説明

騒音緩和装置

【課題】様々な部材から発生する騒音の緩和を図る。
【解決手段】流し台1のシンク2の底部裏面に、振動センサSと振動発生素子Tとを配置し、制御器Rを収納部4内の適所に配置する。水栓器具3から吐出させた湯水がシンク2に衝突したときに発生する振動を振動センサSが検知して、振動検知信号を制御器Rへ出力する。制御器Rは、この振動検知信号を増幅し位相を反転させた振動干渉信号を即座に出力し、振動発生素子Tに振動発生動作を指令する。これによって振動発生素子Tはシンク2に振動を与えるが、その振動は、シンク2が衝撃を受けたときに発生する振動とは逆位相であるから、これら二つの振動は打ち消しあう。つまり振動発生素子Tが発生させる振動は、衝撃を減衰させる干渉振動となるので、シンク2から発生する衝突騒音を緩和することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な部材において発生する騒音の緩和技術に関する。
【背景技術】
【0002】
室内で発生する騒音を抑制するための技術が、特許文献1,2に記載されている。特許文献1は、浴室やトイレ、台所の環境騒音をマイクロホンで検出し、スピーカーから検出した騒音とは逆位相の音声を発生させることにより騒音を打ち消して、室内の静音化を図るものである。特許文献2に記載の技術は、静音化対象をキッチンシンクに取り付けられる生ゴミ処理機に特定したものであり、モータに取り付けた集音マイクで騒音(モーター作動音)を検出し、それとは逆位相の音声をスピーカーから発生させることにより、騒音の低下を図っている。すなわち、いずれの従来技術も、騒音とは逆位相の音声を発生させることで騒音の抑制を図る能動消音技術を利用するものである。
【特許文献1】特開平7−77986号公報
【特許文献2】特開平8−290073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来の技術は、騒音に対し逆位相の音声を重ねることで、騒音レベルを低減させるものであるが、騒音発生源の振動を直接抑制するものではない。このため、器具や部材に瞬間的に加わる衝撃による騒音の低減は困難であり、ましてや、この衝撃自体を緩和することは不可能であった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明が前記従来の問題を解決すべく採用した騒音緩和装置の特徴を、図1の(A)を参照して説明すると、請求項1に記載の如く、振動を受ける制振対象部材Qに取り付けられる振動検知手段及び振動発生手段と、前記振動検知手段から出力される振動検知信号に基づき、前記振動発生手段へ振動干渉信号を出力する制御手段とを備え、前記制振対象部材Qが振動を発生させたときに、この振動を抑制する干渉振動を前記振動発生手段が発生させることである。前記振動検知手段としては振動センサーが用いられ、振動発生手段には、超磁歪素子や圧電素子を用いたアクチュエータを使用することができる。また振動検知手段と振動発生手段とは、一体化して同一箇所に設けてもよく、別体に設けて異なる箇所に配置してもよい。
【0005】
本発明に係る騒音緩和装置において、前記振動検知手段及び振動発生手段を、圧電素子などを用いて単一の部材とすることが可能である。これを図1(B)を参照して説明すると、請求項2に記載の如く、前記制振対象部材Qに、振動検知機能と振動発生機能とを併せ持つ振動素子STを配置すると共に、前記制御手段に、前記振動素子STの動作状態を検知動作と振動動作とに交互に切り替える切替回路を設け、前記振動素子STが検知動作時に出力する振動検知信号に基づき、前記制御手段が前記振動素子STへ振動干渉信号を出力し、当該振動素子STは振動動作時に前記振動干渉信号に基づいて前記制振対象部材Qに干渉振動を発生させるものとすればよい。
【0006】
前記騒音緩和装置において、制振対象部材に発生させる干渉振動は、請求項3に記載の如く、制振対象部材が発生させる振動とは逆位相とすることが望ましい。
【0007】
