説明

非水電解質二次電池

【課題】電池の体積当たりの容量を低下させることなく、釘刺し若しくは圧壊等の外部衝撃による内部短絡、又は異物混入等による短絡時に安全性の高い非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】正極集電体上に正極活物質を含む正極合剤層を形成した正極板16と、負極集電体上に負極活物質を含む負極合剤層を形成した負極板17とを、セパレータ18を介して捲回又は積層してなる極板群Bを、電解液と共に電池外装体9に封入した非水電解質二次電池において、電池外装体9は、電池外装体9内のガス圧が作動圧に到達すると、電池外装体9内のガスを外部へ放出するガス抜き弁11vを備え、ガス抜き弁11vの作動圧よりも小さい電池外装体9内のガス圧下において変形可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池に関し、電池の異常発熱を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池(主にリチウムイオン二次電池)は、高電圧で高エネルギー密度が得られるため、移動体通信機器、及び携帯電子機器などのモバイル機器の主電源として利用されている。更に近年環境問題から、自動車搭載用電池、又はバックアップ電源用電池として、従来の電池より小型化及び軽量化が可能な高出力リチウムイオン二次電池も利用されている。
【0003】
しかし、これらリチウムイオン二次電池は、過充電などの電気的要因、高温放置などの環境的要因、重量物の落下に伴う衝撃などの機械的要因により発熱するおそれがある。機械的要因により発熱するかどうかを試験する方法には、電池への重量物の落下、電池への振動の付加の他に、最も過酷な状態を想定して、充電状態のリチウムイオン二次電池に釘(φ4.8)を刺して内部短絡を発生させる方法がある(SBA規格、電池を木箱などに梱包する際、誤って釘などが刺し込まれるような誤用を想定している)。このような過酷な試験ではリチウムイオン二次電池は熱暴走に至るおそれがあった。
【0004】
この原因は、次のように考えられる。まず内部短絡により、大電流が流れ短絡部分が発熱する。次にこの発熱により、セパレータが溶融する。この溶融により、正極板と負極板とが全面接触し、より大きな内部短絡が引き起こされ電池が熱暴走に至る。
【0005】
そこで、より大きな内部短絡を引き起こすのを防ぐために、電池容器内側面と極板群外側面との間の実質的に全面に亘り隙間を形成し得る構造が提案されている(例えば特許文献1参照)。この提案によれば、電池容器内側面と極板群外側面との間に空隙があるため、正極板と負極板とが全面接触することはなく、より大きな内部短絡の発生を防止することが可能となる。
【特許文献1】特開平10−321260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の電池では、電池内部に隙間を形成する構造であり、極板群の占める体積が減少し、電池の体積当たりの容量が低下するという問題がある。
【0007】
前記に鑑み、本発明は、電池の体積当たりの容量を低下させることなく、釘刺し若しくは圧壊等の外部衝撃による内部短絡、又は異物混入等による短絡時に安全性の高い非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明に係る非水電解質二次電池は、正極集電体上に正極活物質を含む正極合剤層を形成した正極板と、負極集電体上に負極活物質を含む負極合剤層を形成した負極板とを、セパレータを介して捲回又は積層してなる極板群を、電解液と共に電池外装体に封入した非水電解質二次電池において、電池外装体は、電池外装体内のガス圧が作動圧に到達すると、電池外装体内のガスを外部へ放出するガス抜き弁を備え、ガス抜き弁の作動圧よりも小さい電池外装体内のガス圧下において変形可能に構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る非水電解質二次電池によると、電池に内部短絡が発生することがあっても、ガス抜き弁が作動し電池外装体内に充満するガス(主に、短絡による電池内の温度上昇時に発生する電解液からのガス)が外部へ放出される前(すなわち、電池が熱暴走に至る前)に、電池外装体内のガス圧によって電池外装体をガスの押圧方向に変形させて、電池外装体の内側面と極板群の外側面との間にスペースを設けることができる。
【0010】
これにより、電池外装体内のガス圧によって正負極板をガスの押圧方向に押し出すことができる(例えば釘刺しにより電池に短絡が発生した場合、釘刺し方向に押し込まれた正負極板を、釘刺し方向とは逆の方向(言い換えれば、ガスの押圧方向)に押し出すことができる)ので、正極板と負極板との極板間隔を広げることができる。このため、電池が熱暴走に至る前に、正極板と負極板との面接触による短絡の継続を抑制することができるので、安全性の高い非水電解質二次電池を実現することができる。
【0011】
本発明に係る非水電解質二次電池において、電解液の沸点よりも高く且つ正極活物質の分解温度よりも低い温度範囲において、電池外装体は、ガス抜き弁の作動圧よりも小さい電池外装体内のガス圧下において変形可能に構成されていることが好ましい。
【0012】
このようにすると、短絡による電池内の温度上昇時に発生する電解液からのガス圧によって、電池内の温度が正極活物質の分解温度に到達する前(すなわち、電池が熱暴走に至る前)に、電池外装体をガスの押圧方向に変形させることができる。
【0013】
本発明に係る非水電解質二次電池において、電池外装体の形状は円筒状であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る非水電解質二次電池において、ガス抜き弁の作動圧をP、電池外装体の内径をR、及び電池外装体の厚さをtとした場合、電池外装体の引っ張り強さがPR/tよりも小さいことが好ましい。
【0015】
本発明に係る非水電解質二次電池において、電池外装体は、アルミニウム合金からなることが好ましい。
【0016】
本発明に係る非水電解質二次電池において、正極活物質は、マンガン複合酸化物、ニッケル複合酸化物、及びコバルト複合酸化物のうち少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0017】
