説明

風冷強化ガラスの製造方法および装置

【課題】従来検査形状検査のため用いられていた検査型を不要とし、また従来よりも検査の手間を省き、生産性を向上させる。
【解決手段】風例強化処理を行う前に治具21上のガラス板100の位置情報を取得し、この位置情報に基づいて風冷強化後のガラス板の品質を判定する。例えば、治具に載置されたガラス板を加熱炉内で所望の形状に曲げ成形する工程と、治具に載置されたガラス板の画像を撮像する工程と、この撮像された画像に基づいて前記ガラス板の治具に対する位置情報を取得する工程と、この位置情報に基づいてガラス板の品質を判定する工程と、この品質の判定されたガラス板に冷却媒体を吹き付けることで強化処理を行う工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風冷強化ガラスの製造方法および装置に関し、特に自動車用窓ガラスとして使用される風冷強化ガラスの製造方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用の窓ガラス(特にサイドガラスおよびリアガラス)には、風冷強化処理によって作られた強化ガラスが用いられている。この強化ガラスは、予め加熱軟化しておいたガラス板にエアを吹き付けることで急冷し、板厚方向の中央部に残留引張応力層を形成するとともに、表面に残留圧縮応力層を形成することで作られる。表面に形成された圧縮応力層の働きにより、強化ガラスは、強化処理の施されていないガラス板よりも強度が高いだけでなく、内部の引張り応力の働きにより破砕時に破片が粒状となって搭乗者を傷つけ難いという利点も有する。
【0003】
ここで、従来の自動車用窓ガラスの製造方法について説明する。自動車用窓ガラスは、フロート法等で作られた平板状のガラス板を所望形状に切り抜いた後、炉内で700℃近くまで加熱し軟化させてから、プレス曲げや自重曲げ等を用いて所望の形状に曲げ成形される。曲げ成形されたガラス板は、直ちに冷却ゾーンに搬送され、冷却エアが吹きつけられることで強化処理が施される。
【0004】
【特許文献1】特開平6−229741号公報
【特許文献2】特開平7−248218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようにして作られた強化ガラスは、風冷強化後の検査工程において、所定のデザイン形状を模した検査型に載置され、その載り具合を検査型に内蔵されている距離センサを用いることで形状検査が行われていた。また、レーザや超音波センサをロボットに取り付、ガラス板の表面をトレースして検査する方法等もあった(特許文献1、2参照)。
【0006】
しかしながら、このような検査では、ガラス板を一々検査型に載せたりロボットによるトレースが必要であったりといった手間を要し、生産性向上の妨げになる。また、最終製品の形状毎に検査型を用意したのでは多彩なデザインの窓ガラスを生産する上でコストが増すという問題もある。また、使用後の検査型を保管するための場所を必要とするといった問題もあった。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するものであり、従来の形状検査において必要とされていた検査型を不要とし、また従来よりも検査の手間を省くことができる生産性に優れた風冷強化ガラスの製造方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するために、本発明は、風例強化処理を行う前に治具上のガラス板の位置情報を取得し、この位置情報に基づいて風冷強化後のガラス板の品質を判定することを特徴とする風冷強化ガラスの製造方法を提供する。また、本発明の一態様において、治具に載置されたガラス板を加熱炉内で所望の形状に曲げ成形する工程と、前記治具に載置されたガラス板の画像を撮像する工程と、この撮像された画像に基づいて前記ガラス板の前記治具に対する位置情報を取得する工程と、この位置情報に基づいて前記ガラス板の品質を判定する工程と、この品質の判定されたガラス板に冷却媒体を吹き付けることで強化処理を行う工程とを有することが好ましい。また、本発明の一態様において、前記撮像は、サーモグラフィー装置によって行われることが好ましい。また、本発明の一態様において、前記位置情報は、前記ガラス板の前記治具に対する面積重心座標に関する情報と、前記ガラス板の前記治具に対する面積重心角度に関する情報とであることが好ましい。
