説明

顕微鏡光学系およびグリノー式実体顕微鏡

【課題】総合倍率を維持しつつ観察範囲を広くした顕微鏡光学系およびグリノー式実体顕微鏡を提供する。
【解決手段】試料Aからの光を集光して試料Aとは異なる位置に試料Aの虚像を形成する虚像光学系2と、該虚像光学系2により形成された虚像を投影する投影光学系3と、該投影光学系3により投影された試料Aの虚像を拡大して観察者の目Eに虚像として結像させる接眼光学系4とを備え、以下の条件式を満たす顕微鏡光学系1を提供する。
M=Mn1×M2×250/Fne (1)
Mn1=M1×Ko (2)
Fne=Fe×Ko (3)
0.3<Ko<0.9 (4)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡光学系およびグリノー式実体顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、実体顕微鏡が備える顕微鏡光学系として、2つの独立した光学系を有し、それぞれの光学系の光軸が交差するように配置されたグリノー式顕微鏡光学系が知られている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。特許文献1に開示されたグリノー式顕微鏡光学系は、焦点距離が正である補助対物レンズを備えている。そして、試料の位置が、補助対物レンズの前側焦点位置よりも内側(補助対物レンズ側)となるように補助対物レンズが配置される。このような顕微鏡光学系によれば、試料より大きい虚像が試料の位置よりも外側に形成されるので、試料を拡大して観察することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−140711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたグリノー式顕微鏡光学系は、接眼光学系の焦点距離を固定したまま補助対物レンズの前側焦点位置よりも内側に試料を配置して試料の虚像を観察するので、総合倍率が高くなり、観察範囲が狭くなってしまうという不都合がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、総合倍率を維持しつつ観察範囲を広くした顕微鏡光学系およびグリノー式実体顕微鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、試料からの光を集光して前記試料とは異なる位置に前記試料の第1の虚像を形成する虚像光学系と、該虚像光学系により形成された前記第1の虚像を投影する投影光学系と、該投影光学系により投影された前記第1の虚像を拡大して観察者の目に第2の虚像として結像させる接眼光学系とを備え、以下の条件式を満たす顕微鏡光学系を提供する。
M=Mn1×M2×250/Fne (1)
Mn1=M1×Ko (2)
Fne=Fe×Ko (3)
0.3<Ko<0.9 (4)
ここで、M:総合倍率、Mn1:前記虚像光学系の投影倍率、M1:倍率が1倍である基準投影光学系と倍率が10倍である基準接眼光学系を備える顕微鏡光学系における虚像光学系の投影倍率、M2:前記投影光学系の投影倍率、Fne:前記接眼光学系の焦点距離、Fe:前記基準接眼光学系の焦点距離、Ko:係数である。
【0007】
本発明によれば、倍率1倍の基準投影光学系および倍率10倍の基準接眼光学系を有する顕微鏡光学系と比較して、虚像光学系の投影倍率を低くし、接眼光学系の焦点距離を短くしている。このとき、虚像光学系の投影倍率を低くする割合と接眼光学系の焦点距離を短くする割合を同一にすることで、総合倍率を変化させることなく、接眼光学系の倍率を大きくして、視野数を実質的に増大させることができる。視野数を実質的に増大するというのは基準接眼光学系で見える視角より大きいことを言う。
【0008】
そして、虚像光学系の投影倍率を小さくすることで、一次像の視野数が同じままなら広い範囲が縮小されて投影され、倍率の大きくなった接眼光学系によって虚像光学系で縮小された分を拡大して観察できる。すなわち、一次像の視野数を変化させることなく、すなわち、双眼鏡筒におけるプリズムの大きさを大きくすることなく視野数を実質的に増加させることができる。従って、総合倍率を維持しつつ観察範囲を広くした顕微鏡光学系を提供することができる。
【0009】
