説明

非発泡成形体の製造方法及び非発泡成形体

【課題】微量の二酸化炭素及び/又は窒素を含浸させた非晶性熱可塑性樹脂を射出成形することにより、非発泡成形体を効率的に製造する方法、及びその非発泡成形体を提供する。
【解決手段】非晶性熱可塑性樹脂に、二酸化炭素を0.3〜3.0質量%及び/又は窒素を0.05〜1.0質量%含浸させた後、得られた二酸化炭素及び/又は窒素の含浸樹脂を、射出成形機のシリンダーの最上流部に供給して成形することを特徴とする非発泡成形体の製造方法、及びその方法により得られた非発泡成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非発泡成形体の製造方法及び非発泡成形体に関し、詳しくは、微量の二酸化炭素及び/又は窒素を含浸させた非晶性熱可塑性樹脂を射出成形することにより、非発泡成形体を効率的に製造する方法、及びその非発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
光学系プラスチック部品等の射出成形においては、成形加工性(流動性)向上に加えて、金型面の転写性向上、配向ひずみの抑制、反りの抑制、熱劣化による着色防止(透明性の向上)等が求められている。
一般に熱可塑性樹脂の流動性を表す指標の一つとして、溶融粘度がある。熱可塑性樹脂は溶融粘度が高く、成形材料として流動性に劣るため、薄肉の部品では樹脂が完全に充填できなくなったり、転写性が不十分となることも多い。
溶融樹脂の粘度を下げて流動性を向上させる方法として、成形温度を上げる方法がある。しかし、成形温度を上げると、樹脂組成物によっては樹脂自身の熱分解や添加剤等の熱分解が起こり、成形体の強度のみならず、樹脂劣化物による異物の発生、金型汚れ、着色(変色)等の問題が生じる。また、金型内の樹脂の冷却速度が遅くなり、成形サイクル時間が長くなるという問題もある。
流動性を向上させる他の方法として、樹脂の分子量を下げたり、可塑剤を樹脂材料に添加する方法もあるが、樹脂の機械的強度等を低下させるという問題が生じる。
【0003】
そこで、成形温度を上げたり樹脂の分子量を下げることなく、溶融樹脂の流動性を向上させる方法として、二酸化炭素や窒素を樹脂に含浸させて樹脂を可塑化し、樹脂の溶融粘度やガラス転移温度(Tg)を低下させる方法が知られている(非特許文献1及び特許文献1〜3参照)。
特許文献1には、40℃でガス体となる化合物を射出成形機のシリンダー内に直接導入して、ガス体を熱可塑性樹脂中に含有させ、金型キャビティを大気に開放又は減圧にした状態で熱可塑性樹脂を金型キャビティに射出すると共に、気泡が生じる圧力以上の押圧力で後押しをする射出成形方法が開示されている。しかしながら、この方法は、耐圧性シリンダーや二酸化炭素供給装置等の特別な設備を必要とする上に、安定な射出成形が困難であるという問題がある。
【0004】
また、特許文献2には、二酸化炭素を0.2〜10重量%溶解させて溶融粘度を低下させた溶融樹脂を、フローフロント(金型内の溶融樹脂の流れの先端部)で発泡を生じさせながら金型キャビティに充填し、次いで発泡しない圧力以上に加圧する射出成形方法が開示されている。しかしながら、この方法では、得られる成形体表面に発泡模様が残るという問題がある。
また、特許文献3には、シンジオタクチックポリスチレン等の結晶性熱可塑性樹脂とスチレン系樹脂等の非結晶性熱可塑性樹脂とを混合したアロイ樹脂に、二酸化炭素を添加して可塑化し、結晶性樹脂単体の融点より低い温度で成形することを特徴とする射出成形方法が開示されている。しかしながら、この方法は、非結晶性樹脂のみからなる樹脂組成物には適用できない。
上記方法を応用した技術として、射出成形機内で溶融樹脂に二酸化炭素を溶解させ、樹脂の射出前に、金型内に予め二酸化炭素を充填しておく技術「AMOTEC」(登録商標)が知られている。しかし、この技術には特殊なガス供給装置、成形機及び金型が必要となる。
かかる状況から、二酸化炭素や窒素等を用いたより簡便で効率的な射出成形による非発泡成形体の製造方法の開発が要望されていた。
【0005】
【非特許文献1】Hisao Hachisuka, Polymer Journal, vol.22, No.1, pp77-79 (1990)
【特許文献1】特開平5−318541号公報
【特許文献2】国際公開第01/96084号パンフレット
【特許文献3】特開2003−211483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の現状に鑑み、通常の射出成形機を利用して、微量の二酸化炭素及び/又は窒素を含浸させた非晶性熱可塑性樹脂を射出成形することにより、非発泡成形体を効率的に製造する方法、及びその非発泡成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、金型内での発泡を抑制できる量の二酸化炭素及び/又は窒素を予め含浸させて、射出成形を行うことにより、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、次の(1)及び(2)を提供する。
(1)非晶性熱可塑性樹脂に、二酸化炭素を0.3〜3.0質量%及び/又は窒素を0.05〜1.0質量%含浸させた後、得られた二酸化炭素及び/又は窒素の含浸樹脂を、射出成形機のシリンダーの最上流部に供給して成形することを特徴とする非発泡成形体の製造方法。
