説明

骨髄芽球と血小板凝集との弁別方法及び弁別装置

【課題】フローサイトメトリーによる血液試料の測定において、血小板凝集影響を受けることなく、骨髄芽球をより正確に弁別することができる弁別方法及び弁別装置を提供する。
【解決手段】血液学的試料に含まれる赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、上記処理がなされた試料に光を照射することによって生じる前方散乱光情報と側方散乱光情報に基づいて骨髄芽球と血小板凝集とを弁別する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄芽球と血小板凝集との弁別方法及び弁別装置に関し、幼若白血球、特に骨髄芽球を血小板凝集と高精度に弁別することができる骨髄芽球と血小板凝集との弁別方法及び弁別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液の細胞成分は、血小板、白血球、及び赤血球に大別され、さらに白血球は、顆粒球(好酸球、好中球、及び好塩基球)、単球、及びリンパ球に分類される。
これらの細胞は、骨髄で作られ、未熟な細胞から分化・成熟し、末梢血に移動する。健常人の場合、顆粒球、単球、リンパ球といった正常な血液に含まれる白血球(以下、これらを「成熟白血球」ということがある)にまで成熟していない幼若な白血球(幼若白血球)が末梢血に出現することはないが、白血病、癌の骨髄転移、重症感染症などの患者の末梢血には、骨髄芽球などの幼若白血球が出現することがある。特に骨髄芽球を検出することは、上述の疾患を診断する上で重要である。
【0003】
臨床検査、健康診断などにおいて採血した血液を自動的に測定する方法として、フローサイトメトリーを利用した測定方法が利用されている。フローサイトメトリーは、細胞膜や核などを蛍光染色した試料をフローセルに導入し、フローセルを通過する細胞に色素の励起光を照射して、フローセルを通過する個々の細胞から発される散乱光や蛍光に関する情報を取得し、これらの情報から細胞の種類や個数を測定する方法である。
【0004】
フローサイトメトリーを用いた血液学的試料の測定方法において、血液に含まれる血球、さらには血球系疾患の場合に現れる幼若白血球や形態変化した血球などを、他の血球細胞と区別して、検出するための種々の方法が提案されている。
【0005】
例えば、WO2004/001408(特許文献1)の技術によると、以下の(1)〜(3)のようにして血液中の血球が分類される。
(1)先ず前方散乱光ピークと前方散乱光幅を二軸とする二次元スキャッタグラムにおいて血小板凝集と、白血球及び赤血球ゴーストとを弁別する。
(2)次に、(1)において弁別された白血球及び赤血球ゴーストについて前方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする二次元スキャッタグラムに展開し、白血球と、赤血球ゴーストとを弁別する。
(3)さらに、(2)において弁別された白血球について蛍光強度及び側方散乱光強度を二軸とする二次元スキャッタグラムに展開し、白血球を、リンパ球、単球、顆粒球、骨髄芽球、及び顆粒球系幼若球に細分類する。
【0006】
特許文献1によると、上記(3)において、骨髄芽球を分類することができるが、血小板凝集を少量含む試料を測定した場合、(1)において血小板凝集が白血球及び赤血球ゴーストの領域に出現する可能性があり、(3)において骨髄芽球の領域に出現する可能性がある。このため、より精度良く骨髄芽球を測定する技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2004/001408
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フローサイトメトリーによる血液試料の測定において、血小板凝集影響を受けず、骨髄芽球をより正確に弁別できる弁別方法及び弁別装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、成熟白血球の細胞膜に損傷を与え学的試料をフローサイトメトリーに適用して得られる角度が異なる2種類の散乱光情報基づいて骨髄芽球を含む細胞群を特定することにより血小板凝集の影響を排除ることで、血小板凝集と区別して骨髄芽球を測定できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の骨髄芽球と血小板凝集との弁別方法は、血液学的試料に含まれる骨髄芽球と血小板凝集とを弁別する方法であって、前記試料に含まれる赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させる工程;前記処理がなされた試料に光を照射することによって生じる前方散乱光情報と、側方散乱光情報とを取得する工程;及び前記前方散乱光情報と、前記側方散乱光情報とに基づいて前記骨髄芽球と前記血小板凝集とを弁別する工程;を含む。
好ましくは、前記収縮させる工程は、試料と、界面活性剤と、可溶化剤とを混合させる工程である。
より好ましくは、界面活性剤は、ポリオキシエチレンノニオン系界面活性剤である。
さらに好ましくは、可溶化剤は、サルコシン誘導体又はその塩である。
さらに好ましくは、前方散乱光情報は前方散乱光強度であり、側方散乱光情報は側方散乱光強度である。
また、本発明の骨髄芽球と血小板凝集との弁別装置は、血液学的試料に含まれる骨髄芽球と血小板凝集とを弁別する装置であって、前記試料に含まれる赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させる試料処理手段、前記処理がなされた試料に光を照射することによって生じる前方散乱光情報と、側方散乱光情報とを取得する取得手段、及び、前記前方散乱光情報と、前記側方散乱光情報とに基づいて前記骨髄芽球と前記血小板凝集とを弁別する処理を実行する制御手段、を含む。
【0011】
本発明にいう「幼若白血球」とは、通常骨髄に存在し、末梢血液に存在しない未成熟な細胞をいう。例えば、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球をいう。前骨髄球、骨髄球、後骨髄球については、まとめて幼若顆粒球とすることもある。さらには、芽球以前の分化段階である、骨髄系幹細胞、好中球・マクロファージコロニー形成細胞、好酸球コロニー形成細胞等の白血球系の造血前駆細胞も本発明の幼若白血球の範囲に含む。
本発明にいう「成熟白血球」とは、成熟リンパ球、単球、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)のことをいう。
本発明にいう「血小板凝集」とは、血小板が2個以上凝集したものをいう。
本発明にいう「細胞膜の損傷」とは、細胞膜に特定の物質が通過できるような細孔があくことをいう。
本発明にいう「血液学的試料」とは、主に末梢血液をさすが、この他にも、骨髄液、アフェレーシス等によって回収された血液成分を含む試料、又は腹腔液、尿試料等の白血球成分を含む生体試料も好適な試料である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の骨髄芽球と血小板凝集との弁別方法は、フローサイトメトリーによる血液試料の測定により得られる2種類の散乱光情報を用いて細胞群を弁別するにあたり、血小板凝集の影響を排除して骨髄芽球を含む細胞群特定することができるので骨髄芽球を正確に弁別することができる。
本発明の骨髄芽球と血小板凝集との弁別装置は、本発明の骨髄芽球と血小板凝集との弁別方法を適用しているので、骨髄芽球を高精度に弁別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1細胞群を説明するためのスキャッタグラムである。
【図2】第2細胞群を説明するためのスキャッタグラムである。
【図3】第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を説明するためのスキャッタグラムである。
【図4】第3細胞群を説明するためのスキャッタグラムである。
【図5】第4細胞群を説明するためのスキャッタグラムである。
【図6】本発明の測定装置の外観の一例を示す図である。
