説明

電解質組成物および電池

【課題】 リチウム析出溶解効率及びイオン伝導性が優れたポリマー電解質組成物よりなるリチウム電池のサイクル性、保存安定性等の電池特性を向上させる事である。
【解決手段】 (1)主鎖がポリオレフィン、ポリシロキサンまたはポリホスファゼンからなり、側鎖がポリエチレンオキシド構造を有するポリマーと、(2)要すれば存在する、低分子量化合物からなる添加剤と、(3)リチウム塩化合物と、(4)不飽和基を有する環状カーボネートからなるポリマー電解質組成物は、リチウム析出溶解効率およびイオン伝導性が優れた電解質組成物であり、不飽和基を有する環状カーボネート(4)が存在することによって、電極と電解質の副反応を抑制することができ、サイクル性、保存安定性等の電池特性の優れた二次電池が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖がポリエチレンオキシド構造を有するポリマーと、要すれば存在する、低分子量化合物からなる添加剤とリチウム塩化合物と不飽和基を有する環状カーボネートを含んでなるポリマー電解質組成物に関し、特に、電池、キャパシター、センサー等の電気化学デバイス用材料として好適な電解質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池、キャパシター、センサーなどの電気化学デバイスを構成する電解質は、イオン伝導性の点から電解液または電解液を含有させてゲル状にしたポリマー電解質が用いられているが、電解液の液漏れによる機器の損傷の恐れがあること、また電解液が正極や負極と反応して、電気化学的特性が低下する等の問題点が指摘されている。これに対し無機結晶性物質、無機ガラス、有機高分子系物質などの固体電解質が提案されている。有機高分子系物質は一般に加工性、成形性に優れ、得られる固体電解質が柔軟性、曲げ加工性を有し、応用されるデバイスの設計の自由度が高くなることなどの点からその進展が期待されている。しかしながら、イオン伝導性の面では他の材質より劣っているのが現状である。
【0003】
エチレンオキシドの単独重合体とアルカリ金属イオン系におけるイオン伝導性の発見より、高分子固体電解質の研究は活発に行われるようになった。その結果、ポリマーマトリックスとしては、その運動性の高さ及び金属カチオンの溶解性の点でポリエチレンオキシドなどのポリエーテルが最も有望と考えられている。イオンの移動はポリマーの結晶部ではなくアモルファス部分で起こることが予測されている。それ以来、ポリエチレンオキシドの結晶性を低下させるために、種々のエポキシドとの共重合が行われてきている。米国特許USP 4,818,644号公報にはエチレンオキシドとメチルグリシジルエーテルとの共重合体からなる固体電解質が示されている。しかしながら、いずれもイオン伝導度は必ずしも満足のいくものではなかった。
【0004】
このため、ジエチレングリコールメチルグリシジルエーテル−エチレンオキシド架橋体に特定のアルカリ金属塩を含有させて高分子固体電解質に応用する試みが特開平 9-324114号公報に提案されているが、実用的に充分な伝導度の値は得られていない。イオン伝導度を更に向上させるために、非プロトン性有機溶媒を含む高分子固体電解質も特開平 11-040153号公報に提案されている。しかし、これらの電解質はリチウム二次電池の電極にリチウム金属を用いた場合、リチウム金属と反応あるいはリチウム金属の表面にデンドライドが析出し、電気化学的特性が著しく低下する。
【特許文献1】米国特許USP 4,818,644号
【特許文献2】特開平9-324114号
【特許文献3】特開平11-040153号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、イオン伝導性および電気化学特性が優れた電解質組成物およびそれを用いた電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は(1)主鎖がポリオレフィン、ポリシロキサンまたはポリホスファゼンからなり、側鎖がポリエチレンオキシド構造を有するポリマーと、(2)要すれば存在する、低分子量化合物からなる添加剤と、(3)リチウム塩化合物と、(4)不飽和基を有する環状カーボネートからなることを特徴とするポリマー電解質組成物を提供する。
また、側鎖がポリエチレンオキシド構造を有するポリマー(1)または低分子量化合物からなる添加剤(2)を架橋して得られるポリマー電解質組成物をも提供する。
【0007】
加えて、本発明は、前記ポリマー電解質組成物を用いた電池をも提供する。
【0008】
本発明のポリマー電解質組成物を用いると、リチウム金属に安定なことより、高性能の電池が得られることも見いだした。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高分子固体電解質は加工性、成形性、機械的強度、柔軟性や耐熱性などに優れており、かつそのリチウム金属への電気化学的特性は著しく改善されている。したがって固体電池をはじめ、高エネルギー密度の電池(特に、二次電池)への応用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
側鎖がポリエチレンオキシド構造を有するポリマー(1)は主鎖が、ポリオレフィン、ポリシロキサン、ポリホスファゼンまたはポリアルキレンカーボネートからなるポリマーであり、側鎖のポリエチレンオキシド構造にはプロピレンオキシドなどのオキシラン化合物との共重合体を有していても良い。側鎖がポリエチレンオキシド構造を有するポリマー(1)が共重合体である場合は、ランダム共重合体の方が好ましい。
【0011】
側鎖がポリエチレンオキシド構造を有するポリマー(1)の主鎖の構成単位の例は、式(iii)(iv)(v)等が挙げられ、ポリマー中に反応性基を有する成分がポリマー中に存在していても良い。
【化1】

