説明

静電チャック

【課題】接着剤層の厚さを均一にすることにより、吸着面の平面度と金属ベースの表面に対する吸着面の平行度とを高めることができる静電チャックを提供すること。
【解決手段】静電チャック1は、セラミック絶縁板10及び金属ベース30を備える。金属ベース30は、接着剤層20を介してセラミック絶縁板10に接合される。静電チャック1は、吸着用電極層51に電圧を印加させた際に生じる静電引力を用いて被吸着物をセラミック絶縁板10の第1主面11に吸着させる。また、接着剤層20内には、セラミック絶縁板10の第2主面12と金属ベース30の第1面31とに接触して接着剤層20の厚さを保持する複数のセラミック球21が配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハの固定、半導体ウェハの平面度の矯正、半導体ウェハの搬送などに用いられる静電チャックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体製造装置では、半導体ウェハ(例えばシリコンウェハ)に対してドライエッチング等の処理が行われている。ドライエッチングの精度を高めるためには、半導体ウェハを確実に固定しておく必要がある。そこで、半導体ウェハを固定する固定手段として、静電引力によって半導体ウェハを固定する静電チャックが提案されている。
【0003】
具体的に言うと、静電チャックは、セラミック絶縁板の内部に吸着用電極層を有しており、その吸着用電極層に電圧を印加させた際に生じる静電引力を用いて、半導体ウェハをセラミック絶縁板の吸着面に吸着させるようになっている。なお、静電チャックは、セラミック絶縁板の接合面に、接着剤層を介して金属ベースを接合することによって構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、静電チャックは、上記したように、ドライエッチング等の処理を行う際に、半導体ウェハをセラミック絶縁板の吸着面に吸着することを主な機能としている。従って、平面度が低い吸着面に半導体ウェハを吸着させると、吸着面に追従して半導体ウェハの表面の平面度も低下してしまう。このため、例えばドライエッチングを行って半導体ウェハ上にパターンを形成する場合に、処理の度合いがばらついて歩留まりが低下するなどの問題が生じやすい。よって、この種の静電チャックにおいては、セラミック絶縁板の吸着面に高い平面度が要求されている。また、処理度合いのバラツキをなくすために、金属ベースの表面に対する吸着面の平行度を高くすることも要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−287344号公報(図2など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に記載の静電チャックでは、上記した平面度及び平行度を十分に確保できないという問題がある。その原因は、セラミック絶縁板と金属ベースとを接着剤層を用いて接合していることにある。即ち、セラミック絶縁板の吸着面及び接合面や、金属ベースの表面及び裏面が、機械加工や研磨等によって高い平面度で仕上げられていたとしても、ペースト状の接着剤を塗布して均一な厚さの接着剤層を形成することは困難だからである。
【0007】
そこで、金属材料や樹脂材料によって形成されたスペーサを接着剤層内に配置することにより、セラミック絶縁板と金属ベースとの間を一定の間隔に保持することが考えられる。しかし、スペーサを金属材料によって形成した場合、スペーサの熱伝導率が高くなるため、セラミック絶縁板と金属ベースとの間で熱が伝達されやすくなる。その結果、吸着面においてスペーサの直上となる領域と直上とはならない領域との温度差が大きくなってしまい、吸着面に吸着された半導体ウェハを均一に加熱または冷却できないという問題がある。また、スペーサを樹脂材料によって形成した場合、セラミック絶縁板と金属ベースとを接合する際にスペーサが潰れてしまうため、接着剤層の厚さを均一に保持できないという問題がある。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、第1の目的は、接着剤層の厚さを均一にすることにより、吸着面の平面度と金属ベースの表面に対する吸着面の平行度とを高めることができる静電チャックを提供することにある。また、第2の目的は、スペーサを金属材料や樹脂材料によって形成した場合に生じる上記の問題を解消することができる静電チャックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、上記課題を解決するための手段としては、第1主面及び第2主面を有するとともに内部に吸着用電極層を有するセラミック絶縁板と、第1面及び第2面を有するとともに前記第1面が前記セラミック絶縁板の前記第2主面側に接着剤層を介して接合される金属ベースとを備え、前記吸着用電極層に電圧を印加させた際に生じる静電引力を用いて被吸着物を前記第1主面に吸着させる静電チャックにおいて、前記接着剤層内に、前記セラミック絶縁板の前記第2主面と前記金属ベースの前記第1面とに接触して前記接着剤層の厚さを保持する粒径の揃った複数のセラミック球が配置されていることを特徴とする静電チャックがある。
【0010】
従って、上記手段の静電チャックによれば、粒径の揃った複数のセラミック球が、セラミック絶縁板の接合面である第2主面と金属ベースの表面である第1面とに接触することにより、接着剤層の厚さが均一に保持される。即ち、各セラミック球は、セラミック絶縁板と金属ベースとの間を一定の間隔に保持するスペーサとして機能する。これにより、第2主面と第1面とが平行になるため、第2主面の反対側に位置する第1主面(セラミック絶縁板の吸着面)の平面度を高めることができるとともに、第1面(金属ベースの表面)に対する第1主面の平行度を高めることができる。その結果、第1主面に吸着された被吸着物の表面の平面度も高くなるため、被吸着物に対して処理を行う場合に、処理の度合いがばらつきにくくなり、被吸着物の歩留まり低下などの問題を防止できる。ここで、本明細書で述べられている「平面度」及び「平行度」の測定方法は、JIS B7513で定義されている精密定盤による測定方法に準じるものとする。
【0011】
