説明

静電アクチュエータの製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法

【課題】シリコン基板とガラス基板との陽極接合強度を確保し、複数の振動板に対応した各絶縁膜の平坦度にもばらつきが生じにくい、静電アクチュエータを提案する。
【解決手段】シリコン基板2に酸化シリコンよりも比誘電率が高い誘電材料からなる第1絶縁膜8aを成膜する工程と、第1絶縁膜8aをパターニングして、シリコン基板2がガラス基板3と密着することとなる部分から、第1絶縁膜8aを除去する工程と、シリコン基板2の第1絶縁膜8aがパターニングされた面に、第1絶縁膜8aよりガラスとの陽極接合性の良い第2絶縁膜8bを、第1絶縁膜8aを覆う厚さとなるまで成膜する工程と、シリコン基板2の第2絶縁膜8bが成膜された面を、第1絶縁膜8aが露出するまで平坦に研磨する工程と、第1絶縁膜8aと個別電極5を対応させて、シリコン基板2の第2絶縁膜面8bとガラス基板3とを陽極接合する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電駆動方式の静電アクチュエータや液滴吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載される静電駆動方式のインクジェットヘッドが知られている。静電駆動方式のインクジェットヘッドは、一般に、ガラス基板上に形成された個別電極(固定電極)と、この個別電極にギャップを介して対向配置されたシリコン製の振動板(可動電極)とから構成される静電アクチュエータ部を備えている。そして、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する圧力室(吐出室とも呼ばれる)、およびリザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、静電アクチュエータ部分に静電気力を発生させることにより、圧力室に圧力を加えて、選択されたノズル孔よりインク滴を吐出するようになっている。
【0003】
静電アクチュエータにおいては、アクチュエータ部分の絶縁破壊や短絡を防止して駆動の安定性と駆動耐久性を確保するため、振動板や個別電極の対向面に絶縁膜が形成されている。この種の絶縁膜には、一般にシリコンの熱酸化膜が使用されている。しかし最近では、アクチュエータ部分の絶縁膜に、絶縁性と陽極接合時の耐熱性とに適した、酸化アルミニウム(Al23)や酸化タンタル(Ta25)を使用したインクジェットヘッドが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−277505号公報(段落0069等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化アルミニウムや酸化タンタルは、High−k材とも称され、シリコン酸化膜より比誘電率が高く、シリコン酸化膜に比べて高い絶縁性を確保しつつ、同じ電圧で高い圧力を発生させることができる。しかし、High−k材は、酸化シリコン等に比べてガラス材料との陽極接合性が悪い。そのため、シリコン基板への絶縁膜形成においては、High−k材の成膜後にパターニングを行って、振動板に対応する部分にのみHigh−k材を残し、ガラス基板との接合面からは、High−k材の膜を取り除くようにしていた。その結果、複数の振動板の各絶縁膜の平坦度にばらつきが生じ、各振動板毎の静電アクチュエータの動作精度に相違が生じていた。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためのもので、振動板の絶縁膜にHigh−k材を用いた場合においても、シリコン基板とガラス基板との陽極接合強度を確保でき、しかも複数の振動板に対応した各絶縁膜の平坦度にもばらつきが生じにくい、静電アクチュエータおよび液滴吐出ヘッドの製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の静電アクチュエータの製造方法は、
複数の振動板が形成されるシリコン基板と、
前記複数の振動板に対応する位置に設けられた凹部に、前記複数の振動板を吸引する個別電極が形成されたガラス基板の前記凹部の形成された面とを、
接合する静電アクチュエータの製造方法であって、
前記シリコン基板に酸化シリコンよりも比誘電率が高い誘電材料からなる第1絶縁膜を成膜する工程と、
前記第1絶縁膜をパターニングして、前記シリコン基板が前記ガラス基板と密着することとなる部分から、前記第1絶縁膜を除去する工程と、
前記シリコン基板の前記第1絶縁膜がパターニングされた面に、前記第1絶縁膜よりガラスとの陽極接合性の良い第2絶縁膜を、前記第1絶縁膜を覆う厚さとなるまで成膜する工程と、
前記シリコン基板の前記第2絶縁膜が成膜された面を、前記第1絶縁膜が露出するまで平坦に研磨する工程と、
前記第1絶縁膜と前記個別電極を対応させて、前記シリコン基板の第2絶縁膜面と前記ガラス基板とを陽極接合する工程と、
を備えたものである。
【0008】
