説明

電波透過部材、調光素子、および調光窓材

【課題】電波透過性、耐擦傷性、および可視光透過性に優れる電波透過部材を提供すること。
【解決手段】透明基板2に電波透過性を有する導電層4が形成された電波透過部材1であって、前記導電層4は、Ga、In、Ti、Nb、Ta、およびSbから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有するSn酸化物主成分層であり、かつシート抵抗が1500Ω/□以上6000Ω/□以下であるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波透過部材、調光素子、および調光窓材に係り、特に透明基板に導電層が形成されたものであって、十分な電波透過性、耐擦傷性、および可視光透過性を有する電波透過部材、およびこれを用いた調光素子、調光窓材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光の透過量を制御することのできる窓材として調光窓材が知られている。調光窓材は、例えば一対の導電層(電極層)を有する透明基板の間に液晶を含む調光層が配置された調光素子を有するものであり、この調光素子に印加する電圧を変化させることによって、光の透過量を制御するものである。調光素子には、液晶の配向方向を調節することにより、例えば電圧印加時に光が透過し、非印加時に光が散乱するモード、これとは反対に電圧印加時に光が散乱し、非印加時に光が透過するモード等があり、用途や目的に応じて種々のモードを選択することができる。
【0003】
このような調光素子における導電層は、例えばSnがドープされたIn酸化物(ITO)、SbがドープされたSn酸化物(ATO)、InがドープされたZn酸化物(IZO)、GaがドープされたZn酸化物(GZO)、Sn酸化物等からなるものとされている。また、このような導電層の厚さは、例えば10〜5000nmとされている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−158040号公報
【特許文献2】特開2009−36967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車、列車、航空機、建築物等の窓材に調光窓材を用いることが検討されている。このような部分に調光窓材を用いることで、必要時に車外等から見えなくなるようにしてプライバシーを確保したり、また日光を遮って温調機器の負担を軽減したりすることができる。
【0006】
ところで、調光窓材、特に調光素子における導電層には、車内等において電波を利用した機器を使用できるように十分な電波透過性を有することが求められる。例えば、自動車の場合、車内でガレージオープナーや携帯電話機等を使用できるようにする必要がある。建築物等についても、室内で携帯電話機等を使用できるようにする必要がある。これらの機器はいずれも電波を利用することから、調光窓材、特に調光素子における導電層には、十分な電波透過性を有することが求められる。
【0007】
調光素子の導電層としては、上記したITO膜が代表的なものとして挙げられる。しかしながら、ITO膜の場合、十分な電波透過性を得るためには、非常に薄くする必要がある。導電層を薄くした場合、安定した抵抗値を得ることが難しく、また調光素子等を製造する際の損傷によって抵抗値が変化しやすく、結果として本来の機能を得られなくなるおそれがある。
【0008】
例えば、調光素子等の製造においては、導電層の周辺部分に電極を取り付けるために、予めこの部分をエタノールに浸漬したフェルト等で拭き取るようにして洗浄することがある。この際、導電層が薄いと、拭き取りによる損傷によって抵抗値が変化しやすくなる。また、調光素子等における導電層には、十分な電波透過性や耐擦傷性に加えて、十分な可視光透過性を有することも求められる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、十分な電波透過性、耐擦傷性、および可視光透過性を有し、調光素子等の透明基板として好適に用いられる電波透過部材、およびこれを用いた調光素子、調光窓材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電波透過部材は、透明基板に電波透過性を有する導電層が形成された電波透過部材であって、前記導電層は、Ga、In、Ti、Nb、Ta、およびSbから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有するSn酸化物主成分層からなり、かつシート抵抗が1500Ω/□以上6000Ω/□以下であることを特徴としている。