しかも、上記手段によれば、金属材料よりも熱伝導率が低く樹脂材料よりも硬いセラミック材料を用いて、スペーサ(セラミック球)を形成している。これにより、スペーサを金属材料によって形成した場合に比べて、スペーサの熱伝導率を低く抑えることができるため、セラミック絶縁板と金属ベースとの間で熱が過度に伝達されなくなる。その結果、第1主面においてスペーサの直上となる領域と直上とはならない領域との温度差を小さくすることができ、第1主面に吸着された被吸着物を均一に加熱または冷却することができる。また、スペーサを樹脂材料によって形成した場合に比べて、セラミック絶縁板と金属ベースとを厚さ方向に押圧力を加えて接合する際にスペーサが潰れにくくなるため、接着剤層の厚さを均一に保持することができる。
【0012】
また、前記セラミック絶縁板の厚さは特に限定されないが、0.5mm以上7.0mm以下であってもよい。なお、セラミック絶縁板の厚さが1.0mm以下になると、セラミック絶縁板が薄くなりすぎるため、セラミック絶縁板の強度が低下して破損する可能性がある。一方、セラミック絶縁板の厚さが6.0mmよりも大きくなると、熱が伝達される距離(セラミック絶縁板の第1主面から金属ベースの第1面までの距離)が長くなるため、セラミック絶縁板の熱を接着剤層を介して金属ベース側に逃がしにくくなる。その結果、温度制御性が低下する場合もありうる。
【0013】
なお、セラミック絶縁板を構成する材料としては、アルミナ、イットリア(酸化イットリウム)、窒化アルミニウム、窒化ほう素、炭化珪素、窒化珪素などといった高温焼成セラミックを主成分とする焼結体などが挙げられる。また、用途に応じて、ホウケイ酸系ガラスやホウケイ酸鉛系ガラスにアルミナ等の無機セラミックフィラーを添加したガラスセラミックのような低温焼成セラミックを主成分とする焼結体を選択してもよいし、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ストロンチウムなどの誘電体セラミックを主成分とする焼結体を選択してもよい。
【0014】
なお、半導体製造におけるドライエッチングなどの各処理においては、プラズマを用いた技術が種々採用され、プラズマを用いた処理においては、ハロゲンガスなどの腐食性ガスが多用されている。このため、腐食性ガスやプラズマに晒される静電チャックには、高い耐食性が要求される。従って、前記セラミック絶縁板は、腐食性ガスやプラズマに対する耐食性がある材料、例えば、アルミナやイットリアを主成分とする材料からなることが好ましい。このようにすれば、セラミック絶縁板の第1主面の腐食を防止できるため、第1主面の平面度が低下しにくくなり、静電チャックの長寿命化を図ることができる。
【0015】
なお、前記セラミック絶縁板は、前記吸着用電極層を内部に有している。吸着用電極層を構成する材料としては特に限定されないが、同時焼成法によって吸着用電極層及びセラミック絶縁板を形成する場合、吸着用電極層中の金属粉末は、セラミック絶縁板の焼成温度よりも高融点である必要がある。例えば、セラミック絶縁板がいわゆる高温焼成セラミック(例えばアルミナ等)からなる場合には、吸着用電極層中の金属粉末として、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)等やそれらの合金が選択可能である。セラミック絶縁板がいわゆる低温焼成セラミック(例えばガラスセラミック等)からなる場合には、吸着用電極層中の金属粉末として、銅(Cu)または銀(Ag)等やそれらの合金が選択可能である。また、セラミック絶縁板が高誘電率セラミック(例えばチタン酸バリウム等)からなる場合には、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)等やそれらの合金が選択可能である。なお、吸着用電極層は、金属粉末を含む導体ペーストを用い、従来周知の手法、例えば印刷法等により塗布された後、焼成することで形成される。さらに、前記金属ベースを形成する材料としては、銅、アルミニウム、鉄、チタンなどを挙げることができる。
【0016】
また、接着剤層を形成する材料は、セラミック絶縁板と金属ベースとを接合させる力や複数のセラミック球を固着させる力が大きい材料であることが好ましく、例えばインジウムなどの金属材料や、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂などの樹脂材料を選択することができる。しかし、セラミック絶縁板の熱膨張係数と金属ベースの熱膨張係数との差が大きいため、前記接着剤層は、緩衝材としての機能を有する弾性変形可能な樹脂材料からなる接着剤であることが好ましく、特には、シリコーン樹脂からなる接着剤であることが好ましい。このようにすれば、高弾性率を有するシリコーン樹脂によって、セラミック絶縁板−金属ベース間に発生する熱応力を有効に緩和することができる。ここで、「シリコーン樹脂」とは、シロキサン結合(珪素と酸素との結合)による主骨格を有する高分子化合物のことをいう。
【0017】
また、前記接着剤層の厚さは特に限定されないが、例えば25μm以上700μm以下に設定されていてもよい。ところで、金属ベースは、セラミック絶縁板を保持する機能だけでなく、第1主面上の被吸着物から発生する熱を外部に放出して被吸着物を冷却する機能も有している。しかし、接着剤層は、セラミック材料や金属材料よりも熱伝導率がかなり低い樹脂材料からなる可能性が高いため、接着剤層の厚さが700μmよりも大きくなると、セラミック絶縁板−金属ベース間で熱が伝達されにくくなり、被吸着物からの熱を外部に放出することが困難になる。なお、接着剤層の厚さが25μm未満になると、セラミック絶縁板の第2主面や金属ベースの第1面に凹凸が生じた場合に、接着剤が行き渡らない未接着部分が生じやすくなる。さらに、前記接着剤層の厚さは、前記複数のセラミック球の平均粒径と等しいことが好ましい。このようにすれば、各セラミック球を第2主面及び第1面に対して確実に接触させることができるため、各セラミック球によって接着剤層の厚さを均一に保持することが容易になる。
【0018】
また、前記接着層内には、粒径の揃った複数のセラミック球が配置されている。ここで、「粒径の揃った」とは、大部分のセラミック球の粒径が、例えば、(接着剤層の厚さ)±10μm以内、好ましくは(接着剤層の厚さ)±5μm以内であることをいうものとする。セラミック球の粒径が上記の範囲内であれば、接着剤層の厚さに影響が出にくいと考えられるからである。また、「セラミック球」とは、セラミックを主成分とする球状物のことをいう。なお、セラミック球を構成する材料としては、窒化珪素、アルミナ、ジルコニア、酸化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化ほう素、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどが挙げられる。
