説明

駆動輪支持用ハブユニット軸受の予圧測定方法

【課題】駆動輪支持用ハブユニット軸受に対して等速ジョイントをスプライン嵌合し、ナット締めによる軸力を作用させた状態で行う予圧測定方法を提供する。
【解決手段】静止輪2、静止輪に対向配置されて回転する回転輪4(ハブ10、内輪構成体12)、複数の転動体6a,6bを備え、ハブ及び内輪構成体は、スプライン孔10tに等速ジョイントのスプラインシャフトを嵌合した状態で、シャフト延出方向端部側から締結部材によって等速ジョイントへ固定される駆動輪支持用ハブユニット軸受A1,A2に対し、スプライン溝52が外周部に形成された治具50をスプライン孔に嵌合させ、シャフト延出方向端部側に相当する端部側から締結部材30で締結することにより治具をハブに固定するとともに、締結部材による軸力をハブユニット軸受に作用させて予圧を付与し、軸力を作用させた状態で予圧量の測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の駆動輪を支持するためのハブユニット軸受の製造品質の改良に関し、具体的には、当該ハブユニット軸受に付与する予圧の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を支持する軸受ユニット(車輪支持用軸受ユニット)には、例えば、静止輪のフランジの有無や数、回転輪(ハブ)のフランジの有無や数、あるいはハブとともに回転輪を構成する内輪構成体の有無や数、及び転動体の種類(玉や各種のころ)などの組み合わせの相違による各種の型式(タイプ)があり、その使用条件や使用目的などに応じて軸受ユニットの使い分けがなされている。そして、これらの軸受ユニットは、軸の正確な位置決めや軸振れの防止、ユニット剛性の向上などを目的として予圧が付与された状態で使用される。
例えば、静止輪及び回転輪がフランジを有し、当該回転輪としてハブと内輪構成体を備え、これらのハブと内輪構成体が前記静止輪に対して回転するハブユニット軸受は、高モーメント剛性化、長寿命化、そして低トルク化を同時に図るべく、予圧が非常に狭い範囲でコントロールされている。
【0003】
自動車の従動輪(前置エンジン後輪駆動(FR)車及び後置エンジン後輪駆動(RR)車の前輪、前置エンジン前輪駆動(FF)車の後輪)を支持するハブユニット軸受の場合、製造工程において内輪構成体のハブからの抜け出しを防ぐと同時に軸受に予圧を付与するために、ナット締めや加締めなどによって内輪構成体がハブに固定され、その後、各種の方法によって予圧が測定され、設定予圧量が保証された状態で自動車メーカなどへ出荷される。なお、予圧の測定方法の一例として、特許文献1には、ハブユニット軸受の剛性変化や変位をパラメータとする予圧測定方法が開示されている。
自動車メーカの組立工場に入荷されたハブユニット軸受は、そのままの状態で、静止輪及びハブのフランジ部を車体側(例えば、懸架装置(サスペンション)のナックル)及び車輪側(車輪のディスクホイール)にボルトとナットで固定することにより車両に装着されるため、設定時に保証された予圧量が軸受の装着時に変化することなく、市場に供給されて使用される。
【0004】
これに対し、自動車の駆動輪(FR車及びRR車の後輪、FF車の前輪及び四輪駆動(4WD)車の全輪)を支持するハブユニット軸受の場合、当該ハブユニット軸受は、自動車メーカなどへの出荷後、組立工場においてハブの内径部(スプライン孔)に等速ジョイント(CVJ:Constant Velocity Joint)のシャフトがスプライン嵌合され、ナット(CVJナット)で当該CVJに締結することにより車両に装着される。このため、スプライン嵌合による転動体軌道面の膨張とナット締めによる軸力により、車両への装着後の軸受の予圧は、出荷時点での設定予圧量よりも上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3648919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、駆動輪用のハブユニット軸受の場合、軸受メーカからの出荷時点での予圧は、当該ハブユニット軸受に対して等速ジョイントのシャフトがスプライン嵌合され、CVJナットで締結された後の状態において最適な予圧量となるように、その変化量(上昇量)を見込んで設定されている。
