説明

非見通し軽減のためにマルチパス通信路統計を利用する加重最小二乗位置決め方法

方法は、加重最小二乗(WLS)手法に基づいてNLOS状態を軽減する。その場合、加重値は受信信号のマルチパス成分(MPC)から導出される。加重方法論は、線形及び非線形最小二乗モデルの双方、並びに、剰余ベース・アルゴリズム又は最大尤度手法などのような異なる他のNLOS軽減スキームで使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、(a)2006年8月3日に出願された米国仮特許出願第60/821,378号、(b)2006年8月11日に出願された米国仮特許出願第60/822,127号、(c)2006年8月23日に出願された米国仮特許出願第60/823,367号、(d)2007年8月1日に出願された米国特許出願第11/832,547号、(e)2007年8月1日に出願された米国特許出願第11/832,551号、及び(f)2007年8月1日に出願された米国特許出願第11/832,558号に関連し、これら出願の優先権を主張する。これら出願の全ては、参照により本明細書に組み込まれる。米国指定の場合、本出願は上記米国特許出願第11/832,558号の継続である。
【発明の背景】
【0002】
1.発明の分野
本発明は無線位置決め及び通信技術に関する。更に具体的には、本発明は非見通し(NLOS)状態が存在するときに到着時刻(TOA)手法を使用して移動端末位置を推定することに関する。
【0003】
2.関連技術の検討
超広帯域(UWB)技術は、非常に広い帯域幅を理由として、個々のマルチパス成分(MPC)を解決することのできる正確な測距及び位置決めシステムを約束する。UWB技術を使用して、受信信号の到着時刻(TOA)は、最初の到着パスが正しく識別されるとき、高い正確度で推定され得る。UWB技術を使用する様々なシステムが開示されてきた。それらシステムの中には、次の論文で開示されたシステムが含まれる。即ち、(a)B.Alavi 及び K.PahlavanによってProc.IEEE Vehic.Technol.Conf.(VTC),vol.4,Dallas,TX,Sep.2005,pp.2627−2631で発表された“Analysis of undetected direct path in time of arrival based UWB indoor geolocation”、(b)I.Guvenc、Z.Sahinoglu、A.F.Molisch、及びP.OrlikによってProc.IEEE Int.Workshop on Ultrawideband Networks (UWBNETS),Boston,MA,October 2005,pp.245−251で発表された“Non−coherent TOA estimation in IR−UWB systems with different signal waveforms”(招待論文)、(c)D.Dardari、C.C.Chong、及びM.Z.Winによって14th European Signal Processing Conference (EUSIPCO 2006),Florence,Italy,September 2006で発表された“Analysis of threshold−based TOA estimators in UWB channels”(招待論文)、及び(d)D.Dardari、C.C.Chong、及びM.Z.WinによってIEEE Intl.Conf.on Ultra−Wideband (ICUWB 2006),Waltham,MA,USA,September 2006 で発表された“Improved lower bounds on time of arrival estimation error in UWB realistic channels”(招待論文)である。
【0004】
位置決めシステムの1つの挑戦は、NLOS効果を成功裏に軽減することである。アンカーノード(AN)と移動端末との間の直接パスが妨害されるとき、ANへの信号のTOAは遅延され、これは正のバイアスを導入する。NLOS TOA推定値は、位置決め正確度に悪い影響を与える。故に、従来技術のセルラ・ネットワークは、典型的には、NLOS状態におけるANを識別して、それらANの影響を軽減する。例えば、M.P.Wylie 及びJ.HoltzmanによってProc.IEEE Int.Conf.Universal Personal Commun.,Cambridge,MA,Sept.1996,pp.827−831で発表された論文“The non−line of sight problem in mobile location estimation”は、測定雑音分散が知られているときに測距測定値の標準偏差をNLOS信号識別閾値と比較することを教示する。同様に、J.Borras、P.Hatrack、及びN.B.MandayamによってProc.IEEE Vehicular Technol.Conf.(VTC),vol.2,Ontario,Canada,May 1998,pp.1583−1587で発表された論文“Decision theoretic framework for NLOS identification”は、TOA測定値の既知及び未知の確率密度関数(PDF)について様々な仮説検定を使用する決定理論NLOS識別フレームワークを開示する。
