説明

高い拡散係数をもたらすポリロタキサンを有する材料

【課題】高い拡散係数を有する材料、例えばウェットゲルの提供。
【解決手段】i)第1のポリロタキサン、ii)以下のa)及び/又はb)の物質(a)ポリロタキサン以外である第1のポリマー;b)第2のポリロタキサン)、iii)溶媒、及びiv)第1の溶質;を有する材料であって、i)第1のポリロタキサンの少なくとも一部とii)物質の少なくとも一部とが化学的及び/又は物理的に架橋してなり、該材料における第1の溶質の実効拡散係数D/q1/3(D:拡散係数、q:材料の膨潤度)は、ポリ(アクリルアミド)、水、トリス−塩酸緩衝剤、及び第2の溶質としてジナトリウム 3-ヒドロキシ-4-[(2,4,5-トリメチルフェニル)アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホナートのみからなる比較試料であって水の含有率が95%である比較試料における第2の溶質の実効拡散係数の1.1倍以上である、上記材料により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い拡散係数をもたらすポリロタキサンを有する材料に関する。
【背景技術】
【0002】
環状分子(回転子:rotator)の開口部が直鎖状分子(軸:axis)によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両末端(直鎖状分子の両末端)に、環状分子が脱離しないように封鎖基を配置して成るポリロタキサンを複数架橋してなる架橋ポリロタキサンが提案されている(特許文献1参照、なお、この文献は、その全てが参照として本明細書に組み込まれる)。
【0003】
この架橋ポリロタキサンは、環状分子が直鎖状分子上を移動する滑車効果を有することによって、該架橋ポリロタキサンに張力が加えられたとしても、該滑車効果により該張力を架橋ポリロタキサン内で均一に分散させることができる。また、この架橋ポリロタキサンは、水などの溶媒を保持する機能も有する。これらの機能から、架橋ポリロタキサンは、種々の分野への応用が期待されている。
【0004】
一方、水などの溶媒を保持する材料としてウェットゲルが各種提案されている(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3475252号公報。
【非特許文献1】Tokita, M., Jpn. J. Appl. Phys.34, 2418-2422 (1995)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来提案されているウェットゲルなどは、十分に高い拡散係数を有していなかった。例えば、コンタクトレンズやDDS(ドラッグデリバリシステム)においては、より高い拡散係数を有する材料、例えばウェットゲルが求められていたが、未だにその要望を満たす材料、例えばウェットゲルは存在しなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高い拡散係数を有する材料、例えばウェットゲルを提供することにある。
また、本発明の目的は、高い拡散係数を有し且つ高い透過性を有する材料、例えばウェットゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、以下の発明を見出した。
<1> i)第1のポリロタキサン、
ii)以下のa)及び/又はb)の物質、
a)ポリロタキサン以外である第1のポリマー;
b)第2のポリロタキサン、
iii)溶媒、及び
iv)第1の溶質;
を有する材料であって、
前記i)第1のポリロタキサンの少なくとも一部と前記ii)物質の少なくとも一部とが化学的及び/又は物理的に架橋してなり、
前記第1のポリロタキサンは、第1の環状分子、該第1の環状分子を串刺し状に包接する第1の直鎖状分子、及び該第1の直鎖状分子から前記第1の環状分子が脱離しないように前記第1の直鎖状分子の両端に配置される第1の封鎖基を有し、
前記第2のポリロタキサンは、前記第1の環状分子と同じであっても異なってもよい第2の環状分子、該第2の環状分子を串刺し状に包接する第2の直鎖状分子であって前記第1の直鎖状分子と同じであっても異なってもよい第2の直鎖状分子、及び該第2の直鎖状分子から前記第2の環状分子が脱離しないように前記第2の直鎖状分子の両端に配置される第2の封鎖基であって前記第1の封鎖基と同じであっても異なってもよい第2の封鎖基を有し、
前記材料における前記第1の溶質の実効拡散係数D/q1/3(D:拡散係数、q:材料の膨潤度)は、ポリ(アクリルアミド)、水、トリス−塩酸緩衝剤、及び第2の溶質としてジナトリウム 3-ヒドロキシ-4-[(2,4,5-トリメチルフェニル)アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホナートのみからなる比較試料であって水の含有率が95%である比較試料における前記第2の溶質の実効拡散係数の1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上、例えば1.1〜10倍、好ましくは1.2〜10倍、より好ましくは2〜10倍、さらに好ましくは3〜10倍、最も好ましくは5〜10倍である、上記材料。
なお、ここで、ジナトリウム 3-ヒドロキシ-4-[(2,4,5-トリメチルフェニル)アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホナートは、一般名が「ポンソー3R(Ponceau
3R)」である赤色色素である。
【0008】
<2> 上記<1>において、ii)物質が、a)第1のポリマーを有し、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第1のポリマーの少なくとも一部とが化学的及び/又は物理的に架橋するのがよい。
<3> 上記<1>又は<2>において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第1のポリマーの少なくとも一部とが、環状分子を介して化学的に結合するのがよい。
【0009】
<4> 上記<1>〜<3>のいずれかにおいて、ii)物質が、b)第2のポリロタキサンを有し、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第2のポリロタキサンの少なくとも一部とが化学的及び/又は物理的に架橋するのがよい。
<5> 上記<1>〜<4>のいずれかにおいて、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第2のポリロタキサンの少なくとも一部とが、環状分子を介して化学的に結合するのがよい。
