説明

面発光型半導体レーザ

【課題】低温から高温に至る広い温度範囲で光出力の低下を改善した面発光型半導体レーザを提供する。
【解決手段】VCSELは、GaAs基板と、n型の下部DBR106と、活性領域108と、活性領域上に形成されたp型の電流狭窄層と、電流狭窄層上に形成されたp型の高濃度DBR112Aと、高濃度DBR112A上に形成されたp型のDBR112Bとを有する。DBR106、112A、112Bは、高屈折率層と低屈折率層の対をそれぞれ含んでいる。高濃度DBR112Aの不純物濃度は、DBR112Bの不純物濃度よりも高く、高濃度DBR112Aの高屈折率層のバンドギャップエネルギーは、DBR106、活性領域、電流狭窄層、DBR112A、112Bから形成される共振器波長のエネルギーよりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報処理あるいは高速光通信の光源として利用される面発光型半導体レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信や光記録等の技術分野において、面発光型半導体レーザ(Vertical-Cavity Surface-Emitting Laser:以下VCSELと呼ぶ)への関心が高まっている。VCSELは、しきい値電流が低く消費電力が小さい、円形の光スポットが容易に得られる、ウエハ状態での評価や光源の二次元アレイ化が可能であるといった、端面発光型半導体レーザにはない優れた特長を有する。これらの特長を生かし、通信分野における光源としての需要がとりわけ期待されている。
【0003】
特許文献1は、基板に垂直な共振器を形成する下部多層膜反射鏡および上部多層膜反射鏡と共振器内に配置された活性層とを有するVCSELにおいて、活性層のバンドギャップよりも大きく、かつ共振器を構成する材料のバンドギャップよりも小さいバンドギャップを有するキャリア拡散層を共振器内に設けている。
キャリア拡散層により横方向へのキャリア拡散を促進し、活性層に流れ込む電流の均一性を改善している。
【0004】
【特許文献1】特開2004−128482号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のVCSELは、低閾値、低抵抗を実現するために、DBRの高屈折率側の半導体層のバンドギャップを、活性層のバンドギャップよりも大きくし、かつ出来るだけ小さいバンドギャップの値となるように設計されている。また、VCSELの低温での光出力の低下を抑えるために、活性層近傍に電流拡散層を導入することによって電流狭窄層中心付近まで電流を拡散することが提案されている。しかし、この方法では、不純物ドープ濃度が高い半導体層が活性層周辺に存在するために、VCSELの高温での光吸収が顕著となり、高温において光出力が低下するという課題が発生する。
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決し、低温から高温に至る広い温度範囲で光出力の低下を改善した面発光型半導体レーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る面発光型半導体レーザは、基板と、前記基板上に形成された第1導電型の第1の半導体多層膜反射鏡と、前記第1の半導体多層膜反射鏡上に形成された活性領域と、前記活性領域上に形成された第2導電型の電流狭窄層と、前記電流狭窄層上に形成された第2導電型の第2の半導体多層膜反射鏡と、前記第2の半導体多層膜反射鏡上に形成された第2導電型の第3の半導体多層膜反射鏡とを有し、前記第1、第2および第3の半導体多層膜反射鏡は、高屈折率層と低屈折率層との対をそれぞれ含んでおり、前記第2の半導体多層膜反射鏡の不純物濃度は、前記第3の半導体多層膜反射鏡の不純物濃度よりも高く、前記第2の半導体多層膜反射鏡の高屈折率層のバンドギャップエネルギーは、前記第1の半導体多層膜反射鏡、前記活性領域、前記電流狭窄層、前記第2の半導体多層膜反射鏡および前記第3の半導体多層膜反射光から形成される共振器の波長のエネルギーよりも大きい。
【0008】
前記高屈折率層は、相対的にAl組成の低い半導体層であり、前記低屈折率層は、相対的にAl組成の高い半導体層であり、前記第2の半導体多層膜反射鏡の相対的にAl組成の低い半導体層のAl組成は、前記共振器の波長のエネルギーよりも大きい。好ましくは前記第2の半導体多層膜反射鏡の対は、1以上3以下である。
【0009】