【0019】
また、前記セラミック球の200℃以下における熱伝導率は特に限定されないが、例えば2W/(m・K)以上200W/(m・K)以下であってもよい。ここで、熱伝導率が上記の条件を満たすセラミック球の材料としては、窒化珪素(熱伝導率28W/(m・K))、アルミナ(熱伝導率30W/(m・K))、ジルコニア(熱伝導率4W/(m・K))、酸化珪素(熱伝導率30W/(m・K))、窒化アルミニウム(熱伝導率170W/(m・K))、炭化珪素(熱伝導率170W/(m・K))などが挙げられる。なお、セラミック球の200℃以下における熱伝導率が2W/(m・K)未満になると、セラミック絶縁板の第1主面においてセラミック球の直上となる領域と直上とはならない領域との温度差が大きくなるため、第1主面に吸着された被吸着物を均一に加熱または冷却することが困難になる。一方、セラミック球の200℃以下における熱伝導率が200W/(m・K)よりも大きくなると、セラミック絶縁板−金属ベース間で熱が伝達されすぎるため、セラミック絶縁板の第1主面の温度分布が不均一になりやすくなる。この場合、第1主面に吸着された被吸着物を均一に加熱または冷却できないなどの問題が生じやすくなる。
【0020】
さらに、前記セラミック球の熱膨張係数は特に限定されないが、例えば1.0×10−6/K以上15×10−6/K以下であってもよい。ここで、熱膨張係数が上記の条件を満たすセラミック球の材料としては、窒化珪素(熱膨張係数2.8×10−6/K)、アルミナ(熱膨張係数7.7×10−6/K)、ジルコニア(熱膨張係数10×10−6/K)、酸化珪素(熱膨張係数3×10−6/K)、窒化アルミニウム(熱膨張係数4.4×10−6/K)、炭化珪素(熱膨張係数4.1×10−6/K)などが挙げられる。なお、セラミック球の熱膨張係数が1.0×10−6/K未満になると、セラミック絶縁板との熱膨張係数差が非常に大きくなる。その結果、加熱⇔冷却の熱サイクルに曝されると、接着剤層がセラミック絶縁板から剥離して信頼性低下につながるおそれがある。一方、セラミック球の熱膨張係数が15×10−6/Kよりも大きくなると、温度変化に伴ってセラミック球の寸法が変化しやすくなるため、接着剤層に複数のセラミック球を配置したとしても、接着剤層にクラックが生じやすくなったり、接着剤層が剥れたりするなどの問題が生じる可能性がある。
【0021】
そして、前記複数のセラミック球は、前記セラミック絶縁板及び前記金属ベースよりも硬い材料からなることが好ましい。このようにすれば、セラミック絶縁板と金属ベースとを接合する際に、セラミック絶縁板及び金属ベースからなる積層体に対して厚さ方向に押圧力が加わったとしても、セラミック球が潰れる可能性が小さくなる。よって、各セラミック球によって接着剤層の厚さを均一に保持することが容易になる。ここで、セラミック絶縁体及び金属ベースよりも硬くなるセラミック球の材料としては、窒化珪素(ビッカース硬さ(HV)が1500)、アルミナ(ビッカース硬さ(HV)が1000〜1500)、ジルコニア(ビッカース硬さ(HV)が1300)、窒化アルミニウム(ビッカース硬さ(HV)が1100〜1600)、炭化珪素(ビッカース硬さ(HV)が2400)などが挙げられる。
【0022】
また、前記セラミック球の真球度も特に限定されないが、例えば2μm以下であってもよい。仮に、セラミック球の真球度が2μmよりも大きくなると、セラミック球の粒径のバラツキが大きくなるため、接着剤層に複数のセラミック球を配置したとしても、接着剤層の厚さを均一に保持できない可能性がある。この場合、セラミック絶縁板の平面度と金属ベースの第1面に対する第1主面の平行度とが低下するおそれがある。
【0023】
なお、セラミック球を配置する方法は特に限定されないが、例えば、前記セラミック球は、前記接着剤層における20mm角以上60mm角以下の領域ごとに1個の割合で配置されていてもよい。このようにした場合、セラミック球が接着剤層の平面方向に沿って均一に配置されるため、各セラミック球によって接着剤層の厚さをより均一に保持することができる。なお、セラミック球が、接着剤層における20mm角未満の領域ごとに1個の割合で配置されていると、接着剤層に多数のセラミック球を配置しなければならないため、静電チャックの製作コストが上昇してしまう。また、セラミック球の熱伝導率は接着剤層の熱伝導率とは異なるため、上記のように、セラミック球が、接着剤層における20mm角未満の領域ごとに1個の割合で配置されていると(即ち、セラミック球が密集して配置されていると)、セラミック絶縁板の第1主面の温度分布が不均一になりやすい。一方、セラミック球が、接着剤層における60mm角よりも広い領域ごとに1個の割合で配置されていると、接着剤層に配置されるセラミック球が少なくなるため、接着剤層に複数のセラミック球を配置したとしても、接着剤層の厚さを均一に保持できない可能性がある。なお、接着剤層の厚さを均一にするためには(換言すると、セラミック絶縁板の第2主面と金属ベースの第1面とを互いに平行に保持するためには)、接着剤層内に3個以上のセラミック球を配置することがよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を具体化した一実施形態の静電チャックを一部破断して示す斜視図。
【図2】静電チャックを示す概略断面図。
【図3】セラミック球の配置態様を示す説明図。
【図4】静電チャックの製造方法を示す説明図。
【図5】静電チャックの製造方法を示す説明図。
【図6】静電チャックの製造方法を示す説明図。
【図7】静電チャックの製造方法を示す説明図。
【図8】静電チャックの製造方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0026】
図1に示されるように、本実施形態の静電チャック1は、吸着面11に半導体ウェハ2(被吸着物)を吸着するための装置である。静電チャック1は、セラミック絶縁板10と、セラミック絶縁板10の接合面12側に接着剤層20を介して接合される金属ベース30とを備えている。