このようにすると、正極活物質として、例えばマンガン複合酸化物、ニッケル複合酸化物、又はコバルト複合酸化物等を含む電池は、例えばオリビン酸を含む電池と比較して、電池電圧が高く、短絡が発生した場合に電解液が分解され易く、短絡時に電解液からのガスが発生し易いため、本発明を有効に適用することができる。
【0018】
本発明に係る非水電解質二次電池において、極板群は、正極活物質の分解温度よりも低い温度においてガスを発生させるガス発生材料を含むことが好ましい。
【0019】
このようにすると、電池外装体内に充満する電解液からのガス圧に加えて、ガス発生材料からのガス圧によって、電池内の温度が正極活物質の分解温度に到達する前(すなわち、電池が熱暴走に至る前)に、電池外装体をガスの押圧方向に変形させることができる。
【0020】
本発明に係る非水電解質二次電池において、ガス発生材料は、セパレータの溶融温度よりも高い温度においてガスを発生させるガス発生材料であることが好ましい。
【0021】
このようにすると、電解液からのガス圧に加えて、セパレータの溶融温度よりも高く正極活物質の分解温度よりも低い温度範囲内において発生するガス発生材料からのガス圧によって、電池内の温度が正極活物質の分解温度に到達する前に、電池外装体をガスの押圧方向に変形させることができる。
【0022】
本発明に係る非水電解質二次電池において、ガス発生材料は、電解液の沸点よりも高い温度においてガスを発生させるガス発生材料であることが好ましい。
【0023】
このようにすると、電解液からのガス圧に加えて、電解液の沸点よりも高く正極活物質の分解温度よりも低い温度範囲内において発生するガス発生材料からのガス圧によって、電池内の温度が正極活物質の分解温度に到達する前、更に好ましくは、セパレータの溶融温度に到達する前に、電池外装体をガスの押圧方向に変形させることができる。
【0024】
本発明に係る非水電解質二次電池において、ガス発生材料は、電池温度の上昇時に、ガスを発生する物質であれば如何なるものでもよいが、正極活物質、及び負極活物質と非水電解液との反応性を考慮すると、二酸化炭素ガスを不燃性ガスとして発生するものが好ましい。具体的には、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸亜鉛、炭酸鉛、及び炭酸ストロンチウムなどの無機系炭酸塩、又はマロン酸、アジピン酸、アセト酢酸、蓚酸、及び蓚酸リチウムなどの有機系酸等を挙げることができる。
【0025】
このようにすると、電池内の温度が正極活物質の分解温度に到達する前に、ガス発生材料が熱分解することによって、電池外装体内にガスを発生させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る非水電解質二次電池によると、電池に内部短絡が発生することがあっても、ガス抜き弁が作動し電池外装体内に充満するガス(主に、短絡による電池内の温度上昇時に発生する電解液からのガス)が外部へ放出される前(すなわち、電池が熱暴走に至る前)に、電池外装体内のガス圧によって電池外装体をガスの押圧方向に変形させて、電池外装体の内側面と極板群の外側面との間にスペースを設けることができる。
【0027】
これにより、電池外装体内のガス圧によって正負極板をガスの押圧方向に押し出すことができるので、正極板と負極板との極板間隔を広げることができる。このため、電池が熱暴走に至る前に、正極板と負極板との面接触による短絡の継続を抑制することができるので、安全性の高い非水電解質二次電池を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0029】
ここで、従来の電池への釘刺しによる短絡過程について、図1〜図2を参照しながら以下に説明する。図1は、従来の電池への釘刺しの様子を示す模式図である。また、図2は、短絡が発生してからの経過時間と、電池内の温度との関係を示す模式図であって、具体的には、曲線Aは、従来の電池について示す模式図であって、曲線Bは、本発明に係る電池について示す模式図である。
【0030】
まず、電池への釘刺しにより短絡が発生し、釘刺し部分に短絡電流が流れ発熱し、短絡部分の温度が急激に上昇する。また、釘刺し部分での温度上昇の影響を受けて、電池内の温度が上昇する。このとき、釘刺し部分の温度は700〜800℃近くにまで上昇するため、図1に示すように、正極板2(例えばアルミニウム箔からなる正極板)及びセパレータ3における釘との接触部分2a,3aは溶融する。正極板2における釘Nとの接触部分2aの溶融により、釘Nを介しての正極板2と負極板4との短絡は切断されるが、セパレータ3における釘Nとの接触部分3aの溶融により、釘N刺し方向に押し込まれた領域において、正極板2と負極板4とが局所的に面接触するため、正極板2と負極板4との短絡が継続される。
【0031】
そのため、短絡電流が流れ続けることにより、電池内の温度が上昇し、電池内の温度が電解液の沸点に到達すると、電池内に電解液からのガスが充満し始める。
【0032】
更に、電池内の温度がセパレータの溶融温度に到達すると、セパレータが溶融されて、正極板と負極板とが全面接触する。これにより、短絡箇所が釘刺し部分から極板全面にまで広がり、電池内の温度がより急激に上昇する。
【0033】
そして、電池内の温度が正極活物質の分解温度にまで到達すると、正極活物質の分解により酸素が発生し、電池が熱暴走に至る。
【0034】
電池に内部短絡が発生することがあっても、電池が熱暴走に至ることを防止するには、電池内の温度が正極活物質の分解温度(好ましくは、セパレータの溶融温度)に到達する前に、正極板と負極板との極板間隔を広げて、正極板と負極板との面接触を解除する必要がある。
【0035】
そこで、本件発明者らは鋭意検討を重ねた結果、電解液からのガス及びその発生温度(一般に、電解液からのガス発生温度はセパレータの溶融温度よりも低い)、並びに電池外装体の強度と電池内の温度との関係(一般に、電池外装体の強度は温度上昇に従って低下するという関係)に着目し、セパレータの溶融温度よりも低い温度で発生する電解液からのガス圧を利用して、電池内の温度上昇に従い強度が低下した電池外装体をガスの押圧方向に変形させることにより、図3に示すように、電池外装体5の内側面と極板群の外側面との間にスペースを設けて、電解液からのガス圧によって、正極板6、セパレータ7、及び負極板8をガスの押圧方向に押し広げることによって、正極板6と負極板8との極板間隔を広げることができるという知見に到達した。
