説明

駆動力配分装置

【課題】副変速機の切換えと摩擦クラッチのクラッチ押付力とに対する応答性を改良した駆動力配分装置を提供する。
【解決手段】駆動力配分装置は、シフトカム37及び摩擦クラッチ駆動用カム60間に相対回転可能に同軸配置された回転駆動部材81と、回転駆動部材81の回転方向と直交する方向に回転可能に設けられ、シフトカムと連動する位置、及び摩擦クラッチ駆動用カム60と連動する位置に切換えられるラチェットレバー87とを備えている。シフトカム37が高速段にあって所定の位置から一方側に回転駆動したとき摩擦クラッチ41の押付力を調整し、一方側とは逆方向に回転駆動したときシフトカム37と連動してシフトカム37を低速段へと回転し、主出力軸6と副出力軸7とを直結する機構110,111を介して低速段を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前後輪間又は車両の左右輪間に駆動力を配分制御する駆動力配分装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、副変速機の切換えと摩擦クラッチのクラッチ押付力とを単一のモータで制御する4輪駆動車用の駆動力配分装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載された駆動力配分装置は、モータで駆動される駆動軸上に、副変速機構切換え用のシフトフォークとボールカム駆動用の平歯車とを同軸に固定配置している。このシフトフォークと平歯車とは、モータ駆動軸に設けられたカムフォロアにより駆動されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−249974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、摩擦クラッチが係合するクラッチストローク量まで早く移動することが望まれる。そのため、摩擦クラッチを係合させる場合には、高い回転数までモータを加速する必要がある。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1記載の駆動力配分装置は、副変速機構切換え用のシフトフォーク(シフトカム)とボールカム駆動用(摩擦クラッチ駆動用)の平歯車とを直結して一体に回転駆動する構造となっているため、シフトカムの回転角が限られ、摩擦クラッチ駆動のための十分なモータ回転角が確保できない。そこで、小さなモータ回転角で摩擦クラッチが係合するクラッチストロークを確保しようとすると、モータの電流が大きくなるという問題がある。これを回避するためにモータの減速比を大きくすると、モータ出力の伝達効率が落ちるため、応答性が悪化するという問題を有している。
【0007】
本発明の目的は、副変速機の切換えと摩擦クラッチのクラッチ押付力とに対する応答性を改良した駆動力配分装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明は、入力軸への動力を少なくとも高速段と低速段の2段に切換えて主出力軸へ伝達する副変速機と、前記主出力軸の動力を副出力軸に伝達する摩擦クラッチと、アクチュエータの出力軸に固定された回転駆動部材と、前記回転駆動部材の一端部に相対回転可能に同軸に配置され、前記摩擦クラッチの押付力を変化させる摩擦クラッチ駆動用カムと、前記回転駆動部材の他端部に相対回転可能に同軸に配置され、前記アクチュエータの回転運動を直線運動に変換して前記副変速機をシフトさせるシフトカムと、前記副変速機が低速段にあるとき前記主出力軸と前記副出力軸とを直結する機構と、前記回転駆動部材の外面の法線方向の軸線を回転中心として設けられ、前記摩擦クラッチ駆動用カムと連動する位置、及び前記シフトカムと連動する位置に切換えられるラチェットレバーとを備えてなり、前記シフトカムが高速段にあって、前記回転駆動部材が前記シフトカムの制御原点を起点とした所定の位置から一方側に回転駆動したとき、前記摩擦クラッチ駆動用カムと連動して前記摩擦クラッチの押付力を調整し、前記回転駆動部材が前記一方側とは逆方向に回転駆動したとき、前記ラチェットレバーにより前記シフトカムと連動して前記シフトカムを低速段へ回転させ、前記直結する機構を介して低速段を維持することを特徴とする駆動力配分装置にある。
【0009】
[2]上記[1]記載の発明にあって、前記ラチェットレバーは、前記シフトカムに形成されたラチェット溝と噛み合って前記シフトカムを回転させる駆動爪と、前記摩擦クラッチ駆動用カムに設けられた駆動ピンに当接することで、前記駆動爪を前記ラチェット溝と噛み合わない開放位置に回転して退避させる腕部とを一体に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、副変速機の切換えと摩擦クラッチのクラッチ押付力とに対する優れた応答性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係わる典型的な実施の形態であるトランスファの一構造例を概略的に示す断面図である。
【図2】(a)〜(d)は4WD解除用シフトフォークの一作動例を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明のトランスファに好適に用いられるシフト・クラッチ制御機構を示す分解斜視図である。
【図4】本発明のシフト・クラッチ制御機構に好適に用いられる回転駆動部材の斜視図である。
【図5】(a)は本発明のシフト・クラッチ制御機構の組立状態を示す説明図であり、(b)〜(d)はシフト制御の説明図である。
【図6】(a)は本発明のシフト・クラッチ制御機構の組立状態を示す説明図であり、(b)はクラッチ制御の説明図である。である。
【図7】本発明のシフト・クラッチ制御機構に好適に用いられるチェック機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0013】
(トランスファの全体構成)
図1において、全体を示す符号1は、この実施の形態に係る典型的なトランスファの全体構成を概略的に示している。図示例によるトランスファ1は、例えばFR(フロントエンジン、リヤドライブ)方式をベースにした四輪駆動(4WD)車に適用されるものである。
