説明

面板取付部材と内装構造

【課題】 本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することである。すなわち、構造体に面板を取り付けるために必要な部材以外のものは必要とせず、しかも固体音を減衰させることのできる、取付部材、及びこの取付部材を利用した内装構造を提供することにある。
【解決手段】本願発明の面板取付部材は、面板を設置する設置面と構造体に固定する係止面と、設置面と係止面との間に形成される屈曲部とを備え、屈曲部は設置面の幅方向両端側に設けられるとともに、設置面を上面とすると屈曲部は設置面から垂下するように第1折返し部、第2折返し部の順で形成され、かつ第1折返し部は幅方向内側に折り返されて第2折返し部は幅方向外側に折り返されており、係止面は第2折返し部の外側端部に連続して設けられ、屈曲部の弾性変形によって構造物からの音を低減させ得るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、木造住宅に代表される建築物の屋内側に設置される内壁に関するものであり、より具体的には、床や構造壁や柱など(以下、これらを総称して「構造体」という。)に、内壁板などの面板を取り付けるための取付部材、及びこの取付部材を利用した内装構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
直上階からの騒音は、かねてから建築物における大きな問題のひとつであった。建築物の場合、空気伝搬音を除き、下階で受ける騒音はそのほとんどが固体音によるものであるといっても過言ではない。この固体音を軽減する(つまり減衰させる)ことが従来から課題となっていた。
【0003】
固体音とは、固体に衝撃を与えたときに固体が振動し、その振動の結果この固体の中を伝搬する波によって生ずる音のことである。この固体音が室内に放出され、空気を振動させることで、騒音として人に伝わる。例えば、上階で人が飛び跳ねると、これが床に対する衝撃となって床の中を固体音が伝搬し、この固体音が階下に放出されることで騒音が生ずる。
【0004】
また固体音は、衝撃を与えた固体(例えば構造体)から直接放出されて騒音となる一次固体音と、衝撃を与え構造体からさらに他の構造体を伝搬した後に放出されて騒音となる二次固体音に、大別される。固体音のうち二次固体音は、連続するあらゆる構造体の中を伝搬するためその伝搬経路が複雑であり、しかも低周波成分が卓越して波長が大きいことから、これを減衰させることは極めて困難であった。
【0005】
騒音を低減する課題を解決すべくこれまでも種々の提案がなされており、たとえば以下に示す特許文献1も、建物の上階から下階へ伝わる騒音を問題としてこれを解決する対策技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−265619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、床材を支える床梁にダンパーを取り付けるとともに、床梁と床梁の間に吸音材を設ける床構造を提案するものである。このダンパーは上下に分かれた2つのダンパー部材からなり、これら2つのダンパー材の固有振動数を同一とすることで床振動の抑制を図っている。
【0008】
しかしながら、特許文献1では、分割構造のダンパーを設置する必要があり、その製造や設置に煩雑な手間がかかり、つまり施工にかかる期間やコストが増加するという採用し難い一面がある。さらに、一般的な構造である、野縁と野縁受と吊木の組み合わせで天井板を設置する場合、上階床と天井板との間隔が広くなるため、必ずしもダンパーによる減衰効果と特定しがたい。
【0009】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することである。すなわち、構造体(例えば上階の床)に面板(例えば天井板)を取り付けるために必要な部材以外のものは必要とせず、しかも固体音(とくに二次固体音)を減衰させることのできる、取付部材、及びこの取付部材を利用した内装構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、構造体(例えば上階の床)に面板(例えば天井板)を取り付けるために必要な取付部材に着目してなされたものであり、取付部材の本来の機能である構造体と面板との取付機能のほか、その弾性変形によって固体音を減衰させる騒音低減機能も、兼ね備えたものを提供すべく開発されたものである。