【0005】
S.Gezici、H.Kobayashi、及びH.V.PoorによってProc.IEEE Vehic.Technol.Conf.(VTC),vol.4,Orlando,FL,Oct.2003,pp.2544−2548で発表された論文“Non−parametric non−line−of−sight identification”は、TOA(即ち、距離)測定値のPDFを近似可能にする非パラメータNLOS識別アプローチを開示する。既知の測定雑音分布と非パラメータ推定測定分布との間で、適切な距離計量が使用される。
【0006】
上記のNLOS識別手法は、全てNLOS基地局(BS)のTOA測定値が時間と共に変化することを仮定する。これは移動している端末について合理的である。移動している端末の場合、TOA測定値の分散は大きくなる。しかしながら、(例えば、無線パーソナル・アプリケーション・ネットワーク(WPAN)アプリケーションにおいて)端末が静止しているとき、NLOS測定値の分布は、LOS状態における分布からほとんど偏差を示さない。そこで、受信信号のマルチパス特性はLOS/NLOS識別について有用な洞察を提供する。例えば、X.Diao及びF.Guoによって2003年3月29日に出願され、2004年10月20日に公開された“A method distinguishing line of sight (LOS)from non−line−of−sight (NLOS)in CDMA mobile communication system”と題する欧州特許出願公報EP1,469,685は、もし(1)ローカル最大パスに対するグローバル最大パスの電力比が所与の閾値よりも大きく、(2)最初のパスと最大パスとの間の到着時刻差が所与の時間よりも小さいならば、受信された符号分割多元接続(CDMA)信号はLOSであることを開示する。同様に、Rabbachin、I.Oppermann、及びB.DenisによってProc.IEEE Int.Conf.Ultrawideband (ICUWB),Waltham,MA,Sept.2006で発表された論文”ML time−of−arrival estimation based on low complexity UWB energy detection”は、正規化された最強パスを固定閾値と比較することによってUWBのNLOS識別が実行されてもよいことを開示する。いずれのスキームにおいても、パラメータ(例えば閾値や時間)を慎重に選択する必要がある。
【0007】
受信されたマルチパス信号からNLOS状態を識別する代替案として、モバイル・ネットワーク全体から導出された情報がNLOS状態を軽減するために使用されてもよい。例えば、P.C.ChenによってProc.IEEE Int.Conf.Wireless Commun.Networking (WCNC),vol.1,New Orleans,LA,Sept.1999,pp.316−320で発表された論文“A non−line−of−sight error mitigation algorithm in location estimation”は、NLOS軽減のための剰余ベース・アルゴリズムを開示する。このアルゴリズムは、BSの異なる組み合わせについて場所の推定値及び剰余を使用する3つ以上の利用可能なBSに基づく。(全てのノードがLOSであるとき、2次元(2−D)位置決めを実行するために3つのBSが必要とされ、3次元(3−D)位置決めを実行するために4つのBSが必要とされる。)より小さい剰余を有する場所推定値は、正しい端末場所を表す可能性が大きい。こうして、論文で開示された手法は、異なる場所推定値を、対応する剰余とは逆に加重する。
【0008】
モバイル・ネットワークから導出された情報を使用する他のNLOS軽減手法は、(a)R.Casas、A.Marco、J.J.Guerrero、及びJ.FalcoによってEurasip J.Applied Sig.Processing,pp.1−8,2006に発表された“Robust estimator for non−line−of−sight error mitigation in indoor localization”、(b)Y.T.Chan、W.Y.Tsui、H.C.So、及びP.C.ChingによってIEEE Trans.Vehic.Technol.,vol.55,no.1,pp.17−24,Jan.2006に発表された “Time−of−arrival based localization under NLOS conditions”、(c)B.Li、A.G.Dempster、及びC.RizosによってProc.IEEE Position Location and Navigation Symposium (PLANS),San Diego,CA,Apr.2006で発表された“A database method to mitigate the