説明

電磁波シールド成形品およびその製造方法

【課題】電磁波シールド性、軽量性、成形性、経済性に加えて成形品外観や成形品強度にも優れた電磁波シールド成形品を提供する。
【解決手段】連続した導電性繊維で強化された樹脂組成物からなり、略平面部を有する平板部材1を予め製造し、射出成形金型にインサートした後、分散した強化繊維で強化された熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂枠部材2を射出成形することで一体化させてなる成形品であって、前記平板部材1と前記樹脂枠部材2の接合部の少なくとも一部が突き合わせ形状からなり、かつ、前記突き合わせ形状部において接合された前記樹脂枠部材の幅が0.05〜1.5mmとなる部分を含むことを特徴とする電磁波シールド成形品10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続した導電性繊維で強化された樹脂組成物からなる成形品を射出成形金型にインサートした後、分散した強化繊維で強化された熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を射出成形することで一体化させて得られる、例えば、パソコン、携帯電話、デジタルカメラ、テレビ、プロジェクタ、ゲーム機、医療用品、その他電気・電子機器の部品や筐体部分として用いられる電磁波シールド成形品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、パソコン、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、テレビ、プロジェクタ、ゲーム機、医療用品等の電気・電子機器の部品や筐体には、成形性、生産性、経済性に優れる繊維強化プラスチック(FRP)が頻繁に使用されている。FRPの中でも優れた導電性を有するものは、高い電磁波シールド性をもつことから好ましく使用される。
【0003】
しかしながら、近年、パソコン、携帯電話、デジタルカメラ、ゲーム機等の電子機器の普及が加速し、多機能化、小型化が進むにつれて、他の電子機器からの電磁波障害や他の電子機器への電磁波妨害が問題視されるようになり、その筐体には以前にも増して高い電磁波シールド性が要求されるようになった。とりわけ、上記用途では軽量化が重要視されるために筐体の薄肉化が進み、従来のFRPでは電磁波シールド性が満足できなくなりつつある。
【0004】
電磁波シールド性を満足する解決手段として、マグネシウム合金のダイカスト製法やチクソモールディングの実用化が進んだが、複雑形状や薄肉形状への対応が困難という問題があった。また、金属材料を用いると軽量化には限界があった。
【0005】
そこで、特許文献1のように、プラスチック成形品の表面に金属メッキ層を付与した筐体とすることで、電磁波シールド性と軽量化を両立した筐体が開示されている。しかし、メッキ処理を用いるとコストアップの要因となるほか、排水汚染等の環境負荷の面からも問題があった。また、特許文献2には、電磁波シールド性及び軽量性に優れた平板部材と成形性及び経済性に優れた樹脂枠部材とを一体化させた成形品が開示されている。しかし、平板部材と樹脂枠部材との収縮差が大きいため、一体成形した後、平板部材と樹脂枠部材との突き合わせ部分に微小で不均一なクラックが生じ、成形品外観が悪くなったり成形品強度が弱くなったりする問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−349486号公報
【特許文献2】特開2004−140255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑み、電磁波シールド性、軽量性、成形性、経済性に加えて成形品外観や成形品強度にも優れた電磁波シールド成形品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、以下の構成を採用する。すなわち、
(1)連続した導電性繊維で強化された樹脂組成物からなり、略平面部を有する平板部材を予め製造し、射出成形金型にインサートした後、分散した強化繊維で強化された熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂枠部材を射出成形により一体化させた電磁波シールド成形品であって、前記平板部材と前記樹脂枠部材の接合部の少なくとも一部が突き合わせ形状からなり、かつ、前記突き合わせ形状部において接合された前記樹脂枠部材の幅が0.05〜1.5mmとなる部分を含むことを特徴とする電磁波シールド成形品の製造方法。