特に、ナット締めにより予圧が付与される非加締めタイプのハブユニット軸受(図1、図3及び図5(a)に示すタイプ)の場合、製造工程における検査時点では軸力が作用されていないため、予圧の変化量が大きく、予圧0(ゼロ)付近の狙い値に予圧量が設定されることとなり、例えば、特許文献1に記載されているような予圧の測定方法(剛性変化や変位をパラメータとする予圧測定方法)では、当該剛性変化や変位の状態によってはその測定誤差が大きくなる虞がある。
一方、加締めにより予圧が付与される加締めタイプのハブユニット軸受(図2、図4及び図5(b)に示すタイプ)の場合、加締めによる軸力がすでに作用されているため、予圧の変化量は小さいが、それでもスプライン嵌合による転動体軌道面の膨張とナット締めによる軸力が加わることによって軸受が軸方向へ弾性変形するため、予圧変化の発生を回避することは難しい。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、製造工程において、駆動輪支持用ハブユニット軸受に対して等速ジョイントをスプライン嵌合し、ナット締めによる軸力を作用させた状態で、軸受に付与した予圧の測定を行うことを可能とする駆動輪支持用ハブユニット軸受の予圧測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明に係る駆動輪支持用ハブユニット軸受の予圧測定方法は、車体構成部材に固定されて非回転状態に維持される静止輪と、車輪構成部材及び車輪駆動軸構成部材に固定されるハブと、当該ハブに固定される少なくとも1つの内輪構成体で構成され、前記静止輪に対向配置されて前記車輪構成部材及び前記車輪駆動軸構成部材とともに回転する回転輪と、これらの静止輪と回転輪にそれぞれ形成されて相互に対向する軌道面間へ転動可能に組み込まれた複数の転動体とを備え、前記回転輪のハブ及び内輪構成体は、当該ハブの内径部に形成されたスプライン孔に等速ジョイントのスプラインシャフトを嵌合した状態で、当該シャフトの延出方向端部側から締結部材によって前記等速ジョイントへ固定される駆動輪支持用ハブユニット軸受の予圧を測定する。その際、前記ハブのスプライン孔と嵌合可能なスプライン溝が外周部に形成された治具を前記スプライン孔に嵌合させ、前記シャフトの延出方向端部側に相当する前記治具の端部側から前記締結部材で締結することにより当該治具を前記ハブに固定するとともに、当該締結部材による軸力を前記ハブユニット軸受に作用させて当該軸受に予圧を付与し、前記軸力を作用させた状態で予圧量の測定を行う。
【0009】
この場合、前記ハブユニット軸受に対し、前記締結部材による軸力を作用させる代わりに、当該軸力に相当する押圧力を作用させることも可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の駆動輪支持用ハブユニット軸受の予圧測定方法によれば、当該軸受の製造工程において、等速ジョイントのスプラインシャフトと類似形状の治具(あるいは、実機のスプラインシャフト)をスプライン嵌合し、ナット締めによる軸力を作用させた状態で軸受に付与した予圧の測定を行うことができる。すなわち、駆動輪支持用ハブユニット軸受を自動車へ装着した状態に近似した状態で予圧の測定を行うことができるとともに、測定誤差の大きい予圧0(ゼロ)付近を避けて予圧の測定を行うことができる。この結果、軸受に対する設定予圧量の保証を正確に行うことができ、ひいては駆動輪支持用ハブユニット軸受の品質向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る予圧測定方法の機構図であり、非加締めタイプの駆動輪支持用ハブユニット軸受の予圧を測定する場合の機構図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る予圧測定方法の機構図であり、加締めタイプの駆動輪支持用ハブユニット軸受の予圧を測定する場合の機構図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る予圧測定方法の機構図であり、非加締めタイプの駆動輪支持用ハブユニット軸受の予圧を測定する場合の機構図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る予圧測定方法の機構図であり、加締めタイプの駆動輪支持用ハブユニット軸受の予圧を測定する場合の機構図である。
