説明

非接触搬送装置

【課題】部品点数を削減して装置の小型化を図り、非接触で搬送物の搬送する。
【解決手段】搬送物Sを上方に浮揚させる静圧テーブルと、振動板11A,11B及びアクチュエータ12A,12Bを有する一対の搬送ユニット10A,10Bと、搬送ユニット10A,10Bを搬送方向に移動させる移動装置とを備える。そして、アクチュエータ12A,12Bによって振動板11A,11Bに撓み定在波を励振させることにより、振動板11A,11Bに対向する搬送物Sの先端部Sa及び後端部Sbに保持力が付与される。そして、保持力を搬送物Sの端部Sa,Sbに付与した状態で、搬送ユニット10A,10Bを移動させることにより、搬送物Sを搬送ユニット10A,10Bの移動に追従して搬送方向に搬送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マザーガラス基板や半導体ウエハ基板などの平板状の搬送物を非接触状態で搬送する非接触搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの生産台数が増大する一方で、これらフラットパネルディスプレイが大型化してきている。更に、パネル一枚当たりのコストは、一枚のマザーガラス基板から何枚のパネルが切り取れるか、即ち面取り数で決まることから、マザーガラス基板が年々大型化してきている。また、半導体ウエハ基板の薄型も急速に進んでおり、薄型のマザーガラス基板や半導体ウエハ基板においては、搬送時に発生した破損による歩留まりの悪化が問題となっており、搬送に際しては、汚れの付着の無いこと、ストレスを生じさせないこと、損傷を与えないことが好ましい条件となっている。
【0003】
従来、基板の搬送は搬送ローラやフォークリフト等による接触搬送方式で行われている。このような搬送ローラやフォークリフト等による接触搬送方式では、基板が大型になれば、それに対応して基板にかかる応力を緩和するためにローラ個数やフォーク本数を増やす必要があるが、多数のローラやフォークの高さを厳密に揃えるための調整操作及び保守管理に非常に労力を要していた。
【0004】
そこで、流体圧浮揚手段による下方から放出する流体の圧力によって搬送路上の搬送品を浮揚させ、撓み進行波を励起している弾性振動板と搬送品表面との間に発生する音響粘性流により、搬送路上で浮揚している搬送品を所定方向へ搬送させる非接触搬送装置が提案されている(特許文献1参照)。この非接触搬送装置では、弾性振動板及び励振アクチュエータからなるドライブユニットを搬送路に沿って多数配置している。
【0005】
【特許文献1】特開2006−76690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非接触搬送装置では、弾性振動板及び励振アクチュエータからなるドライブユニットを搬送路に沿って多数配置する必要があったので、装置が大型化してしまい、また、部品点数が多かったため、コスト高となってしまっていた。
【0007】
そこで本発明は、部品点数を削減して装置の小型化を図り、非接触で搬送物の搬送することができる非接触搬送装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は(例えば、図1,図2,図6,図7参照)、搬送物(S)を搬送方向に搬送する非接触搬送装置において、
搬送物(S)を上方に浮揚させる浮揚手段(1)と、
搬送物に非接触状態で対向するように配置される振動板(11,111,211)と、前記振動板に振動を与えて撓み定在波を励振させるアクチュエータ(12)とを有する搬送手段(10A,10B,110A,110B,210)と、
前記搬送手段を前記搬送方向に移動させる移動手段(20,120)と、を備え、
前記アクチュエータ(12)によって前記振動板(11…)に撓み定在波を励振させることにより、前記振動板(11…)に対向する搬送物(S)の先端部(Sa)及び後端部(Sb)の少なくとも一方の端部に、前記振動板(11…)に対向する位置に引き寄せて保持する保持力を付与し、
該保持力を搬送物の端部(Sa,Sb)に付与した状態で、前記移動手段(20,120)によって前記搬送手段(10A,10B…)を前記搬送方向に移動させることにより、搬送物を前記搬送手段の移動に追従して前記搬送方向に搬送する、
ことを特徴とする非接触搬送装置にある。
【0009】
また、上記非接触搬送装置において、前記搬送手段(10A,10B…)は、前記振動板として、搬送物の先端部(Sa)に対向するように配置される先端部側振動板(11A,111A,211A)と、搬送物の後端部(Sb)に対向するように配置される後端部側振動板(11A,111A,211A)とを有する、