【0036】
ここで、本発明に係る電池が電池としての機能を果たすためには、通常動作時での電池外装体の強度は、極板群の保護が可能な強度を示す一方、本発明の目的を達成するためには、異常動作時での電池外装体の強度は、電解液からのガス圧によって変形可能な強度を示すことが好ましい。更に、本発明の知見を活用するには、電池外装体が変形可能な強度を示す温度範囲は、異常動作時の温度範囲のうち、電解液の沸点よりも高く且つ正極活物質の分解温度よりも低い温度範囲を満たすことが好ましい。
【0037】
これに対し、従来の電池では、通常動作時、及び異常動作時の何れの場合においても、電池外装体は極板群の保護を目的に強固に構成されているため、電解液からのガス圧によって電池外装体を変形させることはできず、正極板と負極板との面接触による短絡が継続し、電池が熱暴走に至るおそれがある。
【0038】
尚、例えば一般的なリチウムイオン電池に用いられているジメチルカーボネイト等を含む電解液からのガス発生温度は大気圧では100℃、ポリエチレン等を含むセパレータの溶融温度は130℃、リチウムコバルト複合酸化物等の正極活物質の分解温度は250℃である。
【0039】
これに対して、本発明に係る電池への釘刺しによる短絡過程について、以下に説明する。
【0040】
まず、電池への釘刺しにより短絡が発生し、釘刺し部分に短絡電流が流れ発熱し、短絡部分の温度が急激に上昇する。また、釘刺し部分での温度上昇の影響を受けて、電池内の温度が上昇する。このとき、釘刺し部分の温度は700〜800℃近くにまで上昇するため、正極板(例えばアルミニウム箔からなる正極板)及びセパレータにおける釘との接触部分は溶融する。正極板における釘との接触部分の溶融により、釘を介しての正極板と負極板との短絡は切断されるが、従来と同様に、セパレータにおける釘との接触部分の溶融により、釘刺し方向に押し込まれた領域において、正極板と負極板とが局所的に面接触するため、正極板と負極板との短絡が継続される。
【0041】
そのため、短絡電流が流れ続けることにより、電池内の温度が上昇し、電池内の温度が電解液の沸点に到達すると、電池内に電解液からのガスが充満し始める。
【0042】
このとき、電池内に電解液からのガスが充満し、電池外装体の内側面に電解液からのガス圧が付加されて、電解液からのガス圧により、電池外装体がガスの押圧方向に膨らむと、電池外装体の内側面と極板群の外側面との間にスペースが形成される。これにより、電池外装体内に充満する電解液からのガス圧によって、釘刺し方向に押し込まれた正極板、負極板、及びセパレータをガスの押圧方向に押し出して、正極板と負極板との極板間隔を広げることができる。このため、電池内の温度が正極活物質の分解温度に到達する前に、すなわち、電池が熱暴走に至る前に、正極板と負極板との面接触による短絡の継続を切断することができる。
【0043】
このように、本発明に係る電池では、電池に内部短絡が発生しても、短絡箇所が釘刺し部分から極板全面にまで広がることはないため、電池の安全性の向上を図ることができる。
【0044】
ここで、正極板と負極板との全面接触による短絡を確実に防止するには、電池内の温度がセパレータの溶融温度に到達する前に、電池内のガス圧によって電池外装体を変形させて極板間隔を広げることが好ましいが、電池の異常発熱を防止するには、電池内の温度が正極活物質の分解温度に到達する前に、電池内のガス圧によって電池外装体を変形させて極板間隔を広げればよい。
【0045】
以下に、本発明に係る非水電解質二次電池における、電池外装体の構成について、詳細に説明する。
【0046】
電池外装体は、電解液の沸点(例えば100℃)よりも高く正極活物質の分解温度(例えば250℃)、好ましくはセパレータの溶融温度(例えば130℃)よりも低い温度範囲において、ガス抜き弁が作動する前に、電池外装体内に充満するガス圧(主に、電解液からのガス圧)によって、変形可能に設計される必要がある。すなわち、電池外装体は、電池が熱暴走に至る(すなわち、電池内の温度が正極活物質の分解温度に到達する)前の電池外装体内のガス圧によって、変形可能に設計される必要がある。
【0047】
ここで、一般に、ガス抜き弁とは、電池に内部短絡が発生した場合、電池が熱暴走に至る前に、電池外装体内に充満するガスを外部へ放出させるものである。そのため、ガス抜き弁の作動圧Pは、電池が熱暴走に至る前の電池外装体内のガス圧に設定されている。
【0048】
従って、電池外装体は、ガス抜き弁の作動圧P(すなわち、電池が発煙に至る前の電池外装体内のガス圧)よりも小さい電池外装体内のガス圧下において、変形可能に設計されることにより、電池が発煙に至る前に、電池外装体を確実に変形させることができる。
【0049】
以下に、本発明に係る電池について、図4を参照しながら詳細に説明する。図4は、本発明に係る電池の構成について示す断面図である。
【0050】
−電池外装体−
電池外装体9としては、例えば鉄、ニッケル、ステンレス、及びアルミニウムなどを使用することが可能である。
【0051】
例えば、円筒型電池の場合、図5(a) 及び(b) に示すように、電池内の圧力をP0(MPa)、電池外装体の内径をR(mm)、及び電池外装体の厚さをt(mm)とすると、正極活物質の分解温度(例えば250℃)の下、釘穴領域nの周方向に付加される応力P1は以下に示す式[1]で表される。尚、電池内の圧力がP0のとき、釘穴領域nに付加される周方向の応力をP1とすると、長手方向の応力はP1/2で表され、周方向の応力P1は、長手方向の応力P1/2よりも大きく、そのため、以下の説明では、周方向の応力P1について考慮する。
1 = P0R/t・・・式[1]
ガス抜き弁の作動圧をP(MPa)とすると、電池内の圧力P0がガス抜き弁の作動圧P、すなわち、P0=Pのとき、釘刺し領域nに付加される応力P1は、[式1]に基づいてP1=PR/tで表される。そのため、円筒型電池を構成する電池外装体は、250℃の下での引っ張り強さがPR/tよりも小さくなるように設計される。これにより、電池内の温度が正極活物質の分解温度に到達する前(すなわち、電池が熱暴走に至る前)に、電池外装体9内のガス圧によって、電池外装体9をガスの押圧方向に変形させることができる。
【0052】
−封口板A−
