説明

音叉型振動片、音叉型振動子、および音叉型振動片の製造方法

音叉型振動片は、基部と当該基部からのびる脚部を備え、各脚部主面に溝部が形成されているとともに、この溝部の内部に溝内電極が、脚部の側面に側面電極がそれぞれ形成され、前記溝内電極と前記側面電極のそれぞれが基部に形成された基部電極により接続されてなる音叉型振動片において、前記溝部の溝内電極から前記基部と対向する溝部の縦壁、および脚部先端側主面に亘る溝延出電極と、当該溝延出電極を前記溝部の脇の脚部主面に沿って基部電極へ引き出す溝脇電極とを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、音叉型振動片、その音叉型振動片を備えた音叉型振動子、および音叉型振動片の製造方法に係る。特に、本発明は、溝内電極の断線、振動片表面に形成される電極同士のショート(短絡)等の不良を回避するための改良に関する。
【背景技術】
従来、圧電振動デバイスの一種類として、小型化を図ることが容易な音叉型水晶振動子が知られている。この種の振動子は、例えば特開2002−76806号公報に開示されているように、エッチング加工により音叉型に成形された水晶ウェハに対してフォトリソグラフィー技術を利用して表面に所定の電極が形成されて成る音叉型振動片を備えており、音叉型振動片の各脚部それぞれの表裏面(脚部主面)中央部に溝部を成形した構成が開示されている。このように脚部の表裏面に溝部を成形した場合、振動片を小型化しても脚部の振動損失が抑制され、CI値(クリスタルインピーダンス)を低く抑えることができて有効である。この種の音叉型水晶振動子は、特に、時計等の精密機器に搭載するのに適している。
この種の音叉型振動片の表面に形成されている電極の形状について以下に具体的に説明する。
図9は一般的な音叉型水晶振動子に備えられる音叉型振動片aを示している。この音叉型振動片aは、2本の脚部b,cを備えており、各脚部b,cに第1励振電極d1,d2及び第2励振電極e1,e2が形成されている。図9では、これら励振電極d1,d2,e1,e2の形成部分に斜線を付している。
また、音叉型振動片aは、各脚部b,cそれぞれの表裏面となる脚部主面b1,c1に矩形状の溝部b2,c2が成形されている。
そして、前記第1の励振電極としては、一方の脚部bの表裏面(脚部主面)b1に成形されている溝部b2の内部に形成された溝内電極d1と、他方の脚部cの側面c3に形成された側面電極d2とにより構成されており、これらが引き回し電極fによって接続されている。
同様に、第2の励振電極としては、他方の脚部cの表裏面(脚部主面)c1に成形されている溝部c2の内部に形成された溝内電極e1と、一方の脚部bの側面b3に形成された側面電極e2とにより構成されており、これらが引き回し電極gによって接続されている。
これらの電極は、例えば、クロム(Cr)の下地電極層に金(Au)の上部電極層から構成された薄膜であり、真空蒸着法等の手法により全面に形成された後、フォトリソグラフィー技術によりメタルエッチングして所望の形状に形成される。
なお、真空蒸着により電極を形成することで、下地電極層(クロム)と上部電極(金)の厚み管理が容易に行え、所望の電気的特性が得やすく、蒸着装置を適切に管理することにより、優良な膜質が得られると言ったメリットがある。
ところで、上述した音叉型振動片では、溝内電極は溝部の底面から縦壁(脚部主面に直交する方向の面)及び脚部主面に亘って形成されることになるので、溝部のエッジ付近(溝部と脚部主面との間の境界部付近)において、溝内電極と引き回し電極の接続が不安定となり断線が生じやすい。特に、真空蒸着により電極を形成した場合、基部側の溝部の底面から縦壁(脚部主面に直交する方向の面)でも蒸着源から陰となりやすく、溝内電極と引き回し電極の接続が不安定となり断線が生じやすい。