【0011】
前記導電層は、Sn酸化物の含有量が80質量%以上99質量%以下であることが好ましく、少なくともGaおよびInの酸化物を含有することが好ましい。また、前記導電層の表面にはSi酸化物からなるキャップ層を有することが好ましく、前記導電層と前記キャップ層との間にはSi酸化物以外の絶縁性酸化物からなるバリア層を有することが好ましい。
【0012】
本発明の電波透過部材は、150℃、90分の耐熱試験を行ったとき、前記導電層の試験前のシート抵抗に対する試験後のシート抵抗の抵抗比である抵抗変化率が0.6以上1.0以下であることが好ましい。また、本発明の電波透過部材は、エタノール拭き試験を行ったとき、前記導電層の試験前のシート抵抗に対する試験後のシート抵抗の抵抗比である抵抗変化率が1.0以上2.0以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の調光素子は、表面に導電層を有する一対の透明基板と、前記一対の透明基板間に配置された調光層とを有し、前記一対の透明基板が互いの導電層が対向するように配置されたものであって、前記透明基板が上記した本発明の電波透過部材であることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の調光窓材は、一対の透明な外側基板間に調光素子が配置された調光窓材であって、前記調光素子が上記した本発明の調光素子であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Ga、In、Ti、Nb、Ta、およびSbから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有するSn酸化物主成分層からなり、かつシート抵抗が1500Ω/□以上6000Ω/□以下である導電層を透明基板に形成して電波透過部材とすることで、十分な電波透過性、耐擦傷性、および可視光透過性を有するものとすることができる。また、このような電波透過部材を用いて調光素子または調光窓材とすることで、十分な電波透過性を有するものとしつつ、信頼性等についても十分なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の電波透過部材の一例を示す断面図。
【図2】導電層のシート抵抗と電波遮蔽性能との関係を示す図。
【図3】導電層の厚さとシート抵抗との関係を示す図。
【図4】導電層の厚さと、エタノール拭き試験による導電層のシート抵抗変化(抵抗差)および電波透過部材の可視光透過率との関係を示す図。
【図5】本発明のキャップ層を有する電波透過部材を示す断面図。
【図6】本発明のキャップ層およびバリア層を有する電波透過部材を示す断面図。
【図7】本発明の調光素子および調光窓材の一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の電波透過部材の一例を示す断面図である。
本発明の電波透過部材1は、透明基板2の一方の主面に、例えば下地層3を介して電波透過性を有する導電層4が形成されたものである。
【0019】
透明基板2は、透明性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えばガラス、高分子フィルム等からなるものとすることができる。ガラスとしては、二酸化ケイ素を主成分とする一般的なガラスの他、種々の組成の無機材料からなる無機ガラス、透明なアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機材料からなる樹脂ガラスが挙げられる。また、高分子フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系フィルム、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、アクリル樹脂系のフィルム、ポリエーテルサルフォンフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等が挙げられる。これらの中でも、透明性に優れ、成形性、接着性、加工性等にも優れることから、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好適に用いられる。
【0020】
なお、透明基板2の下地層3が設けられる表面には、図示しないが易接着層が形成されていてもよい。易接着層としては、例えばコロナ放電により表面を物理的に荒らすとともに官能基を作る方法、インラインコートにより特定の化合物を塗布し、透明基板2との密着性に優れる薄層を形成する方法等により得られるものが挙げられる。