<6> 上記<1>〜<5>のいずれかにおいて、溶媒が、水、非水系溶媒、及び水と非水系溶媒との混合物からなる群から選ばれるのがよい。
【0010】
<7> 上記<6>において、非水系溶媒が、天然油(例えば、グリセリン、ひまし油、オリーブ油など);アルコール類(例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノールなどの一価アルコール;及びエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエステルポリオールなどの多価アルコール);脂肪酸(特に高級脂肪酸、例えばオレイン酸、リノレイン酸など;エーテル類(例えば、多価アルコールのアルキルエーテル類、エチレンオキシド・プロピレンオキシド共重合体など);アビエチン酸エチル;及びシリコーン油(例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルなど)からなる群から選ばれるのがよい。なお、多価アルコールのアルキルエーテル類については、モノアルキルエーテルであってもポリアルキルエーテルであってもよい。多価アルコールのモノメチルエーテル、ジメチルエーテル、モノエチルエーテル、ジエチルエーテルなどを挙げることができる。ポリエチレングリコールについては、数平均分子量が200〜600、好ましくは200〜450であるのがよい。また、ポリプロピレングリコールについては、数平均分子量が400〜5000、より好ましくは400〜3500であるのがよい。
【0011】
<8> 上記<1>〜<7>のいずれかにおいて、溶媒とポリロタキサンとの重量比(溶媒:ポリロタキサン)が、1:99〜99.9:0.1、好ましくは5:95〜99.9:0.1、より好ましくは10:90〜99.9:0.1であるのがよい。
<9> 上記<1>〜<8>のいずれかにおいて、第1の溶質が、気体分子、酸、塩基、塩化物、ヨウ化物、リチウム塩、金属イオン、多価アルコール、ポリエチレングリコール及びその誘導体、脂質、脂肪酸、糖類、アミノ酸及びその誘導体、ビタミン及びその誘導体、色素分子、薬物分子(例えば、抗ガン剤として、アンタラサイクリン系抗ガン剤であるアクチノマイシン、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、ダウノマイシン、アドリアマイシン、イダマイシン、マイトマイシンなど、シスプラティン及びその誘導体などを挙げることができるがこれらに限定されない。抗炎症剤として、デキサメタゾン、インドメタシン、メントールなどを挙げることができるがこれらに限定されない。)、コロイド粒子、生体分子(例えば、タンパク質、DNA、RNAなど)からなる群から選ばれるのがよい。
【0012】
<10> 上記<1>〜<9>のいずれかにおいて、材料が、外用薬(例えば、鎮痛消炎剤などの外用塗薬の基材、皮膚貼付用基材など);ドラッグデリバリシステム用担体材料(例えばガン細胞をターゲットとした抗ガン剤キャリアなど);創傷被覆材;水浄化剤(例えば、沼地、工場排水、温泉水及び鉱山廃水中の有害金属や腐敗臭の除去剤);化粧品(例えばゲル状フェイスマスク用材料、ゲル状クリーム);細胞培地(例えば細胞繁殖培地、細胞分化培地など);植物組織培地(例えば水耕栽培など);電池用電解質(例えばリチウムイオン伝導性電解質材料、燃料電池用電解質);及びコンタクトレンズからなる群から選ばれるいずれか1種に用いられるのがよい。
【0013】
<11> 上記<1>〜<10>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の直鎖状分子が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれるのがよく、例えばポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれるのがよく、好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれるのがよく、特にポリエチレングリコールであるのがよい。
【0014】
<12> 上記<1>〜<11>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の直鎖状分子は、その分子量が1万以上、好ましくは2万以上、より好ましくは3万以上であるのがよい。
<13> 上記<1>〜<12>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の封鎖基が、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類からなる群から選ばれるのがよい。なお、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、及びピレン類からなる群から選ばれるのが好ましく、より好ましくはアダマンタン基類又はトリチル基類であるのがよい。
【0015】
<14> 上記<1>〜<13>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の環状分子が置換されていてもよいシクロデキストリン分子であるのがよい。
<15> 上記<1>〜<14>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の環状分子が置換されていてもよいシクロデキストリン分子であり、該シクロデキストリン分子がα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリン、並びにその誘導体からなる群から選ばれるのがよい。
【0016】
<16> 上記<1>〜<15>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の環状分子が置換されていてもよいα−シクロデキストリンであり、第1及び/又は第2の直鎖状分子がポリエチレングリコールであるのがよい。
<17> 上記<1>〜<16>のいずれかにおいて、第1の環状分子が第1の直鎖状分子により串刺し状に包接される際に第1の環状分子が最大限に包接される量を1とした場合、第1の環状分子が0.001〜0.6、好ましくは0.01〜0.5、より好ましくは0.05〜0.4の量で第1の直鎖状分子に串刺し状に包接されるのがよい。また、第2の環状分子が第2の直鎖状分子により串刺し状に包接される際に第2の環状分子が最大限に包接される量を1とした場合、第2の環状分子が0.001〜0.6、好ましくは0.01〜0.5、より好ましくは0.05〜0.4の量で第2の直鎖状分子に串刺し状に包接されるのがよい。
【0017】