【図7】本発明の測定装置に用いられるフローサイトメータの一例を示す図である。
【図8】本発明の測定装置に用いられる制御部の構成の一例を示すブロック図である。
【図9】本発明の測定装置で採用される情報処理の一例を示すフローチャートである。
【図10】本発明の測定装置で採用される情報処理の他の例を示すフローチャートである。
【図11】本発明の測定装置で採用される情報処理の他の例を示すフローチャートである。
【図12】本発明の測定装置で採用される情報処理の他の例を示すフローチャートである。
【図13】(a)は実施例1で調製した測定用試料を測定して得られた第1スキャッタグラムであり、(b)は同測定用試料を測定して得られた第2スキャッタグラムである。
【図14】実施例1について、第1細胞群と第2細胞群の双方に含まれる細胞について作成した第3スキャッタグラムである。
【図15】(a)は実施例2で調製した測定用試料を測定して得られた第1スキャッタグラムであり、(b)は同測定用試料を測定して得られた第2スキャッタグラムである。
【図16】実施例2の測定用試料について、第1細胞群と第2細胞群の双方に含まれる細胞について作成した第3スキャッタグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の血液学的試料の測定方法は、血液学的試料に含まれる赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;前記処理がなされた試料に前記蛍光色素の励起光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;取得した蛍光情報及び2種類の散乱光情報を用いて血小板凝集の影響が排除され、他の血球細胞と区別して骨髄芽球を含む細胞集団を特定する工程;特定できた骨髄芽球の細胞集団を骨髄芽球として計数する計数工程を含む。
【0015】
以下、具体的に説明する。
〔血液学的試料の処理〕
本発明の測定方法における試料処理工程は、血液学的試料と以下に述べる処理試薬とを混合することにより行なわれることが好ましい。
前記処理試薬は、血液学的試料に含まれる赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる試薬である。具体的には、試料に含まれる赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤及び核酸を蛍光染色する蛍光色素を含む。
【0016】
本発明で用いられる界面活性剤は、赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える。作用機序は明確ではないが、特定の細胞膜脂質構成成分の一部を抽出する(引き抜く)ことにより、細胞膜に特定の物質が通過できるだけの細孔をあける(これを損傷とよぶ)と考えられる。そして、蛍光色素は、界面活性剤により損傷を受けた細胞の内部にまで入り込んで核酸を染色することができる。
【0017】
界面活性剤は、幼若白血球にも損傷を与えるが、赤血球や成熟白血球に比べて細胞の損傷に時間を要する。このため、血液学的試料と処理試薬との混合後の所定時間内では、未損傷の骨髄芽球や幼若顆粒球などよりも、損傷を与えられた成熟白血球の方が染色されやすい状態となっている。このような結果、骨髄芽球、幼若顆粒球は、損傷を受けて核が染色された成熟白血球と比べて、核を染める蛍光色素ではほとんど染色されないので、成熟白血球よりも蛍光強度が低くなる。
【0018】
本発明で用いられる界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニオン系界面活性剤が挙げられる。具体的には、R(CHCHO)nHで表されるノニオン界面活性剤である。式中、Rは炭素数9〜25のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基、Rは−O−又は−COO−又は
【0019】
【化1】

であり、nは10〜40の整数である。
【0020】
炭素数9〜25のアルキル基としては、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルテトラデシル等が挙げられる。炭素数9〜25のアルケニル基としてはドデセニル、テトラデセニル等が挙げられる。炭素数9〜25のアルキニル基としては、ドデシニル、ウンデシニル、ドデシニル等が挙げられる。
【0021】
具体的には、ポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテルなどが挙げられる。
【0022】
界面活性剤は、水溶液の形態で用いることができる。例えば、ポリオキシエチレンノニオン系界面活性剤の水中濃度については、使用する界面活性剤の種類によって異なるが、前述のポリオキシエチレン(16)オレイルエーテルでは、5〜50g/l(好ましくは15〜35g/l)の範囲で使用できる。ポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤は、疎水性基の炭素数が同じであれば、nの値が小さくなるほど細胞を損傷する力が強く、nの値が大きくなるほど弱くなる。また、nの値が同じであれば、疎水性基の炭素数が小さくなるにつれて細胞を損傷する力が強くなる。その点を考慮し、上記の値を目安にして、必要な界面活性剤の濃度は実験により適宜求めればよい。
【0023】
本発明で用いられる蛍光色素は、核酸を蛍光染色する色素である。細胞膜に損傷を与えられた成熟白血球に対しては、蛍光色素が細胞膜を通過して核を染めることができる。
【0024】
具体的には、エチジウムブロマイド、プロピジウムアイオダイド、さらにモレキュラープローブ社から販売されているエチジウム−アクリジンヘテロダイマー、エチジウムアジド、エチジウムホモダイマー−1、エチジウムホモダイマー−2、エチジウムモノアジド、TOTO−1、TO−PRO−1、TOTO−3、TO−PRO−3等が挙げられる。さらに光源として、He−Ne、赤色半導体レーザなどを使用する場合に好適な色素として、下記(1)式で示される色素を使用できる。
【0025】
【化2】

式中、Rは水素原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基、Rは水素原子、アシル基、又は低級アルキル基、Rは水素原子又は置換されていてもよい低級アルキル基、Rは水素原子又は低級アルキル基、Rは水素原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基、及びZは硫黄原子、酸素原子又は低級アルキル基で置換された炭素原子、mは1又は2、Xはアニオンである。
【0026】
、R、R、R、及びRにおける低級アルキルとは、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、ter−ブチル、ペンチル、ヘキシル基が挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
及びRにおける低級アルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基を意味し、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ等が挙げられ、中でもメトキシ基、エトキシ基が好ましい。なお、R及びRは、水素原子であることが好ましい。
におけるアシル基とは、脂肪族カルボン酸から誘導されたアシル基が好ましく、例えば、アセチル、プロピオニル等が挙げられ、中でもアセチル基が好ましい。
における置換されていてもよい低級アルキル基とは、1〜3個の水酸基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)等で置換されていてもよい低級アルキル基を意味し、中でも1個の水酸基で置換されたメチル基、エチル基が好ましい。
【0027】
Zにおける低級アルキル基とは、Zとしては硫黄原子であることが好ましい。