【0021】
下地層3は、導電層4を形成するための下地となるものであって、例えばSi酸化物(SiO)からなるものである。下地層3の厚さは必ずしも限定されるものではないが、後述するように導電層4のシート抵抗変化を抑制する観点から5nm以上が好ましく、通常は20nm以下で十分である。下地層3は、真空蒸着法、反応性蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相折出法、プラズマCVD法等の化学気相折出法等により形成することができる。なお、本発明の電波透過部材1については、必ずしも下地層3が設けられている必要はなく、透明基板2に導電層4が直接形成されていてもよい。
【0022】
導電層4は、Ga、In、Ti、Nb、Ta、およびSbから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有するSn酸化物(SnO)主成分層であり、かつシート抵抗が1500以上6000Ω/□以下のものである。ここで、Sn酸化物主成分層とは、Sn酸化物を50質量%以上含有する層を意味する。
【0023】
このような導電層4についても、真空蒸着法、反応性蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相折出法、プラズマCVD法等の化学気相折出法等により形成することができる。通常、Sn酸化物を主成分とし、Ga、In、Ti、Nb、Ta、およびSbから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有するターゲットを用い、スパッタ法により雰囲気中のO濃度を例えば4〜7体積%として成膜することで、所定の組成およびシート抵抗を有するものを得ることができる。
【0024】
本発明では、導電層4の組成およびシート抵抗を所定のものとすることで、十分な電波透過性、耐擦傷性、および可視光透過性を有するものとすることできる。すなわち、導電層4のシート抵抗を1500Ω/□以上6000Ω/□以下とすることで、例えば調光素子等の導電層に用いた場合に、素子の駆動を良好に行いつつ、電波透過性も十分なものとすることができる。また、所定の組成とすることで、シート抵抗を1500Ω/□以上6000Ω/□以下とした場合の厚さも適度なものとすることができ、十分な耐擦傷性を有するもの、具体的には有機溶剤を用いた拭き取り等によるシート抵抗変化が小さいものとすることができる。さらに、所定の組成とすることで、可視光透過性も十分なものとすることができる。また、所定の組成とすることで、長期間放置した場合のシート抵抗変化も小さいものとすることができる。これにより、調光素子等に用いた場合に、電波透過性を向上させつつ、十分な製造性や信頼性を有するものとすることができる。
【0025】
導電層4、すなわちSn酸化物主成分層におけるSn酸化物の含有量は、80質量%以上99質量%以下が好ましく、85質量%以上97質量%以下が好ましい。Sn酸化物の含有量を80質量%以上99質量%以下とすることで、上記した諸特性のバランスに優れるものとすることができる。
【0026】
導電層4は、例えばGaおよびInの酸化物を含有するSn酸化物主成分層とすることができる。GaおよびInの酸化物(In、Ga)を含有させることで、より諸特性のバランスに優れたものとすることができる。導電層4におけるGaおよびInの酸化物の含有量(合計量)は、1質量%以上20質量%以下が好ましく、3質量%以上15質量%以下がより好ましい。また、質量でのIn酸化物の含有量に対するGa酸化物の含有量の比(=Ga酸化物の含有量/Inの酸化物の含有量)は、0.2以上0.9以下が好ましく、0.3以上0.8以下がより好ましい。
【0027】
GaおよびInの酸化物を含有させる場合、併せてTi酸化物(TiO)を含有させることができる。この場合、質量でのGaおよびInの酸化物の含有量(合計量)に対するTi酸化物の含有量の比(=Ti酸化物の含有量/GaおよびInの酸化物の含有量)は、0.05以上0.3以下が好ましく、0.07以上0.2以下が好ましい。
【0028】
また、導電層4は、例えばNbおよびTaの酸化物(Nb、Ta)を含有するSn酸化物主成分層とすることができる。この場合、導電層4におけるNbおよびTaの酸化物の含有量(合計量)は、1質量%以上5質量%以下が好ましく、2質量%以上4質量%以下がより好ましい。また、質量でのTa酸化物の含有量に対するNb酸化物の含有量の比(=Nb酸化物の含有量/Ta酸化物の含有量)は、0.1以上0.4以下が好ましく、0.15以上0.35以下がより好ましい。
【0029】