好ましくは前記第1の半導体多層膜反射鏡は、Alx1Ga1-x1As半導体層とAly1Ga1-y1As半導体層(X1>Y1、0<X1<1、0<Y1<1)の対を含み、前記第2の半導体多層膜反射鏡は、Alx2Ga1-x2As半導体層とAly2Ga1-y2As半導体層(X2>Y2、0<X2<1、0<Y2<1)の対を含み、前記第3の半導体多層膜反射鏡は、Alx3Ga1-x3As半導体層とAly3Ga1-y3As半導体層(X3>Y3、0<X3<1、0<Y3<1)の対を含み、Y2>Y1であり、かつY2>Y3である。
【0010】
好ましくは前記第2の半導体多層膜反射鏡の高屈折率層のバンドギャップエネルギーと前記共振器波長のエネルギーとの差分は、0.1eV以上0.3eV以下である。好ましくは面発光型半導体レーザはさらに、前記第3の半導体多層膜反射鏡から少なくとも前記活性領域に至るメサを含み、前記電流狭窄層は、前記メサ側面から一部が酸化された酸化領域を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、活性領域または電流狭窄層に近接して第2の半導体多層膜反射鏡を挿入し、当該第2の半導体多層膜反射鏡の不純物濃度を高くすることで、低温におけるキャリアの拡散が促進され、電流狭窄層を介して活性領域へ流れ込むキャリアが増加し、光出力の低下が抑制される。さらに第2の半導体多層膜反射鏡の高屈折率層のバンドギャップエネルギーを第3の半導体多層膜反射鏡の高屈折率層のバンドギャップエネルギーよりも大きくし、かつ共振器波長のエネルギーよりも大きくすることで、高温における光吸収を抑制することができる。これにより、低温から高温にいたる広い温度範囲において光出力の低下を抑制した面発光型半導体レーザを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。ここでは、III−V族化合物半導体としてAlGaAs半導体層およびGaAs基板を例に用いる。また、n側の電極は、基板裏面に形成し、基板の上方からレーザ光を出射する構成のVCSELを例示する。
【実施例】
【0013】
図1は本発明の実施例に係るVCSELの平面図、図2は図1のA−A線断面図である。VCSEL100は、図1および図2に示すように、n型のGaAs基板102の裏面にn側電極150を含み、さらに基板102上に、n型のGaAsバッファ層104、n型のAlGaAsの半導体多層膜からなる下部DBR(Distributed Bragg Reflector:分布ブラッグ型反射鏡)106、活性領域108、p型のAlAsからなる電流狭窄層110、p型のAlGaAsの半導体多層膜からなる上部DBR112、p型のGaAsコンタクト層114を含む半導体層が積層されている。
【0014】
基板102には、半導体層をエッチングして形成されたリング状の溝116が形成され、溝116は、コンタクト層114から下部DBR106の一部に到達する深さを有している。この溝116により、レーザ光の発光部である円筒状のポスト(メサ)Pが規定され、また、ポストPと隔てられたパッド形成領域118が形成されている。ポストPは、下部DBR106と上部DBR112により共振器構造を構成し、これらの間に、活性領域108および電流狭窄層110を介在させている。電流狭窄層110は、ポストPの側面において露出されたAlAsの外縁を選択的に酸化させた酸化領域110aと酸化領域によって包囲された導電領域を含み、導電領域内に電流および光の閉じ込めを行う。導電領域を平面的に見た形状は、ポストPの外形を反映した円形である。
【0015】
溝116を含む基板全面に層間絶縁膜120が形成されている。すなわち、層間絶縁膜120は、ポストPの頂部の一部、溝116、パッド形成領域118の側面を覆っている。ポストPの頂部において、層間絶縁膜120には環状のコンタクトホールが形成され、コンタクトホールを介してp側の円形状の上部電極130がコンタクト層114に電気的に接続されている。p側の上部電極130は、金またはチタン/金から成り、その中央にレーザ光の出射領域を規定する円形状の開口132が形成されている。図2の例では、開口132は層間絶縁膜120によって塞がれ、GaAsコンタクト層114が外部に露出されないように保護されているが、開口132は、必ずしも層間絶縁膜120により塞がれず、露出されていてもよい。
【0016】
パッド形成領域118の層間絶縁膜120上は、円形状の電極パッド134が形成されている。電極パッド134は、溝116を延在する引き出し電極配線136を介してp側の上部電極130に接続されている。