(2)突き合わせ形状部における樹脂枠部材の幅が0.05〜1.5mmとなる部分の突き合わせ長さが、平板部材と樹脂枠部材の突き合わせ長さ全体の70%以上であることを特徴とする(1)に記載の電磁波シールド成形品の製造方法。
(3)平板部材に複数の貫通穴を形成し、前記貫通穴の大きさに対して0.02〜0.5mm小さい断面形状の位置決めピンを有する射出成形金型にインサートした後、分散した強化繊維で強化された熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂枠部材を射出成形することで一体化させてなる、(1)または(2)に記載の電磁波シールド成形品の製造方法。
(4)平板部材に形成する貫通穴が略円形であり、内径が0.5〜5mmである、(1)〜(3)のいずれかに記載の電磁波シールド成形品の製造方法。
(5)(1)〜(4)のいずれかの製造方法で製造された電磁波シールド成形品であって、樹脂枠部材の熱可塑性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂25〜95重量%、ガラス繊維5〜75重量%から構成される電磁波シールド成形品。
(6)(1)〜(4)のいずれかの製造方法で製造された電磁波シールド成形品であって、樹脂枠部材の熱可塑性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂25〜95重量%、炭素繊維5〜75重量%から構成される電磁波シールド成形品。
(7)(1)〜(4)のいずれかの製造方法で製造された電磁波シールド成形品であって、樹脂枠部材の熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率が0.5%以下である電磁波シールド成形品。
(8)電気・電子機器用の筐体である(5)〜(7)のいずれかに記載の電磁波シールド成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電磁波シールド成形品は、電磁波シールド性、軽量性、成形性、経済性に加えて成形品外観や成形品強度にも優れており、パソコン、携帯電話、デジタルカメラやその他AV機器、OA機器の筐体に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の電磁波シールド成形品の一実施例である電子機器筐体の斜視図である。
【図2】本発明の樹脂枠部材の幅を定義する図面である。
【図3】本発明の電磁波シールド成形品の一実施例を説明する図面である。
【図4】本発明の電磁波シールド成形品の一実施例を説明する図面である。
【図5】電磁波シールド成形品の一比較例を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一実施例に係る電磁波シールド成形品の斜視図である。
【0012】
図1において、本発明の電磁波シールド成形品10を構成する平板部材1は、連続した導電性繊維で強化された樹脂組成物からなる。この強化形態は、成形品の少なくとも一方向(UniDirectional:UD)に、少なくとも10mm以上の連続した繊維が配列されている状態であって、必ずしも成形品全体にわたって連続した繊維である必要はなく、途中で分断されていても特に問題はない。具体的な導電性繊維の形態としては、フィラメント、クロス、UDクロス、UD、ブレイド、マルチフィラメントや紡績糸をドラムワインド等で一方向にひきそろえた形態の強化材等の形態が例示できるが、プロセス面の観点から、クロス、UDが好適に使用される。また、これらの強化形態は単独で使用しても、2種以上の強化形態を併用してもよい。
【0013】
平板部材1に使用される導電性繊維としては、例えばアルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維等の金属繊維、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維、黒鉛繊維等の単独で導電性を示す繊維の他に、ガラス繊維等の絶縁性繊維や、アラミド繊維、PBO繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維等の有機繊維、およびシリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維等の無機繊維に導電体を被覆した繊維が挙げられる。導電体の被覆方法としては、例えば、ニッケル、イッテルビウム、金、銀、銅、アルミニウム等の金属を、メッキ法(電解、無電解)、CVD法、PVD法、イオンプレーティング法、蒸着法等により少なくとも1層以上被覆する方法が例示できる。これらの導電性繊維は単独で用いても、また、2種以上併用しても良い。なかでも、比強度、比剛性、軽量性のバランスの観点から炭素繊維、とりわけ安価なコストを実現できる点でポリアクリロニトリル系炭素繊維が好適に用いられる。
