説明

飲料製造方法および飲料製造装置

【課題】飲料の風味を損なうことなしに、飲料に形成された気泡を排除できるようにする。
【解決手段】飲料の脱気手段(3)と、気泡の破泡手段(5)とを具備する飲料製造装置(20)およびこの飲料製造装置による飲料製造方法が提供される。さらに、飲料の殺菌手段(10)を具備していてもよい。脱気手段は、デアレータ、不活性ガス・ストリッピング部、スタティックミキサのうちの少なくとも一つを含んでいてもよく、また破泡手段が、気泡の膜を破断可能なポンプであるようにしてもよい。さらに、破泡後の飲料内の溶存酸素量が0.5ppm以下であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料を製造する飲料製造方法およびこの方法を実施する飲料製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の市場においては様々な種類の飲料、例えば茶類飲料、果汁飲料、乳性飲料などが販売されている。これら飲料のうち、例えば茶類飲料については淹れ立ての状態、そして果汁飲料、乳性飲料などについては絞り立ての状態が最も風味が高いといわれている。ところが、飲料製造時または製造後において飲料内に混入した酸素、特に溶存気体中の溶存酸素が飲料内のビタミンCなどの特定の香味成分を酸化し、これにより、飲料の風味が次第に損なわれるようになる。従って、飲料内の溶存気体、特に溶存酸素を低減する方法が従来より提案されており、物理的な酸素除去方法としてはインジェクト法および塔フラッシング法など、ならびに化学的な方法としては脱酸剤の混入などが既に公知となっている。
【0003】
また、果汁飲料や乳性飲料はもちろんのこと、これら以外の飲料、例えば茶類飲料などであっても、容器内で長時間保存する場合には飲料中味を殺菌する必要がある。このような殺菌作用は、高温、例えば80℃から130℃の環境下で飲料を所定の時間だけ滞留させることにより行われている。しかしながら、殺菌時には飲料が高温下にさらされるので、酸素、特に飲料内の溶存酸素による酸化作用が促進され、これにより、特定の香味成分が同様に酸化されて、飲料の風味が損なわれるようになる。このような加熱殺菌時に風味が損なわれるのを避けるために、例えば特許文献1および特許文献2においては、牛乳や果汁等を含んだ飲料を不活性ガスで置換し、飲料内の溶存気体、特に溶存酸素を低下させた状態でこれら飲料を殺菌している。このような場合には、加熱殺菌時における飲料内の溶存酸素が少なくなっているので、酸化により飲料の風味が損なわれるのを最小限に抑えることが可能となる(例えば、特許文献1または特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−295341号公報(第1図)
【特許文献2】特開2001−78665号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、飲料内の溶存気体、特に溶存酸素を除去する場合、例えば前述したように飲料を不活性ガスによって置換する場合、または減圧室を備えたデアレータに飲料を通過させるなどの場合には多数の気泡が飲料内または飲料の液面上に多量に発生する。特に、不活性ガスにより置換される飲料がタンパク質および/または糖類を含んでいる場合には、これら成分によって極めて多量の気泡が形成されるようになる。このような場合には、多量の気泡のために飲料の一部が貯蔵タンクから溢れうると共に、飲料を配管系に通すのが物理的に困難となり、所定量の飲料を後工程に供給できなくなる。また、気泡を含む飲料を後工程に供給できたとしても、これら気泡は後工程の装置、例えば殺菌機などに付着し、これら装置の機能および処理効率が著しく低下する可能性もある。さらに一度脱気した気体、特に酸素が飲料に再度溶解する恐れがある。これに対して、多量の気泡が飲料と一緒に後工程に供給されるのを避けるために、例えば前述したデアレータ内の減圧室の圧力を通常の場合よりも高めるか、または置換に用いられる不活性ガスの供給量を少なくすることで気泡の発生を抑制することも考えられるが、このような場合には飲料内の溶存気体の飲料からの脱気量が低下するので好ましくない。
【0006】
また、不活性ガスによる置換後の飲料を例えば別のバッファタンク内に貯留した状態で気泡のみをバッファタンク上方に残しつつ、バッファタンクの下面から飲料を取出して後工程に供給することも想定される。しかしながら、気泡内の気体は飲料として不要であるものの、気泡を形成する膜自体は飲料の一部であるので、このような膜の液体部分は飲料として後工程に供給する必要がある。特に気泡の膜を形成している飲料の成分が、膜を形成していない液体部分の飲料の成分とは異なる場合には、最終的な製品としての飲料の成分および風味は当初に予定された成分および風味とは異なってくる可能性がある。