さらに、導電層4は、例えばSb酸化物(Sb)を含有するSn酸化物主成分層とすることができる。この場合、導電層4におけるSb酸化物の含有量は、1質量%以上5質量%以下が好ましく、2質量%以上4質量%以下がより好ましい。
【0030】
以下、本発明におけるシート抵抗等の規定理由について具体的に説明する。
導電層4の電波遮蔽効果は下記式1に示すシェルクノフの式により近似的に与えられる。
【数1】

ここで、Zcは空気の波動インピーダンス(377Ω)であり、Rsは導電層4のシート抵抗である。シェルクノフの式より、導電層4のシート抵抗が高いほど電波遮蔽性能が低下し、電波が透過しやすくなることが分かる。
【0031】
図2は、シェルクノフの式より算出した導電層4のシート抵抗と電波遮蔽性能との関係を示したものである。シート抵抗が1500Ω/□を超えると電波遮蔽性能が2dB以下、さらには1dB以下となり十分に電波が透過することが分かる。一方、調光素子等を駆動させるためには面内に均一に電圧が印加される必要があり、ある程度低抵抗であることが好ましい。
【0032】
例えば、調光材料として、Research Frontiers社製のSPD(Suspended Particle Device)が知られている。このSPDは、UV硬化樹脂中に直径5μm程度の液滴が分散されて封入されており、この液滴中に長さ0.5μm程度の青い棒状のSPD粒子が分散されたものである。このような調光材料を良好に駆動させるためには、シート抵抗が6000Ω/□以下であることが好ましい。
【0033】
このため、本発明では、素子の駆動と電波透過性とを両立させる観点から、導電層4のシート抵抗を1500Ω/□以上6000Ω/□以下としている。素子の駆動と電波透過性能との両立に加えて、電波透過部材1の製造時あるいは使用時のシート抵抗変化を抑制し、またシート抵抗変化後も所定のシート抵抗の範囲内となるようにし、さらに十分な可視光透過性を有するものとする観点から、導電層4のシート抵抗は2000Ω/□以上5000Ω/□以下が好ましく、3000Ω/□以上4000Ω/□以下がより好ましい。
【0034】
図3は、各種の導電層4の厚さとシート抵抗との関係を示したものである。
導電層4の形成には、10質量%のSnOを添加したInを焼結して得られたターゲット(10ITO)、40質量%のSnOを添加したInを焼結して得られたターゲット(40ITO)、4質量%のGaおよび5質量%のInを添加したSnOを焼結して得られたターゲット(GIT)、GaおよびInが50質量%ずつとなるように混合したものを焼結して得られたターゲット(GIO)を用いた。
【0035】
導電層4の形成は、それぞれのターゲットを用いて、アルゴンガスに4.0体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを用い、圧力0.1Pa、電力密度2.5W/cm、周波数100kHz、反転パルス幅1μsec、成膜時間を変更することにより厚さを変更し、DCパルススパッタリングにより行った。導電層4の組成は、その形成に用いたターゲットの組成と同様のものとなっている。なお、ここでは、GITターゲットを用いて成膜された導電層4が本発明における導電層4に相当する。
【0036】
シート抵抗は、三菱化学社製 Loresta-GP MCP-T610(ASPプローブ 試料10cm□)を用いて4探針形式にて測定した。厚さは、予め反射スペクトルのフィッティングにより求められた成膜レートより求めたものであり、成膜レートが投入電力により直線的に変化するとものと仮定して概算した。
【0037】
図3から明らかなように、ITOターゲットにより形成された導電層4については、シート抵抗を1500Ω/□以上とするためには10nm未満の厚さとする必要があることがわかる。しかし、このような厚さとすると、導電層4が島状に形成されるためにシート抵抗の安定性が低下し、耐擦傷性も低下するおそれがある。また、導電層4の形成時のO濃度を過度に低くあるいは高くすることで、厚さを大きくしたままシート抵抗を高くすることも考えられるが、シート抵抗の安定性が低下するおそれがあるために好ましくない。
【0038】
GIOターゲットにより形成された導電層4については、シート抵抗を6000Ω/□以下とするためには50nmを超える厚さとする必要があることがわかる。しかし、このような厚さとすると、可視光反射率が上昇するために可視光透過率が低下し、また成膜に時間を要するために生産性に優れないものとなるおそれがある。
【0039】
これらのものに対してGITターゲットにより形成された導電層4については、適度な厚さを有しつつ、シート抵抗が1500Ω/□以上6000Ω/□以下となることがわかる。すなわち、GaおよびInの酸化物を含有するSn酸化物主成分層によれば、適度な厚さとシート抵抗とを両立することができ、これにより素子の駆動と電波透過性能とを両立しつつ、十分な耐擦傷性や可視光透過性を有するものとできることがわかる。