また、上記発明においては、以下の条件式を満たすような構成が好ましい。
0.45<FN/(2×Fne)<1.4 (5)
0.4<Ko<0.85 (6)
ここで、FN:前記接眼光学系の視野数である。
【0010】
Ko≦0.4では、虚像光学系2の投影倍率が低すぎるため、作動距離が長くなりすぎる。その結果、接眼光学系4の位置が試料Aの配置された位置から離れすぎて作業性が悪化する。また、Ko≧0.85では、接眼光学系4の焦点距離Fneが短くなる割合が低いので、観察者が視野数の増大を実感することが困難となる。したがって、条件式(6)を満たすことが好ましい。
【0011】
また、上記発明においては、前記投影光学系が、投影倍率を可変な光学系であるのが好ましい。ここで、M2:前記投影光学系の最低投影倍率である。
【0012】
また、上記発明においては、前記虚像光学系が、負の焦点距離を有する光学系であってもよい。このようにすることで、試料を縮小した虚像が形成されるので、虚像光学系を用いずに観察する場合と比較して、試料の広い範囲を観察することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記虚像光学系が、正の焦点距離を有する光学系であり、前記試料が前記虚像光学系の焦点位置より前記虚像光学系側に配置される構成であってもよい。このようにすることで、試料を拡大した虚像が形成されるので、虚像光学系を用いずに観察する場合と比較して、試料を拡大して観察することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記虚像光学系が、前記顕微鏡光学系に着脱可能であるのが好ましい。
【0015】
また、本発明は、試料からの光を集光して前記試料とは異なる位置に前記試料の第1の虚像を形成する虚像光学系と、前記虚像光学系により形成された前記第1の虚像を投影する第1の投影光学系と、前記虚像光学系により形成された前記第1の虚像を投影する第2の投影光学系と、前記第1の投影光学系により投影された前記第1の虚像を拡大して観察者の目に第2の虚像として結像させる第1の接眼光学系と、前記第2の投影光学系により投影された前記第1の虚像を拡大して観察者の目に第2の虚像として結像させる第2の接眼光学系と、を備え、前記第1の投影光学系および前記第1の接眼光学系に係る第1の光軸と、前記第2の投影光学系および前記第2の接眼光学系に係る第2の光軸とが、交差して配置されており、以下の条件式を満たすグリノー式実体顕微鏡を提供する。
M=Mn1×M2×250/Fne (1)
Mn1=M1×Ko (2)
Fne=Fe×Ko (3)
0.3<Ko<0.9 (4)
ここで、M:総合倍率、Mn1:前記虚像光学系の投影倍率、M1:倍率が1倍である基準投影光学系と倍率が10倍である基準接眼光学系を備える顕微鏡光学系における虚像光学系の投影倍率、M2:前記第1の投影光学系および前記第2の投影光学系の投影倍率、Fne:前記第1の接眼光学系および前記第2の接眼光学系の焦点距離、Fe:前記基準接眼光学系の焦点距離、Ko:係数である。
【0016】
本発明によれば、倍率1倍の基準投影光学系および倍率10倍の基準接眼光学系を有する顕微鏡光学系と比較して、虚像光学系の投影倍率を低くし、接眼光学系の焦点距離を短くしている。このとき、虚像光学系の投影倍率を低くする割合と接眼光学系の焦点距離を短くする割合を同一にすることで、総合倍率を変化させることなく、接眼光学系の倍率を大きくして、視野数を実質的に増大させることができる。視野数を実質的に増大するというのは基準接眼光学系で見える視角より大きいことを言う。
【0017】
そして、虚像光学系の投影倍率を小さくすることで、一次像の視野数が同じままなら広い範囲が縮小されて投影され、倍率の大きくなった接眼光学系によって虚像光学系で縮小された分を拡大して観察できる。すなわち、一次像の視野数を変化させることなく、すなわち、双眼鏡筒におけるプリズムの大きさを大きくすることなく視野数を実質的に増加させることができる。従って、総合倍率を維持しつつ観察範囲を広くしたグリノー式実体顕微鏡を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、総合倍率を維持しつつ観察範囲を広くした顕微鏡光学系およびグリノー式実体顕微鏡を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る顕微鏡光学系を示す図である。