【0017】
図3は、図2に示すVCSELの下部DBR、活性領域および上部DBRの詳細な構成を示す概略断面図である。DBR106は、キャリア濃度2×1018cm-3のAl0.9Ga0.1AsとAl0.12Ga0.88Asとをそれぞれの膜厚が媒質内波長の1/4となるように交互に40.5周期積層したものである。
【0018】
活性領域108は、アンドープ下部Al0.6Ga0.4Asスぺーサー層108aと、アンドープ量子井戸活性層108b(膜厚70nmGaAs量子井戸層3層と膜厚50nmAl0.3Ga0.7As障壁層4層とで構成されている)と、アンドープ上部Al0.6Ga0.4Asスぺーサー層108cとで構成される。活性領域108の膜厚は媒質内波長である。量子井戸活性層108bの組成で決まる利得ピーク波長は、835nmであり、そのときのバンドギャップエネルギーは、1.485eVである。
【0019】
活性領域108上には、膜厚が例えば、30nmのAlAsからなる電流狭窄層110が形成される。電流狭窄層110の周縁には、上記したようにポストPの側面から酸化された酸化領域110aが形成され、酸化領域110aによって包囲された導電領域110bが形成されている。導電領域110bの径は、シングルモードのレーザ光の場合、例えば、5μm未満である。
【0020】
電流狭窄層110上には、キャリア濃度6×1018cm-3のAl0.9Ga0.1AsとAl0.20Ga0.80Asとをそれぞれの膜厚が媒質内波長の1/4となるように交互に3周期積層した不純物ドープ濃度が高い高濃度DBR112Aと、さらにその上に、キャリア濃度2×1018cm-3のAl0.9Ga0.1AsとAl0.12Ga0.88Asとをそれぞれの膜厚が媒質内波長の1/4となるように交互に27周期積層したDBR112Bとを積層する。、但し、AlAsに隣接したAl0.9Ga0.1Asの膜厚は、AlAsの膜厚と合わせて媒質内波長の1/4となるように調整されている。DBR112Bの最上層には、キャリア濃度1×1019cm-3のとなる膜厚が20nm程度のp型GaAsコンタクト層114が形成される。
【0021】
高濃度DBR112Aは、特に、低温駆動時におけるキャリアの横方向の拡散を促進させる。VCSELを低温、例えば、−40ないし−20℃で駆動する場合、キャリアの拡散長は温度に依存して短くなる。つまり、図3に示すように、ポストPの頂部において、環状の電極130から注入されたキャリアは、電界によって活性領域へ移動するが、キャリアの横方向の拡散が十分でないと、ポストPの光軸(中心)におけるキャリア濃度が少なく、電流狭窄層110の導電領域110bを介して活性領域108へ注入されるキャリアが低減することになる。この結果、光軸の光出力のプロフィールが低下してしまうという不具合を生じ得る。高濃度DBR112Aを形成することで、低温時のキャリアの横方向の拡散が促進され、導電領域110bを介して活性領域108へ注入されるキャリアを増加させることができる。
【0022】
また、活性領域の近傍は、光出力が大きく、ここでの不純物濃度が高いと光吸収が大きくなる。高濃度DBR112Aの不純物ドープ濃度は、6×1018と高いが、高濃度DBR112Aを3周期としているため、活性領域近傍での高濃度DBR112Aによる光吸収は抑制される。高濃度DBR112Aを3周期よりも多くすると、キャリアの横方向の拡散による光出力の向上よりも、不純物による光吸収の損失が大きくなってしまう。このため、高濃度DBR112Aは、多くとも3周期以下であることが望ましい。
【0023】
さらに、高濃度DBR112Aの高屈折率層(Al組成の低いAl0.20Ga0.80As層)のAl組成を0.20とし、DBR112BのAl組成0.12よりも高くしている。Al組成が低い半導体層は、そのバンドギャップエネルギーが小さく、発振器波長のエネルギーとの差分が小さくなると、高温駆動時に光が吸収されてしまう。これを抑制するため、高濃度DBR112Aの高屈折率層のAl組成を0.20に高くし、両者の差分を大きくしている。特に、活性領域から3周期ぐらいまでは光出力が大きいので、この範囲でのエネルギー差分を大きくすることは有効である。
【0024】