【0014】
このトランスファ1は、図1に示すように、フロントケース2及びリアケース3からなるトランスファケースを有している。このフロントケース2の前側部位には、図示しないエンジンからの回転を同じく図示を省略した自動変速機あるいは手動変速機を介して入力する入力軸4がベアリング5を介して回転可能に固定支持されている。この入力軸4には、フロントケース2内に同軸的に配された副変速機20を介してリアケース3内に同軸的に配された主出力軸である後輪出力軸6が直結されている。
【0015】
このトランスファケースの後輪出力軸6と平行な部位には、図1に示すように、主出力軸に対する副出力軸となる前輪出力軸7が設けられている。この後輪出力軸6の同一軸上には、駆動スプロケットギヤ8が設けられている。一方の前輪出力軸7の同一軸上には、駆動スプロケットギヤ8に対する従動スプロケットギヤ9が設けられている。この駆動スプロケットギヤ8、及び従動スプロケットギヤ9の間には、環状のチェーン10が掛け回されている。
【0016】
この副変速機20は、図1に示すように、入力軸4に入力するエンジンの駆動力をシフト機構30により高速段Hと低速段Lとの走行変速切換えを行う。このシフト機構30は、副変速機20の遊星歯車機構に同軸的に配されたH−L切換え用のクラッチスリーブ31を備えている。
【0017】
この遊星歯車機構は、図1に示すように、入力軸4の外周に形成された高速用ギヤ(サンギヤ)21と、フロントケース2に固定されたリングギヤ22と、このサンギヤ21の外周に噛み合うとともに、リングギヤ22の内周に噛み合う複数のピニオンギヤ(プラネタリギヤ)23,…,23とを備えている。複数のピニオンギヤ23は、同一の位相差をもって配された支軸24を介して円形のキャリアケース25に自転可能に固定支持されている。このキャリアケース25は、サンギヤ21と相対回転可能に入力軸4の軸回りに固定支持されている。このキャリアケース25の後端部には、内スプライン(歯部)26aを有する円形のリング体26が一体に固定されており、支軸24の両端がキャリアケース25と円形のリング体26とに支持固定されている。
【0018】
低速状態においては、クラッチスリーブ31のスプラインが高速用ギヤ21から脱することで、リング体26の内スプライン26aにクラッチスリーブ31のスプラインをスプライン係合させ、ピニオンギヤ23から伝達された回転動力が、低速回転駆動力として後輪出力軸6に伝達される。
【0019】
一方、図1に示す高速状態においては、クラッチスリーブ31のスプラインと高速用ギヤ21とが互いに噛合して連結されており、入力軸4の回転駆動力が、高速回転駆動力として入力軸4から駆動スプロケットギヤ8、前輪駆動用チェーン10、及び従動スプロケットギヤ9を介して後輪出力軸6に伝達される。
【0020】
後輪出力軸6の同一軸上には、図1に示すように、4WDモードにおける前後輪駆動力の配分制御を行う駆動力配分装置の一部を構成する摩擦クラッチ装置40が設けられている。トランスファケースには、副変速機20のシフト機構30の作動、及び摩擦クラッチ装置40の作動を制御する駆動源となるアクチュエータ70が設けられている。このアクチュエータ70には、モータのトルクを増幅する減速機71が内蔵されている。その減速機71による回転駆動は、アクチュエータ出力軸72を介してシフト機構30及び摩擦クラッチ装置40に伝達される。
【0021】
(シフト機構の構成)
このシフト機構30は、図1に示すように、H−L切換え用のH−Lフォーク本体32及び摺動ホルダ33がコイルバネ34を介して相対移動可能な二部材により主に構成されている。このH−Lフォーク本体32の一側は、シフトロッド35に移動可能に挿通支持されている。このH−Lフォーク本体32の他側には、H−L切換え用のクラッチスリーブ31に係合した二股状のフォークが延出されている。H−Lフォーク本体32の幅方向両側に相対する立設側壁の内面には、内方に膨出した細長い柱状の一対のバネ荷重受部32a,32aがシフトロッド軸方向両側にそれぞれ形成されている。
【0022】
一方の摺動ホルダ33は、図1に示すように、シフトロッド35と同軸上に挿通支持される一対の摺動脚部33a,33aを介してH−Lフォーク本体32に相対移動可能に設けられている。この摺動脚部33aは、H−Lフォーク本体32のバネ荷重受部32a間の間隔より小さく設定されるとともに、この一対の摺動脚部33aの間の間隔は、H−Lフォーク本体32の長さ方向両側一対のバネ荷重受部32a間の間隔に略等しく設定されている。
【0023】
この一対の摺動脚部33aの対向内面には、図1に示すように、一対の円形のワッシャ36,36がシフトロッド35と同軸上に配されている。このワッシャ36には、H−Lフォーク本体32の幅方向両側一対のバネ荷重受部33a間の間隔より大径に形成されている。この一対の摺動脚部33a及びワッシャ36は、コイルバネ34の両端を保持するバネ保持機能と、コイルバネ34を作動させるバネ作動機能とを兼ね備えている。H−Lフォーク本体32のバネ荷重受部32aと摺動ホルダ33の摺動脚部33aとの相対移動で生じるコイルバネ34の圧縮力及び復元力によってシフト操作力を蓄積する待ち機構が構成される。
【0024】
この摺動ホルダ33の長さ方向一端部には、図1に示すように、シフトロッド35に沿って延びるアーム部33bが一体に形成されている。このアーム部33bの先端部には円柱状のシフターピン33cが突出して支持されている。このシフターピン33cは、シフトカム37の回転運動をシフト機構30の直線運動に変換するカム溝37a内に摺動自在に所定の間隙をもって遊嵌されている。シフターピン33cは、アーム部33bを介してH−Lフォーク本体32よりもシフトカム37側に配置される構成となっており、装置内の狭小な設置空間を合理的に使用することができる。
【0025】