ことを特徴とするものである。
【0010】
また、上記非接触搬送装置において(例えば、図1及び図2参照)、搬送物の側端部(Sc,Sd)に非接触状態で対向するように配置される側端部側振動板(11C,11D)と、前記側端部側振動板に振動を与えて撓み定在波を励振させる側端部側アクチュエータ(12C,12D)とを有する規制手段(10C,10D)を備え、
前記側端部側アクチュエータ(12C,12D)によって前記側端部側振動板(11C,11D)に撓み定在波を励振させることにより、前記側端部側振動板(11C,11D)に対向する搬送物の側端部(Sc,Sd)に、前記側端部側振動板(11C,11D)に対向する位置に引き寄せて保持する保持力を付与し、搬送物が前記搬送方向と直交する幅方向に移動するのを規制する、
ことを特徴とするものである。
【0011】
また、上記非接触搬送装置において、前記移動手段(20,120)は、前記規制手段(10C,10D)を、前記搬送手段(10A,10B)と共に前記搬送方向に移動させる、
ことを特徴とするものである。
【0012】
また、上記非接触搬送装置において(例えば、図6参照)、前記振動板(111A,111B)は、搬送物の端部(Sa,Sb)全体を覆うように前記搬送方向と直交する幅方向に延びており、
前記アクチュエータ(12)によって前記振動板(111A,111B)における幅方向に複数の腹を有する撓み定在波を励振させることにより、前記振動板(111A,111B)に対向する搬送物の端部(Sa,Sb)に、前記振動板(111A,111B)に対向する位置に引き寄せて保持する保持力を付与し、
該保持力を搬送物の端部(Sa,Sb)に付与した状態で、前記移動手段(120)によって前記搬送手段(110A,110B)を前記搬送方向に移動させることにより、搬送物を前記搬送手段(110A,110B)の移動に追従して前記搬送方向に搬送すると共に、搬送物の端部の隅部に前記保持力を付与し、搬送物が前記搬送方向と直交する幅方向に移動するのを規制する、
ことを特徴とするものである。
【0013】
また、上記非接触搬送装置において(例えば、図7参照)、前記先端部側振動板(211A)と前記後端部側振動板(211B)とを連結して、搬送物の周端部(Sc)に非接触状態で対向するように環状に形成される環状振動板(211)とし、
前記アクチュエータ(12)によって前記環状振動板(211)における周方向に複数の腹を有する撓み定在波を励振させることにより、前記環状振動板(211)に対向する搬送物の周端部に、前記環状振動板(211)に対向する位置に引き寄せて保持する保持力を付与し、
該保持力を搬送物の周端部に付与した状態で、前記移動手段によって前記搬送手段(210)を前記搬送方向に移動させることにより、搬送物を前記搬送手段(210)の移動に追従して前記搬送方向に搬送すると共に、前記搬送方向と直交する幅方向に搬送物が移動するのを規制する、
ことを特徴とするものである。
【0014】
尚、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る本発明によると、搬送手段により搬送物の端部に保持力を付与して搬送するようにしたので、非接触状態で搬送物を搬送することができ、また、搬送手段を移動手段によって移動させることにより、搬送物を搬送手段の移動に追従して搬送するようにしたので、撓み進行波が励振される多数の振動板を搬送方向に沿って配置する必要がなくなり、部品点数が削減され、装置を小型化することができる。
【0016】
請求項2に係る本発明によると、搬送物の先端部と後端部に対向して振動板が配置されるので、搬送物に対する保持力が高まり、両振動板により非接触状態で安定して搬送物を搬送することができる。
【0017】
請求項3に係る本発明によると、規制手段を備えたことにより、接触式のガイドを設けずに非接触状態で搬送物の脱落を抑制することができ、接触に起因する搬送物の汚れや損傷を回避することができる。
【0018】
請求項4に係る本発明によると、規制手段が移動手段により移動されるので、撓み定在波が励振される多数の振動板を搬送方向に沿って配置する必要がなくなり、部品点数が削減され、装置をより小型化することができる。
【0019】
請求項5に係る本発明によると、幅方向に延びる振動板を有する搬送手段により、搬送物が幅方向に移動するのを規制することができるので、別途、規制手段を設ける必要がなく、部品点数が削減され、装置を小型化することができる。また、接触式のガイドを設けずに非接触状態で搬送物の脱落を抑制することができ、接触に起因する搬送物の汚れや損傷を回避することができる。
