説明

電磁式テンサーを組み込んだ糸弛み取り装置

【課題】糸掛け部材の弛み取りローラに対する安定した回転抵抗を実現し、品質の安定したパッケージを形成できるようにした電磁式テンサーを組み込んでなる糸弛み取り装置を提供すること。
【解決手段】回転駆動源25と、回転駆動源によって回転駆動される弛み取りローラ21と、弛み取りローラに対して同心で相対回転自在に取り付けられる糸掛け部材22とを備え、糸掛け部材に磁界が作用するように、電磁石による磁界形成手段を弛み取りローラに設け、磁界形成手段により生じる磁界によって、弛み取りローラと糸掛け部材との間に回転トルクを発生させ、電磁石への入力制御によって回転トルクを制御するようにしたことを特徴とする電磁式テンサーを組み込んだ糸弛み取り装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紡績機などの繊維機械において、紡績装置からパッケージ巻き取り装置までの間において生じる糸の弛みを取るための糸弛み取り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、紡績した糸を巻き取ってパッケージを形成する空気式紡績機などの高速紡績機にあっては、例えば、糸欠陥を検出すると、その糸欠陥箇所をカッターなどの切断手段によって切断し除去した後、紡績装置から次々に送られてくる糸の先端と、パッケージ側の糸端とを、糸継装置により糸継ぎするように構成されている。上記の糸継ぎ作業は、糸の巻き取りを停止した状態で行うため、紡績装置からパッケージ巻き取り装置までの間で糸の弛みを取り除く必要があった。
【0003】
このような糸の弛みを取り除くための技術としては、例えば、特許文献1に記載のような紡績機の糸弛み取り装置が提案されている。この特許文献1に記載の糸弛み取り装置は、回転駆動される弛み取りローラ21と、回転式の糸掛け部材22とを備えたものであって、前記糸掛け部材22は、弛み取りローラ21に対して同心で相対回転可能に取り付けられており、その相対回転に対しては、バネなどの付勢手段からなる伝達力付与部材22fの押圧力(摩擦力)によって、適宜の大きさの抵抗を付与できるようになっている。また、その押圧力(摩擦力)は、螺合部を有する伝達力調整操作部22gの締付け操作により、無段階に調整可能になっている。
【特許文献1】特開2004−277946号公報(図18、段落番号〔0024〕〜〔0026〕)
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の構成のものは、伝達力付与部材22fの押圧力(摩擦力)によって糸掛け部材22の相対回転抵抗を実現しているために、例えば、摩擦面の傷付きなどの意図せぬ要因、あるいは摩擦面の摩耗などの経時的な要因により、相対回転抵抗が安定して得られない場合が多かった。
【0005】
この特許文献1のものにあって、弛み取りローラ21から糸Yが解舒される場合において、相対回転抵抗は、糸の巻き取り張力を決定する一要素であり、糸種や糸太さに応じて適切な巻き取り張力が安定して得られないと、パッケージ16の形状や、後工程における糸の解舒性に悪影響が出てきてしまう。
【0006】
この問題点を解決するものとして、紡績機などの糸弛み取り装置であって、安定した任意の巻き取りテンションを付与できる装置として、図5および図6に示すような磁気式テンサー装置が、同一出願人により提案され既に出願されている。この磁気式テンサー装置は、図5および図6に示すように、ヒステリシス材87と永久磁石86との組み合わせにより、弛み取りローラ71と、回転自在の糸掛け部材72との間に一定回転トルクを発生させ、さらに、ヒステリシス材87と永久磁石86との重なり面積を変化させることで(調整ボルト82の回転操作で図5から図6のように変位)、任意の回転トルクに調整できるようにしたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この図5および図6に示す磁気式テンサー装置では、仕掛け変え時など、一斉に多数の錘の回転トルクを変えたいときなど、一錘ずつ調整する必要があり、非常に手間のかかる作業を要するものであった。さらには、糸の巻き取りを継続しながら回転トルクを変化させるのは、機構上困難であり、紡績中の微調整や、積極的に回転トルクを変化させることは不可能であった。
