説明

電磁波シールドルームにおける入隅部分の電磁波シールド施工方法

【課題】電磁波シールドルームの入隅部分において、下地基材の変形、収縮に追従し、経時的に安定した電磁波シールド性能を維持するための、電磁波シールド施工方法を提供する。
【解決手段】 電磁波シールドルームを構築する際、入隅部分のコーナーに下地処理剤を塗布、乾燥させた後、合成樹脂バインダーと導電性粉末を主成分とする電磁波シールド塗料3を塗布、乾燥させる。該下地処理剤としては、コーキング剤或いはシーリング剤2を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールドルームにおける入隅部分の電磁波シールド施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線機器の使用が急速に増加しているが様々な問題が発生している。例えば、無線LANの使用を想定した場合、隣戸間での干渉による通信スピードの低下や情報漏洩の問題が発生する。このような問題を回避するため、室内全体を電磁波シールドとする方法が検討されている。
【0003】
これまでより電子機器等から発生する放射電磁波ノイズを測定する特殊部屋として、壁・天井・床6面全てを鋼板で形成した電磁波シールドルームがある。このようなシールドルームは、シールド性能は非常に高いが、工事費も高く、また上記問題に対してオーバースペックとなり、窓等開口部がないため、生活空間として好ましくはない。そのため、簡易型電磁波シールドルームとそれを形成する電磁波シールド材が提案されている。
【特許文献1】特開2003−184204号公報
【特許文献2】特開2004−221537号公報
【特許文献3】特開2004−352898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、簡易型電磁波シールドルームに使用される電磁波シールド材として、金属箔や金属箔を貼り付けた石膏ボード、電磁波シールド塗料等が用いられているが、電磁波シールドルームに広く使用される金属箔は可撓性に乏しく、入隅部分では石膏ボード等下地の変形、収縮に追従できず、金属箔が破れ、電磁波シールド性能が劣化する恐れがあった。また、金属箔を貼り付けた石膏ボードでは、入隅部分での導通が不十分であり、電磁波シールド性能が低下するといった問題があった。
【0005】
本発明者らは先に、可撓性に優れた電磁波シールド塗料を提案した。(特開2004−352898号公報)しかし、石膏ボード等下地材の入隅部分では塗膜厚によってはクラックを生じることがあった。また、地震等により石膏ボード等下地が、変形、収縮することで電磁波シールド塗膜にクラックを生じることがあった。
【0006】
本発明は、かかる状況に鑑み検討されたもので、電磁波シールドルームの入隅部分において、下地基材の変形、収縮に追従し、経時的に安定した電磁波シールド性能を維持するための、電磁波シールド施工方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、電磁波シールドルームを構築する際、入隅部分のコーナーに下地処理剤を塗布、乾燥させた後、合成樹脂バインダーと導電性粉末を主成分とする電磁波シールド塗料を塗布、乾燥させることを特徴とする電磁波シールドルームにおける入隅部分の電磁波シールド施工方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、入隅部分に予めコーキング材或いはシーリング材を塗布し、可撓性、伸縮性を有する電磁波シールド塗料を塗布することで、電磁波シールドルームの入隅部分における電磁波シールド材のクラックを抑え、電磁波シールド性能の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。図1は入隅部分を示すものであり、図面において1が下地基材、2がコーキング材或いはシーリング材、3が電磁波シールド塗膜、4が意匠層である。1の下地基材は3の電磁波シールド塗膜および4の意匠層を支持するためのものである。
【0010】
下地基材としては、例えば、石膏ボード、ケイカル板、合板、コンクリート等が用いられる。
【0011】
コーキング剤やシーリング剤は電磁波シールド塗膜の入隅部分における応力緩和を促し、電磁波シールド塗膜のクラックを防止するためのものであり、コーキング剤としては、水性アクリル系、ウレタン系或いはシリコーン系などの弾性樹脂コーキング材を挙げることができる。
【0012】
シーリング剤は、一成分形或いは二成分形を問わず、反応硬化型、湿気硬化型のいずれでもよく、好ましくは弾性を有するものが適し、具体的には、変成シリコーン系、シリコーン系、ポリウレタン系、ポリサルファイド系、アクリル系、変成ポリサルファイド系、ポリイソブチレン系、アクリルウレタン系、SBR系、ブチルゴム系、エポキシ系、その他各種ポリマーセメント系などが挙げられる。
【0013】
3の電磁波シールド塗膜は電磁波シールド性能を持たせるためのものであり、例えばニッケル、銅、銀、銀コート銅、ニッケルコートグラファイト、亜鉛、カーボン等の導電性粉末を、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂等の合成樹脂バインダーに分散させた電磁波シールド塗料を、鏝、スプレー、ローラー等により塗布、乾燥させることにより形成される。とりわけ好ましい導電性粉末は平均粒径が0.1〜15μmの鎖状ニッケル粉末、或いは平均粒径が0.1〜20μmが鱗片状ニツケル粉末でこれらは沈降の問題がなく好適に用いることができる。いずれも平均粒径が下限に満たないと、粘度が上昇し塗布作業性が悪く、上限を超えると分散性が悪くなる。
【0014】
電磁波シールド塗料の配合割合は、合成樹脂バインダーの固形分100重量部に対して、導電性粉末は100〜500重量部が好ましく、下限に満たないと、導電性が十分に発揮されず、上限を超えると、導電性粉末が凝集しやすく、合成樹脂バインダーの結合力の低下を招く。すなわちこの範囲であれば導電性粉末同士の接触抵抗が増大して導電性が低下することを抑制するとともに、乾燥塗膜の仕上がりを良好なものとすることができる。
【0015】
4の意匠層は美観上必要であり、例えば、塗料、塗材、壁紙、化粧板等が用いられる。
【実施例】
【0016】
以下実施例、比較例にて詳細に説明する。
[実施例1〜3]
3尺×6尺×厚さ12.5mmの石膏ボードを2枚垂直に突き付け、木枠で固定し、下地基材とした。次いで、下地基材の入隅部分の角部に表1に記載のコーキング材或いはシーリング材を塗布し、室温で1週間養生させた。しかる後、アクリル樹脂エマルジョン(固形分50%)を100重量部バインダーとし、鎖状ニッケル粉末(INCO会社製、品番#287、平均粒径3.0μm)を150重量部分散させた電磁波シールド塗料を製造し、入隅部分に刷毛で塗布し、室温で15時間養生させた。
【0017】
[比較例1]
実施例1で使用した下地基材と電磁波シールド塗料を用意し、下地基材の入隅部分は未処理のまま、前記電磁波シールド塗料を刷毛で塗布し、室温で15時間養生させた。
【0018】
[比較例2]
実施例1で使用した下地基材の入隅部分分に、電解銅箔(福田金属箔粉工業株式会社製 SV18μm)を酢酸ビニル系接着剤(アイカ工業株式会社製エコエコボンドA−1400)で貼り付け、室温で15時間養生させた。
【0019】
【表1】

