説明

電磁波シールドフィルム及びその製造方法

【課題】導電性メッシュ構造に透明導電体を併置する構造を基本としつつ、透明導電体を必要としない部位からは透明導電体を取り除き、必要な箇所に必要な量の透明導電体を備える電磁波シルードフィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】透明基板3に導電性メッシュ1を備え、前記導電性メッシュ1の開口部のみに透明導電体2を備え、前記導電性メッシュ1と前記透明導電体2が接触しており、前記導電性メッシュ開口部の透明導電体は、異なる厚みの透明導電体を含むことを特徴とする電磁波シールドフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイ、CRT等の電子機器の表示装置に用いる電磁波シールドフィルムの構成及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報処理装置から放射される電磁波は、他の情報処理装置に影響を及ぼし、性能を低下させるだけでなく誤動作をさせる危険性がある。そのため、情報処理装置に対して1985年にIEC(国際電気標準会議)の国際無線障害特別委員会(CISPR)が国際規格を発効しており、同年、日本においても情報処理装置等電波障害自主規制協議会(VCCI)が設立され、情報処理装置からの電磁波に対して1GHzまで制限を設けた規格が設置されている。米国やヨーロッパ等でも、日本と同様に情報処理装置からの電磁波の規格が設置されており、情報処理装置を販売する際には、販売する国の電磁波を規制する規格の認定を受けている必要がある。
【0003】
情報処理装置の一つであるディスプレイには、プラズマディスプレイ(以下、PDPと記す)やCRTといった表示素子から電磁波を強く放射するディスプレイもあり、それらのディスプレイでは、表示素子の前面に電磁波を放射させないために電磁波をシールドする素子が必要となる。
【0004】
そこでディスプレイ前面の電磁波シールド素子として、遮光性の導電体を用いた導電性メッシュを透明樹脂フィルム上に形成した電磁波シールドフィルムが一般的に使用されている。導電性メッシュに遮光性があるため、ディスプレイパネルの輝度が下がり、視認性が悪くなる欠点があるため、導電性メッシュが形成されていない部分である開口部の比率(以下、開口率と記す)を上げることが求められている。しかし、導電性メッシュにて電磁波をシールドしているため、遮光性の導電体を用いた導電性メッシュでは開口率を上げることは難しい。
【0005】
そのため、透明導電膜を使用した電磁波シールドフィルムの技術が開示されている。上記、透明導電膜の材料としては酸化インジウム錫(ITO)が使用されている。しかし、ITO透明導電膜は1GHz付近の高周波帯域のシールド特性が弱いため、透明導電膜だけではディスプレイから放射される電磁波を十分に遮断することができない。
【0006】
こうした透明導電膜の特性から、ITO透明導電膜と導電性シールドメッシュを併用した構造が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−266312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の製造方法では、フィルム基板に遮光性の導電性メッシュを形成した後に、スパッタ法によって透明導電膜を形成しており、スパッタ用の設備費が高くつく。また、透明導電膜に、導電性メッシュでカバーできない低周波帯域のシールド特性を持たせる必要があるが、この場合透明導電膜は必ずしも均一に形成されている必要はなく、可能であれば場所ごとに厚さを変えるのがコスト的に望ましい。全面で同じ厚さで透明導電体を形成することになるスッパタ法は、その形成に時間を要し、厚みが増すとコストが嵩むという問題がある。
【0008】
また、本構造では導電性メッシュのメッシュ線と透明導電膜が重なって形成されている
。メッシュ線は一般的にCu箔をエッチングすることで形成されるため、ITO透明導電膜と比べて導電性がよい。よって、メッシュ線が形成されている領域では、到達した電磁波をメッシュ線のみで十分に遮断することができる。したがって、電磁波の遮断特性から考えれば、メッシュ線と重なる部位に透明導電材料が併置された構成である必要はないといえる。
【0009】
そこで本発明は、導電性メッシュ構造に透明導電体を併置する構造を基本としつつ、透明導電体を必要としない部位からは透明導電体を取り除き、必要な箇所に必要な量の透明導電体を備える電磁波シルードフィルム及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり請求項1に記載の発明は、透明基板に導電性メッシュを備え、前記導電性メッシュの開口部のみに透明導電体を備え、前記導電性メッシュと前記透明導電体が接触していることを特徴とする電磁波シールドフィルムとしたものである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記導電性メッシュ開口部の透明導電体は、異なる厚みの透明導電体を含むことを特徴とする請求項1記載の電磁波シールドフィルムとしたものである。