【0008】
そこで、この発明は、上記する従来技術にみられる問題点を解消すべくなしたものであって、特に重要な要素は、糸掛け部材の弛み取りローラに対する安定した回転抵抗を実現し、品質の安定したパッケージを形成できるようにした電磁式テンサーを組み込んでなる糸弛み取り装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記する目的を達成するにあたって、具体的には、回転駆動源と、前記回転駆動源によって回転駆動される弛み取りローラと、前記弛み取りローラに対して同心で相対回転自在に取り付けられる糸掛け部材とを備え、前記糸掛け部材に磁界が作用するように、電磁石による磁界形成手段を弛み取りローラに設け、前記磁界形成手段により生じる磁界によって、前記弛み取りローラと糸掛け部材との間に回転トルクを発生させ、前記電磁石への入力制御によって前記回転トルクを制御するようにしたことを特徴とする電磁式テンサーを組み込んだ糸弛み取り装置を構成するものである。
【0010】
さらに、この発明において請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電磁式テンサーを組み込んだ糸弛み取り装置であって、前記磁界形成手段が、定置された環状の励磁コイルを含むものからなり、前記励磁コイルの外側に、外側磁極を備えた外側磁極部材を配し、前記励磁コイルの内側に、内側磁極を備えた内側磁極部材を配し、前記外側および内側磁極部材と前記弛み取りローラとを一体に回転させるようにし、前記外側磁極と内側磁極との間に磁界を発生させ、前記外側磁極と内側磁極との間に生じる磁界に対して交差するように前記糸掛け部材に一体のヒステリシス材による環状部材を配置してなることを特徴とするものである。
【0011】
さらにまた、この発明において請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の電磁式テンサーを組み込んだ糸弛み取り装置であって、紡出時における実際の糸テンションを測定する糸テンション測定手段を設け、そのテンション測定信号に基づいてフィードバック制御するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明になる電磁式テンサーを組み込んだ糸弛み取り装置によれば、弛み取りローラ内に、電磁石による磁界形成手段を設け、この磁界形成手段により生じる磁界によって、弛み取りローラと糸掛け部材との間に回転トルクを発生させ、電磁石への入力制御によって回転トルクを制御するようにしたことにより、糸掛け部材の弛み取りローラに対する安定した回転抵抗を実現し、品質の安定したパッケージを形成することができるという点において極めて有効に作用する。
【0013】
さらに、この発明では、磁界形成手段が、定置された環状の励磁コイルを含み、この励磁コイルの外側に、外側磁極を備えた外側磁極部材を配し、励磁コイルの内側に、内側磁極を備えた内側磁極部材を配し、外側および内側磁極部材と弛み取りローラとを一体に回転させるようにし、外側磁極と内側磁極との間に磁界を発生させ、外側磁極と内側磁極との間に生じる磁界に対して交差するように糸掛け部材に一体のヒステリシス材による環状部材を配置した構成のものであることにより、励磁コイルに通電すると、磁界が弛み取りローラと共に回転することとなり、回転する弛み取りローラに対し、糸掛け部材に相対回転トルクが得られる。この回転トルクは、磁界の大きさによって変化するので、コイルに与える電圧や電流を変化させることで、任意の回転トルクを得ることができる。この結果、予め定めた制御値を入力することにより、簡便な操作で任意の回転トルクに設定することができる。
【0014】