【0020】
請求項6に係る本発明によると、環状振動板を有する搬送手段により、搬送物が幅方向に移動するのを規制することができるので、別途、規制手段を設ける必要がなく、部品点数が削減され、装置を小型化することができる。また、接触式のガイドを設けずに非接触状態で搬送物の脱落を抑制することができ、接触に起因する搬送物の汚れや損傷を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて詳細に説明する。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、本第1実施形態に係る非接触搬送装置の要部の概略を示す説明図であり、図2は、図1の矢印X方向に見た非接触搬送装置を示す説明図である。
【0023】
図1及び図2において、搬送物Sは、フラットパネルディスプレイに用いられるマザーガラス基板や半導体ウエハなどの平板状のものであり、本第1実施形態では、略四角形状に形成されている。
【0024】
非接触搬送装置100は、図2に示すように、搬送物Sをエアー等の流体により上方に浮揚させる浮揚手段としての静圧テーブル1を備えている。この静圧テーブル1は、搬送物Sの搬送方向(矢印C方向)に亘って延在している。静圧テーブル1の上面1aは水平面に形成されており、静圧テーブル1には、上面1aに開口する多数の放出口1bが垂直に設けられており、放出口1bからエアー等の流体Fが上方に放出される。これにより、搬送物Sは、多数の放出口1bから上方へ放出されるエアー等の流体Fの圧力により、静圧テーブル1の上方に浮揚され、下方にある静圧テーブル1に非接触状態となる。
【0025】
また、非接触搬送装置100は、搬送物Sを非接触で搬送方向(矢印C方向)に搬送する搬送手段としての一対の搬送ユニット10A,10Bと、搬送方向と直交する幅方向(矢印W方向)の移動を規制する規制手段としての一対の規制ユニット10C,10Dと、各ユニット10(10A,10B,10C,10D)を支持し、各ユニット10を搬送方向(矢印C方向)に移動させる移動手段としての移動装置20とを備えている。
【0026】
各搬送ユニット10A,10Bは、搬送物Sの搬送方向の長さに対応する距離だけ搬送方向に離隔して配置されている。また、各規制ユニット10C,10Dは、搬送物Sの搬送方向と直交する幅方向の長さに対応する距離だけ幅方向に離隔して配置されている。そして、各ユニット10は、搬送物Sの端部において略中央に対向させている。
【0027】
一方の搬送ユニット(先端部側搬送ユニット)10Aは、搬送物Sの先端部Saの上方に非接触状態で対向させるべく、静圧テーブル1の上方に配置される先端部側振動板11Aと、先端部側振動板11Aに振動を与えて撓み定在波を励振させる先端部側アクチュエータ12Aとを有している。また、他方の搬送ユニット(後端部側搬送ユニット)10Bは、搬送物Sの後端部Sbの上方に非接触状態で対向させるべく、静圧テーブル1の上方に配置される後端部側振動板11Bと、後端部側振動板11Bに振動を与えて撓み定在波を励振させる後端部側アクチュエータ12Bとを有している。
【0028】
また、各規制ユニット10C,10Dは、搬送物Sの両側端部Sc,Sdにおいて、それぞれ対応する側端部の上方に非接触状態で対向させるべく、静圧テーブル1の上方に配置される側端部側振動板11C,11Dと、側端部側振動板11C,11Dに振動を与えて撓み定在波を励振させる側端部側アクチュエータ12C,12Dとを有している。
【0029】
各ユニット10における振動板11(11A,11B,11C,11D)及びアクチュエータ12(12A,12B,12C,12D)は、同様の構成であり、部材の共通化が図られている。
【0030】
以下、各ユニット10の構成について、詳細に説明する。図3は、各ユニット10の構成を示す説明図である。
【0031】
振動板11は、図3に示すように、搬送物Sよりも搬送方向及び幅方向の短い略四角形状に形成された板材である。アクチュエータ12は、アルミ丸棒からなる振動拡大用のホーン13と、ホーン13の基端に配設されるボルト締めランジュバン振動子(BLT)14とを有し、アクチュエータ12の先端、すなわちホーン13の先端が振動板11の表面中央部に接合固着されている。そして、BLT14への電圧印加によって超音波振動がホーン13を介して拡大し、振動板11に伝わるようになっている。
【0032】