封口板Aの作製方法について、以下に簡単に説明する。
【0053】
図4に示すように、例えばアルミニウムからなる金属製フィルター10と、金属製フィルター10の内部に収納され例えばアルミニウムからなる金属製薄肉弁体11とを溶接結合する。金属製薄肉弁体11の上方に、樹脂製インナーガスケット12を配置する。尚、金属製薄肉弁体11は、図4に示すように、ガス抜き弁11vを有する。
【0054】
そして、例えばアルミニウムからなる金属製防爆弁体13と金属製キャップ14とを溶接結合する。樹脂製インナーガスケット12の上方に、溶接結合された金属製キャップ14及び金属製防爆弁体13を配置する。これらを収納配置した金属製フィルター10の周縁部をかしめて封止する。ここで、金属部品の結合形成部には、例えばレーザ溶接、抵抗溶接、又は超音波溶接等を用いることが好ましい。
【0055】
樹脂性インナーガスケット12として、例えば架橋型ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)樹脂、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などが用いられる。
【0056】
金属製キャップ14として、例えば鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、又はこれらのクラッド材などが用いられる。
【0057】
−正極板−
正極板の作製方法について、以下に簡単に説明する。
【0058】
正極活物質には、リチウムを電気化学的に挿入脱離することが可能な材料を用いることができる。具体的には例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、及びマンガン酸リチウムなどの複合酸化物、又はそれらの変性体などを用いることができる。変性体として、アルミニウム、及びマグネシウムなどの元素を含有させることができる。また、コバルト、ニッケル、及びマンガンなどの元素を含有させることもできる。
【0059】
導電剤としては、例えば正極電位下で安定な黒鉛、カーボンブラック、又は金属粉末などが用いられる。
【0060】
結着剤としては、例えば正極電位下で安定なポリフッ化ビニリデン(PVDF)、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが用いられる。
【0061】
集電体としては、例えばアルミニウム箔又はアルミニウム穿孔体などが用いられる。
【0062】
正極活物質を、導電剤及び結着剤と混練し、集電体に塗着する。集電体の一端に未塗着部を設け正極リード集電体19を溶接し取り付けて、正極リード集電体19が取り付けられた正極板16を作製する。
【0063】
−負極板−
負極板の作製方法について、以下に簡単に説明する。
【0064】
負極活物質には、リチウムを電気化学的に挿入脱離することが可能な材料を用いることができる。具体的には例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、アルミニウム、ケイ素若しくはそれを主体とする種々の合金、酸化ケイ素若しくは酸化スズなどの金属酸化物、又は金属窒化物を用いることができる。
【0065】
導電剤としては、例えば負極電位下で安定な黒鉛、カーボンブラック、又は金属粉末などが用いられる。
【0066】
結着剤としては、例えば負極電位下で安定なスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、又はカルボキシメチルセルロース(CMC)などが用いられる。
【0067】
集電体としては、例えば銅箔又は銅穿孔体などが用いられる。
【0068】
負極活物質を、導電剤及び結着剤と混練し、集電体に塗着する。集電体の一端に未塗着部を設け負極リード集電体20を溶接し取りつけて、負極リード集電体20が取り付けられた負極板17を作製する。
【0069】
−極板群B−
これら正負極板16,17を、セパレータ18を介して正極リード集電体19と負極リード集電体20とが違方向から取り出されるように捲回することにより、極板群Bを構成する。
【0070】
セパレータ18としては、例えばポリオレフィンからなる微多孔膜又は不織布などが用いられる。
【0071】
−電池−
極板群Bを電池外装体9内に挿入し、負極リード集電体20を電池外装体9の有底部と溶接して電気的に接続する。そして、電池外装体9の開放端から非水電解液を注入する。
【0072】
電解液としては、例えば非水電解液、又はポリマー材料に非水電解液を含ませたゲル電解質が挙げられる。非水電解液は非水溶媒と溶質とからなる。
【0073】
溶質として、例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、及び四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)などのリチウム塩が挙げられる。溶質の非水溶媒に対する溶解量は0.5〜2mol/Lの範囲内とすることが好ましい。
【0074】
特に、本発明の効果をより効果的に得るには、溶質の非水溶媒に対する溶解量は1.2〜2.0mol/Lの範囲内がより好ましい。このようにすると、短絡による電池内の温度上昇時に発生する電解液からのガス量を増やすことができる。
【0075】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒を使用することが可能である。この非水溶媒の種類は特に限定されないが、例えば環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、又は環状カルボン酸エステルなどが用いられる。具体的には、環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、及びエチレンカーボネート(EC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ−ブチロラクトン(GBL)、及びγ−バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
特に、本発明の効果をより効果的に得るには、非水溶媒の主溶媒として、低沸点溶媒であるDMCを用いるのがより好ましい。このようにすると、短絡による電池内の温度上昇時に発生する電解液からのガス量を増やすことができる。