【0011】
本願発明の面板取付部材は、構造体(建築物の一部を構成する)と面板(多くは構造体の屋内側に設置される)との間に設けられるものであって、面板を構造体に取り付けるために用いられる取付部材である。さらに、面板を設置する設置面、構造体に固定する係止面、設置面と係止面との間に形成される屈曲部を備えており、設置面は幅方向よりも軸方向の方が長い帯状であり、屈曲部は設置面の幅方向両端側に設けられるとともに屈曲方向が反転する第1折返し部と第2折返し部を有し、設置面を上面としたときに屈曲部は設置面から垂下するように第1折返し部〜第2折返し部の順で形成され、かつ第1折返し部は幅方向内側に折り返されて第2折返し部は幅方向外側に折り返されており、係止面は第2折返し部の外側端部に連続して設けられるとともに本体面と略平行であり、主として固体音の振動による屈曲部の弾性変形で構造物からの音を吸収低減させ得るものである。
【0012】
本願発明の面板取付部材は、反曲点(第1折返し部と第2折返し部とが接続する点)から設置面までの「第1間隔」とし、反曲点から係止面までの「第2間隔」とすると、「第1間隔」と「第2間隔」のうちどちらか一方を他方よりも短くすることで、第1折返し部内又は第2折返し部内に狭隘隙間部を形成したものとすることもできる。この場合、狭隘隙間部内に弾性体からなる緩衝部材を挟持させることもできる。
【0013】
本願発明の面板取付部材は、反曲点(第1折返し部と第2折返し部とが接続する点)付近に、軸方向に延びる細長孔を延設したものとすることもできる。
【0014】
本願発明の内装構造は、面板取付部材とで構成される内装構造である。面板取付部材は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載される面板取付部材であって、係止面で構造体に固定されるとともに設置面に面板を設置するものである。そして本願発明の内装構造は、複数の面板取付部材が略平行に構造体に固定され、これら面板取付部材には面板が設置された構造であり、面板取付部材の屈曲部の弾性変形によって構造物からの固体音を低減させ得る構造である。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の面板取付部材と内装構造には、次のような効果がある。
(1)面板取付部材を構成する屈曲部が、曲げ方向が反転する第1折返し部と第2折返し部を有しているので容易に弾性変形し得る。その結果、固体音を減衰させることができ、放射騒音の音圧レベルを低下させることができるので、室内の騒音レベルを減少させるとともに、残響時間を短縮させる。
(2)構造体に面板を取り付けるために必要な部材である面板取付部材以外、他の部材を必要としないので、製造や設置の手間が軽減され、その結果、工期が短縮されるとともにコストも軽減される。
(3)反曲点(第1折返し部と第2折返し部とが接続する点)から設置面までの第1間隔を、反曲点から係止面までの第2間隔よりも小さくして、第1折返し部内に狭隘隙間部を形成する面板取付部材とすれば、構造体と面板との間隔が小さい場合であっても容易に設置することができるうえ、面板を強固に取付部材に固定することが可能である。
(4)第1折返し部(あるいは第1折返し部)内に形成される狭隘隙間部に、弾性体からなる緩衝部材を挟持させれば、さらに固体音を減衰させることができ、放射騒音の音圧レベルをより低下させることができる。
(5)反曲点付近に軸方向に延びる細長孔が延設された面板取付部材とすれば、さらに容易に弾性変形し得るので、より固体音を減衰させることができ、放射騒音の音圧レベルを低下させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本願発明の面板取付部材が天井面に設置された状態を下方から見上げた斜視図。
【図2】面板取付部材を幅方向で切った断面図。
【図3】天井面に不陸調整用として設置された受け材に、面板取付材を固定した状態を示す斜視図。
【図4】屈曲部に細長孔を設けた面板取付部材を幅方向で切った断面図。
【図5】第1折返し部内に狭隘隙間部を設けた面板取付部材を幅方向で切った断面図。
【図6】第1折返し部内の狭隘隙間部に緩衝部材を設けた面板取付部材を幅方向で切った断面図。
【図7】天井に形成された内装構造を示す断面図。
【図8】壁に形成された内装構造を示す断面図。
【図9】木造壁組工法における内装構造を示す断面図。