【図5】駆動輪支持用ハブユニット軸受の構成を示す図であって、(a)は、非加締めタイプの軸受構成を示す図、(b)は、加締めタイプの軸受構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の駆動輪支持用ハブユニット軸受の予圧測定方法(以下、単に予圧測定方法ともいう)について、添付図面を参照して説明する。
本発明の予圧測定方法の対象となる駆動輪支持用ハブユニット軸受(以下、単にハブユニット軸受や軸受ともいう)は、自動車の駆動輪(FR(前置エンジン後輪駆動)車及びRR(後置エンジン後輪駆動)車の後輪、FF(前置エンジン前輪駆動)車の前輪及び四輪駆動車の全輪)を支持する軸受ユニットとして構成されている。
図5には、かかるハブユニット軸受の構成を例示しており、同図(a)には、ナット締めにより内輪構成体12がハブ10に固定される非加締めタイプのハブユニット軸受A1、同図(b)には、加締めにより内輪構成体12がハブ10に固定される加締めタイプのハブユニット軸受A2の構成をそれぞれ一例として示している。なお、以下の説明においては、これらのハブユニット軸受A1,A2が自動車に装着された場合に当該自動車の車体外方に相当する側(車輪側(図5の左側))をアウトボード側といい、その反対側、すなわち自動車の車体内方に相当する側(同図の右側)をインボード側という。
【0013】
ハブユニット軸受A1,A2は、車体構成部材(例えば、懸架装置のナックル(図示しない))に固定されて非回転状態に維持される静止輪2と、当該静止輪2に対向配置され、車輪構成部材(例えば、車輪のディスクホイール(図示しない))及び車輪駆動軸構成部材(例えば、等速ジョイント(CVJ:Constant Velocity Joint)のシャフト(図1から図4に示す治具50と類似する構成部材)とともに回転する回転輪4と、これらの静止輪2と回転輪4にそれぞれ形成されて相互に対向する複列(2列)の軌道面2s,4s間及び軌道面2t,4t間へ転動可能に組み込まれた複数の転動体6a,6bとを備えている。回転輪4は、前記車輪構成部材及び車輪駆動軸構成部材に固定されるハブ10と、当該ハブ10に固定される少なくとも1つの内輪構成体12で構成されている。この場合、ハブ10には、その外周部に静止輪2のアウトボード側の軌道面2sと対向する軌道面4sが形成され、内輪構成体12には、その外周部に静止輪2のインボード側の軌道面2tと対向する軌道面4tが形成されている。
なお、図5には、内輪構成体12を1つだけ備え、当該内輪構成体12をハブ10のインボード側に固定した回転輪4の構成を示しているが、2つの内輪構成体を備え、これらの内輪構成体に静止輪2の軌道面2t,2sと対向する軌道面4t,4sをそれぞれ形成し、これらの内輪構成体をハブのインボード側及びアウトボード側にそれぞれ固定した回転輪の構成とすることも可能である。
【0014】
転動体6a,6bは、環状を成す保持器8に形成されたポケット内に1つずつ回転自在に保持された状態で、軌道面2s,4s間及び軌道面2t,4t間を転動させることで、その転動面が相互に接触することなく転動し、結果として、各転動体6a,6bが相互に接触して摩擦が生じることによる回転抵抗の増大や、焼付きなどを防止することができる。なお、ハブユニット軸受A1,A2には、このような回転抵抗の増大や焼付きなどをさらに効果的に防止すべく、内部に潤滑剤(例えば、グリースや潤滑油など)を封入することが好ましい。
なお、転動体6a,6bは、図5に示すような玉であってもよいし、各種のころ(円筒ころ、円すいころ及び球面ころなど)であっても構わない。また、保持器8は、転動体6a,6bの種類に応じて任意のタイプを適用すればよい。例えば、転動体が玉である場合、傾斜型(図5)、冠型及び波型などのタイプを適用することができ、転動体が各種のころ(円錐ころ、円筒ころ及び球面ころなど)である場合、もみ抜き型、くし型及びかご型などのタイプを適用することができる。
【0015】