【0077】
電解液に含める添加剤としては、例えばビニレンカーボネート、シクロヘキシルベンゼン、及びジフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0078】
以上の手順を経て、電池外装体9の開放端より取り出した正極リード集電体19と封口板Aとを溶接し、封口板Aを電池外装体9に装着し、樹脂製アウターガスケット15を介して電池外装体9の開放端全周囲をかしめて封口することにより、本発明に係る電池が構成される。
【0079】
尚、上述の説明では、本発明の効果をより効果的に得るために、短絡による電池内の温度上昇時に、電池外装体内に充満する電解液からのガス量を増やすことを目的に、溶質の非水溶媒に対する溶解量を増やす、又は非水溶媒として低沸点溶媒を用いる場合を具体例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0080】
例えば、本発明の効果をより一層効果的に得るために、短絡による電池内の温度上昇時に、電池外装体内に充満するガス量を増やすことを目的に、極板群にガス発生材料を含有させることが好ましい。ここで、極板群に含有させるガス発生材料としては、電池本来の機能に何ら悪影響を及ぼすことのない材料であって、正極活物質の分解温度よりも低い温度下でガスを発生させる材料を選択することが好ましい。例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸亜鉛、炭酸鉛、及び炭酸ストロンチウムなどの無機系炭酸塩、又はマロン酸、アジピン酸、アセト酢酸、蓚酸、及び蓚酸リチウムなどの有機系酸等のうち少なくとも一種を選択することが好ましい。
【0081】
また、本発明の目的を達成するには、ガス発生材料からのガス圧を、極板群に付加させることが好ましい。そのため、極板群を構成する正極板、負極板、セパレータ、及び電解液のうち少なくとも1つにガス発生材料を含有させることが好ましい。
【0082】
尚、上述の説明では、本発明に係る電池として、円筒型のリチウムイオン電池の場合を具体例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばニッケル水素蓄電池、及びニッケルカドミウム蓄電池などの場合においても、一般的に用いられる材料を駆使することにより、上述内容と同様に本発明の効果を活用することができる。
【0083】
また、上述の説明におけるセパレータとは、正極板と負極板とを絶縁し、電解液を保持する機能を果たすものを意味する。
【0084】
また、上述の説明における「電解液からのガス」とは、非水溶媒中の溶質が気化されてなるガス、及び非水溶媒が気化されてなるガスの双方を含み、すなわち、「電解液の沸点」とは、非水溶媒中の溶質が気化されて発生する温度、及び非水溶媒が気化されて発生する温度のうち、低い方の温度を意味する。
【0085】
また、上述の説明におけるガス発生材料からのガスとは、例えば、ガス発生材料が沸点に達し気化することによって発生するガス、及びガス発生材料が熱分解温度に達し熱分解することによって発生するガス等を含む。
【0086】
以下に、各実施例について説明する。
【0087】
(実施例1)
以下に、実施例1に係る電池の構造について、前述の図4を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明では、密閉型二次電池として、円筒型リチウムイオン電池を具体例に挙げて説明する。
【0088】
実施例1に係る電池は、図4に示すように、アルミニウム箔からなる正極集電体に正極合剤が塗着された正極板16と、銅箔からなる負極集電体に負極合剤が塗着された負極板17とを、正負極板16,17間に配置された厚み25μmのセパレータ18を介して、渦巻き状に捲回してなる円筒状の極板群Bを備えている。
【0089】
図4に示すように、正極リード集電体19が、アルミニウム箔集電体にレーザ溶接されている。一方、負極リード集電体20が、銅箔集電体に抵抗溶接されている。
【0090】
極板群Bは電池外装体(金属製有底ケース)9に収納されている。負極リード集電体20は、金属製有底ケース9の有底部と抵抗溶接され電気的に接続している。一方、正極リード集電体19は、金属製有底ケース9の開放端から封口板Bの金属製フィルター10にレーザ溶接され電気的に接続している。
【0091】
金属製有底ケース9には、その開放端から非水電解液が注入されている。金属製有底ケース9の開放端側には溝を入れて座が形成され、正極リード集電体19を折り曲げ、金属製有底ケース9の座部に樹脂製アウターガスケット15と封口板Bとが装着され、金属製有底ケース9の開放端全周囲をかしめて封口されている。
【0092】
(1)正極板の作製
正極板は以下のようにして作製する。正極活物質として、分解温度(酸素ガス発生開始温度)が250℃であるコバルト酸リチウム粉末を85重量部、導電剤として炭素粉末を10重量部、及び結着剤としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略す)のN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)溶液をPVDFが5重量部相当を混合する。この混合物を厚み15μmのアルミニウム箔集電体に、塗布、乾燥した後、圧延して厚みが100μmの正極板を作製する。
【0093】
(2)負極板の作製
負極板は以下のようにして作製する。負極活物質として人造黒鉛粉末を95重量部、及び結着剤としてPVDFのNMP溶液をPVDFが5重量部相当を混合する。この混合物を厚み10μmの銅箔集電体に、塗布、乾燥した後、圧延して厚みが110μmの負極板を作製する。
【0094】
(3)非水電解液の調製
非水電解液は以下のようにして調製する。非水溶媒として、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネート(DMC:沸点97℃)とを体積比1:1:8で混合してなる非水溶媒を用い、溶質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、この非水溶媒に対し、濃度が1.5mol/Lとなるようにこの溶質を溶解して、非水電解液を調製する。
【0095】
(4)密閉型二次電池の作製
