説明

電解めっき方法及び電解めっき装置

【課題】 各基板毎にめっき電流が正常に流れたかどうかを検知して、正常な電流が流れなかったために所定のめっき厚となっていない可能性の高い基板を除外できるようにする電解めっき装置を提供する。
【解決手段】 プッシュバー方式による電解めっき装置によりプリント基板3へのめっきを行うに際し、各基板がめっきされつつある時に、各基板毎にそのラック1に流れているカソード電流値を計測するとともに、各基板毎の使用されているラック識別番号及び各基板毎の使用さえているめっき治具識別番号を読み取り、これら計測結果と読み取り結果をコンピュータ10に入力し、まためっき完了後に、各ラック1のカソード電流の積算値が予めコンピュータ10に設定値として入力してある設定範囲になっているかどうかを確認できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板等の製造における電解めっき方法及び電解めっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント基板等、電子部品や半導体を搭載する基板は近年配線ピッチが微細化され、これに伴い品質レベルの向上が求められている。特に半導体との電気接続部を持つ基板の場合は、銅配線ピッチの微細化が求められている。銅配線は一般にはサブトラクティブ法、すなわち銅をエッチングする方法で形成される。
【0003】
銅めっきによる層間接続を有する多層プリント基板においては、最外層の銅の厚さは層間接続の銅めっき厚さの基板内のバラツキの影響を受ける。銅めっき厚が基板内でバラツクと、エッチングで形成された配線の太さもバラツクので、微細な配線パターンを形成するためには、銅めっき厚の面内バラツキや基板間のバラツキを低減することが重要である。
【0004】
基板内バラツキの低減のためには、各基板にめっき厚を均一化させる遮蔽板が使用される。そして、基板間のめっき厚のバラツキを低減させるためには、メッキ電流を一定にする方法、すなわち、各アノードの電流を一定にしている。この電流値を記録し、各基板をめっきする時のアノード電流を検証することで、めっきが正常に行われたかどうかを管理することができる。プリント基板においては、量産性を確保するために、多数の基板を連続処理するための、プッシュバー式の電解めっき装置が使用されており、この例としては特許文献1がある。
【特許文献1】特許第2941902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、同一めっき槽に複数の基板と複数のアノードが設置されているプッシュ式めっき装置の場合は、各アノード電流を制御しても問題が発生する。すなわち、同一めっき槽内の一組の「ラック−めっき治具−被めっき基板」間の電気的な接触が不十分である場合、アノード側電流が一定であっても、その接触不十分な基板へのカソード電流が減少する。なぜならば、アノード電流は他の正常な基板側へ流れてしまうからである。その結果、カソード電流が減少することにより接触が不十分であった基板のめっき厚が所定の厚さとならない。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、カソード電流の電流値を各基板毎に計測し、各基板のめっき電流が正常に流れたかどうかを検知して、正常な電流が流れなかった基板を除外できるようにした電解めっき装置及び電解めっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明による電解めっき方法は、プッシュバー方式による電解めっき装置によりプリント基板へのめっきを行うに際し、各基板がめっきされつつある時に、各基板毎にそのラックに流れているカソード電流値を計測するとともに、各基板毎の使用されているラック識別番号及び各基板毎の使用さえているめっき治具識別番号を読み取り、これら計測結果と読み取り結果をコンピュータに入力して記録するようにしたものである。
【0008】
また、上記発明に加えめっき完了後に、各ラックのカソード電流の積算値が予めコンピュータに設定値として入力してある設定範囲になっているかどうかを確認できるようにしたものである。
【0009】
さらに、上記発明に加え各ラックにおけるめっき電流値は各ラックに取り付けられた電流計で計測し、この電流値を各ラックに取り付けられた送信機で無線送信し、送信された電流値を受信装置で受信し、受信装置で受信したデータを各基板のめっき電流値としてコンピュータに記録するようにしたものである。
【0010】
さらにまた、上記発明に加えめっき投入部において、各めっき治具に付された識別番号及び各ラックに付された識別番号を画像読取り装置で読み取り、各基板で使用されためっき治具識別番号及びラック識別番号をコンピュータに入力して記録し、その後ラックを移動して基板をめっき槽に投入するようにしたものである。
【0011】
また本発明による電解めっき装置は上記目的を達成するために、プッシュバー方式によるプリント基板へのパネルめっき装置であって、各基板がめっきされつつある時のそのラックに流れているカソード電流を計測する電流計、並びに使用されているラック識別番号及び使用されているめっき治具識別番号を読み取る読み取り装置を備えているとともに、カソード電流の計測結果と読み取り装置による読み取り情報を入力して各ラック毎にカソード電流の積算値を記録するためのコンピュータを備えたものである。
【0012】