【0007】
さらに、飲料上の気泡が自然に消滅するのを待つこと、および飲料上の気泡に液体を噴霧してこれらを消滅させることも想定されるが、このような場合には短時間のうちに十分な消泡効果を得ることはできず、また、一度脱気した気体、特に酸素が飲料に再度溶解する恐れもあるので、通常の飲料製造ラインにおいて採用することはできない。
【0008】
そこで本発明者は上記課題を克服すべく鋭意研究を重ねた結果、飲料内の溶存気体を脱気し、脱気作用時に飲料に生じた気泡についてその膜と内部の気体とを分離すればよいとの知見を得て、飲料製造方法および飲料製造装置を構築し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、飲料の風味を損なうことなしに、飲料に形成された気泡を排除し、飲料内の溶存酸素を低減することができる飲料製造方法およびこの方法を実施する飲料製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために1番目に記載の発明によれば、飲料の脱気工程後に気泡の破泡工程を設けた、飲料製造方法が提供される。
【0011】
すなわち1番目の発明によって、飲料内の溶存気体を少なくできると共に、脱気時に生じた気泡を形成する膜内の気体と気泡の膜を形成していた液体とを分離できる。そして、気泡の膜を形成していた液体を飲料として回収することにより、飲料の風味を損なうことなしに、飲料に形成された気泡を排除し、飲料内の溶存酸素を低減させることができる。また、本発明においては気泡の膜を積極的に破断しているので、極めて短時間で消泡効果を得ることもできる。
【0012】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、さらに、前記破泡工程後に、気体の排出工程を設けた。
すなわち2番目の発明によって、飲料から生じた気体を確実に排出することができる。これにより、一度脱気した気体が飲料に再度溶解するのを防止でき、より確実に飲料内の溶存酸素を低減させることができる。
【0013】
3番目の発明によれば、1番目または2番目の発明において、さらに、前記飲料の殺菌工程を設けた。
すなわち3番目の発明によって、殺菌作用を加熱処理により行う場合であっても、加熱時に飲料内の溶存気体のうちの溶存酸素が飲料内の成分を酸化させるのを少なくすることができる。これにより、飲料の風味が損なわれるのがさらに妨げられる。
【0014】
4番目の発明によれば、1番目から3番目のいずれかの発明において、前記脱気工程後の飲料内の溶存酸素量が0.5ppm以下であるようにした。
すなわち4番目の発明によって、飲料内の溶存酸素量を前述したようにすることにより、溶存酸素が飲料内の成分を酸化させるのを最適に妨げることができる。
【0015】
5番目の発明によれば、1番目から4番目の発明において、前記飲料が泡立ちする性質の飲料である。
すなわち5番目の発明によって、飲料内の溶存気体を良好に飲料から脱気させ、気泡の膜を良好に破断することができる。
【0016】
6番目の発明によれば、飲料の脱気手段と、気泡の破泡手段とを具備する飲料製造装置が提供される。
すなわち6番目の発明によって、飲料内の溶存気体を少なくできると共に、脱気時に生じた気泡を形成する膜内の気体と気泡の膜を形成していた液体とを分離できる。そして、気泡の膜を形成していた液体を飲料として回収することにより、飲料の風味を損なうことなしに、飲料に形成された気泡を排除することができる。また、本発明においては気泡の膜を積極的に破断しているので、極めて短時間で消泡効果を得ることもできる。
【0017】
7番目の発明によれば、6番目の発明において、さらに、気体の排出手段を具備する。
すなわち7番目の発明によって、飲料から生じた気体を確実に排出することができる。これにより、一度脱気した気体が飲料に再度溶解するのを防止でき、より確実に飲料内の溶存酸素を低減させることができる。
【0018】
8番目の発明によれば、6番目または7番目の発明において、さらに、前記飲料の殺菌手段を具備する。
すなわち8番目の発明によって、殺菌作用を加熱処理により行う場合であっても、加熱時に飲料内の溶存気体のうちの溶存酸素が飲料内の成分を酸化させるのを少なくすることができる。これにより、飲料の風味が損なわれるのがさらに妨げられる。