各ユニット10は、図1に示すように、各アクチュエータ12の先端が搬送物の各端部Sa〜Sdに対向するように、図2に示すように、各アクチュエータ12の基端が移動装置20に支持されている。そして、移動装置20が搬送方向に移動した際には、各ユニット10は、互いに同一距離を保ちながら搬送方向(矢印C方向)に移動することとなる。
【0033】
図4は、図1の矢印X方向に見た場合の非接触搬送装置の搬送動作を示す説明図である。各振動板11A,11Bには、アクチュエータ12A,12Bに超音波振動が付与されることによって、撓み定在波Pが励振される。このように振動板11A,11Bに撓み定在波Pを励振させることにより、搬送物Sの端部Sa,Sbには、振動板11A,11Bに対向する位置に引き寄せて保持する保持力が作用する。具体的に説明すると、撓み定在波Pの腹が、振動板11A,11Bにおいてアクチュエータ12A,12Bが接触する部分に形成される。そして、振動板11A,11Bにおける撓み定在波Pの腹の近傍空間において負圧が最大となり、振動板11A,11Bにおける撓み定在波Pの腹に対向する対向位置において、搬送物Sの端部Sa,Sbを保持する保持力が最大(最大保持力)となる。そして、該対向位置から水平方向にずれるに連れて搬送物Sの端部Sa,Sbに作用する保持力が低下する。従って、搬送物Sの端部Sa,Sbに振動板11A,11Bが対向していれば、搬送物Sの端部Sa,Sbがアクチュエータ12(つまり、撓み定在波Pの腹)に対向する対向位置からずれていてもよく、端部Sa,Sbには保持力が作用するものであるが、本第1実施形態では、各アクチュエータ12A,12Bが端部Sa,Sbに対向する間隔で配置されているので、振動板11A,11Bにおける撓み定在波Pの腹に搬送物Sの端部Sa,Sbが対向し、搬送物Sの端部Sa,Sbを最大保持力で保持することが可能である。
【0034】
なお、この保持力は、搬送物Sの端部Sa,Sbが振動板11に対向する位置から逸脱してしまった場合には働かず、搬送物Sの端部が振動板11に対向する位置にある場合に作用する。
【0035】
次に、各搬送ユニット10A,10Bを搬送方向(矢印C方向)に搬送物Sの端部Sa,Sbが振動板11に対向する位置から逸脱しない距離L1だけ移動させた場合、搬送物Sの各端部Sa,Sbには、保持力が付与されているので、搬送物Sの各端部Sa,Sbが振動板11における撓み定在波Pの腹に対向する位置(保持力が最大となる位置)に引き寄せられる。これにより、搬送物Sは、搬送ユニット10A,10Bの移動に追従して搬送方向(矢印C方向)に搬送される。
【0036】
従って、本第1実施形態によれば、各搬送ユニット10A,10Bにより非接触状態で搬送物Sを搬送することができ、また、各搬送ユニット10A,10Bを移動装置20によって移動させることにより、搬送物Sを各搬送ユニット10A,10Bの移動に追従して搬送するようにしたので、従来のように撓み進行波が励振される多数の振動板を搬送方向に沿って配置する必要がなくなり、部品点数が削減され、装置を小型化することができる。
【0037】
ここで、搬送物Sの先端部Sa及び後端部Sbの少なくとも一方の端部に対向するように搬送ユニット10を配置すればよく、搬送ユニット10Aを省略して搬送ユニット10Bのみ、或いは、搬送ユニット10Bを省略して搬送ユニット10Aのみとしても搬送することができるが、本第1実施形態では、搬送物Sの両端部Sa,Sbに対応して搬送ユニット10A,10Bを配置しているので、保持力(つまり、搬送力)が高まり、また、安定して搬送物Sを搬送することができる。
【0038】
次に、本第1実施形態では、搬送ユニット10A,10Bの他に同一構成の規制ユニット10C,10Dを備えているものであり、規制ユニット10C,10Dの動作について説明する。図5は、図1の矢印Y方向に見た場合の非接触搬送装置の規制動作を示す説明図である。
【0039】
