説明

電磁波シールド材

【課題】保護外層と電磁波シールド層との密着性を高めて積層構造を安定維持して、長期にわたり良好な防磁特性を発揮させることができる電磁波シールド材を提供する。
【解決手段】この電磁波シールド材は、電線類を被覆する被覆部3を備え、この被覆部3は、ポリオレフィン樹脂を主素材とする保護外層6の内面側に、金属箔10を極性樹脂フィルム11、11でラミネートしてなる電磁波シールド層7を積層してなる。そして、この電磁波シールド層7の極性樹脂フィルム11と保護外層6とが、ウレタン系樹脂、アイオノマー樹脂、オレフィン系樹脂のマレイン酸付加物、オレフィン系樹脂の無水酢酸をグラウトした重合体、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、変性シリコン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種からなる積層用接着剤8を介して接着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば送電線、電化製品の電力線や信号線等の各種電線類から発生する主として低周波の電磁波をシールドするための電磁波シールド材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、送電線、電化製品の電力線や信号線等から発生する低周波の電磁波による人体への悪影響が問題視されている。このため、各種の電線類を被覆して電磁波をシールドする電磁波シールド材が数多く提案されている。
【0003】
この種の電磁波シールド材としては、例えば特許文献1や特許文献2にも開示されているように、合成樹脂からなる保護外層の内面側に、金属箔等からなる電磁波シールド層を積層した構造となっているものがある。
【0004】
【特許文献1】特開平11−121969号公報
【特許文献2】実開昭63−115297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電磁波シールド材においては、保護外層と電磁波シールド層とが単に重ね合わされていたり、また接着されていてもその密着性が悪く、保護外層に対して電磁波シールド層が剥離し易くなっていることが多かった。特に、電線類への取り付けを容易にするために、帯状に形成した電磁波シールド材を電線類に対して外側から巻き付ける構造とした場合には、電磁波シールド層がより剥離し易くなっていた。
【0006】
このため、保護外層と電磁波シールド層とが摩擦し合ったり、これらの間に水が浸入する等して、脆くて錆び易い電磁波シールド層の早期劣化を招き易くなり、防磁特性に支障をきたすといった不具合があった。
【0007】
そこで、この発明は、上記不具合を解消して、保護外層と電磁波シールド層との密着性を高めて積層構造を安定維持して、長期にわたり良好な防磁特性を発揮させることができる電磁波シールド材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明の電磁波シールド材1は、電線類2を被覆する被覆部3を備え、この被覆部3は、ポリオレフィン樹脂を主素材とする保護外層6の内面側に、金属箔10を極性樹脂フィルム11、11でラミネートしてなる電磁波シールド層7を積層してなり、この電磁波シールド層7の極性樹脂フィルム11と前記保護外層6とが積層用接着剤8を介して接着され、この積層用接着剤8は、ウレタン系樹脂、アイオノマー樹脂、オレフィン系樹脂のマレイン酸付加物、オレフィン系樹脂の無水酢酸をグラウトした重合体、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、変性シリコン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種からなることを特徴とする。
【0009】
具体的に、前記電磁波シールド層7は、軟磁性材料によって形成した金属箔10をポリエチレンテレフタレートフィルム11、11でラミネートしてなる。また、前記保護外層6は、ポリエチレン樹脂を主素材としてなる。さらに、前記被覆部3における電磁波シールド層7の内面側に、ポリオレフィン樹脂を主素材とする保護内層25を、前記積層用接着剤8を介して積層している。
【0010】
さらに、前記被覆部3は、可撓性を有する略帯状に形成され、この被覆部3をその長手方向が軸方向に沿うように略筒状に巻くことによって形成した内部空間Sに、前記電線類2が収容される。そして、前記被覆部3を略筒状に巻いたときに互いに係合して、前記被覆部3を略筒状に保持する係合部4、5、30、31が設けられている。
【発明の効果】
【0011】
この発明の電磁波シールド材では、ポリオレフィン樹脂を主素材とした保護外層と電磁波シールド層の極性樹脂フィルムとを、これら双方に対して接着性の良好な積層用接着剤を介して接着しているので、保護外層と電磁波シールド層との密着性を高めて積層構造を安定維持することができる。このため、保護外層と電磁波シールド層とが剥離して摩擦し合ったり、これらの間に水が浸入する等の不具合を防止することができ、脆くて錆び易い電磁波シールド層の破損や錆びの発生を抑えて、長期にわたり良好な防磁特性を発揮させることができる。
【0012】
また、保護外層は、耐水性、耐薬品性、耐候性等に優れたポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂を主素材としているので、特に送電線を電磁シールドするときのように電磁波シールド材を屋外で使用する場合でも、保護外層の劣化を抑えて、長寿命化を図ることができる。さらに、電磁波シールド層の内面側を保護内層によって覆うことで、電磁波シールド層と電線類とが直接接触することなく、電磁波シールド層の破損を防止して、長期にわたり良好な防磁特性を発揮させることができる。