【化2】

【化3】

[式中、Rは水素原子またはメチル基、R、R、R11、R15は炭素数1〜6のアルキル基、R、R、R10は炭素数 1〜6のアルキル基又は-CHO-(CHCHO)v-R16であり、R12、R13、R14は炭素数 1〜6のアルキル基又は-O-(CHCHO)w-R17であり、R16、R17は炭素数1〜6のアルキル基であり、m、o、qは1以上の整数、n、p、rは0以上の整数、 x、y、z、v、wは1〜12の整数である。]
【0012】
ポリマー(1)に対して側鎖のエチレンオキシドの量が 10重量%以上である場合に、低温でも電解質塩化合物が溶けやすいために、イオン伝導度が高い。
【0013】
電解質組成物に使われるポリマーの分子量は、良好な加工性、成形性、機械的強度、柔軟性を得るために、重量平均分子量 10〜10の範囲内、好ましくは 10〜10の範囲内のものが適する。
特に分子量が低いポリマー(1)は形状を維持するためにポリマー(1)または添加剤(2)の架橋を行う必要がある。架橋方法はポリマーの開始または停止末端の反応性基を用いて架橋する方法あるいは反応性基を有するモノマーとの共重合によってポリマーに新たに反応性基を導入して架橋する方法などがある。
反応性基が不飽和結合を有する基である共重合体の架橋方法としては、有機過酸化物、アゾ化合物等から選ばれるラジカル開始剤、紫外線、電子線等の活性エネルギー線が用いられる。更には、水素化ケイ素を有する架橋剤を用いる事もできる。
有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル等、通常架橋用途に使用されているものが用いられ、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
アゾ化合物としてはアゾニトリル化合物、アゾアミド化合物、アゾアミジン化合物等、通常架橋用途に使用されているものが用いられ、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチル-N-フェニルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'-アゾビス(2-メチルプロパン)、2,2'-アゾビス[2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられる。
紫外線等の活性エネルギー線照射による架橋においては、増感助剤としてジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、フェニルケトン等のアセトフェノン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等のベンゾインエーテル類、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン等のチオキサントン類、3-スルホニルアジド安息香酸、4-スルホニルアジド安息香酸等のアジド類等を任意に用いることができる。
架橋助剤としてエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、オリゴエチレングリコールジアクリレート、オリゴエチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ジアリルマレート、トリアリルイソシアヌレート、マレイミド、フェニルマレイミド、無水マレイン酸等を任意に用いることができる。
反応性基が水酸基である重合体の架橋方法としてはヘキサメチレンジイソシアネート、2.4-トリレンジイソシアネート、2.6-トリレンジイソシアネート、4.4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、イソボロンジイソシアネートなどのイソシアネート系化合物等を架橋剤として用いることができる。 また、架橋促進剤としては、ジブチルチンアセテート、ジブチルチンジラウレート、トリエチレンジアミン等が挙げられる。
また、この水酸基にアクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸、マレイン酸などの不飽和基を有する化合物と反応させて、ポリマーに不飽和基を導入し、上記記載の反応性基が不飽和結合を有する基の架橋方法で架橋することもできる。