【0027】
図1,図2に示されるように、セラミック絶縁板10は、直径300mm×厚さ3.0mmの略円板状である。セラミック絶縁板10は、第1主面である吸着面11、及び、第2主面である接合面12を有している。なお本実施形態では、吸着面11及び接合面12が互いに平行に配置されるとともに、吸着面11及び接合面12の平面度がいずれも30μm以下となっている。セラミック絶縁板10は、アルミナを主成分とする焼結体からなり、第1層〜第6層のセラミック層(図示略)を積層した構造を有している。本実施形態において、セラミック絶縁板10の熱伝導率は32W/(m・K)、熱膨張係数は7.7ppm/℃(=7.7×10−6/K)となっている。なお、セラミック絶縁板10の熱膨張係数は、30℃〜250℃間の測定値の平均値をいう。また、セラミック絶縁板10のビッカース硬さ(HV)は1000となっている。
【0028】
また、セラミック絶縁板10は、冷却用ガス流路41を内部に有している。冷却用ガス流路41には、吸着面11に吸着された前記半導体ウェハ2を冷却するヘリウムガス(冷却用ガス)が流れるようになっている。そして、冷却用ガス流路41は、第3層のセラミック層内に、セラミック絶縁板10の平面方向に延びる複数の横穴42を備えている。各横穴42は、断面矩形状をなし、セラミック絶縁板10の厚さ方向の長さが0.5mm以上1.0mm以下(本実施形態では1.0mm)に設定されるとともに、セラミック絶縁板10の平面方向の長さが0.5〜2.0mmに設定されている。各横穴42は、セラミック絶縁板10の中心部C1(図3参照)を基準として等角度(60°)間隔で配置されるとともに、中心部C1から外周部に向かって放射状に延びている。
【0029】
図1に示される冷却用ガス流路41は、第1層のセラミック層内に一対の円環状ガス流路(図示略)を備えている。両円環状ガス流路は、中心部C1に対して平面視同心円状に配置されている。また、外周側の円環状ガス流路には、前記吸着面11にて開口する複数のガス噴出口(図示略)が設けられている。各ガス噴出口は、円形状をなし、中心部C1を基準として等角度間隔で配置されている。
【0030】
さらに図1に示されるように、冷却用ガス流路41は、前記セラミック絶縁板10の厚さ方向に延びる直径0.1〜1.0mmの縦穴47,48をさらに備えている。内周側の縦穴47は、中央部分が横穴42に連通するとともに、吸着面11側の端部が内周側の円環状ガス流路に連通する一方、接合面12側の端部が接合面12にて開口している。また、外周側の縦穴48は、吸着面11側の端部が外周側の円環状ガス流路に連通する一方、接合面12側の端部が横穴42に連通している。
【0031】
図1,図2に示されるように、セラミック絶縁板10は、吸着用電極層51を内部に有している。吸着用電極層51は、タングステンを主成分として形成された層であって、セラミック絶縁板10内において横穴42よりも吸着面11側(具体的には、前記第3層のセラミック層上)に配置されている。なお、吸着用電極層51は、第3層〜第5層のセラミック層を貫通するビアホール導体(図示略)の上端面に電気的に接続され、ビアホール導体の下端面は、第5層のセラミック層の下面上に形成された第1パッド(図示略)に電気的に接続されている。さらに、第6層のセラミック層の所定箇所には、第1パッドを露出させる第1開口部(図示略)が形成され、第1パッドの表面上には、第1端子ピン(図示略)がロウ付け、はんだ付け、導電性接着剤などによって接合されている。第1端子ピンは、前記金属ベース30に設けられた第1凹部(図示略)内に収容されている。そして、第1端子ピンには、外部端子(図示略)が接合された状態で電圧が印加されるようになっている。
【0032】
図1,図2に示されるように、セラミック絶縁板10は、同セラミック絶縁板10を加熱する複数のヒータ電極層61を内部に有している。各ヒータ電極層61は、タングステンを主成分として形成された層であって、セラミック絶縁板10内において横穴42よりも前記接合面12側(具体的には、第6層のセラミック層上)に配置されている。また、各ヒータ電極層61は、前記中心部C1に対して渦巻き状に周回するように配置されている。これにより、各ヒータ電極層61は、横穴42と交差するため、セラミック絶縁板10を厚さ方向から見たときに横穴42と殆ど重ならないようになっている。なお、ヒータ電極層61は、第5層のセラミック層の下面上に形成された第2パッド(図示略)に電気的に接続されている。さらに、第6層のセラミック層の所定箇所には、第2パッドを露出させる第2開口部(図示略)が形成され、第2パッドの表面上には、第2端子ピン(図示略)がロウ付け、はんだ付け、導電性接着剤などによって接合されている。第2端子ピンは、金属ベース30に設けられた第2凹部(図示略)内に収容されている。そして、第2端子ピンには、外部端子(図示略)が接合された状態で電圧が印加されるようになっている。
【0033】
図1,図2に示されるように、金属ベース30は、アルミニウムを主成分とする材料からなっている。本実施形態において、金属ベース30の熱伝導率は236W/(m・K)、熱膨張係数は約23ppm/℃(=約23×10−6/K)となっている。なお、金属ベース30の熱膨張係数は、0℃〜ガラス転移温度(Tg)間の測定値の平均値をいう。また、金属ベース30のビッカース硬さ(HV)は50となっている。金属ベース30は、直径340mm×厚さ30mmの略円板状である。即ち、金属ベース30の直径は、セラミック絶縁板10の直径(300mm)よりも大きく設定されている。金属ベース30は、セラミック絶縁板10が接合される第1面31と、第1面31の反対側に位置する第2面32とを有している。なお本実施形態では、第1面31及び第2面32が互いに平行に配置されるとともに、第1面31及び第2面32の平面度が30μm以下となっている。
【0034】
また、金属ベース30は、冷却用流体流路71,72を内部に有している。冷却用流体流路71,72には、セラミック絶縁板10を冷却する冷却水(冷却用流体)が流れるようになっている。各冷却用流体流路71,72は、前記中心部C1に対して渦巻き状に周回するように配置されている。内周側の冷却用流体流路71には、第2面32にて開口する複数の冷却水通路73が設けられている。また、外周側の冷却用流体流路72は、セラミック絶縁板10及び金属ベース30を厚さ方向から見たときに、セラミック絶縁板10よりも外周側に延びている。