これによれば、シリコン酸化膜の絶縁膜より高い絶縁性を確保しつつ、同じ電圧で高い圧力を発生させることができる静電アクチュエータが製造できる。また、シリコン基板とガラス基板との陽極接合に関して、必要な強度を確保することができる。さらに、複数の振動板に対応した各絶縁膜の平坦度のばらつきも低減され、静電アクチュエータの動作精度が向上する。
【0009】
なお、第1絶縁膜は、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化タンタル(Ta23)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)、窒化アルミ(AlN)、窒化ジルコニウム(ZrO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化イットリウム(Y23)、ジルコニウムシリケート(ZrSiO)、ハフニウムシリケート(HfSiO)、ジルコニウムアルミネート(ZrAlO)、窒素添加ハフニウムアルミネート(HfAlON)の中から選択されたものであることが好ましい。
【0010】
また、第2絶縁膜は、酸化シリコン(SiO2)であることが好ましい。酸化シリコンは、ガラス(特にパイレックス(登録商標)ガラス)との陽極接合性が、上記High−k材料より良く、シリコン基板とガラス基板との陽極接合強度が向上するからである。
また、ガラス基板に接合されたシリコン基板を、ガラス基板が接合されていない面からウェットエッチングして、振動板を形成する工程を有することが好ましい。これにより、歩留まりが良くかつ精度の高い振動板の形成が可能となるからである。
【0011】
本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記の方法により静電アクチュエータを製造し、該静電アクチュエータを構成している振動板を、液体吐出用の圧力室の壁面に適用するものである。これにより、複数の振動板に対応した各圧力室の動作性能のばらつきが低減するため、吐出性能の高い液滴吐出ヘッドが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施形態1.
図1は実施形態1に係る液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、一部を断面で表してある。図2は図1のインクジェットヘッドのA−A方向からみた断面図、図3は図1のインクジェットヘッドのB−B方向からみた断面図(ノズル基板は省略)である。
【0013】
本実施形態のインクジェットヘッド10は、図1〜図3に示すように、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対してそれぞれインク供給路が設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2に設けられた振動板6に対峙して個別電極5が配設されたガラス基板3とが、積層されて構成されている。
【0014】
ノズル基板1は、例えばシリコン基板から作製される。インク滴を吐出するためのノズル孔11は、直進性を向上させるため、異なる2段の円筒状に形成されている。また、ノズル基板1には、キャビティ基板2の圧力室9とリザーバ14とを連通させるオリフィス12も形成されている。
【0015】
キャビティ基板2は、例えば面方位が(110)のシリコン基板から作製されている。キャビティ基板2には、インク流路に設けられてインク吐出圧を発生させる圧力室9、およびインクを貯えるリザーバ14が形成されている。圧力室9はノズル孔11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、図2に示すように、圧力室9はそれぞれノズル孔11に連通し、またオリフィス12ともそれぞれ連通している。そして、圧力室9の底部が振動板6となっている。振動板6はキャビティ基板2の表面にボロン(B)をドープさせたボロンドープ層から形成されている。そして、キャビティ基板2の振動板側表面には、絶縁膜8が形成されている。
【0016】
リザーバ14は、インクを貯留するためのものであり、オリフィス12を介して各圧力室9に連通している。また、リザーバ14の底部には後述するガラス基板3のインク供給孔32に連通するインク供給孔15が設けられ、図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。なお、通常は、キャビティ基板2の流路形成面側に、インク等の吐出液に対する表面保護膜16が形成されている。
【0017】
ガラス基板3は、シリコンと熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラス、例えばパイレックス(登録商標)ガラスから作製される。これは、ガラス基板3とキャビティ基板2を陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、ガラス基板3とキャビティ基板2との間に生じる応力を低減することができ、その結果剥離等の問題を生じることなく、ガラス基板3とキャビティ基板2を強固に接合することができるからである。