【図2】(a)本発明の第1の実施形態に係る顕微鏡光学系、(b)従来の顕微鏡光学系を示す図である。
【図3】図1の顕微鏡光学系の実施例に係るレンズ構成を示す図である。
【図4】図3の顕微鏡光学系の収差図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る顕微鏡光学系を示す図である。
【図6】(a)本発明の第2の実施形態に係る顕微鏡光学系、(b)従来の顕微鏡光学系を示す図である。
【図7】図5の顕微鏡光学系の実施例に係るレンズ構成を示す図である。
【図8】図7の顕微鏡光学系の収差図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態に係る顕微鏡光学系1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡光学系1は、図1に示されるように、第1の光軸OA1と第2の光軸OA2とが交差するように配置された一対の投影光学系3と、一対の接眼光学系4と、一対の鏡筒5(双眼鏡筒)とを備えたグリノー式顕微鏡光学系(グリノー式実体顕微鏡)である。また、顕微鏡光学系1は虚像光学系2を備え、虚像光学系2により形成された試料Aの虚像Bが一対の投影光学系3により投影される。
【0021】
本実施形態に係る虚像光学系2は、負の焦点距離を有する凹レンズ(負の光学パワーの負レンズ)により構成された光学系である。凹レンズにより構成される虚像光学系2は、試料Aからの光を集光して試料Aとは異なる位置に試料Aを縮小した虚像Bを形成する。
また、本実施形態に係る投影光学系3は、投影倍率を可変な光学系であり、例えば、0.67倍から4.5倍の範囲で投影倍率を可変である。この場合、0.67倍が投影光学系3の最低投影倍率M2となる。
【0022】
次に、図2を用いて、本実施形態に係る顕微鏡光学系1を、倍率が1倍である基準投影光学系3´および倍率が10倍である基準接眼光学系4´を有する顕微鏡光学系1´(参考例)と比較しつつ説明する。図2(a)は、図1に示される第1の光軸OA1および第2の光軸OA2のうち、第1の光軸OA1に係る投影光学系3、接眼光学系4、鏡筒5と、虚像光学系2を示した図である。また、図2(b)は、図2(a)と比較する参考例を示した図である。
【0023】
本実施形態に係る顕微鏡光学系1は、図2(a)に示されるように、試料Aからの光を集光して試料Aとは異なる位置に試料Aの虚像B(第1の虚像)を形成する虚像光学系2と、該虚像光学系2により形成された試料Aの虚像Bを投影する投影光学系3と、該投影光学系3により投影された試料Aの虚像Bを拡大して観察者の目Eに視角2ωで虚像D(第2の虚像)として結像させる接眼光学系4とを備えている。
【0024】
図2(b)は、参考例として、倍率が1倍である基準投影光学系3’および倍率が10倍である基準接眼光学系4´を有する顕微鏡光学系1’を示している。
図2(a)中の符号5は、投影光学系3により投影された虚像Bを接眼光学系4に入射させる鏡筒である。また、図2(b)中の符号5は、投影光学系3´により投影された虚像B´を接眼光学系4´に入射させる鏡筒である。図1及び図2においては、虚像光学系2、投影光学系3および接眼光学系4のそれぞれを、単一のレンズとして示しているが、実際には、それぞれ複数のレンズによって構成されている。
【0025】
図2(a)の顕微鏡光学系1において、試料Aは、虚像光学系2の後側焦点位置Fよりも虚像光学系2の外側に配置されており、虚像光学系2の中心からの距離は距離aである。そして、試料Aの虚像Bは、虚像光学系2により虚像光学系2の中心から距離bの位置に形成される。ここで、虚像光学系2の投影倍率Mn1は以下の式により算出される。
Mn1=b/a
また、虚像光学系2の焦点距離をfとすると、ニュートンの式から下記の関係式が算出される。
b=af/(f−a)
上記の式から、Mn1を虚像光学系2の中心からの距離aと焦点距離fで表すと、下記の関係式になる。
Mn1=f/(f−a)
【0026】