【図10】吊木で受け材を懸架した場合の木造壁組工法における内装構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施形態]
本願発明の面板取付部材と内装構造の一実施形態を図に基づいて説明する。
【0018】
(全体構成)
図1は、本願発明の面板取付部材1が天井面2aに設置された状態を下方から見上げた斜視図である。ここでいう面板とは、建築物を構成する床や構造壁や柱といった構造体の屋内側に取り付けられる壁板や床板のことであり、また面板取付材1は、天井面2aに面板を取り付けるためのものである。この図に示すように、面板取付材1は天井面2aに固定され、面板は面板取付材1に設置され(便宜上この図では面板を省略している)、いわば面板は面板取付材1を介して天井面2aに取り付けられる。なお本願発明は、構造体に面板を取り付ける面板取付部材1、及び面板取付部材1を用いた内装構造であり、当然ながら構造体が天井2に限定されるわけではないが、便宜上、本実施形態では天井に面板を取り付ける例で説明している。
【0019】
図1に示すように面板取付部材1は、平面視で概ね四辺形であり、長手方向を有する長尺部材である。以下は便宜上、長手方向を「軸方向」と呼び、この軸方向と直交する方向を「幅方向」と呼ぶこととする。図1では、軸方向を矢印Xで、幅方向を矢印Yで示している。
【0020】
図2は、面板取付部材1を幅方向で切った断面図である。なお便宜上、この図では図1とは上下を反転させて表している。図2に示すように面板取付部材1は、中央付近に配置される設置面3と、設置面3の両端側に設けられる2箇所の係止面4と、設置面3とそれぞれの係止面4との間に設けられる2箇所の屈曲部5で形成されている。また、設置面3と係止面4には断面視で概ね直線状の軸線があり、それぞれの軸線は略平行であるが同一直線状には並ばない配置であり、つまり上段(図2では設置面3)と下段(図2では係止面4)といったように、設置面3と係止面4は高さを違えるように配置されている。
【0021】
図1に示すように面板取付部材1は、2箇所の係止面4を天井面2aに接触させて天井2に固定される。このとき、あらかじめビス孔6を係止面4の軸方向に所定間隔で設け、これを利用して面板取付部材1を天井面2aにビス固定することができる。もちろん、これに限らず従来から用いられる公知の固定手段によって、面板取付部材1を天井面2aに固定することもできる。
【0022】
また、図1に示すように面板取付部材1のうち設置面3には、幅方向に延びる幅溝部7aと、幅方向両端側に配置される軸溝部7bを設けることもできる。これらを幅溝部7aや軸溝部7bを設けることによって設置面3の断面係数を大きくし、有害な局所的変形を防止することができるので好適である。設置面3に配設された多数の孔または細密な凸凹部は、面板を設置する際に用いられる打付け釘を案内するための打付け孔8である。
【0023】
一般的に直上階からの騒音は、打撃等によって加えられた衝撃が固体音となって階下に伝えられることで生ずる。より具体的には、加えられた衝撃が、床や周壁などの構造体を固体伝搬し(伝搬速度は秒速数千mともいわれる)、構造体から放出された固体音は空気を振動させ、さらに面板を振動させ、結果的に一次固体音として階下(室内)に伝達される。一方、構造体を伝搬した固体音は直接面板に伝わるので、これに伴って面板は振動し、結果的に二次固体音として階下に伝達される。これら一次固体音と二次固体音とが合成され、階下にいる人に騒音となって伝達される。
【0024】
本願発明では図1や図2に示すような構成、つまり面板取付材1の屈曲部5が弾性変形しやすく、その結果面板が天井に弾性固定されることになるので、一次固体音と二次固体音を低減することができる。すなわち、一次固体音や二次固体音を発生させる面板の微振動は、屈曲部5が弾性変形することで容易に吸収され、放出される騒音は著しく低減される。このように、内装版取付け部において、屈曲部5の弾性変形によって音圧エネルギーを運動エネルギーに変換することで固体音を低減させる技術は、従来にはなかったもので、とくに二次固体音を低減させることができるという効果はこれまでに見られなかった極めて有利な効果である。
【0025】