各振動板11C,11Dは、上述したように、アクチュエータ12C,12Dに超音波振動が付与されることによって、撓み定在波Pが励振される。このように振動板11C,11Dに撓み定在波Pを励振させることにより、搬送物Sの側端部Sc,Sdには、振動板11C,11Dに対向する位置に引き寄せて保持する保持力が作用する。具体的に説明すると、撓み定在波Pの腹が、振動板11C,11Dにおいてアクチュエータ12C,12Dが接触する部分に形成される。そして、振動板11C,11Dにおける撓み定在波Pの腹の近傍空間において負圧が最大となり、振動板11C,11Dにおける撓み定在波Pの腹に対向する対向位置において、搬送物Sの端部Sc,Sdを保持する保持力が最大(最大保持力)となる。そして、該対向位置から水平方向にずれるに連れて搬送物Sの端部Sc,Sdに作用する保持力が低下する。従って、搬送物Sの端部Sc,Sdに振動板11C,11Dが対向していれば、搬送物Sの端部Sc,Sdがアクチュエータ12(つまり、撓み定在波Pの腹)に対向する対向位置からずれていてもよく、端部Sc,Sdには保持力が作用するものであるが、本第1実施形態では、各アクチュエータ12C,12Dが端部Sc,Sdに対向する間隔で配置されているので、振動板11C,11Dにおける撓み定在波Pの腹に搬送物Sが対向し、搬送物Sの端部Sc,Sdを最大保持力で保持することが可能である。なお、この保持力は、搬送物Sの端部Sc,Sdが振動板11に対向する位置から逸脱してしまった場合には働かず、搬送物Sの端部Sc,Sdが振動板11に対向する位置にある場合に作用する。
【0040】
次に、搬送物Sが幅方向に移動してしまった場合、例えば、搬送物Sの幅方向両側において搬送速度のアンバランスが生じて搬送物Sが幅方向にずれてしまった場合、その移動幅L2が搬送物Sの端部Sc,Sdが振動板11に対向する位置から逸脱しない範囲であれば、搬送物Sの各端部Sc,Sdには、保持力が付与されているので、搬送物Sの各端部Sc,Sdが振動板11における撓み定在波Pの腹に対向する位置(保持力が最大となる位置)に引き寄せられ、搬送物Sが搬送方向と直交する幅方向に移動するのが規制される。
【0041】
従って、本第1実施形態によれば、各規制ユニット10C,10Dにより、接触式のガイドを設けずに非接触状態で搬送物の脱落を抑制することができ、接触に起因する搬送物の汚れや損傷を回避することができる。
【0042】
ここで、規制ユニットを搬送方向に多数配列してもよいが、本第1実施形態では、規制ユニット10C,10Dが移動装置20により移動させているので、撓み定在波が励振される多数の規制ユニットを搬送方向に沿って配置する必要がなくなり、部品点数が削減され、装置をより小型化することができる。
【0043】
また、規制ユニットを搬送物Sの両側端部Sc,Sdの内、少なくとも一方の側端部に対向するように規制ユニットを配置すればよく、規制ユニット10Cを省略して規制ユニット10Dのみ、或いは、規制ユニット10Dを省略して規制ユニット10Cのみとしても規制することができるが、本第1実施形態では、搬送物Sの両側端部Sc,Sdに対応して規制ユニット10C,10Dを配置しているので、保持力(つまり、規制力)が高まり、また、安定して搬送物Sの幅方向の移動を規制することができる。
【0044】
以上、本第1実施形態では、搬送手段としての搬送ユニット10A,10B及び規制手段としての規制ユニット10C,10Dを移動装置20で移動させるようにしたので、部品点数を削減することができ、更に、搬送物Sに非接触状態で安定して搬送方向への搬送及び幅方向への移動を規制することができる。
【0045】
[第2実施形態]
上記第1実施形態では、非接触搬送装置が、規制手段として規制ユニット10C,10Dを備える場合について説明したが、本第2実施形態では、搬送手段としての搬送ユニットが規制手段としての機能を兼ねる場合について説明する。なお、本第2実施形態において、上記第1実施形態と同一の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0046】
図6は、第2実施形態に係る非接触搬送装置の概略を示す説明図であり、(a)は、搬送方向に直交する方向から見た図、(b)は、搬送方向から見た図である。
【0047】
本第2実施形態では、搬送手段としての一対の搬送ユニット110A,110Bを備えており、搬送ユニット110Aと搬送ユニット110Bとは、同様の構成であり、搬送物Sの搬送方向Cの長さに対応する距離だけ搬送方向Cに離隔して配置されている。
【0048】
一方の搬送ユニット(先端部側搬送ユニット)110Aは、搬送物Sの先端部Saの上方に非接触状態で対向させるべく、静圧テーブル1の上方に配置される先端部側振動板111Aと、先端部側振動板111Aに振動を与えて撓み定在波を励振させる2つ(複数)の先端部側アクチュエータ12,12とを有している。先端部側アクチュエータ12,12同士の距離は、搬送物Sの幅方向の長さと略同じに設定されている。同様に、他方の搬送ユニット(後端部側搬送ユニット)110Bは、搬送物Sの後端部Sbの上方に非接触状態で対向させるべく、静圧テーブル1の上方に配置される後端部側振動板111Bと、後端部側振動板111Bに振動を与えて撓み定在波を励振させる2つ(複数)の後端部側アクチュエータ12,12とを有している。後端部側アクチュエータ12,12同士の距離は、搬送物Sの幅方向の長さと略同じに設定されている。
