説明

電波発射源特定装置、無線通信システム、電波発射源特定方法および無線通信方法

【課題】狭域無線通信において、周辺の構造物等の影響による電波反射によって発生する無線通信エラーを電波吸収体の追加設置等をすることなく解消することができる電波発射源特定装置、無線通信システム、電波発射源特定方法および無線通信方法を提供する。
【解決手段】狭域無線通信(DSRC)を利用したETCシステムにおいて、無線通信の障害となる周辺の構造物等による複数の電波反射波の到達時間を、通信対象となる車載器からの電波伝達距離から計算し、計算した電波到達時間と受信レベルとから反射波干渉除去回路により反射波成分を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、狭域無線通信(DSRC)を利用した無線通信システムで、有料道路の料金収受を行なうETCシステム(有料道路自動料金収受システム)などに適用して好適な無線通信システムにおいて到来電波の発射源を特定する電波発射源特定装置および電波発射源特定方法に関する。
また、本発明は、上記電波発射源特定装置および電波発射源特定方法を用いたETCシステムなどに適用して好適な無線通信システムおよび無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、狭域無線通信(DSRC)を利用した無線通信システムとしてETCシステム(有料道路自動料金収受システム)が知られている。ETCシステムは、周知のように、移動体である車両(自動車)に移動局としての車載器を搭載して、地上(料金所)に設置された基地局としての路側無線装置との間でマイクロ波を用いた無線通信によりデータのやりとりを行なうことにより通行料金の収受処理を行なうものである(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−67504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来技術によれば、ETCシステムの運用において、周辺の構造物や車両等の影響による電波反射による無線通信エラーが発生し、ETCシステムの安定運用に支障をきたすという問題が発生している。
【0004】
このような問題に対する対策として、目的とする電波通信エリアやその周辺の電波測定を行なうことで、通信に影響を及ぼすエリアへの電波漏洩を防ぐために電波吸収体等を追加設置するなどして対策しているが、この電波吸収体の設置には高額な費用がかかり、ETCシステムの運用における大きな負担となっている。
【0005】
そこで、本発明は、狭域無線通信において、周辺の構造物等の影響による電波反射によって発生する無線通信エラーを電波吸収体の追加設置等をすることなく解消することができる電波発射源特定装置、無線通信システム、電波発射源特定方法および無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電波発射源特定装置は、到来電波を受信する到来電波受信手段と、前記到来電波の発射方向の画像を撮像する撮像手段と、前記到来電波受信手段により受信した信号から到来電波の発射位置を検出する電波発射位置検出手段と、この電波発射位置検出手段により検出された電波発射位置を、このとき前記撮像手段により撮像された画像と重ね合わせることにより電波発射対象物を識別する電波発射対象物識別手段と、前記撮像手段により撮像された画像から前記電波発射対象物識別手段により識別された電波発射対象物を含むその周辺の画像を切り出し、あらかじめ登録されたサンプル画像と比較することにより、前記電波発射位置検出手段により検出された電波発射位置が電波発射対象物であるか電波反射対象物であるかを判定する判定手段とを具備している。
【0007】
