説明

静電結合型センサ及びそれを用いた終点検出方法及び終点検出装置

【課題】導電性膜の研磨終点を検出するのに極めて好適なセンサを提供して該研磨終点を高い精度で確実に検出し、ノイズの発生がなく、低消費電力で、さらにはコスト低減を図る静電結合型センサ及びそれを用いた終点検出方法及び終点検出装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は上記目的を達成するために、インダクタ34とキャパシタ35からなる発振回路36と、インダクタ34の両端に配置することにより生じる位相差を有する複数の電極37,37とで構成され、複数の電極37,37をある膜厚を有した導電性膜28に平行に近接させることで、複数の電極37,37と導電性膜28との間に静電結合を引き起こし、その静電結合を介して導電性膜28の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数で発振する静電結合型センサ33を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電結合型センサ及びそれを用いた終点検出方法及び終点検出装置に関するものであり、特に、化学機械的研磨加工(CMP:Chemical Mechanical Polishing)において導電性膜の研磨終点を高い精度で確実に検出することが可能な静電結合型センサ及びそれを用いた終点検出方法及び終点検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電結合型センサ及びそれを用いた終点検出方法及び終点検出装置に関連する従来技術として、例えば次のような渦電流センサが知られている。この従来技術は、導電性膜又は導電性膜が形成される基体の近傍に配置されるセンサコイル(渦電流センサ)と、該センサコイルに一定周波数の交流信号を供給して前記導電性膜に渦電流を形成する交流信号源と、前記導電性膜を含めたリアクタンス成分及び抵抗成分を計測する検出回路とを備え、前記センサコイルは、前記信号源に接続する発振コイルと、該コイルの前記導電性膜側に配置する検出コイルと、前記発振コイルの前記導電性膜側の反対側に配置するバランスコイルとを具備し、前記検出コイルとバランスコイルとは互いに逆相となるように接続されている。そして、前記検出回路で検出した抵抗成分及びリアクタンス成分から合成インピーダンスを出力し、該インピーダンスの変化から前記導電性膜の膜厚の変化を広いレンジでほぼ直線的な関係として検出するようにしている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、静電結合型センサ及びそれを用いた終点検出方法及び終点検出装置に関連する他の従来技術として、例えば次のような距離測定用ICが知られている。この従来技術は、パッケージに内蔵している発振器と、前記パッケージに配設されるとともに前記発振器に接続されて該発振器の発振周波数を特定する平面状インダクタとを備えている。ICのパッケージ表面に導電性物質が接近すると、前記平面状インダクタによって前記発振器の発振周波数が変化する。該発振周波数を検出して導電性物質の接近距離を検出することができる。測定時間を短くするため、高い周波数の電流を前記平面状インダクタに流し、その表面に発生する静電気的な誘導を有効に利用している。用途として、ロボット・アームの位置計測による該アームの制御や、位置検出器の内部に格納することによる圧力検出等がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第3587822号公報(第3頁、図1〜11)。
【特許文献2】特許第3352619号公報(第2〜4頁、図18)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体ウェーハ上に形成した酸化膜にリソグラィ及びエッチングを施して配線パターンに対応した溝パターンを形成し、この上に前記溝パターンを充填するためのCu等からなる導電性膜を成膜し、該導電性膜のうち不要部分を化学機械研磨により除去して配線パターンを形成するプロセスが知られている。この配線パターンの形成では、導電性膜が適正な厚さ除去されたときの研磨終点を確実に検出してプロセスを停止することが極めて重要である。導電性膜の研磨が過剰であると配線の抵抗が増加し、研磨が過少であると配線の絶縁障害につながる。
【0005】