【0049】
各振動板111A,111Bは、幅方向の長さが、搬送物Sにおける幅方向の長さ以上となるように幅方向に延びて形成されており、搬送物Sの各端部Sa,Sbに対向させたときに、端部Sa,Sb全体を覆うものである。そして、アクチュエータ12,12によって幅方向に複数の腹を有する撓み定在波P’が励振される。これにより、搬送物Sの先端部Sa及びその両側における隅部には、先端部側振動板111Aに対向する位置に引き寄せて保持する保持力が作用し、搬送物Sの後端部Sb及びその両側における隅部には、後端部側振動板111Bに対向する位置に引き寄せて保持する保持力が作用する。
【0050】
移動装置120は、静圧テーブル1の下部に配置され、静圧テーブル1が載置される基台121と、基台121の幅方向両側に設けられ、搬送方向に亘って延びる一対の案内レール122,122と、各振動板111A,111Bに固定され、案内レール122に摺接する一対のスライダ123,123とを備えている。そして、各搬送ユニット110A,110Bは、案内レール122,122に沿って移動することとなる。なお、各振動板111A,111Bにおいてスライダ123,123に固定される部分が撓み定在波P’の節となる。
【0051】
また、各振動板111A,111Bにおけるアクチュエータ12,12が接触固定されている部分が、撓み定在波P’の腹an1,an1となる。そして、撓み定在波P’の腹an1と腹an1との間には、別の腹an2,an2が形成されている。つまり、各振動板111A,111Bにおける撓み定在波P’の腹の数は、少なくとも3つ以上となるように設定されている。
【0052】
撓み定在波P’の各腹an1,an1,an2,an2近傍空間は、第1実施形態と同様に負圧が最大となり、先端部側振動板111Aを搬送物Sの先端部Sa、後端部側振動板111Bを搬送物Sの後端部Sbに対向させることにより、各端部Sa,Sbに保持力を付与することができる。
【0053】
ここで、振動板111A,111Bにおける撓み定在波P’の腹an1,an1には、搬送物Sの各端部Sa,Sbにおける両隅部が対向するようになる。つまり、振動板111A,111Bにおける撓み定在波P’の腹an1,an1は、搬送物Sの隅部に最大保持力を付与するようになる。本第2実施形態では、各振動板111A,111Bにおける撓み定在波P’により搬送物Sの4つの隅部が保持されることとなる。なお、搬送物Sの端部Sa,Sb及び隅部に振動板111A,111Bが対向していれば、搬送物Sの搬送部Sの隅部が定在波P’の腹に対向する位置からずれていてもよく、搬送物Sの隅部には保持力が作用するものであるが、本第2実施形態では、搬送物Sの隅部に振動板111A,111Bにおける定在波P’の腹を対向させているので、搬送物Sの隅部を最大保持力で保持することが可能である。
【0054】
この状態で各搬送ユニット110A,110Bを搬送方向Cに移動させた場合、振動板111A,111Bにおける定在波P’の各腹an1,an1,an2,an2により、搬送物Sの端部Sa,Sbに保持力が付与されているので、搬送物Sが各搬送ユニット110A,110Bの移動に追従して搬送方向Cに搬送される。このように、幅方向に亘って撓み定在波P’の腹が形成されて各端部が保持力で保持されるので、搬送物Sが大型であっても安定して搬送することができる。
【0055】
更に、振動板111A,111Bにおける定在波P’の各腹an1,an1によって搬送物Sの隅部に保持力が付与されているので、搬送物Sが幅方向へ移動するのを規制することができる。
【0056】
以上、本第2実施形態では、各搬送ユニット110A,110Bが、搬送物Sが幅方向へ移動するのを規制する機能を有しているので、上記第1実施形態のように、別途、規制ユニットを設ける必要がなく、部品点数が削減され、装置を小型化することができる。また、接触式のガイドを設けずに非接触状態で搬送物Sの脱落を抑制することができ、接触に起因する搬送物Sの汚れや損傷を回避することができる。
【0057】
ここで、搬送物Sの先端部Sa及び後端部Sbの少なくとも一方の端部に対向するように搬送ユニット110を配置すればよく、搬送ユニット110Aを省略して搬送ユニット110Bのみ、或いは、搬送ユニット110Bを省略して搬送ユニット110Aのみとしても搬送することができるが、本第2実施形態では、搬送物Sの両端部Sa,Sbに対応して搬送ユニット110A,110Bを配置しているので、保持力(つまり、搬送方向への搬送力及び幅方向への規制力)が高まり、また、安定して搬送物Sを搬送することができ、安定して搬送物Sが幅方向へ移動するのを規制することができる。