このシフトカム37は、図5及び図6に示すように、エンドレスのカム溝ではなく、H−L間を往復する1本のカム溝37aが形成されている。シフトカム37の回転運動は、カム溝37aの傾斜部に沿って移動するシフターピン33cを介して摺動ホルダ33へと伝達され、摺動ホルダ33の直線運動に変換される。この直線運動は、コイルバネ34を介してシフトロッド35に沿ってH−Lフォーク本体32を直線運動させる。
【0026】
図示例では、シフトカム37の左方向180°の回転で、シフターピン33cを副変速機20の高速段H位置及び低速段L位置の切換えに必要な軸方向のシフト量だけ移動させる。このH−Lフォーク本体32の直線運動により、H−Lフォーク本体32を介して副変速機20のサンギヤ21とピニオンギヤ23との間で駆動力の連結・切断を行うクラッチスリーブ31をシフトさせ、高速と低速の切換えが行われる。
【0027】
(摩擦クラッチ装置の構成)
この摩擦クラッチ装置40は、図1に示すように、環状をなす多板式の摩擦クラッチ41の接断動作を制御する。この摩擦クラッチ41は、環状のクラッチハブ42を後輪出力軸6に固定するとともに、環状のクラッチドラム43を後輪出力軸6に回転可能に支持した駆動スプロケットギヤ8に連結している。
【0028】
2輪駆動(2WD)の際には摩擦クラッチ41の締結が解除され、入力軸4の回転は、副変速機20を介して後輪出力軸6に伝達される。一方、4WDの際には、摩擦クラッチ41が締結状態となり、入力軸4からの駆動力が後輪出力軸6、摩擦クラッチ41、駆動スプロケットギヤ8、前輪駆動用チェーン10、及び従動スプロケットギヤ9を介して前輪出力軸7へと伝達される。
【0029】
この摩擦クラッチ装置40は、図1に示すように、後輪出力軸6と同一軸上に移動可能な環状のクラッチ押付部材44と、アクチュエータ70の回転運動を直線運動に変換し、クラッチ押付部材44に軸方向変位を付与するボールカム機構50とを備えている。
【0030】
このボールカム機構50は、図1及び図2に示すように、摩擦クラッチ41のクラッチ締結力を無段階に制御する。ボールカム機構50には、後輪出力軸6と同一軸上に反力側のカムプレート(反力カムプレート)51、及び駆動側のカムプレート(駆動カムプレート)52により構成された一対のボールカムが設けられている。この反力カムプレート51は、スラスト軸受53を介して環状の固定部材54に固定されている。一方の駆動カムプレート52は、スラスト軸受55を介してクラッチ押付部材44に当接して連結されている。
【0031】
この反力カムプレート51は、図2に示すように、アクチュエータ出力軸側に向けて延在する自由端部を位置決めロッド11に支持されている。この位置決めロッド11は、アクチュエータ出力軸72と同軸上に回転可能に支持された摩擦クラッチ駆動用の板カム60の逆回転を阻止するストッパとしての機能をも有している。一方の駆動カムプレート52は、反力カムプレート51とは所定角度の位相差をもってアクチュエータ出力軸側に向けて延在する先細り状のアーム部52aが一体形成されている。そのアーム部52aの先端部分にはカムフォロア56が回転自在に軸支されている。そのカムフォロア56は、板カム60のカム面に常時接触されており、アクチュエータ70の回転をボールカム機構50に伝達するようになっている。
【0032】
この摩擦クラッチ41を締結する場合は、板カム60がアクチュエータ出力軸72の軸心回りに正回転方向に右回転することで、駆動カムプレート52が反力カムプレート51に対して一定方向に回転駆動される。この駆動カムプレート52が回転駆動すると、駆動カムプレート52は、ボールカム溝内のボール57による押圧を受けながら、後輪出力軸6の軸方向に移動する。駆動カムプレート52が移動すると、クラッチ押付部材44は、後輪出力軸6の軸方向に押されて摩擦クラッチ41を押圧することで、アクチュエータ70の回転量に応じてクラッチ押付力を増加させる。
【0033】
一方、摩擦クラッチ41の締結を解除する場合は、上記操作とは逆に板カム60が回転することで、上記操作と逆の操作を行うこととなる。これにより、板カム60の外面に形成されたカム面の形状に対応する変化パターンで、摩擦クラッチ41のクラッチ押付部材44を移動させることができる。
【0034】
上記実施の形態に係るトランスファ1の構成によると、以下の効果が得られる。
【0035】
(1)ボールカム機構50の駆動カムプレート52は、カムフォロア56が板カム60のカム面にならって回転駆動するので、ピニオンギヤにより駆動カムプレートを回転駆動する構成と比べて、摩擦クラッチ41のクラッチプレート間が離間しているクラッチ締結解除状態からクラッチ締結状態へ移る際の長い移動距離をアクチュエータ70による小さい回転角度で移動させることが可能となる。
(2)H−Lフォーク本体32のシフトロッド軸方向の長さは、摺動ホルダ33の摺動脚部33aがH−Lフォーク本体32のバネ荷重受部32aを通過する移動ストロークを確保するとともに、摺動ホルダ33及びコイルバネ34の組み付けに必要な最小限の内部空間を有するH−Lフォーク本体32を形成することができる。H−Lフォーク本体32の小型化と短縮化という二つの利点を併せ持つシフト機構30を得ることができる。
【0036】
(4Lメカロックモード機構の構成)
この実施の形態の一つの主要な基本構成は、図1に示すように、副変速機20のシフト機構30にあり、副変速機20が低速段L(4Lポジション)にあるとき後輪出力軸6と前輪出力軸7とを直結する機構を、H−Lフォーク本体32と前輪駆動用チェーン10の駆動スプロケットギヤ8との間の駆動伝達経路上に配置したことにある。
【0037】
この直結機構は、高速段Hで走行する場合に4WDロックを解除する4WDロック解除用シフトフォーク(4WD解除用フォーク)110と4WDロック解除用シフトロッド(4WD解除用シフトロッド)111とを備えている。クラッチスリーブ31を4Lポジジョンにシフトすると、副変速機20を介して低速回転駆動力が前輪出力軸7に直結駆動して4Lメカロックモードとなる機構であり、摩擦クラッチ装置40の制御は行われない。
【0038】
このH−Lフォーク本体32のフォーク基端部に形成された係合段部33dには、図1に示すように、4WD解除用シフトロッド111の一端部が溶接等の固定手段によって片持ち状態で固定されており、H−L切換え用のシフトロッド35と平行に配されている。この4WD解除用シフトロッド111は、シフトロッド35の径よりも小さい径の短尺軸状に形成されている。