(2)前記(1)に記載の方法により得られた非発泡成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によれば、樹脂の流動性が向上するため、成形加工時のトルク負荷を低減(エネルギー低減)することができ、金型内の樹脂流動長を5〜25%程度増加することができる。また、樹脂の分解反応速度を遅くし、成形温度を通常の温度域から10℃程度低下させることができるため、加熱による成形体の着色を抑制することができ、外観の優れた非発泡成形体を効率的に製造することができる。さらに、金型面の転写性を向上し、薄肉の成形体であっても配向ひずみや反りを減少することができる。
また、本発明方法によれば、シャットオフノズルを装備した通常の射出成形機を用いて射出成形体を製造することができ、特殊な設備を用いる必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の非発泡成形体の製造方法は、(i)非晶性熱可塑性樹脂に、二酸化炭素を0.3〜3.0質量%及び/又は窒素を0.05〜1.0質量%含浸させること、及び(ii)該窒素含浸樹脂を射出成形機のシリンダーの最上流部に供給して射出成形することが大きな特徴である。
本発明において非発泡成形体を構成する非晶性熱可塑性樹脂としては、一般にフィルム、シート、基板等の各種成形体材料として用いられ、二酸化炭素及び/又は窒素を含浸することができる樹脂であれば、特に制限はない。かかる非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。
【0010】
ポリスチレン系樹脂としては、汎用ポリスチレン(GPPS)、ゴム強化ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、スチレンーイソプレンースチレン共重合体(SIS)、スチレンーエチレン/ブチレンースチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、スチレンーブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。ポリスチレン系樹脂の質量平均分子量(Mw)は50,000〜400,000が好ましい。
ポリカーボネート系樹脂としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)、ビス(3,5−ジアルキル−4−ヒドロキシフェニル)、又はビス(3,5−ジハロ−4−ヒドロキシフェニル)置換を有する炭化水素誘導体を有するポリカーボネートが好ましく、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を有するビスフェノールA型ポリカーボネートが特に好ましい。ポリカーボネート系樹脂の質量平均分子量(Mw)は10,000〜50,000が好ましい。
ポリメタクリル系樹脂としては、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等が挙げられる。ポリメタクリル系樹脂の質量平均分子量(Mw)は50,000〜600,000が好ましい。
シクロ(環状)オレフィン系樹脂としては、日本ゼオン株式会社製のシクロオレフィンポリマー、商品名「ZEONOR」、「ZEONEX」、三井化学株式会社製のエチレン・テトラシクロドデセン共重合体、商品名「アペル」、Topas Advanced Polymers GmbH製のシクロオレフィン・コポリマー、商品名「TOPAS」等が好ましい。
【0011】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。ポリ塩化ビニル系樹脂の質量平均分子量(Mw)は40,000〜200,000が好ましい。
その他の非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリアリレート(PAR)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリビニルアセテート、ポリ塩化ビニリデン、液晶熱可塑性樹脂、及び生分解性樹脂等を挙げることができる。
【0012】
生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル、ポリビニールアルコール(PVA)、セルロース誘導体等が挙げられる。脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸(PLA)樹脂及びその誘導体、ポリヒドロキシブチレート(PHB)及びその誘導体、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリテトラメチレンアジペート、ポリグリコール酸(PGA)、ジオールとジカルボン酸の縮合物等が挙げられ、セルロース類としてはアセチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等が挙げられる。
これらの中では、ポリ乳酸樹脂が好ましい。ポリ乳酸樹脂は、乳酸又はラクチドの重縮合物である。ポリ乳酸樹脂にはD体、L体、DL体の光学異性体があるが、それらの単独物又は混合物を含む。ポリ乳酸樹脂の質量平均分子量(Mw)は100,000〜400,000が好ましい。
【0013】
前記の非晶性熱可塑性樹脂の中では、特に、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂が好ましい。
前記の非晶性熱可塑性樹脂は、一種単独で又は二種以上を混合して使用することができる。また、強度・耐熱性の付与、寸法精度の向上等を目的として、無機系又は有機系の充填剤を配合することができる。さらに添加剤として、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤等を配合することができる。
