説明

音響整合層およびその製造方法、ならびに該音響整合層を含む超音波プローブ

【課題】音響整合性能に優れるとともに音響ロスが小さく、かつ製造上の歩留りにも優れる音響整合層およびその製造方法を提供する。
【解決手段】第1の材料からなり複数の3次元凸パターンを有する第1の層と、第1の材料より音響インピーダンスが小さい第2の材料からなる第2の層とを少なくとも有する音響整合層であって、第1の層の表面に、該表面を底面として該3次元凸パターンが設けられていることにより、3次元凸パターンと、表面のうち3次元凸パターンが形成されない部位とから接触面が形成され、3次元凸パターンの底面に平行な断面における断面積が、底面からの距離が大きくなるに従い連続的または段階的に小さくされており、第1の層は接触面において第2の層と接し、かつ、第1の層および第2の層は、互いに他の層を貫通しないように形成されてなる音響整合層に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば超音波診断機等の医療用機器や、超音波非破壊検査装置、ソナー等の超音波プローブに対して好適に使用される音響整合層およびその製造方法、ならびに該音響整合層を含む超音波プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断機等の医療用機器や、超音波非破壊検査装置、ソナー等の超音波プローブでは、生体等の測定対象の音響インピーダンスと圧電材料の音響インピーダンスとの間に大きな差があるという問題を解消するため、測定対象の音響インピーダンスと圧電材料の音響インピーダンスとの間の大きさの音響インピーダンスを有する材料のシートからなる音響整合層を測定対象と圧電材料との間に介在させる構成が一般的である。該構成によって、測定対象と圧電材料との界面での音波の反射を抑制し、効率良く音波を圧電材料から測定対象に伝播させることができる。
【0003】
音響整合層としては、ガラス状の材料や樹脂、あるいは、樹脂中に金属粉末やセラミックス粉末を混合したもの等が広く用いられている。しかし、たとえば粉末を樹脂中に混合した材料を用いた音響整合層においては、粉末の分散状態によって音響インピーダンスに分布が生じ、音波の強度に分布を生じさせたり超音波画像を歪めたりする場合があるという問題がある。
【0004】
一方、1層からなる音響整合層では十分な音響整合性能が得られないという理由で、非特許文献1に示されるように、2層の積層構造からなる音響整合層を用いる場合があるが、この場合、積層構造の各層の界面での反射による音響ロスが生じ易いという問題や、積層構造を形成するために手間がかかるとともに、該界面の接着不良が生じることにより製造上の歩留りが低下する等の問題がある。
【非特許文献1】医用超音波機器ハンドブック(コロナ社、1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の課題を解決し、1層でも十分な音響整合性能が得られるとともに音響ロスが小さく、かつ製造上の歩留りにも優れる音響整合層、および該音響整合層内部での音響インピーダンスの不均一による音波の強度分布が生じ難い音響整合層の製造方法、ならびに該音響整合層を含む超音波プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の材料からなり複数の3次元凸パターンを有する第1の層と、第1の材料より音響インピーダンスが小さい第2の材料からなる第2の層とを少なくとも有する音響整合層であって、第1の層の表面に、該表面を底面として該3次元凸パターンが設けられていることにより、3次元凸パターンと、該表面のうち3次元凸パターンが形成されない部位とから接触面が形成され、3次元凸パターンの底面に平行な断面における断面積が、底面からの距離が大きくなるに従い連続的または段階的に小さくされており、第1の層は該接触面において第2の層と接し、かつ、第1の層および第2の層は、互いに他の層を貫通しないように形成されてなる音響整合層に関する。該音響整合層は、優れた音響整合性能を有しつつ音響ロスが小さく、製造上の歩留りにも優れる点で有利である。
【0007】
本発明はまた、上記の3次元凸パターンが、錐体状パターン、底面からの距離が大きくなるに従い底面積が段階的に小さくされた複数の柱体から形成される階段状パターン、底面からの距離が大きくなるに従い底角が段階的に大きくされた複数の錐台と1の錐体とから形成されるパターン、ホーン状パターン、の少なくともいずれかである音響整合層に関する。該音響整合層は、音響整合性能に特に優れ、音響ロスが特に小さく、製造上の歩留りにも特に優れる点で有利である。
【0008】