【0040】
導電層4の厚さは、所定のシート抵抗を得るとともに、十分な耐擦傷性および可視光透過性を得る観点から、10nm以上50nm以下が好ましく、13nm以上40nm以下がより好ましく、15nm以上30nm以下がさらに好ましい。導電層4の厚さを10nm以上とすることで、シート抵抗を6000Ω/□以下とすることができ、また十分な耐擦傷性を得ることができる。一方、導電層4の厚さを50nm以下とすることで、十分な可視光透過性を得ることができる。
【0041】
図4は、導電層4の厚さと、エタノール拭き試験によるシート抵抗変化(抵抗差)および電波透過部材1の可視光透過率との関係を示したものである。ここでは、透明基板2として易接着層を有する厚さが100μmのPETフィルムを用い、このPETフィルム上に厚さが14μmの下地層3を形成した後、さらに厚さが12、24、または48nmの導電層4を形成して電波透過部材1とした。
【0042】
なお、導電層4の形成は、上記したGITターゲットを用いて、アルゴンガスに4.0体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを用い、圧力0.1Pa、電力密度2.5W/cm、周波数100kHz、反転パルス幅1μsec、成膜時間を変更することにより厚さを変更し、DCパルススパッタリングにより行った。また、下地層3の形成は、多結晶シリコンをターゲットとして用いて、アルゴンガスに28体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、圧力0.25Pa、電力密度3.4W/cm2の条件でACスパッタリングにより行った。
【0043】
エタノール拭き試験は、エタノールに浸漬したフェルトを用い、このフェルトに500gの荷重をかけて導電層4上で10往復させることにより行った。また、シート抵抗変化は、エタノール拭き試験前後のシート抵抗差(=試験後のシート抵抗−試験前のシート抵抗)を求めた。シート抵抗差は、耐擦傷性の指標となるものであり、シート抵抗差が小さいほど導電層4が損傷しにくく、耐擦傷性に優れることを示す。
【0044】
また、可視光透過率は、電波透過部材1について島津製作所製のSolidSpec3700(商品名)を用いて分光測定を実施し、ISO13837(2008)に準拠してA光源可視光透過率(Tva)を算出した。
【0045】
図4から明らかなように、導電層4の厚さを10nm以上とすることでエタノール拭き試験によるシート抵抗変化が500Ω/□以下となり、厚さを大きくすることでエタノール拭き試験によるシート抵抗変化はさらに小さくなることがわかる。一方、導電層4の厚さを50nm以下とすることで75%以上の可視光透過率を確保することができ、導電層4の厚さを小さくすることで80%以上、さらには85%以上の可視光透過率を確保できることがわかる。
【0046】
本発明の電波透過部材1には、耐擦傷性を向上させる観点から、図5に示すように導電層4の表面、具体的には透明基板2や下地層3に接する主面とは反対側の主面に導電層4を保護するためのSi酸化物(SiO)からなるキャップ層5を設けることが好ましい。キャップ層5の厚さは、耐擦傷性を効果的に向上させる観点から、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましい。また、キャップ層5の厚さは、通常は20nmもあれば十分であり、このような厚さ以下とすることで生産性にも優れるものとすることができる。
【0047】
表1は、下地層3やキャップ層5の厚さを変化させたときのエタノール拭き試験による導電層4のシート抵抗変化(抵抗変化率)を示したものである。ここでは、透明基板2として易接着層を有する厚さが100μmのPETフィルムを用い、このPETフィルム上に厚さが13〜26nmの下地層3、および厚さが20nmの導電層4を順に形成して電波透過部材1とした。また、キャップ層5を有するものについては、さらに厚さが5〜10nmのキャップ層5を形成して電波透過部材1とした。
【0048】
導電層4の形成は、上記したGITターゲットを用いて、アルゴンガスに4.0体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを用い、圧力0.1Pa、電力密度2.5W/cm、周波数100kHz、反転パルス幅1μsecの条件でDCパルススパッタリングにより行った。また、下地層3、キャップ層5の形成は、それぞれ多結晶シリコンをターゲットとして用いて、アルゴンガスに28体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、圧力0.25Pa、電力密度3.4W/cm2の条件でACスパッタリングにより行った。