正極板と負極板との間に厚み25μmのセパレータを配置して捲回し、円筒状の25.0φの極板群を構成した後、この極板群を非水電解液15mlと共に内径25.5mmφ、厚さ0.25mmの3003系アルミニウム合金製有底ケースに封入して、設計容量が2700mAhの密閉型非水電解質二次電池を得た。以上のようにして作製した電池を電池Aとした。
【0096】
(実施例2)
実施例1におけるジメチルカーボネートの代わりに、トリエチルフォスフェート(TEP:沸点220℃)を用いて、非水溶媒として、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとトリエチルフォスフェートとを体積比1:1:8で混合したものを用いたこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Bとした。
【0097】
(実施例3)
有底ケースとして、内径25.5mmφ、厚さ0.25mmの1100系純アルミニウム製有底ケースを用いたこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Cとした。
【0098】
(実施例4)
正極板中に炭酸水素ナトリウムを含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Dとした。ここで、正極板中に炭酸水素ナトリウムを含有させる一例について、以下に簡単に説明する。
【0099】
例えば、上記(1)正極板の作製において、正極活物質、導電剤、及び結着剤に加えて、炭酸水素ナトリウム1重量部を用いて、これらを混合し、この混合物を厚み15μmのアルミニウム箔集電体に、塗布、乾燥した後、圧延して厚みが100μmの正極板を作製する。
【0100】
(実施例5)
正極合剤と集電体との間に炭酸水素ナトリウムを含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Eとした。ここで、正極合剤と集電体との間に炭酸水素ナトリウムを含有させる一例について、以下に簡単に説明する。
【0101】
例えば、N−メチル−2−ピロリドンに、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを4重量部(炭酸水素ナトリウム100重量部に対して)溶解し、その後、ガス発生剤として炭酸水素ナトリウム、及び導電剤としてアセチレンブラックを2重量部(炭酸水素ナトリウム100重量部に対して)混合してスラリーを調製する。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔(集電体)の両面に塗布し、乾燥することにより、厚さ5μmのガス発生剤を含む導電性薄膜を形成する。この導電性薄膜上に、正極活物質、導電剤、及び結着剤の混合物を塗布、乾燥した後、圧延して厚みが100μmの正極板を作製する。このようにして、集電体と正極合剤との間に炭酸水素ナトリウムを含有させることができる。
【0102】
(実施例6)
正極板表面に炭酸水素ナトリウムを含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Fとした。ここで、正極板表面に炭酸水素ナトリウムを含有させる一例について、以下に簡単に説明する。
【0103】
例えば、N−メチル−2−ピロリドンに、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを4重量部(炭酸水素ナトリウム100重量部に対して)溶解し、その後、ガス発生剤として炭酸水素ナトリウムを混合してスラリーを調製する。このスラリーを実施例1と同様にして作製した正極板の両面に塗布し、乾燥することにより、厚さ5nmのガス発生剤を含む薄膜を形成する。このようにして、正極板表面に炭酸水素ナトリウムを含有させることができる。
【0104】
(実施例7)
非水電解液に炭酸水素ナトリウムを含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Gとした。
【0105】
(実施例8)
正極板表面に炭酸水素カリウムを含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Hとした。例えば、実施例6における炭酸水素ナトリウムの代わりに炭酸水素カリウムを用いて、実施例6と同様に作製することにより、正極板表面に炭酸水素カリウムを含有させることができる。
【0106】
(実施例9)
正極板表面に炭酸リチウムを含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Iとした。例えば、実施例6における炭酸水素ナトリウムの代わりに炭酸リチウムを用いて、実施例6と同様に作製することにより、正極板表面に炭酸リチウムを含有させることができる。
【0107】
(実施例10)
正極板表面に炭酸亜鉛を含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Jとした。例えば、実施例6における炭酸水素ナトリウムの代わりに炭酸亜鉛を用いて、実施例6と同様に作製することにより、正極板表面に炭酸亜鉛を含有させることができる。
【0108】
(実施例11)
正極板表面に炭酸鉛を含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Kとした。例えば、実施例6における炭酸水素ナトリウムの代わりに炭酸鉛を用いて、実施例6と同様に作製することにより、正極板表面に炭酸鉛を含有させることができる。
【0109】
(実施例12)
正極板表面に炭酸ストロンチウムを含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Lとした。例えば、実施例6における炭酸水素ナトリウムの代わりに炭酸ストロンチウムを用いて、実施例6と同様に作製することにより、正極板表面に炭酸ストロンチウムを含有させることができる。
【0110】
(実施例13)
正極板表面にマロン酸を含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Mとした。例えば、実施例6における炭酸水素ナトリウムの代わりにマロン酸を用いて、実施例6と同様に作製することにより、正極板表面にマロン酸を含有させることができる。
【0111】