これに対し、渦電流を利用して導電性膜の膜厚を監視する技術では、渦電流を引き起こすのに強い磁束を作る必要があり、インダクタの形状は三次元となっている。このため、渦電流センサを研磨装置等に組み込む上で、一般的に次のような問題がある。コイルに流す電流が大きくなって消費電力が多くなり、電源装置も大型になる。磁束が周辺に漏れて
ノイズが発生し易い。導線をコイル状に巻く工程等が必要になってコスト高になる。
【0006】
また、距離測定用ICからなる従来技術においては、発振器と、該発振器に接続されて該発振器の発振周波数を特定する平面状インダクタとを備えて構成されているが、用途として、ロボット・アームの位置計測による該アームの制御や、位置検出器の内部に格納して圧力検出等に使用されている。
【0007】
そこで、導電性膜の研磨終点を検出するのに極めて好適なセンサを提供して該研磨終点を高い精度で確実に検出し、ノイズの発生がなく、低消費電力で、さらにはコスト低減を図るために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、インダクタとキャパシタからなる発振回路と、前記インダクタの両端に配置することにより生じる位相差を有する複数の電極とで構成され、該電極をある膜厚を有した導電性膜に平行に近接させることで、前記電極と前記導電性膜との間に静電結合を引き起こし、その静電結合を介して前記導電性膜の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数で発振する静電結合型センサを提供する。
【0009】
この構成によれば、発振回路は、その発振周波数帯がインダクタのインダクタンスとキャパシタの集中定数キャパシタンスで決まるコルピッツ型等の発振回路となっている。インダクタの両端に配置された各電極を導電性膜に平行に近接させると、それぞれの電極が導電性膜側に静電誘導を引き起こし、分布キャパシタンスを介して前記各電極と導電性膜とが静電結合する。この結果、前記インダクタンスと集中定数キャパシタンスに、該分布キャパシタンスと導電性膜の膜厚抵抗とが加わった等価回路は、並列共振回路とみなせる。この並列共振回路の共振周波数は、その等価回路のアドミッタンスにおけるサセプタンス分がゼロになるときのω(=2πf)の値である。このサセプタンス分において、前記膜厚抵抗値(R)は、分布キャパシタンス(Cm)との積である時定数(Cm・R)の形で関わる。したがって、静電結合型センサは、前記静電結合を介して導電性膜の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数で発振する。
【0010】
請求項2記載の発明は、平面インダクタとキャパシタからなる発振回路を有し、前記平面インダクタをある膜厚を有した導電性膜に平行に近接させ、前記平面インダクタの持つ位相分布により該平面インダクタと前記導電性膜との間に静電結合を引き起こし、その静電結合を介して前記導電性膜の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数で発振する静電結合型センサを提供する。
【0011】
この構成によれば、平面インダクタは、上記請求項1記載の発明におけるインダクタとその両端に配置された各電極の両機能を併せ持っている。発振回路は、その発振周波数帯が該平面インダクタのインダクタンスとキャパシタの集中定数キャパシタンスで決まるコルピッツ型等の発振回路となっている。平面インダクタを導電性膜に平行に近接させると、該平面インダクタの持つ位相分布により導電性膜側に静電誘導を引き起こし、分布キャパシタンスを介して前記平面インダクタと導電性膜とが効率よく静電結合する。この結果、前記平面インダクタのインダクタンスとキャパシタの集中定数キャパシタンスに、該分布キャパシタンスと導電性膜の膜厚抵抗とが加わった等価回路は、並列共振回路とみなすことができる。以下、上記請求項1記載の発明の作用とほぼ同様にして、静電結合型センサは、効率よく生じた静電結合を介して導電性膜の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数で発振する。
【0012】
請求項3記載の発明は、導電性膜を研磨して適正な厚さが除去されたときの研磨終点を検出する終点検出方法であって、請求項1又は2記載の静電結合型センサを用いた終点検出方法を提供する。
【0013】