【0019】
9番目の発明によれば、6番目ないし8番目の発明において、前記脱気手段が、デアレータ、不活性ガス・ストリッピング部、スタティックミキサのうちの少なくとも一つを含む。
すなわち9番目の発明によって、飲料内の溶存気体を良好に飲料から脱気させられる。
【0020】
10番目の発明によれば、6番目から9番目のいずれかの発明において、前記破泡手段が、気泡の膜を破断可能なポンプである。
すなわち10番目の発明によって、飲料内の気泡の膜を良好に破断することができる。
【発明の効果】
【0021】
各発明によれば、飲料の風味を損なうことなしに、飲料に形成された気泡を排除できるという共通の効果を奏しうる。
さらに、2番目の発明によれば、飲料から生じた気体を確実に排出できるという効果を奏しうる。
さらに、3番目の発明によれば、殺菌作用を加熱処理により行う場合であっても、加熱時に飲料内の溶存気体のうちの溶存酸素が飲料内の成分を酸化させるのを少なくすることができるという効果を奏しうる。
さらに、4番目の発明によれば、溶存酸素が飲料内の成分を酸化させるのを最適に妨げることができるという効果を奏しうる。
さらに、5番目の発明によれば、飲料内の溶存気体を良好に飲料から脱気させ、気泡の膜を良好に破断することができるという効果を奏しうる。
さらに、7番目の発明によれば、飲料から生じた気体を確実に排出できるという効果を奏しうる。
さらに、8番目の発明によれば、殺菌作用を加熱処理により行う場合であっても、加熱時に飲料内の溶存気体のうちの溶存酸素が飲料内の成分を酸化させるのを少なくすることができるという効果を奏しうる。
さらに、9番目の発明によれば、飲料内の溶存気体を良好に飲料から脱気させられるという効果を奏しうる。
さらに、10番目の発明によれば、飲料内の気泡の膜を良好に破断することができるという効果を奏しうる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一つの実施形態に基づく飲料製造装置の略図である。
【図2】本発明の飲料製造装置における一例としての破泡手段の長手方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同一の部材には同一の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺等を適宜変更している。
図1は本発明に基づく飲料製造装置の略図である。図1の飲料製造装置20においては内部で飲料を調合するための調合タンク1が図1の左方に示されている。本発明において調合タンク1内で調合される飲料は泡立ちする性質の飲料が望ましく、例えば、コーヒー、茶類飲料、清涼飲料、チューハイなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。調合タンク1は図1において実線で示す飲料用配管24により送液ポンプ2を介して脱気手段3に接続されている。脱気手段3は飲料内部に溶存している溶存気体、例えば溶存酸素を飲料内部から飲料外部まで脱出(以下、適宜「脱気」と称する)させる役目を果たす。図1に示される脱気手段3は、飲料内部に不活性ガス、例えば窒素ガスを供給することにより飲料の溶存気体、特に溶存酸素の量を低減させる不活性ガス・ストリッピング部を想定している。従って、図1に示される脱気手段3は不活性ガスライン21によって不活性ガス供給部4に接続されている。また、脱気手段3として、内部に減圧室を備えたデアレータを採用してもよく、この場合には飲料を減圧室に通過させる際に飲料内の溶存気体が飲料外に脱出するようになる。さらに、脱気手段3としてスタティックミキサを採用できるのは当業者であれば明らかである。すなわち、飲料内部の溶存気体を飲料外部まで脱出させられる他のあらゆる機構を脱気手段3として採用できる。従って、使用される脱気手段3の種類に応じて、不活性ガス供給部4および不活性ガスライン21を排除できると共に、後述するような真空ポンプ7および真空ライン23を脱気手段3に接続するようにしてもよい。
【0024】