【0014】
平板部材1に使用される樹脂成分としては、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のどちらも使用することができる。熱硬化性樹脂である場合、成形品の剛性、強度に優れ、熱可塑性樹脂である場合、成形品の衝撃強度、リサイクル性に優れる。かかる熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド等や、これらの共重合体、変性体、および/または2種類以上ブレンドした樹脂等を使用することができる。更に、耐衝撃性向上のために、上記熱硬化性樹脂にエラストマーもしくはゴム成分を添加してもよい。
【0015】
また、かかる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂のほか、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、および/または2種類以上ブレンドした樹脂等であってもよい。更に耐衝撃性向上のために、上記熱可塑性樹脂にその他のエラストマーもしくはゴム成分を添加した樹脂であってもよい。
【0016】
平板部材1を構成する樹脂組成物における、連続した導電性繊維の割合は、成形性、力学特性と電磁波シールド性の観点から20〜90体積%が好ましく、30〜80体積%がより好ましい。
【0017】
また、本発明の電磁波シールド成形品10を電気・電子機器の筐体形状に適合させるため、平板部材1は少なくとも1つの略平面部を有していることが望まれ、さらには平板部材1の最大面積を持つ面の50%以上が略平面を形成していることがより望ましい。
【0018】
同様に電気・電子機器の筐体を想定し、薄肉・軽量性の観点から、平板部材1の平均厚みは1.6mm以下であることが好ましく、1.4mm以下であることがより好ましく、1.2mm以下であることがさらに好ましく、1.0mm以下であることがとりわけ好ましい。ここで、平板部材1の平均厚みは、上記略平面部における均等に分布した少なくとも5点の測定値の平均値である。なお、平均厚みの測定に当たっては、リブ部、ヒンジ部、凸凹部等の意図的に形状を付与した部位は除くものとする。
【0019】
平板部材1の投影面積は、電磁波シールド成形品10に適合できる大きさであれば特に制限はないが、一体化した場合の電磁波シールド性をより高める観点では筐体天面の大きさに準ずるほど好ましい。とりわけ、ノートパソコンの筐体に使用することを想定した場合、200cm2以上が好ましく、400cm2以上がさらに好ましく、600cm2以上がとりわけ好ましい。ここで、投影面積とは成形品の外形寸法から求めた成形品面の大きさを表す尺度である。平板部材の投影面積は、平板部材を定盤の上に静かに置いて定盤と垂直な方向から撮影した写真を実物大で現像し、平板部材の占める面積を測定することにより求められる。
【0020】
次に本発明における電磁波シールド成形品10を構成する樹脂枠部材2は、上述したように分散した強化繊維で強化された熱可塑性樹脂組成物からなる。
【0021】
樹脂枠部材2に使用される強化繊維としては、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、アルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維等の金属繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維等の無機繊維が挙げられ、さらにこれらの繊維に導電体を被覆した繊維でもよい。これらの強化繊維は1種または2種以上を併用しても良い。なかでも、比強度、比剛性、軽量性のバランスの観点からガラス繊維や炭素繊維が好適に用いられる。例えばノートパソコンのディスプレイ側の筐体のアンテナ部のように一体化後も局所的に電波を透過させる必要がある場合は、該当箇所には電気抵抗の大きいガラス繊維を用いることが好ましい。一体化後も高い電磁波シールド性を保持する必要がある場合は、電気抵抗の小さい炭素繊維を用いることが好ましい。
【0022】
樹脂枠部材2に使用される熱可塑性樹脂としては特に制限はなく、平板部材1に使用する熱可塑性樹脂に例示された樹脂を使用することができる。とりわけ、耐熱性、耐薬品性の観点からはPPS樹脂が、成形品外観、寸法安定性の観点からはポリカーボネート樹脂やスチレン系樹脂が、成形品の強度、耐衝撃性の観点からはポリアミド樹脂がより好ましく用いられる。また、樹脂枠部材2の収縮による寸法差から生じる平板部材1からの剥離や成形品のそりを低減する観点からはポリカーボネート樹脂やポリフェニレンエーテル樹脂が好ましい。