また、フォトリソグラフィー技術を利用して溝部に溝内電極を形成する場合、溝部のエッジ付近(溝部と脚部主面との間の境界部付近)でレジスト液の表面張力の影響によるレジスト液の盛り上がり現象が発生し、溝内電極の加工精度が低下することがあった。このように、溝内電極の外縁形状が適切に得られない状況では、溝内電極と引き回し電極が断線したり、前記音叉型振動片の叉部分において溝内電極が引き回し電極や側面電極に接触してショートが発生してしまう可能性がある。
これらの問題点は、近年開発が進んでいる超小型の水晶振動子(例えば脚部の幅寸法が120μm程度のもの)にあっては、これらの問題が顕著に現れる。
このように、脚部に溝部を備え、且つその内部に溝内電極が形成された音叉型振動片にあっては、溝部や溝内電極の存在に起因する電極の断線や電極同士のショート等の電気的な不良が生じてしまう可能性があった。このため、この種の音叉型振動片にあっては、構造の更なる改良が求められていた。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、脚部に溝部を備えその内部に励振電極(溝内電極)が形成された音叉型振動片及び音叉型振動子に対し、振動片の表面に形成される電極に起因する電気的な不良を回避することにある。
【発明の開示】
上記目的を達成するために、本発明の音叉型振動片は、基部と当該基部から同一方向に平行してのびる複数の脚部を備え、各脚部主面に溝部が形成されているとともに、この溝部の内部に溝内電極が、脚部の側面に側面電極がそれぞれ形成され、前記溝内電極と前記側面電極のそれぞれが基部に形成された基部電極により接続されてなる音叉型振動片において、前記溝部の溝内電極から、前記溝部の前記基部と対向する縦壁と前記溝部側面の縦壁との少なくとも一縦壁、および脚部先端側主面に亘る溝延出電極と、前記溝延出電極を前記溝部の脇の前記脚部主面に沿って前記基部電極へ引き出す溝脇電極と、が形成されることを特徴とする。このとき溝脇電極は前記溝部のエッジから離れていてもよい。
本発明によれば、前記溝延出電極と前記溝脇電極とが形成されるので、当該音叉型振動片の表面に形成される電極に起因する電気的な不良を回避することができる。すなわち、前記溝内電極と前記側面電極のそれぞれが、前記溝部の前記溝内電極から、前記溝延出電極と前記溝脇電極とを介して前記基部電極へ引き出されることによって、確実に接続される。例えば、前記溝部の前記溝内電極が基部側端部から前記基部電極へ引き出されて第1の導通路が構成され、前記溝部の前記溝内電極から前記溝延出電極と前記溝脇電極とを介して前記基部電極へ引き出されて第2の導通路が構成されたとすると、前記溝内電極と前記側面電極のそれぞれがこれら第1の導通路と第2の導通路によって、より確実に接続される。これらの導通路が複数存在することにより、前記溝部のエッジ付近(溝部と脚部主面との間の境界部付近)において、前記溝内電極と前記基部電極の接続が不安定となり断線が生じる危険性を軽減できる。なお、当該音叉型振動片に前記第2の導通路だけを構成することで、当該音叉型振動片の表面に形成される電極に起因する電気的な不良を回避することができるが、当該音叉型振動片に前記第1の導通路と前記第2の導通路を構成することで、より好ましく当該音叉型振動片の表面に形成される電極に起因する電気的な不良を回避することができる。
このように、脚部に溝部を備え、且つその内部に溝内電極が形成された音叉型振動片に対して、小型化しても脚部の振動損失が抑制され、CI値(クリスタルインピーダンス)を低く抑えることができるとともに、溝部や溝内電極の存在に起因する電極の断線や電極同士のショート等の電気的な不良を改善することができる。
また、上述の構成において、前記溝延出電極は、少なくとも前記溝部側面の縦壁に形成され、前記溝脇電極は、前記溝延出電極と一体に形成されてもよい。
この場合、上述の作用効果に加え、前記溝延出電極が少なくとも前記溝部側面の縦壁に形成され、前記溝脇電極が前記溝延出電極と一体に形成されるので、電極形状が単純化されて、生産性を高めることができるとともに、溝内電極と基部電極との電極接続がより一層安定する。
