説明

静電チャック装置

【課題】記録素子基板のハンドリングにおいて、吸着固定を安定化させ、傷等をつけないことにより、生産効率や歩留まり低下を防止するための静電チャック装置を提供すること。
【解決手段】液体吐出基板を静電吸着力により把持する為の静電チャック装置で、金属基盤上に接着層を介して2つの異なる電極及び、絶縁性吸着層を有し、2つの異なる電極が液体吐出基板の長辺と平行に且つ、2つの異なる電極が液体吐出基板の液体吐出口列を跨ぐ様に配置されていると共に、2つの異なる電極上に接着層を介して積層された絶縁性吸着層の2つの異なる電極間に位置する液体吐出基板吸着表面がへこんでいることを特徴とする静電チャック装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッドの、特に、記録素子基板(液体吐出基板)の吸着固定による移載、ハンドリングに使用する静電チャック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、被記録媒体に対して記録液(インク)を吐出し付着させて記録を行う記録装置であり、いわゆるノンインパクト記録方式の記録装置である。このインクジェット記録装置は、高速に記録を行うことができる、様々な記録メディアを被記録媒体として記録を行うことが可能である、記録時における騒音がほとんど生じないといった優れた特徴を有している。このようなことから、インクジェット記録装置は、プリンタとして、またワードプロセッサ、ファクシミリ、複写機などの記録機構を担う装置として広く用いられている。
【0003】
このようなインクジェット記録装置は、一般に、液滴を吐出する吐出口と液滴を吐出させるためのエネルギーを発生する記録素子とを備える複数のインクジェット記録ノズルを有するインクジェット記録ヘッドと、このインクジェット記録ヘッドに対して液体を供給する液体供給系とを有している。インクジェット記録ヘッドには、記録素子が配列された基板に対して平行に記録液を吐出させる方式(エッジシュータ方式)と電気熱変換素子が配列された基板に対して垂直に記録液を吐出させる方式(サイドシュータ方式)がある。
【0004】
インクジェット記録方法としては、代表的な方法として、記録素子に電気熱変換素子を用いた方法がある。この方法では、液体に熱エネルギーを与え、その時の液体の相変化によって起こる、液体の発泡時(沸騰時)に生じる気泡圧力を記録液滴の吐出に利用したものである。このような記録方法で記録を行うインクジェット記録装置では、記録信号として電気パルスを電気熱変換素子に与えることによって、電気熱変換素子が熱エネルギーを発生して液体に膜沸騰を生じさせ、膜沸騰に伴って発生する圧力によって微小な吐出口から微少な液滴を吐出させて、被記録媒体に対し記録が行われる。
【0005】
図5(a)(b)に、従来より用いられているサイドシュータ方式のインクジェット記録ヘッドの主要部を構成する記録素子基板1を示す。
【0006】
記録素子基板1は、基板2上に成膜技術によって電気配線や、インクが充填される液室を構成するノズル部材5などが形成されて構成されている。基板2としては、例えば、厚さ0.5〜1mmのSi基板が用いられる。基板2には、外部から液室内に液体を受け入れるための、長溝状の貫通口からなるインク供給口3が開口されている。基板2上の、インク供給口3の両側の位置には、電気熱変換素子4がそれぞれ1列ずつ千鳥状に配列されている。
【0007】
液室9は、各インク供給口3に連通し、各インク供給口3の両側に形成された電気熱変換素子4を内包するように形成されている。液室9内には、インク供給口3から各電気熱変換素子4上の位置に通じるインク流路6が形成されており、各電気熱変換素子4の上方に吐出口7が開口している。
【0008】
一方、前述の記録素子基板1を用いて、インクジェットヘッドを製造する際には、従来、図5(a)(b)に示すように真空吸着固定による移載、すなわち、バキュームピンセット200によりハンドリングが行われている。この際、吐出口7を真空吸着すると、各インク供給口3が吸引口になり、空気中のごみが、各電気熱変換素子4の表面に堆積し、焦げの要因となる。また、空気中のごみが、吐出口7に付着し、目詰まりの要因となる。そのため、記録素子基板1のバキュームピンセット200は、吐出口周辺を除いた部分(図5(a)中の斜線部)を真空吸着している。
【0009】