【0014】
非晶性熱可塑性樹脂は、射出成形機に供給する前に、予め二酸化炭素を0.3〜3.0質量%、好ましくは0.5〜3.0質量%、より好ましくは0.5〜1.9質量%、及び/又は窒素を0.05〜1.0質量%、好ましくは0.08〜0.9、より好ましくは0.1〜0.8質量%含浸させることが重要である。
二酸化炭素及び/又は窒素の含浸方法に特に制限はない。例えば、非晶性熱可塑性樹脂の粉粒体を圧力容器に入れ、この圧力容器内に二酸化炭素及び/又は窒素を供給し、加温ないし加圧下で所定時間保持して、樹脂粉粒体に二酸化炭素及び/又は窒素を含浸することができる。
【0015】
二酸化炭素の含浸の圧力は、好ましくは1〜40MPa、より好ましくは2〜20MPa、更に好ましくは2〜15MPaであり、窒素の含浸の圧力は、好ましくは1〜30MPa、より好ましくは2〜20MPa、更に好ましくは3〜10MPaである。
二酸化炭素及び/又は窒素の含浸の温度は、好ましくは非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以下であり、樹脂により異なるが、より好ましくは230℃〜−30℃、更に好ましくは100℃〜室温下である。含浸の時間は、圧力、温度、樹脂の種類等により異なるが、通常1分〜100時間、好ましくは0.5〜30時間、より好ましくは1〜30時間である。
含浸処理方式としては、バッチ式や、樹脂粉粒体を窒素の処理帯域に導入して連続的に処理する方式等を採用できる。ここで、樹脂粉粒体とは、前記樹脂の粉末、粒、ペレット、タブレットなどの粉粒体を指称し、射出成形の原料として供給できる形態であれば特に制限されない。
【0016】
二酸化炭素の含浸において、助剤として有機溶媒を可塑剤の0.05〜1質量%程度添加することもできる。
用いることのできる有機溶媒としては特に制限はなく、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒の他、ベンゼン、トルエン、ポリオール等が挙げられる。
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、第3級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、環状エーテル等が挙げられる。これらの中では、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒が特に好ましい。
【0017】
圧力容器に供給する二酸化炭素及び/又は窒素は、供給時点で通常のボンベ圧状態であってもよいし、亜臨界状態又は超臨界状態であってもよい。また、圧力容器内に供給した後に亜臨界状態又は超臨界状態としてもよい。
二酸化炭素及び/又は窒素を樹脂粉粒体に含浸させる条件は、樹脂自体の特性や目的とする成形体の形状、用途等に合わせて適宜決定することができる。例えば、二酸化炭素を室温下のボンベ圧(5MPa程度)、及び/又は窒素を室温下のボンベ圧(10MPa程度)で圧力容器内に供給し、樹脂粉粒体を必要に応じて適宜撹拌しながら0.5〜24時間保持することにより、3〜10質量%程度の二酸化炭素含浸量、及び/又は0.05〜1.0質量%程度の窒素含浸量とし、これに二酸化炭素及び/又は窒素未含浸の樹脂粉粒体を混合して、二酸化炭素及び/又は窒素含浸量を調整することが、設備面からは好ましい。
しかしながら、二酸化炭素及び/又は窒素の含浸性は樹脂により異なり、室温下のボンベ圧では二酸化炭素及び/又は窒素の含浸に長時間を要する樹脂材料も存在する。従って、二酸化炭素及び/又は窒素の含浸時間を短縮するためには、亜臨界状態又は超臨界状態下で、ガラス転移温度以下で含浸させることが好ましい。
【0018】
ここで、二酸化炭素又は窒素の「亜臨界状態」とは、(i)圧力が二酸化炭素の臨界圧力(7.38MPa)以上、又は窒素の臨界圧力(3.4MPa)以上であり、温度が二酸化炭素の臨界温度(31.1℃)未満、又は窒素の臨界温度(−147℃)未満である液体状態、(ii)圧力が二酸化炭素又は窒素の臨界圧力未満であり、温度が臨界温度以上である液体状態、又は(iii)温度及び圧力が共に二酸化炭素又は窒素の臨界点未満ではあるがこれに近い状態をいう。
より具体的には、二酸化炭素の場合、温度が20℃〜31℃で圧力が5MPa以上の状態が好ましく、窒素の場合、温度が室温〜100℃、圧力が1〜3.4MPaの状態が好ましい。
【0019】
また、「超臨界状態」とは、圧力が二酸化炭素及び/又は窒素の臨界圧力以上であり、かつ温度が臨界温度以上である状態をいう。二酸化炭素を超臨界状態とするためには、温度40〜50℃、圧力7.38〜30MPa、特に8〜20MPとすることが好ましく、窒素を超臨界状態とするためには、温度が室温〜100℃、圧力3.4〜30MPa、特に5〜20MPaとすることが好ましい。
亜臨界状態又は超臨界状態の二酸化炭素を用いる場合は、通常、1分間〜30時間、好ましくは5分間〜5時間保持すればよく、亜臨界状態又は超臨界状態の窒素を用いる場合は、通常、10分間〜30時間、好ましくは1〜10時間保持すればよい。
【0020】
上記のようにして二酸化炭素の含浸量を、樹脂粉粒体の0.3〜3.0質量%、好ましくは0.5〜1.9質量%とし、又は窒素の含浸量を、樹脂粉粒体の0.05〜1.0質量%、好ましくは0.08〜0.9、より好ましくは0.1〜0.8質量%とする。