【0018】
ガラス基板3には、キャビティ基板2の各振動板6に対向する位置にそれぞれ凹部31が設けられている。各凹部31内には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide)等からなる個別電極5が、例えば100nmの厚さで形成されている。この凹部31が振動板6と対峙しており、それによって個別電極5と振動板6がギャップ7を介して対向した状態となっている。
【0019】
個別電極5は、振動板6に対峙している駆動部5aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部5cと、駆動部5aと端子部5cとをつなぐリード部5bから成っている。端子部5cは、キャビティ基板2の末端部が開口された電極取出部25に露出している。
また、振動板6と個別電極5との間に形成されるギャップ7の開放端部は、エポキシ等の樹脂による封止材33で封止されている。これにより、湿気や塵埃等が電極間ギャップ7内へ侵入するのを防止し、インクジェットヘッド10の信頼性を保持している。
【0020】
ノズル基板1、キャビティ基板2、およびガラス基板3は、貼り合わせて積層されている。キャビティ基板2とガラス基板3は陽極接合により積層され、ノズル基板1はキャビティ基板2の上面に接着等により積層されている。積層されたガラス基板3とキャビティ基板2の個別電極5と振動板6から構成される部分が、静電アクチュエータを構成しており、振動板6がアクチュエータとして可動する。
【0021】
インクジェットヘッド10は、さらに、図示していない駆動制御回路が、各個別電極5の端子部5cとキャビティ基板2上面の共通電極(図示せず)とに、フレキシブル配線基板(図示せず)を介して接続されている。
【0022】
シリコン基板1の振動板6の形成面に形成された絶縁膜8は、振動板6の部分では、酸化シリコン(SiO2)よりも比誘電率の高い誘電材料、いわゆるHigh−k材と呼ばれる高誘電材料の第1絶縁膜が成膜され、ガラス基板3との密着面(接合面)はHigh−k材よりガラスとの陽極接合性の良い材料、例えば酸化シリコンからなる第2絶縁膜が成膜されている。なお、後述する成膜方法によって、第1絶縁膜8aと第2絶縁膜8bとは一体的に一様な厚さで形成されている。
【0023】
酸化シリコン(SiO2)よりも比誘電率の高い誘電材料、いわゆるHigh−k材と呼ばれる高誘電材料としては、例えば、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al23、アルミナ)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化タンタル(Ta23)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)、窒化アルミ(AlN)、窒化ジルコニウム(ZrO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化イットリウム(Y23)、ジルコニウムシリケート(ZrSiO)、ハフニウムシリケート(HfSiO)、ジルコニウムアルミネート(ZrAlO)、窒素添加ハフニウムアルミネート(HfAlON)、及びこれらの複合膜等を挙げることができる。その中でも膜の低温成膜性、膜の均質性、プロセス適応性等を考慮した場合、酸化アルミニウム(Al23、アルミナ)、酸化ハフニウム(HfO2)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)を使用することが望ましく、これらの中から少なくとも一つが選ばれる。
【0024】
次に、以上のように構成されるインクジェットヘッド10の動作を説明する。駆動制御回路から個別電極5とキャビティ基板2の共通電極の間にパルス電圧を印加すると、振動板6は個別電極5側に引き寄せられて吸着し、圧力室9内に負圧を発生させて、リザーバ14内のインクを吸引し、インクの振動(メニスカス振動)を発生させる。このインクの振動が略最大となった時点で、印加電圧を解除すると、振動板6は個別電極5から離脱して復元する。この振動板6の復元時の圧力変化を利用して、インクをノズル孔11から押出し、インク液滴を吐出する。
【0025】
実施形態1のインクジェットヘッド10は、キャビティ基板2の絶縁膜8に関して、振動板6に対応した部分にはHigh−k材からなる第1絶縁膜8aが形成され、ガラス基板と密着することとなる部分には酸化シリコンからなる第2絶縁膜8bが形成されているため、以下のような効果を奏する。
(1)静電アクチュエータ部の発生圧力が向上する。
第1絶縁膜8aにHigh−k材を使用することで、静電アクチュエータによる発生圧力を向上させることができるとともに、十分な絶縁耐圧を確保することができる。
(2)接合強度を確保できる。
第2絶縁膜8bに酸化シリコンを使用することで、キャビティ基板2とガラス基板3との十分な陽極接合強度を確保することができる。
【0026】
実施形態2.