NLOS error in mobile phone positioning”、(d)X.Li によってProc.IST Mobile and Wireless Commun.Summit,Myconos,Greece,June 2006に発表された“An iterative NLOS mitigation algorithm for location estimation in sensor networks”、(e)L.,Cong 及び W.Zhuang によってProc,IEEE INFOCOM,Hong Kong,Mar.2004,pp.650−659に発表された“Non−line−of−sight error mitigation in mobile location”、(f)J.Riba及びA.Urruela によってProc.IEEE Int.Conf.Acoustics,Speech,and Signal Processing (ICASSP),vol.2,Quebec,Canada,May 2004,pp.153−156に発表された“A non−line−of−sight mitigation technique based on ML−detection”、(g)S.Venkatesh 及びR.M.BuehrerによってProc.IEEE IPSN,Nashville,Tennessee,Apr.2006に発表された“A linear programming approach to NLOS error mitigation in sensor networks”、(h)C.L.Chen及びK.T.FengによってProc.IEEE Int.Conf.Wireless Networks,Commun.,Mobile Computing,Hawaii,USA,June 2005,pp.244−249 に発表された“An efficient geometry−constrained location estimation algorithm for NLOS environments”、及び(i)X.Wang、Z.Wang、及びB.O.Dea によってIEEE Trans.Vehic.Technol.,vol.52,no.1,pp.112−116,Jan.2003 に発表された“A TOA based location algorithm reducing the errors due to non−line−of−sight (NLOS)propagation”に開示される。
【0009】
幾つかの従来技術の位置決めアルゴリズムは等しい信頼度を各BSへ割り当てるので、これらの位置決めアルゴリズムはNLOS状態を考慮に入れない。結果として、NLOS BSの存在は、これらのアルゴリズムにおける位置決め正確度を著しく劣化させる。
【0010】
従来技術は、更に、移動端末位置を推定するための多くの加重最小二乗アプローチを含む。典型的には、これらのアプローチにおいて、各BSからの受信信号に対する加重値は、測定値分散から導出される(例えば、上述したM.P.Wylieら、J.Borrasら、及びS.Geziciらを参照)。これらのアプローチは、移動中の端末に関する測定値はNLOS状態で大きな分散を示すという事実に依存する。しかしながら、そのようなアプローチは、NLOS BSに関しては、正確な情報を信頼的に提供しない。
【0011】
測定値分散に基づく加重最小二乗法は、一般的に非常に多くの観察を必要とする。それ故に、測定された距離及び遅延を記憶するための大きなメモリが必要である。これらの測定された距離及び遅延は、移動端末の場所を推定するために必要である。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、UWB通信路の振幅及び遅延統計に基づいてNLOS固定端末(FT)を抑圧するNLOS軽減手法を提供する。そのような統計は、例えば、受信信号の受信マルチパス成分の尖度、平均アクセス遅延、及び二乗平均平方根(RMS)遅延の広がりを含む。本発明の一実施形態によれば、加重最小二乗法は、LOS状態をNLOS状態から区別する尤度関数から取得された加重値を使用する。
【0013】
固定端末(FT)は、移動端末に対して移動していない端末である。例えばFTは、無線又はセルラ通信ネットワークにおけるBS、無線コンピュータ・ネットワークのアクセス・ポイント、及びセンサ・ネットワークにおけるアンカーノードを含む。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、本発明の加重最小二乗法は、従来のアルゴリズム(例えば、前の段落で検討されたP.C.Chenらによる論文で開示された剰余ベース加重NLOS 軽減アルゴリズム)の性能を向上するために使用されてもよい。
【0015】
本発明は、添付の図面と関連させて下記の詳細な説明を考察するときに一層良好に理解される。
【好ましい実施形態の詳細な説明】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、受信信号の通信路インパルス応答(CIR)h(t)は、次式によって表される。
【数1】