また、本発明の無線通信システムは、移動体が移動する道路の所定位置に対し電波通信エリアを形成するように配置された基地局と、前記移動体に搭載され、前記電波通信エリア内に進入した際、前記基地局との間で電波を用いた通信を行なう移動局とを有して構成される無線通信システムにおいて、前記電波通信エリアからの到来電波を受信する到来電波受信手段と、前記電波通信エリア内の画像を撮像する撮像手段と、前記到来電波受信手段により受信した信号から到来電波の発射位置を検出する電波発射位置検出手段と、この電波発射位置検出手段により検出された電波発射位置を、このとき前記撮像手段により撮像された画像と重ね合わせることにより電波発射対象物を識別する電波発射対象物識別手段と、前記撮像手段により撮像された画像から前記電波発射対象物識別手段により識別された電波発射対象物を含むその周辺の画像を切り出し、あらかじめ登録されたサンプル画像と比較することにより、前記電波発射位置検出手段により検出された電波発射位置が電波発射対象物であるか電波反射対象物であるかを判定する第1の判定手段と、この第1の判定手段により電波発射対象物であると判定された場合、前記到来電波は前記移動体に搭載された移動局からの直接波であると判定し、電波反射対象物であると判定された場合、前記到来電波は他の物体からの反射波であると判定する第2の判定手段と、この第2の判定手段により前記到来電波は直接波であると判定された場合、前記電波反射対象物の位置と前記到来電波受信手段の位置との距離から直接波の電波到達時間を求め、前記到来電波は反射波であると判定された場合、前記電波反射対象物の位置と前記電波反射対象物の位置との距離と、前記電波反射対象物の位置と前記到来電波受信手段の位置との距離との合計値から反射波の電波到達時間を求める電波到達時間算出手段と、この電波到達時間算出手段により求められた直接波および反射波の各電波到達時間と前記到来電波受信手段で受信した信号の受信レベルとに基づき、前記基地局で受信した信号から反射波成分のみを除去する反射波干渉除去手段とを具備している。
【0008】
また、本発明の電波発射源特定方法は、到来電波をアンテナで受信する到来電波受信ステップと、前記到来電波の発射方向の画像をカメラで撮像する撮像ステップと、前記到来電波受信ステップにより受信した信号から到来電波の発射位置を検出する電波発射位置検出ステップと、この電波発射位置検出ステップにより検出された電波発射位置を、このとき前記撮像ステップにより撮像された画像と重ね合わせることにより電波発射対象物を識別する電波発射対象物識別ステップと、前記撮像ステップにより撮像された画像から前記電波発射対象物識別ステップにより識別された電波発射対象物を含むその周辺の画像を切り出し、あらかじめ登録されたサンプル画像と比較することにより、前記電波発射位置検出ステップにより検出された電波発射位置が電波発射対象物であるか電波反射対象物であるかを判定する判定ステップとを具備している。
【0009】
さらに、本発明の無線通信方法は、移動体が移動する道路の所定位置に対し電波通信エリアを形成するように配置された基地局と、前記電波通信エリア内に進入した前記移動体に搭載された移動局との間で電波を用いた通信を行なう無線通信方法において、前記電波通信エリアからの到来電波をアンテナで受信する到来電波受信ステップと、前記電波通信エリア内の画像をカメラで撮像する撮像ステップと、前記到来電波受信ステップにより受信した信号から到来電波の発射位置を検出する電波発射位置検出ステップと、この電波発射位置検出ステップにより検出された電波発射位置を、このとき前記撮像ステップにより撮像された画像と重ね合わせることにより電波発射対象物を識別する電波発射対象物識別ステップと、前記撮像ステップにより撮像された画像から前記電波発射対象物識別ステップにより識別された電波発射対象物を含むその周辺の画像を切り出し、あらかじめ登録されたサンプル画像と比較することにより、前記電波発射位置検出ステップにより検出された電波発射位置が電波発射対象物であるか電波反射対象物であるかを判定する第1の判定ステップと、この第1の判定ステップにより電波発射対象物であると判定された場合、前記到来電波は前記移動体に搭載された移動局からの直接波であると判定し、電波反射対象物であると判定された場合、前記到来電波は他の物体からの反射波であると判定する第2の判定ステップと、この第2の判定ステップにより前記到来電波は直接波であると判定された場合、前記電波反射対象物の位置と前記アンテナの位置との距離から直接波の電波到達時間を求め、前記到来電波は反射波であると判定された場合、前記電波反射対象物の位置と前記電波反射対象物の位置との距離と、前記電波反射対象物の位置と前記アンテナの位置との距離との合計値から反射波の電波到達時間を求める電波到達時間算出ステップと、この電波到達時間算出ステップにより求められた直接波および反射波の各電波到達時間と前記到来電波受信ステップで受信した信号の受信レベルとに基づき、前記基地局で受信した信号から反射波成分のみを除去する反射波干渉除去ステップとを具備している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、狭域無線通信において、周辺の構造物等の影響による電波反射によって発生する無線通信エラーを電波吸収体の追加設置等をすることなく解消することができる電波発射源特定装置、無線通信システム、電波発射源特定方法および無線通信方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る無線通信システムとしてのETCシステムの構成を概略的に示すものである。