説明

電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂材料およびその組成物並びにそれらを用いた電線、電力ケーブル

【課題】ポリエチレン樹脂の中の炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量、および/または分子量500以下、融点80℃以下の酸化防止剤の含有量を低減することにより、電線、電力ケーブルからの揮発性有機汚染物質が大幅に低減され、半導体関連工場などのクリーンルームで使用されるのに好適な電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】イオン重合法で製造される(a)密度0.91g/cm〜0.97g/cm、(b)メルトマスフローレイト(MFR)0.1g/10分〜5g/10分、(c)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が7以上のポリエチレン樹脂100〜60質量%と他のポリオレフィン系樹脂0〜40質量%とからなり、かつ(イ)炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppm以下および/または(ロ)分子量500以下、融点80℃以下の酸化防止剤の含有量が10ppm以下の性状を満足することを特徴とする電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機揮発性成分の発生が抑制され、環境の汚染性が少ない電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂材料、そのポリエチレン樹脂組成物およびそれを用いた電線、電力ケーブルに関する。更に詳しくは、ポリエチレン樹脂中に残存する低分子量成分や添加剤等に起因する揮発性有機化合物を除去してなるポリエチレン樹脂材料およびそのポリエチレン樹脂組成物並びにそれらを用いた電線、電力ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンは、安価でありながら優れた成形加工性、電気特性を持ち合わせ、電線、電力ケーブル等の電線用途に絶縁層、被覆層として広く用いられている。電線用途の中でも、半導体製造工場や液晶製造工場等のいわゆるIT関連工場のクリーンルーム等で使用される電線、電力ケーブルなどの場合には、電線からの揮発性有機物がシリコンウエハやガラス基板等の製品上に沈着することによる有機汚染が指摘されている。この問題を解決するために、例えば、特許文献1(特開2001−52533号公報)、特許文献2(特開2002−203435号公報)では、クリーンルームで使用される配線ケーブルを、片面に接着剤を塗布した有機ガスの透過しない高分子有機フィルムで包み覆うことによる方法が示されている。しかしながら、この方法は配線ケーブルから発生する有機ガスの抑制には優れているが、配線ケーブルへの当該フィルムの被覆に手間がかかり、施工時の作業性が劣っている。また、経時で当該フィルムが剥離した場合には、接着剤からの揮発性有機化合物の揮散が心配される。また、特許文献3(特開2002−190217号公報)では、ノンハロゲン難燃性電線・ケーブルに関し、有機揮発成分を含有しない酸化防止剤と可塑剤を配合した組成物を用いることによる、アウトガス(有機揮発成分)の低減方法が示されている。しかしながら、この方法は揮発性の高い酸化防止剤や可塑剤のみを制限しているため有機揮発成分の抑制が不十分で、特に、可塑剤を使用しないポリエチレンでは求められる揮発成分量抑制のレベルや種類が異なっている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−52533号公報
【特許文献2】特開2002−203435号公報
【特許文献3】特開2002−190217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電線、電力ケーブル用ポリエチレンにおいて、有機揮発成分の主要因が酸化防止剤や可塑剤のみならず、特にポリエチレンに由来する分子量が低く揮発性の高い炭化水素化合物にあることを突き止め、特定の炭化水素化合物を低減することにより電線、電力ケーブルからの有機揮発成分が抑制され、クリーンルーム等で十分に使用し得ることを見出したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本発明のポリエチレン樹脂材料は、イオン重合法で製造される(a)密度0.91g/cm〜0.97g/cm、(b)メルトマスフローレイト(MFR)0.1g/10分〜5g/10分、(c)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が7以上のポリエチレン樹脂100〜60質量%と他のポリオレフィン樹脂0〜40質量%からなり、かつ(イ)炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppm以下、および/または(ロ)分子量500以下、融点80℃以下の酸化防止剤の含有量が10ppm以下の性状を満足することを特徴とする電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂材料である。
【0006】
[2]本発明の水架橋性電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂組成物は、イオン重合法で製造される(a)密度0.91g/cm〜0.97g/cm、(b)メルトマスフローレイト(MFR)0.1g/10分〜5g/10分、(c)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が7以上のポリエチレン樹脂100〜60質量%と他のポリオレフィン樹脂0〜40質量%からなるポリエチレン樹脂材料に、不飽和アルコキシシラン化合物、有機過酸化物および所望によりシラノール縮合触媒を配合してなり、かつ(イ)炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppm以下、および/または(ロ)分子量500以下、融点80℃以下の酸化防止剤の含有量が10ppm以下の性状を満足することを特徴とする水架橋性電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂組成物である。
