説明

非水電解液二次電池用負極

【課題】非水電解液の流通が可能な経路が活物質層内に必要且つ十分に形成され、初期充電の過電圧を低くすることが可能な非水電解液二次電池用負極を提供すること。
【解決手段】非水電解液二次電池用負極10は、活物質の粒子12aを含む活物質層12を備えている。粒子12aの表面の少なくとも一部がリチウム化合物の形成能の低い金属材料13で被覆されている。これと共に、該金属材料13で被覆された該粒子12aどうしの間に空隙が形成されている。該粒子12aの嵩密度が0.2〜0.8g/mlである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池などの非水電解液二次電池用の負極に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、表面が電解液と接する一対の集電用表面層と、該表面層間に介在配置された、リチウム化合物の形成能の高い活物質の粒子を含む活物質層とを備えた非水電解液二次電池用負極を提案した(特許文献1参照)。この負極の活物質層には、リチウム化合物の形成能の低い金属材料が浸透しており、浸透した該金属材料中に活物質の粒子が存在している。活物質層がこのような構造になっているので、この負極においては、充放電によって該粒子が膨張収縮することに起因して微粉化しても、その脱落が起こりづらくなる。その結果、この負極を用いると、電池のサイクル寿命が長くなるという利点がある。
【0003】
前記の活物質層中の粒子がリチウムイオンを首尾良く吸蔵放出するためには、リチウムイオンを含む非水電解液が活物質層内を円滑に流通できることが必要である。そのためには活物質層内に非水電解液の流通が可能な経路を設けることが有利である。しかし該経路を過度に形成し過ぎると、前記の金属材料による活物質の粒子の保持効果が十分に発揮されず、充放電によって該粒子が膨張収縮することに起因して微粉化した場合にその脱落が起こりやすくなってしまう。逆に、該経路の形成が十分でない場合には、リチウムイオンが活物質の粒子にまで到達しづらく、初期充電の過電圧が高くなる傾向にある。過電圧が高くなることは、負極の表面でリチウムのデンドライトの発生や、非水電解液の分解の原因となる。
【0004】
【特許文献1】特許第3612669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、前述した従来技術の負極よりも性能が一層向上した非水電解液二次電池用負極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、活物質の粒子を含む活物質層を備え、粒子の表面の少なくとも一部がリチウム化合物の形成能の低い金属材料で被覆されていると共に、該金属材料で被覆された該粒子どうしの間に空隙が形成されており、該粒子の嵩密度が0.2〜0.8g/mlであることを特徴とする非水電解液二次電池用負極を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リチウムイオンを含む非水電解液の流通が可能な経路が活物質層内に必要且つ十分に形成され、非水電解液が活物質層へ容易に到達するので、初期充電の過電圧を低くすることができる。その結果、負極の表面でリチウムのデンドライトが発生することが防止される。また、非水電解液の分解が起こりにくくなり、不可逆容量の増大が防止される。更に正極がダメージを受けにくくなる。その上、充放電によって該粒子が膨張収縮することに起因して微粉化しても、その脱落が起こりづらくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には本発明の非水電解液二次電池用負極の一実施形態の断面構造の模式図が示されている。本実施形態の負極10は、集電体11と、その少なくとも一面に形成された活物質層12を備えている。なお図1においては、便宜的に集電体11の片面にのみ活物質層12が形成されている状態が示されているが、活物質層は集電体の両面に形成されていてもよい。
【0009】
活物質層12は、活物質の粒子12aを含んでいる。活物質層12は例えば、活物質の粒子12aを含むスラリーを塗布して形成されている。活物質としては、例えばシリコン系材料やスズ系材料、アルミニウム系材料、ゲルマニウム系材料が挙げられる。スズ系材料としては、例えばスズと、コバルトと、炭素と、ニッケル及びクロムのうちの少なくとも一方とを含む合金が好ましく用いられる。負極重量あたりの容量密度を向上させる上では、特にシリコン系材料が好ましい。
【0010】
