説明

駆動ベルトを製造する方法、駆動ベルト、及びこのような駆動ベルトを有する連続可変トランスミッションを作動させる方法

本発明は、2つのプーリと、該プーリの周囲に巻き付けられておりかつ該プーリと摩擦接触した駆動ベルトとを有しており、該駆動ベルトの無端引張り手段に設けられた多数の横断エレメントを有しており、該横断エレメントが、0.7質量%よりも多い炭素を含む鋼から形成されている、連続可変トランスミッションのための駆動ベルトを製造する方法であって、横断エレメントをまずオーステナイト化し、次いで焼入れすることによって、鋼製の横断エレメントを硬化させる方法に関する。本発明によれば、焼入れの後に、横断エレメントが、さらなる熱処理を行うことなく駆動ベルトに組み込まれるか、又は駆動ベルトに組み込まれる前に175℃〜225℃の温度で60分未満の間、好適には10分未満の間、焼戻しのさらなる熱処理が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の請求項1の前提部に記載の連続可変トランスミッションのための駆動ベルトを製造する方法に関し、ベルト及びトランスミッションは、例えば欧州特許出願公開第0626526号明細書及び欧州特許出願公開1167829号明細書のそれぞれから公知である。
【0002】
公知の駆動ベルトは、鋼製の横断エレメントを有するいわゆるプッシュベルトタイプのものであり、前記横断エレメントは、横断エレメントを拘束及び案内するという一次的な機能を有する無端の、すなわち環状の引張り手段の周囲に沿って摺動可能に設けられている。公知のベルトの横断エレメントは、0.7〜0.8質量%の炭素と、0.35〜0.55質量%のクロムとを含んだ炭素含有鋼75Cr1から形成されている。通常、無端引張り手段は、相互に内外に嵌合させられた、すなわち半径方向に積層された平坦で薄い金属の多数のリング若しくは帯の、2つのセットから成っている。
【0003】
公知のトランスミッションは2つのプーリを有しており、各プーリには、2つの大部分が円錐形のディスクが設けられている。トランスミッションにおいて、個々の締付け力の影響を受けて個々のプーリの円錐形の鋼製ディスクの間にベルトを締め付けることによってトルクが一方のプーリから他方のプーリへ伝達され、この目的のためにプーリの少なくとも一方のディスクはアクチュエータによって軸方向に可動に設けられている。前記トルクの伝達は、駆動プーリの回転運動をベルトに摩擦によって伝達することによって実現され、ベルトの横断エレメントには、プーリのディスクに接触するための軸方向接触領域が設けられている。他方のプーリ、すなわち被駆動プーリには、駆動プーリの前記回転運動に従う力が前記ベルトから被駆動プーリのディスクに摩擦によって伝達される。トランスミッションの作動中、合成油等の潤滑及び/又は冷却剤がベルト及びプーリに継続的に提供され、ベルトとプーリとの摩擦接触により生じる熱を除去する。
【0004】
互いに対する各プーリにおける締付け力を変化させることによって、各プーリにおいてベルトが走行する半径を変化させることができる。このような半径の間の数学的比率は、いわゆるトランスミッションの幾何学的な比を表し、これに対して、プーリの回転速度の比はトランスミッションの速度比を表す。
【0005】
ベルトの慣用の製造方法の一部として、その例が欧州特許出願公開第1233207号明細書によって提供されている。鋼製の横断エレメントは、焼入れ硬化の慣用のプロセスによって硬化させられ、このプロセスは、オーステナイト化、焼入れ、及び焼戻しのステップを含んでいる。焼戻しの処理ステップは、脆性を低減しかつ/又は焼入れ硬化された鋼の延性及び疲労特性を高めるために含まれている。焼戻しプロセスステップの結果、65HRC〜68HRC(ロックウェルCスケール硬さ)に達する焼入れのプロセスステップ直後の硬さ値と比較して、硬さも低下させられ、これに対して、焼戻しの後には横断エレメントの硬さは58〜62HRCの値で示される。
【0006】
焼戻しは、約200℃の適度な温度で行われるので、焼戻しは比較的ゆっくりとして時間のかかるプロセスステップである。例えば、75Cr1の公知の焼入れ硬化プロセスにおいて、鋼ベース材料の微細構造をフェライトからオーステナイトへ変換するための横断エレメントの鋼を十分に加熱するプロセスステップ、すなわちオーステナイト化のプロセスステップと、その後の、オーステナイトをマルテンサイトに変換するための急速冷却のプロセスステップ、すなわち焼入れのプロセスステップとは、約数分で行うことができ(誘導加熱が提供される場合にはさらに短い)、これに対して、焼戻しは一時間から数時間かかる。従って、焼戻しのプロセスステップは、駆動ベルト製造方法全体の効果及び/又は効率に対して著しい制約的影響を与える。しかしながら、このステップは、前記駆動ベルトの用途によって要求されるような十分な強度、延性、及び耐疲労性を横断エレメントに提供するためには必須であると考えられる。