次に、上記インクジェットヘッド10の製造方法の一例を、図4、図5に基づいて説明する。図4は実施形態2に係るインクジェットヘッド10の製造工程を示す流れ図、図5はここで使用するキャビティ基板2への絶縁膜の形成工程を示す工程図で、図4のステップS1〜S4に対応している。
【0027】
まず、キャビティ基板2となるシリコン基板の片面に絶縁膜8を形成する。これは、片面にボロンがドープされたシリコン基板2(後にキャビティ基板となるためキャビティ基板と同じく符号2で表す)のボロンドープ側面に、High−k材からなる第1絶縁膜8aを、CVD法またはスパッタ法等により成膜する(図4のS1、図5の(a))。なお、その成膜厚さは、数十〜数百nmの範囲とする。
次に、第1絶縁膜8aをパターニングし、静電アクチュエータの可動片を構成する各振動板6に対応する部分に第1絶縁膜8aを残し、ガラス基板3と密着してそれと接合されることとなる部分では第1絶縁膜8aを除去する(図4のS2、図5の(b))。
続いて、シリコン基板2の上記パターニングが施された側の全面に、酸化シリコンの第2絶縁膜8bを成膜する(図4のS3、図5の(c))。第2絶縁膜8bの成膜厚さは、シリコン基板2に残っている第1絶縁膜8aを完全に覆うことができる厚さである。
次に、シリコン基板2の第2絶縁膜8bが成膜された面の全体を、第1絶縁膜1aが露出するまで平坦に研磨する(図4のS4、図5の(d))。この研磨には、例えばCMP(ケミカル・メカニカル・ポリッシング)等が利用できる。
【0028】
一方で、個別電極5を備えたガラス基板3を形成しておく。例えば、パイレックス(登録商標)ガラスからなる板厚約1mmのガラス基板3に、フッ酸によってエッチングすることにより所望の深さの凹部31を形成する(図4のS5)。そして、凹部31が形成された面に、スパッタ法等によりITO膜を100nmの厚さで形成した後、個別電極5となる部分以外のITO膜をエッチング除去して、凹部31の内部に個別電極5を形成する(図4のS6)。また、インク供給孔32も形成しておく。
【0029】
次に、以上により作製されたシリコン基板2と、ガラス基板3とをアライメントして陽極接合する(図4のS7)。
次に、ガラス基板3と接合されたシリコン基板2の表面全面を研磨加工して、厚さを例えば50μm程度に薄くし(図4のS8)、さらにこのシリコン基板2の表面全面をウエットエッチングによりライトエッチングして加工痕を除去する(図4のS9)。
【0030】
次に、薄板に加工されたシリコン基板2の表面にフォトリソグラフィーによってレジストパターニングを行い(図4のS10)、ウェットエッチング(またはドライエッチング)によってインク流路溝を形成する(図4のS11)。これによって、圧力室9となる凹部、リザーバ14となる凹部および電極取出部25となる凹部が形成される。なお、水酸化カリウム水溶液を用いたウェットエッチングを利用すれば、ボロンドープ層がエッチングストップ層として作用し、それにより振動板6を高精度の厚さで形成でき、その表面荒れも防止することができる。
【0031】
次に、ICP(Inductively Coupled Plasma)ドライエッチングにより、電極取出部25に対応する凹部の底部を除去して、電極取出部25を開口した後、ギャップ7の内部に付着している水分を除去する(図4のS12)。水分除去は、シリコン基板2を例えば真空チャンバ内に入れ、加熱真空引きをすることにより行う。そして、所要時間経過後、窒素ガスを導入し、窒素雰囲気下でギャップ開放端部にエポキシ樹脂等の封止材33を塗布して気密に封止する(図18のS13)。このように静電アクチュエータ部分のギャップ7内の付着水分を除去した後、気密封止することによって、静電アクチュエータの駆動耐久性を向上させることができる。
【0032】
その後、マイクロブラスト加工等によりシリコン基板2にインク供給孔15を形成する。また、インク流路溝の腐食を防止するため、このシリコン基板の表面にプラズマCVD法によりTEOS−SiO2膜からなる表面保護膜(図2の符号16)を形成する。さらに、シリコン基板2上に、金属製の共通電極を形成する。これによって、シリコン基板2からキャビティ基板2が作製される。
【0033】
その後、このキャビティ基板2の表面上に、ノズル孔11が形成されたノズル基板1を接着により接合する(図4のS14)。そして最後に、ダイシングにより個々のヘッドチップに切断すれば、上述したインクジェットヘッド10の本体部が完成する(図49のS15)。
上記のインクジェットヘッド10の製造方法によれば、キャビティ基板2の酸化シリコン膜部分とガラス基板3のガラス部分とが陽極接合されるため、キャビティ基板2とガラス基板3を、十分な陽極接合強度をもって積層させることができる。
また、振動板6の個別電極5との対向部分は、High−k材の絶縁膜となっているため、振動板6と個別電極5とにより構成される静電アクチュエータの発生圧力が向上し、駆動耐久性および吐出性能に優れたインクジェットヘッド10を得ることができる。
【0034】