次いで、圧力容器内の圧力を開放し、内部の樹脂粉粒体を取り出す。この圧力開放により樹脂粉粒体に含浸された二酸化炭素及び/又は窒素の一部、及び必要に応じて添加した有機溶媒が気体として樹脂粉粒体から放散されてゆくが、圧力解放後、常温で5時間以内であれば、含浸されている二酸化炭素の約50質量%程度、又は窒素の約60質量%程度が樹脂粉粒体内部に残存している。亜臨界状態又は超臨界状態の二酸化炭素及び/又は窒素で含浸した場合は、樹脂粉粒体の発泡を抑制するように、ゆっくり減圧することが好ましい。
また、得られた二酸化炭素及び/又は窒素の含浸樹脂と未含浸樹脂とを適当割合で混合し、樹脂に対する二酸化炭素及び/又は窒素の含浸量を調整し、射出成形用の樹脂粉粒体原料とすることができる。
【0021】
次に、この樹脂粉粒体を速やかに射出成形機のシリンダーの最上流部に供給して、該樹脂粉粒体をなす非晶性熱可塑性樹脂の種類に応じた成形条件で射出成形を行い、種々の形状の非発泡成形体とすることができる。射出成形機への非晶性熱可塑性樹脂の供給は、射出成形機の通常の原料供給口に投入することにより行うことができる。射出成形の際には、射出成形機のシリンダー内の圧力、温度は、通常、二酸化炭素及び/又は窒素の超臨界状態の圧力、温度以上となっているので、シリンダー内で溶融樹脂から二酸化炭素及び/又は窒素が放散することはない。
しかしながら、溶融樹脂を金型に充填した時に、含浸された0.3〜3.0質量%の二酸化炭素及び/又は0.05〜1.0質量%窒素は、金型と金型の接合面のガス抜き部から放散したり、射出成形機から金型内に注入される際及び射出成形機内での可塑化時に、非晶性熱可塑性樹脂に溶解しない二酸化炭素は背圧により、また、射出圧力や保圧等の成形条件を制御することにより放散するため、成形体内に残存せず、発泡して成形体表面に発泡模様が残ることもない。
【0022】
本発明方法によれば、通常の射出成形機がそのまま使用でき、その成形条件は通常の条件となるので、成形効率が低下することもない。また、得られる非発泡成形体は、着色がなく外観が優れている。さらに、金型転写性に優れ、配向ひずみの少ない成形体を効率的に製造することができる。
本発明方法は、厚さ2mm以下、特に1mm以下の基板、シート、フィルム等の薄肉の成形体の製造に特に好適である。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。
【0024】
実施例1
市販のポリカーボネート(出光興産株式会社製、商品名:A2200、Mw:27,100、Tg=145℃)のペレットを90℃で5時間乾燥した後、このペレット(以下、「PCペレット−1」という)100gをステンレス金網製円筒状ロッド(45mmφ、長さ135mm)内に入れ、容量300mLのオートクレーブ(耐圧工業株式会社製)内に設置後、室温下、ボンベ圧5.4MPaで5時間二酸化炭素処理を行った。その後、オートクレーブ内の二酸化炭素を10分間かけて脱圧した。以下に示す質量法から算出したPCペレット−1の二酸化炭素(CO2)含浸量は7.41質量%であった。
CO2溶解量(質量%)={[CO2含浸後の円筒状ロッド質量(g)+CO2含浸後のペレット質量(g)]−[CO2含浸前の円筒状ロッド質量(g)+CO2含浸前のペレット質量(g)]}/含浸前のペレット質量(g)×100
得られた二酸化炭素含浸PCペレット−1 100gと二酸化炭素未含浸のPCペレット−1 400gの混合物500gを、射出成形機(株式会社日本製鋼所製、商品名:J35ELIII−F)の原料供給口(シリンダーの最上流部)に直接投入した。なお、ペレット混合物の二酸化炭素含浸量は1.48質量%であった。
シリンダーの口径:25mm、スクリュー回転数:50rpm
射出条件:速度30mm/秒、圧力130MPa、時間1.3秒、型締め20トン
保圧条件:圧力25MPa、時間1.5秒
背圧:5MPa
成形温度:原料供給口280℃、ノズル320℃
金型温度:80℃
上記の射出成形条件下でバーフロー金型(スパイラルフロー金型:幅5mm、厚み:1mm)を用いて、二酸化炭素含浸処理による金型内の樹脂流動長の影響を評価した。その結果、金型内の樹脂流動長は57mm、成形体質量は1.4540gであり、樹脂の噛み込みの安定性も良好となった。
また、得られた成形体のスプルーランナー部を卓上プレス成形機(株式会社井元製作所製)を使用し、温度260℃で10分間加熱、加圧し、厚さ500μmで2cm角のシートを作製した。
作製したシートの透過率を紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、商品名:V−550)を用いて測定した結果、可視光領域(400nm)での透過率は82.5%、紫外領域(300nm)での透過率は31.2%であった。
また、成形体画像をコンピューターに取り込み、色彩輝度計(コニカミノルタホールディングス株式会社製、2D LCD COLOR ANALYZER、CD-1500)で色度図と対比し、着色度を評価した結果、色度Δx=0.377、色度Δy=0.398であり、成形体の着色(黄色変化)は認められなかった。
【0025】
比較例1
実施例1で用いたPCペレット−1を、そのまま実施例1と同様の条件下で射出成形した。その結果、金型内の樹脂流動長は46mm、成形体重量は1.4205gであった。
また、実施例1と同様にして、透過率を測定した結果、可視光領域(400nm)での透過率は81.1%であり、紫外領域(300nm)では26.2%であった。また、成形体の着色度を評価した結果、色度Δx=0.399、色度Δy=0.417であり、成形体は黄色に着色していた。