図1において、移動体である車両(自動車)1は、移動局としての車載器2を搭載していて、たとえば、有料道路(高速道路)における料金所のゲートに向かう料金収受レーン(道路)3を図示矢印方向に走行するものとする。
【0012】
料金収受レーン3の所定位置(たとえば、ゲート存在位置)における側部には、基地局としての路側無線装置4が配設されている。路側無線装置4は、車載器2との間で電波による通信を行なうための路側アンテナ5を備えていて、図示するように料金収受レーン3上に対し電波通信エリア6を形成するように配設されており、システム全体を管理統括する上位装置(図示しない)に接続されている。
【0013】
このような構成において、料金収受レーン3を走行する車両1が電波通信エリア6内に進入すると、当該車両1に搭載された車載器2は、路側無線装置4からの質問電波(ポーリング信号)を受信し、当該質問電波に対する応答電波を路側無線装置4へ送信することで、路側無線装置4との間で通信を開始する。路側無線装置4は、車載器2との無線通信によりデータのやりとりを行なうことにより通行料金の収受処理を行なうようになっている。
【0014】
図2は、本発明の実施の形態に係る電波発射源特定装置の構成を概略的に示すものである。図2において、到来電波受信手段としての電波発射源検出アンテナ11は、たとえば、路側アンテナ5の近傍に設置されていて、路側アンテナ5の電波通信エリア6からの到来電波を受信するように電波検出エリア12が設定されている。
【0015】
撮像手段としてのビデオカメラ(以降、カメラと略称する)13も、たとえば、路側アンテナ5の近傍に設置されていて、路側アンテナ5の電波通信エリア6内の画像を撮像するように撮像エリア14が設定されている。
【0016】
電波発射源検出アンテナ11は、当該アンテナ11の出力信号を処理する電波処理部15を介して画像処理部16に接続されている。画像処理部16には、カメラ13および記憶手段としての画像データベース17が接続されている。画像処理部16は、後で詳細を説明する画像処理などを行なうもので、路側無線装置4に接続されている。
【0017】
画像データベース17は、たとえば、車載器が搭載される可能性の高い多種類の車両のフロントガラスのパターン画像をサンプル画像として格納していて、後で詳細を説明する電波発射位置の識別に用いられる。
【0018】
図3は、路側無線装置4の構成を詳細に示すものである。図3において、受信系は、受信バンドパスフィルタ21、ローノイズアンプ22、周波数変換器23、局部発振器24、周波数変換後のバンドパスフィルタ25、IF帯増幅器26、復調部27および制御部28により構成されている。送信系は、制御部28、変調回路29、局部発振器30、パワーアンプ31および送信バンドパスフィルタ32により構成されている。受信バンドパスフィルタ21および送信バンドパスフィルタ32と路側アンテナ5との間には、サーキュレータ33が接続されている。
【0019】
送信側の動作は、制御部28からあらかじめ設定された通信フレームのデータが変調回路29へ送られ、ここで変調され局部発振器30に設定された無線周波数にアップコンバートされ、パワーアンプ31にて増幅され、送信バンドパスフィルタ32にて送信周波数以外の周波数がカットされ、サーキュレータ33を経由して路側アンテナ5から無線電波として送出され、車載器2へと送信される。
【0020】
受信側の動作は、車載器2からの応答無線電波が路側アンテナ5で受信され、サーキュレータ33にて受信バンドパスフィルタ21へ送られ、ここで所定の周波数以外の周波数がカットされ、ローノイズアンプ22にて増幅され、周波数変換器23にて局部発振器24に設定された周波数に対応した周波数にダウンコンバータされ、バンドパスフィルタ25にて所定の周波数以外の周波数がカットされ、IF帯増幅器26にて増幅され、復調部27へ送られる。