【0007】
[3]本発明の水架橋性電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂組成物は、イオン重合法で製造される(a)密度0.91g/cm〜0.97g/cm、(b)メルトマスフローレイト(MFR)0.1g/10分〜5g/10分、(c)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が7以上のポリエチレン樹脂100〜60質量%と他のポリオレフィン樹脂0〜40質量%からなるポリエチレン樹脂材料に、不飽和アルコキシシラン化合物、有機過酸化物および所望によりシラノール縮合触媒を配合してなるポリエチレン樹脂組成物を有機過酸化物の分解温度以上に上げて製造されてなり、かつ(イ)炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppm以下、および/または(ロ)分子量500以下、融点80℃以下の酸化防止剤の含有量が10ppm以下の性状を満足することを特徴とする水架橋性電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂組成物である。
【0008】
[4]本発明の電線、電力ケーブルは、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリエチレン樹脂材料またはポリエチレン樹脂組成物を絶縁層および/または被覆層に用いたことを特徴とする電線、電力ケーブルである。
【0009】
[5]本発明の電線、電力ケーブルは、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリエチレン樹脂材料またはポリエチレン樹脂組成物を絶縁層とし、[1]に記載のポリエチレン樹脂材料を最外層とすることを特徴とする電線、電力ケーブルである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、イオン重合法で製造されるポリエチレン樹脂において、揮発性炭化水素の炭素数とその含有量、および特定の分子量と融点を有する酸化防止剤の含有量を特定範囲内に制御することによって、電線、電力ケーブルを提供するものであり、この電線、電力ケーブルをIT関連工場のクリーンルーム等で使用することによってIT関連製品の有機化合物による汚染を低減するものである。
【0011】
[発明の実施の形態]
本発明のポリエチレン樹脂材料は、イオン重合法で製造される(a)密度0.91g/cm〜0.97g/cm、(b)メルトマスフローレイト(MFR)0.1g/10分〜5g/10分、(c)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が7以上のポリエチレン樹脂100〜60質量%と他のポリオレフィン系樹脂0〜40質量%から構成され、かつ(イ)炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppm以下、および/または(ロ)分子量500以下、融点80℃以下の酸化防止剤の含有量が10ppm以下の性状を満足するものであることを特徴とするものである。イオン重合法では、主にチーグラー系触媒、クロム系触媒、メタロセン系触媒で分子量分布を制御して製造されることによって、高圧ラジカル重合法で製造される低密度ポリエチレンと比較して低分子量成分が少ないため、揮発性の高い炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が極めて少ないポリエチレンを得ることができ、また、耐ストレスクラック性の良い電線、電力ケーブルを提供することが可能となるものである。
【0012】
[ポリエチレン樹脂]
本発明のポリエチレン樹脂の(a)密度(JIS K6922−1(1997)、JIS K6922−2(1997)、密度勾配管法で測定)は、0.91g/cm〜0.97g/cm、好ましくは0.920/cm〜0.960g/cm、より好ましくは0.920g/cm〜0.950g/cmである。
密度が0.91g/cm未満では、機械的強度、耐熱性等が低下する虞が生じる。また、密度が0.97g/cmを超えるものは、耐ストレスクラック性や可撓性等が劣るものとなる虞が生じる。
【0013】
ポリエチレン樹脂の(b)メルトマスフローレイト(MFR:JIS K6922−2(1997)、条件D(190℃、21.18N)で測定)は、0.1〜5g/10分、好ましくは0.1〜3g/10分である。MFRが0.1g/10分未満では成形加工時の押出性が悪化し、5g/10分を超える場合には機械的強度が低下したり、成形加工時の溶融張力が低下する虞が生じる。
【0014】
ポリエチレン樹脂の(c)分子量分布(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比:Mw/Mn)は、7以上、好ましくは7〜14、より好ましくは8〜13、更に好ましくは9〜12の範囲であることが好ましい。Mw/Mnが7未満であると分子量分布が狭くなるため、電線、電力ケーブルの押出被覆成形性が悪化する虞が生じる。また、分子量分布が7以上では分子量分布が広くなるため、一般に低分子量成分も多くなり、炭素数12以下の炭化水素化合物が多くなりやすいが、本発明のポリエチレン樹脂は当該炭化水素化合物の含有量を規定しているため、特に有機揮発成分が抑制された電線、電力ケーブルを得るのに特徴が出やすい。分子量分布が広すぎて、Mw/Mnが14を超えると低分子量成分が多くなりやすく、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppmを超える虞がある。
【0015】