シリコン系材料としては、リチウムの吸蔵が可能で且つシリコンを含有する材料、例えばシリコン単体、シリコンと金属との合金、シリコン酸化物などを用いることができる。これらの材料はそれぞれ単独で、或いはこれらを混合して用いることができる。前記の金属としては、例えばCu、Ni、Co、Cr、Fe、Ti、Pt、W、Mo及びAuからなる群から選択される1種類以上の元素が挙げられる。これらの金属のうち、Cu、Ni、Coが好ましく、特に電子伝導性に優れる点、及びリチウム化合物の形成能の低さの点から、Cu、Niを用いることが望ましい。また、負極を電池に組み込む前に、又は組み込んだ後に、シリコン系材料からなる活物質に対してリチウムを吸蔵させてもよい。特に好ましいシリコン系材料は、リチウムの吸蔵量の高さの点からシリコン又はシリコン酸化物である。
【0011】
活物質層12においては、粒子12aの表面の少なくとも一部が、リチウム化合物の形成能の低い金属材料で被覆されている。この金属材料13は、粒子12aの構成材料と異なる材料である。該金属材料で被覆された該粒子12aの間には空隙が形成されている。つまり該金属材料は、リチウムイオンを含む非水電解液が粒子12aへ到達可能なような隙間を確保した状態で該粒子12aの表面を被覆している。図1中、金属材料13は、粒子12aの周囲を取り囲む太線として便宜的に表されている。なお同図においては、活物質層12に含まれる粒子12aのうち、他の粒子との間に接触がないように描かれているものが存在するが、これは活物質層12を二次元的にみたことに起因するものであり、実際は各粒子は他の粒子と直接又は金属材料13を介して接触している。「リチウム化合物の形成能の低い」とは、リチウムと金属間化合物若しくは固溶体を形成しないか、又は形成したとしてもリチウムが微量であるか若しくは非常に不安定であることを意味する。
【0012】
金属材料13は、活物質層12の厚み方向全域にわたって存在していることが好ましい。そして金属材料13のマトリックス中に活物質の粒子12aが存在していることが好ましい。これによって、充放電によって該粒子12aが膨張収縮することに起因して微粉化しても、その脱落が起こりづらくなる。また、金属材料13を通じて活物質層12全体の電子伝導性が確保されるので、電気的に孤立した活物質の粒子12aが生成すること、特に活物質層12の深部に電気的に孤立した活物質の粒子12aが生成することが効果的に防止される。このことは、活物質として半導体であり電子伝導性の乏しい材料、例えばシリコン系材料を用いる場合に特に有利である。金属材料13が活物質層12の厚み方向全域にわたって活物質の粒子12aの表面に存在していることは、該材料13を測定対象とした電子顕微鏡マッピングによって確認できる。
【0013】
金属材料13は、粒子12aの表面を連続に又は不連続に被覆している。金属材料13が粒子12aの表面を連続に被覆している場合には、金属材料13の被覆に、非水電解液の流通が可能な微細な空隙を形成することが好ましい。金属材料13が粒子12aの表面を不連続に被覆している場合には、粒子12aの表面のうち、金属材料13で被覆されていない部位を通じて該粒子12aへ非水電解液が供給される。このような構造の金属材料13の被覆を形成するためには、例えば後述する条件に従う電解めっきによって金属材料13を粒子12aの表面に析出させればよい。
【0014】
活物質の粒子12aの表面を被覆している金属材料13は、その厚みの平均が好ましくは0.05〜2μm、更に好ましくは0.1〜0.25μmという薄いものである。つまり金属材料13は最低限の厚みで以て活物質の粒子12aの表面を被覆している。これによって、エネルギー密度を高めつつ、充放電によって粒子12aが膨張収縮して微粉化することに起因する脱落を防止している。ここでいう「厚みの平均」とは、活物質の粒子12aの表面のうち、実際に金属材料13が被覆している部分に基づき計算された値である。従って活物質の粒子12aの表面のうち金属材料13で被覆されていない部分は、平均値の算出の基礎にはされない。
【0015】
金属材料13で被覆された粒子12aどうしの間には空隙が形成されている。この空隙は、リチウムイオンを含む非水電解液の流通の経路としての働きを有している。この空隙の存在によって非水電解液が活物質の粒子12aへ容易に到達するので、初期充電の過電圧を低くすることができる。その結果、負極の表面でリチウムのデンドライトが発生することが防止される。デンドライトの発生は両極の短絡の原因となる。過電圧を低くできることは、非水電解液の分解防止の点からも有利である。非水電解液が分解すると不可逆容量が増大するからである。更に、過電圧を低くできることは、正極がダメージを受けにくくなる点からも有利である。
【0016】
更に、粒子12a間に形成されている空隙は、充放電で活物質の粒子12aが体積変化することに起因する応力を緩和するための空間としての働きも有する。充電によって体積が増加した活物質の粒子12aの体積の増加分は、この空隙に吸収される。その結果、該粒子12aの微粉化が起こりづらくなり、また負極10の著しい変形が効果的に防止される。
【0017】