なお面板取付材1は、天井面2aに直接固定する場合に限らず、天井面2aに設置された他の部材を介して固定することもできる。図3は、天井面2aに不陸調整用として設置された受け材9に、面板取付材1を固定した状態を示す斜視図である。このような構成とすることで、仮に天井面2aに不陸があっても、受け材9の効果で、面板取付材1を平坦に取り付けることが可能となり、しかも床から面板までの距離があるため一次固体音のうちの短周期成分を低減させることができるという効果も期待できる。なお受け材9は、溝形鋼を用いることができるが、これに限らず、天井面2aの不陸を調整できて所定の空間を設けることができるものであれば種々の材料を使用することができる。
【0026】
また、階下における直接の音源である面板の振動を抑える、つまり音圧レベル(音のエネルギーを示すdB(C)値)を抑制することは、騒音レベル(人が聴覚により感じる音の量でdB(A)値)を減少させることに加えて、特に低周波音領域で残響時間を短縮できるという効果もある。このような現象は、「ガラス版などで板振動を行う壁体でも低音域から中音域にかけて残響時間が減少する(松井昌幸著『音響材料(上)』:彰国社)」と言われていることからも理解できる。従来吸音材量として用いられていたグラスウールなどの多孔質材料は、もっぱら高周波音吸収用として利用されており、低周波音を吸収することは難しかった。しかしながら本願発明では、固体音のうち低周波音といわれる二次固体音を低減させることができるので、これまでにはない防音技術を提供できることとなる。
【0027】
以下、構成要素ごとに詳細に説明する。
【0028】
(面板取付部材)
まず、図2及び図4〜図6に基づいて、面板取付部材1について説明する。面板取付部材1は、図1に示すように平面視では、幅方向(矢印Y)に比べて軸方向(矢印X)に長い略四辺形を呈している。また面板取付部材1は、図2に示すように断面視では、中央にひとつの設置面3が配置され、その両脇にあって設置面3とは段差がつくように2つの係止面4が設けられ、設置面3と係止面4との間にはそれぞれ屈曲部5が形成されている。これら設置面3と係止面4と屈曲部5は、ひとつの帯板から一体の物として加工することができる。もちろんそれぞれ別体として形成し、後に溶接等により一体とすることもできるが、その場合、屈曲部5を介して全体が一体となって弾性挙動するように製作する必要がある。また面板取付部材1は、弾性材(強度があり弾性変形しやすい材料)で作成されることが望ましく、少なくとも屈曲部5は上記弾性材からなることとするのがよい。
【0029】
1.設置面
設置面3は、面板を設置するためのものであり、全体的に平坦な平面で形成されている。前述したとおり設置面3には、有害な局所的変形を防止する幅溝部7a(図1)や軸溝部7b(図1)を設けることもできるし、面板設置用の打付け釘を案内するための打付け孔8(図1)または細密な凸凹部を多数設けることもできる。
【0030】
2.係止面
係止面4は、面板取付部材1を天井面2aに固定するためのものであり、設置面3同様全体的に平坦な平面で形成されている。図2に示すように係止面4は、設置面3の幅方向における両端部側にそれぞれ1箇所ずつ設けられており、間に屈曲部5を設けるため設置面3とは段差が設けられている。具体的には、設置面3が略水平かつ上面となるように面板取付部材1を置くと、係止面4と設置面3との間には高低差(この高低差に屈曲部5が設けられる)が生じ、設置面3が上段で係止面4が下段といった状態になる。また、天井面2aと面板が略平行配置されるように、設置面3と係止面4は略平行配置となっている。
【0031】
図2に示すように、係止面4には凸溝10を設けることもできる。この凸溝10は、断面係数を大きくして、外力による生ずる応力を軽減することを目的として設けられる。図2では、片側の係止面4につき2箇所の凸溝10(両側で4箇所)が設けられているが、その設置箇所数や形状は任意に設計できる。また図2に示すように、係止面4の端部を略180度反転させた曲げ縁部11を設け、端部補強を図ることもできる。
【0032】
3.屈曲部
屈曲部5は、設置面3と係止面4との間に設けられるものであって、ここでの弾性変形によって例えば面板の振動を吸収するものである。図2に示すように屈曲部5は、設置面3の幅方向における両端部側に連続して設けられ、さらに係止面4とも連続している。言い換えれば、屈曲部5の一端は設置面3と連続しており、屈曲部5の他端は係止面4と連続している。
【0033】
また図2に示すように、屈曲部5は第1折返し部5aと第2折返し部5bによって構成されている。この第1折返し部5aは、設置面3と連続する側の端部に設けられ、断面視で略半円形を呈している。一方、第2折返し部5bは、係止面4と連続する側の端部に設けられ、やはり断面視で略半円形を呈している。