また、ハブユニット軸受A1,A2には、ユニットの内部(静止輪2及び回転輪4(ハブ10と内輪構成体12)で囲まれた空間)を外部から封止して密封状態(気密状態、及び液密状態)に保つための密封装置20s,20tが設けられており、これにより、ユニット外部から異物(例えば、泥水や塵埃など)が内部に侵入することを防止しているとともに、ユニット内部に封入された潤滑剤(例えば、グリースや潤滑油など)が外部へ漏洩することを防止している。
一例として、図5に示す構成においては、ハブユニット軸受A1,A2のアウトボード側に接触型のシール(一例として、鋼板製の芯金の全体若しくは一部を各種の弾性材で連結して成るシール)20sが設けられているのに対し、インボード側にはシール、スリンガ及び芯金を組み合わせた構造を成すパッケージ型のシール(パックシール)20tが設けられており、これらのシール20s,20tを設けることで、ユニット内部の密封性(気密性及び液密性)を保っている。なお、密封装置は、ハブユニット軸受の種類、使用目的や使用条件などに応じて要求される密封性(気密性や液密性)のレベルによって、上記のほか、非接触型のシールやシールド(例えば、ステンレス板、鉄板等の薄い金属板からプレス成形されたシールド等)などを任意に選択して使用することも可能である。
【0016】
静止輪2には、その外周面2aから外方(径を拡大する方向)に向かって突出した固定フランジ2fが一体成形されており、当該固定フランジ2fを貫通する固定孔2hに固定用ボルト(図示しない)を挿通し、これを車体側に締結することで、静止輪2を図示しない懸架装置(サスペンション)のナックルに固定することができる。
一方、回転輪4のハブ10は、制動部材(例えば、ブレーキディスク(図示しない))を介して車輪のディスクホイール(図示しない)に固定され、当該ディスクホイールとともに回転するように構成されている。なお、かかるハブ10には、そのアウトボード側(図5の左側)に前記ディスクホイールのディスク部(図示しない)を固定(外嵌)するためのハブフランジ10fが周方向に沿って連続して突設されている。
また、ハブ10は、その中心部に軸方向の一端側から他端側まで(図5の左端側から右端側まで)を貫通する孔(スプライン孔)10tを有する略円筒形を成しており、当該スプライン孔10tには、前記等速ジョイントのシャフト(スプラインシャフト)(図示しない)が挿通され、これらの孔10tと前記シャフトが相互に嵌合(スプライン嵌合)される。これにより、ハブ10は、前記シャフトとともに回転可能となる。
【0017】
ハブユニット軸受A1,A2は、回転輪4(ハブ10及び内輪構成体12)が当該ハブ10に前記等速ジョイントのスプラインシャフトを嵌合した状態で、当該シャフトの延出方向端部側から締結部材(CVJナット)(図1及び図2に示すナット30に相当)によって前記等速ジョイントへ固定される。
この場合、ハブ10には、スプライン孔10tのアウトボード側の開口周縁を平坦面状して成るCVJナット座面10cが設けられており、前記CVJナットを前記シャフトの延出方向端部側(図5の左側、図1の下側)から当該CVJナット座面10cに当接するまで締め付けることで、回転輪4を当該シャフトに対して位置決め固定することができる。
【0018】
その際、図5(a)に示す非加締めタイプのハブユニット軸受A1の場合、軌道面2s,4s間及び軌道面2t,4t間に複数の転動体6a,6bを保持器8で保持した状態で、内輪構成体12をハブ10の段部10dまで外嵌した後、前記CVJナットを締結することで、前記等速ジョイントと段部10dとの間で挟みこまれた状態で内輪構成体12がハブ10に対して位置決め固定される。これにより、前記CVJナットによる軸力が作用され、ハブユニット軸受A1に対して所定の予圧が付与される。
これに対し、図5(b)に示す加締めタイプのハブユニット軸受A2の場合、軌道面2s,4s間及び軌道面2t,4t間に複数の転動体6a,6bを保持器8で保持した状態で、内輪構成体12をハブ10の段部10dまで外嵌した後、当該ハブ10のインボード側端部を加締めることで、その加締め部10eと段部10dとの間で挟み込まれた状態で当該内輪構成体12がハブ10に対して位置決め固定される。そして、前記CVJナットが締結される。これにより、加締めによる軸力、及び前記CVJナットによる軸力が作用され、ハブユニット軸受A2に対して所定の予圧が付与される。