さらに、この発明では、上記する構成により、上位の制御装置を設けることにより、一斉に複数錘のトルクを変えることができる。さらには、紡出中に回転トルクを変化させることも可能であるので、巻き取りの途中でテンションを積極的に変化させることもできる。また、紡出時の実際の糸テンションを測定する手段を設ければ、その信号に基づいたフィードバック制御もできるので、外乱など何らかの要因でテンションが変化した場合でも、磁界をリアルタイムで変化させ、任意のテンションに戻すこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明になる電磁式テンサーを組み込んだ糸弛み取り装置について、図面に示す具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明が適用される紡績機の一例を示す概略的な全体正面図であり、図2は、図1における紡績機の一部断面にした概略的な側面図である。
【0016】
先ず、この発明が適用される紡績機1について説明する。この紡績機1は、図1に示すように、 原動機ボックスMBとダストボックスDBとの間に、多数の紡績ユニットUを機台長手方向に並設して構成されている。この紡績機1は、前記紡績ユニットUが並べられる方向に沿ったレールRが設けられており、このレールRを糸継ぎ台車3が左右方向に往復走行可能なように構成されている。この糸継ぎ台車3は、糸継ぎを要求する紡績ユニットUに向けて走行移動し、対応する位置で停車して、糸継ぎ作業を行う。
【0017】
図1および図2に示すように、前記各紡績ユニットUは、上流から下流に向かって順に、ドラフト装置4と、紡績装置5と、糸送り装置6と、弛み取り装置7と、巻取り装置8と、を主要な構成として装備している。前記ドラフト装置4は、スライバSLを延伸して繊維束Yにするためのものであり、それぞれトップローラとボトムローラとからなるバックローラ対9、サードローラ対10、エプロンベルト11を装架したミドルローラ対12およびフロントローラ対13の4つのローラ対を組み合わせたものから構成されている。
【0018】
前記紡績装置5の詳細な構成は図示しないが、この実施形態では、空気噴射ノズルからの旋回気流を利用して、ドラフトされた繊維束Yから紡績糸SYを生成する空気式のものを採用している。
【0019】
前記糸送り装置6は、デリベリローラ14と、このデリベリローラ14に接触するように設けられたニップローラ15とからなっている。紡績装置5から送出された紡績糸SYは、デリベリローラ14とニップローラ15との間に挟まれて、デリベリローラ14の回転駆動によって下方へ送られるようになっている。
【0020】
前記紡績装置5から送出された紡績糸SYは、前記糸送り装置6によって下流側に送られ、糸の欠点を除去するためのカッター装置16、ヤーンクリアラ17、糸弛み取り装置7を経て巻取り装置8によって巻取パッケージWPに巻き取られる。
【0021】
前記ヤーンクリアラ17は、走行する紡績糸SYの太さを監視し、紡績糸SYの糸欠点を検出した場合に、糸欠点検出信号を図示しないユニットコントローラへ送信するようになっている。このユニットコントローラは、上記糸欠点検出信号を受けると、直ちにカッター装置16を作動して糸を切断して、さらにドラフト装置4や紡績装置5を停止し、糸継ぎ台車3に当該紡績ユニットUの前まで自走させる。その後、紡績装置5などを再び駆動し、前記糸継ぎ台車3に糸継ぎを行わせて紡績および巻き取りを再開させるようになっている。
【0022】
前記糸継ぎ台車3は、図1に示すように、紡績機1本体のケーシング2に設けたレールRに沿って走行するように設けられている。この糸継ぎ台車3には、供給側となる紡績装置5から連続的に供給される紡績糸SYを吸引捕捉するサクションパイプ(供給側糸端捕捉手段)18と、巻取りパッケージWP側の紡績糸SYを吸引捕捉するサクションマウス(巻取り側糸端捕捉手段)19と、このサクションパイプ18とサクションマウス19とが捕捉した各紡績糸SYを繋ぐための糸継ぎ装置20とを備えている。
【0023】
前記サクションパイプ18およびサクションマウス19の端部は、吸引流発生源(図示せず)によって吸引空気流が発生しており、糸端を吸引して捕捉する。前記糸継ぎ装置20は、図示しないクランプ部、カッター部およびスプライサあるいはノッターによって構成されている。上記する紡績機1によって、ドラフトされ紡績された紡績糸SYは、巻取り装置8により巻取りパッケージWPとして形成される。