なお、本発明に係る騒音緩和装置における制振対象部材は、請求項4に記載の如く、シンク,洗面器等の流体の受け具とする場合、請求項5に記載の如く、ドア,扉等の開閉部材とする場合、請求項6に記載の如く、床,壁等の建築物構成材とする場合などが考えられる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載した本発明に係る騒音緩和装置は、制振対象部材に振動検知手段及び振動発生手段を取り付け、制振対象部材が振動したときに、この振動を抑制する干渉振動を振動発生手段が発生させるので、制振対象部材の振動自体を打ち消すことにより、騒音の発生を抑制する。従って、衝撃による騒音の緩和に好適であり、また、制振対象部材の振動も抑制されるから、部材寿命の引き延ばしが可能である。
【0009】
請求項2に記載した騒音緩和装置によれば、制振対象部材に、振動検知機能と振動発生機能とを併せ持つ振動素子を配置することにより、制振対象部材の振動検知箇所において干渉振動を与え騒音を緩和する。従って、部材点数が少なくなるだけでなく、振動検知と振動抑制とを同一箇所で行うから、効率的で確実性の高い騒音緩和が可能である。
【0010】
請求項3に記載の如く、制振対象部材に発生させる干渉振動を、制振対象部材に発生する振動と逆位相とした場合は、騒音を効率よく減衰させることができる。
【0011】
請求項4に記載の如く、本発明をシンク,洗面器等の流体の受け具に適用した場合は、水栓器具から吐出させた湯水がシンク,洗面器等に衝突した時に発生する騒音を緩和することができる。
【0012】
請求項5に記載の如く、本発明をドア,扉等の開閉部材に適用した場合は、ドア,扉等を勢いよく閉じた時の騒音を抑制できると同時に、これら開閉部材に加わる振動の緩和を図れる。
【0013】
請求項6に記載の如く、本発明を床,壁等の建築物構成材に適用した場合は、これらに人や物が衝突した時などに発生する騒音を緩和でき、同時に、これらに加わる振動を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[第1の実施形態]
図2は本発明を適用した流し台1の一例を示すものであって、図(A)は側面断面図、図(B)は一部切り欠いた背面図である。なお本例の流し台1は、台所とリビングルームやダイニングルーム等との境界に設置される対面式構造を有しており、台所に面する側にシンク2・水栓器具3・収納部4を備え、リビングルーム等に面する側にカウンター5及び収納棚6を備えている。そして、制振対象部材であるシンク2の底部裏面に、振動検知手段としての振動センサSと、振動発生手段としての振動発生素子Tとを配置している。また、上記振動センサS及び振動発生素子Tと接続される制御手段としての制御器Rが、収納部4内の適所、例えば、背板7の前に立設され配管収納部9を形成する仕切り板8に配置される。前記振動センサS、振動発生素子T、及び、制御器Rで、本発明に係る騒音緩和装置が構成される。
【0015】
振動センサSは、シンク2の振動を検知して振動検知信号を制御器Rへ出力するものであり、例えば圧電型・電磁型・磁界型などの構造がある。あるいはレーザー光を用いた変位センサで構成することも考えられる。
【0016】
振動発生素子Tは、制御器Rからの指令信号に基づきシンク2に振動を与えるものであり、圧電素子や超磁歪素子等を用いたアクチュエータや、コイルと磁石とを用いた励磁型のエキサイター等から成る。
【0017】
制御器Rは、図1(A)に示すように、振動センサSからの入力信号を増幅する増幅回路、振動検知信号の位相を調整する(通常は、反転させて逆位相とする)位相調整回路、位相調整後の信号を再度増幅する増幅回路を有している。
【0018】
前記流し台1において、水栓器具3から吐出させた湯水をシンク2に衝突させると、金属製あるいはセラミック製のシンク2から騒音が発生する。本発明に係る騒音緩和装置は前記構成により、湯水がシンク2に衝突したときに発生する振動を振動センサSが検知して、振動検知信号を制御器Rへ出力する。制御器Rは、この振動検知信号を増幅し位相を反転させた振動干渉信号を即座に出力し、振動発生素子Tに振動発生動作を指令する。これによって振動発生素子Tはシンク2に振動を与えるが、その振動は、シンク2が衝撃を受けたときに発生する振動とは逆位相であるから、これら二つの振動は打ち消しあう。つまり振動発生素子Tが発生させる振動は、衝撃を減衰させる干渉振動となるので、シンク2から発生する衝突騒音を緩和することが出来る。また、シンクに発生する振動を抑制することができる。