【0020】
実施例、および比較例で得た試験体を、40℃30%RHで1週間保管した後、さらに40℃90%RHで1週間保管し、下地基材の変位を促進させた後、入隅部分における電磁波シールド材のクラック発生有無を目視で観察した。また図2に示すように入隅部分を挟んだ表面抵抗値を二端子法で測定した(使用機器 ダイヤインスツルメンツ製ロレスタEP MCP−T360型Bプローブ)。二端子間の距離は30cmとした。試験結果を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
実施例では入隅部分における電磁波シールド塗膜にクラックが発生しておらず、入隅部分を挟んだ二端子間の表面抵抗値も5Ω前後と良好な値を示している。比較例ではクラックが発生し、その結果、二端子間の表面抵抗値も大幅に高くなり測定不能であった。
【0023】
実施例では各種コーキング材或いはシーリング材を入隅部分の角部に予め塗布することで、下地基材の変位に起因する電磁波シールド塗膜への応力が緩和され、電磁波シールド塗膜のクラックを抑制したと考える。それに対し、比較例1では入隅部分のコーナーの処理を行わなかったため、下地基材の変位による電磁波シールド塗膜への応力が大きくなり、電磁波シールド塗膜にクラックが発生したと考える。比較例2では可撓性に乏しい金属箔を用いたため、下地基材の変位により、金属箔にクラックが容易に発生した。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】入隅部分の断面図
【図2】表面抵抗値の測定方法を示す図。
【符号の説明】
【0025】
1 下地基材
2 コーキング剤或いはシーリング剤
3 電磁波シールド塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波シールドルームを構築する際、入隅部分のコーナーにコーキング剤或いはシーリング剤を塗布、乾燥させた後、合成樹脂バインダーと導電性粉末を主成分とする電磁波シールド塗料を塗布、乾燥させることを特徴とする電磁波シールドルームにおける入隅部分の電磁波シールド施工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−73719(P2007−73719A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258617(P2005−258617)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】