【0039】
この4WD解除用フォーク110は、図1に示すように、板金を略U字状に折り曲げた形状に形成されており、基板110aの両側に相対する長短の側板110b,110cを有している。この側板110b,110cのそれぞれには、4WD解除用シフトロッド111上に軸方向移動可能に挿通支持する摺動孔が貫通して形成されている。この側板110b,110cのうち、長尺の側板110bの先端部分には、4WDロック用のスライドスリーブ112(4WDロックスライドスリーブ112)に係合して連結される二股状のフォークが延出されている。
【0040】
相対する側板110b,110cの対向内面間には、図1に示すように、4WD解除用シフトロッド111と同軸上に介装されたコイルバネからなる待ちバネ113が収容されている。この待ちバネ113の一端は、H−Lフォーク本体32のフォーク基端部に当接して支持されている。この待ちバネ113の他端は、4WD解除用シフトロッド111上に嵌着したスナップリング114に係止されたワッシャ115を介して支持されており、シフトロッド軸方向の動きが規制されている。
【0041】
この待ちバネ113は、図1に示すように、4WD解除用フォーク110をH−Lフォーク本体32に向けて付勢する。このH−Lフォーク本体32側へ圧縮する待ちバネ113の弾力を一時的に蓄え、その蓄えた弾力を4WDロックスライドスリーブ112に伝えるバネによる蓄力機構(待ち機構)が構成される。なお、コイルバネに代えて、例えば皿バネや板バネなどのバネ機構を用いることができる。
【0042】
(H−Lフォーク本体と4WD解除用フォークとの切換え動作)
図2を参照すると、図2には、H−Lフォーク本体32と4WD解除用フォーク110の作動例が模式的に例示されている。
【0043】
H−Lフォーク本体32が、図2(a)に示す4Lポジションにある4WDロック状態で、4WDロックスライドスリーブ112は、H−L切換え用クラッチスリーブ31により押圧され、4WDロックスライドスリーブ112のスプラインは、前輪駆動用チェーン10の駆動スプロケットギヤ8に形成されたスプライン8aと噛み合って連結されている。4WD解除用フォーク110は、待ちバネ113を介してH−Lフォーク本体32に当接した位置に保持されている。
【0044】
いま、アクチュエータ70を回転駆動させると、アクチュエータ70の駆動回転は、減速歯車機構71を介してシフトカム37に伝わり、シフトカム37が回転する。シフトカム37が回転すると、シフトカム37のカム溝37aの直線部からカム溝37aの傾斜部にならって、H−Lフォーク本体32の摺動ホルダ33のシフターピン33cをシフトロッド軸方向に移動させる。
【0045】
摺動ホルダ33の移動は、摺動ホルダ33の摺動脚部33a及びワッシャ36を介してコイルバネ34の端部の一方を押圧する。摺動ホルダ33の移動に伴い、摺動ホルダ33は、図2(b)に示すように、ワッシャ36を介してH−Lフォーク本体32のバネ荷重受部32aの内面に向けてコイルバネ34を圧縮させながら、H−Lフォーク本体32の長さ方向の立設側壁内面に向けて移動し、フォーク本体長さ方向の立設側壁内面に当接して押圧する。
【0046】
コイルバネ34の端部の他方は、ワッシャ36を介してH−Lフォーク本体32のバネ荷重受部32aの内面を押圧し、コイルバネ34は撓んで圧縮状態となる。このとき、摺動ホルダ33のシフターピン33cは、シフトカム37のカム溝37aの傾斜部からカム溝37aの直線部にならって移動しており、摺動ホルダ33は、シフト完了位置に到達する。コイルバネ34は最大圧縮状態となり、摺動ホルダ33の移動荷重は、H−Lフォーク本体32に加わることになる。
【0047】
H−L切換え用のクラッチスリーブ31と副変速機20のサンギヤ21との位相が一致するまでの間は、摺動ホルダ33の摺動脚部33a、ワッシャ36、及びH−Lフォーク本体32のバネ荷重受部32aからなる待ち機構の作用によりコイルバネ34を圧縮状態に保持しており、コイルバネ34にシフト操作力を一時的に蓄えた状態にある。このとき、アクチュエータ70への通電は遮断される。
【0048】
H−L切換え用のクラッチスリーブ31と副変速機20のサンギヤ21との位相が一致すると、図2(c)に示すように、シフト操作力を蓄積していたコイルバネ34の復元弾発力により、H−Lフォーク本体32はシフトロッド35上に沿って瞬時に移動する。そして、H−L切換え用クラッチスリーブ31は、後輪出力軸6のスプライン上を摺動してHポジションへと速やかに切換わる。
【0049】
一方、4WD解除用フォーク110は、H−Lフォーク本体32が、図2(b)及び(c)に示すように、H−Lフォーク用シフトロッド35に沿って移動すると、4WD解除用シフトロッド111を介して待ちバネ113の端部の一方を押圧する。待ちバネ113の端部の他方は、4WD解除用フォーク110の長尺の側面110bの内面を押圧し、待ちバネ113は撓んで圧縮状態となる。
【0050】
このとき、4WD解除用フォーク110には待ちバネ113の付勢力が伝達されるが、4WDロックスライドスリーブ112と前輪駆動用チェーン10の駆動スプロケットギヤ8との間にトルクが加わった状態では4WDロックスライドスリーブ112が抜けないため、待ちバネ113を圧縮状態に保持しており、待ちバネ113にシフト操作力を一時的に蓄えた状態にある。
【0051】
4WDロックスライドスリーブ112と駆動スプロケットギヤ8との間のトルクが車両走行中に抜けると、図2(d)に示すように、シフト操作力を蓄積していた待ちバネ113の復元弾発力により、4WD解除用フォーク110は4WD解除用シフトロッド111上に沿って瞬時に移動する。そして、4WDロックスライドスリーブ112は、後輪出力軸6のスプライン上を摺動してHポジションへと速やかに切換わり、Hポジションにある4WDロック解除状態となる。図示例では、4WDロックスライドスリーブ112とH−L切換え用クラッチスリーブ31とは互いに接触した状態で静止する。
【0052】
