説明

静電アクチュエータの製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法、及び液滴吐出装置の製造方法

【課題】シリコン結晶欠陥の発生を防止し、絶縁耐圧を確保した絶縁膜を形成して、安定した吐出特性、駆動耐久性を有する静電アクチュエータの製造方法等を提供する。
【解決手段】ボロン拡散源を用いてシリコン基板2の一方の面にボロンドープ層220を形成する工程を有し、エッチングストップ技術によりボロンドープ層220を振動板として形成する静電アクチュエータの製造方法であって、ボロンドープ層220を形成する際のボロン拡散源が、B23を主成分とし、Pd含有量が0.1ppm以下である。この場合、Pd含有量は0.09ppm以下が好ましい。そして、ボロン拡散する際には、エージングによりボロン拡散源内のPd含有量を低減してボロン拡散する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド等の駆動機構として用いられている静電アクチュエータの製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法、及び液滴吐出装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MEMS技術を適用した静電駆動方式のインクジェットヘッドにおいて、アクチュエータ内の絶縁膜の絶縁破壊が発生すると駆動が不可能となるため、絶縁膜の絶縁耐圧の確保は安定吐出に不可欠である。このようなインクジェットヘッドの製造プロセスに、ボロン拡散によるエッチングストップ技術を用いた薄板振動板の形成プロセスがあり、このプロセスにより、シリコン基板に対して振動板を高精度に形成する。
【0003】
このような振動板の形成プロセスにおいて、シリコン基板にボロンを拡散させる方法としては、液体のボロン拡散源を用いた方法、及び固体のボロン拡散源を用いた方法がある。
【0004】
液体のボロン拡散源を用いた方法では、拡散源となるB23 を有機溶剤中に分散した拡散液を、スピンコーティングによりシリコン基板のボロン拡散面に塗布し、ベークを行なう。ついで、熱酸化炉にて加熱し、拡散剤中の有機バインダーを酸化除去し、B23 を焼成する。その後、炉内を窒素雰囲気にし、ボロン(B)をシリコン基板中に拡散させ、ボロンドープ層を形成する。上記方法によりボロン拡散したシリコン基板において、その後、絶縁膜を形成する(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、固体のボロン拡散源を用いた方法では、B23 を主成分とする固体の拡散源を支持基板と重ねて石英ボートにセットし、シリコン基板面を拡散源に対向させてセットする。そして、酸化炉内を窒素雰囲気にし、ボロンをシリコン基板中に拡散させ、ボロンドープ層を形成する。ボロンドープ層のシリコン基板表面にはボロン化合物が形成されるが、酸素及び水蒸気雰囲気中で酸化することで、B23+SiO2 に化学変化させ、フッ酸水溶液によるエッチング除去を行なう。上記方法によりボロン拡散したシリコン基板において、その後、絶縁膜を形成する(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平9−216357号公報(第3−4頁、図4)
【特許文献2】特許第3642271号公報(第4頁、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2記載の技術によれば、ボロン拡散したシリコン基板において、その後、例えば、テトラ・エトキシ・シラン(TEOS)を原料として、酸素雰囲気中のプラズマCVD法(Chemical Vapor Deposition)によって、酸化珪素(SiO2 )の絶縁膜を形成する。
しかしながら、ボロン拡散源内に含有された金属不純物によって、前記方法によって形成された酸化珪素の絶縁膜の絶縁耐圧が局部的に低下するといった問題が生じる。
これは、ボロン拡散源内に含有する金属不純物が、ボロン拡散時にボロンと一緒にシリコン基板内に拡散され、その後の熱プロセスによりシリコン表面に析出するため、すなわちシリコン結晶欠陥のためである。このシリコン結晶欠陥部上にプラズマCVD法で酸化珪素の絶縁膜を形成すると、絶縁膜の密着性は著しく低下し、局所的な絶縁耐圧の低下を招く。