活物質層12は、好適には粒子12a及び結着剤を含むスラリーを集電体上に塗布し乾燥させて得られた塗膜に対し、所定のめっき浴を用いた電解めっきを行い、粒子12a間に金属材料13を析出させることで形成される。金属材料13の析出の程度は、粒子12a間の空隙の形成に影響を及ぼす。所望の空隙を形成するためには、前記の塗膜中に、めっき液の浸透が可能な空間が形成されている必要がある。めっき液の浸透が可能な空間を塗膜内に必要且つ十分に形成するためには、活物質の粒子12aの形状が大きな要因となっていることが本発明者らの検討の結果判明した。詳細には、活物質の粒子12aとしてその嵩密度(JIS K 5101−12−1:2004)が0.2〜0.8g/ml、好ましくは0.3〜0.7g/ml、更に好ましくは0.4〜0.6g/mlのものを採用することで、塗膜内に所望とする程度の空間が形成され、めっき液の浸透が十分となることが判明した。また電解めっき時に塗膜の剥がれ落ちを効果的に防止し得ることが判明した。詳細には、嵩密度が0.8g/ml超の粒子12aを用いた場合には、塗膜内に粒子12aが密集し、形成される空間が十分なものとならず、めっき液が十分に浸透しない。その結果、金属材料13を十分に析出させることが困難になる。嵩密度が0.2g/ml未満の粒子12aを用いた場合には、粒子12aどうしの接触の程度が低いことに起因して電気抵抗が大きくなり、電解めっき時の過電圧が高くなる。これが原因で水素が発生しやすくなり、発生した水素によって塗膜の剥がれ落ちが生じやすい。
【0018】
活物質の粒子12aを含むスラリーから形成される前記の塗膜内に、めっき液の浸透を可能にする空間を必要且つ十分に形成するためには、粒子12aとして、上述の範囲の嵩密度を有することに加えて、タップ密度(JIS K 5101−12−2:2004)が好ましくは0.5〜1.1g/ml、更に好ましくは0.6〜1.0g/mlのものを採用することが一層有利である。タップ密度とは、容器内に収容された粉体を一定条件でタッピングして得られる粉体の嵩密度のことである。タップ密度が上述の範囲の粒子12aを用いることで、塗膜内にめっき液を一層十分に浸透させることが可能となる。
【0019】
粒子12aとしては、その粉体特性として、吸油量(JIS K 5101−13−1:2004)が19〜59ml/g、特に29〜39ml/g、ホソカワミクロン(株)製パウダーテスター、ホソカワミクロンPT−Eにて測定した安息角が35〜65度、特に45〜55度、ホソカワミクロン(株)製パウダーテスター、ホソカワミクロンPT−Eにて測定した崩壊角が15〜45度、特に25〜35度、ホソカワミクロン(株)製パウダーテスター、ホソカワミクロンPT−Eにて測定した凝集度が50〜99%、特に70〜98%、島津製作所製マイクロメリティックス 2400にて測定したBET比表面積が1〜10m2/g、特に2〜9m2/g、マイクロトラック社製 マイクロトラック9320−X100で測定した平均粒度が0.1〜8μm、特に0.3〜4.0μmであるものを用いることが好ましい。
【0020】
非水電解液の流通が可能な空隙を活物質層内に必要且つ十分に形成するためには、前記の塗膜内にめっき液を十分浸透させることに加えて、該めっき液を用いた電解めっきによって金属材料13を析出させるための条件を適切なものとすることが好ましい。めっきの条件にはめっき浴の組成、めっき浴のpH、電解の電流密度などがある。めっき浴のpHに関しては、これを7.1〜11に調整することが好ましい。pHをこの範囲内とすることで、活物質の粒子12aの溶解が抑制されつつ、該粒子12aの表面が清浄化されて、粒子表面へのめっきが促進され、同時に粒子12a間に適度な空隙が形成される。pHの値は、めっき時の温度において測定されたものである。
【0021】
めっきの金属材料13として銅を用いる場合には、ピロリン酸銅浴を用いることが好ましい。また該金属材料としてニッケルを用いる場合には、例えばアルカリニッケル浴を用いることが好ましい。特に、ピロリン酸銅浴を用いると、活物質層12を厚くした場合であっても、該層の厚み方向全域にわたって、前記の空隙を容易に形成し得るので好ましい。また、活物質の粒子12aの表面には金属材料13が析出し、且つ該粒子12a間では金属材料13の析出が起こりづらくなるので、該粒子12a間の空隙が首尾良く形成されるという点でも好ましい。ピロリン酸銅浴を用いる場合、その浴組成、電解条件及びpHは次の通りであることが好ましい。
・ピロリン酸銅三水和物:85〜120g/l
・ピロリン酸カリウム:300〜600g/l
・硝酸カリウム:15〜65g/l
・浴温度:45〜60℃
・電流密度:1〜7A/dm2
・pH:アンモニア水とポリリン酸を添加してpH7.1〜9.5になるように調整する。
【0022】