図4は、DBRのペア数を同じにして、共振器波長のエネルギーと、高濃度DBR112Aの高屈折率層(Al組成の低い半導体層)のAl組成のバンドギャップエネルギーとの差を変化させたときの一定駆動電流における室温(25℃)に対する85℃での光出力比を示したグラフである。共振器波長は、高温での活性層の利得ピーク波長が大きくなることを考慮し、活性層の組成で決まる利得ピーク波長835nm(エネルギーは、1.485eV)よりも幾分大きく設定されている。この共振器波長は、DBR106、活性領域、電流狭窄層、DBR112A、112Bから形成される。
【0025】
高濃度DBR112Aの高屈折率層のAl組成が0.20のときのバンドギャップエネルギーは、約1.673eVであり、共振器波長とのエネルギー差分は、約0.188eVとなる。このときの85℃での光出力比は、約0.68である。他方、高屈折率層のAl組成を、DBR112Bと同様に、0.12としたときのバンドギャップエネルギーは、1.574eVであり、共振器波長とのエネルギー差分は、約0.09eVとなる。このとき、85℃における光出力の割合は、約0.60である。
【0026】
図4に示すように、エネルギーの差分が0.1eV未満の場合は、DBRを構成する高屈折率層による光吸収により発熱が増加し、高温時における光出力の割合が0.60よりも減少する。他方、エネルギーの差分が0.3eVを越える場合は、DBRを構成する各半導体層の屈折率差が低減することで反射率が低くなり閾値が上昇するため、一定駆動電流における高温時の光出力が低下し、その割合が0.60を下回る。通常、光出力の低下が2dB以上になると、光システムとしての動作が出来ない。このため、好ましくは、高温時における光出力の低下が2dB以下となるように、高屈折率層のバンドギャップエネルギーと共振器波長のエネルギーとの差分を、0.1eV以上0.3eV以下とすることが望ましい。これにより、VCSELを一定駆動電流で駆動したとき、室温に対する高温での光出力比の低下を抑制することができる。
【0027】
このように、高濃度DBR112Aを活性領域108に近接して挿入することによって、低温駆動時における電流(キャリア)の横方向の拡散を促進し、電流狭窄層110の導電領域110bへの移動を促し、低温駆動時における光出力の低下を抑制することができる。他方、高濃度DBR112Aの高屈折率側の半導体層のバンドギャップエネルギーを、共振器波長のバンドギャップよりも大きくすることによって、高温時における光吸収を抑制することができる。この結果、少なくとも−40℃から+85℃に至る広範囲において光出力の低下の少ないVCSELを得ることができる。
【0028】
次に、本実施例に係るVCSELの製造方法について図5ないし図7を参照して説明する。先ず、図5Aに示すように、有機金属気相成長(MOCVD)法により、n型GaAs基板102上に、キャリア濃度2×1018cm-3、膜厚0.2μm程度のn型GaAsバッファ層104を積層する。その上に、キャリア濃度2×1018cm-3のAl0.9Ga0.1AsとAl0.12Ga0.88Asとをそれぞれの膜厚が媒質内波長の1/4となるように交互に40.5周期積層し、総膜厚が4μmであるn型下部DBR106が積層される。その上に、アンドープ下部Al0.6Ga0.4Asスぺーサー層とアンドープ量子井戸活性層(膜厚70nmGaAs量子井戸層3層と膜厚50nmAl0.3Ga0.7As障壁層4層とで構成されている)とアンドープ上部Al0.6Ga0.4Asスぺーサー層とで構成された膜厚が媒質内波長となる活性領域108、酸化による電流狭窄を可能とするためのAlAs層110、その上にキャリア濃度が6×1018cm-3のp型のAl0.9Ga0.1AsとAl0.20Ga0.80Asとをそれぞれの膜厚が媒質内波長の1/4となるように交互に3周期積層し、更にその上にキャリア濃度が2×1018cm-3のp型のAl0.9Ga0.1AsとAl0.12Ga0.88Asとをそれぞれの膜厚が媒質内波長の1/4となるように交互に27周期積層する。上記2つの半導体ミラー層から形成されるp型上部DBR112は、総膜厚が約2μmである。最後に、キャリア濃度1×1019cm-3となる膜厚20nm程のp型のGaAsコンタクト層114が最上部に積層される。
【0029】
さらに、詳しくは述べないが、DBR層の電気的抵抗を下げるために、Al0.9Ga0.1AsとAl0.20Ga0.80AsおよびAl0.12Ga0.88Asの界面にAl組成を90%から20%または12%に段階的に変化させた膜厚が20nm程度の領域を設けることも可能である。原料ガスとしては、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、アルシン、ドーパント材料としては,p型用にシクロペンタジニウムマグネシウム、カーボン、n型用にシランを用い、成長時の基板温度は750℃とし、真空を破ることなく、原料ガスを順次変化し、連続して成膜を行った。