本発明はまた、3次元凸パターンの総底面積(A)の、第1の層の表面全体の面積(B)における占積率(A)/(B)×100(%)が、60〜100%の範囲内、特に100%である音響整合層に関する。該音響整合層は、厚み方向における音響インピーダンスの変化がより連続的であり、音響ロスがより小さい点で有利である。
【0009】
本発明はまた、上記の第1の材料の音響インピーダンスが5〜30MRaylの範囲内であり、かつ上記の第2の材料の音響インピーダンスが2〜5MRaylの範囲内である音響整合層に関する。該音響整合層は、音響整合性能により優れる点で有利である。
【0010】
本発明はまた、上記の第1の材料がチタン酸ジルコン酸鉛および/またはタングステンを含有するエポキシ樹脂であり、上記の第2の材料が熱可塑性樹脂である音響整合層に関する。該音響整合層は、音響整合性能に特に優れ、かつ第2の層に対して測定対象と近い音響インピーダンスが容易に付与され得る点で有利である。
【0011】
本発明はまた、上記の熱可塑性樹脂がアクリル樹脂である音響整合層に関する。該音響整合層は、音響整合性能に特に優れ、かつ第2の層に対して生体と近い音響インピーダンスが容易に付与され得る点で有利である。
【0012】
本発明はまた、上記の音響整合層を得るための製造方法であって、金型に3次元凸パターンを形成する工程と、該金型を用いて第2の材料に該金型の3次元凸パターンを転写し、第2の層を形成する工程と、第2の層の転写パターン上に、第1の材料の未硬化物を注入する工程と、未硬化物を硬化または半硬化させて第1の層を形成する工程と、を含む音響整合層の製造方法に関する。該製造方法は、製造上の歩留りが良好となる点および音響整合層内部での音波の強度分布が生じ難くなる点で有利である。
【0013】
本発明はまた、上記の金型への3次元凸パターンの形成がダイシングにより行なわれる音響整合層の製造方法に関する。該製造方法は、3次元凸パターンを簡便かつ精度良く形成できる点で有利である。
【0014】
本発明はまた、音響整合層と圧電材料とを含み、該音響整合層は、上述の音響整合層、または、上述の製造方法により得られる音響整合層である、超音波プローブに関する。該超音波プローブは音波の透過率に優れる点で有利である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の音響整合層は、音響インピーダンスの異なる材料からなる層の界面が特定の微細凹凸形状を有し、音響整合層の厚み方向において音響インピーダンスがほぼ連続的に変化するように設計される。これにより、優れた音響整合性能が得られるとともに、音響インピーダンスの異なる材料からなる層の界面におけるインピーダンスミスマッチによる音響ロスが小さいという効果が得られる。また、本発明によれば、音響インピーダンスの異なる材料からなる層の界面における接着不良が生じ難く、製造上の歩留りが良好であるという効果も得られる。
【0016】
本発明の音響整合層の製造方法によれば、金型を用いて3次元凸パターンが形成されるため、音響整合層内部での音響インピーダンスの不均一による音波の強度分布が生じ難いという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の音響整合層は、第1の材料からなり複数の3次元凸パターンを有する第1の層と、該第1の材料より音響インピーダンスが小さい第2の材料からなる第2の層とを少なくとも有する。第1の層の表面には、該表面を底面として3次元凸パターンが設けられ、該3次元凸パターンと、該表面のうち該3次元凸パターンが形成されない部位とから接触面が形成され、第1の層は接触面において第2の層と接している。これにより、音響インピーダンスが異なる第1の層と第2の層とが微細な凹凸形状を有する接触面において接する。また、本発明の音響整合層においては、該3次元凸パターンの底面に平行な断面における断面積は、底面からの距離が大きくなるに従い連続的または段階的に小さくされている。これにより、音響整合層の厚み方向において音響インピーダンスがほぼ連続的に変化するため、音響整合層内部での界面反射による音響ロスが小さい。本発明においては、たとえば複数の層からなる積層構造を有する音響整合層を用いた場合には、各層の界面において反射による音響ロスが生じるが、本発明においては、音響整合層の厚み方向において音響インピーダンスがほぼ連続的に変化しているため、該界面でのインピーダンスミスマッチによる音響ロスが小さいという効果が得られるとともに、該界面の接着不良が生じ難く製造上の歩留りが良好であるという効果も得られる。これにより、本発明においては、音響インピーダンスが異なる複数の材料を用いることにより優れた音響整合性能を確保しつつ、音響ロスの少ない音響整合層を得ることができる。
【0018】