【0024】
この発明において、複数の紡績ユニットUのそれぞれに設けられる糸弛み取り装置7は、紡績糸SYと係合したり、係合することがないようにしたりできるように構成されている。
【0025】
この発明において、前記糸弛み取り装置7は、図3および図4に示すように、紡績糸SYをその外周に巻き付けて貯留するための弛み取りローラ21と、条件に応じて前記弛み取りローラ21と一体的にまたは独立して同心回転する糸掛け部材22と、前記弛み取りローラ21のやや上流側に配置される上流側ガイド23と、該上流側ガイド23を進退駆動する進退手段(例えば、エアシリンダ24)と、弛み取りローラ21を回転駆動する電動モータなどの回転駆動源25と、弛み取りローラ21の下流側に設けられる下流側ガイド26と、を含むものからなっている。
【0026】
前記上流側ガイド23は、エアシリンダ24によって前進・後退駆動されるように構成されている。そして、上流側ガイド23が前進位置にあるときは、紡績糸SYが糸弛み取り装置7における糸掛け部材22と係合することのないようにその糸道が上流側ガイド23によって保持される。一方、上流側ガイド23が後退位置にあるときは、紡績糸SYが糸弛み取り装置7における糸掛け部材22と係合して弛み取りローラ21に巻き付けられる位置まで、糸道を移動させるように構成されている。
【0027】
この糸弛み取り装置7における構成部材のうち、弛み取りローラ21、上流側ガイド23、進退手段24、回転駆動源25、下流側ガイド26などは、ブラケット27などの固定部材を介して紡績ユニットUに支持されている。
【0028】
図3は、糸弛み取り装置7の具体例であって、半部を断面にして内部構造の詳細を示す概略的な斜視図である。また、図4Aは、当該糸弛み取り装置7の概略的な縦断面図であり、図4Bは、図4Aにおける4B−4B線に沿って矢視方向に見た概略的な横断面図である。
【0029】
図3および図4に示すように、前記弛み取りローラ21は、前記回転駆動源25によって一体的に回転する回転系構造体RSによって構成されている。前記回転系構造体RSは、前記回転駆動源25の回転軸28に連結してある内側磁極部材29と、この内側磁極部材29に対して、取り付けビス30により取り付けてある非磁性部材31を介して連結してある外側磁極部材32と、該外側磁極部材32に固定してある弛み取りローラ本体33とを含むものによって構成されており、これらは、前記回転駆動源25の回転によって一体的に回転するものからなっている。
【0030】
前記弛み取りローラ本体33の外周面33aは、前記糸掛け部材22を有する側を先端、前記回転駆動源25に接続される側を基端とすると、基端から先端に向かって、基端側テーパ部a、円筒部b、先端側テーパ部cとなるように構成されている。基端側テーパ部aおよび先端側テーパ部cは、それぞれ端面側を大径側とする穏やかなテーパ状に構成されており、円筒部bは、若干先細まり状に構成されており、両側のテーパ部に対して継ぎ目なく連続する形状になっている。
【0031】
この糸弛み取り装置7は、前記糸継ぎ台車3による糸継ぎ作業時に、糸掛け部材22によって、紡績装置5側からの紡績糸SYを弛み取りローラ本体33の基端側から該弛み取りローラ本体33の外周面33aに巻き付けるように構成している。そして、糸継ぎ作業の終了後は、外周面33aに巻き付けられ貯溜していた紡績糸SYを、糸掛け部材22を介して、該弛み取りローラ本体33の先端側から巻取り装置8側へ向かって解舒するように構成してある。
【0032】
前記弛み取りローラ本体33の外周面33aにおいて、前記基端側テーパ部aは、供給されて巻き付いた紡績糸SYを、その大径部分から小径部分に向かって円滑に移動させて中間の円筒部bへ到達させることにより、紡績糸SYを中間円筒部bの表面に規則正しく巻き付かせるように構成されている。また、先端側テーパ部cは、紡績糸SYの解舒の際に、巻き付かせた紡績糸SYが一度に抜けてしまう輪抜け現象を防止すると同時に、紡績糸SYを、その小径部分から端面側の大径部分へ順送りに巻き戻して、紡績糸SYの円滑な引き出しを確保する機能を有している。