反応性基が反応性ケイ素基である共重合体の架橋方法としては、反応性ケイ素基と水との反応によって架橋できる。反応性を高めるには、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレート等のスズ化合物、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等のチタン化合物、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート等のアルミニウム等のアルミニウム化合物などの有機金属化合物、あるいは、ブチルアミン、オクチルアミン等のアミン系化合物などを触媒として用いても良い。
反応性基がエポキシ基である共重合体の架橋方法においてはポリアミン類、酸無水物類などが用いられる。ポリアミン類としては、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミンなどの脂肪族ポリアミン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、m-フェニレンジアミン、キシリレンジアミンなどの芳香族ポリアミン等が挙げられる。酸無水物類としては、無水マレイン酸、無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラメチレン無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。これらの架橋には促進剤を用いても良く、ポリアミン類の架橋反応にはフェノール、クレゾール、レゾルシンなどがあり、酸無水物類の架橋反応にはベンジルジメチルアミン、2-(ジメチルアミノエチル)フェノール、ジメチルアニリンなどがある。
反応性基がハロゲン原子を含む基である共重合体の架橋方法としては、ポリアミン類、メルカプトイミダゾリン類、メルカプトピリミジン類、チオウレア類、ポリメルカプタン類等の架橋剤が用いられる。ポリアミン類としては、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。メルカプトイミダゾリン類としては2-メルカプトイミダゾリン、4-メチル-2-メルカプトイミダゾリン等が挙げられる。メルカプトピリミジン類としては2-メルカプトピリミジン、4,6-ジメチル-2-メルカプトピリミジン、等が挙げられる。チオウレア類としてはエチレンチオウレア、ジブチルチオウレアなどが挙げられる。ポリメルカプタン類としては2-ジブチルアミノ-4,6-ジメチルカプト-s-トリアジン、2-フェニルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、等が挙げられる。また、高分子固体電解質に更に受酸剤となる金属化合物を添加することは、ハロゲン含有ポリマーの熱安定性の見地から有効である。このような受酸剤となる金属酸化物としては、周期律表第II族金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、亜リン酸塩、周期律表VIa族金属の酸化物、塩基性炭酸塩、塩基性カルボン酸塩、塩基性亜リン酸塩、塩基性亜硫酸塩、三塩基性硫酸塩等がある。具体的な例としては、マグネシア、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、鉛丹、ステアリン酸錫、等を挙げることができる。
【0014】
低分子量化合物からなる添加剤(2)は、例えばリチウム電池における金属リチウム負極と反応しないものであり、可塑剤として作用する。添加剤(2)としては、低分子量のエーテル化合物、低分子量のポリアルキレンカーボネート、低分子量のボロキシン化合物、低分子量のエステル化合物などが挙げられる。電解質組成物に添加剤(2)を入れると、ポリマーの結晶化が抑制されガラス転移温度が低下し、低温でも無定形相が多く形成されるためにイオン伝導度が高くなる。また、添加剤に反応性基を有していても良く、反応性基を有する場合は、架橋反応を行う必要がある。架橋方法はポリマーの架橋方法と同様の方法で架橋することができる。
【0015】
低分子量のエーテル化合物からなる添加剤の例は下記式(vi)および(vii)で表される分岐型エーテル化合物が添加剤として特に好ましい。
【化4】