また、上述の構成において、前記複数の各脚部に形成された溝部は、当該脚部の中心線から前記脚部主面の幅方向へ偏心して形成されるとともに、前記溝脇電極は、偏心して形成された前記溝部と反対側の幅方向に偏心して形成されてもよい。
この場合、前記複数の各脚部に形成された溝部は、当該脚部の中心線から前記脚部主面の幅方向へ偏心して形成されるとともに、前記溝脇電極は、偏心して形成された前記溝部と反対側の幅方向に偏心して形成されるので、前記溝脇電極の形成領域を確保することができる。
また、上述の構成において、前記溝部は、当該脚部の中心線から並設された他の脚部と隔離する方向へ偏心して形成されるととともに、前記溝脇電極は、当該脚部の中心線から並設された他の脚部と近接する方向に偏心して形成されてもよい。
この場合、上述の作用効果に加え、この溝部の位置が内側の側面電極から遠ざかる位置に偏心して形成されているため、前記溝部のエッジの影響によって溝内電極の脚部主面への回り込み寸法が適切に得られない状況となっても溝内電極が内側の側面電極や内側の引き回し電極に接触してしまうことが抑制されてショート等の電気的な不良を回避することができる。
また、この各脚部の内側に主面領域が拡大されるので、この拡大された主面領域に溝脇電極を形成することができるので、断線の生じないより安定した電極膜が形成でき、溝内電極から基部電極への電極接続が飛躍的に安定する。また、この溝内電極だけでなく溝脇電極を励振電極として活用できるので、脚部の振動損失がより一層抑制され、CI値(クリスタルインピーダンス)を向上させることができる。
また、上述の構成において、前記溝部の基部側のエッジに形成される電極に対して、前記溝延出電極のエッジに形成される電極が厚く形成されてもよい。
この場合、前記溝部の基部側のエッジに形成される電極に対して、前記溝延出電極のエッジに形成される電極が厚く形成されているので、上述の作用効果に加え、第2の導通路における溝部のエッジ付近(溝部と脚部主面との間の境界部付近)での断線が生じないため、溝内電極から基部電極への電極接続の信頼性が飛躍的に向上する。
また、上述の構成において、前記溝部の壁は、前記脚部主面に対して直角もしくは鋭角に形成されてもよい。
この場合、前記溝部の壁が前記脚部主面に対して直角もしくは鋭角に形成されるため、例えば、蒸着装置を用いて前記溝部に電極を形成する際、蒸着源から直接溝部の壁が見えない場合(影となる場合)がある。しかしながら、本発明によれば、影となる前記溝部の壁(例えば、基部側の前記溝部の縦壁)があっても安定した電極膜が形成される。
また、上記目的を達成するために、本発明の音叉型振動子は、上述の構成の音叉型振動片がパッケージ内に取り付けられて構成されていることを特徴とする。
本発明は、上述した音叉型振動片を備え、この音叉型振動片がパッケージ内に取り付けられて構成されているので、音叉型水晶振動子も本発明の技術的思想の範疇である。つまり、本解決手段によれば、電極同士のショートや断線が生じていないことで信頼性が高く、且つ溝部を形成したことの効果である良好なCI値が得られている音叉型水晶振動子を提供できる。
また、上記目的を達成するために、本発明の音叉型振動片の製造方法は、基部と当該基部から同一方向に平行してのびる複数の脚部を備え、各脚部主面に溝部が形成されているとともに、この溝部の内部に溝内電極が、脚部の側面に側面電極がそれぞれ形成され、前記溝内電極と前記側面電極のそれぞれが基部に形成された基部電極により接続されてなる音叉型振動片の製造方法において、前記音叉型振動片は、蒸着源から一定の間隔をあけて、音叉型振動片の基部側の端部を脚部側の端部より蒸着源に近接させ、音叉型振動片の脚部主面が蒸着源に対して傾いた状態でワークホルダに配置され、前記蒸着源から電極材料を蒸発させて前記音叉型振動片に電極材料を付着し、前記溝部の前記基部と対向する縦壁と前記溝部側面の縦壁との少なくとも一縦壁、および脚部先端側主面に亘る溝延出電極と、当該溝延出電極を前記溝部の脇の脚部主面に沿って基部電極へ引き出す溝脇電極とを形成したことを特徴とする。