【0058】
[第3実施形態]
更に、上記実施形態を変更した別の実施形態について説明する。図7は、第3実施形態に係る非接触搬送装置の概略を示す説明図である。なお、本第3実施形態において、上記実施形態と同一の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0059】
本第3実施形態では、搬送手段としての搬送ユニット210が、振動板として、先端部側振動板211Aと後端部側振動板211Bとが連結されて、搬送物Sの周端部Scに非接触状態で対向するように環状に形成される環状振動板211を有している。
【0060】
なお、本第3実施形態における説明では、搬送物Sが円盤形状であるので、環状振動板211は、搬送物Sの形状に合せて円環状に形成されている。
【0061】
搬送ユニット210は、環状振動板211に撓み定在波P’’を励振させる2つ(複数)のアクチュエータ12,12を備えている。これらアクチュエータ12,12により、環状振動板211には、周方向に撓み定在波P’’が励振される。そして、搬送物Sの周端部Scと環状振動板211とが対向している状態でアクチュエータ12,12によって環状振動板211における周方向に撓み定在波P’’を励振させることにより、搬送物Sの周端部Scには、環状振動板211に対向する位置に引き寄せて保持する保持力が作用する。つまり、環状振動板211における撓み定在波P’’は、環状振動板211の周方向に複数の腹を有し、環状振動板211を搬送物Sの周端部Scに対向させたとき、搬送物Sの周端部Scには、撓み定在波P’’の複数の腹による保持力が作用する。
【0062】
この状態で、搬送ユニット210を搬送方向Cに移動させた場合、環状振動板211に撓み定在波P’’が励振されて、搬送物Sの周端部Scに保持力が付与されているので、搬送物Sが搬送ユニット210の移動に追従して搬送方向Cに搬送される。
【0063】
更に、環状振動板211の周方向に撓み定在波P’’が励振されて、搬送物Sに保持力が付与されているので、搬送物Sが幅方向へ移動するのを規制することができる。
【0064】
ここで、2つのアクチュエータ12,12は、その先端が搬送物Sの先端部及び後端部のうち、対応する端部にそれぞれ対向するように配置される。つまり、搬送物Sの先端部及び後端部に撓み定在波P’’の腹が対向するようにアクチュエータ12,12を配置している。これにより、確実に搬送物Sの先端部及び後端部に環状振動板211における撓み定在波P’’の腹が対向することとなるので、搬送ユニット210を搬送方向Cに移動させた場合に強い搬送力を得ることができる。
【0065】
以上、本第3実施形態によれば、環状振動板211を有する搬送ユニット210により、搬送物Sが幅方向に移動するのを規制することができるので、上記第1実施形態のように、別途、規制ユニットを設ける必要がなく、部品点数が削減され、装置を小型化することができる。また、接触式のガイドを設けずに非接触状態で搬送物の脱落を抑制することができ、接触に起因する搬送物の汚れや損傷を回避することができる。
【0066】
なお、上記第1〜第3実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0067】
上記実施形態では、浮揚手段として、静圧テーブル1の場合について説明したが、これに限定するものではなく、浮揚手段として、静電浮揚させる装置や磁気浮揚させる装置であってもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、搬送物として、四角形状や円盤形状の平板である場合について説明したが、これに限定するものではなく、いかなる形状の平板でも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本第1実施形態に係る非接触搬送装置の要部の概略を示す説明図。
【図2】図1の矢印X方向に見た非接触搬送装置を示す説明図。
【図3】各ユニットの構成を示す説明図。
【図4】図1の矢印X方向に見た場合の非接触搬送装置の搬送動作を示す説明図。
【図5】図1の矢印Y方向に見た場合の非接触搬送装置の規制動作を示す説明図。
【図6】第2実施形態に係る非接触搬送装置の概略を示す説明図。
【図7】第3実施形態に係る非接触搬送装置の概略を示す説明図。