さらに図1において脱気手段3は配管24により破泡手段5に接続されている。破泡手段5は後述するように脱気手段3において形成された気泡の膜を破断する役目を果たす。図1に示される破泡手段5は詳細に後述する破泡ポンプを想定しているので、破泡手段5は点線により示される真空ライン23によってドレインセパレータ6を介して真空ポンプ7まで接続されている。本形態において排出手段はドレインセパレータ6と真空ポンプ7とから構成されている。排出手段によって飲料から生じた気体を確実に排出することができる。また、圧力計13、14が脱気手段3と破泡手段5との間、および破泡手段5と後述する不活性ガス置換タンク8との間に設けられており、破泡手段5の前後段における配管24内の圧力を計測できるようになっている。さらに、図示されるように圧力計18が真空ライン23に設けられている。前述した脱気手段3の場合と同様に、気泡の膜を破断可能な他のあらゆる機構を破泡手段5として採用でき、破泡手段5の種類に応じて、ドレインセパレータ6、真空ポンプ7、不活性ガスライン21および圧力計13、14、18のうちのいずれかを排除等することもできる。
【0025】
図1に示されるように破泡手段5は配管24によって不活性ガス置換タンク8に接続されている。不活性ガス置換タンク8は別の不活性ガスライン22によって不活性ガス供給部4に接続されており、不活性ガス、例えば窒素が不活性ガス置換タンク8内に供給されるようになっている。さらに、不活性ガス置換タンク8の下部は配管24によって送液ポンプ9を介して殺菌手段10に接続されている。殺菌手段10においては飲料を所定の温度で所定の時間だけ滞留させることができる。次いで、殺菌された飲料は充填部11まで供給されて容器、例えば缶、ビン、ペットボトル、紙パックなどに充填される。
【0026】
図1から分かるように流量計12、15が送液ポンプ2と脱気手段3の間、および送液ポンプ9と殺菌手段10の間に設けられており、配管24内の飲料の流量を計測できるようになっている。また、図示されるように流量計16、17が不活性ガスライン21、22にそれぞれ設けられており、これら不活性ガスライン21、22内を流れる不活性ガス、例えば窒素の流量を計測できるようになっている。
【0027】
飲料製造装置20の動作時には、調合タンク1内で調合された飲料が送液ポンプ2によって調合タンク1から脱気手段3まで供給される。次いで、脱気手段3においては飲料内の溶存気体、例えば溶存酸素が脱気される。一例として、図1に示されるような不活性ガス・ストリッピング部を脱気手段3として使用した場合を説明する。この場合には脱気手段3はタンク状になっており、飲料はこのタンク内に蓄積されるようになる。次いで、不活性ガス供給部4内の不活性ガス、例えば窒素が不活性ガスライン21を通じて脱気手段3の飲料内に供給される。これにより、飲料が不活性ガスによって置換されるようになる。このとき、飲料内の溶存気体、例えば溶存酸素が不活性ガスの泡内に吸収される。そして、不活性ガスの泡は溶存気体を取り込んだ状態で飲料の液面まで浮上するので、飲料を不活性ガスにより置換した後は飲料内の溶存気体量は大幅に低下する。
【0028】
しかしながら、不活性ガスによる置換を行う不活性ガス・ストリッピング部を脱気手段3として採用した場合には溶存気体を取り込んだ不活性ガスの泡は飲料の液面近くまで浮上した後に消滅せず、気泡として飲料の液面上または液面下に留まることとなる。そして、不活性ガスによる置換を連続的に行うと、溶存気体を取り込んだ不活性ガスの気泡の数も連続的に増え、それにより、これら気泡は飲料の主に液面上に比較的厚い層をなして堆積するようになる。他の方式、例えばデアレータまたはスタティックミキサを脱気手段3として採用した場合であっても、不活性ガスを用いるか否かに関わらず、気泡からなる層が同様に形成される。
【0029】
ところで、このような気泡からなる層が飲料の液面上に形成されている場合には、飲料を後工程に供給するのが困難となるだけでなく、気泡が後工程装置、例えば殺菌手段10内部に付着してその装置の機能を害する場合がある。そして、気泡内部の気体は飲料として必要ないものの、気泡を形成する膜の部分は飲料として必要であり、これら気泡を気泡の膜と一緒に除去した場合には最終的な飲料の成分および風味が当初に予定していた成分および風味とは異なる場合がある。このため、本発明においては脱気手段3において形成した気泡の膜を破断するための破泡手段5を脱気手段3の下流側に設けている。なお、飲料を脱気手段3から破泡手段5まで適切に供給するために、脱気手段3と破泡手段5との間の配管24の内径を他の部分よりも大きくするか、または破泡手段5を脱気手段3に隣接して配置するのが好ましい。
【0030】