におけるアニオンは、ハロゲンイオン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素イオン)、ハロゲン化ホウ素イオン(BF、BCl、BBr等)、リン化合物イオン、ハロゲン酸素酸イオン、フルオロ硫酸イオン、メチル硫酸イオン、芳香環にハロゲンあるいはハロゲンをもつアルキル基を置換基として有するテトラフェニルホウ素化合物イオン等が挙げられる。中でも臭素イオン又はBFが好ましい。
【0028】
上記式(1)の色素の具体的例としては、以下の色素A、色素B、色素Cが好適である。
【0029】
【化3】

【0030】
色素濃度は、使用する色素に応じて適宜決定できる。好ましくは、試薬中の濃度が0.01〜500ppmであり、より好ましくは0.1〜200ppmである。
【0031】
上述の界面活性剤により細胞膜は損傷して、細胞内の一部が細胞外に排出されることで細胞収縮が起る、あるいは細胞膜の表面状態の変化により細胞収縮が起るが、白血球以外の血球、特に赤血球を、有用な散乱光情報及び蛍光情報を提供しないゴースト集団とするために、損傷した細胞を十分に収縮させるための可溶化剤を含むことが好ましい。
【0032】
可溶化剤としては、具体的には、下記(2)式で表されるサルコシン誘導体あるいはその塩;
【0033】
【化4】

(式中、R10は炭素数10〜22のアルキル基、pは1〜5の整数である。)
下記(3)式で表されるコール酸誘導体;
【0034】
【化5】

(式中、R11は水素原子又は水酸基)
及び下記(4)式
【0035】
【化6】

(式中、qは5〜7)
で表されるメチルグルカンアミドから選択される1又はそれ以上を用いることができる。
【0036】
炭素数10〜22のアルキル基としては、デシル、ドデシル、テトラデシル、オレイル等が挙げられる。
【0037】
具体的には、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ラウロイルメチルβ−アラニンナトリウム、ラウロイルサルコシン、CHAPS(3−〔3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−1−プロパンスルホネート)、CHAPSO(3−〔3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート)、MEGA8(オクタノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA9(ノナノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA10(デカノイル−N−メチルグルカミド)等が挙げられる。
【0038】
可溶化剤の濃度は、サルコシン酸誘導体あるいはその塩では、0.2〜2.0g/l、コール酸誘導体では0.1〜0.5g/l、メチルグルカンアミドでは1.0〜8.0g/lが好ましい。
【0039】
可溶化剤として、上記以外に、n−オクチルβ−グルコシド、シュークロースモノカプレートやN−ホルミルメチルロイシルアラニン等を用いてもよく、0.01〜50.0g/lの濃度で用いることが好ましい。
【0040】
さらに、試薬のpHを調節するためのpH調節剤および緩衝液を含有することが好ましく、更に必要に応じて浸透圧調整剤を含有することが好ましい。
【0041】
緩衝剤としては、HEPES等のGood緩衝液やリン酸緩衝液等が用いられる。pH調節剤としては、水酸化ナトリウムなどが用いられる。浸透圧調節剤としては、糖、アミノ酸、有機溶媒、塩化ナトリウムなどが用いられる。糖としては、グルコース、キシリトールマンニトール、アラビノース、リビトールなどを用いることができる。アミノ酸としては、アラニン、プロリン、グリシン、バリンなどを用いることができる。有機溶媒としては、エチレングリコール、グリセリンなどを用いることができる。試薬中の浸透圧調節剤の濃度は、分子量により適宜調節されるが、例えばキシリトールを用いる場合は10〜75g/lが好ましく、グリセリンを用いる場合は5〜45g/lが好ましく、グリシンを用いる場合は5〜45g/lが好ましい。
【0042】
以上のような組成を有する処理試薬は、pH5.0〜9.0、浸透圧を150〜600mOsm/kgとするのが好ましい。
【0043】
尚、処理試薬は、界面活性剤、色素、その他の成分を含有する一液型の試薬であってもよいし、蛍光色素を含む染色液と、上述の界面活性剤を含む溶液(溶血剤)とを別々の容器に収容し、これらを備えた試薬キットとすることもできる。この場合、色素の保存安定性を高めるために、蛍光色素の溶媒としてエチレングリコール等の水溶性有機溶媒を用いることが好ましい。
【0044】
〔測定用試料の調製〕
上記処理試薬を含む溶液と血液学的試料を混合することにより、測定用試料を調製することができる。上述の試薬キットを使用する場合には、まず、界面活性剤を含む溶液(溶血剤)と血液学的試料とを混合し、次いで染色液を混合して、測定用試料としてもよい。
【0045】
血液学的試料と処理試薬との混合は、試料:処理試薬の比が1:10〜1:1000、反応温度が20〜40℃であることが好ましく、反応時間は、3秒〜5分間、より好ましくは4秒〜1分である。
【0046】
このようにして調製される測定用試料において、赤血球及び成熟白血球は、細胞収縮してサイズが小さくなっている。特に、赤血球は核がないため、細胞膜損傷による溶血、細胞収縮が進み、蛍光色素による染色もされないことから、前方散乱光、側方散乱光、及び蛍光のいずれも小さくなり、ゴースト集団として扱うことができる。
【0047】
一方、成熟白血球は、試料と試薬とを所定の時間反応させると細胞膜が損傷することによって細胞収縮するが、核は実質的に収縮しないため、赤血球ほど小さくならない。さらに、損傷した膜を蛍光色素が透過することができるので、核が染色される。
【0048】
幼若白血球は、成熟白血球や赤血球に比べて溶血剤に対して耐性を有するので、細胞膜の損傷に時間がかかる。従って、所定の反応時間内では細胞収縮が実質的におこらず、また蛍光色素が透過できないので、核もほとんど染色されない。
【0049】
個々の血小板細胞については、処理試薬によって幼若白血球と同様に膜損傷に時間を要し、また色素が血小板内に進入して血小板自体を染色することもないが、血小板凝集体の場合、凝集体の周囲に色素が物理的吸着して、染色される。
【0050】
〔散乱光情報及び蛍光情報の取得〕
調製した測定用試料をフローサイトメータで測定して、試料中に含まれる細胞、血小板などの散乱光情報及び蛍光情報を取得する。
【0051】
情報の取得は、測定用試料をフローサイトメータのフローセルに導入し、前記フローセル内を流れる試料に前記蛍光色素を励起できる励起光を照射することにより行なうことが好ましい。これにより、フローセルを通過する細胞から発される散乱光情報及び蛍光情報を取得することができる。
【0052】
照射光は、使用する蛍光色素を励起することができる波長の光を含む。使用するフローサイトメータに備え付けられている光源の光の波長に応じて、その光で励起できる蛍光色素を選択してもよい。
散乱光情報は、角度の異なる2種類の散乱光を取得する。具体的には前方散乱光と側方散乱光の組合わせが好ましく用いられる。
【0053】
ここで、前方散乱光とは、細胞のサイズが反映された情報と考えられる。つまり、細胞が大きいと前方散乱光も大きい。側方散乱光とは、前方散乱光に対して、角度が80〜100度、好ましくは85〜95度異なる散乱光である。側方散乱光からは、細胞の内部情報、特に核の情報を得ることができる。顆粒を含んでいたり、核の形がいびつな場合には側方散乱光は大きくなる傾向にある。
【0054】
所定の反応時間内では、蛍光色素は血小板の内部には殆ど進入できないため、血小板自体が殆ど染色されることはない。しかしながら、蛍光色素は血小板凝集体の周囲や血小板同士が接着している部分に結合するため、測定用試料において、凝集体が大きくなると蛍光強度が大きくなる。一方、血小板凝集が少なく凝集体が小さいときには、側方散乱光強度は小さくなり、付着する蛍光色素は少なくなるので、結果として蛍光強度も小さくなる。
【0055】
〔細胞群の特定及び骨髄芽球の計数〕
取得した散乱光情報及び蛍光情報を用いて、目的の細胞群を特定し、骨髄芽球を計数する。本発明の測定方法は、特定工程の見地から、以下の第1の測定方法〜第4の測定方法に分類できる。以下、順に説明する。
