説明

音声出力装置、音声出力方法、及び音声出力処理プログラム等

【課題】補正により聴者に対して違和感を与えることを回避すること等が可能な音声出力装置、音声出力方法、及び音声出力処理プログラム等を提供する。
【解決手段】音声出力装置は、音声データの境界期間を検出する曲間検出部11と、複数のスピーカにより形成された音響空間における温度を検出する温度センサ10と、前記音響空間における1つの聴取位置から各前記スピーカの位置までの各距離の差と、前記検出された温度に応じた音速と、に基づき到達時間差を算出し、前記算出された到達時間差に基づいて、前記各スピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングを制御するシステム制御部13と、を備え、システム制御部13は、前記温度の変化があった場合に、前記算出された到達時間差に基づいて、前記検出された前記各音声データの境界期間において変更されるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続して再生された複数の音声データに係る音声信号を、複数のスピーカに対して出力する音声出力装置等の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用オーディオ再生装置においては、聴取位置(例えば、運転者の位置)に対して複数のスピーカからの距離が非対称な場合に、一方のスピーカへの音声信号を遅らせて、音場を補正(聴取位置補正)することが知られている。
【0003】
ところで、従来の車載用オーディオ再生装置においては、周囲温度による音の伝搬速度(音速)の変化を何ら考慮せず、周囲温度は一定として、距離差を時間に換算して補正値(遅延時間)を算出していたので、現実に必要な遅延時間を正確に得ることができないという問題があった。かかる問題を解決すべく、特許文献1には、ステレオチャンネルの一方に補正時間(遅延時間)を与える制御回路と、制御回路に接続した周囲温度を検出する温度センサとを具備し、制御回路は温度センサにより得られた周囲温度データを補正時間の計算に含める聴取位置補正装置が開示されている。
【特許文献1】特開平9−331600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の聴取位置補正装置では、聴者が例えば曲を聴いている途中に、スピーカへの音声信号を遅らせる聴取位置補正が行われる場合が想定され、この場合、聴者にとって違和感を与える可能性がある。
【0005】
また、従来の聴取位置補正装置では、周波数帯域毎の上記聴取位置補正については何ら言及されていない。
【0006】
そこで、このような問題の解消を一つの課題とし、補正により聴者に対して違和感を与えることを回避すること等が可能な音声出力装置、音声出力方法、及び音声出力処理プログラム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、連続して再生された複数の音声データに係る音声信号を、複数のスピーカに対して出力する音声出力装置であって、各前記音声データの境界期間を検出する境界期間検出手段と、前記複数のスピーカにより形成された音響空間における温度を検出する温度検出手段と、前記音響空間における1つの聴取位置から各前記スピーカの位置までの各距離の差と、前記検出された温度に応じた音速と、に基づき到達時間差を算出する到達時間差算出手段と、前記算出された到達時間差に基づいて、前記各スピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングを制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記温度の変化があった場合に、前記算出された到達時間差に基づいて、少なくとも1つの前記スピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングが、前記検出された前記各音声データの境界期間において変更されるように制御することを特徴とする。
【0008】