【0049】
なお、ここではシート抵抗変化として、抵抗差を求める代わりに、抵抗変化率(=エタノール拭き試験後のシート抵抗/エタノール拭き試験前のシート抵抗)を求めた。シート抵抗変化率は、信頼性の観点から、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.1以下がさらに好ましい。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、キャップ層5を設けることで、エタノール拭き試験によるシート抵抗変化が1.5以下、より好ましくは1.1以下となることがわかる。また、同表から明らかなように、下地層3もシート抵抗変化の抑制に有効であり、その厚さは5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましいことがわかる。また、下地層3の厚さが20nm程度となるとシート抵抗変化が十分に抑制され、それ以上の厚さとしても効果に変化は見られないことから、通常は20nm以下が好ましいことがわかる。
【0052】
また、表2は、下地層3の厚さを上記した13nmに固定し、キャップ層5の厚さをより詳細に変化させたときのエタノール拭き試験による導電層3のシート抵抗変化(抵抗変化率)を示したものである。なお、同表には、別途、150℃、90分の耐熱試験を行ったときのシート抵抗変化(抵抗変化率(=耐熱試験後のシート抵抗/耐熱試験前のシート抵抗))も併せて示している。
【0053】
耐熱試験は常温で長期間放置した場合に相当する加速試験であり、この耐熱試験によるシート抵抗変化率が1に近いほど安定性が高く信頼性に優れることを示す。信頼性の観点から、耐熱試験後のものについても、シート抵抗が1500Ω/□以上6000Ω/□以下の範囲内となることが好ましく、このようなものとするためにも耐熱試験による抵抗変化率は0.6以上であることが好ましい。
【0054】
【表2】

【0055】
表2から明らかなように、キャップ層5の厚さを2nm以上とすることで、エタノール拭き試験によるシート抵抗変化は十分に抑制されることがわかる。しかし、同表から明らかなように、キャップ層5を設けなかった場合の耐熱試験によるシート抵抗の抵抗変化率が0.7程度であるのに対し、キャップ層5を設けた場合の耐熱試験によるシート抵抗の抵抗変化率は0.5程度となり、キャップ層5を設けることで耐熱試験によるシート抵抗変化は大きくなることがわかる。
【0056】
キャップ層5を設けた場合の耐熱試験によるシート抵抗の大きな変化は、キャップ層5であるSiO層中のOにより導電層4の酸化が進行し、導電層4における移動度が上昇するためと推定される。このようなことから、例えば図6に示すように導電層4とキャップ層5との間に導電層4の酸化を抑制するためのバリア層6を設けることが好ましい。
【0057】
バリア層6は、SiO層以外の絶縁性酸化物層からなるものであれば必ずしも限定されるものではないが、例えばAlおよびZnの酸化物層、GaおよびInの酸化物層、Nbの酸化物層等が好適なものとして挙げられる。バリア層6の厚さは、0.5nm以上4.0nm以下が好ましく、1.0nm以上3.0nm以下がより好ましい。
【0058】
バリア層6の厚さを0.5nm以上とすることで、導電層4の酸化によるシート抵抗変化を効果的に抑制することができる。一方、バリア層6の厚さは5.0nm程度もあれば十分に導電層4の酸化によるシート抵抗変化を抑制することができ、これ以下とすることで生産性にも優れるものとすることができる。また、可視光透過性を十分なものとする観点から、バリア層6は導電層4との屈折率差が0.1以下となるものが好ましい。
【0059】
バリア層6の形成は、真空蒸着法、反応性蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相折出法、プラズマCVD法等の化学気相折出法等により形成することができる。例えば、1質量%以上10質量%以下、より好ましくは3質量%以上7質量%以下のAlが添加されたZn酸化物(ZnO)を焼結して得られるターゲットを用い、スパッタ法により好適に形成することができる。この際、Ar雰囲気のみ、すなわちO濃度を0(ゼロ)にして成膜することで、その後のキャップ層5の形成時の酸素プラズマによる導電層4の酸化、および形成されたキャップ層5からのOの拡散による酸化の抑制が期待できる。
【0060】