実施例1と比較例1を対比すると、実施例1の方が、金型内の樹脂流動長が46mm(比較例1)から57mm(実施例1)へと24%増大し、回転力(トルク)が100%から70%に低下した。また、比較例1の未処理PCペレット−1は、水酸基末端の低分子量成分が熱により構造変化して、特に紫外領域の透過率が低下したと考えられ、成形体の黄色変化の度合いがこれを反映している。
【0026】
実施例2
実施例1において、二酸化炭素を超臨界状態(10MPa、40℃)として3時間保持し、PCペレット−1に二酸化炭素を含浸した以外は、実施例1と同様に行った。
その結果、得られたPCペレット−1の二酸化炭素含浸量は9.0質量%であった。
この二酸化炭素含浸PCペレット−1 100gと二酸化炭素未含浸のPCペレット−1 400gの混合物500gを、射出成形機(株式会社日本製鋼所製、商品名:J35ELIII−F)の原料供給口(シリンダーの最上流部)に直接投入した。なお、ペレット混合物の二酸化炭素含浸量は1.8質量%であった。
以下、実施例1と同様の操作を行った結果、金型内の流動長は60mm、成形体質量は1.4580gであった。
実施例2と比較例1を対比すると、金型内の流動長が46mm(比較例1)から60mm(実施例2)へと30%増大し、回転力(トルク)が100%から70%に低下した。さらに、樹脂の噛み込みの安定性も良好となった。また、成形体の着色(黄色変化)は認められなかった。
【0027】
実施例3
市販のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、商品名:ユーピロン HL−4000、Mw:12,000、Tg=145℃)のペレットを90℃で5時間乾燥した後、このペレット(以下、「PCペレット−2」という)100gをステンレス金網製円筒状ロッド(45mmφ、長さ135mm)内に入れ、容量300mLのオートクレーブ(耐圧工業株式会社製)内に設置後、室温下、ボンベ圧5.4MPaで4時間二酸化炭素処理を行った。その後、オートクレーブ内の二酸化炭素を10分間かけて脱圧した。
実施例1と同様にしてPCペレット−2の二酸化炭素含浸量を算出した結果、6.61質量%であった。
得られた二酸化炭素含浸PCペレット−2 40gと二酸化炭素未含浸のPCペレット−2 360gの混合物400gを、射出成形機(株式会社日本製鋼所製、商品名:J35ELIII−F)の原料供給口(シリンダーの最上流部)に直接投入した。なお、ペレット混合物の二酸化炭素含浸量は0.66質量%であった。
シリンダーの口径:25mm、スクリュー回転数:50rpm
射出条件:速度20mm/秒、圧力100MPa、時間1.5秒、型締め20トン
保圧条件:圧力25MPa、時間1.5秒
背圧:5MPa
成形温度:原料供給口250℃、ノズル280℃
金型温度:80℃
上記の射出成形条件下でバーフロー金型(スパイラルフロー金型:幅5mm、厚み:1mm)を用いて、二酸化炭素含浸処理による金型内の樹脂流動長の影響を評価した。その結果、金型内の樹脂流動長は42mm、成形体質量は1.413gであり、樹脂の噛み込みの安定性も良好となった。
【0028】
比較例2
実施例3で用いたPCペレット−2を、そのまま実施例3と同様の条件下で射出成形した。その結果、金型内の樹脂流動長は40mm、成形体重量は1.408gであった。
実施例3と比較例2を対比すると、流動長が40mm(比較例2)から42mm(実施例3)へと5%増大し、回転力(トルク)が17%から15%に低下した。
【0029】
実施例4
市販のポリメチルメタクリレート(住友化学株式会社製、商品名:スミペックスLG,Mw=100,000、Tg=100℃)のペレットを90℃で5時間乾燥した後、このペレット(以下、「PMMAペレット」という)100gをステンレス金網製円筒状ロッド(45mmφ、長さ135mm)内に入れ、容量300mLのオートクレーブ(耐圧工業株式会社製)内に設置後、室温下、ボンベ圧5.7MPaで20分二酸化炭素処理を行った。その後、オートクレーブ内の二酸化炭素を10分間かけて脱圧した。
実施例1と同様にしてPMMAペレットの二酸化炭素含浸量を算出した結果、7.5質量%であった。
得られた二酸化炭素含浸PMMAペレット100gと二酸化炭素未含浸のPMMAペレット400gの混合物500gを、射出成形機(株式会社日本製鋼所製、商品名:J35ELIII−F)の原料供給口(シリンダーの最上流部)に直接投入した。なお、ペレット混合物の二酸化炭素含浸量は1.5質量%であった。
シリンダーの口径:25mm、スクリュー回転数:50rpm
射出条件:速度20mm/秒、圧力100MPa、時間1.3秒、型締め20トン
保圧条件:圧力25MPa、時間1.5秒
背圧:5MPa
成形温度:原料供給口200℃、ノズル250℃
金型温度:60℃
上記の射出成形条件下でバーフロー金型(スパイラルフロー金型)を用いて、二酸化炭素含浸処理による金型内の樹脂流動長の影響を評価(n=10)した。その結果、金型内の樹脂流動長は106mm、成形体質量は1.7912gであり、樹脂の噛み込みの安定性も良好となった。また、成形体の着色(黄色変化)は認められなかった。
【0030】
比較例3
実施例4で用いたPMMAペレットを、そのまま実施例3と同様の条件下で射出成形した。その結果、金型内の流動長は89mm、成形体重量は1.7218gであり、成形体は黄色に着色していた。
実施例4と比較例3を対比すると、流動長が89mm(比較例3)から106mm(実施例4)へと19%増大し、回転力(トルク)が50%から40%に低下した。また、比較例2の未処理PMMAペレットは、水酸基末端の低分子量成分が熱により構造変化して、特に紫外領域の透過率が低下したと考えられ、成形体の黄色変化の度合いがこれを反映している。