ピロリン酸銅浴を用いる場合には特に、P27の重量とCuの重量との比(P27/Cu)で定義されるP比が5〜12であるものを用いることが好ましい。P比が5未満のものを用いると、活物質の粒子12aを被覆する金属材料が厚くなる傾向となり、粒子12a間に所望の空隙を形成させづらい場合がある。また、P比が12を超えるものを用いると、電流効率が悪くなり、ガス発生などが生じやすくなることから生産安定性が低下する場合がある。更に好ましいピロリン酸銅浴として、P比が6.5〜10.5であるものを用いると、活物質の粒子12a間に形成される空隙のサイズ及び数が、活物質層12内での非水電解液の流通に非常に有利になる。
【0023】
アルカリニッケル浴を用いる場合には、その浴組成、電解条件及びpHは次の通りであることが好ましい。
・硫酸ニッケル:100〜250g/l
・塩化アンモニウム:15〜30g/l
・ホウ酸:15〜45g/l
・浴温度:45〜60℃
・電流密度:1〜7A/dm2
・pH:25重量%アンモニア水:100〜300g/lの範囲でpH8〜11となるように調整する。
このアルカリニッケル浴と前述のピロリン酸銅浴とを比べると、ピロリン酸銅浴を用いた場合の方が活物質層12内に適度な空隙が形成される傾向があり、負極の長寿命化を図りやすいので好ましい。
【0024】
前記の各種めっき浴に、タンパク質、活性硫黄化合物、セルロース等の銅箔製造用電解液に用いられる各種添加剤を加えることにより、金属材料13の特性を適宜調整することも可能である。
【0025】
上述の各種方法によって形成される活物質層12における空隙の割合、つまり空隙率は、15〜45体積%程度、特に20〜40体積%程度であることが好ましい。空隙率をこの範囲内とすることで、非水電解液の流通が可能な空隙を活物質層12内に必要且つ十分に形成することが可能となる。空隙率は次の(1)〜(7)の手順で測定される。
(1)前記のスラリーの塗布によって形成された塗膜の単位面積当たりの重量を測定し、粒子12aの重量及び結着剤の重量を、スラリーの配合比から算出する。
(2)電解めっき後の単位面積当たりの重量変化から、析出しためっき金属種の重量を算出する。
(3)電解めっき後、負極の断面をSEM観察することで、活物質層12の厚さを求める。
(4)活物質層12の厚さから、単位面積当たりの活物質層12の体積を算出する。
(5)粒子12aの重量、結着剤の重量、めっき金属種の重量と、それぞれの配合比から、それぞれの体積を算出する。
(6)単位面積当たりの活物質層12の体積から、粒子12aの体積、結着剤の体積、めっき金属種の体積を減じて、空隙の体積を算出する。
(7)このようにして算出された空隙の体積を、単位面積当たりの活物質層12の体積で除し、それに100を乗じた値を空隙率(%)とする。
【0026】
活物質の粒子12aの粒径を適切に選択することによっても、前記の空隙率をコントロールすることができる。この観点から、粒子12aはその最大粒径が好ましくは30μm以下であり、更に好ましくは10μm以下である。また粒子の粒径をD50値で表すと0.1〜8μm、特に0.3〜4μmであることが好ましい。粒子の粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定、電子顕微鏡観察(SEM観察)によって測定される。
【0027】
負極全体に対する活物質の量が少なすぎると電池のエネルギー密度を十分に向上させにくく、逆に多すぎると強度が低下し充放電時に活物質の脱落が起こりやすくなる傾向にある。これらを勘案すると、活物質層の厚みは10〜40μm、好ましくは15〜30μm、更に好ましくは18〜25μmである。
【0028】
活物質層12中に析出しているリチウム化合物の形成能の低い金属材料13は導電性を有するものであり、その例としては銅、ニッケル、鉄、コバルト又はこれらの金属の合金などが挙げられる。特に金属材料13は、活物質の粒子12aが膨張収縮しても該粒子12aの表面の被覆が破壊されにくい延性の高い材料であることが好ましい。そのような材料としては銅を用いることが好ましい。
【0029】
本実施形態の負極10においては、活物質層12の表面に薄い表面層(図示せず)が形成されていてもよい。また負極10はそのような表面層を有していなくてもよい。表面層の厚みは、0.25μm以下、好ましくは0.1μm以下という薄いものである。表面層の厚みの下限値に制限はない。
【0030】
負極10が前記の厚みの薄い表面層を有するか又は該表面層を有していないことによって、負極10を用いて二次電池を組み立て、当該電池の初期充電を行うときの過電圧を低くすることができる。このことは、二次電池の充電時に負極10の表面でリチウムが還元することを防止できることを意味する。リチウムの還元は、両極の短絡の原因となるデンドライトの発生につながる。
【0031】
