説明

食缶外面用塗料組成物及び塗装食缶。

【課題】 耐打ち抜き加工性、耐レトルト性、耐熱水浸漬蒸気処理性の性能を有し、且つ、低温、短時間焼付で、優れた塗膜を形成し得る深絞り食缶用外面塗料組成物及び該塗料組成物の乾燥塗膜層を有する塗装食缶を提供する。
【解決手段】 ビスフェノール型由来原料を含まない、固形分水酸基価が5〜15、固形分酸価が2未満、数平均分子量が10,000〜12,000であるポリエステル樹脂、及び、ビスフェノール型由来原料を含まない、数平均分子量が1,200〜1,400であるブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂を含有することを特徴とする深絞り食缶外面用塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチール製又はアルミ製深絞り食缶用外面のトップコート層として用いられ、低温短時間の焼付け条件で、従来品と同等以上の塗膜物性を有する環境対応型の深絞り食缶外面用塗料組成物及びその乾燥塗膜層を缶壁に有するスチール製又はアルミ製の深絞り食缶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スチール製又はアルミ製の深絞り食缶用外面のトップコート層として耐打ち抜き加工性、耐レトルト性、耐熱水浸漬蒸気処理性を重視した性能を有する塗膜を形成する塗料が採用されている。近年、スチール製又はアルミ製の深絞り食缶用途にも環境対応型求められるようになってきたが、従来からのスチール製又はアルミ製の深絞り食缶の場合には、エンドクリン問題の疑いが持たれているビスフェノールAを原料とするエポキシ樹脂が必須成分として使用されていた。既存の缶用塗料の多くが抱える大きな問題点の一つに上記エンドクリン問題がある。これは、「缶内面塗料にエンドクリン問題の疑いが持たれているビスフェノールAを原料とする成分が含まれている場合、硬化塗膜から当該化合物が内容物中に溶出し、これを摂取したヒトの内分泌に悪い影響を及ぼす」との学説によって社会問題化したものである。缶外面の塗膜は直接、内容物との接触はないが、オーブンでの焼付等の製缶工程の中で外面塗料の成分が内面に付着する可能性を否定することはできない。こうした背景から、製缶業界では缶用塗料の原料からビスフェノールAを排除しようとする方針が打ち出され、塗料メーカーではそのための技術的な検討が実施されている。従来、食品等を収容する缶の塗料には、塗膜に求められる加工性、密着性、耐レトルト性等を充足させるために最も有用な成分としてビスフェノールAを原料とするエポキシ樹脂が重用されてきた。このビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用せずに上記塗膜性能を充足させるのは非常に困難な課題であった。近年、3P溶接缶用外面塗料としてビスフェノールAを含有しない塗料が開発されている(例えば、特許文献1,2参照)。しかしながら、これら文献に紹介された塗料は3P溶接缶用途であり、塗膜形成後の加工はネック加工程度である。しかしながら、塗膜形成後に板を深絞りで容器形状に加工するという加工の厳しいスチール製又はアルミ製の深絞り食缶に適用するには、その重要な条件としての、耐打ち抜き加工性等を充足させるものではなかった。
【0003】
【特許文献1】特開2001−146569号公報
【特許文献2】特開2003−246966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消して、スチール製又はアルミ製の深絞り食缶の条件として、耐打ち抜き加工性、耐レトルト性、耐熱水浸漬蒸気処理性の性能を有し、且つ焼付温度が180℃で、焼付時間が3分間と短時間焼付で、既存の缶用塗料の10分間焼付品と同等以上の高性能を有し、優れた塗膜を形成し得るスチール製又はアルミ製深絞り食缶用外面塗料組成物及び該塗料組成物の乾燥塗膜層を有するスチール製又はアルミ製の深絞り食缶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討の結果、エンドクリン問題の疑いのあるビスフェノール型由来原料を含有しない、特定のポリエステル系樹脂及びベンゾグアナミン樹脂を用いることにより、スチール製又はアルミ製深絞り食缶外面用のトップコート層として、焼付温度が180℃で、焼付時間が3分間と短時間焼付で、既存の缶用塗料の10分間焼付品と同等以上の高性能を有し、且つ、耐打ち抜き加工性、耐レトルト性、耐熱水浸漬蒸気処理性等の塗膜性能を兼備した塗膜を形成し得る環境対応型スチール製又はアルミ製深絞り食缶外面用塗料組成物及びその乾燥塗膜層を有するスチール製又はアルミ製深絞り食缶を見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は第一に、ビスフェノール型由来原料を含まない、固形分水酸基価が5〜15、固形分酸価が2未満、数平均分子量が10,000〜12,000であるポリエステル樹脂、及び、ビスフェノール型由来原料を含まない、数平均分子量が1,200〜1,400であるブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂を含有することを特徴とする深絞り食缶外面用塗料組成物を提供する。
【0007】