ここで、Lはマルチパス成分(MPC)の総数であり、γ及びτは、それぞれl番目のMPCの振幅及び遅延である。受信信号のTOAはτtoa=τによって与えられる(即ち、最初の到着パスに対する到着時刻)。LOS仮説及びNLOS仮説をそれぞれ表す仮説H及びHは、次式によって与えられる。
【数2】

ここでdはFTと移動端末との間の距離を表し、cは光の速度を表す。NLOS状態において、最初の到着パスが正しく識別されるときでも、TOA推定値は依然として実際の距離と比較して大きな値を産出する。したがって、位置決め性能の劣化を避けるため、NLOS FTが識別され、次にそれらNLOS FTの効果が軽減される。
【0017】
本発明は、受信されたマルチパス成分の統計を使用してLOS及びNLOS状態を区別する方法を提供する。一実施形態において、受信信号の振幅及び遅延を捕捉する統計データ(即ち、尖度、平均過剰遅延、及びRMS遅延の広がり)は、LOS及びNLOS状態を区別するために使用される。
【0018】
尖度は、確率変数の第2順位モーメントの二乗(即ち、分散)に対する確率変数の第4順位モーメントの比である。尖度はデータがどの程度とがるかを特徴付けるので、尖度はLOS状態がマルチパスCIRでどの程度に強いかも特徴付ける。CIRの高い尖度値は、受信信号がLOS源から来た可能性が大きいことを示唆する。
【0019】
CIR h(t)を有する通信路について、|h(t)|の尖度は次式によって与えられる。
【数3】

ここで、μ|h|及びσ|h|は、それぞれCIRの絶対値の平均及び標準偏差である。κの分布は、標本通信路実現を使用してLOS及びNLOS状態の双方について取得され得る。例えば、IEEE 802.15.4a通信路は、住居内LOS及びNLOS状態、事務所内LOS及びNLOS状態、屋外LOS及びNLOS状態、産業LOS及びNLOS状態に対応する8つの異なる通信路モデルCM1〜CM8についてκのヒストグラムを提供する。ヒストグラムの各々は、次式によって与えられる対数正規PDFによってモデル化されてもよい。
【数4】

ここで、μはp(k)の平均であり、σは標準偏差である。このモデルは、IEEE 802.15.4a通信路上における5%有意性レベルのコルモゴルフ・スミルノフ (KS)適合度仮説検定を使用して正当化される。
【0020】
尖度は、受信されたMPCの振幅統計に関する情報を提供するが、マルチパス成分の遅延統計は、平均過剰遅延とRMS遅延の広がりとによって提供される。“Wireless Communications: Principles and Practice”,T.S.Rappaport (著者),Indianapolis,IN: Prentice Hall,2002によれば、通信路の平均過剰遅延τは次式によって与えられ、
【数5】

RMS遅延の広がりτrmsは次式によって与えられる。
【数6】

【0021】
上述した尖度分析と同じように、IEEE 802.15.4aからの8つの異なる通信路モデルに対する平均過剰遅延及びRMS遅延広がりのヒストグラムは、5%有意性レベルのコルモゴルフ・スミルノフ検定に基づいて、受信信号における遅延の対数正規分布を正当化する。
【0022】
もしκ、τ、及びτrmsに対する統計の先験的知識がLOS及びNLOS状態のもとで利用可能であれば、LOS及びNLOS仮説を区別するため尤度比検定が設定され得る。例えば、Plos(x)及びPnlos(x)がそれぞれLOS及びNLOS状態に対応するPDFを表し、κ、τ、及びτrmsが、観察された通信路実現h(t)に対する尖度、平均過剰遅延、及びRMS遅延広がりを表すとすれば、次の3つの尤度比検定の各々は、LOS/NLOS状態を識別するために使用され得る。
(1)尖度検定:
【数7】

(2)平均過剰遅延検定:
【数8】

(3)RMS遅延広がり検定:
【数9】

【0023】
各々の検定において、尤度比が1よりも大きい場合にはLOS仮説(H)が選択され、そうでなければNLOS仮説(H)が選択される。3つの全てのパラメータを考慮に入れて、これらのパラメータの個々のPDFから結合PDFを導出すると、次の形式の検定が取得される。
【数10】

【0024】
しかしながら、結合PDFは導出するのが困難である。パラメータκ、τ、及びτrmsが独立に得られると仮定して、1つの近似が取得されてもよい。
【数11】

ここで、
【数12】

【0025】
最小二乗アルゴリズムからのこの計量は、各FTの信頼度を加重するために使用されてもよい。
【0026】
位置決めの正確度を改善するため、NLOS状態の識別が多くの方途で使用されてもよい。例えば、NLOS FTが移動局の場所推定値の計算から除外されてもよい。場所推定に利用可能なFTの数が小さい場合、NLOS FTの除外は困難であるかも知れない。更に、(上述した)Venkateshらは、より良好な位置決め正確度を提供するため、特に、高い精密度幾何学的希釈(GDOP)ジオメトリについて、NLOS FT内の情報が使用され得ることを教示する。更に具体的には、3つ以上のLOS FTが1つの線に沿って近似的に配置されるとき、その線から外れた追加のFTを含めて位置の推定値を計算することは、追加のFTがNLOSであっても、位置決め正確度を改善する。
【0027】
N個のFTについて、J.J.Caffery 及びG.L.StuberによってIEEE Commun.Mag.,vol.36,no.4,pp.38−45,Apr.1998で発表された論文“Overview of radiolocation in CDMA cellular systems”は、加重された最小二乗解を教示する。
【数13】