この構成によれば、請求項1又は2記載の静電結合型センサにおいて、インダクタ又は平面インダクタのインダクタンスとキャパシタの集中定数キャパシタンスに、複数の電極又は平面インダクタと導電性膜との間に生じる分布キャパシタンス及び導電性膜の膜厚抵抗が加わった等価回路は、並列共振回路とみなせる。この並列共振回路の共振周波数は、その等価回路のアドミッタンスにおけるサセプタンス分がゼロになるときのω(=2πf)の値である。このサセプタンス分において、前記膜厚抵抗値(R)は、分布キャパシタンス(Cm)との積である時定数(Cm・R)の形で関わっている。一方、この膜厚抵抗値は、導電性膜の研磨が進行して膜厚が薄くなるにつれて大になるように変化する。そこで、前記等価回路から、膜厚を変化させたときの該膜厚と共振周波数との関係を求めると、膜厚が薄くなるにつれて共振周波数は上昇し得ることが分かる。この共振周波数が上昇し得る変化を基に、導電性膜が、研磨により適正な厚さが除去されたときの研磨終点が検出される。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の静電結合型センサを用いて導電性膜の研磨状況をモニタリングした際に得られる共振周波数のピークを基準に研磨終点を判断する静電結合型センサを用いた終点検出方法を提供する。
【0015】
この構成によれば、上記請求項3記載の発明における作用で述べた等価回路について、膜厚抵抗値(R)を0→∞(膜厚:厚い→薄い)に変化させたときの膜厚と共振周波数の関係をシュミレートすると、膜厚が薄くなるにつれて共振周波数は上昇し、膜厚抵抗値(R)が∞に近い領域において、共振周波数にピークが生じることが分かる。導電性膜の研磨状況をモニタリングして該共振周波数のピークに基準に研磨終点が判断される。
【0016】
請求項5記載の発明は、導電性膜が形成されたウェーハを研磨ヘッドに保持し、回転するプラテンの表面に設けられた研磨パッドに前記研磨ヘッドを回転させながら前記導電性膜を押し付けて該導電性膜を研磨する化学機械研磨における前記導電性膜を監視して適正な厚さが除去されたときの研磨終点を検出する終点検出装置であって、請求項1又は2記載の静電結合型センサを前記プラテン又は前記研磨ヘッドのいずれかに組み込んで、該静電結合型センサの発振周波数の変化から前記研磨終点を検出するように構成してなる静電結合型センサを用いた終点検出装置を提供する。
【0017】
この構成によれば、請求項1又は2記載の静電結合型センサは、化学機械研磨装置におけるプラテン又は研磨ヘッドのいずれかに組み込まれて導電性膜の研磨状況をモニタリングし、該導電性膜が適正な厚さ除去されたときの研磨終点を検出する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明は、インダクタとキャパシタからなる発振回路と、前記インダクタの両端に配置することにより生じる位相差を有する複数の電極とで構成され、該電極をある膜厚を有した導電性膜に平行に近接させることで、前記電極と前記導電性膜との間に静電結合を引き起こし、その静電結合を介して前記導電性膜の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数で発振するようにしたので、導電性膜の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数信号を発振出力とすることで、該導電性膜の研磨終点を検出するのに好適なセンサを提供することができる。また、インダクタの両端に、それぞれ電極が発生する構成の静電結合型センサは、比較的安価で済むことからコスト低減を図ることができるという利点がある。
【0019】
請求項2記載の発明は、平面インダクタとキャパシタからなる発振回路を有し、前記平面インダクタをある膜厚を有した導電性膜に平行に近接させ、前記平面インダクタの持つ位相分布により該平面インダクタと前記導電性膜との間に静電結合を引き起こし、その静電結合を介して前記導電性膜の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数で発振するようにしたので、平面インダクタにより効率よく生じた静電結合を介して導電性膜の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数信号を発振出力とすることで、該導電性膜の研磨終点を検出するのに極めて好適なセンサを提供することができるという利点がある。
【0020】
請求項3記載の発明は、導電性膜を研磨して適正な厚さが除去されたときの研磨終点を検出する終点検出方法であって、請求項1又は2記載の静電結合型センサを用いて終点検出を行うようにしたので、共振周波数は導電性膜の膜厚が表皮効果の及ぼす範囲より薄くなると上昇方向に変化することから、この変化を基に、研磨により適正な厚さが除去されたときの研磨終点を精度良く検出することができるという利点がある。