【0007】
上記慣習を離脱して、焼入れ硬化されたが焼戻しされていない横断エレメントと、このような横断エレメントを有する駆動ベルトとを用いて、複数の摩耗及び疲労試験が行われた。これらの試験は本発明の基礎となっている。これらの試験は驚くべき結果を示した。つまり、これらの後者の駆動ベルト、若しくはその横断エレメントは、結局、連続可変トランスミッションにおける意図された用途のために十分な疲労強度を示した。この見込みがある結果に基づき、そのために必要とされる条件を決定するためにさらなる試験が行われた。
【0008】
この最も遠くに到達する実施の形態において、本発明は、横断エレメントを焼き戻すプロセスステップが完全に省略される、つまり横断エレメントはあらゆるさらなる熱処理を受けることなく駆動ベルトに組み込まれるという、駆動ベルト製造方法を提供する。横断エレメントを有するこのような新たに組み立てられた駆動ベルトは、少なくとも最初は、65HRC、好適には68HRC未満の硬さ値を有している。
【0009】
本発明によれば、トランスミッションにおける新規の駆動ベルトの通常の使用中に、横断エレメントの鋼の焼戻しが生じることが分かった。明らかに、トランスミッションにおけるこのような焼戻しは作動中に駆動ベルトとプーリとの摩擦接触において不可避に生ぜしめられる熱の結果として、十分に迅速にかつ十分な程度に生じる。本発明によれば、単に、焼戻しのプロセスステップを1時間未満に、より好適には10分未満に短縮することが選択されてもよい。いずれの場合にも、焼戻しは、175〜225℃の温度で行われる。この形式において、従来提供されている焼戻しの、全体的な横断エレメント硬化プロセスの継続時間への大きな不利益な影響を有するこのようなプロセスステップなしに、硬さ増大と、延性又は疲労強度の増大とが実現される。この場合、新たに組み立てられた駆動ベルトは、62HRC〜65HRCの初期硬さ値を有する横断エレメントを有している。前記のように、このような新規の駆動ベルトは、トランスミッションにおける、駆動ベルト、すなわちこのような横断エレメントを有する駆動ベルトの使用中に生じる横断エレメントの鋼の焼戻しに依存する。
【0010】
好適には、前記駆動ベルト製造方法のいずれか1つにおいて、前記焼入れのステップは、75〜125℃、好適には約100℃の温度に加熱された媒体、液体(油)又は気体(空気;窒素ガス)による横断エレメントの冷却を必然的に伴う。さらに、前記駆動ベルト製造方法のいずれか1つにおいて、前記オーステナイト化ステップは、好適には、吸熱型変成ガス(endogas)、天然ガス、プロパン及び/又はアンモニアを含む雰囲気等の、炭素及び/又は窒素提供雰囲気において行われる。この形式において、前記オーステナイト化と同時に、横断エレメントの表面層に、炭素、窒素又は炭素及び窒素原子が注入される。つまり、炭化、窒化、又は浸炭窒化がそれぞれ前記オーステナイト化と同時に生じる。この形式において、横断エレメントに、炭素及び/又は窒素が豊富な表面層が形成される。これにより、横断エレメントの耐摩耗性が高まり、横断エレメントの機械的特性が概してこれにより高められ、特に本発明による前記焼戻しステップを短縮又は完全に省略することに関連した欠点が、軽減又は有効に除去される。特に、前記炭化、窒化、又は浸炭窒化のプロセス、すなわち、前記オーステナイト化ステップは、850〜1050℃で行われ、好適には1〜4時間継続する。
【0011】
本発明のより詳細な実施の形態において、本発明による駆動ベルトを有するトランスミッションの作動中に、駆動ベルト及び/又はプーリに導入される冷却剤の流れの温度は75〜100℃、好適には80〜95℃、より好適には約90℃であることが規定される。冷却剤のこのような温度において、駆動ベルトとプーリとの間の摩擦接触が、横断エレメントの急速な、しかし過剰ではない焼戻しを実現するために十分に高くなる。駆動ベルト、すなわちこのような駆動ベルトを有するトランスミッションが初期作動させられると即座に、横断エレメントの硬さ値は、初期値から62HRC以下の所要の値に低下した。その後、トランスミッション、又はトランスミッションが使用されている自動車を使用し続ける間、横断エレメントの硬さの制限された、概して許容できるさらなる劣化のみが生じることが分かった。これは、少なくとも鋼製プッシュベルトタイプ駆動ベルトの典型的な自動車用途、すなわち乗用車におけるものである。