【符号の説明】
【0070】
1 静圧テーブル(浮揚手段)
10A,10B,110A,110B,210 搬送ユニット(搬送手段)
10C,10D 規制ユニット(規制手段)
11A,111A,211A 先端部側振動板(振動板)
11B,111B,211B 後端部側振動板(振動板)
11C,11D 側端部側振動板(振動板)
12,12A,12B,12C,12D アクチュエータ
20,120 移動装置(移動手段)
100 非接触搬送装置
211 環状振動板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送物を搬送方向に搬送する非接触搬送装置において、
搬送物を上方に浮揚させる浮揚手段と、
搬送物に非接触状態で対向するように配置される振動板と、前記振動板に振動を与えて撓み定在波を励振させるアクチュエータとを有する搬送手段と、
前記搬送手段を前記搬送方向に移動させる移動手段と、を備え、
前記アクチュエータによって前記振動板に撓み定在波を励振させることにより、前記振動板に対向する搬送物の先端部及び後端部の少なくとも一方の端部に、前記振動板に対向する位置に引き寄せて保持する保持力を付与し、
該保持力を搬送物の端部に付与した状態で、前記移動手段によって前記搬送手段を前記搬送方向に移動させることにより、搬送物を前記搬送手段の移動に追従して前記搬送方向に搬送する、
ことを特徴とする非接触搬送装置。
【請求項2】
前記搬送手段は、前記振動板として、搬送物の先端部に対向するように配置される先端部側振動板と、搬送物の後端部に対向するように配置される後端部側振動板とを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の非接触搬送装置。
【請求項3】
搬送物の側端部に非接触状態で対向するように配置される側端部側振動板と、前記側端部側振動板に振動を与えて撓み定在波を励振させる側端部側アクチュエータとを有する規制手段を備え、
前記側端部側アクチュエータによって前記側端部側振動板に撓み定在波を励振させることにより、前記側端部側振動板に対向する搬送物の側端部に、前記側端部側振動板に対向する位置に引き寄せて保持する保持力を付与し、搬送物が前記搬送方向と直交する幅方向に移動するのを規制する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の非接触搬送装置。
【請求項4】
前記移動手段は、前記規制手段を、前記搬送手段と共に前記搬送方向に移動させる、
ことを特徴とする請求項3に記載の非接触搬送装置。
【請求項5】
前記振動板は、搬送物の端部全体を覆うように前記搬送方向と直交する幅方向に延びており、
前記アクチュエータによって前記振動板における幅方向に複数の腹を有する撓み定在波を励振させることにより、前記振動板に対向する搬送物の端部に、前記振動板に対向する位置に引き寄せて保持する保持力を付与し、
該保持力を搬送物の端部に付与した状態で、前記移動手段によって前記搬送手段を前記搬送方向に移動させることにより、搬送物を前記搬送手段の移動に追従して前記搬送方向に搬送すると共に、搬送物の端部の隅部に前記保持力を付与し、搬送物が前記搬送方向と直交する幅方向に移動するのを規制する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の非接触搬送装置。
【請求項6】
前記先端部側振動板と前記後端部側振動板とを連結して、搬送物の周端部に非接触状態で対向するように環状に形成される環状振動板とし、
前記アクチュエータによって前記環状振動板における周方向に複数の腹を有する撓み定在波を励振させることにより、前記環状振動板に対向する搬送物の周端部に、前記環状振動板に対向する位置に引き寄せて保持する保持力を付与し、
該保持力を搬送物の周端部に付与した状態で、前記移動手段によって前記搬送手段を前記搬送方向に移動させることにより、搬送物を前記搬送手段の移動に追従して前記搬送方向に搬送すると共に、前記搬送方向と直交する幅方向に搬送物が移動するのを規制する、
ことを特徴とする請求項2に記載の非接触搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−208909(P2009−208909A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54570(P2008−54570)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】