説明

騎乗型車輌のクラッチ装置及び該クラッチ装置を備えた騎乗型車輌

【課題】自動二輪車等の騎乗型車輌のクラッチ装置において、クラッチのレリーズ操作力の軽減と共に、エンジンケース周りの空間の確保及び外観の向上を図る。
【解決手段】ハンドルに設けられたクラッチレバーと、エンジンケース内に設けられてクランク軸からの動力を断続するクラッチと、前記エンジンケース内に設けられて前記クラッチをレリーズするレリーズ機構と、を備え、前記クラッチレバーと前記レリーズ機構とをクラッチ操作力伝達可能に連結する。前記エンジンケースの外壁に、前記エンジンケースの内外を連通するロッド支持孔64を形成し、前記ロッド支持孔64に、プルロッド63をロッド長さ方向摺動自在に嵌合する。前記プルロッド63の前記エンジンケース外の部分と前記クラッチレバーとを、クラッチケーブル65により連結し、前記プルロッド63の前記エンジンケース内に部分を、前記レリーズ機構に連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車等の騎乗型車輌のクラッチ装置及び該クラッチ装置を備えた騎乗型車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の騎乗型車輌のクラッチ装置において、ハンドルバーに設けられたクラッチレバーと、エンジンケース内に設けられたクラッチのレリーズ機構とは、一般に、クラッチケーブルによりクラッチ操作力伝達可能に連結されている。
【0003】
この種のクラッチ装置の第1の従来例として、特許文献1に記載されたクラッチ装置があり、レリーズ機構のレリーズ軸受を駆動するための部材として、カム面を有する回動ロッドを備えており、この回動ロッドは、クランクケースの外壁を貫通してクランクケース内からクランクケース外に突出している。そして、回動ロッドのクランクケース内のカム面をレリーズ機構のレリーズ軸受に係合し、回動ロッドのクランクケース外の部分に回動レバーを設け、該回動レバーにクラッチケーブルの一端を連結している。作用としては、クラッチレバーを握ることにより、クラッチケーブル及び回動レバーを介して回動ロッドを回動し、カム面のカム作用にレリーズ軸受を移動させ、クラッチをレリーズする。
【0004】
図7は、第2の従来例のクラッチケーブルの構成例を示しており、カム面201aを有する回動ロッド201をクランクケースのジェネレータ室203内に収納し、ジェネレータ室203の外壁(上壁)204にケーブル挿通孔205を形成し、該ケーブル挿通孔205にクラッチケーブル208を挿通している。そして、クラッチケーブル208のインナーワイヤー208aのジェネレータ室203内の端部を、連結金具209を介して回動ロッド201の回動レバー210に連結し、クラッチケーブル208のジェネレータ室203外の部分を、図示しないハンドルバーのクラッチレバーまで延ばしている。カム面201aは、たとえば図示しないギヤ式変速機構の入力軸に挿入されたレリーズロッド211に当接しており、該レリーズロッド211の先端部は、クラッチのレリーズ軸受に連結している。
【特許文献1】特開平8−177876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来例1では、次のような課題がある。
(1)カム面を有する回動ロッドを、クランクケース外に突出させ、突出部分に設けた回動レバーにクラッチケーブルを連結する構造では、回動レバーの周囲に、回動レバーが回動できるだけの空間を確保する必要性があり、そのため、クランクケース周りに配置される部品、たとえばセルモータやオイルストレーナ等は、前記回動レバーに干渉しないように配置しなければならず、クランクケース周りの部品配置が制限される。
【0006】
(2)回動レバーは、たとえば上方突出状に配置されているので、回動レバーを所定の方向に回動させるために、クラッチケーブルは、回動レバー近傍で略水平に配置されている。したがって、このクラッチケーブルを上方のクラッチレバーまで延設するためには、クラッチケーブルを小さな曲率半径で方向変換する必要性が生じる。そうすると、クラッチレリーズ操作の際、クラッチケーブルのアウターチューブとインナーワイヤーとの摩擦が大きくなり、クラッチ操作が重くなる。また、エンジン周りの見栄えも悪くなる。
【0007】