また、請求項5に記載の発明は、連続して再生された複数の音声データに係る音声信号を、複数のスピーカに対して出力する音声出力方法であって、各前記音声データの境界期間を検出する工程と、前記複数のスピーカにより形成された音響空間における温度を検出する工程と、前記音響空間における1つの聴取位置から各前記スピーカの位置までの各距離の差と、前記検出された温度に応じた音速と、に基づき到達時間差を算出する工程と、前記算出された到達時間差に基づいて、前記各スピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングを制御する制御工程と、を備え、前記制御工程においては、前記温度の変化があった場合に、前記算出された到達時間差に基づいて、少なくとも1つの前記スピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングが、前記検出された前記各音声データの境界期間において変更されるように制御することを特徴とする。
【0009】
また、請求項6に記載の音声出力処理プログラムは、連続して再生された複数の音声データに係る音声信号を、複数のスピーカに対して出力するコンピュータを、各前記音声データの境界期間を検出する境界期間検出手段、前記複数のスピーカにより形成された音響空間における1つの聴取位置から各前記スピーカの位置までの各距離の差と、温度検出手段により検出された前記音響空間における温度に応じた音速と、に基づき到達時間差を算出する到達時間差算出手段、及び、前記算出された到達時間差に基づいて、前記各スピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングを制御する制御手段として機能させ、前記制御手段が、前記温度の変化があった場合に、前記算出された到達時間差に基づいて、少なくとも1つの前記スピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングが、前記検出された前記各音声データの境界期間において変更されるように機能させることを特徴とする。
【0010】
また、請求項7に記載の記録媒体は、請求項6に記載の音声出力処理プログラムがコンピュータ読み取り可能に記録されていることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本願の最良の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、車両に搭載される車載用オーディオ再生装置に対して本願を適用した場合の実施形態である。
【0012】
先ず、図1を参照して、本実施形態における車載用オーディオ再生装置の構成及び機能を説明する。
【0013】
図1は、車載用オーディオ再生装置の概要ブロック例を示す図である。
【0014】
車載用オーディオ再生装置Sは、図1に示すように、ソースユニット1、レフトチャンネル(以下、「Lch」と称する)用DSP(Digital Signal Processor)2、Lch用DAC(Digital-to-Analog Converter)3a,3b、Lch用アンプ4a,4b、Lch用スピーカ5a,5b、ライトチャンネル(以下、「Rch」と称する)用DSP6、Rch用DAC7a,7b、Rch用アンプ8a,8b、Rch用スピーカ9a,9b、温度検出手段の一例としての温度センサ10、境界検出手段の一例としての曲間検出部11、操作・表示部12、及び到達時間差算出手段及び制御手段の一例としてのシステム制御部13等を備えて構成されている。なお、上記温度センサ10、曲間検出部11、及びシステム制御部13等は、本願の音声出力装置を構成する。
【0015】
ソースユニット1は、例えばCD(Compact Disc),MD(Mini Disc),DVD(Digital Versatile disc)、又はカード型記録媒体(例えば、メモリスティック(登録商標)、又はSDカード等)等の記録媒体に記録された複数の曲データ(音声データの一例)を再生出力する情報再生装置であり、システム制御部13からの再生指示にしたがって例えばCDに記録されている曲データを、例えばトラック番号順に連続して再生し当該曲データに係るLchの音声信号(デジタル音声信号)SLをLch用DSPへ、Rchの音声信号(デジタル音声信号)SRをRch用DSP6へ、夫々出力すると共に、音声信号SLと音声信号SRの双方又は何れか一方を曲間検出部11に出力するようになっている。
【0016】
なお、ソースユニット1としては、複数の曲データを連続して出力可能なものであれば如何なるものであっても適用可能であり、例えばテレビ局又はラジオ局から放送された音声データに係る放送信号を受信するチューナ、或いは、楽曲配信サーバからインターネットを通じてストリーミング配信された音声データに係る配信信号を受信する受信機等であっても構わない。また、本実施形態においては、音声データとして曲(楽曲)データを例にとって説明したが、これに限定されるものではない。