本発明によれば、前記溝延出電極と前記溝脇電極とを形成するので、当該音叉型振動片の表面に形成される電極に起因する電気的な不良を回避することができる。すなわち、前記溝内電極と前記側面電極のそれぞれが、前記溝部の前記溝内電極から、前記溝延出電極と前記溝脇電極とを介して前記基部電極へ引き出されることによって(上記した第2の導通路)、確実に接続される。例えば、前記溝内電極と前記側面電極のそれぞれが上記した第1の導通路と第2の導通路によって、より確実に接続される。なお、当該音叉型振動片に前記第2の導通路だけを構成することで、当該音叉型振動片の表面に形成される電極に起因する電気的な不良を回避することができるが、当該音叉型振動片に前記第1の導通路と前記第2の導通路を構成することで、より好ましく当該音叉型振動片の表面に形成される電極に起因する電気的な不良を回避することができる。
この第2の導通路をなす溝延出電極は、音叉型振動片の基部側の端部を脚部側の端部より蒸着源に近接させ、音叉型振動片の脚部主面が蒸着源に対して傾いた状態でワークホルダに配置された状態で、前記溝部の溝内電極から溝部の縦壁、および脚部先端側主面に亘って形成されているので、脚部先端側の溝部のエッジ付近は、前記蒸着源と向かい合って陰となることなく安定した電極膜が形成される。また、溝部の基部側のエッジに形成される電極に対して、前記溝延出電極のエッジに形成される電極の方が厚く形成されるので、第2の導通路における溝部のエッジ付近(溝部と脚部主面との間の境界部付近)での断線が生じない。
つまり、第2の導通路をなす溝脇電極も、同様に、前記蒸着源の陰となることなく安定した電極膜が形成され、お互いに安定した電極膜が形成された溝延出電極と溝脇電極を組み合わせることで、溝内電極と基部電極との断線の危険性がない電極接続が安定したより信頼性の高い音叉型振動片を提供することができる。
さらに、叉部分の電極構成は、音叉型振動片の基部側の端部を脚部側の端部より蒸着源に近接させ、音叉型振動片の脚部主面が蒸着源に対して傾いた状態でワークホルダに配置されているので、当該音叉型振動片の叉部分が前記蒸着源から陰となり、各脚部の叉部分に不要な電極が形成されて、各側面電極がショートするのを防止することができる。
このように、脚部に溝部を備え、且つその内部に溝内電極が形成された音叉型振動片に対して、小型化しても脚部の振動損失が抑制され、CI値(クリスタルインピーダンス)を低く抑えることができるとともに、溝部や溝内電極の存在に起因する電極の断線や電極同士のショート等の電気的な不良を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本実施の形態に係る音叉型振動片を示す平面図である。
図2は、図1におけるI−I線に沿った断面図である。
図3は、図1におけるA−A線に沿った断面図である。
図4は、溝脇電極を一体形成した場合の図1相当図である。
図5は、図4におけるII−II線に沿った断面図である。
図6は、図1、図4に示す引き回し電極と異なる形態の引き回し電極を形成した音叉型振動片を示す平面図である。
図7は、本実施の形態の変形例に係る音叉型振動片を示す平面図である。
図8は、図7におけるIII−III線に沿った断面図である。
図9は、従来例に係る音叉型振動片を示す平面図である。
図10は、真空蒸着装置の模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本形態は、2本の脚部を備えた音叉型水晶振動子に本発明を適用した場合について説明する。図1は本形態に係る音叉型水晶振動子に備えられる音叉型振動片1を示す平面図である。また、図2は図1におけるI−I線に沿った断面図であり、図3は図1におけるA−A線に沿った断面図である。
この音叉型振動片1は、基部17と当該基部17から同一方向へ平行にのびる2本の脚部11,12を備えており、各脚部11,12には第1励振電極13a,13b及び第2励振電極14a,14bが形成されている。図1では、これら励振電極43a,13b,14a,14bの形成部分に斜線を付している。