【0056】
(1)第1の測定方法
第1の測定方法では、取得した第1散乱光情報及び第2散乱光情報に基づいて、骨髄芽球を含む第1細胞群を特定し(第1特定工程)、取得した第1散乱光情報及び前記蛍光情報に基づいて、骨髄芽球を含む第2細胞群を特定し(第2特定工程)、第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を骨髄芽球として計数する。第1特定工程と第2特定工程の順序はいずれが先であってもよい。
【0057】
(1−1)第1細胞群
第1細胞群は、取得された2種類の散乱光情報、好ましくは前方散乱光強度及び側方散乱光強度に基づいて特定される。第1細胞群は、この2種類の散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム(第1スキャッタグラム)中で、骨髄芽球が出現すると考えられる領域を設定することにより特定されることが好ましい。また、検体によって骨髄芽球の染色の程度や大きさが異なるため、第1細胞群が出現する領域の設定は検体毎に行なわれることが好ましい。
【0058】
第1細胞群が出現する領域の具体的設定方法として、まず、2種類の散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム中に骨髄芽球が出現すると考えられる位置に細胞集団が認められた場合、この集団の中心を特定する。骨髄芽球の細胞集団の中心から、他の細胞集団の出現領域までの間で、骨髄芽球細胞集団の細胞が出現している部分までを、第1細胞群の出現領域の境界として決定することができる。同様にして、他の細胞集団(幼若顆粒球、顆粒球、リンパ球、単球)が出現すると考えられる位置に細胞集団が認められた場合、各集団の中心を特定するとともにその出現領域を特定する。これらの領域は、使用する色素、
濃度に応じて、種々のサイズの骨髄芽球について蓄積されたデータから、予め領域を設定しておいてもよい。
【0059】
本発明で用いられる測定用試料を、縦軸に前方散乱光強度(第1散乱光情報)、横軸に側方散乱光強度(第2散乱光情報)を二軸とするスキャッタグラム中で、各細胞が出現すると考えられる領域を設定すると、一般に図1のようになる。図1中、「Blast」は骨髄芽球出現領域であり、「IG」は幼若顆粒球出現領域、「Gran」は顆粒球出現領域、「Ly」はリンパ球出現領域、「Mo」は単球の出現領域である。
【0060】
骨髄芽球は、側方散乱光強度が弱いため、スキャッタグラム中、比較的左側の領域に現れる。一方、顆粒球、幼若顆粒球は、その核の形態のいびつさなどから、比較的側方散乱光が大きい右側に出現するので、これらの集団は骨髄芽球出現領域とは離れた領域に出現することになる。従って、第1細胞群の出現領域としては、Blast部分を囲むような一点鎖線で示す領域を設定すればよい。
【0061】
血小板凝集は、凝集の仕方が多岐にわたることから、側方散乱光強度も小さいものから大きいものまであり、また、凝集体の大きさも数個〜数10個と様々であることから、前方散乱光強度も小さいものから大きいものまで存在する。但し、凝集体のサイズといびつさには相関性があることから、図1に示すスキャッタグラムにおいて、左下から右上に向けた領域(点線で囲まれた領域)に現れることになり、Blastの領域(第1細胞群の出現領域)と重なることはない。
【0062】
図1によれば、第1細胞群は、血小板凝集や他の血球成分と区別されているので、第1細胞群を骨髄芽球として計数することが可能とも考えられる。しかしながら、試料によってはサイズが大きいリンパ球が含まれることがあり、稀であるが、リンパ球の出現領域の一部が第1細胞群の出現領域に重なることがある。
【0063】
(1−2)第2細胞群
第2細胞群は、取得した第1散乱光情報及び蛍光情報、好ましくは、前方散乱光情報及び蛍光情報に基づいて特定される。第2細胞群は、前方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とするスキャッタグラム(第2スキャッタグラム)中で骨髄芽球が出現すると考えられる領域に含まれる細胞集団である。
【0064】
骨髄芽球や幼若顆粒球は、所定の反応時間内では処理試薬による膜損傷が実質的にないので、核染色されず、蛍光強度が低い左側領域に出現する。従って、骨髄芽球が出現すると考えられる領域には、幼若白血球も出現することがある。一方、顆粒球、リンパ球、単球は、所定の反応時間で処理試薬による膜損傷を受けて核染色されるので、蛍光強度が高い右側領域に出現することになり、所定の反応時間内では実質的に核染色されない幼若白血球の集団とは明確に区別できる。すなわち、骨髄芽球を含む幼若白血球の出現領域には、成熟白血球は実質的には出現しない。
【0065】
従って、第2細胞群の出現領域の具体的特定方法としては、まずスキャッタグラム中で骨髄芽球が出現すると考えられる位置に細胞集団が認められた場合、この集団の中心を特定する。骨髄芽球の細胞集団の中心から、成熟白血球の細胞集団の細胞集団の出現領域までの間で、骨髄芽球細胞集団の細胞が出現している部分までを、第2細胞群の出現領域の境界として決定することができる。同様にして、他の細胞集団(幼若顆粒球、顆粒球、リンパ球、単球)が出現すると考えられる位置に細胞集団が認められた場合、各集団の中心を特定するとともにその出現領域を特定する。これらの領域は、使用する色素、濃度に応
じて、種々のサイズの骨髄芽球について蓄積されたデータから、予め領域を設定しておいてもよい。
【0066】
具体的には、図2に示すように、蛍光強度を横軸、前方散乱光強度を縦軸とするスキャッタグラムにおいて、第2細胞群は、蛍光強度が低い左側領域の一点鎖線で囲まれた領域に含まれる集団となる。図2中、「Blast」は骨髄芽球出現領域であり、「IG」は幼若顆粒球出現領域、「Gran」は顆粒球出現領域、「Ly」はリンパ球出現領域、「Mo」は単球出現領域である。
【0067】
尚、血小板凝集の染色は、物理的に吸着する程度なので、左側領域に出現する。また、凝集の程度により、骨髄芽球よりも小さなサイズから大きいサイズがのものが存在し得るので、図2のように、前方散乱光強度が小さいところから、大きいところまで、縦長に伸びた領域に出現する。
【0068】
(1−3)骨髄芽球の計数
以上のようにして特定した第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を骨髄芽球として計数する。
【0069】
第1細胞群に含まれる可能性があるリンパ球は、第2細胞群には含まれていない。一方、第2細胞群に含まれる可能性がある血小板凝集、幼若白血球は、第1細胞群には含まれていない。従って、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞は、リンパ球、血小板凝集、幼若白血球を含まず、実質的に骨髄芽球だけであるといえる。よって、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を骨髄芽球として計数することで、正確に骨髄芽球を計数することができる。
【0070】
尚、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を、蛍光情報及び第2散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム(第3スキャッタグラム)中に展開してもよい。この第3スキャッタグラムに出現する細胞は、実質的に骨髄芽球のみの集団である。
【0071】
第1散乱光情報は、好ましくは前方散乱光強度であり、第2散乱光情報は好ましくは側方散乱光強度である。第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞について、蛍光強度及び側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム(第3スキャッタグラム)に展開すると、例えば図3に示すようなスキャッタグラムが得られる。このスキャッタグラムには、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞、すなわち実質的に骨髄芽球だけが出現していることになるから、ここに出現した細胞を骨髄芽球として計数することもできる。