Mw/Mnが7以上のポリエチレン樹脂を得るためには、イオン重合法によるポリエチレン重合において、分子量分布が広いポリエチレンが重合されるクロム系触媒を用いる方法、クロム系、チーグラー系、またはメタロセン系触媒を用いて二つ以上の重合槽を組み合わせてそれぞれの重合槽で重合するポリエチレンの分子量に差を付け、分子量分布を広げる方法、同様にクロム系触媒を用いて二つ以上の重合槽を組み合わせる方法、分子量、および/または分子量分布の異なる二種以上のポリエチレンを重合後に溶融混練する方法等の公知の方法を用いて製造することができる。
【0016】
ポリエチレン樹脂のMwおよびMnは、ポリエチレン試料をo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mLのBHTを含む)を用いて1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させた後、下記の条件でゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定して求められる。保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。
装置:WATERS社製 GPC(ALC/GPC 150C)
検出器:FOXBORO社製 MIRAN 1A IR検出器(測定波長:3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
移動相溶媒:o−ジクロロベンゼン
測定温度:140℃
流速:1.0ml/分
注入量:0.2ml
標準ポリスチレン:東ソー製、F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000
校正曲線:標準ポリスチレンを、0.5mg/mLとなるようにo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
分子量の換算:分子量への換算に使用する粘度式[η]=K×Mαは、以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10−4 α=0.7
PE:K=3.92×10−4 α=0.733
【0017】
イオン重合法で製造されるポリエチレン樹脂は、圧力5MPa〜100MPa、温度30℃〜200℃でクロム系触媒、チーグラー系触媒、メタロセン系触媒等の存在下、気相重合法、スラリー重合法、溶液重合法等の公知の方法によりエチレンを単独重合させて、またはエチレンに炭素数3〜12のα−オレフィンを共重合させて得る方法、または圧力10MPa以上、好ましくは20〜200MPa、温度125℃以上、好ましくは130〜250℃でメタロセン系触媒の存在下、公知の高圧イオン重合法でエチレンを単独重合させて、またはエチレンに炭素数3〜12のα−オレフィンを共重合させて得る方法等を用いて製造することができる。中でも、前述のようにクロム系触媒、またはチーグラー系触媒を用いて、単独の重合槽、または二つ以上の重合槽を組み合わせて気相重合法、またはスラリー重合法で製造する方法が、分子量分布(Mw/Mn)を7以上に制御するのに有効である。また、特に気相重合法を用いて単独の重合槽で製造する場合には、クロム系触媒を平均粒径が10μm以上50μm未満、好ましくは100μm以上の粒径の含有率が10%未満、より好ましくは20μm未満の粒径の含有率が30%未満であり、更に好ましくは比表面積が50〜1000m/g、細孔直径が50〜500Å、細孔容積が0.5〜3.0cc/gの範囲である無機酸化物多孔体に担持させて、エチレンを単独重合で、またはエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンを共重合して灰分が0.03重量%以下であるポリエチレン樹脂を製造することが、分子量分布を制御し、気相重合における流動床を安定化させ、無機系異物の含有量が削減されたポリエチレン樹脂を得るために好ましく、このようにして気相重合法で得られたポリエチレン樹脂を用いることにより、押出成形性が良く製品外観が良好で、無機系異物を起点とした絶縁破壊やトリー劣化等の電気特性が向上された電線、電力ケーブルを得ることができる。
【0018】
ポリエチレン樹脂材料の(イ)炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量は、50ppm以下、好ましくは30ppm以下、より好ましくは炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が20ppm以下で、かつ炭素数30以下の炭化水素化合物の含有量が200ppm以下、特に好ましくは炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が15ppm以下で、かつ炭素数30以下の炭化水素化合物の含有量が150ppm以下であることが望ましい。
炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppmを超えると、電線、電力ケーブルからの有機揮発成分量が多くなるため、クリーンルーム内で使用される場合には半導体関連製品が有機汚染される虞があり、当該炭化水素化合物の含有量は、50ppm以下、好ましくは30ppm以下、より好ましくは20ppm以下、更に好ましくは15ppm以下で、特に好ましくは10ppm以下、1ppm以下と少ない程好ましいが、分子量分布を持つポリエチレンの低分子量成分を少なくすることは技術的に非常に難しく、かつ本発明ではかなり高温の条件で揮発する炭化水素化合物の量をガスクロマトグラフィーにより定量しているため、主に室温で使用される電線、電力ケーブル用途には、本発明の測定方法による当該炭化水素化合物の含有量が50ppm以下で本発明の効果が得られる。
【0019】
炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppm以下のポリエチレンを得る方法としては、当該ポリエチレン製造時の脱ガス処理工程において、負圧により当該炭化水素化合物を揮発させる方法や処理温度を上げることによって当該炭化水素化合物を揮発させる方法、製造時のペレット化工程において、押出機に設けたベント口から負圧により当該炭化水素化合物を引く方法、重合後のグラニュールまたはペレットを、60℃以上、好ましくは80℃以上の温水中で、さらに好ましくは不活性ガス中で溶存酸素0.5mg/L以下の低酸素濃度雰囲気下、攪拌等により炭化水素化合物を低減する方法、同様にグラニュールまたはペレットを60℃以上、好ましくは80℃以上の空気中、さらに好ましくは不活性ガス中で、炭化水素化合物を揮発させる方法等が挙げられる。
【0020】
ポリエチレン樹脂材料の炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量は、ポリエチレン試料50±5mgを、両端に石英ウール30mgを詰めた加熱追出し管に充填した後、下記の条件で試料中の揮発性炭化水素を加熱追出しして捕集し、ダイナミックヘッドスペース−ガスクロマトグラフィー/マススペクトル(DHS−GC/MS)法で測定して求められる。炭化水素化合物の炭素数の定性、定量は、予め作成しておいたn−エイコサンによる検量線を用いて行う。
(加熱追出し、捕集条件)
装置:GERSTEL社製TDS
加熱条件:150℃(40℃から昇温速度60℃/分)、10分
キャリアガス:ヘリウム、流量50mL/分
捕集温度:−150℃
(GC/MS測定条件)
装置:Agilent社製GC HP6890
Agilent社製Mass Sensitive Detector 5973N(EI)
カラム:DB−5(長さ60m、0.25mm・ID、1.0μm・Df)
測定温度:捕集成分の加熱325℃、10分間
カラム温度300℃(50℃から昇温速度10℃/分)
キャリアガス:ヘリウム、流量1.4mL/分
測定モード:MS(Scan−EI Positive)
測定質量域:m/z14〜500
【0021】
(検量線の作成)
炭化水素化合物の炭素数の定性は、n−ヘプタンを溶媒として炭素数10〜30まで炭素数2毎の脂肪族飽和直鎖炭化水素の約1000μg/mL溶液を調製し、当該溶液1μLを加熱追出し管内で300℃、5分間加熱して捕集後、ポリエチレン試料と同条件でGC/MS測定して得られる保持時間から求めた。
【0022】
炭化水素化合物の含有量の定量は、n−ヘキサンを溶媒として1000μg/mLのn−エイコサン溶液を調製し、当該溶液1μLを加熱追出し管内で300℃、5分間加熱して捕集後、ポリエチレン試料と同条件でGC/MS測定して得られるピーク面積を標準量とし、前記の炭素数10〜30の脂肪族飽和直鎖炭化水素のGC保持時間の範囲に観測されるピーク面積から定量した。
炭素数12以下の炭化水素化合物の保持時間の範囲:15.2分以下
炭素数30以下の炭化水素化合物の保持時間の範囲:46.5分以下
定量質量域:m/z57
揮発成分量:S=(APE−A)/(KC20×wPE) (ppm)
C20=(AC20−A)/wC20
ここで、APEは試料から発生した炭化水素化合物の保持時間内に得られる全てのピーク面積、Aはブランクのピーク面積、KC20はn−エイコサンの重量あたりのピーク面積で、標準n−エイコサンのピーク面積(AC20)とブランクのピーク面積(A)の差を注入したn−エイコサンの重量(wC20、μg)で除した値、およびwPEは測定した試料の重量(g)である。
【0023】
本発明のポリエチレン樹脂は、(ロ)分子量500以下、融点80℃以下の酸化防止剤の含有量が10ppm以下、好ましくは5ppm以下、より好ましくは1ppm以下である。分子量500以下、融点80℃以下の酸化防止剤の含有量が10ppmを超えると、電線、電力ケーブルからの有機揮発成分量が多くなるため、クリーンルーム内で使用される場合には半導体関連製品が有機汚染される虞がある。
また、本発明のポリエチレン樹脂の炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量を50ppm以下に低減するために、前述のようなグラニュールまたはペレットを60℃以上、好ましくは80℃以上の温水、または空気中などで加熱する方法を用いる場合、酸化防止剤が無添加であると熱劣化する虞があるので、分子量500を超え、かつ融点80℃を超える酸化防止剤が少量でも添加されていることが好ましい。
【0024】
具体的な酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が好ましく、例えば、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジ(α−メチルシクロヘキシル)−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)サルファイド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、ペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルフォスファイト、ジステアリル−ペンタエリスリトールジフォスファイト、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(β−ラウリル−チオプロピオネート)エステル等が挙げられ、これらから選ばれる1種または2種以上を本発明のポリエチレン樹脂材料100重量部に対して0.001重量部以上、好ましくは0.001〜1重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部、更に好ましくは0.02〜0.3重量部を含有させることが好ましい。
【0025】
[他のポリオレフィン系樹脂]
