説明

駆動装置

【課題】誘電体中の透過率が高められ、被検知体に向けて精度よく電波ビームが放射される高周波センサを備えた駆動装置が提供される。
【解決手段】誘電体部材と、前記誘電体部材を透過する電波ビームを放射し、被検知体からの反射波を受信し、検知信号を生成する高周波センサと、前記検知信号により動作する駆動機構部と、を備え、前記誘電体部材の表面を含む平面と、前記電波ビームを放射するアンテナの放射面を含む平面と、は、ゼロよりも大きく90度よりも小さい角度をなして交差線上で交差し、前記誘電体部材を透過する前記電波ビームの強度が、前記表面で反射する前記電波ビームの強度よりも高くなるように、前記電波ビームの励振方向が前記交差線と交差してなることを特徴とする駆動装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波センサを備えた駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波センサにより人体などを精度よく検知すると、機器を機械的または電気的に制御する駆動装置が可能となる。このような駆動装置として、例えば、自動ドア、水栓装置、照明装置などがある。
【0003】
パッチアンテナからマイクロ波を放射する高周波センサを用いると、センサの小型化が容易となる。この場合、10.525及び24.15GHz帯の周波数を使用し、電波法に適合させるためにスプリアス発射強度を規制値以下に抑える必要がある。すなわち、電波ビームの方向を精度よく制御し、低放射電力においても人体を検知することが要求される。
【0004】
パッチ電極からなるアンテナを用いた高周波センサに関する技術開示例がある(特許文献1)。この開示例では、無給電素子が基板内のスルーホール式の制御線を通じて基板の背面上に設けられた高周波スイッチに接続され、電波ビームの放射方向を切替えるマイクロストリップアンテナ及びこれを用いた高周波センサが提供される。
【特許文献1】国際公開番号WO2006/035881A1号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
駆動装置において、電波法の規制を満たしつつ人体を精度よく検知するには、電波ビームの方向を精度よく制御することが必要である。しかしながら、パッチ電極の間の配置や位相を制御するだけで電波ビームの方向を変えるには限界がある。パッチアンテナの放射面と誘電体部材表面との交差角を変えて傾きを調整できると電波ビームの方向を変えることが容易となる。この場合、励振方向を適正に選択しないと誘電体中の透過率が低下し、被検知体側に高い透過率で電波ビームが透過しない問題を生じる。本発明は、この問題に鑑みてなされたものであり、誘電体中の透過率が高められ、被検知体に向けて精度よく電波ビームが放射される高周波センサを備えた駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、誘電体部材と、前記誘電体部材を透過する電波ビームを放射し、被検知体からの反射波を受信し、検知信号を生成する高周波センサと、前記検知信号により動作する駆動機構部と、を備え、前記誘電体部材の表面を含む平面と、前記電波ビームを放射するアンテナの放射面を含む平面と、は、ゼロよりも大きく90度よりも小さい角度をなして交差線上で交差し、前記誘電体部材を透過する前記電波ビームの強度が、前記表面で反射する前記電波ビームの強度よりも高くなるように、前記電波ビームの励振方向が前記交差線と交差してなることを特徴とする駆動装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
誘電体中の透過率が高められ、被検知体に向けて精度よく電波ビームが放射される高周波センサを備えた駆動装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態にかかる駆動装置を説明する図である。図1(a)はそのブロック図である。駆動装置10は、高周波センサ30と、機器部14と、制御部12と、を備えている。高周波センサ30は人体などの被検知体に向けて電波ビーム33を放射し、被検知体からの反射波を受信して、ドップラー周波数信号を生成し制御部12へ検知信号を出力する。
【0009】