一方、従来例2では、図7において、回動ロッド201をジェネレータ室203内に収納しているので、クランクケース周りを、各種部品配置用に有効に利用することができる。しかし、樹脂製の被覆面を有するアウターチューブ208bを単にケーブル挿通孔205に挿通させているだけであるので、アウターチューブ208bの外周面やアウターチューブ内を伝わって、外部からジェネレータ室203内に水や泥が侵入する場合がある。特に、4サイクルエンジンでは、ジェネレータ室203内に潤滑及び冷却用のオイルが収納されているので、水や泥がオイルに混じる恐れがある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、クランクケース等で構成されるエンジンケースの周りに、各種部品配置用のスペースを確保できると共に、クラッチケーブルのレイアウトを、たとえば直線状に単純化でき、それにより、クラッチ操作力を軽くすることができる騎乗型車輌のクラッチ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本願請求項1記載の発明は、ハンドルバーに設けられたクラッチレバーと、エンジンケース内に設けられてクランク軸からの動力を断続するクラッチと、前記エンジンケース内に設けられて前記クラッチをレリーズするレリーズ機構と、を備え、前記クラッチレバーと前記レリーズ機構とをクラッチ操作力伝達可能に連結する騎乗型車輌のクラッチ装置において、前記エンジンケースの外壁に、前記エンジンケースの内外を連通するロッド支持孔を形成し、前記ロッド支持孔に、プルロッドをロッド長さ方向摺動自在に嵌合し、前記プルロッドの前記エンジンケース外の部分と前記クラッチレバーとを、クラッチケーブルにより連結し、前記プルロッドの前記エンジンケース内に部分を、前記レリーズ機構に連結している。
【0010】
上記構成によると、第1の従来例1のように、クランクケース等のエンジンケースの外壁から回動ロッドが突出せず、かつ、回動レバーがエンジンケース外に露出しないので、エンジンケース周りに各種部品配置用の空間を確保することができる。また、プルロッド支持孔の開口方向を選択することにより、クラッチケーブルを、湾曲部分の少ない状態でプルロッドからクラッチレバーまで延設することができ、クラッチケーブルの取付作業が容易になると共に、クラッチ操作力を軽減でき、しかも、エンジン周りの外観を向上させることができる。さらに、ロッド支持孔にプルロッドを嵌合しているので、ロッド支持孔からエンジンケース内への水や泥の侵入を防ぐことができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の騎乗型車輌のクラッチ装置において、前記クラッチレバーと、前記ロッド支持孔及び前記プルロッドとを、車幅方向の同一側に配置している。
【0012】
上記構成によると、クラッチケーブルは、車輌を左右方向に横断させて配置する必要はなく、クラッチケーブルの配置が一層簡単になると共に、クラッチ操作力も一層軽減できる。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の騎乗型車輌のクラッチ装置において、前記ロッド支持孔の前記エンジンケース外の端部を、ハンドルバーに向けて開口している。
【0014】
上記構成によると、プルロッドからハンドルバーまで、クラッチケーブルを略直線状に配置することができ、クラッチケーブルの長さを短くできると共に、クラッチ操作力を一層軽減させることができる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の騎乗型車輌のクラッチ装置において、前記プルロッドは、シールを介して前記ロッド支持孔に嵌合している。
【0016】
上記構成によると、ロッド支持孔からエンジンケース内への水や泥の侵入を、より確実に防ぐことができる。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の騎乗型車輌のクラッチ装置において、前記プルロッドの前記エンジンケース内の端部は、ジェネレータ室に開口している。
【0018】