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、シリコン結晶欠陥の発生を防止し、絶縁耐圧を確保した絶縁膜を形成して、安定した吐出特性、駆動耐久性を得ることができる静電アクチュエータの製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法、及び液滴吐出装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る静電アクチュエータの製造方法は、ボロン拡散源を用いてシリコン基板の一方の面にボロンドープ層を形成する工程を有し、エッチングストップ技術によりボロンドープ層を振動板として形成する静電アクチュエータの製造方法であって、
ボロンドープ層を形成する際のボロン拡散源は、B23を主成分とし、Pd含有量が0.1ppm以下である。
ボロン拡散源内の金属不純物の含有量を制限したので、シリコン結晶の欠陥の発生を抑制し、すなわちシリコン結晶欠陥部の絶縁耐圧低下を抑制し、絶縁膜(SiO2 )の密着性、膜厚を確保することができる。
【0010】
本発明に係る静電アクチュエータの製造方法は、ボロン拡散源を用いてシリコン基板の一方の面にボロンドープ層を形成する工程を有し、エッチングストップ技術によりボロンドープ層を振動板として形成する静電アクチュエータの製造方法であって、
ボロンドープ層を形成する際のボロン拡散源は、B23を主成分とし、Pd含有量が0.1ppm以下、Rh含有量0.40ppm以下、Ni含有量2.0ppm以下、Cu含有量0.5ppm以下、Fe含有量2.0ppm以下、Cr含有量2.0ppm以下、Zn含有量が2.0ppm以下である。
ボロン拡散源内の金属不純物の含有量を制限したので、シリコン結晶の欠陥の発生を抑制し、すなわちシリコン結晶欠陥部の絶縁耐圧低下を抑制し、絶縁膜(SiO2 )の密着性、膜厚を確保することができる。
【0011】
また、本発明に係る静電アクチュエータの製造方法は、Pdの含有量が0.09ppm以下である。
ボロン拡散源内の金属不純物のPd含有量を0.09ppm以下に制限したので、シリコン結晶の欠陥の発生を確実に抑制し、すなわちシリコン結晶の欠陥部の絶縁耐圧低下を確実に抑制し、絶縁膜の密着性、膜厚を確保することができる。
【0012】
本発明に係る静電アクチュエータの製造方法は、エージングによりボロン拡散源内のPd含有量を低減してボロン拡散するものである。
エージングによりボロン拡散源内のPd含有量を所望の値に制限してボロン拡散するようにしたので、シリコン結晶欠陥の発生を抑制し、シリコン結晶欠陥部の絶縁耐圧低下を抑制し、絶縁膜の密着性、膜厚を確保することができる。
【0013】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記の静電アクチュエータの製造方法を適用して液滴吐出ヘッドを製造するものである。
静電アクチュエータの局所的な絶縁耐圧低下を防止することができ、安定した吐出特性、及び駆動耐久性を有する液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0014】
本発明に係る液滴吐出装置の製造方法は、上記の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造するものである。
安定した吐出特性、及び駆動耐久性を有する液滴吐出ヘッドを搭載した信頼性の高い液滴吐出装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、静電アクチュエータを備えた液滴吐出ヘッドの実施の形態を図面に基づいて説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、ノズル基板の表面に設けられたノズルからインク液滴を吐出するフェイス吐出型のインクジェットヘッドについて、図1〜図3を参照して説明する。なお、本発明は、基板の端部に設けられたノズルからインク液滴を吐出するエッジ吐出型のインクジェットヘッドにも適用することができる。
【0016】
実施の形態1.