図2は本発明の飲料製造装置における一例としての破泡手段の長手方向断面図である。図2に示される破泡手段5は前述した気泡の膜を破断、すなわち破泡するための破泡ポンプ5の形態をなしている。図2に示されるように破泡ポンプ5の略円筒形状ケーシング31には入口部32と出口部33とが設けられている。入口部32は図1に示される配管24によって脱気手段3に接続されており、出口部33は配管24によって不活性ガス置換タンク8に接続されている。さらにケーシング31には吸引口35が形成されており、この吸引口35は図1に示される真空ライン23によって排出手段を構成するドレインセパレータ6及び真空ポンプ7まで接続されている。図2に示されるように、破泡ポンプ5はケーシング31内に回転軸部41を備えており、回転軸部41の先端43は吸引口35に対面するように配置されている。ケーシング31内部は仕切部材36によって第一室37と第二室38とに仕切られている。また、回転軸部41の基端は軸受34を介してケーシング31から突出すると共にモータ49に接続されている。図示されるように回転軸部41の先端43側に位置する第一室37内には分離羽根42が設けられており、回転軸部41の基端側に位置する第二室38には主羽根車44が設けられている。さらに、第二室38においては複数の略L字形状のインデューサ45が分離羽根42と主羽根車44との間に設けられている。
【0031】
破泡ポンプ5の動作時にはモータ49によって回転軸部41が回転する。そして多数の気泡を含んだ飲料が入口部32から破泡ポンプ5の第二室38内に供給される。インデューサ45を備えた回転軸部41が回転しているので、多量の気泡を含んでいる飲料の液体部分は遠心力によって略円筒状ケーシング31の内周面部分48に集積するようになる。一方、略円筒状ケーシング31の中心部分、すなわち回転軸部41周りは負圧になるので、飲料のうちの気泡部分は回転軸部41周りに集中するようになる。そして、吸引口35が真空ライン23に接続されているので、回転軸部41周りに集中した気泡は仕切部36と回転軸部41との間の間隙40を通って第二室38から第一室37まで移動するようになる。第一室37においては分離羽根42が回転軸部41周りに回転しており、これら分離羽根42には複数の孔46が回転軸部41の基端から先端43に向かう方向に形成されている。第一室37内に移動した気泡が吸引口35に向かって吸引される際に、気泡は分離羽根42の孔46を通過する。このとき、気泡が孔46の内壁に衝突することによって、気泡を形成する膜が破断される。これにより気泡は、気泡の膜を形成していた液体と気泡の膜内に閉じこめられていた気体とに分離されるようになる。次いで、これら液体および気体の両方は孔46を通って第一室37内の吸引口35付近まで移動するが、比較的質量の小さい気体のみが吸引口35を通って吸引され、比較的質量の大きい液体は第一室37内に留まることとなる。次いで、これら液体は図2の下方に示される第一室37と第二室38との間の隙間39を通って再び第二室38内に戻る。最終的に、第二室38内における飲料の液体部分は主羽根車44によって出口部33から流出し、図1に示される不活性ガス置換タンク8まで供給される。排出手段によって気体を完全に排出することにより、一度脱気した気体が再度溶解するのを確実に防止することができる。なお、排出手段としては、真空ポンプが望ましいが、飲料から生じた気体を排出できるものであれば、どのような構成であっても構わない。
【0032】
再び図1を参照すると、破泡手段5を通過した飲料は気泡をほとんど含んでない状態で不活性ガス置換タンク8に供給される。図示されるように不活性ガス供給部4内の不活性ガス、例えば窒素が不活性ガスライン22を通って不活性ガス置換タンク8の上部に供給されている。不活性ガス置換タンク8内に酸素を含んだ気体、例えば空気が存在する場合には飲料が酸化される可能性があるが、不活性ガス置換タンク8内に不活性ガスを供給することにより、飲料が酸素と接触するのを避けることができ、これにより、飲料の酸化を避けられる。なお、酸素の再溶解が起こりにくい等の場合、不活性ガス置換タンクに代えて、開放型タンクを使用しても構わない。
【0033】
次いで飲料は送液ポンプ9によって所定の流量で殺菌手段10に供給される。殺菌手段10においては飲料を所定の温度、例えば80℃から130℃において1分から20分程度滞留させ、これにより飲料が殺菌される。殺菌手段10における殺菌時には飲料を所定の流量で供給する必要があるものの、前述した不活性ガス置換タンク8をバッファタンクとして使用できるので所定の流量の飲料を殺菌手段10に確実に供給することができる。加熱処理により飲料を殺菌する場合には飲料内の溶存酸素が飲料内の特定の成分も酸化する可能性があるが、本発明においては脱気手段3において飲料の溶存気体、特に溶存酸素を少なくしているので、加熱殺菌時に飲料が酸化するのを避けることができる。最終的に飲料は殺菌手段10から充填部11まで供給され、容器、例えば缶、ビン、ペットボトル、紙パックなどに充填される。