上記構成によると、ジェネレータ室は、通常は、クランク室のクランク軸方向の側方に形成されているので、たとえば、ジェネレータカバーを取り外すことにより、プルロッド及びレリーズ機構を外部から容易に点検することができ、また、プルロッドをロッド支持孔に嵌合していることにより、ジェネレータ室内に収納されている潤滑オイルに水等が混入するのを防ぐことができる。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載のクラッチ装置を備えた騎乗型車輌であり、これによると、騎乗型車輌において、上記請求項1〜5記載の効果と同様の効果が得られ、特に、車輌自体をコンパクトにすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1〜図6は、本発明にかかるクラッチ装置を備えた自動二輪車であり、これらの図面に基づいて本発明の一実施の形態を説明する。なお、説明の都合上、ライダーから見た左右方向を、車輌の左右方向として、以下説明する。
【0021】
[自動二輪車の概略]
図1は自動二輪車の左側面部分図であり、前車輪1と後車輪2との間にエンジン3が配置されており、このエンジン3は、メインフレーム4に設けられた複数のエンジン取付部5にボルト等により取り付けられている。
【0022】
エンジン3は4サイクルエンジンであり、クランクケース10の上側に、シリンダ11及びシリンダヘッド12が順次結合され、クランクケース10の後部にはトランスミッションケース部15が一体に形成され、クランクケース10の左側面にはジェネレータカバー16が締着されている。トランスミッションケース部15の上面の右寄り部分には、セルモータ13が配置されている。前記クランクケース10,ミッションケース部15,ジェネレータカバー16は、後述するクラッチケース及びクラッチカバー等と共に、エンジンケースを構成している。
【0023】
メインフレーム4の後部には、後車輪2の上方に向けて後方に延びる後部フレーム20,20が固着され、メインフレーム4の前上端部にはヘッドパイプ21が一体に形成されている。
【0024】
ヘッドパイプ21内には操舵軸22が回動自在に嵌合しており、該操舵軸22の上下端部には左右に延びる操舵ブラケット24,25が上下一対固着され、該操舵ブラケット24,25の左右端部に左右一対のフロントフォーク26が固着されている。上側操舵ブラケット24の上面には、クランプ部材28によりハンドルバー27が固着されており、ハンドルバー27の左端部には、左グリップ29が設けられると共にクラッチレバーホルダー30aを介してクラッチレバー30が設けられている。
【0025】
[クラッチ装置]
図3は、トランスミッションケース部15内の水平断面拡大図であり、クランク室32の後側にトランスミッション室33が形成され、クランク室32及びトランスミッション室33の右隣には、クラッチケース(図示せず)及びクラッチカバー(図示せず)により囲まれたクラッチ室34が形成され、クランク室32及びトランスミッション室33の左隣には、ジェネレータカバー16(図1)により囲まれたジェネレータ室35が形成されている。
【0026】
トランスミッション室33には、ギヤ式変速機構(一部のみ図示)が収納されており、ギヤ式変速機構の入力軸36は、クランク軸37と平行に配置されると共に、右端部がクラッチ室34内に突出しており、入力軸36の右端部にクラッチ40が装着されている。
【0027】
上記クラッチ40は、クランク軸37と入力軸36との間の動力伝達を断続する多板式摩擦クラッチであり、周知の構造を有している。すなわち、クラッチ40は、入力軸36に軸方向及び回転方向に固定されたインナーハブ41と、入力軸36に軸受45等を介して回転可能に嵌合すると共に軸方向に固定されたアウターケース42と、インナーハブ41の外周つば部41aに軸方向に間隔を置いて対向する押圧部材49と、該押圧部材49とインナーハブ41のつば部41aとの間に交互に配置された多数の摩擦プレート43及びクラッチプレート44と、押圧板49を軸方向のクラッチ接続側(矢印R2側)に付勢するクラッチばね46等から構成されている。クラッチプレート44はアウターケース42の外周筒部に形成された溝42aに係合し、アウターケース42と一体回転するようになっており、摩擦プレート43はインナーハブ41の外周部の外周面に、インナーハブ41と一体回転するようにスプライン嵌合している。アウターケース42はクラッチ入力ギヤ50に結合され、該クラッチ入力ギヤ50はクランクギヤ39に噛み合っている。
【0028】
上記クラッチ40は、通常は、押圧部材49がクラッチばね46の弾性力によりクラッチ接続側(矢印R2側)に付勢されていることにより、押圧部材49とインナーハブ41の外周つば部41aとの間で両プレート43,44を挟圧し、これによりアウターケース42からインナーハブ41に、両プレート43,44を介して動力が伝達される状態(クラッチ接続状態)に維持されている。
【0029】