また、音叉型振動片1は、各脚部11,12それぞれの表裏面となる脚部主面11a,12aに矩形状の溝部11c,12cが成形されている。これら各溝部11c,12cの形状(幅寸法、長さ寸法、深さ寸法)は互いに同一形状となっている。また、溝部11c,12cの縦壁は、図1、図2、図3に示すように、脚部主面に対して直角に形成されている。ここでいう直角は、脚部主面に対する完全な直角だけに限定されるものではなく、多少傾いてもよい。
このように各脚部11,12の表裏面に溝部11c,12cを成形した場合、音叉型振動片1を小型化しても脚部11,12の振動損失が抑制され、CI値(クリスタルインピーダンス)を低く抑えることができて有効である。ここで、各溝部11c,12cを同一形状に形成しているが、これは脚部11,12の振動損失を抑制し、CI値(クリスタルインピーダンス)を低く抑えるためである。そのため、各溝部11c,12cの形状は、これに限定されるものではなく任意の形状に形成してもよい。
なお、音叉型振動片の外形形状(2本の脚部と基部等)、各脚部の溝部は、フォトリソグラフィー技術を使って水晶ウェハの所望の領域にレジスト膜を形成し、ウェットエッチングを行うことで容易に作成できる。
そして、前記第1の励振電極としては、一方の脚部11の表裏面(脚部主面)11aに成形されている溝部11cの内部に形成された溝内電極13aと、他方の脚部12の側面12bに形成された側面電極13bとにより構成されており、これらが引き回し電極(基部電極)15によって接続されている。
同様に、第2の励振電極としては、他方の脚部12の表裏面(脚部主面)12aに成形されている溝部12cの内部に形成された溝内電極14aと、一方の脚部11の側面11bに形成された側面電極14bとにより構成されており、これらが引き回し電極(基部電極)16によって接続されている。
また、各溝部11c,12cの内部に形成される溝内電極13a,14aは、溝部の縦壁(脚部主面に直交する方向の面)、および脚部先端側主面に亘る溝延出電極13c,14cが形成されている。この溝延出電極13c,14cは、各脚部の内側で、溝部の脇の脚部主面に沿って形成された溝脇電極13d,14dにより、前記引き回し電極(基部電極)15,16へ引き出されている。本形態では、例えば、脚部11,12それぞれの幅寸法が120μmであり、前記溝部11c,12cの幅が60μmの場合、この脚部主面11a,12aへの溝延出電極13c,14cの回り込み寸法Wは10〜30μm程度、溝脇電極13d,14dの幅寸法W1は10μm程度に形成しているので、電極膜の安定形成がなされて、導通抵抗を下げることなく、側面電極や引き回し電極と近接することによるショートの危険も少ない。
これらの電極は、例えば、クロム(Cr)の下地電極層に金(Au)の上部電極から構成された薄膜であり、真空蒸着法により音叉型振動片の全面に形成した後、フォトリソグラフィー技術により前記全面電極の所望の領域にレジスト膜を形成し、メタルエッチングして所望の形状に形成される。その膜厚は例えば0.2μmに設定されている。
溝部11c,12c及び溝内電極13a,14aの形成位置としては、この溝部11c,12cのおよび溝内電極13a,14aの幅方向の中心位置T1が、脚部11,12の幅方向の中心位置Tよりも、並設された他の脚部と隔離する方向(音叉型振動片の中心線から遠ざかる側、例えば20μm程度)に偏心して形成されている。前記溝脇電極13d,14dは、脚部11,12の幅方向の中心位置よりも、並設された他の脚部と近接する方向(振動中心位置から近づく側)に偏心して形成されている。
この構成により、溝部11c,12c及び溝内電極13a,14aの内側端縁と脚部11,12の内側端縁との距離を大きく確保することが可能となる。溝脇電極の幅寸法、脚部11a,12aへの側面電極13b,14bの回り込み寸法や引き回し電極16の脚部主面11a,12aへの回り込み寸法の自由度を拡大することができる。図1に示すものでは、拡大された脚部主面領域に溝脇電極13d,14dを幅広の状態で形成するように設計しており、断線の生じないより安定した電極膜が形成できる。