また、一方、吸着固定の他方式として、静電吸着があり、半導体ウエハーの成膜プロセス装置のステージにおいて、静電チャックとして商品化されているが、チップをハンドリングするピンセットの様な製品は、見受けられない。
【0010】
特許文献1や特許文献2には、静電チャックに印加する電荷を変化させることで、ウエハーの脱着を容易にすることが開示されている。また、特許文献3では、金属基盤上に静電チャック用シートを接着剤を介して接着し、ポリイミドフィルムよりなる第1の絶縁層、第1の接着層、第1の絶縁層の被吸着物を載置する面に分極電荷を発生させる為の銅箔よりなる電極層、第2の接着層、及びポリイミドフィルムよりなる第2の絶縁層を順次積層してなる積層体であることを特徴とする静電チャック装置が開示されている。
【0011】
上記の静電チャック装置は、主に真空中でウエハーにイオンビームエッチングや、イオン注入、プラズマエッチング、プラズマCVD等の加工をするもので、ウエハーの配線面と反対側の裏面をチャックするのに用いられている。
【特許文献1】特許第02576294号公報
【特許文献2】特許第02779950号公報
【特許文献3】特公平5−87177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述したような記録素子基板1を用いたインクジェット記録ヘッドのチャッキングには、以下のような課題がある。
【0013】
近年のフォトグレードに代表されるような、記録画像の多色化、高画質化に伴い、インクジェット記録ヘッドとしては、ノズル数の増加などがはかられている。また、プリンタの低価格化に答えるため、記録素子基板の電子回路の高集積化による小型化、すなわち、チップシュリンクが進められている。
【0014】
図5に示すチップシュリンクされた記録素子基板1の幅Wが例えば1mmであった場合、この吸引口200vは幅が0.2mm以下となり、真空吸着面積が減少し、不安定な吸着固定を生じやすい。また、その外側の接触部200fの幅は片側で0.1mm程度しか取れず、現実にはナイフエッジのようになってしまう為、ノズル部材5を傷つけてしまったり、バキュームピンセット200と記録素子基板1のノズル部材5との位置合わせが困難である為に、位置合わせが不十分な状態で、ハンドリングを行うと、吐出口7に傷をつけてしまうことがあった。
【0015】
このように、多ノズル化され、かつ、チップシュリンクされた記録素子基板では、吐出口周辺を除いた真空吸着面積が減少し、不安定な吸着固定を生じやすい。よって、インクジェット記録ヘッド生産工程の記録素子基板のハンドリングにおいて、ピックアップエラーによる生産効率の低下や搭載位置精度ずれによる歩留まり低下が課題となってきている。
【0016】
更に、ハンドリング時の接触による吐出口の傷も歩留まり低下の原因になっている。前述の静電チャックにおいても、通常は、ウエハーの裏面をチャッキングする為、傷に対しては殆ど考慮されていなかった。
【0017】
本発明は上記の従来技術の問題点に着目してなされたものである。本発明の目的は、多ノズル化され、かつ、チップシュリンクされた記録素子基板のハンドリングにおいて、吸着固定を安定化させ、傷等をつけないことにより、生産効率や歩留まり低下を防止するための静電チャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明による表面に液体吐出口を持つ液体吐出基板を安定した静電吸着力により把持する為の静電チャックを用いると共に、静電チャックは、前記液体吐出基板に対し静電吸着力を発する前記2つの異なる電極が前記液体吐出基板の長辺と平行に且つ、前記2つの異なる電極が前記液体吐出基板の前記液体吐出口列を跨ぐ様に配置されていると共に、前記2つの異なる電極上に接着層を介して積層された絶縁性吸着層の前記2つの異なる電極間に位置する前記液体吐出基板吸着表面がへこんでいることを特徴とする。
【0019】
また、静電吸着力を発する前記2つの異なる電極が前記液体吐出基板の長辺と平行に且つ、前記2つの異なる電極が前記液体吐出基板の前記液体吐出口列を跨ぐ様に配置されていると共に、前記液体吐出基板の長辺と平行な2つの異なる電極と前記液体吐出基板の長辺と直角の少なくとも2つ以上の異なる電極が前記液体吐出基板の長辺と平行な2つの異なる電極の両端部に設けられていることを特徴とする。
【0020】
また、前記静電チャックの電極の一部に周囲と異なる形状を有する位置合せマークを設けることを特徴とする。
【0021】