第1の層に設けられる3次元凸パターンとしては、錐体状パターン、底面からの距離が大きくなるに従い底面積が段階的に小さくされた複数の柱体から形成される階段状パターン、底面からの距離が大きくなるに従い底角が段階的に大きくされた複数の錐台と1の錐体とから形成されるパターン、ホーン状パターン、の少なくともいずれかが好ましく例示される。これらの3次元凸パターンが設けられる場合、厚み方向における音響インピーダンスの変化がより連続的であり、音響整合性能により優れ音響ロスがより小さい音響整合層が得られる。
【0019】
図1は、錐体状パターンの一例としての角錐状パターンの形状を示す図であり、図2は、錐体状パターンの一例としての円錐状パターンの形状を示す図である。第1の層には、該第1の層の平坦な表面11,21を底面として、角錐状の3次元凸パターン12、円錐状の3次元凸パターン22のような錐体状パターンを形成することができる。
【0020】
図3は、階段状パターンの一例としての、複数の角柱から形成されたパターンの形状を示す図であり、図4は、階段状パターンの一例としての、複数の円柱から形成されたパターンの形状を示す図である。第1の層には、該第1の層の平坦な表面31,41を底面として、3次元凸パターン32,42のような、該底面からの距離が大きくなるに従い底面積が段階的に小さくされた複数の柱体の組合せにより形成される階段状パターンを形成することができる。
【0021】
図5は、複数の錐台と1の錐体とから形成される3次元凸パターンの一例の形状を示す図である。第1の層には、該第1の層の平坦な表面51を底面として、3次元凸パターン52のような、該底面51からの距離が大きくなるに従い底角が段階的に大きくされた複数の錐台および1の錐体との組合せにより形成され、段階的な末広がり形状を有するパターンを形成することができる。
【0022】
図6は、ホーン状パターンの形状を示す図である。第1の層には、該第1の層の平坦な表面61を底面として、3次元凸パターン62のような、連続的な末広がり形状を有するホーン状パターンを形成することができる。
【0023】
一般的に、面密度が高い材料では音響透過損失が大きいため、一般的には音響インピーダンスの大きい材料を音波が伝播する際の損失が大きい。
【0024】
本発明においては、第1の層と第2の層との間で音響インピーダンスを連続的に変化させつつ、第1の材料の量ができるだけ少なくなるよう音響整合層を構成することが好ましい。このような観点では、第1の層の3次元凸パターンが末広がり形状であることが好ましく、たとえば底面からの距離が大きくなるに従い底角が段階的に大きくされた複数の錐台と1の錐体とから形成される末広がりのパターンや、ホーン状パターン等が好ましい。
【0025】
本発明の音響整合層においては、第1の層および第2の層が、互いに他の層を貫通しないように形成される。すなわち、たとえば音響整合層が第1の層と第2の層との2層構造からなる場合、音響整合層の一方の表面には第1の層のみ、他方の表面には第2の層のみが露出することになるため、音響整合層の表面近傍の音響インピーダンスがともに容易かつ正確に制御される。これにより、音響整合層を超音波素子に適用した場合に、圧電材料と音響整合層との間および音響整合層と測定対象との間における音響インピーダンスの差を小さくし、測定対象に対する良好な受信感度を得ることができる。
【0026】
第1の層においては、3次元凸パターンの総底面積(A)の、第1の層の表面全体の面積(B)における占積率(A)/(B)×100(%)が、60〜100%の範囲内、さらに80%〜100%の範囲内、さらに90%〜100%の範囲内、さらに95%〜100%の範囲内とされることが好ましい。上記占積率(A)/(B)×100(%)が60%以上である場合、音響整合層の厚み方向における音響インピーダンスの変化がより連続的になり、音響ロスをより小さくできるため好ましい。上記占積率(A)/(B)×100(%)は大きい程、すなわち100%に近い程好ましい。占積率(A)/(B)×100(%)を100%とすることは特に好ましく、この場合の3次元凸パターンの形状としては、正方形、長方形、正六角形等の底面を有する角錐状、階段状または末広がり形状のパターンが好ましく例示できる。
【0027】
本発明の音響整合層においては、第1の材料の音響インピーダンスが5〜30MRaylの範囲内であり、かつ上記の第2の材料の音響インピーダンスが2〜5MRaylの範囲内であることが好ましい。この場合、本発明の音響整合層を用いることによる測定対象と圧電材料との間での音響整合性能がより良好となる。
【0028】