【0023】
樹脂枠部材2を構成する熱可塑性樹脂組成物は、かかる熱可塑性樹脂に強化繊維が均一に分散しており、成形性、強度、軽量性とのバランスの観点から、その好ましい組成としては、熱可塑性樹脂25〜95重量%、さらに好ましくは35〜85重量%、炭素繊維5〜75重量%、さらに好ましくは15〜65重量%である。
【0024】
さらに分散している強化繊維の繊維長についても特に制限はないが、強化繊維の強度を効率よく発現させるには、繊維長は長い方が好ましい。成形性とのバランスの観点から、数平均繊維長100〜1000μmの範囲内が好適に用いられる。ここで、数平均繊維長の測定方法は、樹脂枠部材2から分散している強化繊維のみを、無作為に少なくとも400本以上抽出し、その長さを1μm単位まで光学顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡にて測定してその平均長さを算出することにより行う。強化繊維の抽出方法としては、樹脂枠部材2の一部を切り出し、樹脂成分を溶解させる溶媒によりこれを十分溶解させた後、濾過等の操作により強化繊維と分離することができる。ただし、成形品を切り出す位置については、ウェルド周辺、ゲート周辺、リブ部、ヒンジ部および成形品端部は避けるものとする。
【0025】
さらに、樹脂枠部材2を構成する熱可塑性樹脂には、要求される特性に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で他の充填材や添加剤を含有しても良い。例えば、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤等が挙げられる。
【0026】
樹脂枠部材2における、熱可塑性樹脂に強化繊維を分散させる方法については、特に制限はなく、例えば熱可塑性樹脂と強化繊維を溶融混練するなどの方法で製造できる。
【0027】
樹脂枠部材2を構成する熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は、0.5%以下であることが好ましい。ここで、熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は、フィルムゲートを有する射出成形金型で80×80×1tの角板を成形した場合の成形収縮を流れ方向および流れ直角方向について測定し、2方向の平均値を計算したものを指す。成形収縮率が0.5%を超える熱可塑性樹脂組成物で樹脂枠部材2を構成した場合、射出成形時の樹脂枠部材2の収縮に起因するそりや剥離が発生しやすくなる。このような不良の発生を抑えるためには射出成形条件の厳密な制御が必要となり、生産性が低下する。
【0028】
上述したように、平板部材1からの剥離や成形品のそりを低減する観点から選択される熱可塑性樹脂組成物に強化繊維を溶融混練することにより、成形時の冷却工程において熱可塑性樹脂組成物が収縮しようとする力に対して強化繊維が抵抗力となるため、成形収縮を抑制する効果が得られるのである。特に、熱可塑性樹脂組成物と強化繊維とを前述した割合で混練させると、熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率をとりわけ良く抑制することができる。
【0029】
本発明の電磁波シールド成形品10は、かかる平板部材1を予め製造し、射出成形金型にインサートした後、樹脂枠部材2を射出成形させることで一体化させてなることを特徴とする。
【0030】
ここで、平板部材1の製造方法としては、特に限定されるものではなく、ハンドレイアップ成形法、スプレーアップ成形法、真空バック成形法、加圧成形法、オートクレーブ成形法、プレス成形法、トランスファー成形法等の熱硬化樹脂を使用した方法、およびプレス成形、スタンピング成形法等の熱可塑性樹脂を使用した方法が挙げられる。とりわけ、プロセス性、力学特性の観点から真空バック成形法、プレス成形法、トランスファー成形法等が好適に用いられる。
【0031】
また、一体化後も電磁波シールド成形品10の形態を維持する観点から、平板部材1の表面のうち樹脂枠部材2が接合される部分には接着層を有していることが好ましい。平板部材1と樹脂枠部材2との接合面の少なくとも一部に接着層を有していることが好ましく、接合面面積の50%以上に接着層を有していることがより好ましく、接合面面積の70%以上に接着層を有していることがさらに好ましく、接合面の全面に接着層を有していることがとりわけ好ましい。ここで、接着層は、接着剤のような平板部材1または樹脂枠部材2と異なった成分から構成されていても良いし、溶着層のような平板部材1または樹脂枠部材2の成分から構成されていても良い。