【0021】
復調部27では、受信信号に対し反射波成分の除去(後で詳細を説明する)を行なったのち包絡線検波を行なうことで受信データが復調される。復調された受信データは制御部28へ送られ、ここで受信データが解読される。
【0022】
復調部27は、反射波干渉除去手段としての反射波干渉除去回路27aおよび復調回路27bから構成されている。反射波干渉除去回路27aは、後述するように、求められた到来電波の直接波と反射波の電波到達時間とそのときの受信レベルとから反射波成分のみを受信信号からキャンセル(除去)するもので、たとえば、図4に示すように、加算器41、遅延素子42,43および乗算器44,45により構成されるFIR(finite inpluse response:有限インパルス応答)フィルタとなっている。
【0023】
なお、本実施の形態では、反射波干渉除去回路27aは、3系統のマルチパスの構成図を示したが、必要に応じて遅延素子と乗算器を追加して構成することで、3系統以上の系統に対しても適用可能である。
【0024】
次に、このような構成において動作を説明する。
まず、本発明に係るマルチパスの概要について図5を参照して説明する。
【0025】
道路3上の車両1との通信を行なう所定の場所に設置された路側無線装置4の路側アンテナ5からは、常時、通信フレームデータにより変調された電波が送出されている。路側無線装置4の路側アンテナ5の電波通信エリア6に車両1が進入すると、車両1に搭載された車載器2は路側無線装置4からの通信フレームを受信し、所定の応答を返信する。
【0026】
この際、図5(a)に示すように、路側無線装置4の路側アンテナ5の電波通信エリア6の周辺に通信対象となる車両1以外に別の車両7や道路周辺の建造物8が存在すると、車載器2から発射される電波が隣接する車両7の金属部や、道路周辺の建築物8によって反射し、その一部が路側無線装置4の路側アンテナ5に到達する場合がある。
【0027】
ここで、通信対象の車載器2から路側無線装置4の路側アンテナ5に直接到達する電波を電波A、通信対象の車載器2からの電波が隣接する車両7によって反射し路側無線装置4の路側アンテナ5に到達した電波を電波B、通信対象の車載器2からの電波が道路周辺の建造物8によって反射し路側無線装置4の路側アンテナ5に到達した電波を電波Cとすると、それぞれの電波A,B,Cは図5(b)に示すように、直接到達する電波Aに対し、反射して到達する分に相当する遅延時間T1,T2後に電波B、電波Cが路側無線装置4の路側アンテナ5に到達する。
【0028】
このように、3つの電波、すなわち、電波A、電波B、電波Cが同時に路側無線装置4の路側アンテナ5に到達することにより、当該電波A、電波B、電波Cが干渉して波形ひずみが発生し、路側無線装置4は正常に車載器2からの応答を受信することができなくなる。
【0029】
以下、本発明に係る電波発射源の特定およびその特定結果に基づく反射波(マルチパス)の干渉除去について図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0030】
まず、カメラ13を、たとえば、路側無線装置4が車載器2と通信を行なう電波通信エリア6全体を撮像するように撮像エリア14を設定するとともに、電波発射源検出アンテナ11を、電波通信エリア6からの到来電波を受信するように電波検出エリア12を設定する。
【0031】
この状態において、車両1が路側無線装置4の電波通信エリア6に進入し、路側無線装置4からの通信フレームデータを受信した車載器2が応答電波を発生すると(ステップS1,S2)、電波処理部15は、電波発射源検出アンテナ11で受信した電波から、そのアンテナ11の受信エリア12内において電波の受信レベルをサーチし(ステップS3)、受信レベルがあらかじめ設定された閾値を超えているポイント数を判定し(ステップS4)、その判定結果を路側無線装置4および画像処理部16へ送る。
【0032】
ステップS4の判定の結果、閾値を超えているポイント数が1個の場合、路側無線装置4は、反射波がないものと判断して、通常の車載器2との通信処理を行ない(ステップS5)、通信処理が終了すると(ステップS6)、ステップS1に戻って上記同様な動作を繰り返す。
【0033】
ステップS4の判定の結果、閾値を超えているポイント数が例えば2個以上の場合、電波処理部15は、その検出された各ポイント部分の座標値をそれぞれ計算し(ステップS7)、その計算結果を画像処理部16へ送る。