ここで、βは、i番目のFTで受信された信号の信頼度を反映し、
【数14】

は移動端末位置の推定値であり、x=[x]はi番目のFTの既知の位置であり、dは移動端末とi番目のFTとの間の測定された距離である。dの1つのモデルは、次式によって与えられる。
=r+b+n
ここで、rは移動端末とi番目のFTとの間の実際の距離であり、n〜N(0,σ)は、分散σを有する加法的白色ガウス雑音(AWGN)であり、bは次式によって与えられる非負NLOSバイアスである。
【数15】

ここで、Ψ(μψ)は平均μψを有する指数分布を表す。
【0028】
上述したCafferyらでは、測定された距離の分散の逆が、i番目のFTの信頼度計量として使用される。しかしながら、静止端末の場合、TOA測定値の分散は、NLOS FTからのLOS FTの区別を許すほど有意に異なってはいない。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、Cafferyらのアプローチに勝る性能は、次の信頼度計量を使用して取得される。
β=log10(1+J(k,τ,τrms))
これは、典型的には0と1の間の加重値をFTに割り当てることによって、NLOS FTにペナルティを科す。そのような手法は軟加重選択(SWS)と呼ばれてもよい。そのようなアプローチの欠点は、LOSノードに対して、加重値の動的範囲が非常に大きくなることである。加重値の大きな動的範囲は、LOS測定値の幾つかを他のLOS測定値に関して不必要に優遇し、それによって、或る場合には位置決め正確度を劣化させる。
【0030】
SWSの性能は、固定された加重値をLOS及びNLOS測定値へ割り当てることによって、即ち硬加重選択(HWS)を使用することによって、改善されてもよい。HWSアプローチでは、βiは次のように設定され得る。
【数16】

ここで、k及びkは、NLOS効果を抑圧するように適宜選択された2つの加重値であり、これにより、識別されたNLOS FTが、限定されたインパクトをWLS解の上に有する。k=0及びk=1の場合、NLOS FTの寄与は廃棄される。これは、本明細書で識別及び廃棄(IAD)と呼ばれる手法である。IADは誤識別の危険を冒す(即ち、LOS FTをNLOS FTと間違えるか、この反対)。こうして、或る場合には、移動端末の場所を推定するには、識別されたLOS FTの数が不十分であるかも知れず、それによって、位置決め正確度を可能性として相当に劣化させる。
【0031】
上述した非線形費用関数における式を最小にすることは、数値探索法、例えば、最急降下法又はガウス・ニュートン手法を必要とする。これは計算的にコストが高く、費用関数内の極小値への収斂を避けるため良好な初期化を必要とする。(例えば、F.Gustafsson 及びF.GunnarssonによってIEEE Sig.Proc.Mag.,vol.22,no.4,pp.41−53,Juy 2005で発表された“Mobile positioning using wireless networks: Possibilites and fundamental limitations based on available wireless network measurements”を参照)。代替案として、費用関数は、上述のVenkateshで開示された方法を使用し、選択されたFTの位置に関して線形化されてもよい。この方法では、端末位置xへの被選択FTの寄与は、他の寄与から分離されて、次式を産出する。
Ax=p
これは、次式によって与えられる最小二乗解を有する。
x=(AA)−1
ここで、
【数17】

及び
【数18】

rは、選択されたFTの索引である(即ち(x,y)は選択されたFTの位置xである)。V.Dizdarevic 及びK.WitrisalによってProc.Workshop on Positioning,Navigation,and Commun.(WPNC),Hannover,Germany,Mar.2006,pp.129−138で発表された論文“On impact of topology and cost function on LSE position determination in wireless networks”で検討されるように、選択されたFT rに関する線形化は費用関数を最小にする。即ち、
【数19】