【0021】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の静電結合型センサを用いて導電性膜の研磨状況をモニタリングした際に得られる共振周波数のピークを基準に研磨終点を判断するようにしたので、共振周波数は、導電性膜の膜厚が薄くなるにつれて上昇し得るように変化し、膜厚抵抗値が∞に近い領域においてピークが生じ得ることから、この共振周波数のピークを基準に、研磨により適正な厚さが除去されたときの研磨終点を高い精度で確実に検出することができるという利点がある。
【0022】
請求項5記載の発明は、導電性膜が形成されたウェーハを研磨ヘッドに保持し、回転するプラテンの表面に設けられた研磨パッドに前記研磨ヘッドを回転させながら前記導電性膜を押し付けて該導電性膜を研磨する化学機械研磨における前記導電性膜を監視して適正な厚さが除去されたときの研磨終点を検出する終点検出装置であって、請求項1又は2記載の静電結合型センサを前記プラテン又は前記研磨ヘッドのいずれかに組み込んで、該静電結合型センサの発振周波数の変化から前記研磨終点を検出するように構成したので、静電結合型センサは、化学機械研磨装置におけるプラテン又は研磨ヘッドのいずれかに組み込むことで、導電性膜の研磨状況を適切にモニタリングすることができて、導電性膜が適正な厚さ除去されたときの研磨終点を確実に検出することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
導電性膜の研磨終点を検出するのに極めて好適なセンサを提供して該研磨終点を高い精度で確実に検出し、ノイズの発生がなく、低消費電力で、さらにはコスト低減を図るという目的を達成するために、インダクタとキャパシタからなる発振回路と、前記インダクタの両端に配置することにより生じる位相差を有する複数の電極とで構成され、該電極をある膜厚を有した導電性膜に平行に近接させることで、前記電極と前記導電性膜との間に静電結合を引き起こし、その静電結合を介して前記導電性膜の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数で発振する静電結合型センサを用いて導電性膜の研磨状況をモニタリングした際に得られる共振周波数のピークを基準に研磨終点を判断することにより実現した。
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の好適な一実施例を図面に従って詳述する。図1は静電結合型センサを用いた終点検出装置が組み込まれた化学機械研磨装置の斜視図、図2は研磨ヘッドの拡大縦断面図、図3は静電結合型センサがプラテンに組み込まれた状態を説明するための概略構成図、図4は静電結合型センサが研磨ヘッドに組み込まれた状態を説明するための概略構成図である。
【0025】
まず、本実施例に係る静電結合型センサを用いた終点検出装置の構成を、化学機械研磨装置の構成から説明する。図1において化学機械研磨装置1は、主としてプラテン2と、
研磨ヘッド3とから構成されている。前記プラテン2は、円盤状に形成され、その下面中央には回転軸4が連結されており、モータ5の駆動によって矢印A方向へ回転する。前記プラテン2の上面には研磨パッド6が貼着されており、該研磨パッド6上に図示しないノズルから研磨剤(スラリー)が供給される。
【0026】
前記研磨ヘッド3は、図2に示すように、主としてヘッド本体7、キャリア8、リテーナリング9、リテーナリング押圧手段10、弾性シート11、キャリア押圧手段16及びエアー等の制御手段で構成されている。
【0027】
前記ヘッド本体7は円盤状に形成され、その上面中央に回転軸12(図1参照)が連結されている。該ヘッド本体7は前記回転軸12に軸着されて図示しないモータで駆動され図1の矢印B方向に回転する。
【0028】
前記キャリア8は円盤状に形成され、前記ヘッド本体7の中央に配設されている。該キャリア8の上面中央部とヘッド本体7の中央下部との間にはドライプレート13が設けられており、ピン14,14を介してヘッド本体7から回転が伝達される。
【0029】
前記ドライプレート13の中央下部と前記キャリア8の中央上部との間には作動トランス本体15aが固定されており、さらに前記キャリア8の中央上部には作動トランス15のコア15bが固定され、図示しない制御部に連結されてウェーハW上(図2の下方側)に形成されたCu等からなる導電性膜の研磨状態信号を該制御部に出力している。
【0030】
前記キャリア8の上面周縁部にはキャリア押圧部材16aが設けられており、該キャリア8は該キャリア押圧部材16aを介してキャリア押圧手段16から押圧力が伝達される。