クラッチ40を切断するためのレリーズ機構として、押圧部材49の内周端部にレリーズ軸受47を介して当接するレリーズロッド48と、該レリーズロッド48の左端部に軸方向一体移動可能に連結すると共に入力軸36の軸芯孔51に軸方向移動自在に挿入された中間ロッド52とを備えている。該中間ロッド52によりレリーズロッド48及びレリーズ軸受47を軸方向のレリーズ側(矢印R1側)に押すことにより、押圧部材49をクラッチばね46に抗してレリーズ側(矢印R1側)に移動させ、両プレート43,44の挟圧状態を解除し、クラッチ40にて動力を切断するようになっている。
【0030】
中間ロッド52の左端部は入力軸36の軸芯孔51の左端部まで延び、有底筒状のカムフォロー54に軸方向一体移動可能に連結しており、該カムフォロー54は入力軸36の左端部から左方のジェネレータ室35内に突出し、ジェネレータ室35内に配置された回動ロッド55のカム面55aに当接している。回動ロッド55は、ジェネレータ室35に形成された支持壁56に軸受を介して回動自在に支持されると共に、前下がりに前方に延びており、回動ロッド55の前端部には回動レバー57が固着されている。
【0031】
図6は図3のVI-VI断面拡大図であり、回動ロッド55のカム面55aは、回動ロッド55を概ね半円状に切り落とした形状となっており、カム面55aの下端部には左方に傾く逃げ面55bが形成されている。図6の状態は非レリーズ時の状態であり、この状態から回動ロッド55を矢印A1方向に所定角度だけ回動することにより、カム面55aと逃げ面55bとの境の凸部分P1によりカムフォロー54をレリーズ側(矢印R1側)に押し動かすように構成されている。
【0032】
図2はジェネレータカバー16(図1)を取り外して示すクランクケース10の左側面図(一部断面図)であり、回動ロッド55は、概ねクランク軸37に向けて前下がりに延びており、回動ロッド55の前端部に固着された前記回動レバー57は、上壁を有する二股構造の連結金具61と、中間ワイヤー62と、プルロッド63と、図1に示すクラッチケーブル65と、を順次介し、ハンドルバー27のクラッチレバー30にクラッチ操作力伝達可能に連結されている。
【0033】
図4は図2のIV-IV断面拡大図であり、回動レバー57は回動ロッド55から右方に延びており、その右端部にピン68を介して連結金具61が回動自在に連結されている。ジェネレータ室35の上壁35aには上方に突出するボス部69が形成されており、このボス69に、ジェネレータ室35内からジェネレータ室35外へ略上下方向に貫通するロッド支持孔64が形成され、該ロッド支持孔64に前記プルロッド63がロッド長さ方向に摺動自在に嵌合している。ロッド支持孔64は上端部に内周面に環状シール59が嵌着されると共に、その孔中心線O3の下方延長部分が概ね前記ピン68を通過するように、左倒れに傾斜している。
【0034】
前記連結金具61はピン68からプルロッド63に向けて延びており、連結金具61の上端部と、プルロッド63の下端部とが、前記中間ワイヤー62により連結されている。中間ワイヤー62の上下端部には係止金具62aがそれぞれ設けられており、中間ワイヤー62の下端部は、図5に示すように、連結金具61の上壁に形成された溝72に側方から挿入され、下端係止金具62aが連結金具61の上壁に係合することにより、連結金具61に連結されている。一方、連結ワイヤー62の上端部は、図4に示すように、プルロッド63の下端部に形成された係合凹部73に上端係止金具62aを係合することにより、プルロッド63に連結している。
【0035】
プルロッド62の上端部は前記シール59から上方に突出し、プルロッド63の上端部に形成された係合凹部74に、クラッチケーブル65のインナーワイヤー77の下端部に形成された係止金具78が係合し、これにより、プルロッド63とインナーワイヤー77が連結されている。
【0036】
クラッチケーブル65は、アウターチューブ76と、該アウターチューブ76内にチューブ長さ方向に移動可能に挿入された前記インナーワイヤー77とから構成されている。アウターチューブ76の下端部にはおねじ管部76aが設けられ、このおねじ管76aは、シリンダヘッド12の側壁に固着された保持金具80のめねじ孔80aに螺挿され、上下一対のロックナット82によりロックされている。すなわち、ロックナット82を緩め、おねじ管76aを回転させることにより、アウターチューブ76の固定位置を調節し、クラッチケーブル65の張力を調節できるようになっている。