以上のシフト操作により、4LポジションからHポジションへの切換えと、4WDロック状態から4WDロック解除状態への切換えとが完了する。なお、上記シフト操作とは逆に4WDロック解除状態から4WDロック状態へ切換える際は、上記シフト操作とは逆のシフト操作となり、H−Lフォーク本体32をHポジションから4Lポジションへ切換えることで、H−Lフォーク本体32に押されたクラッチスリーブ31が4WDロックスライドスリーブ112を押すことで達成される。なお、4WDロックスライドスリーブ112と駆動スプロケットギヤ8との位相が合致するまでは、H−Lフォーク本体32のコイルバネ(待ちバネ)34が撓んで待ち状態となる。
【0053】
上記実施の形態に係る4Lメカロックモード機構によると、以下の効果が得られる。
【0054】
(1)上記4WD解除用フォーク110により副変速機20を4Lポジションに常時維持することができる。
(2)H−Lフォーク本体32に4WD解除用フォーク110及び4WD解除用シフトロッド111を一体化するとともに、この4WD解除用フォーク110及び4WD解除用シフトロッド111をH−Lフォーク本体32と前輪駆動用チェーン10との間の駆動伝達経路上に配置した構成となっているので、トランスファケースを跨ぐシフトロッド35が1本で済むようになり、前輪駆動用チェーン10の対向内側間のスペースが狭い小容量機種にも、4WD解除用フォーク110を設けることが可能となる。
(3)4WD解除用フォーク110は、H−Lフォーク本体32と前輪駆動用チェーン10の間の駆動伝達経路上に配置するとともに、4WD解除用フォーク110における一対の側板110b,110cの対向内面の間に待ちバネ113を設けた構成となっている。そのため、4WD解除用フォーク110の全長を短くしながらも、4WD解除用フォーク110の支持スパンを長く設定することができるようになる。支持スパンを長く設定することができるため、コジリの少ない円滑な動きが可能となる。
【0055】
(シフト・クラッチ制御機構の全体構成)
この実施の形態のもう一つの主要な基本構成は、図3に示すように、シフト機構30及び摩擦クラッチ装置40を制御するシフト・クラッチ制御機構80にある。上記のように構成されたトランスファ1の構成部分は、シフト機構30、及びボールカム機構50の構成を除いて、従来のものと基本的な構成において変わるところはない。従って、トランスファ1の基本構成は、図示例に限定されるものではない。
【0056】
この実施の形態に係る典型的なシフト・クラッチ制御機構80は、単一のアクチュエータ70の連続回転により副変速機20の切換え動作と摩擦クラッチ装置40の接断動作とを個別に制御することを可能とする。図示例によると、この制御は、シフトカム37のシフト位置(高速段H位置)を制御原点とした一方側(右回転)でクラッチ制御を行い、シフト位置(高速段H位置)を制御原点とした一方側とは逆の他方側(左回転)で副変速機20の切換え制御を行っている。
【0057】
このシフト・クラッチ制御機構80は、図1及び図3に示すように、シフト機構30をシフトロッド35に沿って直線移動させるシフトカム37と、摩擦クラッチ41のクラッチ押付力を変化させる板カム60と、シフトカム37及び板カム60を個別に回転駆動させる回転駆動部材81とにより主に構成されている。このシフトカム37、板カム60、及び回転駆動部材81は、アクチュエータ出力軸72と同軸上に配されており、アクチュエータ70の回転量に応じて動作する。
【0058】
(回転駆動部材の構成)
この回転駆動部材81は、図3及び図4に示すように、周面が中心線O方向にシフトカム対向側の大径部分82と板カム対向側の小径部分83とが段差を介して一体形成された円筒体からなる。この大径部分82は、図3及び図4に示すように、シフトカム37の端面と対向してシフトロッド35に相対回転可能に支持されている。この回転駆動部材81は、小径部分83の板カム側の内周部をスプラインによる固定状態で、アクチュエータ出力軸72に支持されている。この小径部分83の外周には、板カム60が相対回転可能に支持されている。
【0059】
この回転駆動部材81の大径部分82には、図3及び図4に示すように、矩形状を有する一対のクラッチ制御機構用の駆動突起84とシフト制御機構用の駆動突起85とが板カム60側に突出して形成されている。この駆動突起84,85は、所定の位相差をもって大径部分82の同一円周上に配されている。この駆動突起84は、回転駆動部材81の右回転駆動により、板カム60に形成された被駆動突起63に当接して板カム60を同期回転させる駆動面84aを有している。一方の駆動突起85は、回転駆動部材81の左回転駆動により、板カム60の被駆動突起63に当接して回転駆動部材81の動作を停止させるストッパ面85aを有している。
【0060】
この一対の駆動突起84,85の間に切欠して形成された平坦状の大径部分82の外面には、図3及び図4に示すように、外面の法線方向に延びる回転軸86を介してラチェットレバー87が双方向回転可能に支持されている。このラチェットレバー87は、バネ89によりシフトカム37の端面側に向けて付勢されており、回転駆動部材81の回転方向と直交する方向に回転する。
【0061】
このラチェットレバー87の回転基部には、図3及び図4に示すように、回転軸86を中心として設けられたラチェット部90が一体に形成されている。このラチェット部90の駆動爪であるラチェット爪91は、シフトカム37の端面をシフト方向(左方向)、及びシフト方向とは反対側の戻し方向(右方向)の両方向に駆動可能な外形形態に形成されている。このラチェット爪91は、シフトカム37の端面に形成されたラチェット溝38にバネ89の弾力に抗して係脱可能とされている。
【0062】
このラチェットレバー87には、図3及び図4に示すように、回転軸86と直交するシフトカム37側の腕部88が一体に形成されている。この腕部88は、回転駆動部材81の回転中心線から右回り方向に傾斜している。この腕部88の右回り方向の側面は、カム面88aを有している。このカム面88aは、回転駆動部材81が右回転駆動により板カム60を同期回転駆動するとき、ラチェット爪91をシフトカム37のラチェット溝38から離脱させ、回転駆動部材81とシフトカム37との同期回転を阻止する機能を有している。