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記透明導電体が、インクジェット法により形成されること特徴とする請求項1から2のいずれか1項に記載の電磁波シールドフィルムの製造方法としたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、透明導電体が導電性メッシュの開口部だけに形成されているため、透明導電体の使用量が軽減され、透明導電体が金属メッシュと併置されることでメッシュ線の線幅を細くすることができるので開口率が向上し、また透明導電体を導電性メッシュの開口部の必要な箇所に必要な量だけ選択的に形成することでさらに使用する透明導電体の使用量を軽減できる。その結果、電磁波シールド特性にすぐれ開口率の高い電磁波シールドフィルムを安価に提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明になる電磁波シールドフィルムの例を、図を用いて説明する。
図1は、本発明にかかる電磁波シールドフィルムの第1の実施形態を模式的に示すもので、(a)は断面視の図(b)は平面視の図である。
【0015】
図1(a)の導電性メッシュ1は、Cu箔を透明基板3に貼り付け、Cu箔をエッチングすることで形成した。
銅箔上にネガ型ドライフィルムレジストAQ-1558(商品名:旭化成エレクトロニクス製) を熱ラミネートにより形成し、電磁波シールドメッシュパターンが描画されたガラスマスクを介して紫外線露光を行った。
【0016】
続いて、1%炭酸ナトリウム溶液、30℃でスプレー現像を行うことで、銅箔上にレジストパターンを形成した。 更に本基材をエッチング処理することにより、シールドメッシュパターンの形成を行った。 エッチング条件は塩化第二鉄液50℃、36°Be の液を用いて、スプレーエッチング装置でスプレー圧0.2MPaでエッチング処理を行った。続いて50℃の3%水酸化ナトリウムを用いて不用になったレジスト層を除去することによって 導電性メッシュ1を作成した。
【0017】
次に、透明基板3上に形成した導電性メッシュ1の開口部にインクジェット法により透明導電体2を塗布し、乾燥させ形成した。
【0018】
本構造では、透明導電体は電性メッシュの上部に設けられておらず、透明導電体は導電性メッシュの開口部だけに形成されており、透明導電体が必ずしも必要とされない導電性メッシュの下部又は上部に当接して形成されていないことから、透明導電体の使用量を軽減した電磁波シールドフィルムである。
【0019】
ここで、透明基板3に100um厚のポリエステル(PET)フィルムを、導電性メッシュ1には10um厚のCu箔を使用し、エッチングにより配線幅10um、格子間隔300umの正方形格子のパターンの導電性メッシュを形成した。また、透明導電体にはアクリル系樹脂をバインダとした固形分比50wt%のITOインキを使用し、上記導電性メッシュの開口部に2um厚で塗布し、乾燥後の膜厚は1umとなった。
【0020】
図2の(a)、(b)は、それぞれ本発明にかかる電磁波シールドフィルムの第2の実施形態を模式的に示す、断面視の図と平面視の図である。
【0021】
図2(a)の導電性メッシュ1はCu箔を透明基板3に貼り付け、Cu箔をエッチングすることで形成した。次に、透明基板3上に形成した導電性メッシュ1の開口部にインクジェット法により透明導電体2を塗布し、乾燥させ形成した。開口部によって塗布する量を変更したものである。
【0022】
本構造では、透明導電体は導電性メッシュの上部に設けられておらず、透明導電体は導電性メッシュの開口部に形成されており、透明導電体が必ずしも必要とされない導電性メッシュの下部又は上部に当接して形成されていないことから、透明導電体の使用量を軽減した電磁波シールドフィルムであり、透明導電体の厚さを場所により変更することで、所望のシールド特性を示す電磁波シールドフィルムである。
【0023】
ここで、透明基板3に100um厚のポリエステル(PET)フィルムを、導電性メッシュ1には10um厚のCu箔を使用し、エッチングにより配線幅10um、格子間隔300umの正方形格子のパターンの導電性メッシュを形成した。また、透明導電体にはアクリル系樹脂をバインダとした固形分比50wt%のITOインキを使用し、上記導電性メッシュの開口部に2um厚で塗布し、乾燥後の膜厚は1umとなった。
【0024】
図3の(a)、(b)は、それぞれ本発明にかかる電磁波シールドフィルムの第3の実施形態を模式的に示す、断面視の図と平面視の図である。
【0025】
図3(a)の導電性メッシュ1はCu箔を透明基板3に貼り付け、Cu箔をエッチングすることで形成した。次に、透明基板3上に形成した導電性メッシュ1の開口部にインクジェット法により透明導電体2を塗布し、乾燥させ形成した。なお、図3の(b)に示したように、開口部によって塗布した部分と塗布しない部分を設けている。
【0026】
本構造では、透明導電体は導電性メッシュの上部に設けられておらず、透明導電体は導電性メッシュの開口部に形成されており、透明導電体が必ずしも必要とされない導電性メッシュの下部又は上部に当接して形成されていないことから、透明導電体の使用量を軽減した電磁波シールドフィルムであり、透明導電体が不要な開口部には透明導電体を併置しないことでも、所望のシールド特性を示す電磁波シールドフィルムである。
【0027】
ここで、透明基板3に100um厚のポリエステル(PET)フィルムを、導電性メッシュ1には10um厚のCu箔を使用し、エッチングにより配線幅10um、格子間隔300umの正方形格子の