【0037】
おねじ管76aの下端部からボス部69の上端部に亘り、弾性材製のブーツ(蛇腹)60が介装されており、このブーツ60により、インナーワイヤー77の下方突出部分及びプルロッド63の上端部を覆っている。
【0038】
図2において、ロッド支持孔64は、側面視で、前記回動ロッド55の軸芯線O2と略直角になるように前倒れに傾斜しており、かつ、ロッド支持孔64の中心線O3の上方延長部分は、図1に示すように概ねハンドルバー27に向いて開口している。
【0039】
図1において、クラッチケーブル65は、前記プルロッド63の上端部からハンドルバー27に向かって略直線状に前上方に延び、メインフレーム4の側部に至り、該メインフレーム4の側部にクランプ81,81により支持され、さらにヘッドパイプ21及びハンドルバー27に沿ってクラッチレバー30まで至り、アウターチューブ76の上端部はクラッチレバー30のホルダー30aに固定され、インナーワイヤー77の上端部はクラッチレバー30に連結されている。
【0040】
[作用]
非レリーズ時、すなわちクラッチレバー30を握っていない時は、図4に示すようにインーワイヤ77は回動レバー57を非レリーズ状態に保っている。すなわち、図6に示すように、カム面55aの凸部分P1はカムフォロー54を押しておらず、これにより、図3のクラッチ40は接続状態に保たれている。
【0041】
図1のクラッチレバー30を握ると、図4のプルロッド63はインナーワイヤー77により上方に引っ張られ、中間ワイヤー62及び連結金具61を介して、回動レバー57を、回動ロッド55と一体的に矢印A1方向に回動する。
【0042】
回動ロッド55が矢印A1方向に回動すると、図6において、カム面55aの凸部分P1によりカムフォロー54をレリーズ側(矢印R1側)に押し動かし、それにより、図3の中間ロッド52、レリーズロッド48及びレリーズ軸受47を一体的にレリーズ側(矢印R1側)に移動し、押圧部材49をレリーズ側(矢印R1側)に移動し、クラッチ40にて動力を切断する。
【0043】
[実施の形態の効果]
(1)図2において、回動ロッド55及び回動レバー57を、クランクケース10のジェネレータ室35内に収納し、ジェネレータ室35の上壁35aに形成したロッド支持孔64にロッド長さ方向摺動自在に嵌合したプルロッド63を介して、ジェネレータ室35内の回動レバー57と、ジェネレータ室35外のクラッチケーブル65のインナーワイヤー77とを連結しているので、ジェネレータ室35の上壁35aの上側空間を、各種部品配置用の空間として広く確保することができ、スタータモータ13等も容易に配置できる。また、エンジン3をコンパクトにできると共に、エンジン3の外観を向上させることができる。
【0044】
(2)図1において、ロッド支持孔64及びプルロッド63の上端部を、側面視で、概ねハンドルバー27に向けているので、クラッチケーブル65を略直線状にヘッドパイプ21近傍まで配設することができ、これにより、クラッチケーブル65の配設作業が容易になると共に、クラッチ操作力を、前記従来例1等に比べて、軽減することができる。
【0045】
(3)図4において、ジェネレータ室35の上壁35aにロッド支持孔64を形成し、該ロッド支持孔64にロッド長さ方向摺動自在に嵌合したプルロッド63により、ジェネレータ室35内の回動レバー57とジェネレータ室35外のクラッチケーブル65とを連結しているので、外部から水や泥がジェネレータ室35内に侵入するのを防止することができる。特に、ロッド支持孔64にシール59を装着していると、水等の侵入を一層効果的に防止できる。また、4サイクルエンジンでは、ジェネレータ室35内に収納されている潤滑オイルに水等が混入するのを防止できる。
【0046】
(4)図4において、プルロッド63の上端部及び該上端部に連結するインナーワイヤー77の下端部分をブーツ60により覆って入いるので、水等のジェネレータ室35内への侵入を一層効果的に防止できる。
【0047】
(5)図1において、クラッチレバー30と、ロッド支持孔64及びプルロッド63とを、車幅方向の同一側(左側)に配置しているので、クラッチケーブル65は、車輌を左右方向に横断させる必要はなく、クラッチケーブル65の配置が一層簡単になると共に、クラッチ操作力も一層軽減できる。
【0048】
[その他の実施の形態]