本発明のポリエチレン樹脂には、成形性、耐熱性、表面外観、耐ストレスクラック性等の物性を向上させるために、前記のポリエチレン樹脂に他のポリオレフィンを目的に応じて本発明の範囲内で適宜配合することができる。他のポリオレフィンとしては、高圧ラジカル重合法で製造される低密度ポリエチレン(エチレン単独重合体、エチレン・炭素数3〜10のα−オレフィン(例えば、プロピレン等)共重合体)、エチレンとビニルエステル(例えば、酢酸ビニル等)、α,β−不飽和カルボン酸またはその誘導体(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−n−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等)、酸無水物(例えば、無水マレイン酸等)、ビニルシラン(例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等)、ブタジエン、ジビニルベンゼン、ペンタジエン等との二元以上のランダム、ブロック、ないしはグラフト共重合体、およびこれらの混合物、メタロセン系触媒を用いて製造される密度0.88〜0.92g/cmの低密度ポリエチレン(エチレン・α−オレフィン共重合体)、ポリプロピレン等が挙げられる。これら他のポリオレフィンの配合量は、ポリエチレン樹脂60質量%以上に対して40質量%以下、好ましくはポリエチレン樹脂98〜70質量%に対して2〜30質量%、より好ましくはポリエチレン樹脂95〜80質量%に対して5〜20質量%の範囲で配合されることが好ましい。
【0026】
本発明の電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂材料を電線の絶縁層および/または被覆層として用いる場合においては、ポリエチレン樹脂のまま、もしくは架橋体として用いることができる。具体的な架橋方法としては電子線架橋方法、有機過酸化物架橋方法、水架橋方法等が上げられるが、これらの中でも水架橋方法が、均一な架橋と後架橋が可能であること、設備費が安価であること等から最も好ましい。
【0027】
[水架橋性ポリエチレン樹脂組成物]
本発明の水架橋性電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂組成物は、電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂材料に、不飽和アルコキシシラン化合物、有機過酸化物および所望によりシラノール縮合触媒を配合してなる水架橋性電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂組成物である。
また、他の水架橋性電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂組成物の態様は、電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂材料に、不飽和アルコキシシラン化合物、有機過酸化物および所望によりシラノール縮合触媒を配合してなる水架橋性電線、電力ケーブル用ポリエチレン組成物を有機過酸化物の分解温度以上に上げて製造される水架橋性電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂組成物である。
これらの組成物においても上記(イ)および(ロ)の性状を満足することが肝要である。
【0028】
[シラン架橋方法]
水架橋方法としては、不飽和アルコキシシラン化合物、有機過酸化物を当該ポリエチレンと共に有機過酸化物の分解温度以上の温度で押出成形して、不飽和アルコキシシラングラフトポリエチレン組成物を得た後、別にシラノール縮合触媒と当該ポリエチレンと混合させた後押出成形して混練したシラノール縮合触媒を含むポリエチレン組成物とを、電線、電力電線、電力ケーブルの被覆成形時に適当に混合してケーブル製品を得る方法(2工程Sioplas法)、不飽和アルコキシシラン化合物、有機過酸化物、シラノール縮合触媒、当該ポリエチレンを同時に混合させた組成物とした後、有機過酸化物の分解温度以上の温度で電線、電力電線、電力ケーブルを被覆成形してケーブル製品を得る方法(1工程Monosil法)等がある。
水架橋方法では、不飽和アルコキシシラン化合物、有機過酸化物、シラノール縮合触媒および酸化防止剤等が混合されたポリエチレン組成物を被覆成形して得た電線、電力ケーブルを、その後空気中、熱水中または水蒸気中の水により経時で架橋することを特徴とするが、60℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上の熱水、または水蒸気中で架橋処理することが、電線、電力ケーブルからの揮発性有機化合物を同時に低減する方法として好ましい。
また、水架橋方法は、上記の水架橋性電線、電力ケーブル用ポリエチレン組成物を用いて、有機過酸化物の分解温度以上に上げて製造されるものであれば混合方法等は特に限定されず、例えば、事前に不飽和アルコキシシラン化合物、有機過酸化物、当該ポリエチレンを混合させた後押出機に投入し、その後サイドフィーダーでシラノール縮合触媒と当該ポリエチレンの混合物を投入し同一押出機で成形する方法、不飽和アルコキシシラン化合物、有機過酸化物、当該ポリエチレンを混合させた後押出機に投入し、不飽和アルコキシシラングラフトポリエチレン組成物を得た後、続いて当該組成物を、シラノール触媒と当該ポリエチレンの混合物と共に第二の押出機を用いて溶融混練・成形する方法、当該ポリエチレンを押出機に投入後、不飽和アルコキシシラン化合物、有機過酸化物、シラノール縮合触媒を混合したものまたはそれぞれを、サイドフィーダーで供給し同一押出機で溶融混練・成形する方法、不飽和アルコキシシラン化合物、有機過酸化物、シラノール縮合触媒を分散させるために、当該ポリエチレンをあらかじめ粉砕機などによって粉粒状として使用する方法等、公知の水架橋方法が使用できる。
また、水架橋の際には、酸化防止剤、メヤニ防止剤等の公知の添加剤を混合させることにより、当該電線、電力ケーブルの熱老化性や成形加工性を向上させることができる。
【0029】
[不飽和アルコキシシラン化合物]