【0013】
さらにまた、略帯状の被覆部を、略筒状に巻いて電線類に取り付けるようにすることで、既設の電線類に対しても簡単に電磁波シールド材を装着することができ、施工性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。この発明の一実施形態に係る電磁波シールド材1は、主として屋外において送電線等の電線類2に取り付けられて、電線類2から発生する低周波の電磁波が外部に漏洩するのを防止するために使用される。
【0015】
この電磁波シールド材1は、図1及び図2に示すように、電線類2を被覆する可撓性を有する略帯状の被覆部3と、この被覆部3をその長手方向が軸方向に沿うように略筒状に巻いたときに互いに係合して、被覆部3を略筒状に保持する係合部4、5とを備えている。
【0016】
被覆部3は、図3に示すように、保護外層6の内面側に電磁波シールド層7を積層用接着剤8を介して積層してなる。保護外層6は、耐水性、耐薬品性、耐候性等に優れたポリオレフィン樹脂を主素材としている。具体的には、保護外層6の素材として、抗酸化剤等の添加物を適宜含むポリエチレン樹脂が用いられている。なお、保護外層6の素材としては、ポリエチレン樹脂だけに限らず、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等のその他のポリオレフィン樹脂を用いるようにしても良い。
【0017】
電磁波シールド層7は、金属箔10を極性樹脂フィルム11、11で挟み込むようにしてラミネートしてなる。金属箔10は、例えばパーマロイ、ケイ素鋼、Fe系アモルファス合金、Co系アモルファス合金等の高透磁率の軟磁性材料によって形成されている。なお、金属箔10としては、このような高透磁率の軟磁性材料を素材とするだけに限らず、その他の金属材料を箔状に形成したものであっても良い。また、極性樹脂フィルム11、11としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが用いられている。このような極性樹脂フィルム11、11によって金属箔10をラミネートすることで、脆くて折れ易い金属箔10を保護している。
【0018】
積層用接着剤8は、保護外層6における無極性ないし極性の小さいポリオレフィン樹脂と電磁波シールド層7における極性樹脂フィルム11とを良好に接着させるもので、ウレタン系樹脂、アイオノマー樹脂、オレフィン系樹脂のマレイン酸付加物、オレフィン系樹脂の無水酢酸をグラウトした重合体、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、変性シリコン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種からなる。このような積層用接着剤8を介在させることで、相溶性に乏しいとされるポリオレフィン樹脂と極性樹脂フィルム11とをヒートシール等で確実に接着して、これらを隙間なくきっちりと密着させた状態で一体化している。なお、この積層用接着剤8にも、抗酸化剤等の添加物が適宜混入されている。
【0019】
係合部4、5は、被覆部3の長手方向に沿った一方の端部に一体的に形成した第1係合部4と、被覆部3の長手方向に沿った他方の端部に一体的に形成した第2係合部5とからなる。
【0020】
第1係合部4は、被覆部3の保護外層6の長手方向に沿った一方の端部先端を尖らせることによって形成されており、外向きに突出する三角形状の突起部20を有している。第2係合部5は、被覆部3の保護外層6の長手方向に沿った他方の端部から略L形の突出片21を外向きに張り出させて、その端部先端を尖らせることによって形成されており、内向きに突出する三角形状の突起部22を有している。なお、これら第1係合部4及び第2係合部5は、保護外層6の押出成形時に同時に成形されるようになっている。そして、被覆部3をその長手方向が軸方向に沿うように略筒状に巻いたときに、第1係合部4の突起部20と第2係合部5の突起部22とを互いに係合させることで、被覆部3が略筒状に保持されるようになっている。
【0021】
上記構成の電磁波シールド材1においては、保管時や運搬時には、被覆部3を略帯状にしておくことで、保管効率や運搬効率を高めることができる。そして、現場での施工に際しては、電線類2を外側から包み込むようにして被覆部3を略筒状に巻きながら、第1及び第2係合部4、5を係合させて被覆部3を略筒状に保持することで、その内部空間Sに電線類2を収容することができる。従って、既設の電線類2に対しても電磁波シールド材1を簡単に装着することができる。また、この施工後の状態において、被覆部3の長手方向に沿った端部同士が互いに重なっており、電線類2の周りを電磁波シールド層7によって確実に覆って、電線類2から発生する電磁波を確実にシールドすることができる。
【0022】
さらに、被覆部3においては、保護外層6と電磁波シールド層7とが積層用接着剤8を介してきっちりと密着した状態で一体化しているので、上記の施工に際して、また施工後の状態において、保護外層6と電磁波シールド層7とが剥離して摩擦し合ったり、これらの間に水が浸入する等の不具合を防止することができ、脆くて錆び易い電磁波シールド層7の破損や錆びの発生を抑えて、長期にわたり良好な防磁特性を発揮させることができる。
【0023】