制御部12は、必要に応じて高周波センサ30に制御信号を出力し、高周波センサ30からのドップラー信号をもとに、機器部14に向かって、例えばオン、オフ信号を出力する。機器部14は、高周波センサ30が配設される誘電体部材16と、駆動機構部18とを含み、オン−オフ信号に基づいて駆動機構部18を動作させる。
【0010】
図1(b)は駆動装置10が水栓装置である場合を説明する模式図である。水栓装置において、受水部は誘電体部材16からなり、駆動機構部18は吐水口を有する配管のバルブである。高周波センサ30が手または水流の速度を検知し、そのドップラー周波数信号により、バルブが開閉される。
【0011】
図1(c)は駆動装置10が自動ドアである場合を説明する模式図である。自動ドアにおいて、誘電体部材16は、例えば高周波センサ30を直接見えないように配設するための支持板であり、駆動機構部18はドア40を開閉するための回転またはスライド機構である。高周波センサ30が人体などを検知し、そのドップラー周波数信号により、自動ドアを回転またはスライドにより開閉制御する。
【0012】
このように高周波センサ30は誘電体部材16に固定されるが、例えば受水部には、陶器、セラミックなど誘電率が高い材料(比誘電率:ε)が用いられることが多い。この場合、誘電体部材16の主面16aと高周波センサ30のアンテナの放射面との交差角αを適正な角度として傾け、電波ビーム33を被検知体の方向に放射すると、被検知体を精度よく検知できる。
【0013】
図2は、本実施形態にかかる駆動装置の高周波センサの配置を説明する図であり、図2(a)は模式斜視図、図2(b)はパッチアンテナの模式平面図、図2(c)は電波ビームを表す図である。
セラミック、陶器、樹脂などの誘電体部材16の主面16aの上方に、高周波センサ30が配置される。主面16aと、パッチアンテナ32の放射面32aと、の交差角がαであるように高周波センサ30が配置される。パッチアンテナ32から放射された電波ビーム33は、誘電体部材16の主面16aにおいて透過ビームと反射ビームを生じる。そして、本実施形態においては、誘電体部材16を透過する電波ビームの強度が、誘電体部材16の表面で反射する電波ビームの強度よりも高くなるように、電波ビームの励振方向がパッチアンテナ32の放射面32aと誘電体部材16の表面との交差線と交差している。
【0014】
図2(b)に表すように、A−A線及びB−B線の両側に4つの給電素子32cが配置される。A−A線と、直交するB−B線との交点はパッチアンテナ32の略中心点36であり電波ビーム33の放射の中心である。給電点35は発振器と接続され、電波ビーム33が励振される。電波ビーム33の励振方向は矢印で表すようにA−A線に沿って略平行で、かつ放射面32a上にある。このようなパッチアンテナ32を用いると、直線偏波の励振が容易にできる。
【0015】
また、図2(c)のように空間的に広がった電波ビーム33の放射パターンは、4つの給電素子32cの配置などを変化させることにより制御できる。図2(a)において、放射面32aに垂直であり中心点36を通り、主面16aと直交する面を入射面40と呼ぶことにする。中心点36近傍から放射された電波ビーム33は、誘電体部材16の主面16aを透過面として誘電体部材16の媒質内への透過ビームと、主面16aを反射面とする反射ビームとを生じる。
【0016】
なお、図2(b)では、4つの給電素子32cにより電波ビーム33の放射パターンを制御している。しかし、パッチアンテナ32の構成はこれに限定されない。
【0017】
次に、誘電体部材16をε=4.15である陶器とした場合について、放射面32aと主面16aとの交差角αにより放射パターンが変化することをシミュレーションを用いて説明する。なお、比較例として、励振方向が主面16aに平行かつ入射面40と直交する場合を示す。
図3は、比較例にかかる駆動装置の高周波センサを表し、図3(a)は誘電体部材16との交差角がαとなるように高周波センサが配設されている模式斜視図、図3(b)はパッチアンテナ32の模式平面図である。なお、シミュレーションの周波数は10.525GHzである。
【0018】
以下のシミュレーションにおいて励振方向は、放射面32aを含む平面と主面16aとの交差線17との交差角βは略90度である。なお、放射面32aが主面16aと直接接触しなくともよい。図4(a)は、放射面32aが直接には主面16aとは交差せず、放射面32aを含む平面と主面16aとが交差する断面を表す。図4(b)は、放射面32aを含む平面と、主面16aを含む平面とが、放射面32a及び主面16aと離間した交差線上で交差する断面を表す。