本形態では、溝脇電極13d,14dを、前記溝部11c,12cから隔離した脇部分に形成しているが、図4、図5に示すように、溝延出電極13c,14cを溝部11c,12cの縦壁(脚部主面に直交する方向の面および側面)に形成し、溝脇電極13d,14dを溝延出電極13c,14cと一体に形成することで、電極形状が単純化されて、生産性を高めることができるとともに、溝内電極と基部電極との電極接続がより一層安定する。本形態では、例えば、脚部11,12それぞれの幅寸法が120μmであり、前記溝部11c,12cの幅が60μmの場合、この脚部主面11a,12aへの溝延出電極13c,14cの回り込み寸法Wは10〜30μm程度、溝脇電極13d,14dの回り込み寸法W2は15μm程度に形成しているので、電極膜の安定形成がなされて、導通抵抗を下げることなく、側面電極や引き回し電極と近接することによるショートの危険も少ない。
また、図4、図5に示す音叉型振動片1では、溝延出電極13c,14cを溝部11c,12cの縦壁(脚部主面に直交する方向の面および側面)に形成し、溝脇電極13d,14dを溝延出電極13c,14cと一体に形成しているが、これに限定されるものではなく、溝延出電極13c,14cを溝部11c,12cの側面の縦壁のみに形成し、溝脇電極13d,14dを溝延出電極13c,14cと一体に形成してもよい。
また、本形態では、図1、図4に示すように、引き回し電極15、16を形成しているが、これに限定されるものではなく、図6に示すように引き回し電極15、16を形成してもよい。すなわち、溝脇電極13d,14dのみと接続するよう構成してもよい。
また、本形態では、各脚部11,12に形成された溝部11c,12cが、例えば、図1、図2に示す位置に形成されているが、これは、溝内電極が内側の側面電極や内側の引き回し電極に接触するのを抑制するために好適な例であり、これに限定されるものではない。すなわち、各脚部に形成された溝部が、脚部の中心線から前記脚部主面の幅方向へ偏心して形成されるとともに、溝脇電極は、偏心して形成された溝部と反対側の幅方向に偏心して形成されていればよく、図1、図2に示す位置とは反対側の位置(音叉型振動片の中心から近づく位置)に溝部を形成されてもよい。この場合であっても、溝脇電極の形成領域を確保することができる。
このような構成の音叉型振動片1が図示しないパッケージ内に取り付けられることにより音叉型水晶振動子が構成される。
次に、上記音叉型振動片に真空蒸着により全面電極を形成する方法を、図10の真空蒸着装置の模式図とともに説明する。
音叉型振動片は、水晶ウェハの状態で図示しないマスク治具に収納されるとともに、蒸着源Jから一定の間隔をあけた状態でワークホルダHに固定されている。このワークホルダHは、蒸着源の上面で水平に回転するターンテーブルIの周囲複数箇所に取り付けられており、各ワークホルダHは前記ターンテーブルIに対して自転できるように構成されている。各ワークホルダHは、例えば、前記ターンテーブルIに対する仰角を45°とし、さらに各ワークホルダHの自転軸についても水平面にワークホルダHが正対した状態から45°傾斜させた状態で位置決めされている。そして、ワークホルダHに固定された水晶ウェハの各音叉型振動片は、音叉型振動片の基部側の端部を脚部側の端部より蒸着源に近接させ、音叉型振動片の脚部主面が蒸着源に対して45°傾いている。
また、上記各ワークホルダHは、例えば、ターンテーブルIが120°ずつ回転するたびに、90°だけ自転して再び位置決めされるように構成されているので、前記ターンテーブルIを回転させながら、前記蒸着源Jから蒸発した電極材料を水晶ウェハに供給することで、前記各音叉型振動片の表裏面と両側面に全面に電極材料を付着させることができる。