【0017】
Lch用DSP2は、図1に示すように、入力されたLchの音声信号SLを複数の周波数帯域(本実施形態においては、高帯域(例えば、1kHz以上)と低帯域(例えば、1kHz未満))に分割する帯域分割手段の一例としての帯域分割フィルタ部2a,2b、及びスピーカ5a,5bに対する音声信号の出力を遅延させる遅延手段の一例としての遅延部2c,2dを備えて構成されている。
【0018】
帯域分割フィルタ部2aは、入力されたLchの音声信号SLから高帯域成分(高域成分)である音声信号を抽出(フィルタ処理)し、帯域分割フィルタ部2bは、入力されたLchの音声信号SLから低帯域成分(低域成分)である音声信号を抽出する。また、遅延部2c及び2dは、夫々、システム制御部13から指定された遅延時間(遅延量、“0”の場合もある)を設定し、当該設定された遅延時間にしたがって当該音声信号(遅延部2cは高帯域成分である音声信号、遅延部2dは低帯域成分である音声信号)を出力する。例えば、遅延部2c及び2dは、D−RAM(図示せず)への音声信号の書込及び読出タイミングを上記遅延時間(遅延時間の増減)に基づき調整することによって音声信号の出力タイミングを変化させる。
【0019】
同様に、Rch用DSP6は、入力されたRchの音声信号SRを複数の周波数帯域に分割する帯域分割手段の一例としての帯域分割フィルタ部6a,6b、及びスピーカ9a,9bに対する音声信号の出力を遅延させる遅延手段の一例としての遅延部6c,6dを備えて構成されている。
【0020】
帯域分割フィルタ部6aは、入力されたRchの音声信号SRから高帯域成分である音声信号を抽出し、帯域分割フィルタ部6bは、入力されたRchの音声信号SRから低帯域成分である音声信号を抽出する。また、遅延部6c及び6dは、夫々、システム制御部13から指定された遅延時間(遅延量、“0”の場合もある)を設定し、当該設定された遅延時間にしたがって当該音声信号(遅延部6cは高帯域成分である音声信号、遅延部6dは低帯域成分である音声信号)を出力する。
【0021】
上記Lch用DSP2から出力された高帯域成分である音声信号は、Lch用DAC3aによりアナログ信号に変換された後、Lch用アンプ4aにより増幅され、音声信号SHLとしてLch用スピーカ5a(高帯域用)に出力される。そして、Lch用スピーカ5aは、音声信号SHLを音波として出力する。
【0022】
一方、上記Lch用DSP2から出力された低帯域成分である音声信号は、Lch用DAC3bによりアナログ信号に変換された後、Lch用アンプ4bにより増幅され、音声信号SLLとしてLch用スピーカ5b(低帯域用)に出力される。そして、Lch用スピーカ5bは、音声信号SLLを音波として出力する。
【0023】
一方、上記Rch用DSP6から出力された高帯域成分である音声信号は、Rch用DAC7aによりアナログ信号に変換された後、Rch用アンプ8aにより増幅され、音声信号SHRとしてRch用スピーカ9a(高帯域用)に出力される。そして、Rch用スピーカ9aは、音声信号SHRを音波として出力する。
【0024】
一方、上記Rch用DSP6から出力された低帯域成分である音声信号は、Rch用DAC7bによりアナログ信号に変換された後、Rch用アンプ8bにより増幅され、音声信号SLRとしてRch用スピーカ9b(低帯域用)に出力される。そして、Rch用スピーカ9bは、音声信号SLRを音波として出力する。
【0025】
図2は、車両室内における各スピーカの位置関係の一例を示す図である。
【0026】
図2の例では、Lch用スピーカ(高帯域用)5aは、車両室内の左端の前方コンソール部に設置され、Lch用スピーカ(低帯域用)5bは、車両室内の左端の前方ドア部に設置され、Rch用スピーカ(高帯域用)9aは、車両室内(運転席側)の右端の前方コンソール部に設置され、Rch用スピーカ(低帯域用)9bは、車両室内の右端の前方ドア部に設置されている。
【0027】
また、図2の例では、このような複数のスピーカ5a,5b,9a,9bにより形成された音響空間における運転者(ユーザ)Dの位置が聴取位置P0となっており、当該1つの聴取位置P0から、各スピーカ5a,5b,9a,9bの位置P1〜P4までの各距離D1〜D4は相互に異なり、例えば、聴取位置P0からスピーカ5aの位置P1までの距離D1と、聴取位置P0からスピーカ9aの位置P3までの距離D3との差は、距離差DG(例えば、30cm)である。