【0031】
実施例5
市販のポリスチレン(出光興産株式会社製、商品名:HH32、Mw=321,000、Mw/Mn=2.3、Tg=105℃)のペレット(このペレット(以下、「PSペレット」という)100gをステンレス金網製円筒状ロッド(45mmφ、長さ135mm)内に入れ、容量300mLのオートクレーブ(耐圧工業株式会社製)内に設置後、室温下、ボンベ圧4.0MPaで24時間二酸化炭素処理を行った。その後、オートクレーブ内の二酸化炭素を10分間かけて脱圧した。
実施例1と同様にしてPSペレットの二酸化炭素含浸量を算出した結果、6.8質量%であった。
得られた二酸化炭素含浸PSペレット100gと二酸化炭素未含浸のPSペレット400gの混合物500gを、射出成形機(株式会社日本製鋼所製、商品名:J35ELIII−F)の原料供給口(シリンダーの最上流部)に直接投入した。なお、ペレット混合物の二酸化炭素含浸量は1.36質量%であった。
シリンダーの口径:25mm、スクリュー回転数:50rpm
射出条件:速度20mm/秒、圧力100MPa、時間1.5秒、型締め20トン
保圧条件:25MPa、時間1.5秒
背圧:5MPa
成形温度:原料供給口200℃、ノズル250℃
金型温度:60℃
上記の射出成形条件下でバーフロー金型(スパイラルフロー金型)を用いて、二酸化炭素含浸処理による金型内の樹脂流動長の影響を評価(n=10)した。その結果、金型内の樹脂流動長は160mm、成形体質量は1.730gであり、樹脂の噛み込みの安定性も良好となった。また、成形体の着色(黄色変化)は認められなかった。
【0032】
比較例4
実施例5で用いたPSペレットを、そのまま実施例5と同様の条件下で射出成形した。その結果、金型内の流動長は150mm、成形体重量は1.700gであり、成形体は僅かに黄色に着色していた。
実施例5と比較例4を対比すると、流動長が150mm(比較例4)から160mm(実施例5)へと7%増大し、回転力(トルク)が17%から15%に低下した。
【0033】
実施例6
市販のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、商品名:ユーピロン HL−4000、Mw:12,000、Tg=145℃)のペレットを100℃で5時間乾燥した後、このペレット(以下、「PCペレット−3」という)1000gをステンレス金網製円筒状ロッド(100mmφ、長さ200mm)内に入れ、容量2Lのオートクレーブ(耐圧工業株式会社製)内に設置後、室温下、ボンベ圧5.6MPaで24時間二酸化炭素処理を行った。その後、オートクレーブ内の二酸化炭素を7分間かけて脱圧した。
実施例1と同様にしてPCペレット−3の二酸化炭素含浸量を算出した結果、9.6質量%であった。
得られた二酸化炭素含浸PCペレット−3、60gと二酸化炭素未含浸のPCペレット−3、540gの混合物600gを、射出成形機(株式会社日本製鋼所製、商品名:J35ELIII−F)の原料供給口(シリンダーの最上流部)に直接投入した。なお、ペレット混合物の二酸化炭素含浸量は0.96質量%であった。
シリンダーの口径:25mm、スクリュー回転数:50rpm
射出条件:速度100mm/秒、圧力150MPa、1.3秒、型締め20トン
保圧条件:圧力100MPa、時間1.5秒、背圧:5MPa
成形温度:原料供給口240℃、ノズル295℃
金型温度:100℃
上記の射出成形条件下で転写性評価用金型(金型寸法;長さ:39mm、幅:28mm、厚さ:0.5mm、表面パターン;ピッチとピッチの山の高さの間隔:26μm、ピッチ高さ:5.2μm、ピッチ幅:18μmのプリズム形状)を用いて、二酸化炭素含浸処理による金型の樹脂への転写性と配向ひずみを評価した。
ここで、転写性は、下記式で算出した金型転写率(%)で評価した。
金型転写率(%)=[成形体のピッチ高さ(μm)/金型のピッチ高さ(μm)]×100
なお、成形体のピッチ高さは、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(株式会社キーエンス製、商品名:VK−9500)を用いて測定した。
また配向ひずみは、まず偏光歪計を用いて成形体全体の流動パターンを決定した後、得られた流動パターンを基に、分光光度計と偏光顕微鏡を用いて位相差(リターデーション:Re)測定して評価した。
ピッチ高さ、配向ひずみは、射出成形した成形体の中心部(ゲート部から長さ方向:20mm、幅方向:14mmの部分)で測定した。その結果、成形体のピッチ高さは4.79μmで、金型転写率は92.1%であり、Reは469nmであった。
【0034】
実施例7
実施例6で得られた二酸化炭素処理したPCペレット−3 100gと、二酸化炭素未含浸のPCペレット−3 500gの混合物600gを用いて、実施例6と同様の操作を行った。その結果、ペレット混合物の二酸化炭素含浸量は1.59質量%、成形体のピッチ高さは4.85μmで、金型転写率は93.3%であり、Reは650nmであった。
【0035】
実施例8
実施例6で得られた二酸化炭素処理したPCペレット−3 200gと、二酸化炭素未含浸のPCペレット−3 460gの混合物660gを用いて、実施例6と同様の操作を行った。その結果、ペレット混合物の二酸化炭素含浸量は2.91質量%、成形体のピッチ高さは5.03μmで、金型転写率は96.7%であり、Reは473nmであった。
【0036】
比較例5