【0009】
また、本発明の一態様において、前記撮像により前記ガラス板の温度の情報を取得し、この取得した温度が所定値以下である場合に強化処理不良と判定することが好ましい。さらに、本発明は、ガラス板を加熱軟化するための加熱炉と、この加熱軟化したガラス板にエアを吹きつけることで風冷強化処理を行うための冷却装置とを備え、前記加熱炉と前記冷却装置との間に風冷強化処理直前のガラス板を撮像するためのカメラと、この撮像結果に基づいて前記ガラス板の品質を判定する手段とをさらに備えたことを特徴とする風冷強化ガラスの製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したとおり本発明は、風例強化処理を行う前に治具上のガラス板の位置情報を取得し、この位置情報に基づいて風冷強化後のガラス板の品質を判定する。よって、最終製品毎に用意されていた従来の検査型を用いる必要がなく、また製造工程の早い段階で最終製品である風冷強化ガラスの品質を知ることができ、人手による全数検査を行う必要がなくなるといった効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の一実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明に係る風冷強化ガラスの製造装置の一実施形態を模式的に示す側面図である。同図に示すように、耐火煉瓦等で造られたトンネル状の加熱炉11内には、シリカ製の複数のロールからなるローラコンベア13と、このローラコンベア13の下に配設されたリフトジェット装置14と、リフトジェット装置14と対向して加熱炉11の天井近傍に配設されたバキューム装置15と、加熱炉11の天井、床および側壁等に配設された電気ヒータ12とを備えている。加熱炉11の側壁には、リング状の治具21に載置されたガラス板100を炉外に搬出するための開口部11aが設けられている。
【0013】
また、加熱炉11の近傍には、上下に吹口31aおよび31bが配設され、各吹口には個別にブロワ32aおよび32bが設けられている。開口部11aから吹口31aおよび31bまでの途中には、赤外画像を撮像できるカメラ61が設置され、治具21に載置されたガラス板100の全体像を撮像できるようになっている。また、吹口等の後段には、ローラコンベア71が配設され、このローラコンベア71の前段下方にはフローティング装置41が配設され、フローティング装置41に対向してローラコンベア71の上方にはパッド42が配設されている。
【0014】
ここで、本発明に係る風冷強化ガラスの製造方法の一実施形態について図を参照して説明する。
図2は、本発明に係る風冷強化方法をの一実施形態を示すフローチャートである。まず、図1に示した加熱炉11内で加熱処理を行い(ステップS1)、加熱軟化したガラス板100をリング状の治具21上に落下することで、ガラス板100を自身の自重と落下による加速度とで湾曲形状に成形する(ステップS2)。次いで、曲げ成形されたガラス板100を治具21に載せたまま加熱炉11の外に搬出し、上方に待機しているカメラ61によってガラス板100の全体像およびその周辺の画像を治具21とともに撮像する(ステップS3)。撮像によって得られた画像データは、図1に示したコンピュータ51に送られて画像処理が行われ、ガラス板100の輪郭の抽出が行われる(ステップS4)。画像処理の具体的な技術としては公知のものを採用することができる。次いで、抽出したガラス板100の輪郭に基づいて、ガラス板100の面積重心と面積重心角度の算出をコンピュータ51が行う(ステップS5)。具体的には、以下に示す式によって、面積重心G(x,y)および面積重心角度θが求められ、その場合、図3(a)、(b)に示すガラス板100およびその周辺からサンプリングされたポイントPijの座標が計算に用いられる。
【0015】
【数1】