以上の実施形態では、インクジェットヘッドの製造方法を基に、静電アクチュエータの製造方法について述べた。このような静電アクチュエータは、インクジェットヘッドへの適用に限られるものではなく、光スイッチ、ミラーデバイス、マイクロポンプ、レーザプリンタのレーザ操作ミラーの駆動部等にも利用することができる。また、上記実施形態で説明した方法により製造されたインクジェットヘッドは、吐出液の種類を変更することにより、インクジェットプリンタのほか、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、遺伝子検査等に用いられる生体分子溶液のマイクロアレイの製造等様々な用途の液滴吐出装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施形態1に係る静電駆動式インクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】図1のインクジェットヘッドをA−A方向から見た断面図。
【図3】図1のインクジェットヘッドをノズル基板を省略してB−B方向から見た断面図。
【図4】実施形態2に係るインクジェットヘッドの製造工程を示す流れ図。
【図5】図4の中で使用するキャビティ基板への絶縁膜の形成工程を示す工程図。
【符号の説明】
【0036】
1 ノズル基板、2 キャビティ基板(シリコン基板)、3 ガラス基板、5 個別電極、5a 駆動部、5b リード部、5c 端子部、6 振動板、7 ギャップ、8 絶縁膜、8a 第1絶縁膜(High−k材)、8b 第2絶縁膜(酸化シリコン)、9 圧力室、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、12 オリフィス、14 リザーバ、15 インク供給孔、16 吐出液保護膜、25 電極取出部、31 凹部、32 インク供給孔、33 封止材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の振動板が形成されるシリコン基板と、
前記複数の振動板に対応する位置に設けられた凹部に、前記複数の振動板を吸引する個別電極が形成されたガラス基板の前記凹部の形成された面とを、
接合する静電アクチュエータの製造方法であって、
前記シリコン基板に酸化シリコンよりも比誘電率が高い誘電材料からなる第1絶縁膜を成膜する工程と、
前記第1絶縁膜をパターニングして、前記シリコン基板が前記ガラス基板と密着することとなる部分から、前記第1絶縁膜を除去する工程と、
前記シリコン基板の前記第1絶縁膜がパターニングされた面に、前記第1絶縁膜よりガラスとの陽極接合性の良い第2絶縁膜を、前記第1絶縁膜を覆う厚さとなるまで成膜する工程と、
前記シリコン基板の前記第2絶縁膜が成膜された面を、前記第1絶縁膜が露出するまで平坦に研磨する工程と、
前記第1絶縁膜と前記個別電極を対応させて、前記シリコン基板の第2絶縁膜面と前記ガラス基板とを陽極接合する工程と、
を備えたことを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項2】
前記第1絶縁膜は、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化タンタル(Ta23)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)、窒化アルミ(AlN)、窒化ジルコニウム(ZrO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化イットリウム(Y23)、ジルコニウムシリケート(ZrSiO)、ハフニウムシリケート(HfSiO)、ジルコニウムアルミネート(ZrAlO)、窒素添加ハフニウムアルミネート(HfAlON)の中から選択されたものであることを特徴とする請求項1記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項3】
前記第2絶縁膜は、酸化シリコン(SiO2)であることを特徴とする請求項1または2記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項4】
前記ガラス基板に接合された前記シリコン基板を、前記ガラス基板が接合されていない面からウェットエッチングして、前記振動板を形成する工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の方法により静電アクチュエータを製造し、該静電アクチュエータを構成している前記振動板を液体吐出用の圧力室の壁面に適用することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−248467(P2009−248467A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99923(P2008−99923)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】