【化5】

[式中、R18〜R24は炭素数1〜6のアルキル基またはCH=C(R25)CO-基であり、R25は水素原子またはメチル基、a〜gは0〜12の整数である。]
R18〜R24がCH=C(R25)CO-基の場合は、この添加剤を架橋する必要がある。架橋方法は、反応性基が不飽和結合を有する基である共重合体の架橋方法と同様の方法で架橋することができる。
低分子量のポリアルキレンカーボネートの例はポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリイソプロピレンカーボネートなどが挙げられる。重量平均分子量が10〜10の範囲内、特に重量平均分子量が500〜2,000のポリエチレンカーボネートが好ましい。
低分子量のボロキシン化合物からなる添加剤の例は下記式(viii)であらわされる添加剤として好ましい。
【化6】

[式中、R26は炭素数1〜6のアルキル基またはCH=C(R27)CO-基であり、R27は水素原子またはメチル基、hは1〜4の整数、 jは1〜10の整数である。]
R26がCH=C(R27)CO-基の場合は、この添加剤を架橋する必要がある。架橋方法は、反応性基が不飽和結合を有する基である共重合体の架橋方法と同様の方法で架橋することができる。
【0016】
添加剤(2)の配合割合は任意であるが、ポリマー(1)100重量部に対して、0〜5,000重量部、好ましくは 0〜1,000重量部である。
【0017】
本発明において用いられる電解質塩化合物(3)は、ポリマー(1)、添加剤(2)からなる混合物および不飽和基を有する環状カーボネート(4)に可溶であることが好ましい。本発明においては、以下に挙げるリチウム塩化合物が好ましく用いられる。
【0018】
陽イオンのリチウムイオンと、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF、PF、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタンイオン、XSO、[(XSO)(XSO)N]、[(XSO)(XSO)(XSO)C]、及び[(XSO)(XSO)YC]から選ばれた陰イオンとからなる化合物が挙げられる。但し、X、X、X及び Yは電子吸引性基である。好ましくはX、X、及びXは各々独立して炭素数が1から6迄のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアリール基であり、Yはニトロ基、ニトロソ基、カルボニル基、カルボキシル基又はシアノ基である。X、X及びXは各々同一であっても、異なっていてもよい。
【0019】
本発明において、リチウム塩化合物(3)の使用量は、ポリマー(1)100重量部に対して1〜500重量部、好ましくは 3〜200重部の範囲がよい。この値が 500重量部以下にあると、加工性、成形性及び得られた固体電解質の機械的強度や柔軟性が高く、さらにイオン伝導性も高い。
【0020】
電解質組成物を使用する際に難燃性が必要な場合には、難燃剤を使用できる。難燃剤として、臭素化エポキシ化合物、テトラブロムビスフェノールA、塩素化パラフィン等のハロゲン化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステル、ポリリン酸塩、及びホウ酸亜鉛から選択して有効量を添加する。
【0021】
リチウム金属を用いたリチウム二次電池の場合、不飽和基を有する環状カーボネート(4)は負極の金属リチウムと反応して安定な皮膜を形成し、電解質と金属リチウムの反応およびデンドライドの成長を抑制すると考えられる。
本発明において、不飽和基を有する環状カーボネート(4)の例は下記式(i)および(ii)で表される化合物であることが好ましい。
【化7】

[式中、Rは水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基、Rは炭素数が1〜6のアルケニル基または-CHOR2’であり、R2’は炭素数が1〜6のアルケニル基である。]
【化8】