【0032】
平板部材1と樹脂枠部材2の接合部は、電気・電子機器用の筐体に使用されることを想定すると、薄肉化やデザイン性の観点から体裁面10a側については嵌合ではなく同一面内での突き合わせ形状で接合されていることが必要である。
【0033】
図2は、図1のA−A断面図であり、平板部材1と樹脂枠部材2との突き合わせ形状を示した一例である。5つの断面図(a)〜(e)各々において、各断面図の上側が電磁波シールド成形品10の体裁面10a側、各断面図の右側が電磁波シールド成形品10の端部すなわち樹脂枠部材2側、各断面図の左側が電磁波シールド成形品10の中央側である。各断面図の下側は体裁面10aではなく、平板部材1と樹脂枠部材2の接着力を高めるために樹脂枠部材2を中央側に延長したリブ等を形成したり、他の部品を組み付けるためのボス形状等を形成したりすることができる。
【0034】
本発明において突き合わせ形状とは、電磁波シールド成形品10の体裁面10aには樹脂枠部材2を嵌合させることなく、平板部材1の裏面1aおよび端面1bを樹脂枠部材2で固定するようにしたものである。ここで、体裁面10aまでせりあがった樹脂枠部材2の凸状に隆起した先端を凸部2aと呼ぶ。
【0035】
電磁波シールド成形品10の体裁面10aは、平板部材1で形成される略平面に対して樹脂枠部材2の凸部2aが凸状に突出する、すなわち凸部2aが体裁面10aより高い位置にあると、体裁面10aの一部を嵌合するように樹脂が広がる恐れがある。この場合、電磁波シールド成形品10全体を薄肉化することができなくなり、また樹脂枠部材2の凸部2aが均一な形状とならず、デザイン性の上からも好ましい態様ではない。
【0036】
逆に、樹脂枠部材2の凸部2aが体裁面10aより低い、すなわち平板部材1の端面1bがむき出しとなる場合には、平板部材1の寸法のバラつきによって樹脂枠部材2との間に間隙が生じる恐れがあり、電磁波シールド成形品10の強度不足やデザイン性を損ない、好ましい態様ではない。
【0037】
これに対し、体裁面10aと樹脂枠部材2の凸部2aとが、ほぼ同一平面を形成するような突き合わせ形状で接合されていると、電磁波シールド成形品10の薄肉化とデザイン性の両方を満足することができる。
【0038】
突き合わせ形状部において接合された樹脂枠部材2の幅とは、図2(a)で示すように、樹脂枠部材2の凸部2aの幅に相当する長さを指しており、0.05〜1.5mmとなる部分を含むことが望まれる。樹脂枠部材2の幅が0.05mmに満たない場合、樹脂枠部材2を形成する射出成形樹脂の充填が難しくなってショートショットが発生したり、ショートショットを抑えるために過充填方向に成形条件を設定する必要が生じて他の部分にバリが発生したりする。樹脂枠部材2の幅が1.5mmを超える場合は、射出成形後の樹脂枠部材2の収縮量が増えることから、突き合わせ部分に微小で不均一なクラックが生じ、成形品外観が悪くなったり成形品強度が弱くなったりする。これに対し、樹脂枠部材2の幅を0.05〜1.5mmとすれば、ショートショット等の成形不良を最小限に抑えることができ、かつ、クラックの発生も抑えることができる。
【0039】
ここで、樹脂枠部材2の任意の点の幅は、前記地点と前記地点から突き合わせ面への垂線の足の2点を通る直線が樹脂枠部材2と交わっている長さである。種々の形状の樹脂枠部材2の幅は図2のように例示される。突き合わせ部分の微小なクラックによる成形品外観の悪化および成形品強度の低下を避けるという本発明の目的を達成するためには、突き合わせ形状部において接合された樹脂枠部材2の幅が0.05〜1.5mmとなる部分の突き合わせ長さが、平板部材1と樹脂枠部材2の突き合わせ長さ全体の70%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、100%であることがとりわけ好ましい。
【0040】
平板部材1と樹脂枠部材2との接合面に接着層を有する構成とした場合、上述したようにショートショット等の成形不良や樹脂枠部材2の収縮量を抑える観点から選択された樹脂枠部材2の幅とすることで平板部材1と樹脂枠部材2の接着は安定した強固なものとなる。さらに、平板部材1と樹脂枠部材2の接着力が強固なものであると、樹脂枠部材2を射出成形で形成する際の成形収縮に対して平板部材1が抵抗力となり、一体化後の電磁波シールド成形品のそりを低減させる効果が得られる。
【0041】