また、静電吸着力を発する前記異なる電極の組みが複数あり、複数の電極の組みの配線ピッチが、前記液体吐出基板を配列する液体吐出ヘッドの液体吐出基板の配列ピッチに等しいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の静電チャック装置によれば、液体吐出口にゴミ等のかみこみを起こさない、正確なハンドリングが可能となる。さらに、複数の記録素子基板の吸着ハンドリングにおいても、液体吐出口にゴミ等のかみこみを起こさない、正確なハンドリングが可能となる。
【0023】
すなわち、複数の記録素子基板により多ノズル化された記録素子基板のハンドリングにおいて、吸着固定及び離脱を安定化させ、生産効率や歩留まり低下を防止することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【実施例】
【0025】
(第1の実施例)
図1(a)(b)は、第1の実施形態の静電チャック装置と静電吸着固定状態を示す図で、図2(a)(b)で示した記録素子基板(液体吐出基板)を吸着するものである。
【0026】
前述のように、記録素子基板1は、基板2上に成膜技術によって電気配線や、インクが充填される液室を構成する部材などが形成されて構成されている。基板2としては、例えば、厚さ0.5〜1mmのSi基板が用いられる。基板2には、外部から液室内に液体を受け入れるための、長溝状の貫通口からなる1つ以上のインク供給口3が開口されている。基板2上の、インク供給口3の両側の位置には電気熱変換素子(エネルギー発生手段)4がそれぞれ1列ずつ千鳥状に配列されている。
【0027】
液室は、インク供給口3に連通し、インク供給口3の両側に形成された電気熱変換素子4を内包するように形成されている。液室内には、インク供給口3から各電気熱変換素子4上の位置に通じるインク流路が形成されており、各電気熱変換素子4の上方に、それに対向する位置に吐出口7が開口している。
【0028】
インク供給口3は、基板2の結晶方位を利用し、異方性エッチングによって、電気熱変換素子4の形成面から裏面に向って広がった形状に開口されている。例えば、基板2がウエハー面に<100>、厚さ方向に<111>の結晶方位を持つ場合、アルカリ系(KOH、TMAH、ヒトラジンなど)の異方性エッチングにより、約54.7度の角度でエッチングが進行する。この方法を用いて、所望の深さ、広がり角を有するインク供給口3を形成することができる。また、液室を形成するノズル部材5は、フォトリソ技術によって所定のパターンで成膜された、エポキシ系材料の構造膜からなっている。この記録素子基板1は、電極6からの電気信号により、インク流路から供給されたインク中に電気熱変換素子4によって気泡を発生させて、吐出口7からインクを吐出させるものである。
【0029】
ところで、前述の従来例で述べたように、このような、記録素子基板1の移載、すなわち、ハンドリングには、真空吸着によるバキュームピンセットが、利用されている。一方、吸着固定の他の方式として、静電吸着があり、半導体ウエハーの成膜プロセス装置のステージにおいて、静電チャックとして商品化されている。
【0030】
本実施例では、上述の記録素子基板1を用いてインクジェットヘッドを製造する際に、静電吸着固定による移載、すなわち、バキュームを使わない静電チャック装置20により強力に吸着してハンドリングをするものであるが、特に吸着の際に、ゴミ等の異物をかみこむことにより吐出口7を傷つけることを防止するために、静電チャック装置20には吐出口7に接触しないように、前記液体吐出基板1の前記液体吐出口7を含む液体吐出口近傍の液体吐出基板吸着表面がへこんでいることを特徴である。すなわち、前記液体吐出基板に対し静電吸着力を発する2つの異なる電極25A1、25A2が前記液体吐出基板1の長辺と平行な2つの異なる電極25A1、25A2が前記液体吐出基板1の前記液体吐出口列7‘を跨ぐ様に配置されていると共に、前記2つの異なる電極25A1、25A2上に接着層26を介して積層された絶縁性吸着層27の前記2つの異なる電極25A1、25A2間に位置する前記液体吐出基板吸着表面がへこんで逃げ部27bを形成していることを特徴とする。
【0031】