[式中、RおよびRは互いに異なっていて良い、水素原子または炭素数が 1〜6のアルキル基である。]
不飽和基を有する環状カーボネート(4)の使用量は、(1)、(2)及び(3)または(1)及び(3)からなるポリマー電解質化合物 100重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは 5〜80重量部の範囲がよい。最適量は金属リチウムの表面が不飽和基を有する環状カーボネートと反応して、安定な被膜を形成できる量でよい。過剰の不飽和基を有する環状カーボネートが電解質組成物中に存在すると、電気化学的性質が低下する。
不飽和基を有する環状カーボネート(4)の含有方法は電解質化合物を架橋しない場合は、特に制約されない。
しかし、不飽和結合を有するポリマーを用いた(1)、(2)及び(3)または(1)及び(3)からなる電解質化合物を架橋して用いる場合は、不飽和基を有する環状カーボネート(4)は(1)、(2)及び(3)または(1)及び(3)からなる電解質化合物を架橋した後に、含浸する必要がある。(1)、(2)及び(3)または(1)及び(3)からなる電解質塩化合物の架橋前に、不飽和基を有する環状カーボネート(4)を含有後、架橋した場合、電気化学的特性が改善されない。これは、架橋によって、不飽和基を有する環状カーボネート(4)のエチレン性不飽和基が消失していることが考えられる。
【0022】
(1)、(2)及び(3)または(1)及び(3)からなる電解質化合物を架橋して用いる場合は不飽和基を有する環状カーボネート(4)を含浸する方法は特に制約されないが、(1)、(2)及び(3)または(1)及び(3)からなる電解質塩化合物の架橋体に不飽和基を有する環状カーボネート(4)を直接含浸する方法、有機溶媒と混合したものを含浸する方法などがある。
【0023】
リチウム塩化合物(3)および添加剤(2)をポリマー(1)に混合する方法は特に制約されないが、リチウム塩化合物および添加剤を含む有機溶媒にポリマーを長時間浸漬して含浸させる方法、リチウム塩化合物および添加剤をポリマーへ機械的に混合させる方法、ポリマーおよびリチウム塩化合物を添加剤に溶かして混合させる方法あるいはポリマーを一度他の有機溶媒に溶かした後、添加剤を混合させる方法などがある。有機溶媒を使用して製造する場合は、各種の極性溶媒、例えばテトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が単独、或いは混合して用いられる。機械的に混合する手段としては、各種ニーダー類、オープンロール、押出機などを任意に使用できる。
【0024】
本発明で示されたポリマー電解質組成物は流動性がなく、特に、架橋した電解質組成物は機械的強度と柔軟性に優れており、その性質を利用して大面積薄膜形状の固体電解質とすることが容易に得られる。例えば本発明の電解質組成物を用いた電池の作製が可能である。この場合、正極材料としてはリチウム-マンガン複合酸化物、コバルト酸リチウム、五酸化バナジウム、オリビン型リン酸鉄、ポリアセチレン、ポリピレン、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリピロール、ポリフラン、ポリアズレン等がある。負極材料としてはリチウムがグラファイトあるいはカーボンの層間に吸蔵された層間化合物、リチウム金属、リチウム-鉛合金等がある。また高いイオン伝導性を利用してアルカリ金属イオン、Cuイオン、Caイオン、及びMgイオン等の陽イオンのイオン電極の隔膜としての利用も考えられる。本発明の電解質組成物は特に電池、キャパシター、センサー等の電気化学デバイス用材料として好適である。
【0025】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0026】
(測定)
ポリマーの分子量測定にはゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定を行い、標準ポリスチレン換算により分子量を算出した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定は(株)島津製作所の測定装置 RID-6A、昭和電工(株)製カラムのショウデックスKD-807、KD-806、KD-806M 及び KD-803、及び溶媒ジメチルホルムアミド(DMF)を用いて 60℃で行った。ガラス転移温度はセイコー電子工業(株)製 DSC 220 を用い、融解熱量はパーキンエルマー社製示差走査熱量計 DSC 7 を用い、窒素雰囲気中、温度範囲 -100〜80℃、昇温速度 10℃/minで測定した。イオン伝導度σを測定するためにサンプルを事前に 30℃、12 時間真空乾燥を行った。導電率の測定は 35℃で行い、電解質を SUS製の電極ではさみ、電圧 30mV、周波数範囲 10Hz〜10MHzの交流法を用い、複素インピーダンス法により算出した。
電池系でのリチウム金属との安定性評価には、リチウム析出溶解効率試験により求めた。リチウム析出溶解効率試験には(株)ナガノ製充放電試験器 BTS-2004Wを用いた。銅箔と対極に金属リチウムを用い、両極間にポリマー電解質組成物を挟んで試験セルを作製した。25℃で電流密度 0.1mA/cm2で 10時間 Li を析出後、電流密度 0.1mA/cm2で終止電圧 2.0Vまで Liの溶解を行った。リチウム析出溶解効率は以下の式より求めた。
リチウム析出溶解効率(%)=(20サイクル目の溶解に要した時間/20サイクル目の析出に要した時間)×100
【0027】
(ポリマーの製造例)
内容量3Lのガラス製4つ口フラスコの内部を窒素置換し、これに開始剤としてベンゾイルパーオキサイド2gとメタクリル酸化合物PME-100(日本油脂株式会社製)100g、及び溶媒としてトルエン 1,000g を仕込み、重合を行った。重合反応はメタノールで停止した。エバポレーターでトルエンを除去し、常圧下 40℃で 24時間、更に減圧下 45℃で 10時間乾燥して側鎖にポリエチレンオキシドを有するポリオレフィン(ix) 90gを得た(m'は正の整数)。重量平均分子量は 60万であった。
【化9】