なお、図2(a)では、試料Aが虚像光学系2の後側焦点位置Fに一致する例を示したが、試料Aが虚像光学系2の後側焦点位置Fよりも虚像光学系2の内側または外側に配置されるようにしてもよい。負の焦点距離を有する虚像光学系2においては、試料Aが後側焦点位置Fよりも内側に配置される場合、虚像光学系2と試料Aの間に0.5<Mn1<1.0の虚像Bが形成される。試料Aが後側焦点位置Fと一致する位置に配置される場合、虚像光学系2と試料Aの中間位置にMn1=0.5の虚像Bが形成される。試料Aが後側焦点位置Fよりも外側に配置される場合、虚像光学系2と試料Aの間に0<Mn1<0.5の虚像Bが形成される。なお、これらの場合の虚像光学系2の投影倍率Mn1も前述した算出式により算出される。
【0027】
図2(b)の顕微鏡光学系1´において、試料A´は、虚像光学系2´の後側焦点位置F´よりも虚像光学系2´の外側に配置されており、虚像光学系2´の中心からの距離は距離a´である。そして、試料A´の虚像B´は、虚像光学系2´により虚像光学系2´の中心から距離b´の位置に形成される。ここで、倍率が1倍である基準投影光学系3´と倍率が10倍である基準接眼光学系4´を有する顕微鏡光学系1´に係る虚像光学系2´の投影倍率M1は以下の式により算出される。
M1=b´/a´
【0028】
なお、図2(b)では、試料A´が虚像光学系2´の後側焦点位置F´よりも虚像光学系2´の内側に配置される例を示したが、試料A´が虚像光学系2´の後側焦点位置F´よりも虚像光学系2´の外側または後側焦点位置F´と一致した位置に配置されるようにしてもよい。負の焦点距離を有する虚像光学系2´においては、試料A´が後側焦点位置F´よりも内側に配置される場合は、虚像光学系2´と試料A´の間に0.5<M1<1.0の虚像B´が形成される。試料A´が後側焦点位置F´と一致した位置に配置される場合は、虚像光学系2´と試料A´の中間位置にM1=0.5の虚像Bが形成される。試料A´が後側焦点位置F´よりも外側に配置される場合は、虚像光学系2´と試料A´の間に0<M1<0.5の虚像B´が形成される。なお、これらの場合の虚像光学系2´の投影倍率M1も前述した算出式により算出される。
【0029】
本実施形態に係る顕微鏡光学系1は、以下の条件式を満たしている。
M=Mn1×M2×250/Fne (1)
Mn1=M1×Ko (2)
Fne=Fe×Ko (3)
0.3<Ko<0.9 (4)
ここで、M:総合倍率、Mn1:虚像光学系2の投影倍率、M1:倍率が1倍である基準投影光学系3´と倍率が10倍である基準接眼光学系4´を備える顕微鏡光学系1´における虚像光学系2´(基準虚像光学系)の投影倍率、M2:投影光学系3の最低投影倍率、Fne:接眼光学系4の焦点距離、Fe:基準接眼光学系4´の焦点距離、Ko:係数である。
【0030】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡光学系1によれば、基準接眼光学系4’と比較して、接眼光学系4の焦点距離Fneを短くしている。その結果、接眼光学系4の倍率が大きくなって、接眼光学系4の全長を短縮しつつ視野数を実質的に増大させることができる。視野数を実質的に増大するというのは基準接眼光学系4´で見える視角より大きいことを言う。
【0031】
また、同時に、本実施形態に係る顕微鏡光学系1は、基準投影光学系3’および基準接眼光学系4’を有する顕微鏡光学系1’の場合と比較して、虚像光学系2の投影倍率Mn1を虚像光学系2’の投影倍率M1のKo倍(0.3<Ko<0.9)にしている。これにより、虚像光学系2の倍率が低くなり、一次像Cの視野数が同じままなら広い範囲を縮小して投影することができる。そして、倍率の大きくなった接眼光学系4によって虚像光学系2で縮小された分を拡大して観察できる。従って、総合倍率を維持しつつ観察範囲を広くした顕微鏡光学系1を提供することができる。
【0032】
このとき、虚像光学系の投影倍率を低くする割合と接眼光学系の焦点距離を短くする割合を同一にすることで、総合倍率を変化させることなく、接眼光学系4の倍率を大きくして、視野数を実質的に増大させることができる。すなわち、一次像Cの視野数を変化させることなく、すなわち、鏡筒5におけるプリズムの大きさを大きくすることなく視野数を実質的に増大させることができる。視野数を実質的に増大するというのは基準接眼光学系4’の視角2ω’より接眼光学系4の視角2ωが大きいことを言う。
【0033】
ここで、Ko=0.8として、種々の顕微鏡光学系1に適用した場合の、基準虚像光学系(虚像光学系2’)の投影倍率M1、虚像光学系2の投影倍率Mn1、投影光学系3の投影倍率M2、接眼光学系4の倍率と焦点距離Fne、および、総合倍率Mを表1にそれぞれ示す。