(1)図4に示す実施の形態では、プルロッド63の下端部と、回動レバー57とを、連結金具61及び中間ワイヤー62により連結しているが、プルロッド63の下端部を延長し、回動レバー57の端部に長孔を形成し、ピンによりプルロッド63の下端部を直接回動レバー57に連結する構造とすることも可能である。
【0049】
(2)ロッド支持孔64を形成する箇所は、クランクケース10のジェネレータ室35の上壁35aに限定されるものではなく、たとえばクラッチ室の上壁等に形成することも可能である。また、ロッド支持孔64を形成するエンジンケースの構成部材として、クランクケースの他に、ジェネレータカバー16、クラッチケース又はクラッチカバー等のケース類又はカバー類を利用することも可能である。
【0050】
(3)本発明は、前記各実施の形態の構造に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載した内容の範囲内で、各種変形例が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、自動二輪車には限定されず、騎乗型の四輪走行車又は三輪走行車等の車輌にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明にかかるクラッチ装置を備えた自動二輪車の一実施の形態を示す左側面部分図である。
【図2】ジェネレータカバーを取り外して示す図1のクランクケースの左側面図である。
【図3】クラッチ及びレリーズ機構の水平断面図である。
【図4】図2のIV-IV断面拡大図である。
【図5】プルロッドの組付前の状態を示す図2と同様の左側面図である。
【図6】図3のVI-VI断面拡大図である。
【図7】従来例の縦断面図である。
【符号の説明】
【0053】
3 エンジン
10 クランクケース(エンジンケースの構成部材の一例)
27 ハンドルバー
30 クラッチレバー
35 ジェネレータ室
35a ジェネレータ室の上壁(エンジンケースの外壁の一例)
40 多板式摩擦クラッチ
47,48,51 レリーズ軸受、レリーズロッド、中間ロッド(レリーズ機構)
55 回動ロッド
57 回動レバー
63 プルロッド
64 ロッド支持孔
65 クラッチケーブル
76 アウターチューブ
77 インナーワイヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルバーに設けられたクラッチレバーと、エンジンケース内に設けられてクランク軸からの動力を断続するクラッチと、前記エンジンケース内に設けられて前記クラッチをレリーズするレリーズ機構と、を備え、前記クラッチレバーと前記レリーズ機構とをクラッチ操作力伝達可能に連結する騎乗型車輌のクラッチ装置において、
前記エンジンケースの外壁に、前記エンジンケースの内外を連通するロッド支持孔を形成し、
前記ロッド支持孔に、プルロッドをロッド長さ方向摺動自在に嵌合し、
前記プルロッドの前記エンジンケース外の部分と前記クラッチレバーとを、クラッチケーブルにより連結し、
前記プルロッドの前記エンジンケース内に部分を、前記レリーズ機構に連結していることを特徴する騎乗型車輌のクラッチ装置。
【請求項2】
前記クラッチレバーと、前記ロッド支持孔及び前記プルロッドとは、車幅方向の同一側に配置してあることを特徴とする請求項1記載の騎乗型車輌のクラッチ装置。
【請求項3】
前記ロッド支持孔の前記エンジンケース外の端部は、ハンドルバー側に向いて開口していることを特徴とする請求項1記載の騎乗型車輌のクラッチ装置。
【請求項4】
前記プルロッドは、シールを介して前記ロッド支持孔に嵌合していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の騎乗型車輌のクラッチ装置。
【請求項5】
前記プルロッドの前記エンジンケース内の端部は、ジェネレータ室に開口していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の騎乗型車輌のクラッチ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のクラッチ装置を備えた騎乗型車輌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−64237(P2008−64237A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244304(P2006−244304)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】