【0035】
さらに図1に示されるように、金属ベース30は、同金属ベース30の厚さ方向に延びる直径2.5mmの連通穴33を備えている。この連通穴33には、外部配管(図示略)を介してヘリウムガスが供給されるようになっている。連通穴33は、第1面31側の端部が前記縦穴47に連通する一方、第2面32側の端部が第2面32にて開口している。そして、連通穴33は、冷却用流体流路71,72を避けて配置されている。具体的に言うと、連通穴33は、冷却用流体流路71と冷却用流体流路72との間に配置されている。
【0036】
図1〜図3に示されるように、前記接着剤層20は、シリコーン樹脂からなる接着剤であり、接着剤層20の厚さは300μmに設定されている。本実施形態において、接着剤層20の熱伝導率は1.0W/(m・K)、熱膨張係数は約200ppm/℃(=約200×10−6/K)となっている。なお、接着剤層20の熱膨張係数は、0℃〜ガラス転移温度(Tg)間の測定値の平均値をいう。
【0037】
図2,図3に示されるように、接着剤層20内には、粒径の揃った複数のセラミック球21が配置されている。各セラミック球21は、前記セラミック絶縁板10の前記接合面12と前記金属ベース30の前記第1面31とに接触することによって、接着剤層20の厚さを保持するようになっている。なお、各セラミック球21の平均粒径は、接着剤層20の厚さと等しくなっており、本実施形態において300μmに設定されている。また、各セラミック球21は、真球度が2μmとなる略球状をなしている。さらに、各セラミック球21は、高温焼成セラミックの一種である窒化珪素の焼結体からなっている。本実施形態において、セラミック球21の200℃以下における熱伝導率は28W/(m・K)、熱膨張係数は2.8×10−6/Kとなっている。なお、セラミック球21の熱膨張係数は、0℃〜ガラス転移温度(Tg)間の測定値の平均値をいう。また、セラミック球21のビッカース硬さ(HV)は1500となっている。即ち、各セラミック球21は、セラミック絶縁板10(ビッカース硬さ1000)及び金属ベース30(ビッカース硬さ50)よりも硬い材料からなっている。
【0038】
図3に示されるように、各セラミック球21は、接着剤層20の平面方向に沿って配置されている。具体的に言うと、接着剤層20内において前記中心部C1となる箇所には、1個のセラミック球21が配置されている。また、接着剤層20内には、複数のセラミック球21からなる円環状のセラミック球群22,23が配置されている。両セラミック球群22,23は、中心部C1に対して平面視同心円状に配置されている。内周側のセラミック球群22を構成するセラミック球21は、中心部C1を基準として等角度(45°)間隔で配置されている。一方、外周側のセラミック球群23を構成するセラミック球21は、中心部C1を基準として等角度(30°)間隔で配置されている。また、各セラミック球21は、セラミック絶縁板10を厚さ方向から見たときに前記縦穴47及び前記連通穴33と重ならないように配置されている。さらに、各セラミック球21は、セラミック絶縁板10を厚さ方向から見たときに前記第1,第2開口部及び第1,第2凹部を避けて配置されている。また、隣接するセラミック球21の中心間距離(ピッチ)は、40mm以上50mm以下に設定されている。そして、セラミック球21は、接着剤層20における42mm角の領域ごとに1個の割合で配置されている。
【0039】
なお、本実施形態の静電チャック1を使用する場合には、吸着用電極層51に3kVの電圧を印加して静電引力を発生させ、発生した静電引力を用いて半導体ウェハ2を前記吸着面11に吸着させる。このとき、冷却用ガス流路41を流れるヘリウムガスが、ガス噴出口から吸着面11と半導体ウェハ2の裏面との間に供給され、半導体ウェハ2が冷却される。また、ヒータ電極層61に電圧を印加してセラミック絶縁板10を加熱することにより、吸着面11に吸着されている半導体ウェハ2が加熱される。
【0040】
次に、静電チャック1の製造方法を説明する。
【0041】
まず以下の手順でスラリーを調製する。アルミナ粉末(92重量%)に、MgO(1重量%)、CaO(1重量%)、SiO(6重量%)を混合し、ボールミルで50〜80時間湿式粉砕した後、脱水乾燥することにより、粉末を得る。次に、得られた粉末に、メタクリル酸イソブチルエステル(3重量%)、ブチルエステル(3重量%)、ニトロセルロース(1重量%)、ジオクチルフタレート(0.5重量%)を加え、さらにトリクロロエチレン、n−ブタノールを溶剤として加えた後、ボールミルで湿式混合することにより、アルミナグリーンシートを形成する際の出発材料となるスラリーを得る。
【0042】
次に、このスラリーを、減圧脱泡した後、離型性の支持体(図示略)上に流し出して冷却することにより、溶剤を発散させる。その結果、所望の厚さの第1層〜第6層のアルミナグリーンシート(第1層〜第6層のセラミック層となるべき未焼結セラミック層)が形成される。なお、第2層〜第6層のアルミナグリーンシートには、縦穴47を形成するための貫通孔が設けられ、第2層,第3層のアルミナグリーンシートには、縦穴48を形成するための貫通孔が設けられる。また、第1層のアルミナグリーンシートには、円環状ガス流路を形成するための貫通孔が設けられ、第4層のアルミナグリーンシートには、横穴42を形成するための貫通孔が設けられる。さらに、第6層のアルミナグリーンシートには、第1,第2凹部を形成するための貫通孔が設けられる。また、第3層〜第5層のアルミナグリーンシートには、ビアホール導体を形成するための貫通孔が設けられる。なお、各貫通孔は、アルミナグリーンシートを型抜きまたは機械加工することにより形成される。
【0043】
また、上記したアルミナグリーンシート用の粉末にタングステン粉末を混合する。これをアルミナグリーンシートの作製時と同様の方法によってスラリー状にし、メタライズペーストを得る。
【0044】
次に、第3層のアルミナグリーンシートの上面上に、従来周知のペースト印刷装置(例えばスクリーン印刷装置)を用いて、吸着用電極層51となるメタライズペーストを印刷塗布する。また、第6層のアルミナグリーンシートの上面上に、ペースト印刷装置を用いて、ヒータ電極層61となるメタライズペーストを印刷塗布する。さらに、第3層〜第5層のアルミナグリーンシートに設けられた貫通孔内に、ビアホール導体となるメタライズペーストを印刷塗布する。また、第6層のアルミナグリーンシートの下面上に、第1パッド及び第2パッドとなるメタライズペーストを印刷塗布する。この後、印刷されたメタライズペーストを室温で乾燥する。