【0028】
このように距離差DGがあると、各スピーカから聴取位置P0までの音声信号(音波)の到達時間にも差が生じる(例えば、スピーカ9aの位置P3から聴取位置P0までの音声信号(音波)の到達時間は、スピーカ5aの位置P1から聴取位置P0までの音声信号(音波)の到達時間よりも短い)こととなるが、本実施形態においては、当該到達時間の差を、例えば上述したRch用DSP6における遅延部6c及び6dにおいて設定された遅延時間により相殺するように補正(聴取位置補正)している。
【0029】
更に、音波の速度、つまり音速は、温度によって異なる(温度が高いほど速い)ため、距離差DGに起因する到達時間の差も、温度によって異なる(例えば、温度が20°Cの場合の上記到達時間の差と、温度が40°Cの場合の上記到達時間の差は、距離差DGが同じでも異なる)。従って、本実施形態においては、後述するように、当該温度をも考慮して音声信号の出力タイミングを調整(補正)している。
【0030】
温度センサ10は、車両室内に設置され、上記複数のスピーカにより形成された音響空間(本実施形態においては、車両室内)における現在の温度を検出し、当該温度を示す情報を、システム制御部13に供給するようになっている。
【0031】
曲間検出部11は、ソースユニット1からの音声信号SLと音声信号SRの双方又は何れか一方に基づき各曲データの境界期間(本実施形態においては、曲間)を検出するようになっている。例えば、曲間検出部11は、例えば、1の曲データに係る音声信号と、これに続く他の曲データに係る音声信号と、の間の信号無期間(つまり、曲と曲との間の無音期間(例えば、3秒程度))を上記境界期間として検出し、当該境界期間を検出したことを示す情報を、システム制御部13に供給するようになっている。このように1の曲データに係る音声信号と、これに続く他の曲データに係る音声信号と、の間の信号無期間を検出することにより、より正確かつ効率良く上記境界期間を検出することができる。
【0032】
操作・表示部12は、ユーザから各種指示(例えば、再生指示、停止指示、聴取位置から各スピーカの位置までの距離設定指示等)を入力するための操作ボタン、及び各種情報(例えば、設定内容等)を表示する表示パネル等を備えており、ユーザにより押下された操作ボタンに応じた指示信号をシステム制御部13に供給するようになっている。
【0033】
システム制御部13は、CPU(Central Processing Unit)、作業用RAM(Random Access Memory)、各種処理プログラム(音声出力処理プログラムを含む)及びデータを記憶するROM(Read Only Memory)、及び不揮発性メモリ等を備えて構成されており、CPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、システム制御部13は、操作・表示部12からの指示信号にしたがってソースユニット1に対する音声信号の再生制御、並びに、Lch用DSP2及びRch用DSP6に対する音声信号の出力制御を行うようになっている。なお、上記音声出力処理プログラムは、例えばインターネット上の所定のサーバからダウンロードされるようにしてもよいし、例えばCD−ROM等の記録媒体に記録されて当該記録媒体のドライブを介して読み込まれ、車載用オーディオ再生装置Sに備えられたハードディスク(図示せず)等に記録されるようにしてもよい。
【0034】
このLch用DSP2及びRch用DSP6に対する音声信号の出力制御においては、システム制御部13は、本願の到達時間差算出手段及び制御手段として機能し、上述した聴取位置P0から各スピーカ5a,5b,9a及び9bの位置P1〜P4までの各距離D1〜D4の差と、温度センサ10により検出された温度に応じた音速と、に基づき到達時間差を算出し、当該算出した到達時間差に基づいて、各スピーカ5a,5b,9a及び9bに対して出力される音声信号の出力タイミングを制御するようになっている。
【0035】