実施例6で得られた二酸化炭素処理したPCペレット−3 200gと、二酸化炭素未含浸のPCペレット−3 400gの混合物600gを用いて、実施例6と同様の操作を行った。その結果、ペレット混合物の二酸化炭素含浸量は3.19質量%であった。また、成形体に気泡が入り、成形体のピッチ高さを評価できなかったため、金型転写率は得られなかった。なお、配向ひずみは837nmであった。
比較例5では、ペレット混合物の二酸化炭素含浸量が高く、成形体表面に発泡模様が残ったのに対し、実施例6では、Reが837nm(比較例5)から469nm(実施例6)へと44%低下した。また実施例7では、Reが837nm(比較例5)から650nm(実施例7)へと22%減少した。また実施例8では、Reが837nm(比較例5)から473nm(実施例8)へと43.5%減少した。
【0037】
比較例6
実施例6で用いたPCペレット−3を、そのまま実施例1と同様の条件下で射出成形した。その結果、得られた成形体のピッチ高さは4.65μmで、金型転写率は89.4%であり、Reは846nmであった。
実施例6と比較例6を対比すると、金型転写率が89.4%(比較例6)から92.1%(実施例6)に向上しており、Reが846nm(比較例5)から469nm(実施例6)へと45%低下した。また、実施例7と比較例6を対比すると、金型転写率が89.4%(比較例6)から93.3%(実施例7)に向上しており、Reが846nm(比較例6)から650nmへ(実施例7)と23%減少した。また、実施例8と比較例6を対比すると,金型転写率が89.4%(比較例6)から96.7%(実施例8)に向上しており、Reが846nm(比較例6)から473nm(実施例8)へと44%減少した。
これらの結果から、二酸化炭素を0.3〜3.0質量%含浸させることにより流動性が向上し、金型転写率が向上し、配向ひずみが減少することが分かる。
【0038】
実施例9
市販のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、商品名:ユーピロン HL−4000、Mw:12,000、Tg:145℃)のペレットを100℃で5時間乾燥した後、このペレット(以下、「PCペレット」という)1000gをステンレス金網製円筒状ロッド(100mmφ、長さ200mm)内に入れ、容量2Lのオートクレーブ(耐圧工業株式会社製)内に設置後、室温(22℃)下、ボンベ圧10MPaで24時間窒素処理を行った。その後、オートクレーブ内の窒素を7分間かけて脱圧した。以下に示す質量法から算出したPCペレットの窒素(N2)含浸量は0.8質量%であった。
2溶解量(質量%)={[N2含浸後の円筒状ロッド質量(g)+N2含浸後のペレット質量(g)]−[N2含浸前の円筒状ロッド質量(g)+N2含浸前のペレット質量(g)]}/含浸前のペレット質量(g)×100
得られた窒素含浸PCペレット300gと窒素未含浸のPCペレット300gの混合物600gを、射出成形機(株式会社日本製鋼所製、商品名:J35ELIII−F)の原料供給口(シリンダーの最上流部)に直接投入した。なお、ペレット混合物の窒素含浸量は0.4質量%であった。
シリンダーの口径:25mm、スクリュー回転数:50rpm
射出条件:速度125mm/秒、圧力170MPa、時間1.3秒、型締め20トン
保圧条件:圧力140MPa、時間1.5秒、背圧:10MPa
成形温度:原料供給口240℃、射出成形機内300℃、ノズル300℃
金型温度:100℃
上記の射出成形条件下で転写性評価用金型(金型寸法;長さ:39mm、幅:28mm、厚さ:0.5mm、表面パターン;ピッチとピッチの山の高さの間隔:26μm、ピッチ高さ:5.2μm、ピッチ幅:18μmのプリズム形状)を用いて、二酸化炭素含浸処理による金型の樹脂への転写性と配向ひずみを評価した。
ここで、転写性は、下記式で算出した金型転写率(%)で評価した。
金型転写率(%)=[成形体のピッチ高さ(μm)/金型のピッチ高さ(μm)]×100
なお、成形体のピッチ高さは、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(株式会社キーエンス製、商品名:VK−9500)を用いて測定した。
また配向ひずみは、まず偏光歪計を用いて成形体全体の流動パターンを決定した後、得られた流動パターンを基に、分光光度計と偏光顕微鏡を用いて位相差(リターデーション:Re)測定して評価した。
ピッチ高さ、配向ひずみは、射出成形した成形体の中心部(ゲート部から長さ方向:20mm、幅方向:14mmの部分)で測定した。その結果、成形体のピッチ高さは4.85μmで、金型転写率は93.3%であり、Reは515nmであった。
また、成形体の着色(黄色変化)は認められなかった。
【0039】
実施例10
実施例9と同様な方法で窒素処理したPCペレット600gを射出成形機(株式会社日本製鋼所製、商品名:J35ELIII−F)の原料供給口(シリンダーの最上流部)に直接投入した。なお、PCペレットの窒素含浸量は0.8質量%であった。
以下、実施例9と同様の操作を行った結果、成形体のピッチ高さは4.73μmで、金型転写率は91.0%であり、Reは660nmであった。
また、成形品の着色(黄色変化)は認められなかった。
【0040】
比較例7
実施例9で用いた乾燥PCペレットを、そのまま実施例1と同様の条件下で射出成形した。その結果、得られた成形体のピッチ高さは4.65μm、金型転写率は89.4%、Reは846nmであった。