【0045】
次に、冷却用ガス流路41、第1,第2開口部及びビアホール導体が形成されるように各貫通孔を位置合わせした状態で、第1層〜第6層のアルミナグリーンシートを熱圧着し、厚さを約5mmとしたグリーンシート積層体を形成する。さらに、グリーンシート積層体を、所定の円板状(本実施形態では、直径300mmの円板状)にカットする。
【0046】
次に、上記グリーンシート積層体を大気中にて250℃で10時間脱脂し、さらに還元雰囲気中1400〜1600℃にて所定時間焼成する。その結果、アルミナ及びタングステンが同時焼結し、所望構造のセラミック絶縁板10が得られる。この焼成により、寸法が約20%小さくなるため、セラミック絶縁板10の厚さは約4mmとなる。その後、セラミック絶縁板10の表裏両面を研磨することにより、セラミック絶縁板10の厚さを3mmにする加工を行うとともに、吸着面11及び接合面12の平面度を30μm以下とする加工を行う。
【0047】
次に、第1,第2端子ピンにニッケルめっきを施し、ニッケルめっきを施した第1,第2端子ピンを第1,第2パッドに対してロウ付け、はんだ付け、導電性接着剤などによって接合することにより、セラミック絶縁板10を完成させる。
【0048】
また、セラミック球21を作製し、あらかじめ準備しておく。セラミック球21は、例えば以下のように作製される。まず、窒化珪素粉末に、希土類、チタン族、土酸金属、アルミニウム族、炭素族の元素群から選択された少なくとも1種を、焼結助剤として1〜15重量%、好ましくは2〜8重量%の割合で混合する。次に、得られた混合物に、水系溶媒を加えてアトライターなどの粉砕機で湿式混合することにより、泥漿を得る。そして、得られた泥漿を、スプレードライなどによって乾燥させ、原料粉末を得る。
【0049】
次に、金型プレスを構成する第1型(上型)、第2型(下型)、第3型(左型)及び第4型(右型)を組み合わせることにより、内部にセラミック球21と同一形状かつ同一体積のキャビティを構成する。この状態で、得られた原料粉末をキャビティ内に充填する。そして、金型プレスの上下方向に押圧力を印加し、キャビティ内に充填された原料粉末を圧縮することにより、成形体を得る。その後、第1型、第2型、第3型及び第4型を互いに離間させて、球状の成形体を取り出す。
【0050】
なお本実施形態では、原料粉末を一方向のみに圧縮することによって成形体を形成しているため、得られた成形体には、密度の高い部分と低い部分とが生じてしまう。そこで本実施形態では、ゴム型(図示略)を用いて乾式CIP(静水圧プレス)を行っている。これにより、成形体の密度分布が略一定となり、緻密な成形体となる。
【0051】
次に、得られた成形体の焼成を行い、球状の窒化珪素質焼結体であるセラミック球21を得る。なお本実施形態では、成形体の焼成が、樹脂抜き焼成、一次焼成及び二次焼成の3段階からなっている。詳述すると、一次焼成では、上記成形体を、窒素を含む0.1MPa以上1.0MPa以下の非酸化性雰囲気中で、1900℃以下にて所定時間焼成する。その結果、窒化珪素が焼結し、焼結体密度が78%以上(好ましくは90%以上)となる。続く二次焼成では、一次焼成後の成形体を、窒素を含む1MPa以上100MPa以下の非酸化性雰囲気中で、1600〜1950℃にて所定時間焼成する。その結果、窒化珪素が完全に焼結し、セラミック球21が得られる。
【0052】
その後、得られたセラミック球21を、従来周知のボール研磨機を用いて研磨する。具体的に言うと、まず、ボール研磨機が備える上下一対の砥石の間にセラミック球21を供給する。そして、上側の砥石を回転させてセラミック球21を循環させることにより、セラミック球21の表面が研磨され、セラミック球21の真球度が2μmとなる。
【0053】
次に、金属ベース30の第1面31上に、従来周知のスクリーン印刷装置を用いて、ペースト状とした接着剤を1回または複数回印刷塗布し、所定厚さの接着剤層20を形成する(図5参照)。なお、本実施形態の接着剤はシリコーン樹脂からなる接着剤であるため、トルエンやアセトンなどの有機溶剤を含んでいる。また、接着剤層20の厚さは、セラミック絶縁板10を金属ベース30に接合する際に圧縮されることを考慮して、接合後の接着剤層20の厚さ(セラミック球21の粒径)の例えば1.4倍に設定される。
【0054】
次に、接着剤層20の表面に、上記した複数のセラミック球21を載置する(図5,図6参照)。具体的に言うと、まず、治具本体81及び底板82からなる略円板状の治具80(図5参照)を用意する。治具本体81は、セラミック球21を配置するための複数の位置決め孔83を有している。個々の位置決め孔83は、断面円形状をなし、内径がセラミック球21の平均粒径(300μm)よりもやや大きくなっている。また、底板82は、各位置決め孔83を治具本体81の下側から塞ぐ機能を有している。そして、各位置決め孔83内にセラミック球21を挿入することにより、各セラミック球21が治具80の平面方向に沿って配置される。
【0055】
次に、接着剤層20の上方に治具80を配置する。そして、底板82を治具80の平面方向(図5に示す矢印F1方向)に引き抜くことにより、各位置決め孔83内にあるセラミック球21が落下して接着剤層20上に載置される(図6参照)。このとき、セラミック球21は、底部が接着剤層20内に埋まった状態で仮固定される。さらに、上記したセラミック絶縁板10を、吸着面11を上にした状態で接着剤層20及びセラミック球21の上に載置する(図7参照)。そして、セラミック絶縁板10の吸着面11上に錘84を載置して真空脱泡した後、垂直方向(図8に示す矢印F2方向)に押圧力を加える。その結果、接着剤層20が厚さ方向に圧縮されるとともに、各セラミック球21が接着剤層20中に埋め込まれてセラミック絶縁板10の接合面12と金属ベース30の第1面31との両方に接触する(図8参照)。なお、セラミック絶縁板10と金属ベース30との接合部分の外周縁からは余剰の接着剤がはみ出すが、接着後に研削等によって接着剤の余剰部分を除去すればよい。また、錘84の重量は、セラミック球21を接着剤層20中に埋め込ませて第1面31に接触させることができる程度に設定されることが好ましい。具体的には、錘84の重量を、例えば接合面12において35〜45g/cmの面圧が得られる程度に設定することが好ましい。