【0034】
画像処理部16は、図7に示すように、カメラ13が撮像した路側無線装置4が車載器2と通信を行なう電波通信エリア6内の画像に、電波の受信レベルがあらかじめ設定された閾値を超えて検出された各ポイント部分の座標点P1,P2,P3をマッピングさせることで(ステップS8)、図7に示すようなマッピング画像を取得する。
【0035】
次に、画像処理部16は、取得したマッピング画像から、電波の受信レベルの最も大きいポイント部分の座標周辺の画像を切り出し(ステップS9)、画像データベース17内のサンプル画像と比較し(ステップS10)、一致する(あるいは、類似度があらかじめ設定された閾値を超える)フロントガラスのパターン画像が存在するか否かを判定する(ステップS11)。
【0036】
画像データベース17には、多種類の車両のフロントガラスのパターン画像がサンプル画像として格納されているので、ステップS11の判定の結果、一致するフロントガラスのパターン画像が存在した場合(あるいは、類似度があらかじめ設定された閾値を超えるフロントガラスのパターン画像が存在した場合)、そのポイント部分の座標点は車載器2が発射する電波の直接波の発射源と判定し、そのポイント部分の座標点を直接波の電波発射源の位置座標値として図示しないメモリに格納する(ステップS12)。この際、電波発射源の位置座標値の格納と同時にそのポイント部分での電波の受信レベルも対応させて格納する。
【0037】
ステップS11の判定の結果、一致するフロントガラスのパターン画像が存在しない場合(あるいは、類似度があらかじめ設定された閾値を超えるフロントガラスのパターン画像が存在しない場合)、そのポイント部分の座標点は車載器2からの電波が他の物体で反射して到来した反射波の経路と判定し、そのポイント部分の座標点を反射波の電波発射源の位置座標値として図示しないメモリに格納する(ステップS13)。この際、電波発射源の位置座標値の格納と同時にそのポイント部分での電波の受信レベルも対応させて格納する。
【0038】
次に、画像処理部16は、図示しないメモリに格納された電波発射源の位置座標値に基づき電波到達時間を算出し、その算出結果を、図示しないメモリに格納した受信レベルとともに路側無線装置4へ送出する(ステップS14,S15)。以下、この電波到達時間の算出について図8を参照して説明する。
【0039】
まず、図8(a)に示すように、あらかじめカメラ13で道路3を含む画像を撮像し、この撮像した画像について格子状に分割し、この分割した部分の各ポイントまでの路側アンテナ5からの距離a,b,cを測定し(図8(b)参照)、さらに、使用する電波の波長と測定した距離とから算出される電波の到達時間を図示しない電波到達時間算出用テーブルに格納しておく。
【0040】
そして、上記電波到達時間算出用テーブルの内容を参照することで、図示しないメモリに格納された電波発射源の位置座標値から、その発射源までの電波到達時間を求める。その場合、電波発射源の位置座標値電波の反射経路であった場合は、電波の直接の発射源と反射位置までの距離と、電波反射位置から路側アンテナ5までの距離とを加算することにより電波到達時間を求める。
【0041】
なお、上記撮像した画像について格子状に分割する格子数は、適用するシステムにおいて要求される精度に応じて変化できるものとする。
【0042】
次に、路側無線装置4は、画像処理部16で求められた電波の直接波と反射波の各到達時間から前記遅延時間T1,T2(図5(b)参照)を求め、この求めた遅延時間T1,T2を復調部27における反射波干渉除去回路27aの遅延素子42,43にそれぞれ設定する(ステップS16)。
【0043】
復調部27の反射波干渉除去回路27aでは、IF帯増幅器26から入力された受信信号に対し反射波成分の除去を行ない、反射波成分を除去した受信信号を復調回路27bへ送出する(ステップS17)。
【0044】
すなわち、入力された受信信号は、加算器41を通過して遅延素子42に入力され、設定された遅延時間T1後に出力される。出力された受信信号は、乗算器44に入力され、所定の係数「−A1」と乗算される。ここに、係数「−A1」は、直接波(図5の電波A)の受信レベルR0と、反射波(図5の電波B)の受信レベルR1との比(R1/R0)が設定される。
【0045】
