不織布と一体化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
【請求項6】
前記型内で前記不織布の第1の面側に導電性繊維布帛を、第2の面側に非導電性繊維布帛を、配置し、樹脂を注入・硬化することで、前記不織布と一体化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
【請求項7】
前記導電性繊維布帛が炭素繊維布帛であることを特徴とする請求項4または6のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
【請求項8】
前記非導電性繊維布帛がガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維布帛であることを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
【請求項9】
少なくとも導電性短繊維と非導電性短繊維とを含む不織布と樹脂で構成される電波吸収層と導電性繊維布帛と樹脂で構成される電波反射層を有する電波吸収体であって、電波反射層と電波吸収層が同一組成の樹脂で一体的に構成され、かつ周波数2〜20GHzの帯域において、少なくとも幅1GHzの、10dB以上の反射損失を示す帯域を有することを特徴とする電波吸収体。
【請求項10】
導電性短繊維と非導電性短繊維とを含む不織布と樹脂で構成される電波吸収層と、前記吸収層の第1の面側に非導電性繊維布帛と樹脂で構成されるインピーダンス整合層、第2の面側に導電性繊維布帛と樹脂で構成される電波反射層を有する電波吸収体であって、インピーダンス整合層と電波反射層と電波吸収層の3つの層が同一組成の樹脂で一体的に構成されることを特徴とする請求項9に記載の電波吸収体。
【請求項11】
前記電波反射層が炭素繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項9または10のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項12】
前記インピーダンス整合層が少なくともガラス繊維強化プラスチックまたは芳香族ポリアミド繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項10または11のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項13】
前記電波反射層が輸送用機器の構造部材であることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項14】
前記導電性短繊維が炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
【請求項15】
前記導電性短繊維が炭素繊維であることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項16】
前記不織布が紙状体であることを特徴とする請求項1〜8、及び14のいずれかに記載の電波吸収体またはその製造方法。
【請求項17】
前記不織布が紙状体であることを特徴とする請求項9〜13、及び15のいずれかに記載の電波吸収体またはその製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−96014(P2007−96014A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283738(P2005−283738)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】