表3は、図1(透明基板/下地層/導電層)、図5(透明基板/下地層/導電層/キャップ層)、および図6(透明基板/下地層/導電層/バリア層/キャップ層)に示す構造の電波透過部材1の諸特性をまとめて示したものである。各層の構成材料および厚さは表4に示すものとした。
【0061】
なお、表4中、GITは、上記したGITターゲットを用いて成膜された層であることを意味する。また、AZOは、5質量%のAlを添加したZnOを焼結して得られたAZOターゲットを用いて成膜された層であることを意味する。GIT層(導電層4)の形成は、上記したGITターゲットを用いて、アルゴンガスに4.0体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを用い、圧力0.1Pa、電力密度2.5W/cm、周波数100kHz、反転パルス幅1μsecの条件でDCパルススパッタリングにより行った。また、下地層3、キャップ層5の形成は、それぞれ多結晶シリコンをターゲットとして用いて、アルゴンガスに28体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、圧力0.25Pa、電力密度3.4W/cm2の条件でACスパッタリングにより行った。さらに、AZO(バリア層6)の形成は、上記したAZOターゲットを用いて、アルゴンガスを導入しながら、圧力0.1Pa、電力密度0.25W/cm、周波数100kHz、反転パルス幅1μsecの条件でDCパルススパッタリングにより行なった。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
表3、4から明らかなように、導電層4の組成を所定の組成とすることで、適度なシート抵抗と厚さとを得ることができ、結果として素子の駆動と電波透過性とを両立することができ、また十分な耐擦傷性および可視光透過性を得られることがわかる。特に、図6に示すようにキャップ層5とバリア層6とを設けることで、エタノール拭き試験や耐熱試験によるシート抵抗変化が効果的に抑制され、耐擦傷性や安定性に優れるものとなることがわかる。
【0065】
表5は、上記したGITターゲットとともに、導電層4の形成に適用可能なターゲットの例を示したものである。これらのターゲットを用いて、厚さ60μmのSiO層が形成されたガラス板上に導電層4を形成した。導電層4の形成は、スパッタ法により、Ar+O、80sccm、投入電力0.2kWとし、100秒成膜することにより行った。表6に、導電層4の成膜時のO濃度およびスパッタレート、また形成された導電層4の厚さ、シート抵抗、抵抗率、耐熱試験による抵抗変化率を示した。
【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
表5、6から明らかなように、GIT(A)〜GIT(D)、SnO(X)、およびATOのいずれのターゲットを用いて成膜された導電層4についても、GITターゲットを用いて成膜された導電層4に近いシート抵抗や抵抗変化率が得られることがわかる。従って、NbおよびTaの酸化物を含有するSn酸化物主成分層、Sb酸化物を含有するSn酸化物主成分層についても、本発明における導電層4に好適なことがわかる。
【0069】
本発明の電波透過部材1は、調光素子等の透明基板として好適に用いることができる。図7は、調光素子を用いた調光窓材の一例を示す断面図である。この調光窓材11では、一対の透明な外側基板12の間に接着層13を介して調光素子14が設けられている。外側基板12は、例えば二酸化ケイ素を主成分とする一般的なガラスの他、種々の組成の無機材料からなる無機ガラス、透明なアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機材料からなる樹脂ガラスとすることができる。
【0070】
調光素子14は、一対の透明基板141を有している。一対の透明基板141は、それぞれ表面に図示しない導電層を有しており、互いの導電層が対向するように配置されている。本発明の電波透過部材1は、このような調光素子14における導電層を有する透明基板141として好適に用いられる。透明基板141の間には図示しない配向膜層を介して調光層142が配置されており、この調光層142の周囲を囲むようにシール材143が配置されている。
【0071】
配向膜層は、例えばラビング処理された、あるいはラビング処理されていないポリイミド膜とすることができる。また、調光層142は、液晶を含むものであり、例えば液晶と硬化性化合物とを含む液晶組成物を液晶が配向するように硬化させた複合体とすることができる。液晶組成物としては、例えば特開2000−119656号公報に記載された液晶組成物を用いることができる。一対の透明基板141は、互いに水平方向にずらして配置されており、このような配置により露出した透明基板141の図示しない導電層にバスバ144が電気的に接続されている。