<18> i)第1のポリロタキサン、
ii)以下のa)及び/又はb)の物質、
a)ポリロタキサン以外である第1のポリマー;
b)第2のポリロタキサン、
iii)溶媒、及び
iv)第1の溶質;を有する材料の製造方法であって、
A)第1の環状分子、該第1の環状分子を串刺し状に包接する第1の直鎖状分子、及び該第1の直鎖状分子から第1の環状分子が脱離しないように第1の直鎖状分子の両端に配置される第1の封鎖基を有する第1のポリロタキサンを準備する工程;
B)以下のa’)及び/又はb’)の工程により、ii)物質を準備する工程、
a’)第1のポリマーを準備する工程;又は
b’)第2のポリロタキサンを準備する工程であって、前記第1の環状分子と同じであっても異なってもよい第2の環状分子、該第2の環状分子を串刺し状に包接する第2の直鎖状分子であって前記第1の直鎖状分子と同じであっても異なってもよい第2の直鎖状分子、及び該第2の直鎖状分子から前記第2の環状分子が脱離しないように前記第2の直鎖状分子の両端に配置される第2の封鎖基であって前記第1の封鎖基と同じであっても異なってもよい第2の封鎖基を有する第2のポリロタキサンを準備する工程;
C)前記i)第1のポリロタキサンの少なくとも一部と前記ii)物質の少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させて架橋ポリロタキサンを得る工程;
D)前記iii)溶媒及び前記iv)第1の溶質を有する溶液を準備する工程;及び
E)前記架橋ポリロタキサンを前記溶液に接触させて前記材料を得る工程;
を有し、
前記材料における前記第1の溶質の実効拡散係数D/q1/3(D:拡散係数、q:材料の膨潤度)は、ポリ(アクリルアミド)、水、トリス−塩酸緩衝剤、及び第2の溶質としてジナトリウム 3-ヒドロキシ-4-[(2,4,5-トリメチルフェニル)アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホナートのみからなる比較試料であって水の含有率が95%である比較試料における前記第2の溶質の実効拡散係数の1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上、例えば1.1〜10倍、好ましくは1.2〜10倍、より好ましくは2〜10倍、さらに好ましくは3〜10倍、最も好ましくは5〜10倍である、上記方法。
【0018】
<19> 上記<18>において、ii)物質がa)第1のポリマーを有し、前記C)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第1のポリマーの少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させるのがよい。
<20> 上記<18>又は<19>のC)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第1のポリマーの少なくとも一部とを、環状分子を介して化学的に結合させるのがよい。
【0019】
<21> 上記<18>〜<20>のいずれかにおいて、ii)物質がb)第2のポリロタキサンを有し、C)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第2のポリロタキサンの少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させるのがよい。
<22> 上記<18>〜<21>のいずれかのC)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第2のポリロタキサンの少なくとも一部とを、環状分子を介して化学的に結合させるのがよい。
【0020】
<23> i)第1のポリロタキサン、
ii)以下のa)及び/又はb)の物質、
a)ポリロタキサン以外である第1のポリマー;
b)第2のポリロタキサン、
iii)溶媒、及び
iv)第1の溶質;を有する材料の製造方法であって、
A) 第1の環状分子、該第1の環状分子を串刺し状に包接する第1の直鎖状分子、及び該第1の直鎖状分子から第1の環状分子が脱離しないように第1の直鎖状分子の両端に配置される第1の封鎖基を有する第1のポリロタキサンを準備する工程;
B) 以下のa’)及び/又はb’)の工程により、ii)物質を準備する工程、
a’)第1のポリマー又はその前駆体を準備する工程;又は
b’)第2のポリロタキサンを準備する工程であって、前記第1の環状分子と同じであっても異なってもよい第2の環状分子、該第2の環状分子を串刺し状に包接する第2の直鎖状分子であって前記第1の直鎖状分子と同じであっても異なってもよい第2の直鎖状分子、及び該第2の直鎖状分子から前記第2の環状分子が脱離しないように前記第2の直鎖状分子の両端に配置される第2の封鎖基であって前記第1の封鎖基と同じであっても異なってもよい第2の封鎖基を有する第2のポリロタキサンを準備する工程;
D) iii)溶媒及び前記iv)第1の溶質を有する溶液を準備する工程;
F) i)第1のポリロタキサンと前記ii)物質とを前記溶液に加える工程;及び
G) 溶液中のi)第1のポリロタキサンの少なくとも一部と前記ii)物質の少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させて前記材料を得る工程;
を有し、
前記材料における前記第1の溶質の実効拡散係数D/q1/3(D:拡散係数、q:材料の膨潤度)は、ポリ(アクリルアミド)、水、トリス−塩酸緩衝剤、及び第2の溶質としてジナトリウム 3-ヒドロキシ-4-[(2,4,5-トリメチルフェニル)アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホナートのみからなる比較試料であって水の含有率が95%である比較試料における前記第2の溶質の実効拡散係数の1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上、例えば1.1〜10倍、好ましくは1.2〜10倍、より好ましくは2〜10倍、さらに好ましくは3〜10倍、最も好ましくは5〜10倍である、上記方法。
【0021】
<24> 上記<23>において、ii)物質がa)第1のポリマーを有し、G)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第1のポリマーの少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させるのがよい。
<25> 上記<23>又は<24>のG)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第1のポリマーの少なくとも一部とを、環状分子を介して化学的に結合させるのがよい。