図1は本実施の形態1に係るインクジェットヘッドの分解斜視図、図2は図1のインクジェットヘッドを組み立てた状態の縦断面図、図3は図2の静電アクチュエータ部の幅方向の拡大断面図である。なお、図1および図2では、通常使用される状態とは上下逆に示されている。
【0017】
図において、インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッドの一例)10は、複数のインクノズル11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各インクノズル11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2の振動板22に対向して個別電極31が配設された電極基板3とを貼り合わせている。
【0018】
インクジェットヘッドの静電アクチュエータは、弾性変形可能な一方の対向部材である振動板22と、この振動板22に絶縁膜(SiO2 膜)26aおよび一定のギャップGを介して対向配置された個別電極31と、個別電極31と振動板22との間に駆動電圧を印加して静電気力を発生させる駆動制御回路4とを備えている。
【0019】
ノズル基板1はシリコン基板から作製され、複数のインクノズル11が形成されている。各インクノズル11には、ノズル基板1の表面に対して垂直な筒状の噴射口部分11aと、噴射口部分11aと同軸上に設けられ噴射口部分11aよりも径の大きい導入口部分11bとからなっている。
また、ノズル基板1の下面(キャビティ基板2との接合側の面)にはインク流路の一部を形成するオリフィス13が設けられている。
【0020】
キャビティ基板2は、シリコン基板から作製されている。このシリコン基板に異方性ウェットエッチングを施して、インク流路の吐出室21を構成するための吐出凹部210、およびリザーバ23を構成するためのリザーバ凹部230が形成される。
吐出凹部210はインクノズル11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、ノズル基板1とキャビティ基板2とを接合した際、各吐出凹部210は吐出室21を構成し、それぞれインクノズル11に連通し、またインク供給口である前記オリフィス13ともそれぞれ連通する。そして、吐出室21(吐出凹部210)の底壁は振動板22となっている。
【0021】
振動板22は高濃度のボロンドープ層であって、所望の振動板22の厚みと同じだけの厚みを有している。アルカリによるシリコンエッチングにおけるエッチンググレート、ドーパントがボロンの場合、高濃度(約5×1019cm-3以上)の領域において、エッチンググレートが非常に小さくなる。このことを利用し、振動板22の形成領域を高濃度ボロンドープ層とし、アルカリ異方性エッチングにより、吐出室21、リザーバ23を形成する際に、ボロンドープ層が露出した時点でエッチンググレートが極端に小さくなる、いわゆるエッチングストップ技術により、振動板22を所望の板厚にする。
ここで、本発明は、ボロンドープ層を形成する際に用いる拡散源に関するものであり、その詳細については後述する。
【0022】
リザーバ凹部230はインクを貯留するためのものであり、各吐出室21に共通のリザーバ(共通インク室)23を構成する。そして、リザーバ23はそれぞれオリフィス13を介して全ての吐出室21に連通している。また、リザーバ23の底部には、後述する電極基板3を貫通するインク供給孔34が設けられ、インクカートリッジ(図示せず)からインクが供給されるようになっている。
【0023】
キャビティ基板2の全面には、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)により、SiO2 膜が形成されている。すなわち、キャビティ基板2の電極基板3と対向する側の面には、絶縁膜26a(SiO2 膜26)が形成され、インクジェットヘッドを駆動させたときの絶縁破壊や短絡を防止する。また、キャビティ基板2の上面、すなわちノズル基板1と対向する側の面(吐出室21、リザーバ23の内面を含む)には、インク保護膜26b(SiO2 膜26)が形成され、インクによる流路の腐食を防ぐようにしてある。
【0024】
電極基板3は、ガラス基板から作製されている。なかでも、キャビティ基板2のシリコン基板と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのがよい。これは、電極基板3とキャビティ基板2とを陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板3とキャビティ基板2との間に生じる応力を低減することができ、その結果、剥離等が生じず、強固に接合することができるからである。なお、電極基板3にはキャビティ基板2と同じ材料のシリコン基板を用いてもよい。