【0031】
前記キャリア8の下面にはエアーフロートライン17から弾性シート11にエアーを噴射するためのエアー吹出し口19が設けられている。該エアーフロートライン17にはエアーフィルタ20及び自動開閉バルブV1を介してエアー供給源である給気ポンプ21に接続されている。前記エアー吹出し口19からのエアーの吹出しは前記自動開閉バルブV1の切替えによって実行される。
【0032】
前記キャリア8の下面にはバキューム及び必要によりDIW(純水)又はエアーを吹き出すための孔22が形成されている。該エアーの吸引は真空ポンプ23の駆動によって実行され、そして、自動開閉バルブV2をバキュームライン24に設け、該自動開閉バルブV2の切替えによって該バキュームライン24を介し、バキューム及びDIWの送給が実行される。
【0033】
前記エアーフロートライン17からのエアー送給及びバキュームライン24からのバキューム作用及びDIWの送給等は制御部からの指令信号によって実行される。
【0034】
なお、前記キャリア押圧手段16は、ヘッド本体7下面の中央部周縁に配置され、キャリア押圧部材16aに押圧力を与えることにより、これに結合されたキャリア8に押圧力を伝達する。このキャリア押圧手段16は、好ましくはエアーの吸排気により膨脹収縮するゴムシート製のエアバック25で構成される。該エアバック25にはエアーを供給するための図示しない空気供給機構が連結されている。
【0035】
前記リテーナリング9はリング状に形成され、キャリア8の外周に配置されている。このリテーナリング9は研磨ヘッド3に設けられたリテーナリングホルダ27に取り付けられ、その内周部に前記弾性シート11が張設されている。
【0036】
前記弾性シート11は円形状に形成され、複数の孔22が開穿されている。該弾性シート11は、周縁部がリテーナリング9とリテーナリングホルダ27との間で挟持されることにより、リテーナリング9の内側に張設される。
【0037】
前記弾性シート11が張設されたキャリア8の下部には、キャリア8と弾性シート11との間にエアー室29が形成されている。導電性膜が形成されたウェーハWは該エアー室29を介してキャリア8に押圧される。前記リテーナリングホルダ27はリング状に形成された取付部材30にスナップリング31を介して取り付けられている。該取付部材30にはリテーナリング押圧部材10aが連結されている。リテーナリング9は、このリテーナリング押圧部材10aを介してリテーナリング押圧手段10からの押圧力が伝達される。
【0038】
リテーナリング押圧手段10はヘッド本体7の下面の外周部に配置され、リテーナリング押圧部材10aに押圧力を与えることにより、これに結合しているリテーナリング9を研磨用パッド6に押し付ける。このリテーナリング押圧手段10も好ましくは、キャリア押圧手段16と同様に、ゴムシート製のエアバック16bで構成される。該エアバック16bにはエアーを供給するための図示しない空気供給機構が連結されている。
【0039】
そして、図3及び図4に示すように、化学機械研磨装置1における前記プラテン2の上部の部分又は前記研磨ヘッド3のキャリア8の部分に、導電性膜の研磨終点を検出するための静電結合型センサSが組み込まれている。静電結合型センサSがプラテン2側に組み込まれたとき、該静電結合型センサSからの研磨終点の検出信号等は、スリップリング32を介して外部に出力される。
【0040】
図5は基本的な構成を持つ静電結合型センサの構成例を示し、図6はその等価回路を示している。この構成例の静電結合型センサ33は、インダクタ34とキャパシタ35からなる発振回路36と、前記インダクタ34の両端に接続されることにより生じる位相差を有する2個の電極37,37とを主体として構成されている。
【0041】
発振回路36は、その発振周波数帯fが、次式(1)に示すように、インダクタ34のインダクタンスLとキャパシタの集中定数のキャパシタンスCで決まるコルピッツ型等の発振回路となっている。
【0042】
【数1】

【0043】
インダクタ34の両端に配置された各電極37,37を導電性膜28に平行に近接させると、それぞれの電極37,37が導電性膜28側に静電誘導を引き起こし、分布キャパシタンス2Cmを介して前記各電極37,37と導電性膜28とが静電結合する。
【0044】
ここで、導電性膜28の膜厚が十分に厚い場合には、該導電性膜28を抵抗が殆どない導体として考えることができるが、膜厚が極端に薄い領域では、その膜厚抵抗Rを無視することはできない。図6の等価回路は、この膜厚抵抗Rと分布キャパシタンス2Cmとを考慮した回路を示している。