【0072】
(2)第2の測定方法
第1の測定方法及び第2の測定方法では、第1特定工程及び第2特定工程を個別に行なって、第1細胞群及び第2細胞群をそれぞれ特定したが、第1細胞群(又は第2細胞群)を先に特定し、次いで第2細胞群(又は第1細胞群)を、先に特定した第1細胞群(又は第2細胞群)の中から特定するようにしてもよい。
すなわち、第2の測定方法は、取得した第1散乱光情報及び蛍光情報に基づいて、骨髄芽球を含む第2細胞群を特定し(第2特定工程)、次いで、特定した第2細胞群の第1散乱光情報及び第2散乱光情報に基づいて、前記第2細胞群の中から第1細胞群を特定して(第2の測定方法に特化して言及する場合には、この特定工程を「第1’特定工程」、第1’特定工程で特定される第1細胞群を「第1’細胞群」という)、この第1’細胞群を骨髄芽球として計数する。あるいは取得した第1散乱光情報及び第2散乱光情報に基づいて、骨髄芽球を含む第1細胞群を特定し(第1特定工程)、次いで特定した第1細胞群の第1散乱光情報及び蛍光情報に基づいて、前記第1細胞群の中から第2細胞群を特定し(第2の測定方法に特化して言及する場合には、この特定工程を「第2’特定工程」、第2’特定工程で特定される第2細胞群を「第2’細胞群」という)、この第2’細胞群を骨髄芽球として計数する。
【0073】
第1特定工程及びそこで特定される第1細胞群、第2特定工程及びそこで特定される第2細胞群は、それぞれ取得工程で取得した散乱光情報及び蛍光情報に基づいて特定され、その具体的手法は、上記第1の測定方法と同様であるから、説明を省略する。
【0074】
(2−1)第2’細胞群の特定と骨髄芽球の計数
第2’特定工程は、先に特定した第1細胞群の第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)及び蛍光情報(好ましくは蛍光強度)に基づいて、前記第1細胞群の中から、骨髄芽球を含む集団を特定する(第2’細胞集団の特定)。このようにして特定される第2’細胞群は、第1測定方法及び第2測定方法における第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞に該当する。
【0075】
第2’細胞集団の特定は、具体的には次のようにして行なわれる。
先ず第1散乱光情報及び第2散乱光情報を軸とするスキャッタグラム(第1スキャッタグラム)を作成し、このスキャッタグラムに全ての有形成分(細胞、血小板等)を展開する。この第1のスキャッタグラム中で骨髄芽球の候補領域を設定し、この領域内に出現する第1細胞群を特定する。次に、第1散乱光情報及び蛍光情報を二軸とするスキャッタグラム(第2’スキャッタグラム)を作成し、このスキャッタグラムに第1細胞群のみ展開する。第2’スキャッタグラム中で、骨髄芽球が出現すると考えられる領域に含まれる細胞集団が、第2’細胞群である。第1散乱光情報及び蛍光情報を二軸とする第2’スキャッタグラムでは、成熟白血球と幼若白血球とが明確に区別されるので、たとえ第1細胞群にリンパ球が含まれていたとしても、第2’スキャッタグラムに展開された第2’細胞群には、リンパ球が含まれない。即ち、第2’細胞群は、実質的に血小板凝集、リンパ球などの他の成分を含まない骨髄芽球の集団である。従って、第2’細胞群に含まれる細胞を骨髄芽球として計数すればよい。
【0076】
(2−2)第1’細胞群の特定及び骨髄芽球の計数
第1’特定工程は、先に第2特定工程により第2細胞群を特定し、特定した第2細胞群の第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)及び第2散乱光情報(好ましくは側方散乱光強度)に基づいて、前記第2細胞群の中から、骨髄芽球を含む集団を特定する(第1’細胞集団の特定)。このようにして特定される第1’細胞群は、第1測定方法及び第2測定方法における第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞に該当する。
【0077】
第1’細胞集団の特定は、具体的には次のようにして行なわれる。
先ず、取得した第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)及び蛍光情報(好ましくは蛍光強度)を、第1散乱光情報及び蛍光情報を二軸とするスキャッタグラム(第2スキャッタグラム)を作成し、このスキャッタグラムに全ての有形成分(細胞、血小板等)を展開する。この第2スキャッタグラム中で骨髄芽球を含む第2細胞群の候補領域を特定する。次に、第1散乱光情報及び第2散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム(第1’スキャッタグラム)を作成し、このスキャッタグラムに上記で特定した第2細胞群のみを展開する。第1’スキャッタグラム中で、骨髄芽球が出現すると考えられる領域に含まれる細胞集団が、第1’細胞群である。第1散乱光情報及び第2散乱光情報を二軸とする第1’スキャッタグラムでは、幼若白血球及び血小板凝集が、骨髄芽球が出現する領域とは明確に区別できる領域に出現するので、第1’細胞群には、実質的に血小板凝集、リンパ球、幼若白血球などの他の成分は含まなれない。従って、第1’細胞群に含まれる細胞を骨髄芽球として計数すればよい。
【0078】
(3)第3の測定方法
第1及び第2の測定方法では、第1細胞集団(又は第1’細胞集団)及び第2細胞集団(又は第2’細胞集団)の特定にあたり、いずれの特定工程においても、2種類の情報に基づいて、それぞれの細胞集団を個別に特定した後、第1細胞集団に含まれ且つ第2細胞集団に含まれる細胞集団を特定し、これを骨髄芽球として計数したが、本発明の血液学的試料の測定方法は、取得した第1散乱光情報、第2散乱光情報、及び蛍光情報を用いて、第1細胞集団と第2細胞集団を単一の工程で特定し、第1細胞集団及び第2細胞集団の双方に含まれる細胞を決定し、それを骨髄芽球として計数してもよい。
【0079】
すなわち、第3の測定方法では、取得した第1散乱光情報及び第2散乱光情報に基づいて骨髄芽球を含む第1細胞群を特定するとともに、取得した第1散乱光情報及び蛍光情報に基づいて骨髄芽球を含む第2細胞群を特定し、第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を骨髄芽球として計数する。
【0080】
具体的には、第1の散乱光情報、第2の散乱光情報、及び蛍光情報を三軸とする三次元のスキャッタグラムに展開し、第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)及び第2散乱光情報(好ましくは側方散乱光強度)に基づいて骨髄芽球を含む第1細胞群を特定するとともに、第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)及び蛍光情報(好ましくは蛍光強度)に基づいて骨髄芽球を含む第2細胞群を特定する。このときの第1細胞群の特定方法、第2細胞群の特定方法は、第1の測定方法の場合と同様にして行なうことができる。要するに、三次元のスキャッタグラムにおいて、第1細胞群の特定と第2細胞群の特定を同時に行なうことができ、さらに第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を特定することができる。第1の測定方法で述べたように、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞は、実質的に血小板凝集、リンパ球等の他の細胞成分を含んでいない。従って、三次元スキャッタグラムで、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を、骨髄芽球として計数すれば、高精度に骨髄芽球を計数できる。
【0081】
(4)第4の測定方法
第4の測定方法は、取得した第1散乱光情報及び蛍光情報に基づいて特定する細胞群として、骨髄芽球を含む第2細胞群に代えて、ゴースト集団以外の細胞(本発明で用いられる測定用試料においては、赤血球は細胞収縮によりゴースト集団となっているので、実質的に全白血球)を含む第3細胞群を特定した場合に適用される方法である。