以上のように電極形成することで、当該音叉型振動片の叉部分が前記蒸着源から陰となり、各脚部の叉部分に不要な電極が形成されて、各側面電極がショートするのを防止することができる。特に、水晶をウェットエッチングして音叉型振動片を形成する場合、叉部分に微小な突起が形成され、この部分に電極が形成されるとレジスト膜を感光する際に感光ビームがとどきにくく、精度よくメタルエッチングすることが困難であったので、各側面電極がショートすることがあったが、これらの不具合が起こることがなくなった。また、図3に示すように、前記溝延出電極13c,14c(13cのみ図示)のエッジ付近は、前記蒸着源と向かい合って陰となることなく安定した電極膜が形成される。また、溝部の基部側のエッジE2に形成される電極に対して、前記溝延出電極13c,14cのエッジE1(溝部の脚部側のエッジ)に形成される電極の方が厚く形成されるので、断線が生じない。
また、本形態では、図1に示すように、溝部11c,12cの縦壁が脚部主面に対して直角に形成されたとしても、断線が生じることなく、安定した電極膜を形成することができる。また、直角だけではなく、溝部11c,12cの縦壁が脚部主面に対して鋭角に形成されてもよく、この場合であっても、断線が生じることなく、安定した電極膜を形成することができる。
−変形例−
以下、本発明の変形例を図面に基づいて説明する。図7は本形態の変形例に係る音叉型水晶振動子に備えられる音叉型振動片1を示す平面図である。また、図8は図7におけるIII−III線に沿った断面図である。
本例では、溝部11c,12c及び溝脇電極13d,14dの形状の変形例を示している。溝部11c,12c及び溝内電極13a,14aは、各脚部11,12の脚部主面11a,12aの幅方向の中央に形成されており、各溝部11c,12cの内部に形成される溝内電極13a,14aは、溝部11c,12cの内部全体に亘る溝内電極13a,14aが形成されるように、図7に示す平面視において、溝部11c,12cの面積よりも溝内電極13a,14aの面積の方が僅かに大きく設定されている。このため、実際には、図8にも示すように、溝内電極13a,14aは、各溝部11c,12cの底面から縦壁及び脚部主面11a,12aに亘って形成されることになる。溝部11c,12cの脚部先端側に回り込んだ溝内電極と溝部11c,12cの両側面に回り込んだ溝内電極とが溝延出電極13c,14cとなり、この溝延出電極13c,14cが溝脇電極13d,14dと一体的に形成されている。本形態では、例えば、脚部11,12それぞれの幅寸法が120μmであり、前記溝部11c,12cの幅が60μmの場合、この脚部主面11a,12aへの溝内電極13a,14aの回り込み寸法W3は10μm程度である。
この溝延出電極13c,14cは、各溝部の両脇の脚部主面に沿って形成された溝脇電極13d,14dにより、前記引き回し電極(基部電極)15,16へ引き出されている。
この構成によれば、溝部11c,12cの脚部先端側に回り込んだ溝内電極と溝部11c,12cの両側面に回り込んだ溝延出電極13c,14cが溝脇電極13d,14dと一体に形成されるので、電極形状が単純化されて、生産性を高めることができるとともに、溝内電極と基部電極との電極接続がより一層安定する。
本発明の実施形態では、2本の脚部11,12を備えた音叉型振動片1に本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、3本以上の脚部を備えた音叉型振動片に適用することも可能である。さらに、前記実施形態では、圧電材料として水晶を使用した場合について説明したが、その他、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムなどを使用した振動片に対しても適用可能である。
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施の形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