【0030】
次に、図5Bに示すように、フォトリソ工程により結晶成長層上にレジストマスクRを形成し、三塩化ホウ素をエッチングガスとして用いた反応性イオンエッチングにより下部DBR106の途中までエッチングし、図5Cに示すように、環状の溝116を形成する。これにより、基板上に複数の10〜30μm程度の径の円柱もしくは角柱の半導体柱(ポスト)Pと、その周囲にパッド形成領域118を形成する。
【0031】
次に、図6Aに示すように、例えば340℃の水蒸気雰囲気に基板を一定時間晒し、酸化処理を行う。電流狭窄層110を構成するAlAs層は、同じくその一部を構成するAl0.9Ga0.1As層やAl0.20Ga0.80As層と比べ著しく酸化速度が速いため、ポストPの側面からポスト形状を反映した酸化領域110aが形成され、酸化されずに残った非酸化領域(導電領域)が電流注入領域あるいは導電領域110bとなる。
【0032】
次に、レジストRを除去した後、図6Bに示すように、プラズマCVD装置を用いて、溝116を含む基板全面にSiN等からなる層間絶縁膜120を蒸着する。その後、図6Cに示すように、通常のフォトリソ工程およびドライエッチング法を用いて層間絶縁膜120をエッチングし、ポストPの頂部の層間絶縁膜120を除去し、そこに円形状のコンタクトホール120aを形成する。あるいは、コンタクトホール120aをリング状とし、図2に示したように、出射領域となる上部DBRのコンタクト層をSiNで保護するようにしてもよい。
【0033】
その後、図7Aに示すように、フォトリソ工程を用いてポストPの上部中央にレジストパターンR1を形成し、その上方からEB蒸着機を用いて、p側電極材料としてAuを100〜1000nm、望ましくは600nm蒸着する。次に、レジストパターンR1を剥離すると、図7Bに示すように、レジストパターンR1上のAuが取り除かれ、上部電極130、電極パッド134および引き出し配線136が完成する。p側電極のない部分、すなわちポスト中央部の開口132からレーザ光が出射されるが、この開口132の口径は3〜20μmぐらいが好ましい。ここでは詳しく述べないが、ポストP上に形成される金属の開口部は、ポスト形成前に作成されても良い。
【0034】
そして、基板裏面には、n電極としてAu/Geが蒸着される。その後、アニール温度250℃〜500℃、望ましくは300℃〜400℃で10分間アニールを行う。尚、アニール時間は10分に限定されるわけではなく、0〜30分の間であればよい。また、蒸着方法としてEB蒸着機に限定されるものではなく、抵抗加熱法、スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、CVD法を用いてもよい。また、アニール方法として通常の電気炉を用いた熱アニールに限定されるものではなく、赤外線によるフラッシュアニールやレーザアニール、高周波加熱、電子ビームによるアニール、ランプ加熱によるアニールにより、同等の効果を得ることも可能である。
【0035】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば上記実施例では、化合物半導体層としてAlGaAsを例示したが、これ以外のIII−V族半導体を用いることも可能である。また、Al組成やドーパント濃度は設計に応じて適宜変更することが可能である。また、n側電極を基板裏面に形成したが、基板上に積層されたn型半導体層と電気的に接続するn側電極を形成してもよい。この場合、基板は電気的に絶縁性であってもよく、さらに基板側からレーザ光を出射するようにしてもよい。さらに基板上には複数の発光部(ポスト)をモノリシックに形成するようにしてもよい。
【0036】
次に、本実施例のVCSELを利用したモジュール、光送信装置、空間伝送システム、光伝送装置等について図面を参照して説明する。図8Aは、VCSELを実装したパッケージ(モジュール)の構成を示す断面図である。パッケージ300は、VCSELが形成されたチップ310を、導電性接着剤320を介して円盤状の金属ステム330上に固定する。導電性のリード340、342は、ステム330に形成された貫通孔(図示省略)内に挿入され、一方のリード340は、VCSELのn側電極に電気的に接続され、他方のリード342は、p側電極に電気的に接続される。