【表1】

【0034】
ここで、本実施形態においては下記条件式を満たすことがさらに望ましい。
0.45<FN/(2×Fne)<1.4 (5)
0.4<Ko<0.85 (6)
【0035】
Ko≦0.4では、虚像光学系2の投影倍率が低すぎるため、作動距離が長くなりすぎる。その結果、接眼光学系4の位置が試料Aの配置された位置から離れすぎて作業性が悪化する。また、Ko≧0.85では、接眼光学系4の焦点距離Fneが短くなる割合が低いので、観察者が視野数の増大を実感することが困難となる。したがって、条件式(6)を満たすことが好ましい。
【0036】
本実施形態においては、虚像光学系2として、負の焦点距離を有する光学系を採用した。このような虚像光学系2は、試料Aを縮小した虚像Bを形成するので、虚像光学系2を用いずに観察する場合と比較して、試料Aの広い範囲を観察することができる。
【0037】
次に、本発明の第1の実施形態に係る顕微鏡光学系1の実施例について以下に説明する。
本実施例に係る顕微鏡光学系1のレンズ配列を図3に示し、レンズデータを表2に、収差図を図4に示す。図3において面番号は一部のみ表示し他を省略している。
【0038】
図4は、図3に示されるレンズ配列の顕微鏡光学系1の横収差図を示すものである。図4(a)〜図4(c)のそれぞれの中央に示された角度は、図3における水平方向の画角と垂直方向の画角を示す。各図における右側はX方向(サジタル方向)の横収差を示し、左側はY方向(メリジオナル方向)の横収差を示す。なお、図4(a)で水平方向の画角がマイナスとなっているのは、Y軸の正方向に対して右回りの角度であることを意味する。また、各収差は、逆追跡による物体面での収差をそれぞれ示している。
【0039】
[表2]
面番号 曲率半径 面間隔 屈折率 アッベ数
物体面 ∞ 230.23
(虚像光学系2)
1 −98.59 4.62 1.5163 64.1
2 139.23 4.62 1.6398 34.5
3 ∞ 偏心[1]
(投影光学系3)
4 52.95 2.31 1.7495 35.3
5 23.81 4.95 1.6180 63.3
6 −102.68 4.37
7 −22.78 3.08 1.7495 35.3
8 −8.52 1.54 1.6910 54.8
9 46.93 22.59
10 123.82 4.95 1.6385 55.4
11 −15.14 2.20 1.7380 32.3
12 −32.91
(接眼光学系4)
13 57.29 2.85 1.8467 23.8
14 16.61 7.48 1.5163 64.1
15 −30.77 0.16
16 20.27 4.85 1.7292 54.7
17 −295.02
偏心[1]
X 0.00 Y 0.00 Z 0.00
α −5.00 β 0.00 γ 0.00
【0040】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係る顕微鏡光学系10について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡光学系10において、第1の実施形態に係る顕微鏡光学系1と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。第1の実施形態に係る顕微鏡光学系1は、虚像光学系2として負の焦点距離を有する凹レンズ(負の光学パワーの負レンズ)により構成された光学系であった。それに対して、第2の実施形態に係る顕微鏡光学系10は、虚像光学系2として正の焦点距離を有する凸レンズ(正の光学パワーの正レンズ)により構成された光学系である。
【0041】
本実施形態に係る顕微鏡光学系10は、図5に示されるように、第1の光軸OA1と第2の光軸OA2とが交差するように配置された一対の投影光学系3と、一対の接眼光学系4と、一対の鏡筒(双眼鏡筒)5とを備えたグリノー式顕微鏡光学系(グリノー式実体顕微鏡)である。また、顕微鏡光学系1は虚像光学系2を備え、虚像光学系2により形成された試料Aの虚像Bが一対の投影光学系3により投影される。
【0042】
本実施形態に係る顕微鏡光学系10も、図6(a)に示されるように、虚像光学系2、投影光学系3および接眼光学系4を備えている。