また、この出願は、2003年7月22日に日本で出願された特願2003−200079号に基づく優先権を請求する。これに言及することにより、その全ての内容は本出願に組み込まれるものである。
【産業上の利用可能性】
本発明にかかる音叉型振動片、その音叉型振動片を備えた音叉型振動子、および音叉型振動片の製造方法は、特に、圧電材料を用いることが好ましい。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と当該基部から同一方向に平行してのびる複数の脚部を備え、各脚部主面に溝部が形成されているとともに、この溝部の内部に溝内電極が、脚部の側面に側面電極がそれぞれ形成され、前記溝内電極と前記側面電極のそれぞれが基部に形成された基部電極により接続されてなる音叉型振動片において、
前記溝部の溝内電極から、前記溝部の前記基部と対向する縦壁と前記溝部側面の縦壁との少なくとも一縦壁、および脚部先端側主面に亘る溝延出電極と、前記溝延出電極を前記溝部の脇の前記脚部主面に沿って前記基部電極へ引き出す溝脇電極と、が形成されることを特徴とする音叉型振動片。
【請求項2】
前記溝延出電極は、少なくとも前記溝部側面の縦壁に形成され、
前記溝脇電極は、前記溝延出電極と一体に形成されることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の音叉型振動片。
【請求項3】
前記複数の各脚部に形成された溝部は、当該脚部の中心線から前記脚部主面の幅方向へ偏心して形成されるとともに、前記溝脇電極は、偏心して形成された前記溝部と反対側の幅方向に偏心して形成されたことを特徴とする請求の範囲第1または2に記載の音叉型振動片。
【請求項4】
前記溝部は、当該脚部の中心線から並設された他の脚部と隔離する方向へ偏心して形成されるととともに、前記溝脇電極は、当該脚部の中心線から並設された他の脚部と近接する方向に偏心して形成されたことを特徴とする請求の範囲第3項に記載の音叉型振動片。
【請求項5】
前記溝部の基部側のエッジに形成される電極に対して、前記溝延出電極のエッジに形成される電極を厚く形成してなることを特徴とする請求の範囲第1乃至4項のいずれかに記載の音叉型振動片。
【請求項6】
前記溝部の縦壁は、前記脚部主面に対して直角もしくは鋭角に形成されたことを特徴とする請求の範囲第1乃至5項のいずれかに記載の音叉方振動片。
【請求項7】
請求の範囲第1乃至6項のいずれかに記載の音叉型振動片を備え、この音叉型振動片がパッケージ内に取り付けられて構成されていることを特徴とする音叉型振動子。
【請求項8】
基部と当該基部から同一方向に平行してのびる複数の脚部を備え、各脚部主面に溝部が形成されているとともに、この溝部の内部に溝内電極が、脚部の側面に側面電極がそれぞれ形成され、前記溝内電極と前記側面電極のそれぞれが基部に形成された基部電極により接続されてなる音叉型振動片の製造方法において、
前記音叉型振動片は、蒸着源から一定の間隔をあけて、音叉型振動片の基部側の端部を脚部側の端部より蒸着源に近接させ、音叉型振動片の脚部主面が蒸着源に対して傾いた状態でワークホルダに配置され、
前記蒸着源から電極材料を蒸発させて前記音叉型振動片に電極材料を付着し、
前記溝部の前記基部と対向する縦壁と前記溝部側面の縦壁との少なくとも一縦壁、および脚部先端側主面に亘る溝延出電極と、当該溝延出電極を前記溝部の脇の脚部主面に沿って基部電極へ引き出す溝脇電極とを形成したことを特徴とする音叉型振動片の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/008888
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511938(P2005−511938)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010598
【国際出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】