本発明における音響整合層の構成材料としては、高分子材料やセラミック材料、金属材料が用いられる。高分子材料としては、たとえばアクリル樹脂等の樹脂材料を単独で用いる形態の他、エポキシ樹脂等の樹脂材料中に金属やセラミックス等からなる粉末成分を含有させた形態として用いることができる。この場合、樹脂材料および粉末成分の種類および量比により所望の音響インピーダンスを有する材料が得られる。上記の金属としては、たとえばタングステン等、上記のセラミックスとしては、たとえばPZT系の圧電セラミックスや、ジルコニア、アルミナ、酸化シリコン、SiC等が好ましく用いられる。
【0029】
第1の材料としては、PZT粉末やタングステン粉末等の粉末成分を含有させた高分子材料が好ましく用いられる。この場合、該高分子材料に含有される樹脂材料としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が好ましく例示でき、中でも接着性が良い点でエポキシ樹脂が好ましい。
【0030】
一方、第2の材料として用いられる高分子材料としては、音響整合性能に優れ、かつ生体等の測定対象と近い音響インピーダンスが容易に付与され得る点で、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂等が好ましく例示できるが、本発明の音響整合層が医療用機器に用いられる場合、生体に近い音響インピーダンスが容易に付与され得る点で、アクリル樹脂が好ましい。
【0031】
特に好ましい材料の組合せとしては、第1の材料がPZT粉末またはタングステン粉末を含有するエポキシ樹脂であり、第2の材料がアクリル樹脂である組合せが挙げられる。この場合、音響整合性能に特に優れ、かつ第2の層に対して生体に近い音響インピーダンスが容易に付与され得る点で好ましい。なおこの場合、第1の材料におけるPZT粉末またはタングステン粉末の含有量は、前述の(A)/(B)の値や、使用する圧電材料の音響インピーダンスによって設計され得る。
【0032】
たとえば圧電材料としてPZTを使用する場合、第1の材料の音響インピーダンスはできるだけPZTに近い方が好ましいため、第1の材料にタングステン粉末を含有させ、かつ、第1の材料におけるタングステン粉末の含有量を50〜70体積%の範囲内、典型的には60体積%とし、前述の(A)/(B)の値を100%とすることが好ましい。
【0033】
一方、PZTと樹脂とからなる複合圧電材料を圧電材料として使用する場合、たとえば該複合圧電材料中のPZT含有量が40体積%であれば、第1の材料中のPZT粉末の含有量を40体積%として音響インピーダンスを整合させることが好ましい。
【0034】
本発明の音響整合層は、第1の層と第2の層とからなる構成の他、同様の構造がさらに積層された構成とされても良い。用途に適した材料を用いて層構成を設計した場合、2層以上の積層構造とした方が音響インピーダンスのマッチングが良い場合には該積層構造が採用され得る。しかし、本発明の音響整合層は1層でも十分な音響整合性能を確保できるため、1層とされる方が音響ロスが小さく製造工程も少ない点で好ましい。
【0035】
本発明の音響整合層は、金型に3次元凸パターンを形成する工程と、該金型を用いて第2の材料に該金型の3次元凸パターンを転写し、第2の層を形成する工程と、該第2の層の転写パターン上に、第1の材料の未硬化物を注入する工程と、該未硬化物を硬化または半硬化させる工程とを含む方法により製造できる。
【0036】
本発明の音響整合層は、音響インピーダンスが厚み方向でほぼ連続的に変化するように設計されているため、たとえば複数の層からなる積層構造を有する音響整合層の製造時のような各層の界面における接着不良が生じ難く、製造上の歩留りが良好である。
【0037】
また、本発明の製造方法においては、あらかじめ所望のパターンを形成した金型を用いて音響整合層を形成することにより、たとえばダイシング加工を用いて第2の材料に直接3次元凸パターンを形成する場合と比べて安価に製造することができる。また、金型を用いてモールド成形により音響整合層を形成するため、第1の材料および第2の材料の各々を均一な分散状態で存在させることができ、音響整合層内部での音響インピーダンスの不均一による音波の強度分布が生じ難い点でも有利である。
【0038】
図7は、本発明に係る音響整合層の製造方法の一例について説明する図である。図7に従って本発明の音響整合層の製造方法について説明する。まず、第1の層の3次元凸パターンとなる凸パターンが表面に設けられた金型71を形成する(図7(A))。金型への3次元凸パターンの形成には、パターンを簡便かつ精度良く形成できる点でダイシングが好ましく用いられる。また、マスク等を用い、好ましくはX線、紫外線、電子線、レーザーのうち少なくともいずれかを照射してエッチングを行ない、レジストに、上記3次元凸パターンの転写パターンである3次元凹パターンを形成し、レジストを現像した後、該レジストの表面に無電界めっき、さらに電界めっきを施し、3次元凸パターンを有する金型を形成し、レジストを除去する方法を用いても良い。金型の材質としては、たとえば超硬材料であるタングステンカーバイドが好ましく用いられるが、これに限定されない。