負極10が表面層を有している場合、該表面層は活物質層12の表面を連続又は不連続に被覆している。表面層が活物質層12の表面を連続に被覆している場合、該表面層は、その表面において開孔し且つ活物質層12と通ずる多数の微細空隙(図示せず)を有していることが好ましい。微細空隙は表面層の厚さ方向へ延びるように表面層中に存在していることが好ましい。微細空隙は非水電解液の流通が可能なものである。微細空隙の役割は、活物質層12内に非水電解液を供給することにある。微細空隙は、負極10の表面を電子顕微鏡観察により平面視したとき、金属材料13で被覆されている面積の割合、即ち被覆率が95%以下、特に80%以下、とりわけ60%以下となるような大きさであることが好ましい。
【0032】
表面層は、リチウム化合物の形成能の低い金属材料から構成されている。この金属材料は、活物質層12中に存在している金属材料13と同種でもよく、或いは異種でもよい。また表面層は、異なる2種以上の金属材料からなる2層以上の構造であってもよい。負極10の製造の容易さを考慮すると、活物質層12中に存在している金属材料13と、表面層を構成する金属材料とは同種であることが好ましい。
【0033】
負極10における集電体11としては、非水電解液二次電池用負極の集電体として従来用いられているものと同様のものを用いることができる。集電体11は、先に述べたリチウム化合物の形成能の低い金属材料から構成されていることが好ましい。そのような金属材料の例は既に述べた通りである。特に、銅、ニッケル、ステンレス等からなることが好ましい。また、コルソン合金箔に代表されるような銅合金箔の使用も可能である。更に集電体として、常態抗張力(JIS C 2318)が好ましくは500MPa以上である金属箔、例えば前記のコルソン合金箔の少なくとも一方の面に銅被膜層を形成したものを用いることもできる。更に集電体として常態伸度(JIS C 2318)が4%以上のものを用いることも好ましい。抗張力が低いと活物質が膨張した際の応力によりシワが生じ、伸び率が低いと該応力により集電体に亀裂が入ることがあるからである。集電体11の厚みは本実施形態において臨界的ではない。負極10の強度維持と、エネルギー密度向上とのバランスを考慮すると、9〜35μmであることが好ましい。なお、集電体11として銅箔を使用する場合には、クロメート処理や、トリアゾール系化合物及びイミダゾール系化合物などの有機化合物を用いた防錆処理を施しておくことが好ましい。
【0034】
次に、本実施形態の負極10の好ましい製造方法について、図2を参照しながら説明する。本製造方法では、活物質の粒子及び結着剤を含むスラリーを用いて集電体11上に塗膜を形成し、次いでその塗膜に対して電解めっきが行われる。
【0035】
先ず図2(a)に示すように集電体11を用意する。そして集電体11上に、活物質の粒子12aを含むスラリーを塗布して塗膜15を形成する。スラリーは、活物質の粒子の他に、結着剤及び希釈溶媒などを含んでいる。またスラリーはアセチレンブラックやグラファイトなどの導電性炭素材料の粒子を少量含んでいてもよい。特に、活物質の粒子12aがシリコン系材料から構成されている場合には、該活物質の粒子12aの重量に対して導電性炭素材料を1〜3重量%含有することが好ましい。導電性炭素材料の含有量が1重量%未満であると、スラリーの粘度が低下して活物質の粒子12aの沈降が促進されるため、良好な塗膜15及び均一な空隙を形成しにくくなる。また導電性炭素材料の含有量が3重量%を超えると、該導電性炭素材料の表面にめっき核が集中し、良好な被覆を形成しにくくなる。
【0036】
結着剤としてはスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)などが用いられる。希釈溶媒としてはN−メチルピロリドン、シクロヘキサンなどが用いられる。スラリー中における活物質の粒子12aの量は30〜70重量%程度とすることが好ましい。結着剤の量は0.4〜4重量%程度とすることが好ましい。これらに希釈溶媒を加えてスラリーとする。
【0037】
形成された塗膜15は、粒子12a間に多数の微小空間を有する。塗膜15が形成された集電体11を、リチウム化合物の形成能の低い金属材料を含むめっき浴中に浸漬する。めっき浴への浸漬によって、めっき液が塗膜15内の前記微小空間に浸入して、塗膜15と集電体11との界面にまで達する。その状態下に電解めっきを行い、めっき金属種を粒子12aの表面に析出させる(以下、このめっきを浸透めっきともいう)。浸透めっきは、集電体11をカソードとして用い、めっき浴中にアノードとしての対極を浸漬し、両極を電源に接続して行う。
【0038】
浸透めっきによる金属材料の析出は、塗膜15の一方の側から他方の側に向かって進行させることが好ましい。具体的には、図2(b)ないし(d)に示すように、塗膜15と集電体11との界面から塗膜の表面に向けて金属材料13の析出が進行するように電解めっきを行う。金属材料13をこのように析出させることで、活物質の粒子12aの表面を金属材料13で首尾よく被覆することができると共に、金属材料13で被覆された粒子12a間に空隙を首尾よく形成することができる。しかも、該空隙の空隙率を前述した好ましい範囲にすることが容易となる。