【0056】
その後、所定時間(20〜24時間)放置し、接着剤層20を硬化させる。これにより、接着剤層20を介してセラミック絶縁板10が金属ベース30に接合されるとともに、各セラミック球21が互いに固着して移動不能となる。その結果、接着剤層20の厚さが均一(本実施形態では、セラミック球21の平均粒径と同じ長さ)となり、かつ接合面12と第1面31とが平行となる静電チャック1が完成する。
【0057】
次に、静電チャックの評価方法及びその結果を説明する。
【0058】
まず、複数の測定用サンプルを次のように準備した。本実施形態と同じ静電チャックを準備し、これを実施例とした。即ち、実施例の静電チャックでは、接着剤層20における42mm角の領域ごとに1個の割合でセラミック球21を配置し、セラミック球21の200℃以下における熱伝導率を28W/(m・K)、熱膨張係数を2.8×10−6/Kに設定した。また、接着剤層20内にセラミック球21が配置されていない静電チャックを準備し、これを比較例1とした。さらに、接着剤層20における85mm角の領域ごとに1個の割合でセラミック球21を配置した静電チャックを準備し、これを比較例2とした。また、200℃以下における熱伝導率が240W/(m・K)であるセラミック球を接着剤層20内に配置した静電チャックを準備し、これを比較例3とした。また、セラミック球21の代わりに、熱膨張係数が26×10−6/Kである金属ボールを接着剤層20内に配置した静電チャックを準備し、これを比較例4とした。
【0059】
その結果、比較例1では、セラミック絶縁板10の吸着面11の平面度が50μmとなり、比較例2では、吸着面11の平面度が43μmとなった。一方、実施例及び比較例3,4では、吸着面11の平面度が30μmとなった。以上により、実施例及び比較例3,4の平面度は、比較例1,2の平面度よりも小さいことが確認された。従って、接着剤層20内にセラミック球21を配置し、接着剤層20における42mm角の領域ごとに1個の割合でセラミック球21を配置すれば、吸着面11の平面度が高くなることが証明された。
【0060】
また、比較例3では、吸着面11においてセラミック球21の直上となる領域と直上とはならない領域との温度差が0.236℃となった。一方、実施例及び比較例1,2,4では、吸着面11においてセラミック球21の直上となる領域と直上とはならない領域との温度差が0.022℃となった。以上により、実施例及び比較例1,2,4の温度差は、比較例3の温度差よりも小さいことが確認された。従って、セラミック球21の200℃以下における熱伝導率を28W/(m・K)とすれば、吸着面11における温度差が小さくなるため、吸着面11に吸着された半導体ウェハ2を均一に加熱または冷却できることが証明された。
【0061】
さらに、各測定用サンプル(実施例、比較例1〜4)に対して、30℃⇔100℃の熱サイクルを180回付与した。その結果、比較例4の静電チャックでは、熱サイクルが130回付与された時点で、セラミック絶縁板10及び金属ベース30からの接着剤層20の剥れが生じた。一方、実施例及び比較例1〜3の静電チャックでは、熱サイクルを180回付与した後であっても、接着剤層20の剥れは生じなかった。従って、熱膨張係数が26×10−6/Kである金属ボールではなく、熱膨張係数が2.8×10−6/Kであるセラミック球21を接着剤層20内に配置すれば、接着剤層20の剥れが生じにくくなるため、静電チャックの信頼性が向上することが証明された。
【0062】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0063】
(1)本実施形態の静電チャック1によれば、粒径の揃った複数のセラミック球21が、セラミック絶縁板10の接合面12と金属ベース30の第1面31とに接触することにより、接着剤層20の厚さが均一に保持される。即ち、各セラミック球21は、セラミック絶縁板10と金属ベース30との間を一定の間隔に保持するスペーサとして機能する。なお本実施形態では、接合面12及び第1面31の平面度が高い(30μm以下)ことから、接合面12と第1面31とが略平行になる。このため、接合面12の反対側に位置する吸着面11の平面度が高くなるとともに、第1面31に対する吸着面11の平行度が高くなる。その結果、吸着面11に吸着された半導体ウェハ2の表面の平面度も高くなるため、半導体ウェハ2に対して処理を行う場合に、処理の度合いがばらつきにくくなり、半導体ウェハ2の歩留まり低下などの問題を防止できる。
【0064】
(2)本実施形態では、金属材料よりも熱伝導率が低く樹脂材料よりも硬いセラミック材料を用いて、スペーサ(セラミック球21)を形成している。これにより、スペーサを金属材料によって形成した場合に比べて、スペーサ(セラミック球21)の熱伝導率を低く抑えることができるため、セラミック絶縁板10と金属ベース30との間で熱が過度に伝達されなくなる。その結果、吸着面11においてセラミック球21の直上となる領域と直上とはならない領域との温度差を小さくすることができ、吸着面11に吸着された半導体ウェハ2を均一に加熱または冷却することができる。また、スペーサを樹脂材料によって形成した場合に比べて、セラミック絶縁板10と金属ベース30とを接合する際にスペーサ(セラミック球21)が潰れにくくなるため、接着剤層20の厚さを均一に保持することができる。
【0065】
(3)本実施形態のセラミック球21は、真球度が2μmとなる略球状である。これにより、セラミック球21の外周面が、セラミック絶縁板10の接合面12と金属ベース30の第1面31とに点接触するようになる。その結果、セラミック球21とセラミック絶縁板10との間やセラミック球21と金属ベース30との間に接着剤層20が挟み込まれにくくなるため、接着剤層20の厚さに誤差が生じにくくなる。また、静電チャック1の製造時において、治具80の治具本体81が有する位置決め孔83内にセラミック球21を挿入する際(図5参照)に、セラミック球21の向きを考慮しなくても済む。さらに、セラミック球21を接着剤層20上に載置する際(図6参照)においても、セラミック球21の向きを考慮しなくても済む。しかも、セラミック球21を接着剤層20上に載置する際に、セラミック球21の外周面は接着剤層20の表面に点接触するため、セラミック球21と接着剤層20との接触面積が小さくなり、セラミック球21から接着剤層20に加わる圧力が高くなる。これにより、セラミック球21が接着剤層20内に埋まって仮固定されやすくなるため、セラミック球21が位置ずれしにくくなる。また、接着剤層20内のボイドを減らすことができる。従って、接着剤層20のボイドを確実に生めることができるため、例えばセラミック絶縁板10の熱を接着剤層20を介して均一に伝達させることができる。