【0033】
一方、電磁石による磁界形成手段34は、前記ブラケット27などに対して固定してある静止系の環状の励磁コイル35を含むものからなっている。前記環状の励磁コイル35に対して、その内側35aに、内側磁極部材29が配置されており、その外側35bに、外側磁極部材32が配置されている。
【0034】
前記内側磁極部材29は、前記環状の励磁コイル35の内側35aに沿って対向する対向部分36と、この対向部分36から軸方向にのびる内側磁極37とを有している。一方、前記外側磁極部材32は、前記環状の励磁コイル35の外側35bに沿って対向する対向部分38と、この対向部分38から軸方向にのびる外側磁極39とを有している。
【0035】
図4Bに示すように、前記内側磁極37は、等角度間隔をおいて径方向外側に向けてのびる、例えば、8つの外向き凸条40を有しており、前記外側磁極39は、等角度間隔をおいて径方向内側に向けてのびる、例えば、8つの内向き凸条41を有している。
前記内側磁極37における外向き凸条40と、前記外側磁極39における内向き凸条41との間に磁界形成空間42が形成されるようになっている。
【0036】
一方、前記糸弛み取り装置7における糸掛け部材22は、前記弛み取りローラ21の回転系とは独立して、独自に回転自在であるように組み立てられている。具体的には、前記糸掛け部材22は、前記内側磁極部材29に対し、ベアリング手段43を介して、
相対的に同心回転自在に支持されるフライヤー軸44と、このフライヤー軸44の外端44aに固着されるフライヤー45と、前記磁界形成空間42内にのびて位置するヒステリシス材による環状部材46とを一体的に形成したものからなっている。
【0037】
このフライヤー45は、前記紡績糸SYと係合して(紡績糸SYを引っ掛けて)、紡績糸SYを前記弛み取りローラ本体33の外周面33aに向かって適宜湾曲する形状になっている。
【0038】
上記するような構成において、当該糸弛み取り装置7は、以下のように作動する。前記磁界形成手段34における励磁コイル35に通電することにより、内側磁極部材29並びに外側磁極部材31が励磁される。前記内側磁極部材29における内側磁極37と外側磁極部材31における外側磁極39との間に形成される磁界形成空間42に、磁界に交差するように糸掛け部材22に対して一体的に組み立ててあるヒステリシス環部材46を配置しておく。このように、弛み取りローラ21に対する電磁石と、糸掛け部材22に対するヒステリシス環部材とにより、該弛み取りローラ21と、回転自在の糸掛け部材22との間に回転トルクを発生させることができる。
【0039】
図3および図4に示す具体的な実施例のように、励磁コイル35を静止系とし、この励磁コイル35に対して、内側磁極部材29および外側磁極部材31を配置し、これらを弛み取りローラ21と一体で回転させる。このような構成で、励磁コイル35に通電すると、磁界が弛み取りローラ21とともに回転することになる。この磁界の中に、糸掛け部材22と一体になったヒステリシス環部材を配置することで、回転する弛み取りローラ21に対して、糸掛け部材22に相対回転トルクが得られる。
【0040】
この回転トルクは、磁界の大きさによって変化するので、励磁コイル35に与える電圧や電流を変化させることで、任意の回転トルクを得ることができる。この結果、予め定めた制御値を入力することにより、簡便な操作で任意の回転トルクに設定することができる。
【0041】
上記する構成において、上位の制御装置を設けることにより、一斉に複数錘のトルクを変えることができる。さらには、紡出中に回転トルクを変化させることも可能であるので、巻き取りの途中でテンションを積極的に変化させることもできる。また、紡出時の実際の糸テンションを測定する手段を設ければ、その信号に基づいたフィードバック制御もできるので、外乱など何らかの要因でテンションが変化した場合でも、磁界をリアルタイムで変化させ、任意のテンションに戻すこともできる。