本実施例について、図1(a)(b)を使用して、詳細に説明する。図1(a)は図1(b)のAA‘断面図で、 図1(b)は図1(a)の矢印Bから見たB矢視図である。図1(a)のように、静電チャック装置20は、金属基盤21の上に接着層22を介して電極端子25P、25Nとそれに接続された電極25A1、25A2、絶縁性吸着層27、絶縁性吸着層27の接着層26が積層されている。尚、絶縁性吸着層27には、耐電圧特性に優れたポリイミドフィルムを用いるのが好ましい。ポリイミドフィルムとしては、デュポン社製のカプトン、宇部興産製のユーピレックス等が挙げられる。また、接着層22、26には、ポリイミド系、エポキシ系、変性ポリアミド系のものが好ましい。
【0032】
ここで、前記液体吐出基板1に対し静電吸着力を発する2つの異なる電極25A1、25A2が前記液体吐出基板1の長辺と平行に且つ、前記液体吐出基板1の前記液体吐出口列7‘を跨ぐ様に配置されているため、例えば櫛歯状に多数の電極を用いて静電吸着力を発生する場合よりはるかに弱い静電吸着力となっている。これは、例えば櫛歯状に多数の電極を用いた場合、静電吸着力が強固であるため、前記液体吐出基板吸着表面が櫛歯の電極部による凹凸が形成され前記液体吐出基板のノズルを変形させてしまったり、静電吸着された前記液体吐出基板1の吸着を解除しようとしても前記液体吐出基板が幅が数mm程度、長さが10〜30mm程度と非常に小さいものであるため、例えばSiウエハーの様に機械的に取り外すことが出来ないといったことを防止することが可能になる。また、前記液体吐出基板1の長辺と平行で静電吸着力を発する2つの異なる電極25A1、25A2が前記液体吐出基板1の前記液体吐出口列7‘を跨ぐ様に配置され、前記2つの異なる電極25A1、25A2上に接着層26を介して積層された絶縁性吸着層27の、前記2つの異なる電極25A1、25A2間に位置する前記液体吐出基板吸着表面に凹み27bを形成することが可能である。この凹み27bは、静電チャック装置20の絶縁性吸着層27の接着の際に、シリコーンゴム等を使用して加圧加熱圧着することで形成可能である。これにより、絶縁性吸着層27と前記液体吐出口7を含む液体吐出口近傍が接触しないように出来るため、液体吐出口7をゴミ等のかみこみで傷付ける事がない。
【0033】
ここで、本実施例の静電チャック装置20の電極は図1(b)に示すように、電極25A1、25A2を配列した双極型を用いて、電極端子25P、25Nに2kVの電圧をかけて記録素子基板1との表面に電位差を生じさせ、吸着固定したところ、電位による破壊もなく、良好な吸着状態を示し、また、電位を解除した後は容易に取り外すことが出来た。
【0034】
(第2の実施例)
図3(a)(b)は、第2の実施形態の静電チャック装置の静電吸着固定状態を示す図で、図2(a)(b)で示した記録素子基板(液体吐出基板)を吸着するものである。
【0035】
本実施例について、図3(a)(b)を使用して、詳細に説明する。図3(a)は図3(b)のAA‘断面図で、図3(b)は図3(a)の矢印Bから見たB矢視図である。図3(b)のように、本実施例の静電チャック装置40は前述の実施例に加えて、電極25A1、25A2の両端部に電極25A1、25A2と直角の電極125A1、125A2を設けている。これは、前述の実施例のように前記液体吐出基板1の前記液体吐出口列7‘を跨ぐ様に配置されている平行な2つの異なる電極25A1、25A2での静電吸着力が弱めであるため、それを補うために静電吸着力を発生させるための電極を追加したものである。ここで、記録素子基板1の吐出口7は、記録素子基板1のインク供給口3のシールの関係上、記録素子基板1の長手両端部には配置されていないため、この部分の静電チャック装置40には凹み27bを形成する必要がなく、電極125A1、125A2を追加することが可能である。
【0036】
本実施例の静電チャック装置40の他の構成は、前述の実施例と同様である。なお、本実施例では、電極125A1、125A2を電極25A1、25A2の両端部にそれぞれ1組設けたが、スペースが許せば、2組以上設けた方が吸着力が上がる事は言うまでもない。したがって、必要且つ、離脱可能な吸着力が得られるように、両端部の電極数を設定することが好ましい。
【0037】
このように、本実施例の静電チャック装置に拠れば、記録素子基板の吸着力を必要に応じて、強めることが可能である。
【0038】
(第3の実施例)
図4(a)(b)は、第3の実施形態の静電チャック装置の静電吸着固定状態を示す図で、図2(a)(b)で示した記録素子基板(液体吐出基板)を吸着するものである。
【0039】