【0034】
本発明の破泡手段5、例えば図2に示されるような破泡ポンプ5においては、飲料内に含まれる気泡を形成する膜を分離羽根42により積極的に破断している。そして破泡手段5において気泡の膜内に閉じこめられていた気体と、この膜を形成していた液体とを分離すると共に、気泡の膜を形成していた液体を飲料と一緒に回収している。前述したように気泡の膜を形成している飲料の成分が、膜を形成していない液体部分の飲料の成分とは異なる場合には最終的な製品としての飲料の成分および風味に不具合が生ずる可能性があるが、本発明においては気泡の膜を形成していた液体を飲料として回収しているので、飲料の風味を損なうことなしに、飲料に形成された気泡を排除し、飲料内の溶存気体を低減させることができる。さらに、このような破泡手段5においては気泡を形成する膜を積極的に破断しているので、極めて短時間のうちに消泡効果を得ることができ、これにより、飲料製造ラインの動作効率を低下させることなしに、この破泡手段5を飲料製造ラインに組入れることができる。なお、破泡手段5の一例として破泡ポンプを示しているが、破泡手段5は前述した破泡ポンプに限定されるものではなく、気泡を形成している膜を積極的に破断するあらゆる形態のものを含むものとする。
【実施例】
【0035】
緑茶葉30gを75℃の純水1050gで5分間抽出し、抽出液から茶葉を除き冷却後、遠心分離し、その後L−アスコルビン酸、炭酸水素ナトリウム、純水を加え4Lに調整した。その後、不活性ガスとして窒素(N2)を用いた不活性ガス・ストリッピング部を脱気手段3として使用し、窒素ガスフロー下で充填密封し、殺菌手段10において120℃、1分の条件で殺菌を行い製品とした。このときの溶存酸素量、ビタミンCの量、官能評価を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
脱気手段3による脱気を行わない「水準1」の場合には最終的な飲料の溶存酸素は約8ppmであった。表1内の「水準2」に示されるように窒素によるストリッピングを15分間行った場合の溶存酸素は約1.8ppmであり、「水準3」に示されるように窒素によるストリッピングを60分間行った場合の溶存酸素は約0.4ppmであった。つまり、脱気手段3による脱気、この場合には窒素ガスによるストリッピングを長時間にわたって行うほど、飲料内の溶存酸素が低下することが分かる。また、ビタミンCの量は脱気を行わない「水準1」の場合が最も低くなっており、これは脱気後の後工程、特に殺菌工程においてビタミンCが酸化分解により低減したためであると推定できる。これに対し、溶存酸素を少なくした「水準2」、「水準3」の場合にはビタミンCの低下は抑えられ、溶存酸素の少ない「水準3」の場合の方が「水準2」の場合よりもビタミンCの低下が小さくなっている。さらに、官能評価についてもビタミンCが多いほど、よい結果が得られている。この場合、溶存酸素が0.4ppm程度、余裕代をとる場合には溶存酸素量が0.5ppm以下であれば、官能的に優位な品質の飲料が得られることが分かる。
【0038】
また、表2は飲料として通常の水を採用した場合の破泡ポンプ前(破泡手段5前)における溶存酸素量を示している。表2においては不活性ガスとして窒素(N2)を用いた不活性ガス・ストリッピング部を脱気手段3として使用した。この脱気手段3に飲料を通過させる前の溶存酸素量は7.91ppmであった。
【0039】
【表2】

【0040】
脱気手段3における飲料の流量および窒素の流量を表2に示されるように種々に変更したところ、飲料の流量が大きいほど、溶存酸素量も大きいことが分かる。これは、飲料流量が大きい場合には飲料の脱気手段3内での滞留時間が小さくなるので、溶存酸素を十分に置換できないためであると推定できる。一方、窒素の流量が大きい場合には置換が促進されるので、飲料内の溶存酸素量は小さくなる。
【0041】
【表3】

【0042】
表3は表2と同条件における飲料の破泡ポンプ後(破泡手段5後)における溶存酸素量を示している。破泡ポンプは真空ポンプ7からの真空ライン23に接続されているので、表2の場合と比較すると溶存酸素量はわずかながら低下する傾向があるのが分かる。
【0043】
また、不活性ガスとして窒素(N2)を用いた不活性ガス・ストリッピング部を脱気手段3として使用したときの別の実施例を説明する。溶存酸素量約8ppmの緑茶調合液を送液ポンプ2によって調合タンク1から脱気手段3まで供給する。脱気手段3における窒素の流量は10L/min、飲料の流量は20L/minである。次いで破泡手段5として採用した破泡ポンプにおいて破泡処理を行った後の飲料を10Lだけ10L用メスシリンダに採取した。表4はこのときの溶存酸素量と泡立ちの割合(メスシリンダ内における泡高さ/メスシリンダの高さ)とを示している。