【0037】
チップ310を含むステム330上に矩形状の中空のキャップ350が固定され、キャップ350の中央の開口352内にボールレンズ360が固定されている。ボールレンズ360の光軸は、チップ310のほぼ中心と一致するように位置決めされる。リード340、342間に順方向の電圧が印加されると、チップ310から垂直方向にレーザ光が出射される。チップ310とボールレンズ360との距離は、チップ310からのレーザ光の広がり角θ内にボールレンズ360が含まれるように調整される。また、キャップ内に、VCSELの発光状態をモニターするための受光素子や温度センサを含ませるようにしてもよい。
【0038】
図8Bは、他のパッケージの構成を示す図であり、同図に示すパッケージ302は、ボールレンズ360を用いる代わりに、キャップ350の中央の開口352内に平板ガラス362を固定している。平板ガラス362の中心は、チップ310のほぼ中心と一致するように位置決めされる。チップ310と平板ガラス362との距離は、平板ガラス362の開口径がチップ310からのレーザ光の広がり角度θ以上になるように調整される。
【0039】
図9は、VCSELを光源として適用した例を示す図である。光源装置370は、図8Aまたは図8BのようにVCSELを実装したパッケージ300、パッケージ300からのマルチビームのレーザ光を入射するコリメータレンズ372、一定の速度で回転し、コリメータレンズ372からの光線束を一定の広がり角で反射するポリゴンミラー374、ポリゴンミラー374からのレーザ光を入射し反射ミラー378を照射するfθレンズ376、ライン状の反射ミラー378、反射ミラー378からの反射光に基づき潜像を形成する感光体ドラム380を備えている。このように、VCSELからのレーザ光を感光体ドラム上に集光する光学系と、集光されたレーザ光を光体ドラム上で走査する機構とを備えた複写機やプリンタなど、光情報処理装置の光源として利用することができる。
【0040】
図10は、図8Aに示すモジュールを光送信装置に適用したときの構成を示す断面図である。光送信装置400は、ステム330に固定された円筒状の筐体410、筐体410の端面に一体に形成されたスリーブ420、スリーブ420の開口422内に保持されるフェルール430、およびフェルール430によって保持される光ファイバ440を含んで構成される。ステム330の円周方向に形成されたフランジ332には、筐体410の端部が固定される。フェルール430は、スリーブ420の開口422に正確に位置決めされ、光ファイバ440の光軸がボールレンズ360の光軸に整合される。フェルール430の貫通孔432内に光ファイバ440の芯線が保持されている。
【0041】
チップ310の表面から出射されたレーザ光は、ボールレンズ360によって集光され、集光された光は、光ファイバ440の芯線に入射され、送信される。上記例ではボールレンズ360を用いているが、これ以外にも両凸レンズや平凸レンズ等の他のレンズを用いることができる。さらに、光送信装置400は、リード340、342に電気信号を印加するための駆動回路を含むものであってもよい。さらに、光送信装置400は、光ファイバ440を介して光信号を受信するための受信機能を含むものであってもよい。
【0042】
図11は、図8に示すモジュールを空間伝送システムに用いたときの構成を示す図である。空間伝送システム500は、パッケージ300と、集光レンズ510と、拡散板520と、反射ミラー530とを含んでいる。集光レンズ510によって集光された光は、反射ミラー530の開口532を介して拡散板520で反射され、その反射光が反射ミラー530へ向けて反射される。反射ミラー530は、その反射光を所定の方向へ向けて反射させ、光伝送を行う。
【0043】
図12Aは、VCSELを光源に利用した光伝送システムの一構成例を示す図である。光伝送システム600は、VCSELが形成されたチップ310を含む光源610と、光源610から放出されたレーザ光の集光などを行う光学系620と、光学系620から出力されたレーザ光を受光する受光部630と、光源610の駆動を制御する制御部640とを有する。制御部640は、VCSELを駆動するための駆動パルス信号を光源610に供給する。光源610から放出された光は、光学系620を介し、光ファイバや空間伝送用の反射ミラーなどにより受光部630へ伝送される。受光部630は、受光した光をフォトディテクターなどによって検出する。受光部630は、制御信号650により制御部640の動作(例えば光伝送の開始タイミング)を制御することができる。