【0039】
本発明における3次元凸パターンとして階段状パターンを形成する場合には、リソグラフィとめっきとを複数回繰り返す方法等が採用され得る。または、リソグラフィのみを繰り返して形成した型にめっきを施す方法を用いても良い。さらに、フォトリソグラフィによって形成した樹脂型にめっきを施す方法も採用され得る。
【0040】
次に、第2の材料72を準備するが、第2の材料72は金型によるパターン転写が可能な程度に流動性を有した状態で供給されることが好ましく、たとえば高分子材料を用いる場合には、ポリマーのガラス転移温度以上融点以下に加熱して軟化させた状態や、未硬化または半硬化の状態で供給され得る。
【0041】
なお本明細書において「半硬化」とは、高分子材料の硬化反応が進行しているものの完全には終了していない状態を意味する。
【0042】
続いて、金型71を用いて第2の材料72をモールドし、該金型71の3次元凸パターンを第2の材料72に転写する(図7(B))。第2の材料72としてガラス転移温度以上融点以下に加熱して軟化させた高分子材料を用いる場合には、モールドした状態で該第2の材料72をガラス転移温度以下に冷却することによって転写を行なう。また、第2の材料72として高分子材料の未硬化物または半硬化物を用いる場合には、モールドした状態で第2の材料72を熱硬化、光硬化等により硬化させて転写を行なう。
【0043】
続いて、金型71を第2の材料72から除去する。第2の材料72の表面には、金型のパターンが転写された3次元凹パターン73が形成される(図7(C))。
【0044】
続いて、3次元凹パターン73の部分に、第1の材料74が注入される(図7(D))。この方法では第1の材料74が流動状態であることが必要であるため、第1の材料74として高分子材料を用いる場合には未硬化の状態で第2の材料72の3次元凹パターン部分に注入される。この後、第1の材料74を硬化または半硬化させることにより、第1の材料74からなる第1の層および第2の材料72からなる第2の層を有する音響整合層75が得られる。
【0045】
図8は、本発明に係る音響整合層と圧電材料との接着の態様について説明する図である。たとえば図8に示すように、第1の材料82からなる第1の層および第2の材料83からなる第2の層により形成される本発明の音響整合層84が、両面に電極が形成された圧電材料81と接着されて、超音波プローブが製造される。本発明の超音波プローブは音波の透過率に優れる点で有利である。
本発明の音響整合層が、第1の材料と、該第1の材料より音響インピーダンスの小さい第2の材料とのみからなる場合、音響インピーダンスがより高い第1の材料を圧電材料と接着する。
【0046】
本発明においては、音響整合層における第1の材料が完全に硬化された状態とされても良いが、たとえば低温重合等により該第1の材料の重合が完全に終了する前の半硬化の状態とされても良い。この場合、上記のような方法で超音波プローブを製造する際に、第1の材料の硬化と、該第1の材料および圧電材料の接着とを同時に行なうことができ、音響整合層と圧電材料とを密着性良く接着することが可能であるという利点が得られる。またこの場合、圧電材料と音響整合層とを、接着性を用いることなく直接接着することも可能である。半硬化の状態の第1の層を形成する方法としては、たとえば、図7(B)に示す工程において、第1の材料を80℃程度で硬化させて音響整合層のシートを製造し、圧電材料に貼り付けて超音波プローブを製造する際に、150℃程度に加熱して完全に硬化させて圧電材料に接着する方法等が好ましく採用され得る。
【0047】
図9および図10は、本発明に係る音響整合層の適用態様について説明する図である。第1の層と第2の層とを少なくとも有する本発明の音響整合層は、図9に示すように、単一の音響整合層92が圧電材料91と接着される態様で用いられても良く、また図10に示すように、2層の音響整合層102,103が圧電材料101と接着される態様で用いられても良い。
【0048】
以下に本発明の典型的な実施の形態について説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
【0049】
<実施の形態1>