【0034】
第1折返し部5aと第2折返し部5bは、ともに断面視で半円形を呈しているが、両者の屈曲方向は反転しており、つまり、第1折返し部5aは設置面3の幅方向内側に中心を持つ半円形であり、第2折返し部5bは設置面3の幅方向外側に中心を持つ半円形である。なお、以下は便宜上、図2のような第1折返し部5aの形状を「外カーブ」と、第2折返し部5bの形状を「内カーブ」と呼ぶ。
【0035】
図2では、設置面3の軸線と第1折返し部5aの軸線(円の接線方向)とが略同一直線状にあり、係止面4の軸線と第2折返し部5bの軸線(円の接線方向)とが略同一直線状にある。しかも、第1折返し部5aと第2折返し部5bが接続する点(言い換えれば、第1折返し部5aから第2折返し部5bに変化する点)である反曲点5cでは、第1折返し部5aの軸線と第2折返し部5bの軸線とが略同一直線状にある。しかしながら本願発明の面板取付部材1を構成する屈曲部5は、必ずしもこのような厳密な形状とする必要はなく、さらに第1折返し部5aと第2折返し部5bが半円である必要もなく、弾性変形しやすいように、内側に折り返される(外カーブの)第1折返し部5aと、外側に折り返される(内カーブの)第2折返し部5bとが設けられればよい。
【0036】
屈曲部5は外部から受ける振動によって破断しない程度の強度が求められる一方で、弾性変形を生じやすいという機能も求められる。そこで、屈曲部5にスリット(以下、「細長孔12」という。)を設けることができる。図4は、屈曲部5に細長孔12を設けた面板取付部材1を幅方向で切った断面図である。この図に示すように細長孔12は、第1折返し部5aと第2折返し部5bが接続する反曲点5c付近に設けられるものであり、軸方向に延びる細長形状を呈している。このように、反曲点5c付近に細長孔12を設けるのは、反曲点5c付近は他に比べて生じる変形量が小さく、最も強度上問題とならない位置だからである。なお細長孔12は、面板取付部材1の軸方向における端部から端部まで一連して形成することもできるし、断続的に複数箇所に形成することもできる。
【0037】
屈曲部5を構成する第1折返し部5aと第2折返し部5bは、それぞれ断面視で折り返した形状となっており、つまり折返しによって内部に隙間部ができる。図4では、第1折返し部5aによって形成される第1隙間部51と、第2折返し部5bによって形成される第2隙間部52を示している。第1隙間部51や第2隙間部52が大きいスペースとなるほど、それぞれの折返しの曲率が小さくなり、屈曲部5は弾性変形を生じやすくなる。
【0038】
しかしながら他方では、隙間部のスペースが大きいほど屈曲部5の高さは大きくなり、面板取付部材1の厚さも大きくなる。面板取付部材1を設置する場所によっては、面板取付部材1の厚さを小さくしたい場合もある。そこで、第1折返し部5a又は第2折返し部5bのどちらか一方の折返しの曲率を大きくして、つまり第1隙間部51又は第2隙間部52のどちらか一方のスペースを小さくして、面板取付部材1の厚さを小さくすることができる。この場合でも、第1隙間部51又は第2隙間部52のどちらか一方は、図2や図4に示す隙間部と同等なので、弾性変形を生じやすいという機能は大きく損なわれない。
【0039】
図5は、第1折返し部5a内に狭隘隙間部51sを設けた面板取付部材1を幅方向で切った断面図である。この図に示すように、第1折返し部5aの折返しの曲率を大きくして、第1折返し部5a内に狭隘隙間部51sを設けると、面板取付部材1の厚さtを著しく低減できる。もちろん、第1折返し部5a内に狭隘隙間部51sを設けるのに代えて、第2折返し部5b内に狭隘隙間部を設けることもできる。
【0040】
図6は、第1折返し部5a内の狭隘隙間部51sに緩衝部材13を設けた面板取付部材1を幅方向で切った断面図である。この図に示すように、第1折返し部5a内に狭隘隙間部51sを設けた結果、屈曲部5の弾性変形性能がやや損なわれたことを補うために、緩衝部材13を設けることができる。この緩衝部材13は、吸音性能を発揮するためにゴムなどの弾性材であることが望ましく、例えばゴム状弾性シートが適している。また、緩衝部材13は、狭隘隙間部51sの中に挟持させるとよい。第2折返し部5b内に狭隘隙間部を設けた場合は、その中に挟持させるとよい。また、狭隘隙間部51sに限らず、図2や図4に示す第1隙間部51や第2折返し部5b内に、緩衝部材13を設置することもできる。このように、面板取付部材1に緩衝部材13を設けると、サージング(共振時に生じる一種の騒音)を防止し得るという効果が期待できる。