【0025】
電極基板3には、キャビティ基板2の各振動板22に対向する面側にそれぞれ電極凹部32がエッチングにより形成されている。そして、各電極凹部32内には、例えばITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極31がスパッタにより形成されている。また、ギャップGの開放端部は、SiO2 膜やエポキシ接着剤等からなる封止材27によって気密に封止され、湿気や塵埃等がギャップへ侵入するのを防止している。
【0026】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部31bとを有する。端子部31bは、フレキシブル配線基板の接続を容易にするために、キャビティ基板2の後端部が開口された電極取り出し部35内に露出している。
【0027】
上記のように構成したインクジェットヘッド10の動作を説明する。
駆動制御回路4は、個別電極31に対して電荷の供給および停止を制御する発振回路である。この発振回路は、例えば24kHzで発振し、個別電極31に例えば0Vと30Vのパルス電位を印加して電荷供給を行う。発振回路が駆動され、個別電極31に電荷を供給して正に帯電させると、個別電極31と振動板22間に静電気力が発生する。したがって、この静電気力により振動板22は個別電極31に引き寄せられて撓む。これによって吐出室21の容積が増大する。そして、個別電極31への電荷の供給を止めると、振動板22はその弾性力により元に戻り、その際、吐出室21の容積が急激に減少するため、そのときの圧力により、インク室21内のインクの一部がインク液滴として、インクノズル11より吐出する。振動板22が次に同様に変位すると、インクが、リザーバ23からオリフィス13を通じて、吐出室21内に補給される。
【0028】
次に、図4〜図9を参照して、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの製造工程を説明する。図4〜図6はインクジェットヘッドの製造工程図、図7はボロン拡散の方法を示す斜視図、図8〜図9は図6に続くインクジェットヘッドの製造方法である。ここでは、B23を主成分としたボロン拡散源により、振動板22を形成する場合について詳細に説明する。なお、以下の説明で記載した数値はその一例を示すもので、これに限定するものではない。
【0029】
まず、キャビティ基板の製造工程を説明する。
(a)図4(a)に示すように、(110)を面方位とするシリコン基板2の両面を鏡面研磨し、例えば140μmの厚みの基板を作製する。
【0030】
(b)シリコン基板2を熱酸化炉にセットし、酸素および水蒸気雰囲気中で、例えば摂氏1100度、4時間で熱酸化処理し、図4(b)に示すように、シリコン基板2の表面に、酸化膜260a、260bを例えば1.2μm成膜する。
【0031】
(c)ボロンドープ層を形成する側の面2aの酸化膜260aを剥離するため、ボロンドープ層を形成する側の面2aと反対側の面2bにレジストをコートし、レジストを保護膜として、図4(c)に示すように、ボロンドープ層を形成する側の面2aの酸化膜260aをフッ酸水溶液にてエッチング除去し、エッチング後、レジストを剥離する。
【0032】
(d)次に、図5(d)に示すように、シリコン基板2のボロンドープ層を形成する側の面2aにボロンをドープする。
【0033】
ボロンをドープする方法は、図7に示す通りである。
すなわち、固体の拡散源41を、材料がSiCであり、拡散源41と外周部のみで接する支持基板42と重ねて石英ボート44にセットし、拡散源41と2.5mm隔てて、シリコン基板2のボロンドープ層を形成する側の面2aを、拡散源41に対向させてセットする。シリコン基板2の上方に、ボロンの回り込みを防止するために、ダミーシリコン基板43をセットする。
縦型炉に石英ボート44をセットし、炉内を窒素雰囲気にし、温度を摂氏1050度に上昇させ、そのまま温度を8時間保持し、ボロンをシリコン基板2中に拡散させ、図5(d)に示すように、ボロンドープ層220を形成する。
【0034】
シリコン基板2のボロンドープ層220の表面にはボロン化合物が形成されるが(図示せず)、酸素及び水蒸気雰囲気中、例えば摂氏600度の条件で30分酸化して、フッ酸水溶液によるエッチングが可能なB23+SiO2 に化学変化させる。
23+SiO2 に化学変化させた状態で、ボロンドープ層220を形成した側の面2aと反対側の面2bにレジストをコートし、レジストを保護膜として、B23+SiO2 をフッ酸水溶液にてエッチング除去し、エッチング後、レジストを剥離する。
【0035】