【0063】
(シフト制御機構の構成)
一方の板カム60は、図3に示すように、回転駆動部材81側の対向面に円柱状の駆動ピン61が突出して形成されている。この駆動ピン61は、ラチェットレバー87の腕部88の回転軌跡内に配されている。この駆動ピン61は、摩擦クラッチ装置40の駆動時のみラチェット爪91を開放状態に保持するためのものであり、シフトカム37側の腕部88のカム面88aに当接して押圧することでラチェット爪91をシフトカム37のラチェット溝38の回転軌跡外に作動させる。
【0064】
このシフトカム37のラチェット溝38と、板カム60の駆動ピン61と、回転駆動部材81の駆動突起85及びラチェットレバー87とによりシフト制御機構が主に構成される。回転駆動部材81の回転中心線の法線方向の軸線を中心としてラチェットレバー87が双方向回転可能に固定支持された構成となっているので、ラチェット爪91がラチェット溝38から離脱するのに必要となるラチェット爪91の作動回転角を小さくすることが可能となる。
【0065】
図5を参照すると、図5は、シフトカム37、板カム60、及び回転駆動部材81を組み付けた状態を展開して示している。同図において、チェックボール104の両側に位置する2つのチェック溝39、ラチェット溝38、駆動ピン62、及び被駆動突起63は同一のものであるが、展開図としては別々に表している。
【0066】
図5(a)において、アクチュエータ出力軸72及びシフトカム37は制御原点にあり、シフトカム37のシフト位置は高速段H位置(Hポジション)となっている。回転駆動部材81の駆動突起84の駆動面84aが板カム60の被駆動突起63から離れた位置で、シフトカム37のカム溝37a内を移動するシフト機構30のシフターピン33cの制御開始位置となる。
【0067】
図5(b)は、回転駆動部材81を左方向に回転駆動(展開図では、回転駆動部材81を左方向に移動)させることで、シフトカム37が回転駆動部材81と一緒に左方向に回転駆動するシフト切換えの往路回転であり、回転駆動部材81のラチェット爪91がシフトカム37のラチェット溝38に引っ掛かった係合状態で、シフトカム37と回転駆動部材81とが一体に回転している。板カム60は、制御開始位置に残ったままの状態で停止している。
【0068】
この回転駆動部材81の回転角が180°に達すると、図5(c)に示すように、チェックボール104が次のチェック溝39に嵌合して低速段L位置(Lポジション)となるシフト位置に位置決めする。シフト機構30のシフターピン33cは、シフトカム37のカム溝37aに沿って軸方向に案内移動され、4Lポジションへの移動を完了している。
【0069】
図5(c)において、回転駆動部材81における駆動突起85のストッパ面85aは、板カム60の被駆動突起63に当接して停止する。ラチェットレバー87のラチェット爪91は、シフトカム37のラチェット溝38に係合した状態を維持している。
【0070】
この回転駆動部材81が、図5(d)に示すように、右方向に復路(戻り)回転する(展開図では、回転駆動部材81を右方向に移動)と、回転駆動部材81とシフトカム37とが一緒に右方向に復路(戻り)回転する(展開図では、回転駆動部材81を右方向に移動)。そして、図5(a)に示す状態に戻る。
【0071】
以上のシフト操作によりHポジションから4Lポジションへの切換えが完了する。なお、上記シフト操作とは逆に4LポジションからHポジションへ切換える際は、上記シフト操作とは逆のシフト操作となる。このため、4LポジションからHポジションへ切換える作動の説明は省略する。
【0072】
(クラッチ制御機構の構成)
この板カム60の外周に形成されるカム面64は、図3に示すように、カム立ち上がり部分65をシフトロッド35及びカム面間の距離の変化率が二次曲線的に変化する非線形に形成するとともに、そのカム立ち上がり部分65から駆動回転方向にわたって線形形状に形成されている。この板カム60の作用により、摩擦クラッチ41の遊び部分を少ない回転角で、摩擦クラッチ41の初期位置からクラッチプレート間の隙間を縮めてクラッチ押付力が作用する。従って、摩擦クラッチ41の初期位置からクラッチプレート間の隙間を縮めてクラッチ押付力が作用する位置までのストロークが長い区間を短時間でクラッチ接断動作を行うことが可能になる。
【0073】
この板カム60には、図3に示すように、回転駆動部材81のクラッチ制御機構用の駆動突起84の駆動面84aとシフト制御機構用の駆動突起85のストッパ面85aとの間の同一円周上に被駆動突起63が突出形成されている。この板カム60の被駆動突起63と回転駆動部材81の駆動突起84とによりクラッチ制御機構が主に構成される。
【0074】
図6を参照すると、図6は、図5と同様に、シフトカム37、板カム60、及び回転駆動部材81を組み付けた状態を展開して示している。図6(a)において、回転駆動部材81を右方向に回転駆動(展開図では、回転駆動部材81を右方向に移動)させることで、回転駆動部材81の駆動突起84の駆動面84aが板カム60の被駆動突起63に当接する位置が、摩擦クラッチ機構50における制御開始位置となる。図示例では、シフトカム37がHポジションにあるとき、摩擦クラッチ機構50が作動可能に構成されている。
【0075】
この摩擦クラッチ機構50は、回転駆動部材81を右方向に回転駆動させると、ラチェットレバー87のシフトカム37側の腕部88は、板カム60の駆動ピン61に当接して押圧される。ラチェットレバー87のラチェット爪91は、弾力に抗して回転軸86を中心する左方向に回転して開放する。
【0076】
この板カム60の被駆動突起63は、回転駆動部材81の駆動突起84の駆動面84aにより押圧荷重を受ける。この回転駆動部材81は、シフトカム37をHポジションに残したままの状態で、板カム60を右方向に回転駆動させることになる。このとき、ラチェット爪91は、シフトカム37の端面に沿って右方向に回転する。
【0077】