【実施例1】
【0028】
ポリマーの製造例で得られた側鎖にポリエチレンオキシドを有するポリオレフィン(ix) 2g、下記式(x)のエチレンオキシド単位を有するエーテル化合物からなる添加剤(特願2002-236538号公報記載の方法で合成) 6g、リチウム塩化合物としてリチウムビス(パーフルオロエチルスルフォニル)イミド(LiBETI) 3.2gをアセトニトリル 50g 中で均一になるまで混合させ、30℃で12時間減圧乾燥し、電解質を調製した。調製した電解質100重量部に対して20重量部のビニレンカーボネートを含浸した電解質組成物のリチウム析出溶解効率は 86%であった。35℃におけるイオン伝導度は 8.6×10-4S/cm であった。
【化10】

【実施例2】
【0029】
ポリマーの製造例で得られた側鎖にポリエチレンオキシドを有するポリオレフィン(ix) 2g、上記式(x)のエチレンオキシド単位を有するエーテル化合物からなる添加剤 6g、リチウム塩化合物としてリチウムビス(パーフルオロエチルスルフォニル)イミド(LiBETI) 3.2gをアセトニトリル 50g 中で均一になるまで混合させ、30℃で12時間減圧乾燥し、電解質を調製した。調製した電解質100重量部に対して20重量部のビニルエチレンカーボネートを含浸した電解質組成物のリチウム析出溶解効率は 94%であった。35℃におけるイオン伝導度は 8.6×10-4S/cm であった。
【0030】
(比較例1)
ポリマーの製造例で得られた側鎖にポリエチレンオキシドを有するポリオレフィン(ix) 2g、下記式(x)のエチレンオキシド単位を有するエーテル化合物を含む添加剤 6g、リチウム塩化合物としてリチウムビス(パーフルオロエチルスルフォニル)イミド(LiBETI) 3.2gをアセトニトリル 50g 中で均一になるまで混合させ、30℃で12時間減圧乾燥し、電解質を調製した。 調製した電解質組成物のリチウム析出溶解効率は 64%であった。35℃におけるイオン伝導度は 8.5×10-4S/cm であった。
【実施例3】
【0031】
側鎖にポリエチレンオキシドを有するポリシロキサン (東芝シリコーン株式会社製TSF4440)比重1.07(25℃)、屈折率1.454(25℃) 2g、上記式(x)のエチレンオキシド単位を有するエーテル化合物を含む添加剤 6g、リチウム塩化合物としてLiBETI 3.2gをアセトニトリル 50g 中で均一になるまで混合させ、30℃で12時間減圧乾燥し、電解質を調製した。 調製した電解質100重量部に対して20重量部のビニルエチレンカーボネートを含浸した電解質組成物のリチウム析出溶解効率は 90%であった。35℃におけるイオン伝導度は 9.3×10-4S/cm であった。
【0032】
(比較例2)
実施例3で使用した側鎖にポリエチレンオキシドを有するポリシロキサン 2g、上記式(x)のエチレンオキシド単位を有するエーテル化合物を含む添加剤 6g、リチウム塩化合物としてLiBETI 3.2gをアセトニトリル 50g 中で均一になるまで混合させ、30℃で12時間減圧乾燥し、電解質を調製した。調製した電解質組成物のリチウム析出溶解効率は 45%であった。 35℃におけるイオン伝導度は 9.0×10-4S/cm であった。
【実施例4】
【0033】
実施例2で得られた電解質組成物、負極としてリチウム金属箔、及び正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)を用いて二次電池を構成した。