図6(b)は、参考例として、倍率が1倍である基準投影光学系3’および倍率が10倍である基準接眼光学系4’を備える顕微鏡光学系10’を示している。
【0043】
図6(a)において、符号Fは虚像光学系2の前側焦点位置を示し、符号Fは虚像光学系2の後側焦点位置を示す。また、図6(b)において、符号F´は虚像光学系2の前側焦点位置を示し、符号F´は虚像光学系2の後側焦点位置を示す。
【0044】
図6(a)の顕微鏡光学系10において、試料Aは、虚像光学系2の前側焦点位置Fよりも虚像光学系2の内側(虚像光学系2側)に配置されており、虚像光学系2の中心からの距離は距離aである。そして、試料Aの虚像Bは、虚像光学系2により虚像光学系2の中心から距離bの位置に形成される。ここで、虚像光学系2の投影倍率Mn1は以下の式により算出される。
Mn1=b/a
また、虚像光学系2の焦点距離をfとすると、ニュートンの式から下記の関係式が算出される。
b=af/(f−a)
【0045】
なお、本実施形態に係る顕微鏡光学系10は、正の焦点距離を有する凸レンズにより構成された光学系であるので、試料Aを虚像光学系2の前側焦点位置Fよりも虚像光学系2の内側に配置する必要がある。試料Aを前側焦点位置Fよりも外側に配置すると、試料Aの虚像は形成されず、試料Aの実像が形成されることとになる。
【0046】
図6(b)の顕微鏡光学系1´において、試料A´は、虚像光学系2´の前側焦点位置F´よりも虚像光学系2´の外側に配置されており、虚像光学系2´の中心からの距離は距離a´である。そして、試料A´の虚像B´は、虚像光学系2´により虚像光学系2´の中心から距離b´の位置に形成される。ここで、倍率が1倍である基準投影光学系3´と倍率が10倍である基準接眼光学系4´を有する顕微鏡光学系1´に係る虚像光学系2´(基準虚像光学系)の投影倍率M1は以下の式により算出される。
M1=b´/a´
【0047】
なお、本実施形態に係る顕微鏡光学系10´は、正の焦点距離を有する凸レンズにより構成された光学系であるので、試料A´を虚像光学系2´の前側焦点位置F´よりも虚像光学系2´の内側に配置する必要がある。試料A´を前側焦点位置F´よりも外側に配置すると、試料A´の虚像は形成されず、試料A´の実像が形成されることとになる。
【0048】
本実施形態に係る顕微鏡光学系10は、第1の実施形態に係る顕微鏡光学系1と同様に、(1)〜(4)の条件式を満たしている。
【0049】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡光学系10によれば、基準接眼光学系4’と比較して、接眼光学系4の焦点距離Fneを短くしている。その結果、接眼光学系4の倍率が大きくなって、接眼光学系4の全長を短縮しつつ視野数を実質的に増大させることができる。視野数を実質的に増大するというのは基準接眼光学系4´で見える視角より大きいことを言う。
【0050】
また、同時に、本実施形態に係る顕微鏡光学系10は、基準投影光学系3’および基準接眼光学系4’を有する顕微鏡光学系10’の場合と比較して、虚像光学系2の投影倍率Mn1を虚像光学系2’の投影倍率M1のKo倍(0.2<Ko<0.8)にしている。これにより、虚像光学系2の倍率が低くなり、一次像Cの視野数が同じままなら広い範囲を縮小して投影することができる。そして、倍率の大きくなった接眼光学系4によって虚像光学系2で縮小された分を拡大して観察できる。従って、総合倍率を維持しつつ観察範囲を広くした顕微鏡光学系1を提供することができる。
【0051】
このとき、虚像光学系の投影倍率を低くする割合と接眼光学系の焦点距離を短くする割合を同一にすることで、総合倍率を変化させることなく、接眼光学系4の倍率を大きくして、視野数を実質的に増大させることができる。すなわち、一次像Cの視野数を変化させることなく、すなわち、鏡筒5におけるプリズムの大きさを大きくすることなく視野数を実質的に増大させることができる。視野数を実質的に増大するというのは基準接眼光学系4’の視角2ω’より接眼光学系4の視角2ωが大きいことを言う。
【0052】
ここで、Ko=0.5として、種々の顕微鏡光学系1に適用した場合の、基準虚像光学系(虚像光学系2’)の投影倍率M1、虚像光学系2の投影倍率Mn1、投影光学系3の投影倍率M2、接眼光学系4の倍率と焦点距離Fne、および、総合倍率Mを表3にそれぞれ示す。
【表3】

【0053】