ここで、聴取位置P0から各スピーカ5a,5b,9a及び9bの位置P1〜P4までの各距離D1〜D4は、例えばユーザが操作・表示部12から入力して設定可能になっており(なお、各スピーカ5a,5b,9a及び9bの位置P1〜P4が固定であれば、各距離D1〜D4は、製品出荷時に設定され記憶されるようにしてもよい)、各距離D1〜D4の差は、設定された距離D1〜D4によって求められる。本実施形態の場合、聴取位置P0からの距離が最も長いスピーカ5aの位置P1までの距離D1が基準となり、当該距離D1と、上記各距離D2〜D4との差(つまり、距離D1と距離D2との差、距離D1と距離D3との差、及び距離D1と距離D4との差)が、夫々、CPUにより算出され、例えば不揮発性メモリ(或いは、車載用オーディオ再生装置Sに備えられるハードディスク(図示せず))に記憶される。なお、上記距離の差をユーザが操作・表示部12から入力して設定するように構成してもよい。また、ユーザが、聴取位置P0の座標(X,Y)と、各スピーカ5a,5b,9a及び9bの位置P1〜P4の座標(X,Y)を操作・表示部12から入力可能とし、当該入力された座標に基づき上記各距離の差が算出されるようにしてもよい。
【0036】
また、温度センサ10により検出された現在の温度に応じた音速は、例えば、音速と温度(温度値)との間の関係を示す計算式(音速(m/sec)=331.5+0.6*温度(°C))からCPUにより算出される。この場合、例えば、現在の温度が20°Cであれば、音速は343.5m/secとなり、現在の温度が40°Cであれば、音速は355.5m/secとなる。なお、各温度値(例えば、5°C刻み)と音速とを対応付けた温度−音速テーブルを例えばROMに記憶しておき、CPUにより温度−音速テーブルが参照され、現在の温度に応じた音速が取得されるように構成してもよい。
【0037】
また、上記到達時間差、本実施形態の場合、距離D1と距離D2との差に応じた到達時間差T1、距離D1と距離D3との差に応じた到達時間差T2、及び、距離D1と距離D4との差に応じた到達時間差T3が、夫々CPUにより算出(到達時間差=距離の差/音速による)される。
【0038】
こうして算出された到達時間差T1を示す情報は、システム制御部13からLch用DSP2に供給されて遅延部2dにおいて音声信号の遅延時間(遅延部2cにおいて設定される時間を基準)として設定され、上記到達時間差T2を示す情報は、システム制御部13からRch用DSP6に供給されて遅延部6cにおいて音声信号の遅延時間(遅延部2cにおいて設定される時間を基準)として設定され、上記到達時間差T3を示す情報は、システム制御部13からRch用DSP6に供給されて遅延部6dにおいて音声信号の遅延時間(遅延部2cにおいて設定される時間を基準)として設定される。なお、Lch用DSP2における遅延部2c(基準となるスピーカ5aに対応)には、遅延時間として例えば“0”が設定される。
【0039】
このように、システム制御部13は、上記算出した各到達時間差を示す情報をLch用DSP2及びRch用DSP6に対して供給し、各音声信号の出力(聴取位置P0からの距離が短い方のスピーカ5b,9a,9bに対する音声信号の出力)を各到達時間差分だけ遅延部により遅延させることで、各スピーカ5a,5b,9a及び9bに対して出力される音声信号SHL,SLL,SHR,SLRの出力タイミングを制御することになる。聴取位置P0からの距離が短い方のスピーカ5b,9a,9bに対する音声信号の出力を各到達時間差分だけ遅延部により遅延させることにより、より効率良く上記音声信号の出力タイミングを制御することができる。
【0040】
ところで、上記車両室内における温度の変化があった場合、上記のように算出される到達時間差も変化することになるが、本願においては、システム制御部13は、各スピーカ5a,5b,9a及び9bのうち少なくとも1つのスピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングが、曲間検出部11により検出された各音声データの境界期間(本実施形態においては、信号無期間)において変更されるように制御するようになっている。例えば、システム制御部13は、上記算出した各到達時間差を示す情報を、曲間検出部11により検出された各音声データの境界期間においてLch用DSP2及びRch用DSP6に対して供給し、音声信号の遅延時間として遅延部に設定させる。これにより、曲間の無音期間において音声信号の遅延時間の変更設定がなされる(言い換えれば、曲を聴いている途中で音声信号の遅延時間の変更設定がなされない)ので、聴者に対して違和感を与えることがない。
【0041】
次に、図3を参照して、本実施形態における車載用オーディオ再生装置Sの動作を説明する。
【0042】
図3は、システム制御部13における音声信号の出力制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0043】