本実施の形態においては、金型を用いて第1の層に3次元凸パターンとして図1に示すような四角錐パターンを形成する場合について説明する。たとえば超硬合金であるタングステンカーバイド等を用い、第1の層に形成させるべき四角錐パターンをダイシング等により形成した金型を形成する。典型的な四角錐パターンとしては、たとえば底面が30〜200μm角程度の正方形、高さが30〜200μm程度の四角錐からなるパターン等が採用され得る。この場合、四角錐パターンの総底面積の、金型表面全体の面積における占積率が60〜100%、特に100%とされることが好ましい。
【0050】
続いて、形成された金型を用い、図7に示す手順で音響整合層を形成する。第2の材料72として、あらかじめガラス転移温度以上で融点未満の温度に暖めることにより軟化させたアクリル樹脂板を準備し(図7(A))、上記で得られた金型71で該第2の材料72をモールドし、該金型71の3次元凸パターンを第2の材料72に転写する(図7(B))。この状態で該アクリル樹脂板をガラス転移温度以下の温度とし、第2の材料72を固体化させる。続いて、金型71を第2の材料72から除去する。第2の材料72の表面には、金型のパターンが転写された3次元凹パターン73が形成される(図7(C))。
【0051】
続いて、3次元凹パターン73の部分に、第1の材料74として、たとえばPZT粉末を20〜60体積%程度含むエポキシの未硬化物が注入される(図7(D))。この後、第1の材料74を加熱し、硬化または半硬化させることにより、第1の材料74からなる第1の層および第2の材料72からなる第2の層を有する音響整合層75が得られる。
【0052】
なお、図2のような円錐状の柱のある金型も、ダイシングと切削とを組合せて形成することができる。モールドによって第2の材料にパターンを転写する工程は上述した方法で行なわれることができる。
【0053】
<実施の形態2>
本実施の形態においては、金型を用いて第1の層に3次元凸パターンとして図3に示すような階段状パターンを形成する場合について説明する。図3に示すようなパターンの金型は、たとえば超硬合金であるタングステンカーバイド等を用い、ダイシングで多段階加工することによって形成することができる。
【0054】
図11は、階段状の金型の形成方法の例について説明する図である。本発明においては、図11に示すような工程で多段階でリソグラフィとめっきとを繰り返し、金型を形成することも可能である。この場合、まずニッケル等の金属基板111を用意し、その上にレジストを塗布する。その後、リソグラフィを行なって、レジストのパターニングを行ない、レジストパターン112を形成する(図11(A))。その後、電鋳にて厚いめっきを行ない、研磨して厚さを調整して柱状構造113を形成する(図11(B))。以後、図11(A),(B)に示す工程を繰り返すことにより多段階加工を行なう。すなわち、レジストパターン112および柱状構造113の上にレジストを塗布した後、リソグラフィを行なってレジストパターン114を形成する(図11(C))。その後、めっき、研磨を経て柱状構造115を形成する(図11(D))。さらに、レジストの塗布、リソグラフィを経てレジストパターン116を形成した後、めっき、研磨を経て柱状構造117を形成する(図11(E))。上記の工程によって柱状構造113,115,117からなる階段状パターンを形成し、最後にレジストを除去して、金属基板111の上に階段状パターンが形成された金型を完成させる(図11(F))。この方法では、リソグラフィを応用しているため、四角形の横断面を有するパターンのみならず、円形の横断面を有するパターンも容易に形成することができる。階段状パターンが円形の横断面を有する場合には、たとえば図4に示すような形状の金型が形成される。
【0055】
階段状パターンとしては、底面からの距離が大きくなる従い底辺の長さが小さくされた3段程度の直方体の組合せによる階段状パターンで底面が30〜200μm角程度、高さが30〜200μm程度であるもの等が例示できる。
【0056】
この場合、第1段の総底面積の、金型表面全体の面積における占積率が60〜100%、特に100%とされることが好ましい。
【0057】
以後、実施の形態1と同様の方法により、図3に示すような3次元凸パターンを有する第1の層と、第2の層とからなる音響整合層を作製することができる。
【0058】
<実施の形態3>
本実施の形態においては、金型を用いて第1の層に3次元凸パターンとして図5または図6に示すようなパターンを形成する場合について説明する。たとえば超硬合金であるタングステンカーバイド等を用い、第1の層に形成させるべきパターンをダイシング等により形成した金型を形成する。
【0059】
図12は、図5または図6に示すパターンを有する金型の形成に用いられる砥石の形状の例を示す斜視図であり、図13は、図12に示す砥石のXIII−XIII断面の形状を示す断面図である。図12および図13に示すような形状の砥石121を作製し、該砥石を用いて板状のタングステンカーバイドを一定の間隔でダイシングし、溝を入れる。そして、ワークを90°回転させて、同様にダイシングを行なっていくと、図5または図6に示すようなパターンを有する金型を得ることができる。