また、本実施形態に係る顕微鏡光学系10は、第1の実施形態に係る顕微鏡光学系1と同様に、(5)および(6)の条件式を満たすことがさらに望ましい。
Ko≦0.4では、虚像光学系2の投影倍率が低すぎるため、作動距離が長くなりすぎる。その結果、接眼光学系4の位置が試料Aの配置された位置から離れすぎて作業性が悪化する。また、Ko≧0.85では、接眼光学系4の焦点距離Fneが短くなる割合が低いので、観察者が視野数の増大を実感することが困難となる。したがって、条件式(6)を満たすことが好ましい。
【0054】
本実施形態においては、虚像光学系2として、正の焦点距離を有する光学系を採用した。このような虚像光学系2は、試料Aを拡大した虚像Bを形成するので、虚像光学系2を用いずに観察する場合と比較して、試料Aを拡大して観察することができる。
【0055】
次に、本発明の第2の実施形態に係る顕微鏡光学系10の実施例について以下に説明する。
本実施例に係る顕微鏡光学系10のレンズ配列を図7に示し、レンズデータを表4に、収差図を図8に示す。図7において面番号は一部のみ表示し他を省略している。
【0056】
図8は、図7に示されるレンズ配列の顕微鏡光学系10の横収差図を示すものである。図8(a)〜図8(c)のそれぞれの中央に示された角度は、図7における水平方向の画角と垂直方向の画角を示す。各図における右側はX方向(サジタル方向)の横収差を示し、左側はY方向(メリジオナル方向)の横収差を示す。なお、図8(a)で水平方向の画角がマイナスとなっているのは、Y軸の正方向に対して右回りの角度であることを意味する。また、各収差は、逆追跡による物体面での収差をそれぞれ示している。
【0057】
[表4]
面番号 曲率半径 面間隔 屈折率 アッベ数
物体面 ∞ 53.55
(虚像光学系2)
1 −103.53 6.05 1.6031 60.6
2 ―43.73 0.33
3 75.85 10.45 1.6180 63.3
4 −98.67 6.05 1.5814 40.7
5 68.84 偏心[1]
(投影光学系3)
6 52.95 2.31 1.7495 35.3
7 23.81 4.95 1.6180 63.3
8 −102.68 4.37
9 −22.78 3.08 1.7495 35.3
10 −8.52 1.54 1.6910 54.8
11 46.93 22.59
12 123.82 4.95 1.6385 55.4
13 −15.14 2.20 1.7380 32.3
14 ―32.91
(接眼光学系4)
15 −22.77 1.16 1.6490 33.8
16 16.25 8.06 1.6110 57.2
17 −22.01 0.09
18 40.81 3.54 1.6200 60.3
19 −40.81 0.09
20 14.40 7.57 1.6110 57.2
21 ―19.37 1.38 1.6730 32.2
22 192.80
偏心[1]
X 0.00 Y 0.00 Z 0.00
α −5.00 β 0.00 γ 0.00
【0058】
<他の実施形態>
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
傾斜角度可変鏡筒や接眼光学系のポイントを低くするための鏡筒などでは機構を内蔵するために光路を伸ばす必要があるため投影光学系にリレー系を含むものがあるが虚像光学系と接眼光学系の間にある光学系を投影光学系とみなすことで本発明が適用できる。
【0059】
第1の実施形態に係る虚像光学系2を顕微鏡光学系1に着脱可能な光学系としてもよい。また、第2の実施形態に係る虚像光学系2を顕微鏡光学系10に着脱可能な光学系としてもよい。また、顕微鏡光学系1として、第1の実施形態に係る虚像光学系2と第2の実施形態に係る虚像光学系2をそれぞれ着脱可能な光学系としてもよい。このようにすることで、試料をより縮小して観察範囲を広げたい場合は第1の実施形態に係る虚像光学系2を装着し、試料をより拡大して精細に観察したい場合は第1の実施形態に係る虚像光学系2を装着することが可能となり、観察目的に合わせて適切な虚像光学系を用いることができる。
【0060】
第1の実施形態および第2の実施形態では、投影光学系3が投影倍率を可変な光学系であるとしたが、投影倍率が固定された光学系を採用してもよい。固定された投影倍率としては種々の倍率が採用可能であるが、例えば1倍としてもよい。投影倍率が固定された光学系を採用する場合、前述したM2は、投影光学系3の固定された投影倍率に対応する。