【0032】
前に検討された非線形モデルにおけるように、i番目のFTの相対的信頼度は、費用関数内のi番目の項をβだけ加重することによって特徴付けられてもよい。N−1対角行列W=diag(β,β,...,βN−1)によってN−1を構築し、A=WA及びp=WPを取得することによって、移動端末の加重された場所推定値xは、線形モデルを使用して取得される。
x=(A−1
【0033】
こうして、移動端末の場所xへの結果の最小二乗解は、受信信号のマルチパス成分から取得された尤度関数を使用してNLOS FTの効果を抑圧する。
【0034】
図1Aは、NLOS環境下における異なるFTで受信された信号に基づいて到着時刻(TOA)推定及び無線位置決め動作が実行されてもよい通信システムを示す図である。図1で示されるように、FT10、20、及び30の各々は、移動端末5から受信されたそれぞれの信号についてTOAを測定する。TOAは中央処理装置35へ回送され、三角測量によって端末5の場所を推定する。代替案として、端末5はFTにおける受信信号の測定値を使用して自分の場所を推定してよい。
【0035】
図1Bは、FT10、20、及び30で受信された信号に基づくTOA推定動作を図解する。典型的には、TOAを測定するため、各受信機は最強パスの上で係止する。図1Bにおいて、FT10、20、及び30のそれぞれの最強パスは参照番号9によって表示される。識別された最強パスから、各受信機は、最初の到着パスを求めて時間を逆方向に探索する。LOS状態で、最初の到着パス(図1Bの参照番号11によって表示される)は、送信機と受信機との間の最短距離に対応する。しかしながら、NLOS状態では(即ち、送信機と受信機との間に妨害物が存在する)、図1Bの参照番号7によって表示される最初の到着パスは、LOSの最初の到着パス11よりも遅れて到着する。こうして、NLOS到着パスは、最初の到着パスが正しく識別されるときにおいても、TOA推定値へ正のバイアスを導入する。更に受信機は、典型的には、最初の到着パスを適格にするために使用される閾値(参照番号8によって表示される)を設定する。NLOSの最初の到着パス7が閾値よりも小さい信号強度を有するとき、推定された最初の到着パス(参照番号12によって表示される)は、一層遅れた値を有する。
【0036】
従来のシステムにおいて、受信信号のTOAは、測距アルゴリズム(例えば、恣意的な閾値を使用する閾値ベース探索手法)を使用して各FTで推定される。TOA推定値は距離推定値31、32、及び33へ変換される(例えば、図1Aを参照)。例えば、移動端末の場所の推定値は最小二乗法によって提供される。最小二乗法は、次のように全ての剰余の二乗の合計を最小にするxの値を選択する。
【数20】

ここで、dはi番目のFTと移動端末との間の距離であり、xは利用可能なN個のFTについてi番目のFTの場所である。推定された端末場所の平均二乗剰余誤差(「剰余」)は、次のように書くことができる。
【数21】