【0044】
【表4】

【0045】
表4に示されるように脱気手段3に供給する前は8ppmであった飲料内の溶存酸素量は、脱気手段3通過後(破泡ポンプ前)に0.27ppmまで低下し、さらに破泡ポンプ後においてもわずかながら低下して最終的には0.23ppmになっている。また破泡ポンプ前においてはメスシリンダ内の泡高さが22cmでメスシリンダ高さが45cmであるので泡高さの割合は約0.49である。これに対し、破泡ポンプ後においては泡高さは0cmであるので、泡高さの割合も0となっている。すなわち、この場合の破泡ポンプ、すなわち破泡手段5における処理によって飲料内の気泡をほぼ完全になくすことができたことが分かる。
【0046】
【表5】

【0047】
また、表5は脱気手段における処理前と破泡手段における処理後の飲料、すなわち緑茶調合液内のカフェインおよびカテキン類のエピガロカテキンガレート(以下、「EGCG」と称する)の量を高速液体クロマトグラフィーにより測定した結果を示している。表5から分かるように、処理の前後において香味に関わるカフェインおよびEGCGの量はほとんど変化していない。また官能結果において、どちらの場合においても大変良好な官能結果が得られている。つまり、本発明の破泡手段5においては気泡の膜を破断し、気泡の膜を形成していた液体を回収しているので、飲料の成分および風味に基づく官能結果が損なわれることはなく、極めて良い状態となっている。すなわち本発明の破泡手段5によって飲料の成分および風味が損なわれることはない。
【符号の説明】
【0048】
1 調合タンク
2 送液ポンプ
3 脱気手段
4 不活性ガス供給部
5 破泡手段
6 ドレインセパレータ
7 真空ポンプ
8 不活性ガス置換タンク
9 送液ポンプ
10 殺菌手段
11 充填部
12、15、16、17 流量計
13、14、18 圧力計
20 飲料製造装置
21、22 不活性ガスライン
23 真空ライン
24 飲料用配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
泡立ちする性質の飲料をその溶存酸素量が0.5ppm以下となるように脱気する脱気工程後に、
前記脱気工程において飲料に生じた気泡を破泡して前記気泡の膜を形成していた液体を前記飲料に戻す破泡工程を設け、
当該破泡工程により生じた気体を真空ポンプにより排出する排出工程を設け、
さらに、当該排出工程後の飲料を80℃から130℃において1分から20分程度滞留させる殺菌工程を設けた、飲料製造方法。
【請求項2】
さらに、前記殺菌工程前に、前記飲料を不活性ガス置換タンク内に供給する工程を設けた請求項1に記載の飲料製造方法。
【請求項3】
前記飲料が、ビタミンCを含む茶飲料である請求項1または2に記載の飲料製造方法。
【請求項4】
泡立ちする性質の飲料をその溶存酸素量が0.5ppm以下となるように脱気する脱気手段と、
前記脱気手段により飲料に生じた気泡を破泡して前記気泡の膜を形成していた液体を前記飲料に戻す破泡手段と、
当該破泡手段により生じた気体の排出手段と、を含み、該排出手段は真空ポンプを備えており、
さらに、
前記排出手段により前記気体が排出された飲料を80℃から130℃において1分から20分程度滞留させる殺菌手段とを含む、飲料製造装置。
【請求項5】
前記脱気手段が、デアレータ、不活性ガス・ストリッピング部、スタティックミキサのうちの少なくとも一つを含む請求項4に記載の飲料製造装置。
【請求項6】
前記破泡手段が、気泡の膜を破断可能なポンプである請求項4または5に記載の飲料製造装置。
【請求項7】
前記飲料が、ビタミンCを含む茶飲料である請求項4から6のいずれか一項に記載の飲料製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−166931(P2010−166931A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100016(P2010−100016)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【分割の表示】特願2003−345981(P2003−345981)の分割
【原出願日】平成15年10月3日(2003.10.3)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】