先ず、車載用オーディオ再生装置Sの電源が投入されると、Lch用DSP2及びRch用DSP6の遅延部における初期設定が行われる。この初期設定においては、システム制御部13は、温度センサ10により検出、供給された現在の温度に応じた音速を例えば上述した音速と温度(温度値)との間の関係を示す計算式により算出すると共に、予め設定され記憶された、聴取位置P0から各スピーカ5a,5b,9a及び9bの位置P1〜P4までの各距離D1〜D4を例えば不揮発性メモリから読み出し、当該距離D1と各距離D2〜D4との差を算出する。なお、算出された距離D1と各距離D2〜D4との差はRAMに記憶される。
【0044】
そして、システム制御部13は、算出した音速と各距離の差に基づき各到達時間差T1〜T3を算出し、到達時間差T1を示す情報をLch用DSP2に供給し、到達時間差T2及びT3を示す情報をRch用DSP6に供給する。こうして供給された到達時間差T1は、遅延部2dにおいて音声信号の遅延時間として設定され、上記到達時間差T2は、遅延部6cにおいて音声信号の遅延時間として設定され、上記到達時間差T3は、遅延部6dにおいて音声信号の遅延時間として設定される。なお、Lch用DSP2における遅延部2cには、遅延時間として例えば“0”が設定される。また、上記温度センサ10により検出、供給された温度値は、一時的にRAMに記憶される。
【0045】
次に、システム制御部13は、操作・表示部12からの例えば曲の連続再生指示を示す指示信号を受けると、図3に示す処理を開始し、先ず、各曲データの境界期間が検出されたか否かを、例えば曲間検出部11から境界期間を検出したことを示す情報(例えば、検出されている間、ハイレベルの信号)が供給されたか否かにより判別する(ステップS1)。
【0046】
各曲データの境界期間が検出された場合には(ステップS1:Y)、システム制御部13は、温度センサ10により検出された現在の温度を取得し(一定周期で取得)、当該現在の温度と、前回の遅延時間の設定時における温度(RAMに記憶)とを比較して所定温度(例えば、5°C)以上の差がある(つまり、5°C以上の温度変化があった)か否か判別する(ステップS2)。そして、現在の温度と、前回の遅延時間の設定時における温度との間に、所定温度(例えば、5°C)以上の差がない場合には(ステップS2:N)、ステップS5に移行される。これにより、温度変化があっても、あまり到達時間差に影響を与えないほどの変化である場合には、意味のない音声信号の遅延時間の変更設定(対温度音像定位自動補正)を防ぐことができる。
【0047】
一方、現在の温度と、前回の遅延時間の設定時における温度との間に、所定温度(例えば、5°C)以上の差がある場合には(ステップS2:Y)、システム制御部13は、温度センサ10から取得した現在の温度に応じた音速を例えば上述した音速と温度(温度値)との間の関係を示す計算式により算出して取得すると共に、上記初期設定においてRAMに記憶された距離D1と各距離D2〜D4との差を取得し、取得した音速と各距離の差に基づき各到達時間差T1〜T3を算出する(ステップS3)。
【0048】
次いで、システム制御部13は、算出した到達時間差T1を示す情報をLch用DSP2に供給し、算出した到達時間差T2及びT3を示す情報をRch用DSP6に供給する(ステップS4)。こうして、上記到達時間差T1は遅延部2dにおいて音声信号の遅延時間として設定され、上記到達時間差T2は遅延部6cにおいて音声信号の遅延時間として設定され、上記到達時間差T3は遅延部6dにおいて音声信号の遅延時間として設定されることにより、各スピーカ5b,9a及び9bに対して(DAC及びアンプを介して)出力される音声信号の出力タイミングが各曲データの境界期間において変更(補正)されることになる。
【0049】
次いで、システム制御部13は、曲の連続再生が終了したか否かを判別し(ステップS5)、終了しない場合には(ステップS5:N)、ステップS1に戻り、上記と同様の処理を繰り返すことになる。一方、曲の連続再生が終了した場合には(ステップS5:Y)、当該処理を終了する。
【0050】