パターンの導電性メッシュを形成した。また、透明導電体にはアクリル系樹脂をバインダとした固形分比50wt%のITOインキを使用し、上記導電性メッシュの開口部に2um厚で塗布し、乾燥後の膜厚は1umとなった。
【0028】
PDPにあっては、表示素子からの電磁波だけでなく、表示素子を駆動させるドライバ用ICチップが搭載されたプリント配線板からの電磁波もあり、このプリント配線板が搭載されているエリアでは、表示素子からの電磁波だけでなく、プリント配線板からの電磁波も発生するため、他の場所と比べて強い電磁波が発生している。図2、図3、の電磁波シールドフィルムにあっては、透明導電体を塗布すべき開口部を選択し、また塗布されるインキの塗布量を変更することにより形成される透明導電体の厚みを変えることで、容易に電子波シールド性能の高い領域、中間領域及び低い領域を設定することができる。すなわち、PDPから放射されるの電磁波の強度分布に対応して、電磁波シールドフィルムの面内に対応する電磁波シールド性能を有する領域を設定することにより、効率的にPDP内部から発生する電磁波をシールドすることが可能となる。
【0029】
図2、図3の電磁波シールドフィルムにあっては、PDPの電磁波が強く発生する箇所に対応してITOインキの塗布量を変更することにより、ITOインキの使用量を低減することができる。また、従来の導電性メッシュを備える電磁波シールドフィルムの電磁波シールド性能を部分的に向上させることができる。
【0030】
ここで、電磁波シールドメッシュの従来技術について説明する。
図4の(a)、(b)は、それぞれ従来技術の実施形態を模式的に示す、断面視の図と平面視の図である。
【0031】
図4(a)の導電性メッシュ1はCu箔を透明基板3に貼り付け、Cu箔をエッチングすることで形成した。ここで、透明基板3に100um厚のポリエステル(PET)フィルムを、導電性メッシュ1には10um厚のCu箔を、透明導電体にはアクリル系樹脂をバインダとしたITOインキ(住友金属鉱山製X-100)を使用し、エッチングにより配線幅10um、格子間隔300umの正方形格子のパターンの導電性メッシュを形成した。
【0032】
なお、本発明にかかる電磁波シールドフィルムは、同じ厚さのITOをスパッタ法で形成した場合と比較して、ITOの使用量を3割軽減することが可能である。
【0033】
そして、上記第1の実施形態と比較用に作成した図4にある従来技術の電磁波シールドメッシュ(以下、従来技術1と記す)、100um厚のポリエステル(PET)フィルム上に0.02um厚のITOをスパッタ法にて形成して作成した従来の電磁波シールドメッシュ(以下、従来技術2と記す)について、電磁波シールド特性を測定した結果を表1にまとめる。電磁波シールド特性はKEC(関西電子工業振興センター)法に準じて、周波数を低周波の1MHzと高周波の1GHzで何dBのシールド効果が得られるかを測定して評価している。
【0034】
【表1】

【0035】
第1の実施形態のシールド特性は、従来技術1、従来技術2よりも1MHz、1GHz共にシールド特性が改善していることが確認された。特に、電磁波シールドメッシュとして一般的に使用されている、従来技術1と比較して、低周波の1MHzでシール特性に優れていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)本発明にかかる電磁波シールドフィルムの第1の実施形態を示す断面視の模式図である。(b)本発明にかかる電磁波シールドフィルムの第1の実施形態を示す平面視の模式図である。
【図2】(a)本発明にかかる電磁波シールドフィルムの第2の実施形態を示す断面視の模式図である。(b)本発明にかかる電磁波シールドフィルムの第2の実施形態を示す平面視の模式図である。
【図3】(a)本発明にかかる電磁波シールドフィルムの第3の実施形態を示す断面視の模式図である。(b)本発明にかかる電磁波シールドフィルムの第3の実施形態を示す平面視の模式図である。
【図4】(a)従来の電磁波シールドフィルムを示す断面視の模式図である。(b)従来の電磁波シールドフィルムを示す平面視の模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1・・・・導電性メッシュ
2・・・・透明導電体
3・・・・透明基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板に導電性メッシュを備え、前記導電性メッシュの開口部のみに透明導電体を備え、前記導電性メッシュと前記透明導電体が接触していることを特徴とする電磁波シールドフィルム。
【請求項2】
前記導電性メッシュ開口部の透明導電体は、異なる厚みの透明導電体を含むことを特徴とする請求項1記載の電磁波シールドフィルム。
【請求項3】
前記透明導電体が、インクジェット法により形成されること特徴とする請求項1から2のいずれか1項に記載の電磁波シールドフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−67675(P2010−67675A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230725(P2008−230725)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】