【0045】
この等価回路よりアドミッタンスYを求めると式(2)のように書ける。
【0046】
【数2】

【0047】
したがって、そのサセプタンスBは式(3)のようになる。
【0048】
【数3】

【0049】
図6の等価回路は、並列共振回路とみなせるので、サセプタンスB=0のときのω(=2πf)の値が共振周波数となる。式(3)より、膜厚抵抗Rは、常に分布キャパシタンスCmとの積である時定数(Cm・R)の形で共振条件に関わっている。したがって、該静電結合型センサ33は、分布キャパシタンスCmを介して膜厚抵抗Rをみていることが分かる。
【0050】
ここで、図6の等価回路をシュミレータにかけ、膜厚抵抗Rを0→∞(膜厚:厚い→薄い)に変化させたときの膜厚と共振周波数との関係を求めた結果を図7に示す。図7より、共振周波数は膜厚が薄くなるにつれて上昇し、膜厚抵抗Rが∞に近い領域において、共振周波数にピークPが生じ得ることが分かる。実験結果も、図7とほぼ同様の共振周波数の変化特性が得られている。
【0051】
図8は平面インダクタを備えた静電結合型センサの他の構成例を示している。この構成例の静電結合型センサ38における平面インダクタ39は、前記図5に示した静電結合型センサ33におけるインダクタ34とその両端に配置された各電極37,37の両機能を併せ持っている。該平面状インダクタ39は、絶縁物からなる基板39a上に、Cu等の導電物質を用いてメアンダ型に構成されている。平面状インダクタ39は、図示のメアンダ型の他に、スパイラル型に構成してもよい。
【0052】
発振回路40は、その発振周波数帯fが該平面インダクタ39のインダクタンスとキャパシタ41の集中定数キャパシタンスで決まるコルピッツ型等の発振回路となっている。
【0053】
平面インダクタ39を導電性膜に平行に近接させると、該平面インダクタ39の持つ位相分布により導電性膜側に静電誘導を引き起こし、分布キャパシタンスを介して前記平面インダクタ39と導電性膜とが効率よく静電結合する。この結果、平面インダクタ39のインダクタンスとキャパシタ41の集中定数キャパシタンスに、該分布キャパシタンスと導電性膜の膜厚抵抗とが加わった等価回路は、並列共振回路とみなすことができる。
【0054】
以下、前記図5に示した静電結合型センサ33とほぼ同様にして、静電結合型センサ38は、効率よく生じた静電結合を介して導電性膜の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数で発振し、導電性膜の膜厚の変化に対し前記図7に示したのとほぼ同様の共振周波数の変化特性が得られる。
【0055】
図8の静電結合型センサ38は、前記平面インダクタ39と前記キャパシタ41の他に、オペアンプ等で構成された増幅器42、抵抗等で構成されたフィードバック・ネットワーク43及び周波数カウンタ44が備えられている。該周波数カウンタ44から研磨終点
の検出信号等となる共振周波数信号が出力される。
【0056】
次に、上述のように構成された静電結合型センサを用いた終点検出装置が組み込まれた化学機械研磨装置の研磨作用及び終点検出動作を説明する。用いる静電結合型センサは、前記図5又は図8に示したいずれのものでもよいが、本終点検出動作では、図8に示した静電結合型センサ38を用い、該静電結合型センサ38をプラテン2の上部の部分に組み込んだ場合について説明を進める。
【0057】
まず、研磨ヘッド3を図示しない移動機構により所定箇所に待機中の導電性膜28が非研磨のウェーハW上に載置する。そして、該研磨ヘッド3のバキュームライン24を作動させ、バキューム口19a及び孔22(バキューム孔)を介して弾性シート11下面のエアー室29を真空にし、これにより前記導電性膜28が非研磨のウェーハWを吸着保持し、そして、前記移動機構により、該導電性膜28が非研磨のウェーハWを吸着保持した研磨ヘッド3をプラテン2上に運び、該ウェーハWを、導電性膜28が研磨パッド6に対接するようにプラテン2上に載置する。
【0058】
前記バキュームライン24はウェーハW上部の導電性膜28の研磨作業が終了したとき、再び、該バキュームライン24の作動により前記ウェーハWを該研磨ヘッド3によって吸着保持し、図示しない洗浄装置へ搬送するときにも用いられる。
【0059】
次いで、前記バキュームライン24の作動を解除し、図示しないポンプからエアバック25にエアーを供給して該エアバック25を膨らませる。これと同時にキャリア8に設けたエアー吹出し口19からエアー室29にエアーを供給する。これにより、エアー室29の内圧が高くなる。