【0022】
<26> 上記<23>〜<25>のいずれかにおいて、ii)物質がb)第2のポリロタキサンを有し、G)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第2のポリロタキサンの少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させるのがよい。
<27> 上記<23>〜<26>のいずれかのG)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第2のポリロタキサンの少なくとも一部とを、環状分子を介して化学的に結合させるのがよい。
【0023】
<28> 上記<18>〜<27>のいずれかにおいて、溶媒が、水、非水系溶媒、及び水と非水系溶媒との混合物からなる群から選ばれるのがよい。
【0024】
<29> 上記<28>において、非水系溶媒が、天然油(例えば、グリセリン、ひまし油、オリーブ油など);アルコール類(例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノールなどの一価アルコール;及びエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエステルポリオールなどの多価アルコール);脂肪酸(特に高級脂肪酸、例えばオレイン酸、リノレイン酸など;エーテル類(例えば、多価アルコールのアルキルエーテル類、エチレンオキシド・プロピレンオキシド共重合体など);アビエチン酸エチル;及びシリコーン油(例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルなど)からなる群から選ばれるのがよい。なお、多価アルコールのアルキルエーテル類については、モノアルキルエーテルであってもポリアルキルエーテルであってもよい。多価アルコールのモノメチルエーテル、ジメチルエーテル、モノエチルエーテル、ジエチルエーテルなどを挙げることができる。ポリエチレングリコールについては、数平均分子量が200〜600、好ましくは200〜450であるのがよい。また、ポリプロピレングリコールについては、数平均分子量が400〜5000、より好ましくは400〜3500であるのがよい。
【0025】
<30> 上記<18>〜<29>のいずれかにおいて、溶媒とポリロタキサンとの重量比(溶媒:ポリロタキサン)が、1:99〜99.9:0.1、好ましくは5:95〜99.9:0.1、より好ましくは10:90〜99.9:0.1であるのがよい。
<31> 上記<18>〜<30>のいずれかにおいて、第1の溶質が、気体分子、酸、塩基、塩化物、ヨウ化物、リチウム塩、金属イオン、多価アルコール、ポリエチレングリコール及びその誘導体、脂質、脂肪酸、糖類、アミノ酸及びその誘導体、ビタミン及びその誘導体、色素分子、薬物分子(例えば、抗ガン剤として、アンタラサイクリン系抗ガン剤であるアクチノマイシン、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、ダウノマイシン、アドリアマイシン、イダマイシン、マイトマイシンなど、シスプラティン及びその誘導体などを挙げることができるがこれらに限定されない。抗炎症剤として、デキサメタゾン、インドメタシン、メントールなどを挙げることができるがこれらに限定されない。)、コロイド粒子、生体分子(例えば、タンパク質、DNA、RNAなど)からなる群から選ばれるのがよい。
【0026】
<32> 上記<18>〜<31>のいずれかにおいて、材料が、外用薬(例えば、鎮痛消炎剤などの外用塗薬の基材、皮膚貼付用基材など);ドラッグデリバリシステム用担体材料(例えばガン細胞をターゲットとした抗ガン剤キャリアなど);創傷被覆材;水浄化剤(例えば、沼地、工場排水、温泉水及び鉱山廃水中の有害金属や腐敗臭の除去剤);化粧品(例えばゲル状フェイスマスク用材料、ゲル状クリーム);細胞培地(例えば細胞繁殖培地、細胞分化培地など);植物組織培地(例えば水耕栽培など);電池用電解質(例えばリチウムイオン伝導性電解質材料、燃料電池用電解質);及びコンタクトレンズからなる群から選ばれるいずれか1種に用いられるのがよい。
【0027】
<33> 上記<18>〜<32>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の直鎖状分子が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれるのがよく、例えばポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれるのがよく、好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれるのがよく、特にポリエチレングリコールであるのがよい。
【0028】
<34> 上記<18>〜<33>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の直鎖状分子は、その分子量が1万以上、好ましくは2万以上、より好ましくは3万以上であるのがよい。
<35> 上記<18>〜<34>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の封鎖基が、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類からなる群から選ばれるのがよい。なお、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、及びピレン類からなる群から選ばれるのが好ましく、より好ましくはアダマンタン基類又はトリチル基類であるのがよい。
【0029】
<36> 上記<18>〜<35>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の環状分子が置換されていてもよいシクロデキストリン分子であるのがよい。
<37> 上記<18>〜<36>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の環状分子が置換されていてもよいシクロデキストリン分子であり、該シクロデキストリン分子がα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリン、並びにその誘導体からなる群から選ばれるのがよい。
【0030】
<38> 上記<18>〜<37>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の環状分子が置換されていてもよいα−シクロデキストリンであり、第1及び/又は第2の直鎖状分子がポリエチレングリコールであるのがよい。