【0082】
すなわち、第4の測定方法では、取得した第1散乱光情報及び第2散乱光情報に基づいて、骨髄芽球を含む第1細胞群を特定し(第1特定工程)、取得した第1散乱光情報及び蛍光情報に基づいて、全白血球を含む第3細胞群を特定し(第3特定工程)、前記第3細胞群の第2散乱光情報及び蛍光情報に基づいて、前記第3細胞群の中から、少なくとも成熟白血球を実質的に含まない第4細胞群を特定し(第4特定工程)、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第4細胞群に含まれる細胞を計数する。
【0083】
第1特定工程及び第1細胞群は、第1の測定方法と同様であるから、説明を省略する。
(4−1)第3特定工程及び第3細胞群
第3細胞群は、前方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とするスキャッタグラムにおいて、赤血球ゴースト集団が出現する領域を除いた領域に出現する細胞集団、すなわち実質的に全白血球の集団である。具体的には、蛍光強度を横軸、前方散乱光強度を縦軸とするスキャッタグラムを描いた場合に、図4に示すように、一点鎖線で囲まれる領域に出現する細胞集団が、第3細胞群となる。尚、第3細胞群の出現領域には、図2で示したように、血小板凝集も含まれていることになる。
【0084】
(4−2)第4特定工程及び第4細胞群
第4細胞群は、第3細胞群の第2散乱光情報及び蛍光情報、好ましくは側方散乱光情報及び蛍光情報に基づいて特定される。蛍光強度及び側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム中に第3細胞群を展開した場合、成熟白血球が出現する領域と幼若白血球が出現する領域とが明確に区別されるので、蛍光強度及び側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム中で骨髄芽球が含まれると考えられる領域を特定すれば、幼若白血球を含む細胞集団、さらには骨髄芽球を含む集団の出現領域を特定することができる。ここでの骨髄芽球の候補領域の特定は、第1細胞群や第2細胞群の特定と同様に、検体毎に行なわれることが好ましい。また、使用する色素、濃度に応じて、種々のサイズの骨髄芽球、成熟白血球について蓄積されたデータから、予め設定しておいてもよい。
【0085】
側方散乱光強度を横軸、蛍光強度を縦軸とするスキャッタグラムにおいて、第3細胞群を展開すると、図5に示すように、成熟白血球(リンパ球、単球、及び顆粒球)は、核が染色されているので上方に出現し、実質的に核染色されない幼若白血球と明確に区別できる。成熟白血球は、核の形態等に応じて、左側から順にリンパ球集団(Ly)、単球集団(Mo)、顆粒球集団(Gran)となって出現する。血小板凝集は、下方に、左側から右側にかけて出現する。従って、側方散乱光強度が低い左側領域で、蛍光強度の比較的低い位置から中程度に位置する、骨髄芽球を含む一点鎖線で囲まれた領域内の細胞集団を第4細胞群として特定すればよい。骨髄芽球と幼若顆粒球とは、核の形態、複雑性が異なるので、側方散乱光強度の大きさで両者を区別することが可能であるが、両者を明確に区別するためのゲーティングが困難なときは、骨髄芽球と幼若顆粒球の双方が含まれる幼若顆粒球の出現領域に含まれる細胞集団を第4細胞群としてもよい。
【0086】
(4−3)骨髄芽球の特定及び計数
以上のようにして特定された第1細胞群に含まれ且つ第4細胞群に含まれる細胞を計数する。第1細胞群は血小板凝集が含まれておらず、第4細胞群には成熟白血球が含まれていないので、第1細胞群に含まれ且つ第4細胞群に含まれる細胞は、実質的に血小板凝集、成熟白血球が含まれない骨髄芽球あるいは幼若白血球の集団である。すなわち、たとえ第1細胞群にリンパ球が含まれていたとしても、第1細胞群に含まれ且つ第4細胞群に含まれる細胞には、リンパ球が除かれているので、実質的に骨髄芽球あるいは幼若白血球を、高精度に計数することができる。
【0087】
〔弁別方法〕
本発明の血液学的試料に含まれる骨髄芽球と血小板凝集とを弁別する方法は、本発明の測定方法における試料処理工程;前記処理がなされた試料に光を照射することによって生じる前方散乱光情報と、側方散乱光情報とを取得する工程;及び前記前方散乱光情報と前記側方散乱光情報とに基づいて、骨髄芽球を含む第1細胞群を特定することで、骨髄芽球を含む細胞集団と血小板凝集とを弁別する方法である。
【0088】
上述のように、前方散乱光情報と側方散乱光情報とを二軸とするスキャッタグラムにおいて、骨髄芽球が出現すると考えられる領域を特定した場合、血小板凝集が出現すると考えられる領域とは明確に区別されているので、血液学的試料に含まれる骨髄芽球と血小板凝集とを弁別することができる。
【0089】
〔血液学的試料の測定装置〕
本発明の測定装置は、血液学的試料に含まれる赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理手段;前記処理がなされた試料に前記蛍光色素の励起光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得手段;前記第1散乱光情報及び前記第2散乱光情報に基づいて骨髄芽球を含む第1細胞群を特定する第1特定手段;前記第1散乱光情報及び前記蛍光情報に基づいて骨髄芽球を含む第2細胞群を特定する第2特定手段;及び前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を骨髄芽球として計数する計数手段を含む。
【0090】
本発明の測定装置は、その外観として、例えば図6に示すような外観を有している。
図6に示す装置は、測定部1と、解析部2と、解析部2と測定部1とを接続する信号ケーブル3とを有する。測定部1に本発明の装置の試料処理手段及び取得手段が含まれ、解析部2に本発明の第1特定手段、第2特定手段及び計数手段が含まれる。
測定部1は、操作者が各種設定入力を行うための液晶タッチパネル10、測定動作を開始するためのスタートスイッチ11、及び検体を吸引するためのプローブ12を備えている。また、測定部1の内部には、図7に示されるようなフローサイトメータが搭載されている。解析部2は、測定部1から送信された情報の処理や、測定部1の動作を制御する制御部6と、各種測定結果などを表示する表示部たる出力部7と、操作者が検体情報等を入力するためのキーボード8とを備えている。
【0091】
次に、図7に示されるフローサイトメータについて説明する。
光源(例えば赤半導体レーザ:波長633nm)21から出射されたビームは、コリメートレンズ22を介してシースフローセル23のオリフィス部を照射する。ノズル20から吐出されたオリフィス部を通過する血球から発せられる前方散乱光は集光レンズ24とピンホール板25を介して前方散乱光検出器(フォトダイオード)26に入射する。一方、オリフィス部を通過する血球から発せられる側方散乱光は、集光レンズ27とダイクロイックミラー28を介して側方散乱光検出器(フォトマルチプライアチューブ)29に入射する。また、オリフィス部を通過する血球から発せられる側方蛍光は、集光レンズ27とダイクロイックミラー28とフィルタ28’とピンホール板30を介して側方蛍光検出器(フォトマルチプライアチューブ)31に入射する。前方散乱光検出器26から出力される前方散乱光信号と、側方散乱光検出器29から出力される側方散乱光信号と、側方蛍光検出器31から出力される側方蛍光信号とは、それぞれアンプ32,33,34により増幅され、制御部6に入力される。
【0092】
なお、前記光源21は、試料の処理に用いた色素を励起できる光を、調製した測定用試料を導入したフローセルのオリフィス部に光を照射するもので、試料中の血球を染色する蛍光色素に応じたものが選ばれる。従って、使用する蛍光色素の種類により、赤色半導体レーザの他、例えば、アルゴンレーザ、He−Neレーザ、青色半導体レーザなどが用いられてもよい。
【0093】