【0060】
前記エアバック25の膨らみによって、前記ウェーハW上部の導電性膜28とリテーナリング9が所定の圧力で研磨パッド6に押し付けられる。この状態でプラテン2を図1の矢印A方向に回転させるとともに研磨ヘッド3を図1の矢印B方向に回転させる。そして、回転する研磨パッド6上に図示しないノズルからスラリーを供給してウェーハW上部の導電性膜28を研磨する。
【0061】
そして、静電結合型センサ38により、該研磨中のウェーハW上部の導電性膜28に対し、次のように研磨の進行に伴う膜厚の変化が監視されて研磨終点が検出される。この導電性膜28の膜厚変化の監視を前記図7を参照して説明する。対象試料は、ウェーハW上部に絶縁膜及びバリヤ層を介してCuからなる導電性膜28が形成されたものである。
【0062】
プラテン2に組み込まれた静電結合型センサ38における平面インダクタ39の持つ位相分布によりウェーハW上部の導電性膜28側に静電誘導が引き起こされ、分布キャパシタンスを介して前記平面インダクタ39と導電性膜28とが効率よく静電結合する。そして、静電結合型センサ38は、その効率よく生じた静電結合を介して研磨の進行に伴う導電性膜28の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数で発振する。
【0063】
膜厚が薄くなるにつれて導電性膜28の膜厚抵抗値は徐々に増加し、これに伴って共振周波数は徐々に上昇し得る(図7中のf部分)。導電性膜28がなくなる際まで研磨が進行すると、該導電性膜28の膜厚抵抗値が大きくなって共振周波数は急上昇し(図7中のu部分)、膜厚抵抗値が∞に近い領域において、共振周波数にピークPが生じ得る。この共振周波数の明確な変化であるピークPをとらえることで、研磨により適正な厚さが除去されたときの研磨終点が確実に検出される。
【0064】
研磨終点の検出後、プラテン2を、例えば10回転程度回転させて回転を止め、ウェー
ハW上部の導電性膜28の研磨作業を停止する。なお、図7中のf部分に対しては、研磨速度を高めた荒削り研磨を実行し、その後、研磨速度を落とした仕上げ研磨等に移行させるような研磨工程とすると、導電性膜28の不要部分の除去作業を効率良く行うことができる。
【0065】
なお、前記静電結合型センサ33又は38を用いて得られる導電性膜28の研磨状況から、次回研磨における研磨圧又はゾーン圧等の研磨パラメータに対してフィードバックを行う面内膜厚分布フィードバックシステムを構築することができる。
【0066】
前記静電結合型センサ33又は38を用いて導電性膜28の研磨状況をリアルタイムでモニタリングし、その際に得られる膜厚のウェーハ面内分布から、研磨圧又はゾーン圧等の研磨パラメータをリアルタイムで制御するリアルタイム面内膜厚分布制御システムを構築することができる。
【0067】
前記静電結合型センサ33又は38を用いて導電性膜28の研磨状況をリアルタイムでモニタリングし、研磨レート又は研磨形状を検出することで、ドレス、ヘッド洗浄をリアルタイムで制御する自動インターバルシステムを構築することができる。
【0068】
また、上記面内膜厚分布フィードバックシステム、リアルタイム面内膜厚分布制御システム又は自動インターバルシステムの少なくともいずれかのシステムを搭載した終点検出装置により、極めて性能の優れた半導体デバイスを製造することができる。
【0069】
上述したように、本実施例に係る静電結合型センサ及びそれを用いた終点検出方法及び終点検出装置においては、静電結合型センサ33,38は導電性膜28の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数信号を発振出力とすることで、該導電性膜28の研磨終点を検出するのに好適なセンサを提供することができる。
【0070】
インダクタ34の両端に、それぞれ電極37,37を配置した構成の静電結合型センサ33は、比較的安価で済むことからコスト低減を図ることができる。
【0071】
平面インダクタ39を備えた静電結合型センサ38は、該平面インダクタ39により効率よく生じた静電結合を介して導電性膜28の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数信号を発振出力とすることで、該導電性膜28の研磨終点を検出するのに極めて好適なセンサを提供することができる。
【0072】
静電結合型センサ33,38が発振する共振周波数は、導電性膜28の膜厚が薄くなるにつれて上昇し得るように変化し、該導電性膜28の膜厚抵抗値が∞に近い領域においてピークが生じ得ることから、この共振周波数のピークに基準に、研磨により適正な厚さが除去されたときの研磨終点を高い精度で確実に検出することができる。