平板部材1と樹脂枠部材2の突き合わせ長さとは、樹脂枠部材2と突き合わせ可能な平板部材1の外周の総長さを指す。例えば、図1に示すような略矩形の平板部材1の全周囲に渡って突き合わせ形状の樹脂枠部材2を設けた場合、平板部材1と樹脂枠部材2の突き合わせ長さは、平板部材1の4辺の長さの合計を指す。
【0042】
突き合わせ形状部において接合された樹脂枠部材2の幅が0.05mm未満となる部分の突き合わせ長さが平板部材1と樹脂枠部材2の突き合わせ長さ全体の30%を超える場合、射出成形時において0.05mm未満の間隙に射出成形樹脂が充填されにくくなるため、前述のショートショットが発生しやすくなる。このような不良の発生を抑えるためには射出成形条件の厳密な制御が必要となり、生産性が低下する。
【0043】
逆に、突き合わせ形状部において接合された樹脂枠部材2の幅を1.5mm以上にすると、射出成形後に樹脂枠部材2が大きく収縮し、平板部材1との境界で剥離が生じてしまい、接合強度が低下する恐れがある。さらに、このような剥離が生じると、デザイン性を損なうことになり好ましくない。突き合わせ形状部において接合された樹脂枠部材2の幅が1.5mm以上となる部分の突き合わせ長さが平板部材1と樹脂枠部材2の突き合わせ長さ全体の30%を超える場合、製品として強度が必要な部位までも樹脂枠部材2の幅を広く配置することになるため、製品不良が多発する恐れがある。さらに、射出成形時においても、1.5mm以上の幅部分に樹脂が十分充填されずにクラックが発生したり、樹脂流れが発現したりする。逆に、射出成形圧力を上げると、幅の狭い部分にバリが生じる恐れがある。
【0044】
これに対し、突き合わせ形状部において接合された樹脂枠部材2の幅が0.05〜1.5mmとなる部分の突き合わせ長さが平板部材1と樹脂枠部材2の突き合わせ長さ全体の70%以上である場合、均一に射出成形樹脂が充填されやすくなるため、ショートショットを発生させにくく、成形条件の自由度を広げることができる。すなわち、製品設計の自由度が広がることになり、様々な形状に対する要求仕様にも対応することができる。
【0045】
樹脂枠部材2は、平板部材1を射出成形金型にインサートした際の平板部材1と射出成形金型の隙間部分に熱可塑性樹脂が充填されることにより形成される。樹脂枠部材2の幅を0.05〜1.5mmに制御するためには、平板部材1を射出成形金型の所定の位置にセットすることを容易にし、射出成形時の樹脂圧による平板部材1のブレを抑えることをも容易にする位置決め機構を、平板部材1と射出成形金型の両者に設けることが好ましい。例えば、平板部材1の所定の2箇所ないし3箇所に貫通穴を形成し、同数の位置決めピンを射出成形金型の前記当箇所に配置して、位置決めピンを平板部材1の穴に貫通させる形でインサートする方法が例示される。射出成形金型の位置決めピンの断面の大きさは平板部材1の貫通穴の大きさに対して縦横ともに0.02〜0.5mm小さいことが好ましい。位置決めピンと平板部材1の貫通穴の大きさの差が0.02mmに満たない場合、射出成形金型の全ての位置決めピンがスムーズに平板部材1の貫通穴に通るためには貫通穴の径や位置の精度について厳密な管理が必要となる。また、位置決めピンと平板部材1の貫通穴の大きさの差が0.5mmを超える場合、射出成形時の樹脂圧がかかった際に貫通穴を中心にした平板部材1のズレが起こりやすくなるため、平板部材1と射出成形金型の隙間部分を0.05〜1.5mmに保持するためには射出速度等の成形条件の厳密な制御が必要となる。これに対し、射出成形金型の位置決めピンの断面の大きさが平板部材1の貫通穴の大きさに対して縦横ともに0.02〜0.5mm小さい場合は、予め成形した平板部材1にドリルで穴をあける等の方法で貫通穴を形成して射出成形金型に設けた位置決めピンを貫通させる形でインサートすることにより、平板部材1を射出成形金型の所定の位置にセットすることが容易になり、射出成形時の樹脂圧による平板部材1のブレを抑えることも容易となる。平板部材1に設ける貫通穴の形状については特に制限はないが、生産性の観点からは円形であることが好ましい。円の径についても特に制限はないが、貫通穴より小さい径となる射出成形金型の位置決めピンの耐久性の観点から、0.5mm以上であることが好ましく、平板部材1の強度や電磁波シールド性を損なわない観点から5mm以下であることが好ましい。
【0046】
かかる工法で構成された本発明の電磁波シールド成形品10は、金属材料との一体化では実現できない軽量性が得られるだけでなく、従来技術の課題であった突き合わせ部分の微小なクラックによる成形品外観の悪化および成形品強度の低下をも解決するものである。
【0047】
なお、本発明の電磁波シールド成形品10の製造方法は、これらの例示された工法、具体例によって限定されるものではない。