この板カム60は、図6(b)に示すように、回転駆動部材81と一緒に右方向に回転駆動する。この回転駆動部材81による板カム60の回転に伴い、駆動カムプレート52が反力カムプレート51に対して一定方向に回転駆動される。駆動カムプレート52は、ボールカム溝内のボール57による押圧を受けながら、カムフォロア56を介して摩擦クラッチ41を押圧することで、クラッチ押付力を増加させる。一方、この回転駆動部材81が左回転すると、上記操作とは逆に板カム60の回転に応じてクラッチ押付力を減少させる。
【0078】
上記シフト・クラッチ制御機構80としては、単一のアクチュエータ70の連続回転により、次のような副変速機20の切換え動作と多板式の摩擦クラッチ41の接断動作とを行うことが可能である。
【0079】
(1)副変速機20はHポジションにあり、摩擦クラッチ41はクラッチプレート間を離間させたフリー状態にある(2H)。
(2)副変速機20はHポジションに固定され、摩擦クラッチ41は四輪駆動車からのトルク指令に応じて前輪出力軸7への駆動トルクを自動的に制御される(4Hオート)。
(3)副変速機20はHポジションに固定され、摩擦クラッチ41は最大トルクに保持される(4Hリジット)。
(4)副変速機20は4Lポジションに固定され、摩擦クラッチ41はクラッチプレート間を離間させたフリー状態に保持される。シフト機構30が副変速機20を4Lポジションにシフトすると、4WD解除用フォーク110が、図2(a)に示す4Lポジションにある4WDロック状態で、4WDロックスライドスリーブ112は、前輪駆動用チェーン10の駆動スプロケットギヤ8に形成されたスプライン8aと噛み合って連結されており、後輪出力軸6と前輪出力軸7とが直結駆動する4WDモードにある(4Lメカロック)。
【0080】
上記実施の形態に係るシフト・クラッチ制御機構80によれば、以下の効果が得られる。
【0081】
(1)シフトカム37がHポジションにあるとき、摩擦クラッチ装置40を作動可能に構成しているので、シフトカム37が4Lポジションにあるときは摩擦クラッチ装置40を駆動する必要はない。後輪出力軸6と前輪出力軸7とが直結駆動する4Lメカロックにおいては、4WD解除用フォーク110により副変速機20を4Lポジションに常時維持することができるので、機構の簡素化と低コスト化とを達成することができる。
(2)モータの電流を大きくしたり、モータの減速比を大きくしたりすることなく、副変速機20の切換えと摩擦クラッチ装置40のクラッチ押付力とに対する応答性を向上させることができる。
(3)回転駆動部材81の回転方向と直交する方向に回転するラチェットレバー87を装着した構成となっているため、ラチェット溝38から離脱するのに必要となるラチェット爪91の作動回転角を小さくすることが可能となり、シフト時間を短縮することができる。
(4)シフト機構30の切換え時間が短くなるので、回転駆動部材81がシフト途中で停止することはない。回転駆動部材81がシフト途中で停止したとしても、元の位置に戻すことができる。
【0082】
(チェック機構の構成)
このシフトカム37の回転駆動部材寄りの端部には、図1、図3、及び図7に示すように、シフト・クラッチ制御機構80のもう一つの主要部を構成するチェック機構100が同軸に支持されている。このチェック機構100は、シフトカム37のシフト位置を決めるものであり、シフトカム37と相対回転する円形筐体状のチェック部101と、そのチェック部101と一体形成された細長い円筒状の一対のチェックブロック102,102とを備えている。
【0083】
このチェックブロック102は、図3及び図7に示すように、チェック部101の外周に同一の位相差をもって外側に放射状に延在されている。このチェックブロック102の内部には、コイルスプリング103の弾性反発力(付勢力)によりシフトカム37のチェック溝39に押付けられるチェックボール104が設けられている。チェックブロック102の先端部開口は、プラグ105により閉鎖されている。
【0084】
このチェックボール104が嵌め入れられて係合するチェック溝39は、図3及び図7に示すように、シフトカム37の端部に形成されている。このシフトカム37のチェック溝39は、シフトカム37のラチェット溝38で決まるシフト位置となる2箇所のシフトエンドに対応して形成されている。このチェックボール104のチェック溝39に対する係合で、副変速機20のHポジション及4Lポジションのシフト位置を位置決めしている。
【0085】
一対のチェックブロック102のうち、一方のチェックブロック102とチェック部101との間には、図3及び図7に示すように、チェック機構100の回り止めとなる扁平状の保持片106が一体に形成されている。この保持片106は、板カム60の逆回転を阻止するとともに、反力カムプレート51を支持する位置決めロッド11に貫通して支持されている。
【0086】
ところで、摩擦クラッチ41を押付けた状態でアクチュエータ70が駆動力を失うと、摩擦クラッチ装置40の反発力によりアクチュエータ70が逆転駆動する場合がある。
【0087】
この実施の形態のもう一つの基本の構成は、チェック機構100の吸収エネルギーが摩擦クラッチ41の反発力によりアクチュエータ70を逆転駆動させるときに放出するエネルギーよりも大きくなるように、チェック機構100のチェックトルクと回転角とを設定することにある。
【0088】
ここで、チェック機構100の吸収エネルギーは、チェック機構100のチェックトルクとシフトカム37の回転角とにより計算される。このチェックトルクは、コイルスプリング103の弾力によりチェック溝39に付勢された状態で係合するチェックボール104が、このコイルスプリング103の付勢力に抗してチェックボール104とチェック溝39との係合を解除する抵抗トルクである。チェック機構100の吸収エネルギーは、次式(1)により計算される。
【0089】
チェック機構100の吸収エネルギー=チェック機構100の抵抗トルク×シフトカム37の回転角……(1)
【0090】
上記実施の形態に係るチェック機構100の構成によると、以下の効果が得られる。
【0091】