図4は、別の実施形態に係る電磁波シールド材1を示している。この電磁波シールド材1においては、電磁波シールド層7の内面側に、保護外層6と同様のポリオレフィン樹脂を主素材とした保護内層25を積層して、被覆部3を構成している。この場合も、電磁波シールド層7の極性樹脂フィルム11と保護内層25とが、積層用接着剤8を介して接着されている。このように電磁波シールド層7の内面側を保護内層25によって覆うことで、電線類2との接触による電磁波シールド層7の破損を防止することができる。その他の構成及び作用効果は、図1乃至3に示す上記実施形態の電磁波シールド材1と同様である。
【0024】
図5及び図6は、さらに別の実施形態に係る電磁波シールド材1を示している。この電磁波シール材1においては、その第1係合部30が、被覆部3の保護外層6の長手方向に沿った一方の端部先端を尖らせることによって形成されており、外向きと内向きに夫々突出する一対の三角形状の突起部32、32を有している。また、第2係合部31は、被覆部3の保護外層6の長手方向に沿った他方の端部から略L形の突出片33を外向きに張り出させて、その端部先端を尖らせるとともに、被覆部3の長手方向に沿った他方の端部先端を尖らせることによって形成されており、外向きと内向きに突出する互いに対向する三角形状の突起部34、34を有している。
【0025】
そして、被覆部3を略筒状に巻いたときに、第1係合部30の突起部32、32と第2係合部31の突起部34、34とを互いに係合させることで、被覆部3を略筒状に保持するようになっている。その他の構成及び作用効果は、図1乃至3に示す上記実施形態の電磁波シールド材1と同様である。
【0026】
この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正及び変更を加え得ることは勿論である。例えば、電磁波シールド材1によってシールドする電線類2としては、送電線だけに限らず、例えば低周波の電磁波を発生する電化製品の電力線や信号線であっても良い。
【0027】
また、上記実施形態においては、電磁波シールド材1の被覆部3を略帯状に形成して、この被覆部3を電線類2に対して外側から略筒状に巻き付けて、係合部4、5、30、31を係合させるようにしていたが、被覆部を予め略筒状に形成して係合部を廃止しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の一実施形態に係る電磁波シールド材の一部破断斜視図である。
【図2】同じくその電線類に対して取り付けた状態を示す縦断面図である。
【図3】被覆部の拡大縦断面図である。
【図4】別の実施形態に係る電磁波シールド材の被覆部の拡大縦断面図である。
【図5】さらに別の実施形態に係る電磁波シールド材の一部破断斜視図である。
【図6】同じくその電線類に対して取り付けた状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1…電磁波シールド材、2…電線類、3…被覆部、4、30…第1係合部、5、31…第2係合部、6…保護外層、7…電磁波シールド層、8…積層用接着剤、10…金属箔、11…極性樹脂フィルム、25…保護内層、S…内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線類(2)を被覆する被覆部(3)を備え、この被覆部(3)は、ポリオレフィン樹脂を主素材とする保護外層(6)の内面側に、金属箔(10)を極性樹脂フィルム(11)(11)でラミネートしてなる電磁波シールド層(7)を積層してなり、この電磁波シールド層(7)の極性樹脂フィルム(11)と前記保護外層(6)とが積層用接着剤(8)を介して接着され、この積層用接着剤(8)は、ウレタン系樹脂、アイオノマー樹脂、オレフィン系樹脂のマレイン酸付加物、オレフィン系樹脂の無水酢酸をグラウトした重合体、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、変性シリコン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種からなることを特徴とする電磁波シールド材。
【請求項2】
前記電磁波シールド層(7)は、軟磁性材料によって形成した金属箔(10)をポリエチレンテレフタレートフィルム(11)(11)でラミネートしてなる請求項1記載の電磁波シールド材。
【請求項3】
前記保護外層(6)は、ポリエチレン樹脂を主素材としてなる請求項1又は2記載の電磁波シールド材。
【請求項4】
前記被覆部(3)における電磁波シールド層(7)の内面側に、ポリオレフィン樹脂を主素材とする保護内層(25)を、前記積層用接着剤(8)を介して積層した請求項1乃至3のいずれかに記載の電磁波シールド材。
【請求項5】
前記被覆部(3)は、可撓性を有する略帯状に形成され、この被覆部(3)をその長手方向が軸方向に沿うように略筒状に巻くことによって形成した内部空間(S)に、前記電線類(2)が収容される請求項1乃至4のいずれかに記載の電磁波シールド材。
【請求項6】
前記被覆部(3)を略筒状に巻いたときに互いに係合して、前記被覆部(3)を略筒状に保持する係合部(4)(5)(30)(31)が設けられている請求項5記載の電磁波シールド材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−311592(P2007−311592A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139802(P2006−139802)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000221502)東拓工業株式会社 (61)
【Fターム(参考)】