【0041】
(内装構造)
つぎに、図7〜図10に基づいて、面板取付部材1を用いた内装構造について説明する。図7は、天井2に形成された内装構造を示す断面図である。この図に示すように、本願発明の内装構造は、前記した本願発明の面板取付部材1と、面板14によって構成される。
【0042】
通常、多数の面板取付部材1は天井2に設置されており、これらの面板取付部材1も略平行に配置され、図7では紙面に対して垂直方向に平行して並べられている。またこの図では、面板取付部材1が2箇所の係止面4を天井面2aに接触させ、ビス15によって固定されているが、これに限らず従来から用いられる公知の固定手段によって固定できるのは前述のとおりである。
【0043】
通常、多数の面板取付部材1が天井2に設置され、これらの面板取付部材1は略平行に配置され、図7では紙面に対して垂直方向に平行して並べられている。またこの図では、面板取付部材1が2箇所の係止面4を天井面2aに接触させ、ビス15によって固定されているが、これに限らず従来から用いられる公知の固定手段によって固定できるのは前述のとおりである。
【0044】
図7では紙面に対して垂直方向(奥行方向)に、面板取付部材1の軸方向が向くように配置されているが、面板取付部材1の配置方向は特に限定されるものではなく、例えば図7で、面板取付部材1の軸方向が紙面上の左右方向に向くように配置することもできる。通常、面板14も軸方向に長い長尺部材であり、この場合、面板取付部材1の軸方向と面板14の長手方向が直交するように配置される。例えば図7の場合では、面板取付部材1の軸方向が紙面に対して垂直方向に配置され、面板14の長手方向が紙面上の左右方向に向くように配置される。もちろん、面板14の幅が広い場合、あるいは面板取付部材1の配置間隔が短い場合など、面板取付部材1の軸方向と面板14の長手方向が平行するように配置することもできる。面板14は、打付け釘などによって、面板取付部材1の設置面3(図7では面板取付部材1の下面)に設置される。
【0045】
図7では、壁16の屋内側に面板17が取り付けられ、天井2に取り付けられた面板14との接合部では、廻り縁18が設置されている。このように廻り縁18を使用して見切っておくと、音響的、意匠的にも好適である。
【0046】
図8は、壁16に形成された内装構造を示す断面図である。この図に示すように、本願発明の内装構造は、天井に限らず壁16をはじめとする種々の構造体に形成することができる。壁16に内装構造を形成する場合、水平方向または鉛直方向に面板取付部材1を平行配置し、2箇所の係止面4を壁16表面に接触させ、ビス15等によって固定する。そして、面板17を鉛直方向または水平方向に配置し、面板取付部材1の設置面3に接触させて、打付け釘などによって面板取付部材1に設置する。この場合も、天井2に取り付けられた面板14と面板17との接合部では、廻り縁18を設置することが望ましい。
【0047】
図9は、木造壁組工法における内装構造を示す断面図である。本願発明の内装構造は、木造壁組工法(いわゆる2×4工法)による木造建築物でも実施することができる。木造壁組工法による木造建築物であっても、面板取付部材1の構成は図2及び図4〜図6に基づいて説明したとおりであり、面板取付部材1の配置方法や固定方法、あるいは面板14の配置方法や設置方法は、図7〜図8に基づいて説明した内容と同様である。また、天井2に取り付けられた面板14と面板17との接合部で、廻り縁18を設置することが望ましいことも同じである。
【0048】
木造壁組工法で特徴的なのは、本工法特有の梁材19に係止面4を固定することが望ましいことである。これにより、面板取付部材1を堅固に天井面2aに固定することができる。なお、梁材19の軸方向と面板取付部材1の軸方向が直交するように配置される場合は、梁材19と係止面4が交差する箇所で固定し、図9のように梁材19の軸方向と面板取付部材1の軸方向が略平行するように配置される場合は、左右2箇所ある係止面4のうちどちらか一方を梁材19の直下となるように配置して固定するのがよい。
【0049】