図8は、制御部6の構成を示すブロック図である。この制御部6は、CPU6aと、ROM6bと、RAM6cと、ハードディスク6dと、入出力インタフェース6eと、画像出力インタフェース6fと、通信インタフェース6gとから主として構成されており、CPU6a、ROM6b、RAM6c、ハードディスク6d、入出力インタフェース6e、出力インタフェース6f、および通信インタフェース6gは、バス6hによってデータ通信可能に接続されている。
【0094】
CPU6aは、ROM6b及びハードディスク6dに記憶されているコンピュータプログラム及びRAM6cに読み出されたコンピュータプログラムを実行することが可能である。従って、測定部1、具体的にはフローサイトメータから入力された前方散乱光信号、側方散乱光信号、及び蛍光信号に基づいて、設定されたプログラムの演算処理を行ない、第1細胞群、第2細胞群といった細胞群を特定し、さらに骨髄芽球を計数する。
【0095】
ROM6bは、CPU6aに実行させるためのコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータ等を記憶している。RAM6cは、ROM6b及びハードディスク6dに記憶されているコンピュータプログラムの読み出し、及びコンピュータプログラムを実行するときのCPU6aの作業領域に用いられる。ハードディスク6dは、CPU6aに実行させるためのコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータを記憶している。このコンピュータプログラムは、光学的情報を分析し、分析結果を出力するための機能を果たす。
【0096】
入出力インタフェース6eには、キーボード8が接続されている。入力部たるキーボード8は、出力画面上における操作等のために設けられている。出力インタフェース6fは、液晶ディスプレイからなる出力部7に接続されている。出力部7は、制御部6で得られた分析結果を出力表示する等のために設けられている。通信インタフェース6gは、測定部1に接続されており、光学的情報を受信するための機能を果たす。
【0097】
次に、制御部6における情報処理の実施態様について説明する。
図9は、本発明の第1の測定方法に対応する情報処理を示すフローチャートである。制御部6が第2の測定方法を採用している場合、まず、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号及び蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度及び側方散乱光強度を用い、前方散乱光強度及び側方散乱光強度を二軸とする第1スキャッタグラムを作成する(ステップS3)。第1スキャッタグラム中、骨髄芽球が出現すると考えられる骨髄芽球候
補領域を設定し、この領域内に含まれる第1細胞群を特定する(ステップS4)。また、試料中の有形成分の前方散乱光強度及び蛍光強度を用い、前方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする第2スキャッタグラムを作成する(ステップS5)。第2スキャッタグラム中、骨髄芽球が出現すると考えられる骨髄芽球候補領域を設定し、この領域内に含まれる第2細胞群を特定する(ステップS6)。次いで、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞の蛍光強度及び側方散乱光強度を用いて、蛍光強度及び側方散乱光強度を二軸とする第3スキャッタグラムを作成する(ステップS7)。この第3スキャッタグラムに出現する細胞(第1細胞群に含まれ、且つ第2細胞群にも含まれる細胞)を骨髄芽球として計数し(ステップS8)、この計数結果と第3スキャッタグラムとを出力部7に出力する(ステップS9)。
【0098】
図10は、本発明の第2の測定方法のうち、第1細胞群を先に特定する方法に対応する情報処理を示すフローチャートである。制御部6がこのような第2の測定方法を採用している場合、先ず、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号及び蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度及び側方散乱光強度を用い、前方散乱光強度及び側方散乱光強度を二軸とする第1スキャッタグラムを作成する(ステップS3)。第1スキャッタグラム中、骨髄芽球が出現すると考えられる骨髄芽球候補領域を設定し、この領域内に含まれる第1細胞群を特定する(ステップS4)。また、第1細胞群の前方散乱光強度及び蛍光強度を用い、前方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とするスキャッタグラム(第2’スキャッタグラム)を作成する(ステップS5)。第2’スキャッタグラム中、骨髄芽球が出現すると考えられる骨髄芽球候補領域を設定し、この候補領域に含まれる第2’細胞群を特定する(ステップS6)。この第2’細胞群を骨髄芽球として計数し(ステップS7)、この計数結果と第2’スキャッタグラムを出力部7に出力する(ステップS8)。
【0099】
図11は、本発明の第2の測定方法のうち、第2細胞群を先に特定する方法に対応する情報処理を示すフローチャートである。制御部6がこのような第2の測定方法を採用している場合、先ず、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号及び蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度及び蛍光強度を用い、前方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする第2スキャッタグラムを作成する(ステップS3)。第2スキャッタグラム中、骨髄芽球が出現すると考えられる骨髄芽球候補領域を設定し、この領域内に含まれる第2細胞群を特定する(ステップS4)。次に、第2細胞群の前方散乱光強度及び側方散乱光強度を用い、前方散乱光強度及び側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム(第1’スキャッタグラム)を作成する(ステップS5)。第1’スキャッタグラム中、骨髄芽球が出現すると考えられる骨髄芽球候補領域を設定し、この候補領域内に含まれる第1’細胞群を特定する(ステップS6)。この第1’細胞群を骨髄芽球として計数し(ステップS7)、この計数結果と第1’スキャッタグラムを出力部7に出力する(ステップS8)。
【0100】
図12は、本発明の第3の測定方法に対応する情報処理を示すフローチャートである。制御部6がこのような第3の測定方法を採用している場合、先ず、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号及び蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度、側方散乱光強度及び蛍光強度を三軸とする三次元スキャッタグラムを作成する(ステップS3)。この三次元スキャッタグラムにおいて、前方散乱光強度及び側方散乱光強度に基づく第1細胞群と、前方散乱光強度及び蛍光強度に基づく第2細胞群とを特定する(ステップS4)。この三次元スキャッタグラム中で第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群にも含まれる細胞が出現する骨髄芽球領域を設定し、この領域に出現する細胞を骨髄芽球として計数する(ステップS5)。骨髄芽球の計数結果と三次元スキャッタグラムとを出力部7に出力する(ステップS8)。
【0101】
上記実施態様の装置では、制御部6は、骨髄芽球の計数結果と計数に用いたスキャッタグラムを出力部7の表示ディスプレイに出力表示するが、これらのうち何れかのみを出力するものであってもよい。また、スキャッタグラムを出力する場合、最終的に骨髄芽球の計数に使用するスキャッタグラムだけでなく、作成したスキャッタグラムの全てを出力するようにしてもよい。
【0102】
以上の実施形態の測定装置は、上記本発明の第1〜第3の測定方法を採用したものであったが、第4の測定方法を採用する場合には、取得した蛍光情報及び第2散乱光情報に基づいて、少なくとも成熟白血球を含まない第4細胞群を特定する第3特定手段を更に含み、前記計数手段は、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれ且つ第3特定手段で特定した細胞群に含まれる細胞を、骨髄芽球として計数する手段であることが好ましい。