本発明で使用する不飽和アルコキシシラン化合物としては、以下のものが挙げられる:γ−メタアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス−(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、ジアリルジメトキシシラン、アリルフェニルジエトキシシラン、メトキシビニルジフェニルシラン、ドデセニルジプロポキシシラン、ジデセニルジメトキシシラン、ジドデセニルメトキシシラン、シクロヘキセニルトリメトキシシラン、ヘキセニルヘキソキシジメトキシシラン、ビニル−トリ−n−ブトキシシラン、ヘキセニル−トリ−n−ブトキシシラン、ビニル−トリス(n−ブトキシ)シラン、ビニル−トリス(n−ペントキシ)シラン、ビニル−トリス(n−ヘキソキシ)シラン、ビニル−トリス(n−ヘプトキシ)シラン、ビニル−トリス(n−オクトキシ)シラン、ビニル−トリス(n−ドデシルオキソ)シラン、ビニル−ビス(n−ブトキシ)メチルシラン、ビニル−ビス(n−ペントキシ)メチルシラン、ビニル−ビス(n−ヘキソキシ)メチルシラン、ビニル−(n−ブトキシ)ジメチルシラン、ビニル−(n−ペントキシ)ジメチルシラン、アリルジペントキシシラン、ブテニルジデコキシシラン、デセニルジデコキシシラン、ドデセニルトリオクトキシシラン、ヘプテニルトリヘプキシシラン、アリルトリプロポキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、ジアリル−ジ−n−ブトキシシラン、ペンテニルトリプロポキシシラン、アリル−ジ−n−ブトキシシラン、第二ブテニルトリエトキシシラン、β−メタクリルオキシエチル−トリス(n−ブトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(n−ドデシル)シラン。なお、不飽和アルコキシシランは当該ポリエチレン100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜3重量部配合される。
【0030】
[有機過酸化物]
本発明で使用する有機過酸化物としては、グラフト反応条件下でポリオレフィン系樹脂に遊離ラジカル部位を生成することができ、反応温度において6分より短い半減期、好ましくは1分よりも短い半減期を有する任意の化合物を使用でき、代表的なものとしては、ジクミルパーオキサイド、ジ−第三ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジ(ペルオキシベンゾエート)ヘキシン−3等が挙げられる。有機過酸化物は当該ポリエチレン100重量部に対して0.01〜0.75重量部、好ましくは0.02〜0.3重量部配合される。
【0031】
[シラノール縮合触媒]
本発明で使用するシラノール縮合触媒としては、シリコーンのシラノール間の脱水縮合を促進する触媒として使用されるものであり、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオリテート、酢酸第一錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、カプリル酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸鉄、チタン酸エステル、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ビス(アセチルアセトニトリル)ジ−イソプロピルチタン−エチルアミン、ヘキシルアミン、ジブチルアミン、ピリジン等が挙げられる。シラノール縮合触媒の配合量は、当該ポリエチレン100重量部に対して0.001〜10重量部程度であり、0.05〜5重量部が好ましい。
【0032】
本発明の組成物には、用途に応じてポリエチレンに一般的に使用されている酸化防止剤、スリップ剤、中和剤、耐光剤、紫外線吸収剤、メヤニ防止剤、銅害防止剤、帯電防止剤、着色顔料、充填剤、金属水和物、難燃剤等を適宜混合することが出来る。
【0033】
[電線、電力ケーブル]
(1)本発明の電線、電力ケーブルとは、前記のポリエチレンを用いて絶縁層および/または被覆層に用いたことを特徴とする電線、電力電線、電力ケーブルである。
(2)他の電線、電力ケーブルの態様は、前記の水架橋性電線、電力ケーブル用ポリエチレン組成物を絶縁層および/または被覆層に用いて、水架橋したことを特徴とする電線、電力ケーブルである。
(3)さらに、第3の電線、電力ケーブルの態様は、前記のポリエチレンまたは水架橋電線、電力ケーブル用ポリエチレン組成物を絶縁層とし、前記のポリエチレンを最外層とする電線、電力ケーブル(以下、単にケーブルと称す)である。
本発明のケーブルは、上記の本発明のポリエチレンを用いたケーブルであれば、特に限定されず(1)と(2)のケーブルを組み合わせたものでもよいし、該絶縁層を介して、半導電層等が設けられていても良い。例えば絶縁層を架橋体のポリエチレンとし、被覆層を未架橋体としたケーブル、また逆に絶縁層を未架橋体のポリエチレンとし、被覆層を架橋体としたケーブル等が挙げられる。
また、本発明のケーブルは、例えば通常のポリエチレンを絶縁層に用い、被覆層にのみ密度の高い当該ポリエチレン樹脂材料を用いることにより、ケーブル内部から有機揮発成分が揮散するのを被覆層で妨げる等のケーブル構造体として用いることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下実施例によりさらに詳述する。
なお、実施例および比較例で用いた低密度ポリエチレン樹脂の性状は、以下の通りである。
LLDPE1:クロム系触媒により気相重合法で製造された、密度0.922g/cm、MFR0.6g/10分、Mw/Mn10.0、分子量500以下、融点80℃以下のフェノール系酸化防止剤を含まない直鎖状低密度ポリエチレン(エチレン・1−ブテン共重合体)。
LLDPE2:LLDPE1、70重量%に、高圧ラジカル重合法で製造された、密度0.920g/cm、MFR0.5g/10分の低密度ポリエチレン30重量%を混合し、口径50mmの単軸押出機を用いて回転数50rpm、温度210℃で溶融混練した後冷却、ペレット化して得られた、密度0.921g/cm、MFR0.5g/10分、Mw/Mn8.9、分子量500以下、融点80℃以下のフェノール系酸化防止剤を含まない低密度ポリエチレン樹脂組成物。