【0073】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図は本発明の実施例に係る静電結合型センサ及びそれを用いた終点検出方法及び終点検出装置を示すものである。
【図1】静電結合型センサを用いた終点検出装置が組み込まれた化学機械研磨装置の斜視図。
【図2】図1の化学機械研磨装置における研磨ヘッドの拡大縦断面図。
【図3】静電結合型センサがプラテンに組み込まれた状態を説明するための図1の概略構成図。
【図4】静電結合型センサが研磨ヘッドに組み込まれた状態を説明するための図1の概略構成図。
【図5】基本的な構成を持つ図1の静電結合型センサの回路図。
【図6】図5の静電結合型センサの等価回路を示す回路図。
【図7】図5の静電結合型センサによる導電性膜の膜厚に対する共振周波数の変化例を示す特性図。
【図8】平面インダクタを備えた図1の静電結合型センサの他の構成例を示すブロック図。
【符号の説明】
【0075】
1 化学機械研磨装置
2 プラテン
3 研磨ヘッド
4 回転軸
5 モータ
6 研磨パッド
7 ヘッド本体
8 キャリア
9 リテーナリング
10 リテーナリング押圧手段
11 弾性シート
12 回転軸
13 ドライプレート
14 ピン
15 作動トランス
16 キャリア押圧手段
17 エアーフロートライン
19 エアー吹出し口
20 エアーフィルタ
21 給気ポンプ
22 孔
23 真空ポンプ
24 バキュームライン
25 エアバック
27 リテーナリングホルダ
28 導電性膜
29 エアー室
30 取付部材
31 スナップリング
32 スリップリング
33 静電結合型センサ
34 インダクタ
35 キャパシタ
36 発振回路
37 電極
38 静電結合型センサ
39 平面インダクタ
40 発振回路
41 キャパシタ
42 増幅器
43 フィードバック・ネットワーク
44 周波数カウンタ
W ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタとキャパシタからなる発振回路と、前記インダクタの両端に配置することにより生じる位相差を有する複数の電極とで構成され、該電極をある膜厚を有した導電性膜に平行に近接させることで、前記電極と前記導電性膜との間に静電結合を引き起こし、その静電結合を介して前記導電性膜の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数で発振することを特徴とする静電結合型センサ。
【請求項2】
平面インダクタとキャパシタからなる発振回路を有し、前記平面インダクタをある膜厚を有した導電性膜に平行に近接させ、前記平面インダクタの持つ位相分布により該平面インダクタと前記導電性膜との間に静電結合を引き起こし、その静電結合を介して前記導電性膜の膜厚抵抗値の変化に対応した共振周波数で発振することを特徴とする静電結合型センサ。
【請求項3】
導電性膜を研磨して適正な厚さが除去されたときの研磨終点を検出する終点検出方法であって、
請求項1又は2記載の静電結合型センサを用いた終点検出方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の静電結合型センサを用いて導電性膜の研磨状況をモニタリングした際に得られる共振周波数のピークを基準に研磨終点を判断することを特徴とする静電結合型センサを用いた終点検出方法。
【請求項5】
導電性膜が形成されたウェーハを研磨ヘッドに保持し、回転するプラテンの表面に設けられた研磨パッドに前記研磨ヘッドを回転させながら前記導電性膜を押し付けて該導電性膜を研磨する化学機械研磨における前記導電性膜を監視して適正な厚さが除去されたときの研磨終点を検出する終点検出装置であって、
請求項1又は2記載の静電結合型センサを前記プラテン又は前記研磨ヘッドのいずれかに組み込んで、該静電結合型センサの発振周波数の変化から前記研磨終点を検出するように構成してなることを特徴とする静電結合型センサを用いた終点検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−68388(P2008−68388A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251784(P2006−251784)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【Fターム(参考)】