以上説明したように上記実施形態によれば、システム制御部13は、上述した聴取位置P0から各スピーカ5a,5b,9a及び9bの位置P1〜P4までの各距離D1〜D4の差と、温度センサ10により検出された温度に応じた音速と、に基づき到達時間差を算出し、当該算出した到達時間差に基づいて、各スピーカ5a,5b,9a及び9bに対して出力される音声信号の出力タイミングを制御(つまり、各スピーカからの音声信号の到達時間の差が無くなるように(同期するように)制御)するようにし、車両室内における温度の変化があった場合に、当該システム制御部13は、各スピーカ5a,5b,9a及び9bのうち少なくとも1つのスピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングが、曲間検出部11により検出された各音声データの境界期間において変更されるように制御するように構成したので、温度変化により到達時間差が変化した場合であっても、その影響を無くすことができ、しかも曲間の無音期間において音声信号の遅延時間の変更設定(対温度音像定位自動補正)がなされるので、聴者に対して違和感を与えることを回避することができる。
【0051】
また、上記実施形態においては、周波数帯域(高帯域、低帯域)毎にDSP内に遅延部を設けて音声信号の出力タイミングを制御可能とするようにしたが、システム制御部13は、帯域分割フィルタ部により分割された所定の周波数帯域(例えば、高帯域)の音声信号の出力タイミングのみが、各音声データの境界期間において変更されるように制御するように構成してもよい。つまり、温度変化により到達時間差が変化した場合であっても、低帯域の音声信号の出力タイミングを変更せずに固定する(遅延時間を変更しない)ように制御する。言い換えれば、高帯域用のスピーカの位置と低帯域用のスピーカとの位置とが同じであっても、高帯域用のスピーカのみへの音声信号の出力タイミングを遅延(基準となるスピーカからの音声信号との到達時間の差が無くなるように)させるように構成する。このように構成すれば、例えば、低帯域用のスピーカからの音声信号の遅延が容認される場合には、敢えて、低帯域用のスピーカからの音声信号を遅らせることができ、音響効果を高めることも可能となる。
【0052】
なお、高帯域用のスピーカと低帯域用のスピーカとで、音声信号の出力タイミングを遅延させる割合を変えるように構成してもよい。例えば、高帯域用のスピーカの位置と低帯域用のスピーカとの位置とが同じであっても、低帯域用のスピーカから出力される音声信号を遅延させる遅延時間より高帯域用のスピーカから出力される音声信号を遅延させる遅延時間よりも大きくする。このように構成であっても、例えば、低帯域用のスピーカからの音声信号の遅延が容認される場合には、敢えて、低帯域用のスピーカからの音声信号を遅らせることができ、音響効果を高めることも可能となる。
【0053】
また、上記実施形態においては、本願を車載用オーディオ再生装置Sに対して適用した例を示したが、これに限定されるものではなく、例えば、車載用ナビゲーション装置や、音声及び映像情報を再生するAV(オーディオビジュアル)再生装置(家庭用であるか、車載用であるかは問わない)等に対しても適用可能である。
【0054】
また、本願の境界期間検出手段、到達時間差算出手段、制御手段、及び遅延手段は、ハードウェアとソフトウェアの双方又は何れか一方で構成してよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】車載用オーディオ再生装置の概要ブロック例を示す図である。
【図2】車両室内における各スピーカの位置関係の一例を示す図である。
【図3】システム制御部13における音声信号の出力制御処理の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
1 ソースユニット
2 Lch用DSP
3a,3b Lch用DAC
4a,4b Lch用アンプ
5a,5b Lch用スピーカ
6 Rch用DSP
7a,7b Rch用DAC
8a,8b Rch用アンプ
9a,9b Rch用スピーカ
10 温度センサ
11 曲間検出部
12 操作・表示部
13 システム制御部
S 車載用オーディオ再生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続して再生された複数の音声データに係る音声信号を、複数のスピーカに対して出力する音声出力装置であって、
各前記音声データの境界期間を検出する境界期間検出手段と、
前記複数のスピーカにより形成された音響空間における温度を検出する温度検出手段と、
前記音響空間における1つの聴取位置から各前記スピーカの位置までの各距離の差と、前記検出された温度に応じた音速と、に基づき到達時間差を算出する到達時間差算出手段と、