【0039】
前述のように金属材料13を析出させるための浸透めっきの条件には、めっき浴の組成、めっき浴のpH、電解の電流密度などがある。このような条件については既に述べた通りである。
【0040】
図2(b)ないし(d)に示されているように、塗膜15と集電体11との界面から塗膜の表面に向けて金属材料13の析出が進行するようにめっきを行うと、析出反応の最前面部においては、ほぼ一定の厚みで金属材料13のめっき核からなる微小粒子13aが層状に存在している。金属材料13の析出が進行すると、隣り合う微小粒子13aどうしが結合して更に大きな粒子となり、更に析出が進行すると、該粒子どうしが結合して活物質の粒子12aの表面を連続的に被覆するようになる。
【0041】
浸透めっきは、塗膜15の厚み方向全域に金属材料13が析出した時点で終了させる。めっきの終了時点を調節することで、活物質層12の上面に表面層(図示せず)を形成することができる。このようにして、図2(d)に示すように、目的とする負極が得られる。
【0042】
このようにして得られた負極10は、例えばリチウム二次電池等の非水電解液二次電池用の負極として好適に用いられる。この場合、電池の正極は、正極活物質並びに必要により導電剤及び結着剤を適当な溶媒に懸濁し、正極合剤を作製し、これを集電体に塗布、乾燥した後、ロール圧延、プレスし、更に裁断、打ち抜きすることにより得られる。正極活物質としては、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物等の含リチウム金属複合酸化物を始めとする従来公知の正極活物質が用いられる。また、正極活物質として、LiCoO2に少なくともZrとMgの両方を含有させたリチウム遷移金属複合酸化物と、層状構造を有し、少なくともMnとNiの両方を含有するリチウム遷移金属複合酸化物と混合したものも好ましく用いることができる。かかる正極活物質を用いることで充放電サイクル特性及び熱安定性の低下を伴うことなく、充電終止電圧を高めることが期待できる。正極活物質の一次粒子径の平均値は5μm以上10μm以下であることが、充填密度と反応面積との兼ね合いから好ましく、正極に使用する結着剤の重量平均分子量は350,000 以上2,000,000以下のポリフッ化ビニリデンであることが好ましい。低温環境での放電特性を向上させることが期待できるからである。
【0043】
電池のセパレータとしては、合成樹脂製不織布、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、又はポリテトラフルオロエチレンの多孔質フィルム等が好ましく用いられる。特にセパレータとして、例えば多孔性ポリエチレンフィルム(旭化成ケミカルズ製;N9420G)が好ましく使用できる。電池の過充電時に生じる電極の発熱を抑制する観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面にフェロセン誘導体の薄膜が形成されてなるセパレータを用いることが好ましい。セパレータは、突刺強度が0.2N/μm厚以上0.49N/μm厚以下であり、巻回軸方向の引張強度が40MPa以上150MPa以下であることが好ましい。充放電に伴い大きく膨張・収縮する負極活物質を用いても、セパレータの損傷を抑制することができ、内部短絡の発生を抑制することができるからである。
【0044】
非水電解液は、支持電解質であるリチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液からなる。リチウム塩としては、LiClO4、LiA1Cl4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiSCN、LiCl、LiBr、LiI、LiCF3SO3、LiC49SO3等が例示される。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。特に、非水電解液全体に対し0.5 〜5重量%のビニレンカーボネート及び0.1〜1重量%のジビニルスルホン、0.1〜1.5重量%の1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートを含有させることが充放電サイクル特性を更に向上する観点から好ましい。その理由について詳細は明らかでないが、1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートとジビニルスルホンが段階的に分解して、正極上に被膜を形成することにより、硫黄を含有する被膜がより緻密なものになるためであると考えられる。
【0045】