本実施例について、図4(a)(b)を使用して、詳細に説明する。図4(a)は図4(b)のAA‘断面図で、図4(b)は図4(a)の矢印Bから見たB矢視図である。図4(b)のように、本実施例の静電チャック装置60は図2(a)(b)で示した記録素子基板(液体吐出基板)のブラックインク用の記録素子基板1Bとカラーインク、例えばシアン、マゼンタ、イエロー用の記録素子基板それぞれ1C、1M、1Yの4つを、同時に吸着可能にしたものである。
【0040】
本実施例の静電チャック装置60は、前述の実施例同様に液体吐出口(不図示)が設けられたブラックインク用の記録素子基板1Bとカラーインク、例えばシアン、マゼンタ、イエロー用の記録素子基板それぞれ1C、1M、1Yの4つを使用してインクジェット記録ヘッド(不図示)を組み立てるために使用されるもので、液体吐出基板1B、1C、1M、1Yの長辺と平行な4組の静電吸着力を発する電極のペア65B1と65B2、65C1と65C2、65M1と65M2、65Y1と65Y2が、それぞれの記録素子基板の配列寸法とほぼ等しくなるピッチで配列され、電極端子65P、65Nと配線接続されている。
【0041】
そして、前記2つの異なる電極ペアの65B1と65B2、65C1と65C2、65M1と65M2、65Y1と65Y2が、前記液体吐出基板1の長辺と平行で前記液体吐出口列7‘を跨ぐ様に配置され、前記2つの異なる電極のペア65B1と65B2、65C1と65C2、65M1と65M2、65Y1と65Y2上に接着層66を介して積層された絶縁性吸着層67の前記2つの異なる電極のペア65B1と65B2、65C1と65C2、65M1と65M2、65Y1と65Y2それぞれの間に位置する前記液体吐出基板吸着表面に凹み67bを形成することが可能である。これについても前述の実施例同様、静電チャック装置60への絶縁性吸着層67の接着の際に、シリコーンゴム等を使用して加圧加熱圧着することで形成可能である。
【0042】
更に、前述の実施例と同様に、電極のペア65B1と65B2、65C1と65C2、65M1と65M2、65Y1と65Y2のそれぞれの両端部に直角の電極のペア165B1と165B2、165C1と165C2、165M1と165M2、165Y1と165Y2を設けて必要十分な静電吸着力を確保しているのは、前述の実施例と同様である。
【0043】
次に、本実施例の静電チャック装置60では、図4(b)のように、電極端子65P、65Nの一部に周囲と異なる形状を有する位置合せマーク65aを設け、さらに位置合せマーク65a近傍の金属基盤61に貫通穴61aを設け、カメラを使用して電極端子65P、65Nに設けられた位置合せマーク65aを認識する際に、透過光を照射可能にしたものである。これは、記録素子基板1を静電チャック装置により吸着してハンドリングしてインクジェット記録ヘッドを製造する際に、前述の実施例における逃げ部67bと記録素子基板1(1B、1C、1M、1Y)の液体吐出口7を含む液体吐出口近傍との位置合せは、0.1mm以下の精度で行う必要があり、カメラ等を使用して確実に位置合せが出来なければならない。
【0044】
従って、カメラを使用しての位置合せには、エッチングで作成する電極端子65P、65Nの一部に周囲と異なる形状を有する位置合せマーク65aを設けることが有効である。また、カメラを使用しての電極端子65P、65Nに設けられた位置合せマーク65aの認識においては、カメラ側からの反射照明では絶縁性吸着層67の表面反射の影響で位置認識精度が悪い為、本実施例のように、透過照明を使用することが有効である。そのためにも、本実施例の様に、位置合せマーク65a近傍の金属基盤61に貫通穴61aを設けた静電チャック装置60は、逃げ部67bと記録素子基板1(1B、1C、1M、1Y)の液体吐出口7を含む液体吐出口近傍との位置合せに有効である。
【0045】
このように、複数の記録素子基板を吸着する静電チャック装置において、逃げ部67と記録素子基板1B、1C、1M、1Yの液体吐出口を含む液体吐出口近傍との正確な位置合せのためには、あらかじめ静電チャック装置60の位置合せマーク65aと逃げ部67bの位置関係を測定しておき、記録素子基板1B、1C、1M、1Yを静電チャック装置60により吸着する際に、カメラにより位置合せマーク65aと記録素子基板1B、1C、1M、1Yの任意の位置合せマーク〔不図示〕を読み取り、その後あらかじめ測定しておいた静電チャック装置60の位置合せマーク65aと逃げ部67bの位置関係を補正することで、液体吐出口にゴミ等のかみこみを起こさない、正確な吸着位置決めが可能である。