実施例9と比較例7を対比すると、金型転写率が89.4%(比較例7)から93.3%(実施例9)に向上しており、Reが846nm(比較例7)から515nm(実施例9)へと39%低下した。また、実施例10と比較例7を対比すると、金型転写率が89.4%(比較例7)から91.0%(実施例10)に向上しており、Reが846nm(比較例7)から660nm(実施例10)へと22%減少した。
これらの結果から、窒素を0.05〜1.0質量%含浸させることにより流動性が向上し、金型転写率が向上し、配向ひずみが減少することが分かる。
【0041】
実施例11
市販のシクロオレフィン(日本ゼオン株式会社製、商品名:ZEONEX、480R、Tg:140℃)のペレットを100℃で5時間乾燥した後、このペレット(以下、「COPペレット」という)1000gをステンレス金網製円筒状ロッド(100mmφ、長さ200mm)内に入れ、容量2Lのオートクレーブ(耐圧工業株式会社製)内に設置後、室温(22℃)下、ボンベ圧10MPaで24時間窒素処理を行った。その後、オートクレーブ内の窒素を8分間かけて脱圧した。
実施例9と同様にしてCOPペレットの窒素(N2)含浸量を算出した結果、0.33質量%であった。
得られた窒素含浸COPペレット600gを、射出成形機(株式会社日本製鋼所製、商品名:J35ELIII−F)の原料供給口(シリンダーの最上流部)に直接投入した。
シリンダーの口径:25mm、スクリュー回転数:50rpm
射出条件:速度140mm/秒、圧力175MPa、時間1.3秒、型締め20トン
保圧条件:圧力120MPa、時間1.5秒、背圧:10MPa
成形温度:原料供給口220℃、射出成形機内320℃、ノズル315℃
金型温度:100℃
以下、実施例9と同様の操作を行った結果、成形体のピッチ高さは4.80μmで、金型転写率は92.3%であり、Reは323nmであった。
また、成形品の着色(黄色変化)は認められなかった。
【0042】
比較例8
実施例11で用いた乾燥COPペレットを、そのまま実施例3と同様の条件下で射出成形した。その結果、得られた成形体のピッチ高さは4.65μmで、金型転写率は89.4%であり、Reは456nmであった。
実施例11と比較例8を対比すると、金型転写率が89.4%(比較例8)から92.3%(実施例11)に向上しており、Reが456nm(比較例8)から323nm(実施例1 1)へと29%減少した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の製造方法によれば、樹脂の流動性の向上とともに、着色がなく、外観に優れ、しかも、金型面の転写性がよく、成形体の配向ひずみ・反りの少ない非発泡成形体を効率的に製造することができる。このため、本発明の製造方法は、導光板、回折格子、マイクロパターン、マイクロレンズ等のマイクロ成形加工分野、レンズ、プリズム等の光学系成形加工分野等で好適に使用できる。
また、本発明の製造方法は、成形加工の困難な樹脂、例えば、射出成形するには分子量が大きすぎる熱可塑性樹脂、熱安定性が悪く熱分解を起こしやすい樹脂、軟化温度が高いため高温で成形する必要がある樹脂(例えば、エンジニアリング・プラスチック)、熱分解し易い難燃剤等の添加剤を配合した樹脂等を用いた射出成形に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性熱可塑性樹脂に、二酸化炭素を0.3〜3.0質量%及び/又は窒素を0.05〜1.0質量%含浸させた後、得られた二酸化炭素及び/又は窒素の含浸樹脂を、射出成形機のシリンダーの最上流部に供給して成形することを特徴とする非発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
二酸化炭素及び/又は窒素を含浸させた非晶性熱可塑性樹脂を、射出成形機の原料供給口に投入する請求項1に記載の非発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
二酸化炭素の含浸を、1〜40MPaの圧力、及び非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度で行う請求項1又は2に記載の非発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
窒素の含浸を、1〜30MPaの圧力、及び非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度で行う請求項1〜3のいずれかに記載の非発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
非晶性熱可塑性樹脂が、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリル系樹脂、及びシクロオレフィン系樹脂から選ばれる一種以上のものである請求項1〜4のいずれかに記載の非発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により得られた非発泡成形体。
【請求項7】
成形体の厚さが2mm以下である請求項6に記載の非発泡成形体。

【公開番号】特開2007−296831(P2007−296831A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148596(P2006−148596)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(599100198)財団法人 滋賀県産業支援プラザ (12)
【出願人】(591252622)新生化学工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】