(実施例14)
正極板表面にアジピン酸を含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Nとした。例えば、実施例6における炭酸水素ナトリウムの代わりにアジピン酸を用いて、実施例6と同様に作製することにより、正極板表面にアジピン酸を含有させることができる。
【0112】
(実施例15)
正極板表面にアセト酢酸を含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Oとした。例えば、実施例6における炭酸水素ナトリウムの代わりにアセト酢酸を用いて、実施例6と同様に作製することにより、正極板表面にアセト酢酸を含有させることができる。
【0113】
(実施例16)
正極板表面に蓚酸を含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Pとした。例えば、実施例6における炭酸水素ナトリウムの代わりに蓚酸を用いて、実施例6と同様に作製することにより、正極板表面に蓚酸を含有させることができる。
【0114】
(実施例17)
正極板表面に蓚酸リチウムを含むこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Qとした。例えば、実施例6における炭酸水素ナトリウムの代わりに蓚酸リチウムを用いて、実施例6と同様に作製することにより、正極板表面に蓚酸リチウムを含有させることができる。
【0115】
(比較例1)
有底ケースとして、内径25.5mmφ、厚さ0.25mmの冷間圧延鋼板SPCD製有底ケースを用いたこと以外は、電池Aと同様にして作製した電池を電池Rとした。
【0116】
<釘刺し試験>
各実施例において作製した電池A,B,Cと、比較例1において作製した電池Dとについて、SBA規格に基づく釘刺し試験を実施した。釘刺し試験の条件について以下に簡単に説明する。
【0117】
室温の下、各電池A,B,C,Dを、2.5Aの定電流で4.2Vに至るまで充電させ、定電圧で250mAの電流まで充電させる。そして、釘刺し速度が5mm/sec、60℃の環境下、電池の円周面中央部にφ4.8の釘を直径方向に貫通させる。このとき、各電池の電池温度を測定した。
【0118】
釘刺し試験での各電池A〜Rの電池表面の最高到達温度について、以下に示す[表1]に記す。
【0119】
【表1】

【0120】
表1に示すように、電池A〜Qは、電池Rと比較して最高到達温度が低い。
【0121】
以下に、各電池A〜Rの結果について、詳細に説明する。
【0122】
電池Aは、有底ケース(電池外装体)として、厚さ0.25mmの3003系アルミニウム合金製有底ケースを用いる。そのため、電池に内部短絡が発生しても、ガス抜き弁が作動する前(すなわち、電池が熱暴走に至る前)に、有底ケース内に充満する電解液からのガス圧によって、有底ケースをガスの押圧方向に変形させて、有底ケースの内側面と極板群の外側面との間にスペースを設けることができる。
【0123】
これにより、有底ケース内のガス圧によって、釘刺し方向に押し込まれた正負極板を、釘刺し方向とは逆の方向(言い換えれば、ガスの押圧方向)に押し出すことができるので、正極板と負極板との極板間隔を広げることができる。このため、電池が熱暴走に至る前に、正極板と負極板との面接触による短絡の継続を抑制できたので、電池Aの最高到達温度121℃は、電池Rの最高到達温度330℃と比較して低温を示す。
【0124】
電池Bは、電解液を構成する非水溶媒として、高沸点溶媒であるトリエチルフォスフェートを用いる。そのため、電池に内部短絡が発生しても、電池が熱暴走に至る前に、電解液からのガス圧によって、有底ケースをガスの押圧方向に変形させることは可能であるものの、電池Aと比較して電解液からのガス発生量が少ないため、電池Aよりも長い釘刺し発生からの経過時間で、正極板と負極板との面接触による短絡の継続が抑制できたので、電池Bの最高到達温度130℃は、電池Aの最高到達温度121℃よりも高温を示す(但し、電池Rの最高到達温度330℃と比較すると充分に低温を示す)。
【0125】
電池Cは、有底ケースとして厚さ0.25nmの1100系純アルミニウム製有底ケースを用いる。電池Cの有底ケースは電池Aの有底ケースよりも変形し易いため、電池に内部短絡が発生しても、より小さな有底ケース内のガス圧によって変形することができる。このため、電池Aよりも短い釘刺し発生からの経過時間で、正極板と負極板との面接触による短絡の継続を抑制できたので、電池Cの最高到達温度108℃は、電池Aの最高到達温度121℃よりも低温を示す。
【0126】
電池D〜Gは、ガス発生材料として、炭酸水素ナトリウムを、極板群を構成する正極板中、正極合剤と集電体との間、正極板表面、及び非水電解液のいずれかに含有させる。そのため、電池に内部短絡が発生しても、電池が熱暴走に至る前に、電池Aと同様に電解液からのガス圧に加えて、炭酸水素ナトリウムからのガス圧によって、有底ケースをガスの押圧方向に変形させることができる。このため、電池Aよりも短い釘刺し発生からの経過時間で、正極板と負極板との面接触による短絡の継続を抑制できたので、電池D〜Gの最高到達温度はそれぞれ110℃、105℃、105℃、107℃であり、電池Aの最高到達温度121℃よりも低温を示す。また、ガス発生材料は含有される場所によらず効果を発揮するので、極板群を構成する部品のいずれに含有させてもよいと言える。
【0127】
電池H〜Qは、ガス発生材料として、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸亜鉛、炭酸鉛、炭酸ストロンチウム、マロン酸、アジピン酸、アセト酢酸、蓚酸、及び蓚酸リチウムのいずれかを、極板群を構成する正極板表面に含有させる。そのため、電池に内部短絡が発生しても、電池が熱暴走に至る前に、電池Aと同様に電解液からのガス圧に加えて、ガス発生材料からのガス圧によって、有底ケースをガスの押圧方向に変形させることができる。このため、電池Aよりも短い釘刺し発生からの経過時間で、正極板と負極板との面接触による短絡の継続を抑制できたので、電池H〜Qの最高到達温度はそれぞれ109℃、108℃、116℃、118℃、115℃、105℃、106℃、110℃、105℃、110℃であり、電池Aの最高到達温度121℃よりも低温を示す。
【0128】