ここで、本発明では、シリコン基板2のボロンドープ層220のドープ面に金属不純物が析出されるのを防止するために、金属不純物含有量を制限した拡散源41を用いている(図7参照)。具体的には、B23を主成分とし、金属不純物含有量がパラジウム(Pd)の含有量0.1ppm以下、ロジウム(Rh)の含有量0.40ppm以下、ニッケル(Ni)の含有量2.0ppm以下、銅(Cu)の含有量0.5ppm以下、鉄(Fe)の含有量2.0ppm以下、クロム(Cr)の含有量2.0ppm以下、亜鉛(Zn)含有量2.0ppm以下に規定された固体の拡散源41を用いている。かかる拡散源41を用いることにより、後工程の高温の熱プロセスを行っても、金属不純物の析出を防止することができる。
【0036】
シリコン基板2のボロンドープ工程を経た後、図5(e)に示すように、ボロンドープ層220の表面に、成膜時の処理温度が例えば摂氏360度、高周波出力は700W、圧力は250mTorr、ガス流量はTEOS流量100sccm、酸素流量1000sccmの条件で、プラズマCVDにより、TEOS膜260cを、1.2μm成膜する。
【0037】
シリコン基板2のボロンドープ層220を形成した側の面2aと反対側の面2bに形成された酸化膜260bに、吐出室21、リザーバ23を作り込むためのレジストパターニングを施し、ふっ酸水溶液でエッチングし、図5(f)に示すように、パターニングする。そして、レジストを剥離する。
【0038】
シリコン基板2を35w%の濃度の水酸化カリウム水溶液に浸し、図6(g)に示すように、シリコンエッチングをシリコン板厚が10μmになるまで行う。
【0039】
続いて、シリコン基板2を3w%の濃度の水酸化カリウム水溶液に浸し、図6(h)に示すように、ボロンドープ層220でのエッチングレート低下によるエッチングストップが十分効くまでエッチングを続ける。ここで、エッチングストップとは、エッチングにエッチング面から発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のエッチングにおいて気泡の発生の停止をもってエッチングストップと判断する。
図6(g)および図6(h)に示す2種類の濃度の異なる水酸化カリウム水溶液を用いたエッチングを行うことによって、振動板220の面荒れを抑制し、厚み精度を0.8±0.05μm以下にすることができ、インクジェットヘッドの吐出性能を安定化することができる。
【0040】
エッチング工程を経た後、図6(i)に示すように、フッ酸水溶液で酸化膜260b、260cをエッチングする。
【0041】
図6(j)に示すように、プラズマCVDにより、TEOS膜260をシリコン基板2の全面に、成膜時の処理温度は摂氏360度、高周波出力は250W、圧力は500mTorr、ガス流量はTEOS流量100sccm、酸素流量1000sccmの条件で、0.1μm成膜する。TEOS膜260を形成する前には、圧力は0.5torr、O2流量は1000sccm、高周波出力は250W、処理温度は摂氏360度、処理時間は1分間の条件で、O2 プラズマ処理を施す。これにより、シリコン基板2の表面がクリーニングされ、TEOS膜260の絶縁耐圧の均一性を向上させる。
こうして形成されたTEOS膜(SiO2 膜)260は絶縁膜を構成し、キャビティ基板2の電極基板3と対向する側の面は絶縁膜26aとなり、ノズル基板1と対向する側の面(吐出室21、リザーバ23の内面を含む)はインク保護膜26bとなる。
前記方法により形成された絶縁膜26aは、シリコン基板内の平均で、10.0MV/cmの絶縁耐圧が安定的に得られた。
以上の工程により、キャビティ基板2が形成される。
【0042】
次に、液滴吐出ヘッドの製造工程を説明する。
図8に示すように、振動板22と対向する位置に電極凹部32が設けられ、電極凹部32の底面にITOからなる個別電極31が形成された電極基板3と、上記の製造工程によって製造されたキャビティ基板2とを、陽極接合する。
【0043】
次に、図9に示すように、インクノズル11等が形成されたノズル基板1を、接着剤等によってキャビティ基板2の上に接合し、ヘッドチップ単位に切断する。
こうして、液滴吐出ヘッド10が完成する。
【0044】
本発明では、ボロンドープ層220の形成に際し(図5(d)、図7参照)、上述したように、B23を主成分とし、金属不純物含有量が規定された(Pdの含有量0.1ppm以下、Rhの含有量0.40ppm以下、Niの含有量2.0ppm以下、Cuの含有量0.5ppm以下、Feの含有量2.0ppm以下、Crの含有量2.0ppm以下、Zn含有量2.0ppm以下)固体の拡散源41を用いている。