本発明は第二に、食缶の側壁外面に、前記した深絞り食缶外面用塗料組成物の乾燥塗膜層を有することを特徴とする深絞り食缶を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ビスフェノール型由来原料を含有せずエンドクリン問題の懸念のない環境対応型の缶外面用塗料組成物であって、深絞りの過酷な加工に対しても、耐打ち抜き加工性、耐レトルト性、耐熱水浸漬蒸気処理性等の性能を有し、且つ焼付温度が180℃で、焼付時間が3分間と短時間焼付で、既存の缶用塗料の10分間焼付品と同等以上の高性能を有する缶外面用塗料組成物、及び、その優れた塗膜を有するスチール製又はアルミ製の深絞り食缶を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の深絞り食缶外面用塗料組成物は、ビスフェノール型由来原料を含有しないポリエステル樹脂成分を主剤に、やはりビスフェノール型由来原料を含まないブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂を硬化剤として用いることにより環境対応に優れる塗料組成物を得るものである。
【0010】
本発明の深絞り食缶外面用塗料組成物に用いるポリエステル樹脂は、固形分水酸基価が5〜15(mgKOH/g)、固形分酸価が2未満(mgKOH/g)であり、更に、数平均分子量が10,000〜12,000であるビスフェノール型由来原料を含まないポリエステル樹脂である。
【0011】
ポリエステル樹脂として代表的なものを例示すると、例えばポリオールとポリカルボン酸(無水物)とを加熱溶融し、約160〜270℃程度の反応温度で、反応物の酸価が1〜40程度となるまで、必要により減圧下で脱水縮合せしめ、約500〜25,000程度の数平均分子量を有する脱水縮合物を得たのちに、各種の有機溶剤に溶解せしめることによって調製されるもの等が挙げられる。
【0012】
ポリエステル樹脂を調製する際に使用されるポリオールとして代表的なものを例示すると、エチレングリコール、プロピレングリコール、1.3−ブチレングリコール、1.4−ブチレングリコール、1.6−ヘキサンジオールまたはジエチレングリコール、あるいはジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコールのような、各種の2価アルコール類;及び、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールまたはジグリセリンのような、各種の3価以上のアルコール類が挙げられる。
【0013】
ポリエステル樹脂を調製する際に使用されるポリカルボン酸(無水物)として代表的なものを例示すると、プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸もしくはトリメリット酸のような、各種の脂肪族ないしは芳香族ポリカルボン酸、(無水)トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸(無水物)または(無水)ピロメリット酸等が挙げられる。さらに必要に応じて安息香酸や、tert−ブチル安息香酸などの種々の一塩基酸をかかる酸成分として併用することもできる。
【0014】
本発明の深絞り食缶外面用塗料組成物に硬化剤として用いられるブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂は、数平均分子量が1,200〜1,400であり、ビスフェノール型由来原料を含まないブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂である。
【0015】
塗膜の硬化性と、加工性のバランスを考慮すると、特に、ポリエステル樹脂成分100質量部に対し、ブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂が60〜70質量部であることが好ましい。
【0016】
本発明の深絞り食缶外面用塗料組成物は、塗料構成成分を水不溶性溶媒に溶解した溶剤型塗料として使用することが好ましい。周知の有機溶剤ならば全て使用可能であるが、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ブチルセロソルブアセテート等が望ましい、それらは、単独使用でも2種以上の併用でも良い。
【0017】
本発明の深絞り食缶外面用塗料組成物には必要に応じて、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフテレンジスルホン酸、又はリン酸等の種々の酸触媒、あるいはこれらの各種アミン塩等を、硬化触媒として添加してもよい。硬化触媒の配合量は、通常は樹脂固形分100質量部に対して0.1〜1.0質量部程度である。
【0018】
さらには本発明の深絞り食缶外面用塗料組成物には、通常塗料に使用されるレベリング剤、消泡剤、滑剤等の種々の添加剤を配合することもできる。
【0019】
本発明の深絞り食缶外面用塗料組成物は、定法により、例えばターボミル、分散攪拌機等の混合装置を使用して製造することができる。
【0020】
本発明の深絞り食缶外面用塗料組成物をトップコート層として、スチール製又はアルミ製深絞り食缶に適用することができる。スチール製又はアルミ製シートの外面に、下地層、印刷層等を設けた後に、例えば9インチコーター等によりローラー等を使用して、本発明の深絞り食缶外面用塗料組成物をトップコート層として塗布し、約180℃程度の温度で、約3分間といった加熱条件で焼付を行うことによって、目的とする硬化塗膜を形成することができる。
【0021】
こうして得られた塗膜は優れた光沢性、加工性、密着性等を備え、スチール製又はアルミ製深絞り食缶用トップコートとして好適なものである。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。特に指定のない限り、実施例中の、部、%は質量部、質量%を表す。
【0023】
(実施例塗料の調製)