さらに、上記発明に加えコンピュータにカソード電流の正常な積算値を設定できるようにし、各ラック毎にカソード電流の積算値が設定範囲内であるか否かを表示するようにしたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、各基板のめっき電流が正常に流れたかどうかを検知して、正常な電流が流れなかった基板を識別して除外することができる電解めっき方法及び電解めっき装置を提供することが可能となる。なお、本発明の電解めっき方法は既存のめっき設備に電流計と読み取り装置及びこれらの結果を処理するコンピュータを追加設備することによっても実施することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態を、図示した実施例によって説明する。本発明の電解めっき装置は、めっき設備としては一般的なプッシュバー方式でありラック1、めっき治具2、被めっき基板となるプリント基板3、アノード4、カソードレール5及びめっき用電源6からなる。そして本発明では、これらに各ラック1に設置された電流計7、電流計7からの無線データを取得する受信装置8、めっき治具2の識別番号及び(又は)ラック1の識別番号を読み取る読み取り装置9、それとこれらからのデータを収集し、各基板ごとの情報として蓄積するコンピュータ10が付加されている。なお、11はめっき槽であり、12はめっき槽11の手前側に位置するめっき装置投入部である。
【0015】
また、ラック1とめっき治具2には、それぞれそれらを特定するための固有の識別番号となるバーコードを貼付しておく。ラック1の識別番号とめっき治具2の識別番号のどちらか一方を被めっき基板となるプリント基板3と関連付ければその時のプリント基板3は特定できることになるが、よりこのプリント基板3の特定を容易に行うためには、ラック1の識別番号とめっき治具2の識別番号の両者をその時のプリント基板3と関連させてコンピュータ10に記録できるようにしておくことが望ましい。
【実施例1】
【0016】
まず、本発明の電解めっき装置の一実施例を図1に基いて述べる。図1は本発明の電解めっき装置の構成を示す説明図である。プッシュバー方式の電解めっき装置は、めっき槽11並びにラック1、めっき治具2、被めっき基板となるプリント基板3、アノード4、カソードレール5及びめっき用電源6から構成されている。これら基本的な部分においては従来から使用されているものと同じである。
【0017】
各ラック1にはそのラック1の電流値を計測するための電流計7が取り付けてある。電流計7は例えば、ホール素子による検知式の直流電流センサーと、このセンサーから出力される直流電圧を無線送信する送信機からなる。本実施例では、電流センサーを通常のラックの電流が流れる部分に外付けすることができるホールセンサーを使用している直流電流センサー(株式会社ユーアールディー製 型式HCS−AP−CL)を使用したが、他の方法、例えば低抵抗のシャント抵抗をラックに直列に入れる方式でもよい。ただしこの場合は、シャント抵抗をつけるためにラックを専用に作成する必要がある。いずれの電流測定方法を採用するにしても、要はラック1の電流値が計測できればよいのである。ラック1の電流値を計測することにより、対応するプリント基板3に流れた電流値を知ることができるからである。
【0018】
電流計7で計測した電流値を無線で受信装置9に送信する装置は本実施例では、RVR71(株式会社テイアンドデイ製)を使用した。送信は任意の指定間隔で行えるが、例えば10秒間隔で送信する。各ラック1からの電流値データは、共通の一台の受信装置8で受信する。めっき治具2の識別番号及びラック1の識別番号の取得をするための読み取り装置9は、それぞれに貼り付けたバーコードを、めっき装置投入部12に設置されているバーコードリーダーで読み取る。なおバーコード等のデータコードを使用しない他の方法としては、めっき治具2とラック1に記載された番号、例えば、1,2,3,・・を、CCDで取り込み、画像処理にて識別番号を認識させる方法もある。なお、この読み取り結果は、読み取り装置9から受信装置8に無線で送信しても、あるいはコンピュータ10に直接入力するようにしてもよい。
【0019】
そして、各ラック1の識別番号とともに受信装置8で受信したそのラック1の電流値データは逐次コンピュータ10に入力し記録するようにしてある。また、コンピュータ10ではカソード電流値についての所定値を設定をすることができ、記録された各ラック毎の電流値がその設定範囲内であるか否かを判断し、画面表示やプリントアウトすることにより各基板毎にその結果がわかるようにしてある。
【実施例2】
【0020】
次に、上記した本発明の電解めっき装置を使用して本発明の電解めっき方法について以下に説明する。
まず、各ラック1と各めっき治具2にそれぞれそれらを特定するための固有の識別番号となるバーコードを貼付しておく。ついで、めっき治具2に被めっき基板となるプリント基板3をセットする。なおプリント基板3には識別番号は不要である。プリント基板3はそれに使用したラック1とめっき治具2を特定することによりわかるからである。そしてカソードレール5に沿ってラック1を矢印方向へ移動させる。
【0021】
めっき装置投入部12において、めっき治具2に記載された識別番号及び各ラック1に記載された識別番号を画像読取り装置9で読み取る。そしてめっき治具2の識別番号及びラック1の識別番号を受信装置8に無線送信し、受信結果をコンピュータ10に入力して記録する。これにより、そのラック1により移動してくるめっき治具2が特定され、結果としてプリント基板3も特定されることになる。なお、識別番号の読み取り結果は読み取り装置9からコンピュータに直接入力してもよい。
【0022】