【0060】
図5または図6に示すようなパターンとしては、底面からの距離が大きくなるに従って底角が大きくされた3段程度の錐台およびその上に形成される錐体の組合せにより形成される底面が30〜200μm程度、高さが30〜200μm程度のパターン等が採用され得る。この場合、第1段の総底面積の、金型表面全体の面積における占積率が60〜100%、特に100%とされることが好ましい。
【0061】
以後、実施の形態1と同様の方法により、図5または図6に示すような3次元凸パターンを有する第1の層と、第2の層とからなる音響整合層を作製することができる。
【0062】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
<実施例1>
中心周波数が5MHzである音波を用いる場合に好適な音響整合層を作製した。該音波の波長は、音響整合層の圧電材料側の表面近傍で1mm、音響レンズ側の表面近傍で0.2mmとなるため、平均で0.6mmと考え、その1/4の厚さである150μmを音響整合層の厚みとして採用した。第1の材料としては、平均粒径が0.3μmのPZT粉末を45体積%含有する2段階硬化型のエポキシ樹脂(硬化後の音響インピーダンス:15MRayl)、第2の材料としてはアクリル樹脂(音響インピーダンス:2MRayl)を採用した。
【0064】
超硬材をダイシングし、底面が50μm角の正方形、高さ140μmの四角錐が縦横に50μmピッチで並んだ3次元凸パターンを有する金型を形成した。厚み100μmのアクリル板を120℃に加熱し、該アクリル板に金型を押し付けて、開口部が50μm角の正方形、深さ140μmの四角錐の3次元凹パターンが多数並んだアクリル板からなる第2の層を形成した。該3次元凹パターンの上に、平均粒径が0.3μmのPZT粉末を45体積%含有する2段階硬化型のエポキシを注入し、80℃で1段階目の硬化を進行させ、エポキシの半硬化物からなる第1の層を形成した。半硬化後のエポキシ樹脂において、最も厚みが薄い部位での厚みは10μmであった。
【0065】
その後、両面に電極を貼り付けたPZTの片面に第1の層を密着させ、150℃に加熱して加圧することにより、エポキシの2段階目の硬化を進行させて、該電極と音響整合層とを直接接着し、超音波プローブを得た。得られた超音波プローブを用い、中心周波数が5MHzである音波の透過率を測定したところ、24%であった。
【0066】
<比較例1>
平坦な表面を有する音響インピーダンス:10MRayl、厚み:250μmの層および平坦な表面を有する音響インピーダンス:4MRayl、厚み:100μmの層の2層が接着してなる音響整合層を作製した。実施例1と同様の方法で、両面に電極を貼り付けたPZTを作製し、片面の該電極に、エポキシ接着剤を用いて該音響整合層を接着し、超音波プローブを作製した。得られた超音波プローブを用い、実施例1と同様の方法で中心周波数が5MHzである音波の透過率を測定したところ、15%であった。
【0067】
上記の結果より、第1の層と第2の層との界面に微細な凹凸パターンを形成した本発明の音響整合層においては、音響整合層の厚み方向においてほぼ連続的に音響インピーダンスを変化させることができ、該界面での音響ロスを低減できることにより、音波の透過率が著しく向上していることが分かる。ここで、実施例1において形成された音響整合層における第1の材料と第2の材料との音響インピーダンスの差は、比較例1において形成された音響整合層における2層の音響インピーダンスの差よりも大きいにも関わらず、実施例1に係る超音波プローブの音波の透過率は比較例1に係る超音波プローブの音波の透過率と比べて著しく良好であった。よって、本発明によれば、音響整合性能に優れかつ音響ロスが小さい音響整合層が得られることが分かる。
【0068】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
厚み方向において音響インピーダンスをほぼ連続的に変化させることにより音響整合性能を向上させかつ音響ロスを低減した本発明の音響整合層は、超音波診断機等の医療用機器、超音波非破壊検査装置、ソナー(測深器)等の超音波プローブに対して好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】錐体状パターンの一例としての角錐状パターンの形状を示す図である。
【図2】錐体状パターンの一例としての円錐状パターンの形状を示す図である。
【図3】階段状パターンの一例としての、複数の角柱から形成されたパターンの形状を示す図である。