【符号の説明】
【0061】
A 試料
B 虚像(第1の虚像)
C 一次像
D 虚像(第2の虚像)
E 目
ω 接眼光学系の視角の片側角度
1,1’,10,10’ 顕微鏡光学系
2 虚像光学系
2’ 基準虚像光学系
3 投影光学系
3’ 基準投影光学系
4 接眼光学系
4’ 基準接眼光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料からの光を集光して前記試料とは異なる位置に前記試料の第1の虚像を形成する虚像光学系と、
該虚像光学系により形成された前記第1の虚像を投影する投影光学系と、
該投影光学系により投影された前記第1の虚像を拡大して観察者の目に第2の虚像として結像させる接眼光学系とを備え、
以下の条件式を満たす顕微鏡光学系。
M=Mn1×M2×250/Fne (1)
Mn1=M1×Ko (2)
Fne=Fe×Ko (3)
0.3<Ko<0.9 (4)
ここで、
M:総合倍率、
Mn1:前記虚像光学系の投影倍率、
M1:倍率が1倍である基準投影光学系と倍率が10倍である基準接眼光学系を備える顕微鏡光学系における虚像光学系の投影倍率、
M2:前記投影光学系の投影倍率、
Fne:前記接眼光学系の焦点距離、
Fe:前記基準接眼光学系の焦点距離、
Ko:係数
である。
【請求項2】
以下の条件式を満たす請求項1に記載の顕微鏡光学系。
0.45<FN/(2×Fne)<1.4 (5)
0.4<Ko<0.85 (6)
ここで、FN:前記接眼光学系の視野数
である。
【請求項3】
前記投影光学系が、投影倍率を可変な光学系である請求項1または2に記載の顕微鏡光学系。
ここで、
M2:前記投影光学系の最低投影倍率
である。
【請求項4】
前記虚像光学系が、負の焦点距離を有する光学系である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の顕微鏡光学系。
【請求項5】
前記虚像光学系が、正の焦点距離を有する光学系であり、前記試料が前記虚像光学系の焦点位置より前記虚像光学系側に配置される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の顕微鏡光学系。
【請求項6】
前記虚像光学系が、前記顕微鏡光学系に着脱可能である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の顕微鏡光学系。
【請求項7】
試料からの光を集光して前記試料とは異なる位置に前記試料の第1の虚像を形成する虚像光学系と、
前記虚像光学系により形成された前記第1の虚像を投影する第1の投影光学系と、
前記虚像光学系により形成された前記第1の虚像を投影する第2の投影光学系と、
前記第1の投影光学系により投影された前記第1の虚像を拡大して観察者の目に第2の虚像として結像させる第1の接眼光学系と、
前記第2の投影光学系により投影された前記第1の虚像を拡大して観察者の目に第2の虚像として結像させる第2の接眼光学系と、を備え、
前記第1の投影光学系および前記第1の接眼光学系に係る第1の光軸と、前記第2の投影光学系および前記第2の接眼光学系に係る第2の光軸とが、交差して配置されており、
以下の条件式を満たすグリノー式実体顕微鏡。
M=Mn1×M2×250/Fne (1)
Mn1=M1×Ko (2)
Fne=Fe×Ko (3)
0.3<Ko<0.9 (4)
ここで、
M:総合倍率、
Mn1:前記虚像光学系の投影倍率、
M1:倍率が1倍である基準投影光学系と倍率が10倍である基準接眼光学系を備える顕微鏡光学系における虚像光学系の投影倍率、
M2:前記第1の投影光学系および前記第2の投影光学系の投影倍率、
Fne:前記第1の接眼光学系および前記第2の接眼光学系の焦点距離、
Fe:前記基準接眼光学系の焦点距離、
Ko:係数
である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−92658(P2013−92658A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234839(P2011−234839)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】