【0019】
また、βが90度でない場合においても、交差線17との直交成分に対してはシミュレーションの結果を適用できる。入射面40内の電波ビーム33は、入射ビーム42と、透過ビーム44と、反射ビーム46とを含む。入射ビーム42は、空気と誘電体部材16との誘電率の違いにより屈折して透過ビーム44となる成分と、主面16aで反射する反射ビーム46となる成分とに分かれる。
【0020】
図5は、α=0、すなわち放射面32aと主面16aとが傾かず平行である場合におけるシミュレーションによる入射面40内の放射パターン断面図を表し、図5(a)は入射励振方向と入射面40とが略平行な場合、図5(b)は励振方向と入射面40とが略直交する場合である。図5に表す曲線は電波ビーム33が等しい強度となる点を結んで得られ、外側の曲線ほど放射強度が弱い。いずれの場合にも電波ビーム33は誘電体部材16をよく透過し、透過電力に大きな差を生じない。
【0021】
しかしながら、被検知体が常にこの位置に存在するとは限らず、放射面32aを主面16aに対して傾けた方が電波ビーム33を被検知体に向けて効率よく放射できる。
図6は、α=30°におけるシミュレーションによる入射面40内の放射パターンの断面図を表し、図6(a)は励振方向と入射面40とが略平行な場合、図6(b)は励振方向と入射面40とが略直交する場合を表す。図6(a)透過率は、図6(b)の透過率よりも高い。また、図6(b)においては誘電体部材16による反射率が高いことを表している。
【0022】
図7は、α=45°におけるシミュレーションによる入射面40内の放射パターンの断面図を表し、図7(a)は励振方向と入射面40とが略平行な場合、図7(b)は励振方向と入射面40とが略直交する場合を表す。α=30°と比べて、透過率はいずれも低下する。特に、図7(b)においては、反射率がより高くなり透過ビーム44の強度が図7(a)よりも低下し、検知感度が低下する。
図8は、α=60°におけるシミュレーションによる入射面40内の放射パターンの断面図を表し、図8(a)は励振方向が入射面40と略平行な場合、図8(b)は励振方向が入射面40と略直交する場合を表す。それぞれの透過率はα=45°よりもさらに低下する。特に、図8(b)において透過ビーム44は殆ど存在せず、被検知体の検出が困難である。一般に誘電体部材16は駆動装置により取り付け場所が予め決定される。駆動装置において、交差角αを適正に選択することにより被検知体に対して精度よく電波ビーム33を向けることができる。
【0023】
すなわち、図6〜図8は、放射面32aが主面16aに対して交差角α(0°<α<90°)をなしかつ励振方向が入射面40に対して略平行な場合、励振方向が入射面40に対して略直交する場合よりも誘電体部材16を透過しやすいことを表している。
【0024】
図9は、電波ビーム33の励振方向と交差線17とのなす角度βを変えた場合、入射面40内の放射パターンの断面図である。アンテナの放射面32aを含む平面と、誘電体部材16の表面16aを含む平面とのなす角度αを45度とし、図9(a)はβ=80°、図9(b)はβ=75°、図9(c)はβ=60°、図9(d)はβ=55°、図9(e)はβ=50°、図9(f)はβ=45°の場合をそれぞれ表す。
【0025】
誘電体部材16を透過するビーム44はβが90度において最大であり、βの減少とともに強度が低下する。他方、表面16aでの反射ビーム46(破線)はβの増加とともに強度が高まる。この解析結果から、βが55度以上では反射ビーム46の強度が透過ビーム44の強度よりも高くなることが分かる。本実施形態において、透過ビーム44の強度が反射ビーム46の強度よりも高くなるように、励振方向と交差線17とのなす角度βを設定し、被検知体に向けて電波ビーム33の透過率を高めることができる。このようにすると、低出力の電波ビーム33での検知が容易になる。
【0026】
例えば、公衆トイレなどで、複数の小便器が連立している場合、それぞれの小便器の背面側に高周波センサを取り付ける必要がある。この場合、高周波センサから放射された電波が陶器製の小便器の背面で反射されると、隣接する他の高周波センサに影響を与え、電波の干渉などによる誤検知が生ずる場合もあり得る。