<39> 上記<18>〜<38>のいずれかにおいて、第1の環状分子が第1の直鎖状分子により串刺し状に包接される際に第1の環状分子が最大限に包接される量を1とした場合、第1の環状分子が0.001〜0.6、好ましくは0.01〜0.5、より好ましくは0.05〜0.4の量で第1の直鎖状分子に串刺し状に包接されるのがよい。また、第2の環状分子が第2の直鎖状分子により串刺し状に包接される際に第2の環状分子が最大限に包接される量を1とした場合、第2の環状分子が0.001〜0.6、好ましくは0.01〜0.5、より好ましくは0.05〜0.4の量で第2の直鎖状分子に串刺し状に包接されるのがよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、高い拡散係数を有する材料、例えばウェットゲルを提供することができる。
また、本発明により、高い拡散係数を有し且つ高い透過性を有する材料、例えばウェットゲルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、i)第1のポリロタキサン、ii)以下のa)及び/又はb)の物質、即ちa)ポリロタキサン以外である第1のポリマー;及び/又はb)第2のポリロタキサン、iii)溶媒、及びiv)第1の溶質;を有する材料であって高い拡散係数を有する材料を提供する。
本発明の材料において、i)第1のポリロタキサンとii)物質、即ちa)ポリロタキサン以外である第1のポリマー;及び/又はb)第2のポリロタキサン、とは、その少なくとも一部が架橋されているのがよい。架橋は、次のイ)〜ハ)の架橋であるのがよい。即ち、イ)ポリロタキサン同士(第1のポリロタキサンと第2のポリロタキサン)の架橋、ロ)ポリロタキサン以外のポリマー(即ち「第1のポリマー」)とポリロタキサンとの架橋、ハ)上記イ)とロ)とが共に存在する架橋。
また、架橋は、化学的な架橋であっても物理的な架橋であってもよく、好ましくは化学的な架橋であるのがよく、より好ましくは環状分子を介しての化学的架橋であるのがよい。
以下、本発明の材料に含まれる構成物質について、詳述する。
【0033】
<ポリロタキサン>
本発明における第1及び/又は第2のポリロタキサンは各々、環状分子、該環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子、及び該直鎖状分子から環状分子が脱離しないように直鎖状分子の両端に配置される封鎖基を有する。
第2のポリロタキサンは、第1のポリロタキサンと同じであっても異なってもよい。より具体的には、第2の環状分子は第1の環状分子と同じであっても異なってもよく、第2の直鎖状分子は第1の直鎖状分子と同じであっても異なってもよく、第2の封鎖基は第1の封鎖基と同じであっても異なってもよい。さらに、直鎖状分子の一端に配置される封鎖基は、他端に配置される封鎖基と同じであっても異なってもよい。
【0034】
<ポリロタキサンの直鎖状分子>
本発明の材料のポリロタキサンにおいて、直鎖状分子は、長手方向に伸びる分子、即ち直鎖状分子であれば、特に限定されない。この直鎖状分子として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれるのがよいが、特に限定されない。
例えばポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれるのがよく、好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれるのがよく、特にポリエチレングリコールであるのがよい。
【0035】
直鎖状分子は、その分子量が1万以上、好ましくは2万以上、より好ましくは3万以上であるのがよい。
【0036】
<ポリロタキサンの封鎖基>
本発明の材料のポリロタキサンにおいて、封鎖基は、上述のように、直鎖状分子の両端に配置される。また、封鎖基は、直鎖状分子から環状分子が脱離しない作用を有する。これらの作用を有する封鎖基であれば、特に限定されない。なお、直鎖状分子の両端に配置される封鎖基は、一端と他端とが同じであっても異なっても良い。
封鎖基として、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類からなる群から選ばれるのがよい。なお、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、及びピレン類からなる群から選ばれるのが好ましく、より好ましくはアダマンタン基類又はトリチル基類であるのがよい。
【0037】
<ポリロタキサンの環状分子>
環状分子は、環状であり、上述の状態を採るものであれば、特に限定されない。
環状分子は、置換されていてもよいシクロデキストリン分子であるのがよい。該シクロデキストリン分子は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリン、並びにその誘導体からなる群から選ばれるのがよい。
【0038】
本発明の材料のポリロタキサンにおいて、環状分子が置換されていてもよいα−シクロデキストリンであり、直鎖状分子がポリエチレングリコールであるのがよい。
また、本発明の材料のポリロタキサンにおいて、環状分子が直鎖状分子により串刺し状に包接される際に環状分子が最大限に包接される量を1とした場合、環状分子が0.001〜0.6、好ましくは0.01〜0.5、より好ましくは0.05〜0.4の量で直鎖状分子に串刺し状に包接されるのがよい。
【0039】
<ii)物質>
本発明の材料は、i)第1のポリロタキサンの他に、ii)物質を有する。このii)物質は、以下のa)であるか、b)であるか、又はa)とb)との混在であるかのいずれかである。a)は、ポリロタキサン以外である第1のポリマーである。また、b)は、第1のポリロタキサンと同じであっても異なってもよい第2のポリロタキサンである。
【0040】
<ii)物質−a)第1のポリマー>
第1のポリマーは、ポリロタキサン以外のポリマーであり、特に限定されない。
第1のポリマー)として、特に限定されないが、主鎖又は側鎖に−OH基、−NH基、−COOH基、エポキシ基、ビニル基、チオール基、及び光架橋基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有するのがよい。なお、光架橋基として、ケイ皮酸、クマリン、カルコン、アントラセン、スチリルピリジン、スチリルピリジニウム塩、スチリルキノリウム塩などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0041】