【0042】
以下、上記する構成になる紡績機1の運転について説明する。紡績機1の各紡績ユニットUは、繊維束Yをドラフト装置4で紡績装置5へ送り込む。そして、紡績装置5において紡績され生成された紡績糸SYは、糸送り装置6で下流側へ送給され、カッター装置16、ヤーンクリアラ17を通過して、糸弛み取り装置7を経由して、最終的には巻取り装置8に送られてパッケージWPとして巻き取られる。
【0043】
何れかの紡績ユニットUのヤーンクリアラ17が紡績糸SYの欠陥を検出すると、その紡績ユニットUの図示しないユニットコントローラは、カッター装置16で紡績糸SYを切断し、それとはぼ同時に、ドラフト装置4のバックローラ対9とサードローラ対10の回転を停止させる。繊維束Yは、停止したサードローラ対10と回転を継続中のミドルローラ対12との間で引きちぎられるように切断され、切断箇所より下流の部分の紡績糸SYは図示しないサクション手段によって吸引除去される。
【0044】
紡績ユニットUのユニットコントローラは、糸継要求信号を糸継台車3に送信し、糸継台車3は当該紡績ユニットUに対面する位置まで移動して停止する。すると、ユニットコントローラは、適宜のタイミングで糸弛み取り装置7の弛み取りローラ21の回転を開始する。また、これと同時に、糸弛み取り装置7の上流側ガイド23をエアシリンダ24によって前進させ、次に紡績される紡績糸SYが必要時以外に糸弛み取り装置7の糸掛け部材22と係合することがないように糸道を保持する。
【0045】
そして、糸継ぎ台車3のサクションパイプ18が上方へ回動されると、それとほぼ同期してドラフト装置4および紡績装置5の駆動を開始し、紡績装置5から紡出される
紡績糸SYが上記サクションパイプ18で吸引捕捉されるようにする。また、同時に巻取り装置7側では、糸継ぎ台車3のサクションマウス19が下方へ回動し、パッケージWPに巻き付いている糸端を吸引して捕捉する。そして、サクションパイプ18とサクションマウス19は、吸引されたそれぞれの糸端を糸継ぎ装置20に案内して糸継ぎを行う。
【0046】
そして、糸継ぎ装置20での糸継ぎ作業が開始される直前に、糸弛み取り装置7においてエアシリンダ24が後退し、上流側ガイド23を後退位置に移動させる。すると、紡績糸SYの糸道が、糸掛け部材22におけるフライヤー45の回転軌跡い重なるように変更される。この結果、紡績糸SYはフライヤー45によって弛み取りローラ21の外周面33aに巻き付けられる。
【0047】
すなわち、糸継ぎ装置20での糸継ぎ作業の間も紡績装置5から紡績糸SYの紡出は継続しているのであり、このままでは糸継ぎ装置20の上流側で紡績糸SYが大量に滞留してしまうことになる。糸弛み取り装置7は、糸継ぎ装置20での糸継ぎ作業の間に弛み取りローラ21に紡績糸SYを巻き付かせることで、紡績糸SYの弛みや滞留を防止し、円滑な糸継ぎ作業および紡績再開作業を実現するものである。
【0048】
前述したように、フライヤー45およびフライヤー軸44は、弛み取りローラ21とは独立に回転可能であるが、前述の電磁石およびヒステリシス環部材46からなる機構により、一定の大きさ以上の負荷(電磁石とヒステリシス環部材とに働くヒステリシストルクに打ち勝つ負荷)が作用しない限り、フライヤー45は弛み取りローラ21と一体的に回転する。前述の糸継ぎ作業時は、紡績糸SYは下流側が止まっており、フライヤー45に加わる負荷は小さいので、フライヤー45は弛み取りローラ21と一体回転して、弛み取りローラ21の外周に紡績糸SYを巻き付けることになる。
【0049】
糸継ぎ装置20による糸継ぎ作業の終了後は、巻取り装置8においてパッケージWPを巻取りドラムによって回転させ、紡績糸SYの巻取りを再開する。
【0050】