また、遅延素子42から出力された受信信号は、遅延素子43に入力され、設定された遅延時間T2後に出力される。出力された受信信号は、乗算器45に入力され、所定の係数「−A2」と乗算される。ここに、係数「−A2」は、直接波(図5の電波A)の受信レベルR0と、反射波(図5の電波C)の受信レベルR2との比(R2/R0)が設定される。
【0046】
乗算器44の出力信号および乗算器45の出力信号は、それぞれ加算器41に入力され、入力信号と加算される。その結果、当該反射波干渉除去回路27aの出力には、干渉波である反射波(図5の電波B、電波C)の成分のみが除去された信号が出力される。
【0047】
以上説明したように上記実施の形態によれば、無線通信の障害となる周辺の構造物等による複数の電波反射波の到達時間を、通信対象となる車載器からの電波伝達距離から計算し、計算した電波到達時間と受信レベルとから反射波干渉除去回路により反射波成分を除去することにより、狭域無線通信(DSRC)を利用したETCシステムにおいて、周辺の構造物等の影響による電波反射によって発生する無線通信エラーを電波吸収体の追加設置等をすることなく解消することができ、路側無線装置と車載器との間で常に安定した通信が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態に係る無線通信システムとしてのETCシステムの構成を概略的に示す模式図。
【図2】本発明の実施の形態に係る電波発射源特定装置の構成を概略的に示すブロック図。
【図3】路側無線装置の構成を詳細に示すブロック図。
【図4】反射波干渉除去回路の構成を概略的に示す構成図。
【図5】本発明に係るマルチパスの概要について説明する模式図。
【図6】電波発射源の特定およびその特定結果に基づく反射波の干渉除去について説明するフローチャート。
【図7】画像処理部で取得するマッピング画像の一例を示す図。
【図8】電波到達時間の算出について説明する模式図。
【符号の説明】
【0049】
1…車両(移動体)、2…車載器(移動局)、3…料金収受レーン(道路)、4…路側無線装置(基地局)、5…路側アンテナ、6…電波通信エリア、11…電波発射源検出アンテナ(到来電波受信手段)、12…電波検出エリア、13…ビデオカメラ(撮像手段)、14…撮像エリア、15…電波処理部、16…画像処理部、17…画像データベース(記憶手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
到来電波を受信する到来電波受信手段と、
前記到来電波の発射方向の画像を撮像する撮像手段と、
前記到来電波受信手段により受信した信号から到来電波の発射位置を検出する電波発射位置検出手段と、
この電波発射位置検出手段により検出された電波発射位置を、このとき前記撮像手段により撮像された画像と重ね合わせることにより電波発射対象物を識別する電波発射対象物識別手段と、
前記撮像手段により撮像された画像から前記電波発射対象物識別手段により識別された電波発射対象物を含むその周辺の画像を切り出し、あらかじめ登録されたサンプル画像と比較することにより、前記電波発射位置検出手段により検出された電波発射位置が電波発射対象物であるか電波反射対象物であるかを判定する判定手段と、
を具備したことを特徴とする電波発射源特定装置。
【請求項2】
移動体が移動する道路の所定位置に対し電波通信エリアを形成するように配置された基地局と、前記移動体に搭載され、前記電波通信エリア内に進入した際、前記基地局との間で電波を用いた通信を行なう移動局とを有して構成される無線通信システムにおいて、
前記電波通信エリアからの到来電波を受信する到来電波受信手段と、
前記電波通信エリア内の画像を撮像する撮像手段と、
前記到来電波受信手段により受信した信号から到来電波の発射位置を検出する電波発射位置検出手段と、
この電波発射位置検出手段により検出された電波発射位置を、このとき前記撮像手段により撮像された画像と重ね合わせることにより電波発射対象物を識別する電波発射対象物識別手段と、
前記撮像手段により撮像された画像から前記電波発射対象物識別手段により識別された電波発射対象物を含むその周辺の画像を切り出し、あらかじめ登録されたサンプル画像と比較することにより、前記電波発射位置検出手段により検出された電波発射位置が電波発射対象物であるか電波反射対象物であるかを判定する第1の判定手段と、