【0044】
図12Bは、光伝送システムに利用される光伝送装置の概観構成を示す図である。光伝送装置700は、ケース710、光信号送信/受信コネクタ接合部720、発光/受光素子730、電気信号ケーブル接合部740、電源入力部750、動作中を示すLED760、異常発生を示すLED770、DVIコネクタ780を含み、内部に送信回路基板/受信回路基板を有しているものであってもよい。
【0045】
光伝送装置700を用いた映像伝送システムを図13に示す。映像伝送システム800は、映像信号発生装置810で発生された映像信号を、液晶ディスプレイなどの画像表示装置820に伝送するため、図12Bに示す光伝送装置を利用している。すなわち、映像伝送システム800は、映像信号発生装置810、画像表示装置820、DVI用電気ケーブル830、送信モジュール840、受信モジュール850、映像信号伝送光信号用コネクタ860、光ファイバ870、制御信号用電気ケーブルコネクタ880、電源アダプタ890、DVI用電気ケーブル900を含んでいる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る面発光型半導体レーザは、光情報処理や光高速データ通信の分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施例に係るVCSELの概略平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の実施例における下部DBR、活性領域および上部DBRの構成を示す図である。
【図4】一定駆動電流における室温に対する高温でのレーザ光の光出力比を示すグラフであり、Al組成と共振器波長のバンドギャップ差と光出力比の関係を示す。
【図5】本発明の実施例に係るVCSELの製造方法を説明する工程断面図である。
【図6】本発明の実施例に係るVCSELの製造方法を説明する工程断面図である。
【図7】本発明の実施例に係るVCSELの製造方法を説明する工程断面図である。
【図8】本実施例に係るVCSELに光学部品を実装したモジュールの構成を示す概略断面図である。
【図9】VCSELを使用した光源装置の構成例を示す図である。
【図10】図8に示すモジュールを用いた光送信装置の構成を示す概略断面図である。
【図11】図8に示すモジュールを空間伝送システムに用いたときの構成を示す図である。
【図12】図12Aは、光伝送システムの構成を示すブロック図、図12Bは、光伝送装置の外観構成を示す図である。
【図13】図12Bの光伝送装置を利用した映像伝送システムを示す図である。
【符号の説明】
【0048】
100:VCSEL 102:基板
104:バッファ層 106:下部DBR
108:活性領域 110:電流狭窄層
110a:酸化領域 110b:導電領域
112:上部DBR 112A:高濃度DBR
112B:DBR 114:コンタクト層
116:溝 120:層間絶縁膜
130:上部電極 134:電極パッド
136:配線電極 150:n側下部電極
P:ポスト(メサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された第1導電型の第1の半導体多層膜反射鏡と、
前記第1の半導体多層膜反射鏡上に形成された活性領域と、
前記活性領域上に形成された第2導電型の電流狭窄層と、
前記電流狭窄層上に形成された第2導電型の第2の半導体多層膜反射鏡と、
前記第2の半導体多層膜反射鏡上に形成された第2導電型の第3の半導体多層膜反射鏡とを有し、
前記第1、第2および第3の半導体多層膜反射鏡は、高屈折率層と低屈折率層との対をそれぞれ含んでおり、
前記第2の半導体多層膜反射鏡の不純物濃度は、前記第3の半導体多層膜反射鏡の不純物濃度よりも高く、
前記第2の半導体多層膜反射鏡の高屈折率層のバンドギャップエネルギーは、前記第1の半導体多層膜反射鏡、前記活性領域、前記電流狭窄層、前記第2の半導体多層膜反射鏡および前記第3の半導体多層膜反射光から形成される共振器の波長のエネルギーよりも大きい、面発光型半導体レーザ。
【請求項2】
前記高屈折率層は、相対的にAl組成の低い半導体層であり、前記低屈折率層は、相対的にAl組成の高い半導体層であり、前記第2の半導体多層膜反射鏡の相対的にAl組成の低い半導体層のAl組成は、前記共振器の波長のエネルギーよりも大きい、面発光型半導体レーザ。
【請求項3】