前記算出された到達時間差に基づいて、前記各スピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングを制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記温度の変化があった場合に、前記算出された到達時間差に基づいて、少なくとも1つの前記スピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングが、前記検出された前記各音声データの境界期間において変更されるように制御することを特徴とする音声出力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音声出力装置において、
前記境界期間検出手段は、1の前記音声データに係る音声信号と、これに続く他の前記音声データに係る音声信号と、の間の信号無期間を前記境界期間として検出することを特徴とする音声出力装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の音声出力装置において、
前記スピーカに対する音声信号の出力を遅延させる遅延手段を更に備え、
前記制御手段は、
前記聴取位置からの距離が短い方の前記スピーカに対する音声信号の出力を、前記算出された到達時間差分だけ前記遅延手段により遅延させるように制御することを特徴とする音声出力装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の音声出力装置において、
前記音声信号を複数の周波数帯域に分割する帯域分割手段を更に備え、
前記制御手段は、前記帯域分割手段により分割された所定の前記周波数帯域の音声信号の出力タイミングを、前記検出された前記各音声データの境界期間において変更されるように制御することを特徴とする音声出力装置。
【請求項5】
連続して再生された複数の音声データに係る音声信号を、複数のスピーカに対して出力する音声出力方法であって、
各前記音声データの境界期間を検出する工程と、
前記複数のスピーカにより形成された音響空間における温度を検出する工程と、
前記音響空間における1つの聴取位置から各前記スピーカの位置までの各距離の差と、前記検出された温度に応じた音速と、に基づき到達時間差を算出する工程と、
前記算出された到達時間差に基づいて、前記各スピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングを制御する制御工程と、を備え、
前記制御工程においては、
前記温度の変化があった場合に、前記算出された到達時間差に基づいて、少なくとも1つの前記スピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングが、前記検出された前記各音声データの境界期間において変更されるように制御することを特徴とする音声出力方法。
【請求項6】
連続して再生された複数の音声データに係る音声信号を、複数のスピーカに対して出力するコンピュータを、
各前記音声データの境界期間を検出する境界期間検出手段、
前記複数のスピーカにより形成された音響空間における1つの聴取位置から各前記スピーカの位置までの各距離の差と、温度検出手段により検出された前記音響空間における温度に応じた音速と、に基づき到達時間差を算出する到達時間差算出手段、及び、
前記算出された到達時間差に基づいて、前記各スピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングを制御する制御手段として機能させ、
前記制御手段が、前記温度の変化があった場合に、前記算出された到達時間差に基づいて、少なくとも1つの前記スピーカに対して出力される音声信号の出力タイミングが、前記検出された前記各音声データの境界期間において変更されるように機能させることを特徴とする音声出力処理プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の音声出力処理プログラムがコンピュータ読み取り可能に記録されていることを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−28162(P2007−28162A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206836(P2005−206836)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】