【0019】
なお本発明は、流し台1のほか、洗面化粧台における洗面器の騒音緩和などにも応用可能である。
【0020】
[第2の実施形態]
図1(B)は、騒音緩和装置における振動検知手段と振動発生手段とを、単一の振動素子STにより構成した実施形態を示すものである。例えば圧電素子は、振動が与えられたときはその振動エネルギーを電気信号に変換して、振動検知信号を出力する。反対に所定の振動信号が与えられたときには、その電気エネルギーを機械的エネルギーに変換して振動を発生させる。従って圧電素子を用いれば、単一の素子で、振動検知機能と振動発生機能とを併せ持つ振動素子STを構成できる。
【0021】
前記振動素子STを用いる場合、制御手段(制御器R)に、振動素子STの動作状態を検知動作と振動動作とに切り替える切替回路を設ける。当該切替回路は、振動素子STが出力する振動検知信号を制御器Rへ入力可能な状態(検知動作状態)と、制御器Rから出力される振動干渉信号を振動素子STへ入力可能な状態(振動発生状態)とに切り替えるものである。従って、本例の騒音緩和装置は、上記切替回路により振動素子STが検知動作状態に設定されているときに、当該振動素子STが振動を検知して振動検知信号を出力したならば、前記制御器Rが、増幅回路及び位相調整回路により、振動検知信号を増幅し位相を反転させて振動干渉信号を生成すると共に、切替回路が振動発生状態に切り替わって、振動素子に振動干渉信号に基づく干渉振動を発生させる。これにより、シンク2等の制振対象部材Qに、衝撃受容時とは逆位相の振動を与えて振動を抑制し、騒音の緩和を図ることができる。
【0022】
なお本例では、単一の振動素子STで、振動検知と振動発生とを実行させるから、振動検知位置と振動発生位置とが実質的に同一になる。このことは、制振対象部材に与える干渉振動の位相を、検知した振動の位相と正確に反転させたものにできることを意味する。従って、部材点数が減少するのみならず、振動の抑制効率が優れるから、確実な騒音緩和を図れる。
【0023】
ところで、制御器Rに設けられる切替回路の動作切替間隔は、適用対象に応じて設定すればよい。例えば、図2に示すような流し台1に適用した場合、水栓器具3からシンク2に落下する湯水によって発生する衝突騒音は断続的である。従って、切替回路の動作切替間隔を非常に短くし、振動検知と振動発生とを交互に連続して実行されるように設定するのが望ましい。また、ドアや扉、あるいは床,壁等を適用対象とする場合は、騒音の発生は単発的であると考えられる。そこで、通常は振動検知状態に維持し、振動検知がなされたときに振動発生状態へ直ちに切り替え、しかるのち振動検知状態に復帰させる設定が考えられる。
【0024】
[第3の実施形態]
本発明は、図3に示すように、ドアDの騒音緩和装置としても利用することが可能である。図示のように、ドア枠11で保持されたドア板部材10,10の裏面に、振動センサSと振動発生素子Tとを配置する。またドアD内の中空部適所に、上記振動センサS及び振動発生素子Tと接続される制御器Rを設ける。
【0025】
前記の如く構成した本例の騒音緩和装置は、例えば、ドアDが勢いよく閉じられたときに、ドア板部材10に発生する振動を振動センサSが検知して振動検知信号を制御器Rへ出力し、制御器Rは振動検知信号に基づいて逆位相の振動干渉信号を振動発生素子Tへ出力する。その結果、振動発生素子Tが干渉振動をドア板部材10に与えて抑制し、騒音を緩和する。従って、開閉に伴う騒音の少ない静音化されたドアDを提供できる。また同時に、ドアD自体の振動も低減させるから、ドアDが損傷を受けることが少なくなり、ドアDの長寿命化を図れる。
【0026】
なお適用対象がドアDのように、比較的面積の大きい部材の場合、振動センサS及び振動発生素子Tの複数組をドア板部材10に配置することが望ましい。また、振動センサS及び振動発生素子Tは、ドアDの表裏両方のドア板部材10,10に配置することが望ましいが、状況により、いずれか一方のドア板部材10のみに配置することも可能である。
【0027】
[第4の実施形態]
図4は、本発明を、床板Fの騒音緩和装置として利用するものである。本例では、図示のように、根太G等で支えられる床板Fの下面に振動センサSと振動発生素子Tとを配置し、制御器Rを床板Fの下面、例えば基礎H上に配置する。