ついで、ラック1を移動させてプリント基板3をめっき槽11に投入してめっき処理を行う。この時、各ラック1毎に一定時間間隔で(例えば10秒毎に)その時のカソード電流値とラック1の識別番号を受信装置8に無線送信する。受信装置8ではこのデータをコンピュータ10に逐次入力する。その結果、コンピュータ10には各プリント基板3毎に、使用されたラック1の識別番号、使用されためっき治具2の識別番号、めっき中の各時刻でのカソード電流値が記録される。
【0023】
そして、各プリント基板3毎にカソード電流の積算値をコンピュータ10により計算する。この積算値をコンピュータ10に予め設定してある正常な積算値の範囲とをコンピュータ10により比較し、その結果を画面に表示する。または、一覧表のような形でプリントアウトして表示するようにしてもよい。いずれにしても各プリント基板3のカソード電流の積算値とそのプリント基板3に使用しためっき治具2が特定できればよいのである。これにより各プリント基板3のカソード電流の積算値がわかり、またカソード電流の積算値が設定範囲外であるプリント基板3もわかることになる。そして、設定範囲外であることが表示されたプリント基板3をめっき終了後に除くことによりめっき不良の基板を除外することができる。
【実施例3】
【0024】
本発明の電解めっき装置を用い本発明の電解めっき方法によりプリント基板に銅めっきした場合、異常検知が可能であるかを確認するために以下の実験を行った。
【0025】
実験試料として、めっき治具の電気接続部のネジを緩めて接触抵抗が大きくなる状態にした異常めっき治具を用意した。この異常めっき治具を他の正常なめっき治具に混ぜて、プリント基板30枚をすべて、同一アノードめっき電流の設定でめっきを行った。実験後に各めっき治具のカソード電流の積算値を検証したところ、予め設定範囲として設定した電流の積算値の範囲外であると検知されためっき治具の識別番号は、予め実験試料として用意した異常めっき治具の識別番号と一致した。
【0026】
一方、各基板毎に集計されているアノード側に流れる電流値を確認したところ、この値には異常はなかった。すなわち、従来方法のアノード電流記録では見つからなかった、めっき電流異常が、本発明では検知することができたのである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の電解めっき装置及び電解めっき方法は、プリント配線基板等の製造における電解めっき装置に限らず、プッシュバー方式の電解めっきであれば各種のめっき対象について適用可能であり、その適用範囲は極めて広いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の電解めっき装置の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 ラック
2 めっき治具
3 プリント基板
4 アノード
5 カソードレール
6 めっき電源
7 電流計
8 受信装置
9 読み取り装置
10 コンピュータ
11 めっき槽
12 めっき装置投入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プッシュバー方式による電解めっき装置によりプリント基板へのめっきを行うに際し、各基板がめっきされつつある時に、各基板毎にそのラックに流れているカソード電流値を計測するとともに、各基板毎の使用されているラック識別番号及び各基板毎の使用されているめっき治具識別番号を読み取り、これら計測結果と読み取り結果をコンピュータに入力して記録するようにしたことを特徴とする電解めっき方法。
【請求項2】
めっき完了後に、各ラックのカソード電流の積算値が予めコンピュータに設定値として入力してある設定範囲になっているかどうかを確認できるようにした請求項1に記載の電解めっき方法。
【請求項3】
各ラックにおけるめっき電流値は各ラックに取り付けられた電流計で計測し、この電流値を各ラックに取り付けられた送信機で無線送信し、送信された電流値を受信装置で受信し、受信装置で受信したデータを各基板のめっき電流値としてコンピュータに記録するようにした請求項1又は2に記載の電解めっき方法。
【請求項4】
めっき投入部において、各めっき治具に付された識別番号及び各ラックに付された識別番号を画像読取り装置で読み取り、各基板で使用されためっき治具識別番号及びラック識別番号をコンピュータに入力して記録し、その後ラックを移動して基板をめっき槽に投入するようにした請求項1乃至3の何れかに記載の電解めっき方法。
【請求項5】
プッシュバー方式によるプリント基板へのパネルめっき装置であって、各基板がめっきされつつある時のそのラックに流れているカソード電流を計測する電流計、並びに使用されているラック識別番号及び使用されているめっき治具識別番号を読み取る読み取り装置を備えているとともに、カソード電流の計測結果と読み取り装置による読み取り情報を入力して各ラック毎にカソード電流の積算値を記録するためのコンピュータを備えたことを特徴とする電解めっき装置。
【請求項6】
コンピュータにカソード電流の正常な積算値を設定できるようにし、各ラック毎にカソード電流の積算値が設定範囲内であるか否かを表示するようにした請求項5に記載の電解めっき装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−150639(P2008−150639A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336902(P2006−336902)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(593215380)株式会社伸光製作所 (15)
【Fターム(参考)】