【0027】
これに対して、本実施形態によれば、高周波センサの電波放射面を誘電体の表面に対して傾斜させ、且つ電波の励振方向を調整することにより、誘電体表面での電波の反射を抑制することができる。その結果として、便器の前にいる使用者などを確実に検知でき、且つ、反射される電波ビームに起因する誤検知なども防止できる。
【0028】
図10は、励振方向と入射面40とが略直交する場合における放射パターンの比誘電率依存性を表す図である。図10(a)はε=2の樹脂、図10(b)はε=4.15の陶器、図10(c)はε=10のセラミックをそれぞれ誘電体部材16の材料とした場合のシミュレーションによる放射パターンである。
いずれの場合もα=60°である。εが高い程、透過率が低いことが理解される。 図10から、εが4.15よりも高い誘電体部材とし、α=60°とすると、電波ビームの透過が困難であり、駆動装置に用いることが難しい。
【0029】
本実施形態においては、放射面32aを主面16aに対して交差角α(0<α<90°)とし、透過ビーム44の方向を被検知体の方向に正しく向けることが容易となる。さらに、透過ビーム44の強度が反射ビーム46の強度よりも高くなるように、誘電体の主面16aと放射面32aとの交差線17と、励振方向とを交差角βで交差させることができる。このために、低出力の電波ビーム33により、外乱の影響が低減され、精度よく被検知体を検出できる駆動装置が可能となる。この駆動装置は、水栓装置、自動ドア装置、照明装置、小便器装置などに応用できる。
【0030】
以上、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれら実施形態に限定されず、駆動装置を構成する誘電体部材、アンテナ、パッチアンテナ、高周波センサ、駆動機構部、などのサイズ、形状、材質、配置関係などに関して当業者が設計変更を行ったものであっても、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態にかかる駆動装置を説明する図
【図2】励振方向と入射面とが略平行な場合の高周波センサの配置を説明する図
【図3】励振方向と入射面とが略直交する場合の高周波センサの配置を説明する図
【図4】放射面が主面と直接には接触しない場合の模式断面図
【図5】α=0の場合のシミュレーションによる放射パターンの断面図
【図6】シミュレーションによる放射パターンの断面図
【図7】シミュレーションによる放射パターンの断面図
【図8】シミュレーションによる放射パターンの断面図
【図9】シミュレーションによる放射パターンの断面図
【図10】放射パターンの比誘電率依存性を表す図
【符号の説明】
【0032】
10 駆動装置、12 制御部、16 誘電体部材、16a 主面、17 交差線、18 駆動機構部、30高周波センサ、32 パッチアンテナ、32a 放射面、33 電波ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体部材と、
前記誘電体部材を透過する電波ビームを放射し、被検知体からの反射波を受信し、検知信号を生成する高周波センサと、
前記検知信号により動作する駆動機構部と、
を備え、
前記誘電体部材の表面を含む平面と、前記電波ビームを放射するアンテナの放射面を含む平面と、は、ゼロよりも大きく90度よりも小さい角度をなして交差線上で交差し、
前記誘電体部材を透過する前記電波ビームの強度が、前記表面で反射する前記電波ビームの強度よりも高くなるように、前記電波ビームの励振方向が前記交差線と交差してなることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記励振方向は、前記交差線と略直交することを特徴とする請求項1記載の駆動装置。
【請求項3】
前記電波ビームは、直線偏波されていることを特徴とする請求項1または2に記載の駆動装置。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−19944(P2009−19944A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181759(P2007−181759)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】