特に非水電解液としては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン ,4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン或いは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどのハロゲン原子を有する環状の炭酸エステル誘導体のような比誘電率が30以上の高誘電率溶媒を用いることも好ましい。耐還元性が高く、分解されにくいからである。また、上記高誘電率溶媒と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、或いはメチルエチルカーボネートなどの粘度が1mPa・s以下である低粘度溶媒を混合した電解液も好ましい。より高いイオン伝導性を得ることができるからである。更に、電解液中のフッ素イオンの含有量が14質量ppm以上1290質量ppm以下の範囲内であることも好ましい。電解液に適量なフッ素イオンが含まれていると、フッ素イオンに由来するフッ化リチウムなどの被膜が負極に形成され、負極における電解液の分解反応を抑制することができると考えられるからである。更に、酸無水物及びその誘導体からなる群のうちの少なくとも1種の添加物が0.001質量%〜10質量%含まれていることが好ましい。これにより負極の表面に被膜が形成され、電解液の分解反応を抑制することができるからである。この添加物としては、環に−C(=O)−O−C(=O)−基を含む環式化合物が好ましく、例えば無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水2−スルホ安息香酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、無水ヘキサフルオログルタル酸、無水3−フルオロフタル酸、無水4−フルオロフタル酸などの無水フタル酸誘導体、又は無水3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、無水1,8−ナフタル酸、無水2,3−ナフタレンカルボン酸、無水1,2−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸などの無水1,2−シクロアルカンジカルボン酸、又はシス−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物或いは3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物などのテトラヒドロフタル酸無水物、又はヘキサヒドロフタル酸無水物(シス異性体、トランス異性体)、3,4,5,6−テトラクロロフタル酸無水物、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物、二無水ピロメリット酸、又はこれらの誘導体などが挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0047】
〔実施例1〜3〕
厚さ18μmの電解銅箔からなる集電体を室温で30秒間酸洗浄した。処理後、15秒間純水洗浄した。集電体上にSiの粒子を含むスラリーを膜厚15μmになるように塗布し塗膜を形成した。スラリーの組成は、粒子:スチレンブタジエンラバー(結着剤):アセチレンブラック=100:1.7(重量比):2であった。Siの粒子としては、以下の表1に示す嵩密度及びタップ密度を有するものをそれぞれ用いた。Siの粒子の平均粒径D50は2μmであった。平均粒径D50は、日機装(株)製のマイクロトラック粒度分布測定装置(No.9320−X100)を使用して測定した。塗膜の空隙率は次の(1)〜(6)の手順で測定した。各実施例における塗膜の空隙率は以下の表1に示す通りであった。
【0048】
(1)前記のスラリー塗布によって形成された塗膜15の単位面積あたりの重量を測定し、粒子12aの重量及び結着剤の重量をスラリーの配合比から算出する。
(2)塗膜15の断面をSEMで観察することで塗膜15の厚さを求める。
(3)塗膜15の厚さから、単位面積当たりの塗膜15の体積を算出する。
(4)粒子12aの重量、結着剤の重量とそれぞれの配合比から、それぞれの体積を算出する。
(5)単位面積当たりの塗膜15の体積から、粒子12aの体積及び結着剤の体積を減じて、空隙の体積を算出する。
(6)このようにして算出された空隙の体積を、単位面積当たりの塗膜15の体積で除し、それに100を乗じた値を空隙率(%)とする。
【0049】
塗膜が形成された集電体を、以下の浴組成を有するピロリン酸銅浴に浸漬させ、電解により、塗膜に対して銅の浸透めっきを行い、活物質層を形成した。電解の条件は以下の通りとした。陽極にはDSEを用いた。電源は直流電源を用いた。
・ピロリン酸銅三水和物:105g/l
・ピロリン酸カリウム:450g/l
・硝酸カリウム:30g/l
・P比:7.7
・浴温度:50℃
・電流密度:3A/dm2