【0072】
このような調光窓材11は、各種フレームに取り付けることにより窓として用いることができる。具体的には、自動車用窓(フロントガラス、サンシェード、リアガラス、フロントドアガラス、リアドアガラス、サンルーフ、リアクオーターガラス等)、列車用窓、航空機用窓、建築物(オフィスビル、住宅等)用窓として用いることができる。
【0073】
調光窓材11、特に調光素子14における透明基板141として本発明の電波透過部材1を用いることで、調光素子14の本来の機能、すなわち必要時に車外等から見えなくなるようにしたり、また日光を遮って温調機器の負担を軽減したりする機能を有効に発揮させつつ、車内等における電波を利用した機器の利用、例えばガレージオープナーや携帯電話機等の利用を可能とし、また十分な信頼性を有するものとすることができる。
【0074】
なお、調光素子14としては、液晶を利用する方式に限られず、他の方式、例えばUV硬化樹脂中に直径5μm程度の液滴が分散して封入され、この液滴中に長さ0.5μm程度の青い棒状のSPD粒子が分散された調光材料を利用する方式であってもよい。また、本発明の電波透過部材1は、上記した調光窓材11(調光素子14)への適用に限られず、それ以外にも導電層と透明基板とを有し、電波透過性や可視光透過性が要求されるもの、例えば防曇窓材等の一部の基板に適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1…電波透過部材
2…透明基板
3…下地層
4…導電層
5…キャップ層
6…バリア層
11…調光窓材
14…調光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板に電波透過性を有する導電層が形成された電波透過部材であって、
前記導電層は、Ga、In、Ti、Nb、Ta、およびSbから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有するSn酸化物主成分層であり、かつシート抵抗が1500Ω/□以上6000Ω/□以下であることを特徴とする電波透過部材。
【請求項2】
前記導電層におけるSn酸化物の含有量が80質量%以上99質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の電波透過部材。
【請求項3】
前記導電層は少なくともGaおよびInの酸化物を含有することを特徴とする請求項1または2記載の電波透過部材。
【請求項4】
前記導電層の表面にSi酸化物からなるキャップ層を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電波透過部材。
【請求項5】
前記導電層と前記キャップ層との間にSi酸化物以外の絶縁性酸化物からなるバリア層を有することを特徴とする請求項4記載の電波透過部材。
【請求項6】
前記電波透過部材に対して150℃、90分の耐熱試験を行ったとき、前記導電層の試験前のシート抵抗に対する試験後のシート抵抗の抵抗比である抵抗変化率が0.6以上1.0以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の電波透過部材。
【請求項7】
前記電波透過部材に対してエタノール拭き試験を行ったとき、前記導電層の試験前のシート抵抗に対する試験後のシート抵抗の抵抗比である抵抗変化率が1.0以上2.0以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の電波透過部材。
【請求項8】
表面に導電層を有する一対の透明基板と、前記一対の透明基板間に配置された調光層とを有し、前記一対の透明基板が互いの導電層が対向するように配置された調光素子であって、
前記透明基板が請求項1乃至7のいずれか1項記載の電波透過部材であることを特徴とする調光素子。
【請求項9】
一対の透明な外側基板間に調光素子が配置された調光窓材であって、
前記調光素子が請求項8記載の調光素子であることを特徴とする調光窓材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−114041(P2012−114041A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263932(P2010−263932)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】