【0048】
電磁波シールド成形品10の形状には特に制限はなく、曲面、リブ、ヒンジ、ボス、中空部を有していてもよい。また、成形品にはメッキ、塗装、蒸着、インサート、スタンピング、レーザー照射等により表面加飾の処理が施されていてもよい。
【0049】
かかる電磁波シールド成形品10の用途としては、例えば、パソコン、携帯電話、携帯情報端末、デジタルカメラ、ビデオカメラ、テレビ、プロジェクタ、ゲーム機、ファクシミリ、コンパクトディスクプレーヤー、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、オーディオ、光学機器、エアコン、照明機器、医療用品、その他電気・電子機器の部品や筐体のほか、自動車や航空機の電装部材、内部部品等が挙げられる。
【0050】
とりわけ、本発明の電磁波シールド成形品10はその優れた電磁波シールド性を生かして、電気・電子機器用の筐体や外部部材用に好適であり、さらには薄肉で広い投影面積を必要とするノート型パソコンや携帯情報端末等の筐体として好適である。かかる筐体として使用する場合、本発明の目的である電磁波シールド性の観点から、平板部材1が筐体の天面の少なくとも一部を構成することが好ましく、天面の投影面積の50%以上を構成することがさらに好ましく、天面の投影面積の70%以上を構成することがとりわけ好ましい。
【実施例】
【0051】
<平板部材および樹脂枠部材>
平板部材および樹脂枠部材について説明する。
トレカプリプレグP9052F−15(東レ株式会社製、強化繊維:炭素繊維、ベース樹脂:エポキシ)を6層積層し、接着層として最外層にポリアミド層CM4000(東レ株式会社製3元共重合ポリアミド樹脂、ポリアミド6/66/610)を1層積層したものをプレス成形(平板形状金型、厚み0.85mm、金型温度150℃、圧力2.5MPa、硬化時間30分)後に199.6mm×299.6mmの長方形にカットし、所定の2箇所(短辺の中点2つを結んだ線分上にあり、前記線分の中点から50mmの距離にある2点)を中心とする直径2.50mmの円形の2つの貫通穴をドリル加工して平板部材を得た。
【0052】
樹脂枠部材は、短繊維ガラス繊維強化ペレットTCP1206−G50(東レ株式会社製、ガラス繊維50重量%、ベース樹脂:ポリアミド)を用いた。
<射出成形>
射出成形金型は、投影面積200.0mm×300.0mmの中空部分を有し、所定の2箇所(短辺の中点2つを結んだ線分上にあり、前記線分の中点から50mmの距離にある2点)を中心とする直径2.45mmの円柱形の2本の位置決めピンを配置した。株式会社日本製鋼所製350トン射出成形機(J350EIISP、シリンダ径:φ46mm、使用スクリュー:汎用フルフライトタイプ)に射出成形金型を取り付け、射出成形金型に前記平板部材をインサートし、金型を75℃程度にまで加熱した。前記ペレットTCP1206−G50を280〜290℃の範囲で溶融し、150MPa程度の射出圧力で射出成形して樹脂枠部材2を形成し、電磁波シールド成形品10を得た。
【0053】
実施例および比較例それぞれについて、樹脂枠部材のうち、突き合わせ形状を有する部分の幅と、0.05〜1.5mmの幅を有する突き合わせ部分の長さの割合を、後述する表1にまとめた。
<評価方法>
(1)目視検査
平板部材と樹脂枠部材との突き合わせ部分に剥離やクラックが発生していないか、目視検査を実施した。
(2)表面粗さ
表面粗さ測定器「サーフコーダ SE−2300」(株式会社小坂研究所製)を使用し、平板部材〜突き合わせ部分〜樹脂枠部材の表面の形状をトレースして高さ方向を50倍として輪郭形状をアウトプットし、クラックの有無を評価した。
(3)強度
精密万能試験機オートグラフAG−10TA(株式会社島津製作所製)を使用し、0.2mm×0.2mmの正方形の先端形状を有する圧子を用いて突き合わせ部近傍の樹脂枠部材に5mm/minの試験速度で50Nまで荷重をかけて、クラックの有無を評価した。
(4)評価結果
(1)〜(3)それぞれについて評価した結果、クラックが発生しない場合は○を、クラックが発生した場合は×を、表1に記載した。(3)強度についてクラックが発生した場合、クラック発生時の荷重もあわせて記載した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示した実施例および比較例の結果から、以下のことが明らかになった。実施例1〜4に示した電磁波シールド成形品は、電磁波シールド性、軽量性、成形性、経済性に加えて成形品外観や成形品強度にも優れており、電気・電子機器の筐体として好適であった。実施例5および6に示した電磁波シールド成形品は、目視検査や表面粗さの評価結果からはクラックが発見できなかったものの、強度評価の結果、実施例1〜4の製品に劣る結果となった。