・pH:アンモニア水とポリリン酸を添加してpH8.2になるように調整した。
【0050】
浸透めっきは、塗膜の厚み方向全域にわたって銅が析出した時点で終了させた。このようにして目的とする負極を得た。得られた負極の表面を電子顕微鏡観察したところ、活物質層の表面が銅によって不連続に被覆されていた。また活物質層の断面観察によると、活物質の粒子は平均厚み0.05μmの銅の被膜で被覆されていた。
【0051】
〔比較例1及び2〕
Siの粒子として、表1に示す嵩密度及びタップ密度を有するものを用いた以外は実施例1と同様にして負極を得た。塗膜の空隙率は同表に示す通りであった。
【0052】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた負極を用いてリチウム二次電池を製造した。正極としてはLiCo1/3Ni1/3Mn1/32を用いた。電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1:1体積%混合溶媒に1mol/lのLiPF6を溶解した溶液に対して、ビニレンカーボネートを2体積%外添したものを用いた。セパレータとしては、20μm厚のポリプロピレン製多孔質フィルムを用いた。得られた二次電池について初回の充電を行い、容量が0.1mAhのときの電圧を測定した。充電は、定電流・定電圧モードで行った。この測定とは別に、負極製作中の浸透めっき時における塗膜の剥がれ落ちの有無を目視にて観察した。これらの結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示す結果から明らかなように、各実施例の負極は浸透めっき時に塗膜の剥がれ落ちが起こらずに首尾良くめっきを行えることが判る。また初回充電時の電圧が低いこと、即ち過電圧が低いことが判る。この理由は、活物質層中に、非水電解液の十分な流通が可能な空隙が形成されていることによるものと考えられる。これに対して比較例1の負極では、浸透めっき時に塗膜の剥がれ落ちは起こらないものの、初回充電時の電圧が高いこと、即ち過電圧が高いことが判る。この理由は、活物質層中に、非水電解液の流通が可能な空隙が十分に形成されていないことによるものと考えられる。比較例2では、浸透めっき時に塗膜の剥がれ落ちが起こり、満足な負極を得ることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の非水電解液二次電池用負極の一実施形態の断面構造を示す模式図である。
【図2】図1に示す負極の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0056】
10 非水電解液二次電池用負極
11 集電体
12 活物質層
12a 活物質の粒子
13 リチウム化合物の形成能の低い金属材料
15 塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質の粒子を含む活物質層を備え、粒子の表面の少なくとも一部がリチウム化合物の形成能の低い金属材料で被覆されていると共に、該金属材料で被覆された該粒子どうしの間に空隙が形成されており、該粒子の嵩密度が0.2〜0.8g/mlであることを特徴とする非水電解液二次電池用負極。
【請求項2】
前記粒子のタップ密度が0.5〜1.1g/mlである請求項1記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項3】
前記粒子がシリコン又はシリコン酸化物からなる請求項1又は2記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項4】
前記粒子の表面を被覆する前記金属材料の厚みが平均して0.05〜2μmである請求項1ないし3の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項5】
前記金属材料が、前記活物質層の厚み方向全域にわたって前記粒子の表面に存在している請求項1ないし4の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項6】
pHが7.1〜11であるめっき浴を用いた電解めっきによって前記粒子の表面を前記金属材料で被覆してある請求項1ないし5の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極を備えた非水電解液二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−16195(P2008−16195A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182829(P2006−182829)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】