これらに対し、電池Rは、有底ケースとして厚さ0.25mmの冷間圧延鋼板SPCD製有底ケース(言い換えれば、ガス抜き弁の作動前に、有底ケース内のガス圧によって、変形不可に構成された有底ケース)を用いる。そのため、電池に内部短絡が発生しても、ガス抜き弁が作動する前(電池が発煙に至る前)に、電解液からのガス圧によって、有底ケースをガスの押圧方向に変形させて、有底ケースの内側面と極板群の外側面との間にスペースを設けることができない。このため、正極板と負極板との極板間隔を広げることができないため、正極板と負極板との面接触による短絡の継続を抑制できなかったので、電池Rの最高到達温度330℃は、電池A〜Qと比較して高温を示す。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、釘刺し若しくは圧壊等の外部衝撃による内部短絡、又は異物混入等による短絡時に安全性の高い非水電解質二次電池を提供することができるので、移動体通信機器、及び携帯電子機器などのモバイル機器、並びに自動車搭載用、及びバックアップ電源用などの大型機器などに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】従来の電池への釘刺しの様子を示す模式図である。
【図2】短絡が発生してからの経過時間と、電池内の温度との関係を示す模式図である。
【図3】本発明に係る電池への釘刺しの様子を示す模式図である。
【図4】本発明に係る電池の構成について示す断面図である。
【図5】(a) は、円筒型電池に付加される応力P1について示す模式斜視図であり、(b) は、円筒型電池に付加される応力P1について示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0131】
1 電池外装体
2 正極板
2a 釘との接触部分
3 セパレータ
3a 釘との接触部分
4 負極板
N 釘
5 電池外装体
6 正極板
7 セパレータ
8 負極板
9 電池外装体
10 金属製フィルター
11 金属製薄肉弁体
11v ガス抜き弁
12 樹脂製インナーガスケット
13 金属製防爆弁体
14 金属製キャップ
15 樹脂製アウターガスケット
A 封口板
16 正極板
17 負極板
18 セパレータ
19 正極リード集電体
20 負極リード集電体
B 極板群
0 電池内の圧力
1 応力
R 電池外装体の内径
t 電池外装体の厚さ
n 釘穴領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体上に正極活物質を含む正極合剤層を形成した正極板と、負極集電体上に負極活物質を含む負極合剤層を形成した負極板とを、セパレータを介して捲回又は積層してなる極板群を、電解液と共に電池外装体に封入した非水電解質二次電池において、
前記電池外装体は、
前記電池外装体内のガス圧が作動圧に到達すると、前記電池外装体内のガスを外部へ放出するガス抜き弁を備え、
前記ガス抜き弁の作動圧よりも小さい前記電池外装体内のガス圧下において変形可能に構成されていることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池において、
前記電解液の沸点よりも高く且つ前記正極活物質の分解温度よりも低い温度範囲において、前記電池外装体は、前記ガス抜き弁の作動圧よりも小さい前記電池外装体内のガス圧下において変形可能に構成されていることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項3】
請求項1に記載の非水電解質二次電池において、
前記電池外装体の形状は円筒状であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項4】
請求項3に記載の非水電解質二次電池において、
前記ガス抜き弁の作動圧をP、前記電池外装体の内径をR、及び前記電池外装体の厚さをtとした場合、前記電池外装体の引っ張り強さがPR/tよりも小さいことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項1に記載の非水電解質二次電池において、
前記電池外装体は、アルミニウム及びアルミニウム合金からなることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項6】
請求項1に記載の非水電解質二次電池において、
前記正極活物質は、マンガン複合酸化物、ニッケル複合酸化物、及びコバルト複合酸化物のうち少なくとも一種を含むことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか1項に記載の非水電解質二次電池において、
前記極板群を構成する部品のうち少なくとも1つは、前記正極活物質の分解温度よりも低い温度においてガスを発生させるガス発生材料を含むことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項8】
請求項7に記載の非水電解質二次電池において、
前記ガス発生材料は、前記セパレータの溶融温度よりも高い温度においてガスを発生させるガス発生材料であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項9】
請求項7に記載の非水電解質二次電池において、
前記ガス発生材料は、前記電解液の沸点よりも高い温度においてガスを発生させるガス発生材料であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項10】
請求項7に記載の非水電解質二次電池において、
前記ガス発生材料は、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸亜鉛、炭酸鉛、炭酸ストロンチウム、マロン酸、アジピン酸、アセト酢酸、蓚酸、及び蓚酸リチウムのうち少なくとも一種を含むことを特徴とする非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−204789(P2008−204789A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39354(P2007−39354)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】