この第1の判定手段により電波発射対象物であると判定された場合、前記到来電波は前記移動体に搭載された移動局からの直接波であると判定し、電波反射対象物であると判定された場合、前記到来電波は他の物体からの反射波であると判定する第2の判定手段と、
この第2の判定手段により前記到来電波は直接波であると判定された場合、前記電波反射対象物の位置と前記到来電波受信手段の位置との距離から直接波の電波到達時間を求め、前記到来電波は反射波であると判定された場合、前記電波反射対象物の位置と前記電波反射対象物の位置との距離と、前記電波反射対象物の位置と前記到来電波受信手段の位置との距離との合計値から反射波の電波到達時間を求める電波到達時間算出手段と、
この電波到達時間算出手段により求められた直接波および反射波の各電波到達時間と前記到来電波受信手段で受信した信号の受信レベルとに基づき、前記基地局で受信した信号から反射波成分のみを除去する反射波干渉除去手段と、
を具備したことを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
到来電波をアンテナで受信する到来電波受信ステップと、
前記到来電波の発射方向の画像をカメラで撮像する撮像ステップと、
前記到来電波受信ステップにより受信した信号から到来電波の発射位置を検出する電波発射位置検出ステップと、
この電波発射位置検出ステップにより検出された電波発射位置を、このとき前記撮像ステップにより撮像された画像と重ね合わせることにより電波発射対象物を識別する電波発射対象物識別ステップと、
前記撮像ステップにより撮像された画像から前記電波発射対象物識別ステップにより識別された電波発射対象物を含むその周辺の画像を切り出し、あらかじめ登録されたサンプル画像と比較することにより、前記電波発射位置検出ステップにより検出された電波発射位置が電波発射対象物であるか電波反射対象物であるかを判定する判定ステップと、
を具備したことを特徴とする電波発射源特定方法。
【請求項4】
移動体が移動する道路の所定位置に対し電波通信エリアを形成するように配置された基地局と、前記電波通信エリア内に進入した前記移動体に搭載された移動局との間で電波を用いた通信を行なう無線通信方法において、
前記電波通信エリアからの到来電波をアンテナで受信する到来電波受信ステップと、
前記電波通信エリア内の画像をカメラで撮像する撮像ステップと、
前記到来電波受信ステップにより受信した信号から到来電波の発射位置を検出する電波発射位置検出ステップと、
この電波発射位置検出ステップにより検出された電波発射位置を、このとき前記撮像ステップにより撮像された画像と重ね合わせることにより電波発射対象物を識別する電波発射対象物識別ステップと、
前記撮像ステップにより撮像された画像から前記電波発射対象物識別ステップにより識別された電波発射対象物を含むその周辺の画像を切り出し、あらかじめ登録されたサンプル画像と比較することにより、前記電波発射位置検出ステップにより検出された電波発射位置が電波発射対象物であるか電波反射対象物であるかを判定する第1の判定ステップと、
この第1の判定ステップにより電波発射対象物であると判定された場合、前記到来電波は前記移動体に搭載された移動局からの直接波であると判定し、電波反射対象物であると判定された場合、前記到来電波は他の物体からの反射波であると判定する第2の判定ステップと、
この第2の判定ステップにより前記到来電波は直接波であると判定された場合、前記電波反射対象物の位置と前記アンテナの位置との距離から直接波の電波到達時間を求め、前記到来電波は反射波であると判定された場合、前記電波反射対象物の位置と前記電波反射対象物の位置との距離と、前記電波反射対象物の位置と前記アンテナの位置との距離との合計値から反射波の電波到達時間を求める電波到達時間算出ステップと、
この電波到達時間算出ステップにより求められた直接波および反射波の各電波到達時間と前記到来電波受信ステップで受信した信号の受信レベルとに基づき、前記基地局で受信した信号から反射波成分のみを除去する反射波干渉除去ステップと、
を具備したことを特徴とする無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−115562(P2009−115562A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287868(P2007−287868)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】