第1のポリマーは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。2種以上のポリマーを有していてもよく、2種以上のポリマーを有する場合には、少なくとも1種のポリマーがポリロタキサンと環状分子を介して結合しているのがよい。第1のポリマーがコポリマーである場合には、2種、3種又はそれ以上のモノマーから成ってもよい。コポリマーである場合、ブロックコポリマー、交互コポリマー、ランダムコポリマー、グラフトコポリマーなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0042】
第1のポリマーの例として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されない。なお、誘導体として、上述の基、即ち−OH基、−NH基、−COOH基、エポキシ基、ビニル基、チオール基、及び光架橋基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有するのがよい。
【0043】
<ii)物質−a)第2のポリロタキサン>
本発明の材料は、第2のポリロタキサンを有してもよい。この場合、第2のポリロタキサンは、上述したように、第1のポリロタキサンと同じであっても異なってもよい。なお、第2のポリロタキサンを構成する物質は、上述したとおりである。
【0044】
<溶媒>
本発明において、溶媒は、水、非水系溶媒、及び水と非水系溶媒との混合物からなる群から選ばれるのがよい。
非水系溶媒とは、水以外の液体をいい、単独の液体であっても、複数の液体の混合物であってもよい。非水系溶媒は、室温で液体であることが取り扱いの点などから好ましいが、本発明の材料の用途によっては、室温を超える温度(例えば50〜200℃)、室温に満たない温度(例えば−140〜0℃)で液体の形態となるものを使用することもできる。
【0045】
非水系溶媒として、天然油(例えば、グリセリン、ひまし油、オリーブ油など);アルコール類(例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノールなどの一価アルコール;及びエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエステルポリオールなどの多価アルコール);脂肪酸(特に高級脂肪酸、例えばオレイン酸、リノレイン酸など;エーテル類(例えば、多価アルコールのアルキルエーテル類、エチレンオキシド・プロピレンオキシド共重合体など);アビエチン酸エチル;及びシリコーン油(例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルなど)からなる群から選ばれるのがよいが、これらに限定されない。なお、多価アルコールのアルキルエーテル類については、モノアルキルエーテルであってもポリアルキルエーテルであってもよい。多価アルコールのモノメチルエーテル、ジメチルエーテル、モノエチルエーテル、ジエチルエーテルなどを挙げることができる。ポリエチレングリコールについては、数平均分子量が200〜600、好ましくは200〜450であるのがよい。また、ポリプロピレングリコールについては、数平均分子量が400〜5000、より好ましくは400〜3500であるのがよい。
【0046】
溶媒の量は、次の範囲であるのがよい。即ち、溶媒とポリロタキサンとの重量比(溶媒:ポリロタキサン)が、1:99〜99.9:0.1、好ましくは5:95〜99.9:0.1、より好ましくは10:90〜99.9:0.1であるのがよい。
【0047】
<第1の溶質>
本発明において、第1の溶質は、本発明の材料において高い拡散係数を有する溶質である。本発明の第1の溶質として、特に限定されないが、例えば、気体分子、酸、塩基、塩化物、ヨウ化物、リチウム塩、金属イオン、多価アルコール、ポリエチレングリコール及びその誘導体、脂質、脂肪酸、糖類、アミノ酸及びその誘導体、ビタミン及びその誘導体、色素分子、薬物分子(例えば、抗ガン剤として、アンタラサイクリン系抗ガン剤であるアクチノマイシン、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、ダウノマイシン、アドリアマイシン、イダマイシン、マイトマイシンなど、シスプラティン及びその誘導体などを挙げることができるがこれらに限定されない。抗炎症剤として、デキサメタゾン、インドメタシン、メントールなどを挙げることができるがこれらに限定されない。)、コロイド粒子、生体分子(例えば、タンパク質、DNA、RNAなど)からなる群から選ばれるのがよい。
【0048】
なお、溶媒は、第1の溶質以外の溶質であって、材料の実効拡散係数に実質的に影響を与えない溶質を含有してもよい。例えば、pH調整剤(緩衝剤)、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、殺菌剤、顔料、着色剤、香料などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0049】
<実効拡散係数>
本発明の材料は、比較試料と比較して高い実効拡散係数D/q1/3(D:拡散係数、q:材料の膨潤度)を有する。
本明細書において、比較試料は、ポリ(アクリルアミド)、水、及び第2の溶質としてジナトリウム 3-ヒドロキシ-4-[(2,4,5-トリメチルフェニル)アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホナート(Disodium
3-hydroxy-4-[(2,4,5-trimethylphenyl)azo]-2,7-naphthalenedisulfonate)のみからなる。ここで、ジナトリウム 3-ヒドロキシ-4-[(2,4,5-トリメチルフェニル)アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホナートは、一般名が「ポンソー3R(Ponceau
3R)」である赤色色素である。
【0050】
本発明において、比較試料は、非特許文献1に記載される方法により得るものを用いる。
即ち、アクリルアミドとN,N’-メチレンビスアクリルアミド(架橋剤)とを蒸留水100mlに溶解させ、アクリルアミドが693mM、及びN,N’-メチレンビスアクリルアミドが7mMの溶液とした。この溶液に、促進剤としてN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを加え、20分間攪拌した。このプレゲル溶液にゲルホルダーを浸漬し、30分間脱気処理を行った。プレゲル溶液に、4wt%アンモニウム・パースルフェート1ml(反応開始剤)を加えて重合を開始させ、20℃で1日間、静置して、ジナトリウム 3-ヒドロキシ-4-[(2,4,5-トリメチルフェニル)アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホナートを有しない比較試料を得た。