そして、Pd含有量のみ変化させた固体の拡散源41を用いてボロンドープ層220を形成し、その上に絶縁膜26aを形成して、金属不純物析出によるシリコン結晶欠陥による絶縁耐圧(TZDB)の低下の有無の実験を行った。また、固体の拡散源41中のPd含有量と、ボロン板使用回数(ボロン拡散源の熱処理回数)との関係を調べる実験を行った。その結果を、図10に示す。
【0045】
図10に示すように、ボロン拡散源41内のPd含有量が0.11ppmのとき、ボロンドープ層220の上に成膜された絶縁膜26aの絶縁耐圧(TZDB値、MV/cm)は、最大値9.77、最小値4.94、平均値6.00であった。そして、ボロン使用回数が5回のとき、Pd含有量は0.11ppmであった。
【0046】
また、ボロン拡散源41内のPd含有量が0.09ppmのとき、ボロンドープ層220の上に成膜された絶縁膜26aの絶縁耐圧は、最大値10.46、最小値9.55、平均値10.05であった。そして、ボロン使用回数が10回のとき、Pd含有量は0.09ppmであった。
【0047】
さらに、ボロン拡散源51内のPd含有量が0.05ppmのとき、ボロンドープ層220の上に成膜された絶縁膜26aの絶縁耐圧は、最大値10.36、最小値9.28、平均値10.02であった。そして、ボロン使用回数が20回のとき、Pd含有量は0.05ppmであった。
【0048】
図11は、ボロン板(ボロン拡散源)内のPd含有量と、ウエハ面内の絶縁耐圧(TZDB)との関係を示す線図である。破線は最大値、点線は最小値、実線はその平均値を示す。図において、Pd含有量が0.1ppm以下のとき、好ましくは、0.09ppm以下のときに、ウエハ内の絶縁耐圧がほぼ一定になり、絶縁耐圧が好ましい状態になる。
【0049】
すなわち、ボロン拡散源41内の金属不純物のPd含有量を0.1ppm以下、好ましくは0.09ppm以下に制限することによって、シリコン結晶欠陥の発生を抑制し、すなわち、シリコン結晶欠陥部の絶縁耐圧低下を抑制し、絶縁膜(SiO2 )26aの密着性、膜厚を確保することができる。このため、局所的な絶縁耐圧低下を防止して、安定した吐出特性、及び駆動耐久性を確保することができる。
【0050】
図12は、ボロン板使用回数と、ボロン板内のPd含有量との関係の一例を示す線図である。
ボロン拡散源41内のPd含有量を、エージングにより規定値以下に低減し、ボロン拡散したものである。
図において、ボロン板使用回数を増やすほど、ボロン板内のPd含有量が減少することがわかる。例えば、ボロン拡散源41内の金属不純物のPd含有量を0.1ppm以下にするには、ボロン板使用回数を7〜8回以上とし、Pd含有量を0.09ppm以下にするには、ボロン板使用回数を10回以上とすることが必要になる。
【0051】
すなわち、ボロン板使用回数を7〜8回以上とすることによってボロン拡散源内の金属不純物のPd含有量を0.1ppm以下に制限することができ、好ましくは、ボロン板使用回数を10回以上とすることによってボロン拡散源内の金属不純物のPd含有量を0.09ppm以下に制限することができ、これによって、シリコン結晶欠陥の発生を抑制し、シリコン結晶欠陥部の絶縁耐圧低下を抑制して、絶縁膜(SiO2 )26aの密着性、膜厚を確保することができる。このため、局所的な絶縁耐圧低下を防止し、安定した吐出特性及び駆動耐久性を確保することができる。
【0052】
なお、上記の場合は、ボロン拡散源41内のPd含有量を、エージングにより規定値以下に低減し、ボロン拡散したが、ボロン拡散源41内のPd含有量を使用前に分析し、Pd含有量が規定値以下のボロン拡散源41を使用して、ボロン拡散するようにしてもよい。
【0053】
図13は、ボロン板使用回数と、ウエハ面内の絶縁耐圧(TZDB)との関係の一例を示す線図である。
図において、ボロン板使用回数を増やすほど、TZDB値が増加することがわかる。
ボロン使用回数が7回〜8回以上のとき、好ましくは、10回以上のときに、ウエハ面内の絶縁耐圧(TZDB)がほぼ一定になり、絶縁耐圧が好ましい状態になることが分かる。
すなわち、ボロン板使用回数を7〜8回以上、好ましくは10回以上とすることによって、ボロン拡散源41内の金属不純物のPd含有量を0.1ppm以下、好ましくは0.09ppm以下に制限することができ(図12参照)、このとき、ウエハ内の絶縁耐圧(TZDB)がほぼ一定になり(図13)、絶縁耐圧が好ましい状態になるので、これによって、シリコン結晶欠陥の発生を抑制し、すなわちシリコン結晶欠陥部の絶縁耐圧低下を抑制し、絶縁膜(SiO2)の密着性、膜厚を確保することができる。このため、局所的な絶縁耐圧低下を防止し、安定した吐出特性及び駆動耐久性を確保することができる。
【0054】
なお、上記の説明では、ボロン拡散源41が固体の場合について示したが、液体のボロン拡散源の場合であっても、同様に、上記効果を有する。
【0055】
実施の形態2.