【0028】
前記の如く構成した本例の騒音緩和装置は、床板Fに加わる振動を振動センサSが検知して振動検知信号を制御器Rへ出力し、制御器Rが振動検知信号に基づいて逆位相の振動干渉信号を振動発生素子Tへ出力し、振動発生素子Tが干渉振動を床板Fに与えて騒音を緩和する。また床板Fの振動を低減させることができる。従って、例えば多数の人間が通過しても、発生する騒音の少ない床を提供することが可能である。
【0029】
[第5の実施形態]
図5に示す如く、壁板Wの裏面に振動センサSと振動発生素子Tとを配置して、壁面を騒音緩和装置とすることも考えられる。本例では、図示のように、枠体Kと壁板Wとから成る壁パネルPに、振動センサS・振動発生素子T・制御器Rを配置することにより、ユニット化した騒音緩和装置を提供することが可能である。
【0030】
前記騒音緩和装置を備える壁パネルPは、壁板Wに加わる衝撃による騒音を緩和するのみならず、室内で発生した騒音による壁板Wの振動を打ち消す干渉振動を与えることができる。従って、壁板Wの材質を適当に選択すると共に、振動発生素子Tの出力を充分なものとすれば、壁板Wを振動材として、室内の騒音を打ち消す音声を発生させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る騒音緩和装置の概略構成を示すブロック図であり、図(A)は第1の実施形態に関するもの、図(B)は第2の実施形態に関するものである。
【図2】本発明の第1の実施形態に関するものであって、図(A)は本発明を適用した流し台の右側断面図、図(B)は背面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に関するものであって、本発明を適用したドアの側面断面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態に関するものであって、本発明を適用した床の正面断面図である。
【図5】本発明の第5の実施形態に関するものであって、本発明を適用した壁パネルの側面断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1…流し台 2…シンク 3…水栓器具 4…収納部 Q…制振対象部材 R…制御器 S…振動センサ T…振動発生素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動を受ける制振対象部材に取り付けられる振動検知手段及び振動発生手段と、前記振動検知手段から出力される振動検知信号に基づき、前記振動発生手段へ振動干渉信号を出力する制御手段とを備え、前記制振対象部材が振動を発生させたときに、この振動を抑制する干渉振動を前記振動発生手段が発生させることを特徴とする騒音緩和装置。
【請求項2】
前記制振対象部材に、振動検知機能と振動発生機能とを併せ持つ振動素子が配置され、前記制御手段に、前記振動素子の動作状態を検知動作と振動動作とに交互に切り替える切替回路が設けられ、前記振動素子が検知動作時に出力する振動検知信号に基づき、前記制御手段が前記振動素子へ振動干渉信号を出力し、当該振動素子は振動動作時に前記振動干渉信号に基づいて前記制振対象部材に干渉振動を発生させるものである請求項1に記載の騒音緩和装置。
【請求項3】
前記制振対象部材に発生させる干渉振動は、制振対象部材に発生する振動と逆位相である請求項1又は2に記載の騒音緩和装置。
【請求項4】
前記制振対象部材は、シンク,洗面器等の流体の受け具である請求項1乃至3のいずれかに記載の騒音緩和装置。
【請求項5】
前記制振対象部材は、ドア,扉等の開閉部材である請求項1乃至3のいずれかに記載の騒音緩和装置。
【請求項6】
前記制振対象部材は、床,壁等の建築物構成材である請求項1乃至3のいずれかに記載の騒音緩和装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−133301(P2006−133301A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319345(P2004−319345)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】