(1)このチェック機構100の吸収エネルギーを上記式(1)の関係に設定することで、クラッチ制御とシフト制御とを単一のアクチュエータ70で行うトランスファ1の構成であっても、シフトカム37をシフト方向に回転駆動させることなく、車両走行中の副変速機20の切換えを防止することができる。
(2)チェック部101の円形外周の対角位置に一対のチェックボール104を設けた構成となっているため、安価なチェックボール104及びコイルスプリング103により強いチェックトルクを発生することができる。
【0092】
以上の説明からも明らかなように、本発明の駆動力配分装置を上記実施の形態、及び図示例に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態、及び図示例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。本発明にあっては、次に示すような変形例も可能である。
【0093】
上記実施の形態にあっては、FRタイプの四輪駆動車のトランスファに本発明の駆動力配分装置を適用した場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではないことは勿論であり、例えばFFタイプの四輪駆動車などのトランスファに本発明の駆動力配分装置を効果的に使用することができる。また、上記実施の形態では、Hポジションと4Lポジションとの走行変速切換えを行う副変速機20を説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、例えば副変速機におけるポジションとして、ニュートラルなどの各種のポジションを増加させて設定することができる。
【0094】
なお、自動二輪車あるいは農業機械、建設土木機械、運搬機械等の作業用車両などの各種車両に本発明の駆動力配分装置を効果的に使用することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0095】
1…トランスファ、2…フロントケース、3…リアケース、4…入力軸、5…ベアリング、6…後輪出力軸、7…前輪出力軸、8…駆動スプロケットギヤ、9…従動スプロケットギヤ、10…チェーン、11…位置決めロッド、20…副変速機、21…サンギヤ、22…リングギヤ、23…プラネタリギヤ、24…支軸、25…キャリアケース、26…リング体、26a…内スプライン、30…シフト機構、31…クラッチスリーブ、32…H−Lフォーク本体、32a…バネ荷重受部、33…摺動ホルダ、33a…摺動脚部、33b…アーム部、33c…シフターピン、33d…係合段部、34…コイルバネ、35…シフトロッド、36…ワッシャ、37…シフトカム、37a…カム溝、38…ラチェット溝、39…チェック溝、40…摩擦クラッチ装置、41…摩擦クラッチ、42…クラッチハブ、43…クラッチドラム、44…クラッチ押付部材、50…ボールカム機構、51…反力カムプレート、52…駆動カムプレート、52a…アーム部、53,55…スラスト軸受、54…固定部材、56…カムフォロア、57…ボール、60…板カム、61…駆動ピン、63…被駆動突起、64…カム面、65…カム立ち上がり部分、70…アクチュエータ、71…減速機、72…アクチュエータ出力軸、80…シフト・クラッチ制御機構、81…回転駆動部材、82…大径部分、83…小径部分、84,85…駆動突起、84a…駆動面、85a…ストッパ面、86…回転軸、87…ラチェットレバー、88…腕部、88a…カム面、89…バネ、90…ラチェット部、91…ラチェット爪、100…チェック機構、101…チェック部、102…チェックブロック、103…コイルスプリング、104…チェックボール、105…プラグ、106…保持片、110…4WD解除用フォーク、111…4WD解除用シフトロッド、112…4WDロックスライドスリーブ、110a…基板、110b,110c…側板、113…待ちバネ、114…スナップリング、115…ワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸への動力を少なくとも高速段と低速段の2段に切換えて主出力軸へ伝達する副変速機と、
前記主出力軸の動力を副出力軸に伝達する摩擦クラッチと、
アクチュエータの出力軸に固定された回転駆動部材と、
前記回転駆動部材の一端部に相対回転可能に同軸に配置され、前記摩擦クラッチの押付力を変化させる摩擦クラッチ駆動用カムと、
前記回転駆動部材の他端部に相対回転可能に同軸に配置され、前記アクチュエータの回転運動を直線運動に変換して前記副変速機をシフトさせるシフトカムと、
前記副変速機が低速段にあるとき前記主出力軸と前記副出力軸とを直結する機構と、
前記回転駆動部材の外面の法線方向の軸線を回転中心として設けられ、前記摩擦クラッチ駆動用カムと連動する位置、及び前記シフトカムと連動する位置に切換えられるラチェットレバーとを備えてなり、
前記シフトカムが高速段にあって、前記回転駆動部材が前記シフトカムの制御原点を起点とした所定の位置から一方側に回転駆動したとき、前記ラチェットレバーにより前記摩擦クラッチ駆動用カムと連動して前記摩擦クラッチの押付力を調整し、前記回転駆動部材が前記一方側とは逆方向に回転駆動したとき、前記シフトカムと連動して前記シフトカムを低速段へ回転させ、前記直結する機構を介して低速段を維持することを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項2】
前記ラチェットレバーは、前記シフトカムに形成されたラチェット溝と噛み合って前記シフトカムを回転させる駆動爪と、前記摩擦クラッチ駆動用カムに設けられた駆動ピンに当接することで、前記駆動爪を前記ラチェット溝と噛み合わない開放位置に回転して退避させる腕部とを一体に形成したことを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−96719(P2012−96719A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247436(P2010−247436)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】