図10は、吊木20で受け材9を懸架した場合の木造壁組工法における内装構造を示す断面図である。この図に示すように、天井面2aに代えて、吊木20で懸架した受け材9に面板取付部材1を固定することもできる。この場合、天井面2aの不陸を調整できるうえ、天井面2aから面板14まで距離があるため一次固体音を低減させることができるという効果も期待できる。なお、受け材9は吊木で懸架してもよく、また受け材9として溝形鋼を用いることができるが、これに限らず種々の材料を使用することができるのは前記したとおりである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本願発明の面板取付部材と内装構造は、マンションなどの集合住宅やオフィスビルで利用できるほか、校舎や倉庫などあらゆる多層階の建築物で利用することが可能である。放送施設や映画館、コンサートホールなど固体音による騒音が極めて妨げとなる建築物には、とくに有効である。
【符号の説明】
【0051】
1 面板取付部材
2 天井
2a 天井面
3 設置面
4 係止面
5 屈曲部
5a 第1折返し部
5b 第2折返し部
5c 反曲点
51 第1隙間部
51s (第1折返し部内の)狭隘隙間部
52 第2隙間部
6 ビス孔
7a 幅溝部
7b 軸溝部
8 打付け孔
9 受け材
10 凸溝
11 曲げ縁部
12 細長孔
13 緩衝部材
14 (天井に取り付けられる)面板
15 ビス
16 壁
17 (壁に取り付けられる)面板
18 廻り縁
19 梁材
20 吊木
X (面板取付部材の)軸方向
Y (面板取付部材の)幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の一部を構成する構造体と、その屋内側に設置される面板と、の間に設けられ、面板を構造体に取り付ける取付部材において、
前記面板を設置する設置面と、前記構造体に固定する係止面と、設置面と係止面との間に形成される屈曲部と、を備え、
前記設置面は、幅方向よりも軸方向の方が長い帯状であり、
前記屈曲部は、前記設置面の幅方向両端側に設けられるとともに、屈曲方向が反転する第1折返し部と第2折返し部を有し、
前記設置面を上面とすると、前記屈曲部は設置面から垂下するように前記第1折返し部、第2折返し部の順で形成され、かつ、第1折返し部は幅方向内側に折り返され、第2折返し部は幅方向外側に折り返されており、
前記係止面は、前記第2折返し部の外側端部に連続して設けられるとともに、前記本体面と略平行であり、
前記屈曲部の弾性変形によって、前記構造物からの音を低減させ得ることを特徴とする面板取付部材。
【請求項2】
前記第1折返し部と第2折返し部とが接続する反曲点から前記設置面までの第1間隔と、反曲点から前記係止面までの第2間隔と、のうちどちらか一方を他方よりも短くすることで、第1折返し部内又は第2折返し部内に狭隘隙間部が形成されたことを特徴とする請求項1記載の面板取付部材。
【請求項3】
前記狭隘隙間部内に、弾性体からなる緩衝部材を挟持したことを特徴とする請求項2記載の面板取付部材。
【請求項4】
前記第1折返し部と第2折返し部とが接続する反曲点付近に、軸方向に延びる細長孔が延設されたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の面板取付部材。
【請求項5】
建築物の一部を構成する構造体の屋内側に設置される面板と、構造体と面板との間に設けられる面板取付部材と、で構成される内装構造において、
前記面板取付部材は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の面板取付部材であって、前記係止面で前記構造体に固定されるとともに前記設置面に前記面板を設置するものであり、
前記構造体に、複数の前記面板取付部材が略平行に固定され、これら面板取付部材に前記面板が設置され、
前記面板取付部材の屈曲部の弾性変形によって、構造物からの音を低減させ得ることを特徴とする内装構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−2041(P2013−2041A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130999(P2011−130999)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(592007508)株式会社サトウ (10)
【出願人】(392032007)株式会社ドムス設計事務所 (10)
【Fターム(参考)】