【0019】
すなわち、非加締めタイプのハブユニット軸受A1においては、当該軸受に対して作用させる前記CVJナットによる軸力(ナット締めによる軸力)の大きさを調整することで、加締めタイプのハブユニット軸受A2においては、当該軸受に対して作用させる加締めによる軸力及び前記CVJナットによる軸力の大きさを調整することで、所定の予圧量に設定することが可能となる。
【0020】
このように設定されるハブユニット軸受A1,A2の予圧測定方法について次に説明する。
図1及び図2には、本発明の第1実施形態に係る予圧測定方法の機構図を例示しており、図1には、非加締めタイプのハブユニット軸受A1の予圧を測定する場合の機構図、図2には、加締めタイプのハブユニット軸受A2の予圧を測定する場合の機構図をそれぞれ一例として示している。
本実施形態においては、ハブ10のスプライン孔10tと嵌合可能なスプライン溝52が外周部に形成された治具50(円筒状であっても円柱状であっても構わない)をスプライン孔10tに嵌合(スプライン嵌合)させ、スプライン嵌合による所定のすきま減少を得た後、当該治具50の所定の端部側(前記等速ジョイントのスプラインシャフトの延出方向端部側に相当(図1及び図2の下端側))から締結部材(ナット(前記CVJナットに相当))30で締結している。これにより、治具50をハブ10に固定するとともに、ナット30による軸力(図2に示す加締めタイプのハブユニット軸受A2には、加えて加締めによる軸力)をハブユニット軸受A1,A2に作用させ、当該軸受A1,A2に予圧を付与する。そして、このようにナット30による軸力をハブユニット軸受A1,A2に作用させた状態で、その予圧量の測定を行う。
【0021】
したがって、これらのハブユニット軸受A1,A2の製造工程において、治具50をハブ10のスプライン孔10tへスプライン嵌合し、ナット30による軸力(ナット締めによる軸力)を作用させた状態で、軸受A1,A2に付与した予圧の測定を行うことができる。すなわち、ハブユニット軸受A1,A2を自動車へ装着した状態とほぼ同一の状態で、予圧の測定を行うことができる。また、自動車への装着後の予圧変化量を見込んで予圧0(ゼロ)付近の狙い値に予圧量を設定する必要がなく、測定誤差の大きい予圧0(ゼロ)付近を避けて予圧の測定を行うことができる。
この結果、ハブユニット軸受A1,A2の自動車への装着後の予圧変化量を小さくすることができるとともに、当該軸受A1,A2に対する設定予圧量の保証を正確に行うことができる。ひいては、ハブユニット軸受A1,A2の品質向上を図ることが可能となる。
【0022】
なお、このような予圧測定に当たって、治具50ではなく実機の等速ジョイントを用いることも可能である。この場合、ハブ10に等速ジョイントのスプラインシャフトを嵌合(スプライン嵌合)するとともに、当該シャフトの延出方向端部側から締結部材(CVJナット)で締結することにより、ハブ10を前記等速ジョイントに固定する。これにより、上述したようにハブユニット軸受A1,A2には前記CVJナットによる軸力(図2に示す加締めタイプのハブユニット軸受A2には、加えて加締めによる軸力)が作用され、予圧が付与される。そして、前記CVJナットによる軸力をハブユニット軸受A1,A2に作用させた状態で、その予圧量の測定を行えばよい。
ナット30(前記CVJナット)による軸力をハブユニット軸受A1,A2に作用させるに当たり、ナット締め付けトルクを所定の数値範囲内(任意に設定した最小値から最大値まで)で数水準振り、当該各水準の軸力を作用させた状態で予圧量の測定を行うことも可能である。その際には、所定の固定具(図示しない)で治具50もしくは実機の等速ジョイントを固定し、ナット締付用のソケット(図示しない)でナット30(前記CVJナット)を前記水準内の低い締め付けトルクから順に増し締めしつつ、予圧量の測定を繰り返し行えばよい。このような測定を行うことで、自動車への装着後のハブユニット軸受A1,A2に対する設定予圧量をより正確に保証することが可能となる。
【0023】