HDPE1:チーグラー系触媒により二つの重合槽を用いてスラリー重合法で製造された、密度0.945g/cm、MFR1.0g/10分、Mw/Mn11.2、分子量500以下、融点80℃以下のフェノール系酸化防止剤を含まない高密度ポリエチレン(エチレン・1−ブテン共重合体)。
HDPE2:クロム系触媒によりスラリー重合法で製造された、密度0.945g/cm、MFR0.9g/10分、Mw/Mn7.1、分子量500以下、融点80℃以下のフェノール系酸化防止剤を含まない高密度ポリエチレン(エチレン・1−ブテン共重合体)。
HDPE3:チーグラー系触媒により一つの重合槽を用いてスラリー重合法で製造された、密度0.959g/cm、MFR0.5g/10分、Mw/Mn4.1、分子量500以下、融点80℃以下のフェノール系酸化防止剤を含まない高密度ポリエチレン(エチレン・プロピレン共重合体)。
また、ポリエチレンを用いた被覆電線の成形は、下記の条件で実施した。
成形機:日本製鋼所製、電線被覆成形機
押出機:口径50mm、単軸押出機、スクリューL/D22
ダイス:ダイス出口外径1.2mm
成形温度:220〜240℃
スクリュー回転数:15〜20rpm
引取速度:50m/分
冷却:水槽温度30℃
電線形状:銅芯線直径0.9mm、被覆電線直径1.5〜1.6mm
【実施例1】
【0035】
LLDPE1、10kgを85℃のギアーオーブン中で空気中24時間加熱処理し、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が11ppmの電線、電力ケーブル用直鎖状低密度ポリエチレン樹脂材料を得た。
得られた直鎖状低密度ポリエチレン樹脂材料を用いて電線被覆成形を行い、約50mの被覆電線を得た。得られた被覆電線の表面外観は良好であった。得られた被覆電線からポリエチレン被覆層のみを切り出し、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量を測定した。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0036】
HDPE1、10kgを、実施例1と同様にして加熱処理し、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が12ppmの電線、電力ケーブル用高密度ポリエチレン樹脂材料を得た。
得られた高密度ポリエチレン樹脂材料を用いて実施例1と同様にして被覆電線を得た。得られた被覆電線の表面外観は良好であった。得られた被覆電線からポリエチレン被覆層のみを切り出し、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量を測定した。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0037】
HDPE2、10kgを、実施例1と同様にして加熱処理し、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が2ppmの電線、電力ケーブル用高密度ポリエチレン樹脂材料を得た。
得られた高密度ポリエチレン樹脂材料を用いて実施例1と同様にして被覆電線を得た。得られた被覆電線の表面外観は良好であった。得られた被覆電線からポリエチレン被覆層のみを切り出し、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量を測定した。結果を表1に示す。
【実施例4】
【0038】
LLDPE2、10kgを、実施例1と同様にして加熱処理し、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が16ppmの電線、電力ケーブル用低密度ポリエチレン樹脂材料を得た。
得られた低密度ポリエチレン樹脂材料を用いて実施例1と同様にして被覆電線を得た。得られた被覆電線の表面外観は良好であった。得られた被覆電線からポリエチレン被覆層のみを切り出し、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量を測定した。結果を表1に示す。
[比較例1]
【0039】
実施例1で、LDPE1を加熱処理せず、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が75ppmの低密度ポリエチレン樹脂材料を用いて電線被覆成形を行い、実施例1と同様にして被覆電線を得た。得られた被覆電線の表面外観は良好であった。得られた被覆電線からポリエチレン被覆層のみを切り出し、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量を測定した。結果を表1に示す。
[比較例2]
【0040】
実施例2で、HDPE1を加熱処理せず、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が63ppmの高密度ポリエチレン樹脂材料を用いて電線被覆成形を行い、実施例1と同様にして被覆電線を得た。得られた被覆電線の表面外観は良好であった。得られた被覆電線からポリエチレン被覆層のみを切り出し、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量を測定した。結果を表1に示す。
[比較例3]
【0041】
HDPE1、10kg、密度0.945g/cm、MFR1.0g/10分の高密度ポリエチレングラニュール2kg、および分子量221、融点70℃のフェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)6gを、スーパーミキサーを用いて2分間混合し、口径50mmの単軸押出機を用いて回転数50rpm、温度230℃で溶融混練した後冷却、ペレット化し、密度0.945g/cm、MFR0.9g/10分、Mw/Mn12.1の高密度ポリエチレン(HDPE4)10kgを得た。