【0066】
(4)本実施形態のセラミック絶縁板10は、セラミックグリーンシートの成形技術(即ち、セラミック層の成形技術)が確立されているアルミナを主成分とする材料からなるため、冷却用ガス流路41、吸着用電極層51及びヒータ電極層61などを容易に形成することができる。また、本実施形態の金属ベース30は、微細加工が容易な金属材料(本実施形態ではアルミニウム)からなるため、冷却用流体流路71,72を容易に形成することができる。
【0067】
なお、本実施形態を以下のように変更してもよい。
【0068】
・上記実施形態の静電チャック1の製造方法では、金属ベース30の第1面31上に接着剤層20を形成した後、接着剤層20上にセラミック球21及びセラミック絶縁板10を載置した状態で、垂直方向に押圧力を加えることによりセラミック球21を接着剤層20内に埋め込んでいた。しかし、静電チャック1の製造方法は上記実施形態に限定される訳ではない。例えば、第1面31上に複数のセラミック球21を接着等によって固定した後で、第1面31上に接着剤層20を形成してもよい。また、セラミック絶縁板10の接合面12に接着剤層20を形成した後、接着剤層20上にセラミック球21及び金属ベース30を載置した状態で、垂直方向に押圧力を加えることによりセラミック球21を接着剤層20内に埋め込んでもよい。
【0069】
・上記実施形態の静電チャック1の製造方法では、金属ベース30の第1面31上に、スクリーン印刷装置を用いてペースト状の接着剤を印刷塗布することにより、接着剤層20を形成していた。しかし、セラミック絶縁板10及び金属ベース30をシート状の接着剤層を挟んで接合することにより、接着剤層20を形成してもよい。例えば、シート状の接着剤層の片面に複数のセラミック球21を載置しておき、セラミック球21が載置された接着剤層を、セラミック絶縁板10と金属ベース30とで挟み込むようにしてもよい。
【0070】
・上記実施形態の静電チャック1では、半導体ウェハ2を被吸着物としていたが、液晶パネルなどの他の部材を被吸着物としてもよい。
【0071】
次に、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0072】
(1)第1主面及び第2主面を有するとともに内部に吸着用電極層を有するセラミック絶縁板と、第1面及び第2面を有するとともに前記第1面が前記セラミック絶縁板の前記第2主面側に接着剤層を介して接合される金属ベースとを備え、前記吸着用電極層に電圧を印加させた際に生じる静電引力を用いて被吸着物を前記第1主面に吸着させる静電チャックにおいて、前記接着剤層内に、前記セラミック絶縁板の前記第2主面と前記金属ベースの前記第1面とに接触して前記接着剤層の厚さを保持する粒径の揃った複数のセラミック球が配置され、前記複数のセラミック球が窒化珪素からなることを特徴とする静電チャック。
【符号の説明】
【0073】
1…静電チャック
2…被吸着物としての半導体ウェハ
10…セラミック絶縁板
11…第1主面としての吸着面
12…第2主面としての接合面
20…接着剤層
21…セラミック球
30…金属ベース
31…第1面
32…第2面
51…吸着用電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面及び第2主面を有するとともに内部に吸着用電極層を有するセラミック絶縁板と、第1面及び第2面を有するとともに前記第1面が前記セラミック絶縁板の前記第2主面側に接着剤層を介して接合される金属ベースとを備え、前記吸着用電極層に電圧を印加させた際に生じる静電引力を用いて被吸着物を前記第1主面に吸着させる静電チャックにおいて、
前記接着剤層内に、前記セラミック絶縁板の前記第2主面と前記金属ベースの前記第1面とに接触して前記接着剤層の厚さを保持する粒径の揃った複数のセラミック球が配置されていることを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記接着剤層の厚さは、25μm以上700μm以下であり、前記複数のセラミック球の平均粒径と等しいことを特徴とする請求項1に記載の静電チャック。
【請求項3】
前記接着剤層がシリコーン樹脂からなる接着剤であることを特徴とする請求項1または2に記載の静電チャック。
【請求項4】
前記セラミック球は、前記接着剤層における20mm角以上60mm角以下の領域ごとに1個の割合で配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項5】
前記セラミック球の200℃以下における熱伝導率は、2W/(m・K)以上200W/(m・K)以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項6】
前記セラミック球の熱膨張係数は、1.0×10−6/K以上15×10−6/K以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項7】
前記複数のセラミック球は、前記セラミック絶縁板及び前記金属ベースよりも硬い材料からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の静電チャック。
【請求項8】
前記セラミック球の真球度は2μm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の静電チャック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−61049(P2011−61049A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209947(P2009−209947)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】