前記第2の半導体多層膜反射鏡の対は、1以上3以下である、請求項1に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項4】
前記第1の半導体多層膜反射鏡は、Alx1Ga1-x1As半導体層とAly1Ga1-y1As半導体層(X1>Y1、0<X1<1、0<Y1<1)の対を含み、前記第2の半導体多層膜反射鏡は、Alx2Ga1-x2As半導体層とAly2Ga1-y2As半導体層(X2>Y2、0<X2<1、0<Y2<1)の対を含み、前記第3の半導体多層膜反射鏡は、Alx3Ga1-x3As半導体層とAly3Ga1-y3As半導体層(X3>Y3、0<X3<1、0<Y3<1)の対を含み、Y2>Y1であり、かつY2>Y3である、請求項1に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項5】
前記第2の半導体多層膜反射鏡の高屈折率層のバンドギャップエネルギーと前記共振器波長のエネルギーとの差分は、0.1eV以上0.3eV以下である、請求項1に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項6】
面発光型半導体レーザはさらに、前記第3の半導体多層膜反射鏡から少なくとも前記活性領域に至るメサを含み、前記電流狭窄層は、前記メサ側面から一部が酸化された酸化領域を含む、請求項1に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項7】
基板と、
前記基板上に形成された第1導電型の第1の半導体多層膜反射鏡と、
前記第1の半導体多層膜反射鏡上に形成された活性領域と、
前記活性領域上に形成された第2導電型の電流狭窄層と、
前記電流狭窄層上に形成された第2導電型の第2の半導体多層膜反射鏡と、
前記第2の半導体多層膜反射鏡上に形成された第2導電型の第3の半導体多層膜反射鏡とを有し、
前記第1、第2、および第3の半導体多層膜反射鏡は、Alx1Ga1-x1As半導体層とAly1Ga1-y1As半導体層(X1>Y1)の対、Alx2Ga1-x2As半導体層とAly2Ga1-y2As半導体層(X2>Y2)の対、Alx3Ga1-x3As半導体層とAly3Ga1-y3As半導体層(X3>Y3)の対をそれぞれ含んでおり、
前記第2の半導体多層膜反射鏡のAl組成Y2は、前記第1の半導体多層膜反射鏡のAl組成Y1よりも高く、かつ前記第3の半導体多層膜反射鏡のAl組成Y3よりも高く、
前記第2の半導体多層膜反射鏡のAly2Ga1-y2As半導体層のバンドギャップエネルギーは、前記第1の半導体多層膜反射鏡、前記活性領域、前記電流狭窄層、前記第2の半導体多層膜反射鏡および前記第3の半導体多層膜反射光から形成される共振器の波長のエネルギーよりも大きく、
前記第2の半導体多層膜反射鏡の不純物濃度は、前記第3の半導体多層膜反射鏡の不純物濃度よりも高い、
面発光型半導体レーザ。
【請求項8】
前記第2の半導体多層膜反射鏡のAly2Ga1-y2As半導体層のバンドギャップエネルギーと前記共振器波長のエネルギーとの差分は、0.1eV以上0.3eV以下である、請求項7に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項9】
請求項1ないし8いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと光学部材を実装したモジュール。
【請求項10】
請求項9に記載されたモジュールと、モジュールから発せられたレーザ光を光媒体を介して送信する送信手段とを備えた、光送信装置。
【請求項11】
請求項9に記載されたモジュールと、モジュールから発せられた光を空間伝送する伝送手段とを備えた、光空間伝送装置。
【請求項12】
請求項9に記載されたモジュールと、モジュールから発せられたレーザ光を送信する送信手段とを備えた、光送信システム。
【請求項13】
請求項9に記載されたモジュールと、モジュールから発せられた光を空間伝送する伝送手段とを備えた、光空間伝送システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−194103(P2009−194103A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32251(P2008−32251)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】