また、軸受の製造工程においては、検査組立用のラインで行うことが可能な作業に制約が生じる場合もある。例えば、実機の等速ジョイントを使用することはもちろん、ハブユニット軸受A1,A2のハブ10に対する治具50の嵌合、ナット30の締結、予圧測定、ナット30の緩め、治具50の引き抜きなどの一連の作業を行うことがラインの構成、あるいは摩耗粉の発生や軸受自体の損傷などの点で制限される場合もある。また、ナット締めを角度法やトルク勾配法で行う場合は、締め付けによりネジ部の変形が生じてしまうため、ナット30や治具50の再使用ができない。トルク法による締め付けを行う場合においても、ネジ部の面性状や潤滑状態(特に、摩擦係数)が再使用を重ねるごとに変化し、再度同じトルクをかけても前回と同一の軸力を発生させることができなくなってしまう。
これらの場合を考慮し、ハブユニット軸受A1,A2に対して治具50(あるいは実機の等速ジョイント)をスプライン嵌合した後、ナット30による軸力(ナット締めによる軸力)を作用させるのではなく、当該ナット30による軸力に相当する押圧力をハブユニット軸受A1,A2に対して作用させることも可能である。これにより、ナット30で締結しなくとも、前記ナット締めによる軸力と同等の力(押圧力)がハブユニット軸受A1,A2に作用された状態で、当該軸受A1,A2に付与した予圧の測定を行うことができる。
【0024】
図3及び図4には、このようなナット締めによる軸力と同等の力(同図に示す押圧力Fa)を作用させて予圧の測定を行う方法(本発明の第2実施形態)の機構図を例示しており、図3には、非加締めタイプのハブユニット軸受A1の予圧を測定する場合の機構図、図4には、加締めタイプのハブユニット軸受A2の予圧を測定する場合の機構図をそれぞれ一例として示している。
この場合、ハブ10のスプライン孔10tに治具50をスプライン嵌合させた状態のハブユニット軸受A1,A2に対し、所定の押圧手段(例えば、油圧によるプレス装置など)70によって前記ナット締めによる軸力と同一の大きさの押圧力Faを当該軸力と同一の向きに作用させている。その際、非加締めタイプのハブユニット軸受A1(図3)に対しては、押圧手段70の押圧部72を内輪構成体12のインボード側端部(同図の上端部に相当)に当接させ、当該押圧部72から前記押圧力Faを作用させており、加締めタイプのハブユニット軸受A2(図4)に対しては、押圧手段70の押圧部72をハブ10のインボード側端部(同図の上端部に相当)に当接させ、当該押圧部72から前記押圧力Faを作用させている。
かかる第2実施形態(図3及び図4)においては、上述のとおり、ナット30を用いずに回転輪4(内輪構成体12もしくはハブ12)に押圧力Faを直接作用(載荷)させているため、角度法やトルク勾配法によるナット締めで生じるナットまたは等速ジョイント(スプラインシャフト)のネジ部の降伏強度のばらつき、トルク法によるナット締めで生じる摩擦係数のばらつきをそれぞれ考慮し、上下限の軸力範囲の中で、数水準の軸力に相当する押圧力Faを低い順に作用させて予圧量の測定を繰り返し行うことも可能である。このような測定を行うことで、自動車への装着後のハブユニット軸受A1,A2に対する設定予圧量をより正確に保証することが可能となる。
【0025】
なお、上述した本発明の第1実施形態(図1及び図2)、及び第2実施形態(図3及び図4)に係る予圧測定方法において、ハブユニット軸受A1,A2に付与した予圧の設定予圧量の具体的な測定は、以下のように行うことが可能である。
第1実施形態(図1及び図2)においては、ナット30に対して所定の発振器90が当接され、第2実施形態(図3及び図4)においては、治具50に対して当該発振器90が当接されている。そして、発振器90から振幅一定の加振力を発生させ、ナット30もしくは治具50を介してハブユニット軸受A1,A2に振動を励起させる。
ハブユニット軸受A1,A2には、励起された振動を検知するための振動検知手段として3つの振動検出センサ92a,92b,92cが取り付けられている。これらの振動検出センサ92a,92b,92cは、ハブユニット軸受A1,A2のインボード側端部(図1から図4の上端部に相当)に当接するとともに、一直線上に配列されており、振動検出センサ92aがハブ10(治具50)の中心軸上に、振動検出センサ92b,92cが当該振動検出センサ92aに対して前記中心軸を挟んで対称をなすように、それぞれ位置付けられている。そして、ハブユニット軸受A1,A2に励起された振動を検出し、その検出波形を電圧信号として出力している。