【0037】
LOS状態では、剰余は測定雑音及び逆方向探索誤差のみに依存する。逆方向探索誤差は、最初の到着パスの不正確な識別から生じる。それ故に、LOS状態では、各々のFTに対応するTOAの正確な推定値は比較的容易に得られる。結果として、推定された移動端末の場所は実際の移動端末の場所に近くなり、十分な平均化が雑音分散を低減すると仮定すれば剰余誤差は一般的に小さい。しかしながら、1つ又は複数のNLOS FTが存在するとき、導入されたNLOSバイアスに起因して剰余は相当に大きい。上述したように、NLOSバイアスは2つの理由、即ち、(1)LOS TOAとNLOS TOAとの間の遅延、及び(2)推定されたNLOS TOAと実際のNLOS TOAとの間の遅延に起因する。
【0038】
第1のタイプのバイアス(即ち、LOS TOAとNLOS TOAとの間の差の結果としてのバイアス)は、逆方向探索ステップで直接取り扱うことはできないので、そのようなバイアスは三角測量ステップで対処される。基本的には、通信路のLOS又はNLOS情報はマルチパス受信信号から取得され得る(例えば尤度加重値の形式で)。この情報はNLOS FTの効果を低減するため三角測量ステップで使用され得る。
【0039】
図2は、本発明の一実施形態に従った加重最小二乗(WLS)位置決めアルゴリズム200(又は、代替として、剰余ベース最小二乗位置決めアルゴリズム210)を示す流れ図である。図2で示されるように、TOA推定値100は、尤度関数150と共に加重LSアルゴリズム200(又は、代替として、剰余ベース加重LSアルゴリズム210)へ直接提供される。上記で引用して組み入れられた関連出願“Line−of−Sight (LOS)or non−LOS (NLOS)Identification Method Using Multipath Channel Statistics”で検討されているように、最小二乗位置決めアルゴリズムで加重値を導出してLOS FTとNLOS FTとを区別するために尤度関数150が使用されてもよい。
【0040】
尤度関数から取得されたLOS加重値は、更に、他のアルゴリズムの性能を改善するために使用されてもよい。例えば、上述したP.C.Chenによる剰余ベース・アルゴリズムは、210で示されるように、LOS加重値をFTの個々の剰余へ割り当てることによって改善されてもよい。この改善された方法では、FTの異なる組み合わせに対応する剰余誤差を計算するとき、各々の観測に対応する誤差がLOS加重値によって更に加重される。受信信号のMPCにおける情報を使用して、異なるFTからの測定値の信頼度を特徴付けることによって、本発明の方法に係るLOS加重値は他の多くの異なる位置決めアルゴリズムと共に使用され得る。
【0041】
図3は、本発明の一実施形態に係る、図2で示されるWLS位置決めアルゴリズム200を一層詳細に示す図である。図3で示されるように、FT201、202、及び203で測定された到着時刻は、図2の最小二乗アルゴリズムのいずれかへ渡される。これらのアルゴリズムでは、移動端末と各FTとの間の距離測定値dが計算される。一実施形態において、加重費用関数(例えば、上述した加重費用関数)が最小にされるように移動端末の場所が選択される。上述したように、最小二乗モデルは線形(したがって閉形態の解を産出する)又は非線形(即ち、考えられる移動端末の場所の全部ではなくても、かなりの部分を探索する必要がある)であってもよい。
【0042】
典型的には時間の経過と共にTOA(又は距離)測定値の記録を必要とする従来技術の受信信号ベースNLOS軽減方法とは違って、本発明の方法によれば測定時間履歴は必要でない。LOS/NLOS尤度PDFが利用可能である限り、各FTからの単一通信路実現のように小さくてもNLOS軽減が実行され得る。なぜなら、TOAの変動は考慮されないからである。その代わりに、受信されたマルチパス成分の中のNLOS情報が使用される。
【0043】
更に、既存の従来のアルゴリズムは移動端末を優遇する。NLOS測定バイアスは、十分な変動を提供してNLOS測定値をLOS測定値から区別する。しかしながら、静止端末の場合にはNLOSバイアスは十分な変動を示さないかも知れず、したがって、NLOS FTの識別及び軽減を困難にする。しかしながら、本発明の方法はNLOS軽減のために受信信号のMPCの中に埋め込まれた情報を使用し、したがって、静止端末の場合にも効果的である。
【0044】
本発明の方法は位置決めの正確さを改善するためにも使用されてよい。十分な数のFTが利用可能であるとき、NLOS FTは廃棄され、移動端末の場所推定値のバイアスを防止する。LOS FTの尤度関数は、上述したLS位置決めアルゴリズムの中で加重することができ、より小さい信頼度がNLOS測定値へ与えられる。
【0045】
上記の詳細な説明は、本発明の具体的実施形態を例証するために提供され、限定を意図するものではない。本発明の範囲内で多くの修正及び変形が可能である。本発明は添付の特許請求の範囲に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1A】TOA推定及び無線位置決め動作がNLOS環境下において異なるFTで受信された信号に基づいて実行されてもよい通信システムを示す図である。
【図1B】FT10、20、及び30で受信された信号に基づくTOA推定動作を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る、加重最小二乗(WLS)位置決めアルゴリズム200(又は、代替として、剰余ベース最小二乗位置決めアルゴリズム210)を示す流れ図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る、図2で示されるWLS位置決めアルゴリズム200を一層詳細に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動端末の位置決め方法であって、
前記移動端末と複数の固定端末との間で送信された信号を受信するステップと、
各受信信号について、統計計量を使用して前記受信信号が見通し経路を進んだ尤度を決定するステップと、
前記受信信号の見通し経路の前記尤度に部分的に基づく位置決めアルゴリズムを使用して、前記受信信号の到着時刻に基づき前記移動端末の位置を決定するステップと
を含む方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−545755(P2009−545755A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523058(P2009−523058)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/075087
【国際公開番号】WO2008/017034
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】