図14は、本実施の形態2に係る液滴吐出装置の斜視図である。この液滴吐出装置はインクを吐出するインクジェットプリンタであり、実施の形態1に係る静電アクチュエータを備えたインクジェットヘッドを搭載している。このため、安定した吐出特性及び駆動耐久性を備え、信頼性の高い高品質の印字が可能である。
【0056】
なお、実施の形態1に係る静電アクチュエータは、インクジェットヘッドの他、ミラーデバイス等のアクチュエータにも適用することができる。また、実施の形態1に係る静電アクチュエータを備えた液滴吐出ヘッドは、図14に示すインクジェットプリンタの他に、吐出する液体を種々変更することで、カラーフィルタのマトリクスパターンの形成、有機EL表示装置の発光部の形成、生体液体試料の吐出等を行う液滴吐出装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態1に係るインクジェットの分解斜視図。
【図2】図1のインクジェットを組み立てた状態の縦断面図。
【図3】図2の静電アクチュエータ部の幅方向の拡大断面図。
【図4】実施の形態1に係るインクジェットヘッドの製造工程図。
【図5】図4に続くインクジェットヘッドの製造工程図。
【図6】図5に続くインクジェットヘッドの製造工程図。
【図7】ボロン拡散方法の説明図。
【図8】図6に続くインクジェットヘッドの製造工程図。
【図9】図8に続くインクジェットヘッドの製造工程図。
【図10】ボロン板使用回数、Pd含有量、および絶縁耐圧の実験結果を示す図。
【図11】ボロン板内のPd含有量と、ウエハ面内の絶縁耐圧との関係を示す線図。
【図12】ボロン板使用回数と、ボロン板内のPd含有量との関係を示す線図。
【図13】ボロン板使用回数と、ウエハ面内の絶縁耐性との関係を示す線図。
【図14】本発明の実施の形態2に係る液滴吐出装置の斜視図。
【符号の説明】
【0058】
1 ノズル基板、 2 キャビティ基板(シリコン基板)、 3 電極基板、 4 駆動制御回路、10 インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)、 11 インクノズル、 21 吐出室、 22 振動板、 23 リザーバ、 26a 絶縁膜(SiO2 膜)、26b インク保護膜(SiO2 膜)、 31 個別電極、 32 凹部、 41 ボロン拡散源、 42 支持基板、 44 石英ボート、220 ボロンドープ層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボロン拡散源を用いてシリコン基板の一方の面にボロンドープ層を形成する工程を有し、エッチングストップ技術により前記ボロンドープ層を振動板として形成する静電アクチュエータの製造方法であって、
前記ボロンドープ層を形成する際のボロン拡散源が、B23を主成分とし、Pd含有量が0.1ppm以下であることを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項2】
ボロン拡散源を用いてシリコン基板の一方の面にボロンドープ層を形成する工程を有し、エッチングストップ技術により前記ボロンドープ層を振動板として形成する静電アクチュエータの製造方法であって、
前記ボロンドープ層を形成する際のボロン拡散源が、B23を主成分とし、Pd含有量が0.1ppm以下、Rh含有量0.40ppm以下、Ni含有量2.0ppm以下、Cu含有量0.5ppm以下、Fe含有量2.0ppm以下、Cr含有量2.0ppm以下、Zn含有量が2.0ppm以下であることを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項3】
Pd含有量が0.09ppm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項4】
エージングによりボロン拡散源内のPd含有量を低減してボロン拡散することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の静電アクチュエータの製造方法を適用して液滴吐出ヘッドを製造することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造することを特徴とする液滴吐出装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−131759(P2010−131759A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307114(P2008−307114)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】