【0046】
本実施例は、4つの記録素子基板1B、1C、1M、1Yに適応されるものについて述べたが、これに限られるわけではないことはいうまでもなく、近年多く使用されている写真画質のインクジェット記録装置のように6つの記録素子基板を使用するものでも、非常に有効である。
【0047】
以上説明したように、本実施例の静電チャック装置に拠れば、複数の記録素子基板を同時に吸着する場合の吸着力を必要に応じて、強めることが可能である。
【0048】
尚、本実施例では、記録素子基板1B、1C、1M、1Yに対し静電吸着力を発する電極ペア65B1と65B2、65C1と65C2、65M1と65M2、65Y1と65Y2が、共通の電極端子65P、65Nと接続され、同時に吸着及び、離脱を行うようにしているが、たとえば、複数の記録素子基板を個別に位置を補正して持ち替える場合等のように、個別の吸着及び、離脱が必要な場合は、電極端子を共通にしないで、個別にした方がよいのは言うまでもなく、本実施例での構成での対応が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】(a)(b) 本発明の第1実施形態の静電チャック装置を示す図である。
【図2】本発明に使用される記録素子基板を説明する図である。
【図3】(a)(b) 本発明の第2実施形態の静電チャック装置を示す図である。
【図4】(a)(b) 本発明の第3実施形態の静電チャック装置を示す図である。
【図5】(a)(b) 従来例を示す図
【符号の説明】
【0050】
1,1B、1C、1M、1Y 記録素子基板
2 基板
3 インク供給口
4 電気熱変換素子
5 ノズル部材
6 インク流路
7 吐出口
20,40、60 静電チャック装置
21、61 金属基盤
22、62 接着層
25A1、25A2、25P、25N、65P、65N、65B1、65B2、65C1、65C2、65M1、65M2、65Y1、65Y2、125A1、125A2、165B1、165B2、165C1、165C2、165M1、165M2、165Y1、165Y2 電極
27、67 絶縁性吸着層
27b、67b 逃げ部
65a 位置合せマーク
61a 貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に液体吐出口を持つ液体吐出基板を静電吸着力により把持する為の静電チャックで、金属基盤上に接着層を介して2つの異なる電極及び、絶縁性吸着層を有する静電チャック装置において、
前記液体吐出基板に対し静電吸着力を発する前記2つの異なる電極が前記液体吐出基板の長辺と平行に且つ、前記2つの異なる電極が前記液体吐出基板の前記液体吐出口列を跨ぐ様に配置されていると共に、前記2つの異なる電極上に接着層を介して積層された絶縁性吸着層の前記2つの異なる電極間に位置する前記液体吐出基板吸着表面がへこんでいることを特徴とする静電チャック装置。
【請求項2】
静電吸着力を発する前記2つの異なる電極が前記液体吐出基板の長辺と平行に且つ、前記2つの異なる電極が前記液体吐出基板の前記液体吐出口列を跨ぐ様に配置されていると共に、前記液体吐出基板の長辺と平行な2つの異なる電極と前記液体吐出基板の長辺と直角の少なくとも2つ以上の異なる電極が前記液体吐出基板の長辺と平行な2つの異なる電極の両端部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記静電チャックの電極の一部に周囲と異なる形状を有する位置合せマークを設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の静電チャック装置。
【請求項4】
静電吸着力を発する前記異なる電極の組みが複数あり、複数の電極の組みの配線ピッチが、前記液体吐出基板を配列する液体吐出ヘッドの液体吐出基板の配列ピッチに等しいことを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の静電チャック装置。

【図2】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−289540(P2006−289540A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111942(P2005−111942)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】