【図4】階段状パターンの一例としての、複数の円柱から形成されたパターンの形状を示す図である。
【図5】複数の錐台と1の錐体とから形成される3次元凸パターンの一例の形状を示す図である。
【図6】ホーン状パターンの形状を示す図である。
【図7】本発明に係る音響整合層の製造方法の一例について説明する図である。
【図8】本発明に係る音響整合層と圧電材料との接着の態様について説明する図である。
【図9】本発明に係る音響整合層の適用態様について説明する図である。
【図10】本発明に係る音響整合層の適用態様について説明する図である。
【図11】階段状の金型の形成方法の例について説明する図である。
【図12】図5または図6に示すパターンを有する金型の形成に用いられる砥石の形状の例を示す斜視図である。
【図13】図12に示す砥石のXIII−XIII断面の形状を示す断面図である。
【符号の説明】
【0071】
11,21,31,41,51,61 表面、12,22,32,42,52,62 3次元凸パターン、71 金型、72,83 第2の材料、73 3次元凹パターン、74,82 第1の材料、75,84,92,102,103 音響整合層、81,91,101 圧電材料、111 金属基板、112,114,116 レジストパターン、113,115,117 柱状構造、121 砥石。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の材料からなり複数の3次元凸パターンを有する第1の層と、前記第1の材料より音響インピーダンスが小さい第2の材料からなる第2の層とを少なくとも有する音響整合層であって、
前記第1の層の表面に、前記表面を底面として前記3次元凸パターンが設けられていることにより、前記3次元凸パターンと、前記表面のうち前記3次元凸パターンが形成されない部位とから接触面が形成され、
前記3次元凸パターンの前記底面に平行な断面における断面積が、前記底面からの距離が大きくなるに従い連続的または段階的に小さくされており、
前記第1の層は前記接触面において前記第2の層と接し、かつ、
前記第1の層および前記第2の層は、互いに他の層を貫通しないように形成されてなる、音響整合層。
【請求項2】
前記3次元凸パターンは、錐体状パターン、底面からの距離が大きくなるに従い底面積が段階的に小さくされた複数の柱体から形成される階段状パターン、底面からの距離が大きくなるに従い底角が段階的に大きくされた複数の錐台と1の錐体とから形成されるパターン、ホーン状パターン、の少なくともいずれかである、請求項1に記載の音響整合層。
【請求項3】
前記3次元凸パターンの総底面積(A)の、前記第1の層の表面全体の面積(B)における占積率(A)/(B)×100(%)が、60〜100%の範囲内である、請求項1に記載の音響整合層。
【請求項4】
前記占積率(%)が100%である、請求項3に記載の音響整合層。
【請求項5】
前記第1の材料の音響インピーダンスが5〜30MRaylの範囲内であり、かつ前記第2の材料の音響インピーダンスが2〜5MRaylの範囲内である、請求項1に記載の音響整合層。
【請求項6】
前記第1の材料がチタン酸ジルコン酸鉛および/またはタングステンを含有するエポキシ樹脂であり、前記第2の材料が熱可塑性樹脂である、請求項1に記載の音響整合層。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂がアクリル樹脂である、請求項6に記載の音響整合層。
【請求項8】
請求項1に記載の音響整合層を得るための製造方法であって、
金型に前記3次元凸パターンを形成する工程と、
前記金型を用いて前記第2の材料に前記金型の前記3次元凸パターンを転写し、第2の層を形成する工程と、
前記第2の層の転写パターン上に、前記第1の材料の未硬化物を注入する工程と、
前記未硬化物を硬化または半硬化させて前記第1の層を形成する工程と、
を含む、音響整合層の製造方法。
【請求項9】
前記金型への前記3次元凸パターンの形成が、ダイシングにより行なわれる、請求項8に記載の音響整合層の製造方法。
【請求項10】
音響整合層と圧電材料とを含み、前記音響整合層は、請求項1〜7のいずれかに記載の音響整合層、または、請求項8もしくは9に記載の製造方法により得られる音響整合層である、超音波プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−5291(P2008−5291A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173720(P2006−173720)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】