【0051】
比較試料の水の含有率は95wt%である。
なお、本明細書において、比較試料の水の含有率とは、水とポリ(アクリルアミド)とからなる重量をWx、ポリ(アクリルアミド)のみからなる重量をWyとした場合、次の式から表すことができる。
【0052】
(比較試料の水の含有率、wt%)=(Wx−Wy)/Wx×100
【0053】
また、膨潤度は、次の式により求めることができる。
【0054】
(比較試料の膨潤度、q’)=Wx/Wy
【0055】
この比較試料における第2の溶質(ジナトリウム 3-ヒドロキシ-4-[(2,4,5-トリメチルフェニル)アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホナート)の拡散係数D’を、サイドバイサイドセル(非特許文献1を参照のこと。また、後述の実施例を参照のこと)を用いたタイムラグ法により計測し、上記q’から、比較試料の実効拡散係数D’/q’1/3を算出する。
【0056】
一方、本発明の材料の実効拡散係数は、次のように測定する。
(本発明の材料の膨潤度q)=w1/w2
式中、w1は溶媒中で膨潤平衡状態まで膨潤したゲル(即ち、i)第1のポリロタキサン;ii)物質;及びiii)溶媒;からなる材料)の重量、w2は溶媒を除去した後の乾燥ゲル(即ち、w1からiii)溶媒を除いたもの)の重量である。
【0057】
第1の溶質及び溶媒を有する本発明の材料の、該第1の溶質の拡散係数Dを、比較試料のD’を計測したものと同じ装置を用いて、測定する。これらのD及びqから、本発明の実効拡散係数D/q1/3を算出する。
本発明における実効拡散係数D/q1/3は、比較試料の実効拡散係数D’/q’1/3の1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上、例えば1.1〜10倍、好ましくは1.2〜10倍、より好ましくは2〜10倍、さらに好ましくは3〜10倍、最も好ましくは5〜10倍であるのがよい。
【0058】
<本発明の材料の用途>
本発明の材料は、高い拡散係数が望まれる分野において用いることができる。例えば、本発明の材料は、特に限定されないが、外用薬(例えば、鎮痛消炎剤などの外用塗薬の基材、皮膚貼付用基材など);ドラッグデリバリシステム用担体材料(例えばガン細胞をターゲットとした抗ガン剤キャリアなど);創傷被覆材;水浄化剤(例えば、沼地、工場排水、温泉水及び鉱山廃水中の有害金属や腐敗臭の除去剤);化粧品(例えばゲル状フェイスマスク用材料、ゲル状クリーム);細胞培地(例えば細胞繁殖培地、細胞分化培地など);植物組織培地(例えば水耕栽培など);電池用電解質(例えばリチウムイオン伝導性電解質材料、燃料電池用電解質);及びコンタクトレンズからなる群から選ばれるいずれか1種に用いられるのがよい。
【0059】
<本発明の材料の製造方法−その1−>
上述の本発明の材料は、例えば、次のように、製造することができる。
即ち、A)第1の環状分子、該第1の環状分子を串刺し状に包接する第1の直鎖状分子、及び該第1の直鎖状分子から第1の環状分子が脱離しないように第1の直鎖状分子の両端に配置される第1の封鎖基を有する第1のポリロタキサンを準備する工程;
B)以下のa’)及び/又はb’)の工程により、ii)物質を準備する工程、
a’)第1のポリマーを準備する工程;又は
b’)第2のポリロタキサンを準備する工程であって、前記第1の環状分子と同じであっても異なってもよい第2の環状分子、該第2の環状分子を串刺し状に包接する第2の直鎖状分子であって前記第1の直鎖状分子と同じであっても異なってもよい第2の直鎖状分子、及び該第2の直鎖状分子から前記第2の環状分子が脱離しないように前記第2の直鎖状分子の両端に配置される第2の封鎖基であって前記第1の封鎖基と同じであっても異なってもよい第2の封鎖基を有する第2のポリロタキサンを準備する工程;
C)前記i)第1のポリロタキサンの少なくとも一部と前記ii)物質の少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させて架橋ポリロタキサンを得る工程;
D)前記iii)溶媒及び前記iv)第1の溶質を有する溶液を準備する工程;及び
E)前記架橋ポリロタキサンを前記溶液に接触させて前記材料を得る工程;
を有することにより得ることができる。
【0060】
この製法において、C)工程のi)第1のポリロタキサンの少なくとも一部と、ii)物質の少なくとも一部との架橋は、上述のように、次のイ)〜ハ)の架橋であるのがよい。イ)ポリロタキサン同士(第1のポリロタキサンと第2のポリロタキサン)の架橋、ロ)ポリロタキサン以外のポリマー(即ち「第1のポリマー」)とポリロタキサンとの架橋、ハ)上記イ)とロ)とが共に存在する架橋。
また、架橋は、化学的な架橋であっても物理的な架橋であってもよく、好ましくは化学的な架橋であるのがよく、より好ましくは環状分子を介しての化学的架橋であるのがよい。
なお、この製法において、ポリロタキサン、溶媒、第1の溶質などは、上述のものを用いることができる。なお、ポリロタキサン以外のポリマー、即ち「第1のポリマー」として、上述のものを用いることができる。
【0061】
<本発明の材料の製造方法−その2−>
また、上述の本発明の材料は、例えば、次のように、製造することができる。
即ち、A) 第1の環状分子、該第1の環状分子を串刺し状に包接する第1の直鎖状分子、及び該第1の直鎖状分子から第1の環状分子が脱離しないように第1の直鎖状分子の両端に配置される第1の封鎖基を有する第1のポリロタキサンを準備する工程;
B) 以下のa’)及び/又はb’)の工程により、ii)物質を準備する工程、
a’)第1のポリマー又はその前駆体を準備する工程;又は
b’)第2のポリロタキサンを準備する工程であって、前記第1の環状分子と同じであっても異なってもよい第2の環状分子、該第2の環状分子を串刺し状に包接する第2の直鎖状分子であって前記第1の直鎖状分子と同じであっても異なってもよい第2の直鎖状分子、及び該第2の直鎖状分子から前記第2の環状分子が脱離しないように前記第2の直鎖状分子の両端に配置される第2の封鎖基であって前記第1の封鎖基と同じであっても異なってもよい第2の封鎖基を有する第2のポリロタキサンを準備する工程;
D) iii)溶媒及び前記iv)第1の溶質を有する溶液を準備する工程;
F) i)第1のポリロタキサンと前記ii)物質とを前記溶液に加える工程;及び