上述したように、紡績装置5から紡出された紡績糸SYは、糸継ぎ装置20による糸継ぎ作業の開始時から巻取りの再開までの間は、回転を継続している弛み取りローラ21の外周面33aに巻き取られる。しかし、巻取り装置8による巻き取り作業が再開されると、紡績糸SYに適宜の張力を付与するように糸送り装置6の送出速度と巻取り装置8での巻取り速度の比が設定されているので、弛み取りローラ21に巻き付く糸速度よりも、弛み取りローラ21から引き出される糸速度の方が大きい。従って、糸弛み取り装置7のフライヤー45は、巻き取り方向に回転を継続する弛み取りローラ21とは独立して回転するようになり、弛み取りローラ21に巻き取られて貯留されている紡績糸SYが次第に解舒されてゆくものである。また、この時の紡績糸SYに付与される張力は、本発明による糸掛け部材22と弛み取りローラ21間の相対回転トルクによって決定される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、この発明が適用される紡績機の一例を示す概略的な全体正面図である。
【図2】図2は、図1における紡績機の一部断面にした概略的な側面図である。
【図3】図3は、糸弛み取り装置の具体例であって、半部を断面にして内部構造の詳細を示す概略的な斜視図である。
【図4】図4Aは、当該糸弛み取り装置7の概略的な縦断面図であり、図4Bは、図4Aにおける4B−4B線に沿って矢視方向に見た概略的な横断面図である。
【図5】図5は、従来の永久磁石とヒステリシス材との組み合わせでなる磁気式テンサーの例を示す概略的な側断面図である。
【図6】図6は、図5に示す従来の磁気式テンサーにおいて調整ボルトを変位させた状態を示す概略的な側断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 紡績機
U 紡績ユニット
SL スライバ
Y 繊維束
SY 紡績糸
3 糸継ぎ装置
4 ドラフト装置
5 紡績装置
6 糸送り装置
7 糸弛み取り装置
8 巻取り装置
WP 巻取りパッケージ
16 カッター装置
17 ヤーンクリアラ
18 サクションパイプ
19 サクションマウス
20 糸継ぎ装置
21 弛み取りローラ
22 糸掛け部材
25 回転駆動源
RS 回転系構造体
29 内側磁極部材
32 外側磁極部材
33 弛み取りローラ本体
34 磁界形成手段
35 励磁コイル
37 内側磁極
39 外側磁極
42 磁界形成空間
45 フライヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動源と、前記回転駆動源によって回転駆動される弛み取りローラと、前記弛み取りローラに対して同心で相対回転自在に取り付けられる糸掛け部材とを備え、
前記糸掛け部材に磁界が作用するように、電磁石による磁界形成手段を弛み取りローラに設け、前記磁界形成手段により生じる磁界によって、前記弛み取りローラと糸掛け部材との間に回転トルクを発生させ、前記電磁石への入力制御によって前記回転トルクを制御するようにしたことを特徴とする電磁式テンサーを組み込んだ糸弛み取り装置。
【請求項2】
前記磁界形成手段が、定置された環状の励磁コイルを含むものからなり、前記励磁コイルの外側に、外側磁極を備えた外側磁極部材を配し、前記励磁コイルの内側に、内側磁極を備えた内側磁極部材を配し、前記外側および内側磁極部材と前記弛み取りローラとを一体に回転させるようにし、前記外側磁極と内側磁極との間に磁界を発生させ、前記外側磁極と内側磁極との間に生じる磁界に対して交差するように前記糸掛け部材に一体のヒステリシス材による環状部材を配置してなることを特徴とする請求項1に記載の電磁式テンサーを組み込んだ糸弛み取り装置。
【請求項3】
紡出時における実際の糸テンションを測定する糸テンション測定手段を設け、そのテンション測定信号に基づいてフィードバック制御するようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電磁式テンサーを組み込んだ糸弛み取り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−105755(P2008−105755A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287202(P2006−287202)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】