【0016】
【数2】

【0017】
【数3】

【0018】
【数4】

【0019】
【数5】

【0020】
次いで、求められた面積重心と面積重心角度の値を、コンピュータ51に予め登録してある基準値と比較することで、ガラス板100の形状の品質の良否を判定する(ステップS6)。以上の一連の手順は、ガラス板100が撮像されてからほとんど瞬時に行われ、ガラス板100が吹口31aと31bとの間に搬送されるまでに完了させることができる。よって、良否判定の結果、不良である場合は風冷強化処理を行わずに廃棄工程に搬送するようにしてもよい。
【0021】
また、良否の判定されたガラス板100は吹口31a、31b等によって風冷強化処理が行われてから(ステップS7)フローティング装置41まで搬送され、ガラス板100は、この装置から噴射されたエアによってパッド42に押し当てられる。そして、その間に治具21が吹口31a、31b側に退避するとともに、エアの噴射が停止されることでガラス板100はローラコンベア71上に落下する。その後、ガラス板100はローラコンベア71によってパレット詰め工程に搬送されるが、従来の検査型による検査は行わなくて済む。
【0022】
なお、撮像によって得られたガラス板100の温度情報に基づいて、強化処理の良否を事前に判定するようにしてもよい。強化処理においては、所定の加熱温度から一気に急冷する必要があるため、強化処理の直前におけるガラス温度を知ることは、強化処理の良否を事前に判定する上で有効である。判定の具体的な手法としては、ガラス上のポイントPijにおける温度の平均値が所定の温度幅内にあるか、最低値が所定値以下であるか、最高値が所定値以上であるかといった条件を単独または適宜組み合わせた条件を用い、強化処理の良・不良を判定できる。また、ガラス上に代表ポイントをいくつか設定し、その点での温度のみ閾値判定したりするなどの手法が取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0023】
以上説明したとおり、本発明は、検査型を用いることなく強化ガラスの製造工程における良否判定を行うことができ、自動車用窓ガラスの生産性を向上させる上で非常に有効である。また、本発明は風冷強化された湾曲ガラスの製造全般に適用できることは明らかであり、上述の自動車用窓ガラスの製造だけでなく、航空機、船舶、鉄道車両または建築物等で使用される窓ガラスおよびその他のガラスの製造にも適用できることは自明である。
【0024】
なお、ガラス板の撮像を行うカメラとしては、サーモグラフィー装置(例えばNEC三栄社製のサーモトレーサ)、熱型検出器(導電型(ボロメータ等)、起電力型(サーモパイル等)、焦電型等)および量子型検出器(光導電型、光起電力型等)等を用いた装置が使用できる。エリアカメラであってもよいし、ラインカメラであってもよい。また、本発明は、図1に示したようなガラス板を治具に落下して成形する装置だけでなく、その他の自重曲げ成形装置、プレス曲げ成形装置、およびバキューム成形装置等の種々の強化ガラス製造装置に適用できる。その場合、炉内曲げ成形装置であってもよいし、炉外曲げ成形装置の何れであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る風冷強化ガラスの製造装置の一実施形態を模式的に示す側面図である。
【図2】本発明に係る風冷強化方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図3】(a)、(b)撮像によってガラス板から得られる情報を示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
100:ガラス板
11:加熱炉
12:電気ヒータ
13:ロール
14:リフトジェット装置
15:バキューム装置
21:治具
31a、31b:吹口
32a、32b:ブロワ
41:フローティング装置
42:パッド
51:コンピュータ
61:カメラ
71:ローラコンベア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風例強化処理を行う前に治具上のガラス板の位置情報を取得し、この位置情報に基づいて風冷強化後のガラス板の品質を判定することを特徴とする風冷強化ガラスの製造方法。
【請求項2】
治具に載置されたガラス板を加熱炉内で所望の形状に曲げ成形する工程と、
前記治具に載置されたガラス板の画像を撮像する工程と、
この撮像された画像に基づいて前記ガラス板の前記治具に対する位置情報を取得する工程と、
この位置情報に基づいて前記ガラス板の品質を判定する工程と、
この品質の判定されたガラス板に冷却媒体を吹き付けることで強化処理を行う工程とを有する請求項1に記載の風冷強化ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記撮像は、サーモグラフィー装置によって行われる請求項2に記載の風冷強化ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記位置情報は、前記ガラス板の前記治具に対する面積重心座標に関する情報と、前記ガラス板の前記治具に対する面積重心角度に関する情報とである請求項2または3に記載の風冷強化ガラスの製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4の何れか一項に記載の風冷強化ガラスの製造方法。
【請求項6】
ガラス板を加熱軟化するための加熱炉と、この加熱軟化したガラス板にエアを吹きつけることで風冷強化処理を行うための冷却装置とを備え、
前記加熱炉と前記冷却装置との間に風冷強化処理直前のガラス板を撮像するためのカメラと、この撮像結果に基づいて前記ガラス板の品質を判定する手段とをさらに備えたことを特徴とする風冷強化ガラスの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−213571(P2006−213571A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29133(P2005−29133)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】