コバルト酸リチウムは所定量の炭酸リチウム及び炭酸コバルト粉体を混合した後 900℃で 5時間焼成することにより調製した。次にこれを粉砕し、得られたコバルト酸リチウム 85重量部に対してアセチレンブラック 5重量部とポリマー製造例で得られたポリマー(ix) 10重量部、リチウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(LiTFSI) 5重量部を加えロールで混合した後、30 MPaの圧力でプレス成形して電池の正極とした。
実施例2で得られた電解質組成物をリチウム金属箔と正極板ではさみ、界面が密着するように1 MPaの圧力をかけながら室温で電池の充放電特性を調べた。充電は 4.2 Vまでの定電流で行い、放電は定電流で3.0Vまで行った。放電電流は 0.1 mA/cm2であり、0.1 mA/cm2で充電を行った。100サイクルの充放電後の放電容量は初期容量の 90%を示した。
【0034】
(比較例3)
比較例1で得られた電解質組成物、負極としてリチウム金属箔、及び実施例4で作成した正極を用いて二次電池を作成し、実施例4と同様に充放電特性を調べた。50サイクルの充放電後の放電容量は初期容量の 88%を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)主鎖がポリオレフィン、ポリシロキサンまたはポリホスファゼンからなり、側鎖がポリエチレンオキシド構造を有するポリマーと、
(2)要すれば存在する、低分子量化合物からなる添加剤と、
(3)リチウム塩化合物と、
(4)不飽和基を有する環状カーボネートからなることを特徴とするポリマー電解質組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の側鎖がポリエチレンオキシド構造を有するポリマー(1)または低分子量化合物からなる添加剤(2)を架橋して得られるポリマー電解質組成物。
【請求項3】
不飽和基を有する環状カーボネート(4)は下記式(i)で表される化合物である請求項1または2に記載のポリマー電解質組成物。
【化1】

[式中、Rは水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基、Rは炭素数が1〜6のアルケニル基または-CHOR2’であり、R2’は炭素数が1〜6のアルケニル基である。]
【請求項4】
不飽和基を有する環状カーボネート(4)は下記式(ii)で表される化合物である請求項1または2に記載のポリマー電解質組成物。
【化2】

[式中、RおよびRは互いに異なっていて良い、水素原子または炭素数が 1〜6のアルキル基である。]
【請求項5】
低分子量化合物からなる添加剤(2)が分岐型のエーテル化合物、ポリエチレンカーボネート化合物、ボロキシン環化合物からなる請求項1〜4のいずれかに記載のポリマー電解質組成物。
【請求項6】
(1)主鎖がポリオレフィン、ポリシロキサンまたはポリホスファゼンからなり、側鎖がポリエチレンオキシド構造を有するポリマーと、(2)低分子量化合物からなる添加剤と、(3)リチウム塩化合物の合計100重量部に対して(4)不飽和基を有する環状カーボネートの含有量は 1〜100重量部であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリマー電解質組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリマー電解質組成物、正極および負極からなる電池。
【請求項8】
負極がリチウム金属である請求項7に記載の電池。

【公開番号】特開2006−86101(P2006−86101A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322977(P2004−322977)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】