【0026】
振動検出センサ92b,92cの出力信号は、対応する加算アンプ94b,94cで増幅された後に加算器95で時系列に加算され、メインアンプ96で増幅された後にハイパスフィルタ98に入力される。これに対し、振動検出センサ92aの出力信号は、メインアンプ96aで増幅された後にハイパスフィルタ98aに入力される。
ハイパスフィルタ98,98aは、入力された信号から測定周波数帯域以下の周波数成分(すなわち、外部ノイズの原因となる振動成分)をカットする。
ハイパスフィルタ98,98aからの出力信号は、演算処理部100に入力される。演算処理部100は、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を利用してハイパスフィルタ98,98aからの出力信号に含まれる同位相成分を消去し、ハブユニット軸受A1,A2の共振周波数(固有振動数)を算出し、当該共振周波数(固有振動数)をハブユニット軸受A1,A2の軸受剛性値に換算する。
【0027】
かかる軸受剛性値が求められれば、当該軸受剛性値をパワメータとして、ハブユニット軸受A1,A2に付与された予圧の設定予圧量を求めることができる(詳細については、出願人が発行の「NSKレポート」1989年11月号の第59頁〜66頁などの記載を参照)。
なお、第1実施形態(図1及び図2)、及び第2実施形態(図3及び図4)においては、ハブユニット軸受A1,A2を自動車へ装着した状態に近似した状態で予圧の測定を行うことができるとともに、測定誤差の大きい予圧0(ゼロ)付近を避けて予圧の測定を行うことができるため、上述したような軸受剛性値をパラメータとする予圧測定を行った場合であっても、その測定誤差を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0028】
2 静止輪
4 回転輪
6a,6b 転動体
10 ハブ
10t スプライン孔
12 内輪構成体
30 締結部材(ナット)
50 治具
52 スプライン溝
A1,A2 駆動輪支持用ハブユニット軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体構成部材に固定されて非回転状態に維持される静止輪と、
車輪構成部材及び車輪駆動軸構成部材に固定されるハブと、当該ハブに固定される少なくとも1つの内輪構成体で構成され、前記静止輪に対向配置されて前記車輪構成部材及び前記車輪駆動軸構成部材とともに回転する回転輪と、
これらの静止輪と回転輪にそれぞれ形成されて相互に対向する軌道面間へ転動可能に組み込まれた複数の転動体とを備え、
前記回転輪のハブ及び内輪構成体は、当該ハブの内径部に形成されたスプライン孔に等速ジョイントのスプラインシャフトを嵌合した状態で、当該シャフトの延出方向端部側から締結部材によって前記等速ジョイントへ固定される駆動輪支持用ハブユニット軸受の予圧測定方法であって、
前記ハブのスプライン孔と嵌合可能なスプライン溝が外周部に形成された治具を前記スプライン孔に嵌合させ、前記シャフトの延出方向端部側に相当する前記治具の端部側から前記締結部材で締結することにより当該治具を前記ハブに固定するとともに、当該締結部材による軸力を前記ハブユニット軸受に作用させて当該軸受に予圧を付与し、前記軸力を作用させた状態で予圧量の測定を行うことを特徴とする駆動輪支持用ハブユニット軸受の予圧測定方法。
【請求項2】
前記ハブユニット軸受に対し、前記締結部材による軸力を作用させる代わりに、当該軸力に相当する押圧力を作用させることを特徴とする請求項1に記載の駆動輪支持用ハブユニット軸受の予圧測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−169720(P2011−169720A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33219(P2010−33219)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】