【0012】
本発明は、供給流における冷却剤の温度が前記範囲の値に調節される、ベルトへの冷却剤の流れを供給することによってトランスミッションの駆動ベルトを冷却するための冷却装置が設けられた連続可変トランスミッションを作動させる方法にも関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのプーリと、該プーリの周囲に巻き付けられておりかつ該プーリと摩擦接触した駆動ベルトとを有しており、該駆動ベルトの無端引張り手段に設けられた多数の横断エレメントを有しており、該横断エレメントが、0.7質量%よりも多い炭素を含む鋼から形成されている、連続可変トランスミッションのための駆動ベルトを製造する方法であって、横断エレメントをまずオーステナイト化し、次いで焼入れすることによって、鋼製の横断エレメントを硬化させる方法において、焼入れの後に、横断エレメントが、さらなる熱処理を行うことなく駆動ベルトに組み込まれるか、又は駆動ベルトに組み込まれる前に175℃〜225℃の温度で60分未満の間、好適には10分未満の間、焼戻しのさらなる熱処理が行われることを特徴とする、連続可変トランスミッションのための駆動ベルトを製造する方法。
【請求項2】
横断エレメントが、0.7〜0.8質量%の炭素と、0.35〜0.55質量%のクロムとを含有する75Cr1鋼から形成されている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記焼入れのステップが、75〜125℃、好適には約100℃の温度を有する媒体によって横断エレメントを冷却することを伴う、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記オーステナイト化のステップを、吸熱型変成ガス、天然ガス、プロパン、及び/又はアンモニアを含有する雰囲気等の、炭素及び/又は窒素を提供する雰囲気中で行う、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
2つのプーリと、駆動ベルトとを有し、該駆動ベルトが、該駆動ベルトの無端引張り手段に設けられた多数の鋼製の横断エレメントを有している、連続可変トランスミッションのための駆動ベルトにおいて、横断エレメントが65HRCよりも高い硬さ値を有することを特徴とする、連続可変トランスミッションのための駆動ベルト。
【請求項6】
2つのプーリと、駆動ベルトとを有し、該駆動ベルトが、該駆動ベルトの無端引張手段に設けられた多数の横断エレメントを有しており、該横断エレメントが、0.7質量%よりも多い炭素を含有する鋼から形成されている、連続可変トランスミッションのための駆動ベルトにおいて、前記横断エレメントが、62HRCの硬さ値を有していることを特徴とする、連続可変トランスミッションのための駆動ベルト。
【請求項7】
横断エレメントが、68HRC未満の硬さ値を有する、請求項5又は6記載の駆動ベルト。
【請求項8】
前記横断エレメントが、0.7〜0.8質量%の炭素と、0.35〜0.55質量%のクロムとを含有する75Cr1鋼から形成されている、請求項5から7までのいずれか1項記載の駆動ベルト。
【請求項9】
前記横断エレメントに、炭素及び/又は窒素が富化された表面層が設けられている、請求項5から8までのいずれか1項記載の駆動ベルト。
【請求項10】
可変幅の事実上V字形の周方向溝を形成した2つのプーリと、該プーリの周囲に巻き付けられかつ該プーリと摩擦接触しておりかつ無端引張り手段に設けられた多数の鋼製の横断エレメントを有する駆動ベルト、特に請求項5から9までのいずれか1項記載の駆動ベルトと、駆動ベルト及び/又はプーリに冷却剤の流れを供給することによって駆動ベルトを冷却するための冷却装置とを有する連続可変トランスミッションを作動させる方法において、前記冷却剤の温度が、75℃〜100℃、好適には80℃〜100℃、より好適には約90〜95℃に維持されることを特徴とする、連続可変トランスミッションを作動させる方法。

【公表番号】特表2012−510591(P2012−510591A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538577(P2011−538577)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050758
【国際公開番号】WO2010/062167
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】