【0056】
一方、比較例1〜3の成形品では、成形品外観や成形品強度が不十分であり、電気・電子機器の筐体用途等の厳しい要求に応えるには不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の電磁波シールド成形品は、ノート型パソコンや携帯情報端末等の筐体として好適であるが、その応用範囲は、これらに限られるものではなく、デジタルカメラ、ビデオカメラ、テレビ、プロジェクタ、ゲーム機、ファクシミリ、コンパクトディスクプレーヤー、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、オーディオ、光学機器、エアコン、照明機器、医療用品、その他電気・電子機器の部品や筐体のほか、自動車や航空機の電装部材、内部部品等にも利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 :平板部材
1a:裏面
1b:端面
2 :樹脂枠部材
2a:凸部
10 :電磁波シールド成形品
10a:体裁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した導電性繊維で強化された樹脂組成物からなり、略平面部を有する平板部材を予め製造し、射出成形金型にインサートした後、分散した強化繊維で強化された熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂枠部材を射出成形により一体化させた電磁波シールド成形品であって、前記平板部材と前記樹脂枠部材の接合部の少なくとも一部が突き合わせ形状からなり、かつ、前記突き合わせ形状部において接合された前記樹脂枠部材の幅が0.05〜1.5mmとなる部分を含むことを特徴とする電磁波シールド成形品の製造方法。
【請求項2】
突き合わせ形状部における樹脂枠部材の幅が0.05〜1.5mmとなる部分の突き合わせ長さが、平板部材と樹脂枠部材の突き合わせ長さ全体の70%以上であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド成形品の製造方法。
【請求項3】
平板部材に複数の貫通穴を形成し、前記貫通穴の大きさに対して0.02〜0.5mm小さい断面形状の位置決めピンを有する射出成形金型にインサートした後、分散した強化繊維で強化された熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂枠部材を射出成形することで一体化させてなる、請求項1または2に記載の電磁波シールド成形品の製造方法。
【請求項4】
平板部材に形成する貫通穴が略円形であり、内径が0.5〜5mmである、請求項1〜3のいずれかに記載の電磁波シールド成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの製造方法で製造された電磁波シールド成形品であって、樹脂枠部材の熱可塑性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂25〜95重量%、ガラス繊維5〜75重量%から構成される電磁波シールド成形品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかの製造方法で製造された電磁波シールド成形品であって、樹脂枠部材の熱可塑性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂25〜95重量%、炭素繊維5〜75重量%から構成される電磁波シールド成形品。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかの製造方法で製造された電磁波シールド成形品であって、樹脂枠部材の熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率が0.5%以下である電磁波シールド成形品。
【請求項8】
電気・電子機器用の筐体である請求項5〜7のいずれかに記載の電磁波シールド成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−202580(P2009−202580A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12635(P2009−12635)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】