【0103】
第4の測定方法を採用する装置については、具体的には、上記実施形態の制御部6における情報処理を変更するだけでよい。但し、第2特定手段において、第1散乱光情報及び蛍光情報に基づいて特定される第2細胞群として、骨髄芽球を含む全白血球の集団(第3細胞群に該当)を特定し、第3特定手段では、第4細胞群を特定するために、第2散乱光情報(側方散乱光強度)と蛍光情報(蛍光強度)を二軸とするスキャッタグラムを作成する。そして、第1細胞群に含まれ、第2細胞群(ここでは実質的に第3細胞群に該当)に含まれ、且つ第4細胞群に含まれる細胞を計数し、計数結果を出力部7に出力する。
【0104】
尚、以上の実施形態においていう「骨髄芽球の計数結果」には、試料中の骨髄芽球数、単位体積あたりの骨髄芽球数(濃度)、全白血球に対する骨髄芽球の割合などが含まれ、制御部6はこれらのうち少なくともひとつを出力することができる。
【実施例】
【0105】
〔血液学的試料〕
血液学的試料として、骨髄芽球を多量に含むサンプル(試料a)、骨髄芽球と幼若白血球を含むサンプル(試料b)を用いた。試料a,bには、血小板凝集が含まれている。
【0106】
〔測定用試料の調製〕
(1)処理試薬Aを用いた測定用試料
(A−1)溶血剤
以下の成分を含む下記組成の溶血剤を調製した。
グリシン 19.5g/l
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 25.0g/l
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 0.75g/l
HEPES 10mM
精製水 1l
水酸化ナトリウム pHが7.0となる量
【0107】
(A−2)染色液
下記式で表される蛍光色素Aをエチレングリコールで溶解したものである。
【0108】
【化7】

上記溶血剤と血液学的試料を混合し、これに上記染色液を、蛍光色素の最終濃度が20ppmとなるように、混合して測定用試料を調製した。
【0109】
(2)処理試薬Bを用いた測定用試料
下記組成を有する溶血剤を用いた以外は、処理試薬Aの場合と同様にして、測定用試料を調製した。
キシリトール 37.0g/l
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 25.0g/l
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 0.75g/l
HEPES 10mM
精製水 1l
水酸化ナトリウム pHが7.0となる量
【0110】
〔測定〕
実施例1
血液学的試料a及び処理試薬Bを混合し、33℃で5秒間反応させて調製した測定用試料をフローセルに導入し、フローサイトメータ(光源:赤色半導体:波長:633nm)で前方散乱光、側方散乱光、蛍光を測定した。測定結果を、前方散乱光強度と側方散乱光強度を二軸とする第1スキャッタグラム(図13(a))、及び蛍光強度と前方散乱光強度を二軸とする第2スキャッタグラム(図13(b))に示す。
【0111】
図13(a)において、第1細胞群の出現領域は、実線で囲まれた領域である。図13(b)において、第2細胞群の出現領域は、実線で囲まれた領域である。図13(a)において、リンパ球を含む細胞集団が広がっていて、その一部が第1細胞群に重なっていた。
第1細胞群及び第2細胞群の双方に含まれる細胞の集団を、図14に示す。図14は、側方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする第3スキャッタグラムで、第1細胞群及び第2細胞群の双方に含まれる細胞集団は、実線で囲まれた部分に集中して出現していた。
【0112】
図14の実線で囲まれた領域内の細胞数を計数し、全白血球数に対する割合を算出したところ、58.5%であった。一方、血液学的試料aを顕微鏡で観察し、骨髄芽球を計数した。視野における全白血球数に対する骨髄芽球の割合を求めたところ、42.0%であった。
従って、本発明の測定方法によれば、顕微鏡観察と同程度の精度で、骨髄芽球を検出できることを確認できた。
【0113】
実施例2
血液学的試料bを処理試薬Aで、33℃で5秒間処理して調製した測定用試料を、フローセルに導入し、フローサイトメータ(光源:赤色半導体、波長:633nm)で前方散乱光、側方散乱光、及び蛍光を測定した。測定結果を、前方散乱光強度と側方散乱光強度を二軸とする第1スキャッタグラム(図15(a))、及び蛍光強度と前方散乱光強度を二軸とする第2スキャッタグラム(図15(b))に示す。
【0114】
図15(a)において、第1細胞群の出現領域は、実線で囲まれた領域である。図15(b)において、第2細胞群の出現領域は、実線で囲まれた領域である。
第1細胞群及び第2細胞群の双方に含まれる細胞の集団を、図16に示す。図16は、側方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする第3スキャッタグラムで、第1細胞群及び第2細胞群の双方に含まれる細胞集団は、実線で囲まれた部分に集中して出現していた。
【0115】
図16の実線で囲まれた領域内の細胞数を計数し、全白血球数に対する割合を算出したところ、2.4%であった。一方、血液学的試料aを顕微鏡で観察し、骨髄芽球を計数した。全白血球に対する骨髄芽球の割合は2.5%であった。
従って、本発明の測定方法によれば、顕微鏡観察と同程度の精度で、骨髄芽球を検出できること、特に幼若顆粒球とも区別して、骨髄芽球を高精度に検出できることを確認できた。
【符号の説明】
【0116】
6 制御部
7 表示部(出力部)
21 光源
26 前方散乱光検出器
29 側方散乱光検出器
31 蛍光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液学的試料に含まれる骨髄芽球と血小板凝集とを弁別する方法であって、
前記試料に含まれる赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させる工程、
前記処理がなされた試料に光を照射することによって生じる前方散乱光情報と、側方散乱光情報とを取得する工程、及び
前記前方散乱光情報と、前記側方散乱光情報とに基づいて前記骨髄芽球と前記血小板凝集とを弁別する工程
を含む骨髄芽球と血小板凝集との弁別方法。
【請求項2】
前記収縮させる工程は、前記試料と、界面活性剤と、可溶化剤とを混合させる工程である、請求項1に記載の弁別方法。
【請求項3】
前記界面活性剤は、ポリオキシエチレンノニオン系界面活性剤である、請求項2に記載の弁別方法。
【請求項4】
前記可溶化剤は、サルコシン誘導体又はその塩である、請求項2又は3に記載の弁別方法。
【請求項5】
前記前方散乱光情報は前方散乱光強度であり、前記側方散乱光情報は側方散乱光強度である、請求項1−4のいずれか1つに記載の弁別方法。
【請求項6】
血液学的試料に含まれる骨髄芽球と血小板凝集とを弁別する装置であって、
前記試料に含まれる赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させる試料処理手段、
前記処理がなされた試料に光を照射することによって生じる前方散乱光情報と、側方散乱光情報とを取得する取得手段、及び
前記前方散乱光情報と、前記側方散乱光情報とに基づいて前記骨髄芽球と前記血小板凝集とを弁別する処理を実行する制御手段
を含む、骨髄芽球と血小板凝集との弁別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−88336(P2012−88336A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−11485(P2012−11485)
【出願日】平成24年1月23日(2012.1.23)
【分割の表示】特願2006−92480(P2006−92480)の分割
【原出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】