固形分水酸基価13、固形分酸価2未満、数平均分子量11,000であるビスフェノールAを含有しないポリエステル樹脂66.4部、ビスフェノールAを含有しないブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂として、スーパーベッカミンL−701−60(数平均分子量840:大日本インキ化学製)を29.6部、ウエットインキ適性を付与するシリコーン助剤を0.5部、消泡性を付与する10%シリコーン助剤0.1部をバットタンクに精秤し、ターボミキサーにて分散攪拌をしながら60℃±5℃迄昇温させた。40℃程度まで自然放冷させた後、分散攪拌機付バットタンクで混合攪拌しながら、25%溶剤分散型耐磨耗剤を0.4部、10%溶剤分散型ワックスを2.0部、酸触媒0.3部を添加し、ソルベッソ100を1.0部加え粘度調整後、濾過器を通して実施例クリアー塗料(1)を得た。不揮発分:41.0%、粘度:70秒(25℃、フォードカップ#4)であった。
【0024】
(比較例塗料の調製)
ビスフェノールAを含有しないポリエステル樹脂として、ベッコライトM−6186−60(固形分水酸基価80、固形分酸価が1〜2、数平均分子量3、000:大日本インキ化学製)を49.7部、ビスフェノールAを含有しないブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂として、スーパーベッカミンL−750−60(数平均分子量950:大日本インキ化学製)を20.5部、同スーパーベッカミン17−508(数平均分子量950:大日本インキ化学製)を20.5部、ウエットインキ適性を付与するシリコーン助剤を0.6部、消泡性を付与するシリコーン助剤0.05部、ノルマルブタノールを4.0部、ソルベッソ100を3.0部、黄色ワセリンを0.2部、10%溶剤分散型ワックス1.55部をバットタンクに精秤し、ターボミキサーにて分散攪拌をしながら60℃±5℃迄昇温させた。40℃程度まで自然放冷させた後、分散攪拌機付バットタンクで混合攪拌しながらソルベッソ100を1.0部加え粘度調整後、濾過器を通して比較例用のクリアー塗料(2)を得た。不揮発分:48.0%、粘度:70秒(25℃、フォードカップ#4)であった。
【0025】
上記で得られた実施例、比較例の塗料組成物について、9インチテストコーターを使用して、製缶用のTFS素地板(ティンフリースチール板、厚さ0.19mm)の外面に、乾燥塗膜量が75mg/dmとなるように塗布した後、185℃で10分、180、190、200℃で3分間の4水準にて、熱風循環式ガスオーブンで加熱して硬化させた。得られた塗膜の厚さは約6μであった。下記の諸物性試験を行い、その結果を表1に示す。
【0026】
試験方法は下記の通りである。
(耐溶剤性試験)
テストパネル塗膜上に、試薬1級のアセトンで湿らせた脱脂綿を固定したゴム製アームを接触させ、荷重2kgで摺動し、素地に達する迄の往復回数で評価した。
【0027】
(RCA磨耗性試験)
RCA磨耗試験機(ノーマンツール社製)でテストパネル塗膜を擦り、素地に達した時の回数で評価した。
【0028】
(キャップ加工性試験)
12tonプレスにてキャップ加工試験を行った。
【0029】
(キャップ加工ロトマット試験)
12tonプレスにてキャップ加工後、加圧容器中でキャップを130℃の湯中に30分加圧浸漬した後、塗膜の状態を評価した。
【0030】
(折り曲性試験)
デュポン衝撃試験機を用い、1/10傾斜台で1kg−50cmの条件で加工後の塗膜の亀裂状態を評価した。
【0031】
(耐衝撃性試験)
1kg−10cm、20cm、30cmの条件で、デュポン衝撃試験後の塗膜の状態を評価した。
【0032】
加工性に関する上記評価項目について、評価基準は以下の通りである。
○:良好
△:やや不良
×:不良
【0033】
【表1】

【0034】
以上の結果から、本発明の、塗料組成物は、スチール製又はアルミ製深絞り食缶用外面のトップコート層として、焼付温度が180℃で、焼付時間が3分間と短時間焼付でも、既存の缶用塗料の10分間焼付品と同等以上の高性能を有し、且つ耐打ち抜き加工性、耐レトルト性、耐熱水浸漬蒸気処理性等の性能に優れることが分る。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の塗料組成物はスチールやアルミ板に塗装後、深絞り加工に耐える強靭な塗膜を形成することが可能であり、ツナ缶等の形態の食缶用途に広範に展開が可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール型由来原料を含まない、固形分水酸基価が5〜15、固形分酸価が2未満、数平均分子量が10,000〜12,000であるポリエステル樹脂、及び、ビスフェノール型由来原料を含まない、数平均分子量が1,200〜1,400であるブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂を含有することを特徴とする深絞り食缶外面用塗料組成物。
【請求項2】
前記したポリエステル樹脂成分100質量部に対する、前記したブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂の含有量が60〜70質量部である請求項1に記載の深絞り食缶外面用塗料組成物。
【請求項3】
食缶の側壁外面に、請求項1又は2に記載された深絞り食缶外面用塗料組成物の乾燥塗膜層を有することを特徴とする深絞り食缶。
【請求項4】
前記した深絞り食缶外面塗料組成物の乾燥塗膜量が40〜90mg/dmである請求項3に記載の深絞り食缶。




【公開番号】特開2006−335799(P2006−335799A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159231(P2005−159231)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】