HDPE4、10kgを加熱処理せず、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が48ppmの高密度ポリエチレン樹脂材料を用いて実施例1と同様にして被覆電線を得た。得られた被覆電線の表面外観は良好であった。得られた被覆電線からポリエチレン被覆層のみを切り出し、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量を測定した。結果を表1に示す。
また、炭素数12以下の炭化水素化合物の測定と同様の方法で求めた分子量が500以下、融点が80℃以下のフェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)の含有量の測定結果を表1に示す。当該酸化防止剤の定量は、前記炭化水素化合物の測定方法において、定量質量域m/z57ではなくトータルイオンクロマトグラムを用い、あらかじめ求めた当該酸化防止剤のピークである保持時間20.0min付近に認められるピーク強度を用い、前記炭化水素化合物の測定と同様にn−エイコサン換算で求めた。
[比較例4]
【0042】
HDPE3、10kgを加熱処理せず、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が12ppmの高密度ポリエチレン樹脂材料を用いて実施例1と同様にして被覆電線を得た。得られた被覆電線の表面外観は、メルトフラクチャーにより表面平滑性が著しく劣っていた。得られた被覆電線からポリエチレン被覆層のみを切り出し、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
[評価結果]
実施例1〜4は、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppm以下のため、電線被覆した後も被覆層からの揮発性炭化水素化合物の揮発量は低い。
比較例1、2は、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppmを超えるため、電線被覆した後の被覆層からの揮発性炭化水素化合物の揮発量が多い。
比較例3は、炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppm以下であるものの、分子量500以下、融点80℃以下の酸化防止剤が10ppmを超えるため、電線被覆した後も被覆層からの揮発性成分として酸化防止剤が検出される。
比較例4は、Mw/Mnが小さいため成形性が劣り、被覆電線の表面外観も悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン重合法で製造される(a)密度0.91g/cm〜0.97g/cm、(b)メルトマスフローレイト(MFR)0.1g/10分〜5g/10分、(c)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が7以上のポリエチレン樹脂100〜60質量%と他のポリオレフィン樹脂0〜40質量%からなり、かつ(イ)炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppm以下、および/または(ロ)分子量500以下、融点80℃以下の酸化防止剤の含有量が10ppm以下の性状を満足することを特徴とする電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂材料。
【請求項2】
イオン重合法で製造される(a)密度0.91g/cm〜0.97g/cm、(b)メルトマスフローレイト(MFR)0.1g/10分〜5g/10分、(c)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が7以上のポリエチレン樹脂100〜60質量%と他のポリオレフィン樹脂0〜40質量%からなるポリエチレン樹脂材料に、不飽和アルコキシシラン化合物、有機過酸化物および所望によりシラノール縮合触媒を配合してなり、かつ(イ)炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppm以下、および/または(ロ)分子量500以下、融点80℃以下の酸化防止剤の含有量が10ppm以下の性状を満足することを特徴とする水架橋性電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂組成物。
【請求項3】
イオン重合法で製造される(a)密度0.91g/cm〜0.97g/cm、(b)メルトマスフローレイト(MFR)0.1g/10分〜5g/10分、(c)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が7以上のポリエチレン樹脂100〜60質量%と他のポリオレフィン樹脂0〜40質量%からなるポリエチレン樹脂材料に、不飽和アルコキシシラン化合物、有機過酸化物および所望によりシラノール縮合触媒を配合してなるポリエチレン樹脂組成物を有機過酸化物の分解温度以上に上げて製造されてなり、かつ(イ)炭素数12以下の炭化水素化合物の含有量が50ppm以下、および/または(ロ)分子量500以下、融点80℃以下の酸化防止剤の含有量が10ppm以下の性状を満足することを特徴とする水架橋性電線、電力ケーブル用ポリエチレン樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエチレン樹脂材料またはポリエチレン樹脂組成物を絶縁層および/または被覆層に用いたことを特徴とする電線、電力ケーブル。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエチレン樹脂材料またはポリエチレン樹脂組成物を絶縁層とし、請求項1に記載のポリエチレン樹脂材料を最外層とすることを特徴とする電線、電力ケーブル。


【公開番号】特開2006−185626(P2006−185626A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−374670(P2004−374670)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【Fターム(参考)】