G) 溶液中のi)第1のポリロタキサンの少なくとも一部と前記ii)物質の少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させて前記材料を得る工程;
を有することにより得ることができる。
【0062】
なお、この製法において、G)工程の架橋は、上述のC)工程と同様である。G)工程の架橋として、例えば熱架橋、光架橋などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0063】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
<架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−1の調製>
ヒドロキシプロピル化したポリロタキサンHAPR(直鎖状分子:ポリエチレングリコール(分子量:3.5万)、環状分子:α−シクロデキストリン、α−シクロデキストリンの包接量:26%、封鎖基:アダマンタンアミン、ヒドロキシプロピル化率:47.5%対OH基)2.5gを0.01N NaOH水溶液10mLに溶解した。架橋剤ジビニルスルホンDVS 150μl(0.177g)を上記の水溶液に加えた。なお、ヒドロキシプロピル化したポリロタキサンHAPRは、WO2005/080469号公報(本文献の内容は全て本明細書に組み込まれる)に記載されている方法と同様の方法により得た。5℃で24時間反応させて架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−1を得た。得られた架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−1を純水中に浸漬して膨潤させた。周囲の純水を繰り返し交換し、平衡に達するまで膨潤させた。
膨潤平衡における架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−1の重量w1は0.4527gであった。一方、架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−1を室温で2日間真空乾燥させることにより該A−1のみの重量w2を求めた結果、0.0435gであった。これらw1及びw2から、架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−1の膨潤度q(q=w1/w2)は、10であり、含水率(((w1−w2)/w1)×100(wt%))は、90wt%であった。
【0065】
<架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−1中の物質の拡散係数の測定>
図1に模式的に示すサイドバイサイドセル1(なお、実際にはPerme Gear社製サイドバイサイドセルを用いた)を用いて、架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−1中の物質の拡散係数を測定した。物質として、ジナトリウム 3-ヒドロキシ-4-[(2,4,5-トリメチルフェニル)アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホナート(一般名「ポンソー3R(Ponceau
3R)」、以下、「ポンソー3R」と略記する)を用いて、該ポンソー3Rの透過実験(拡散係数測定実験)を行った。
まず、架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−1(図1中、「4」)を2つのセル(図1中、左側セルが「2」、右側セルが「3」)の間に固定した。
左側セル2には、溶質としてポンソー3R(図1中、「6」で模式的に示す)、溶媒としてトリス−塩酸緩衝剤(pH6.9)(図1中、「7」で模式的に示す)を用いた8mLの水溶液を注入した。
右側セル3には、左側セル2において溶媒として用いた、トリス−塩酸緩衝剤(pH6.9)(図1中、「7」で模式的に示す)のみを8mL注入した。
架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−1(図1中、「4」)を透過(透過方向:図1中の「A」)して右側セル3中に拡散したポンソー3Rの吸光度の時間変化を、紫外可視分光光度計AGILENT 8453(Agilent Technologies社製)を用いて測定した。
測定結果を図2に示す。図2は、右側セル3中のポンソー3Rの吸光度の時間変化を示す図である。また、図2中、◆、■、▲はそれぞれ、左側セル2のポンソー3Rの開始濃度を4mmol/L(◆)、8mmol/L(■)、12mmol/L(▲)とした場合の結果を示す。
いずれの開始濃度でもある時間が経つと右側セル中でポンソー3Rが検出された。この検出開始時間(タイムラグ)は、開始濃度に関わらず一定であった。タイムラグtとゲルの厚みdの測定結果から、架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−1中のポンソー3Rの拡散係数Dを以下の式にしたがって求めた(タイムラグ法)ところ、1.88×10−10/sであった。
【0066】
【数1】

【実施例2】
【0067】
<架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−2の調製>
架橋剤ジビニルスルホンDVSの用いた量を50μl(0.059g)とした以外、実施例1と同様の方法により、架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−2を得た。得られた架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−2を、実施例1と同様の方法で、純水中に浸漬して膨潤させた。架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−2の膨潤度q(q=w1/w2)は18であり、含水率は94wt%であった。
【0068】
<架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−2の拡散係数>
また、実施例1と同じ方法により、架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−2中のポンソー3Rの拡散係数を求めたところ、3.33×10−10/sであった。
【実施例3】
【0069】
<架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−3の調製>
架橋剤ジビニルスルホンDVSの用いた量を250μl(0.295g)とした以外、実施例1と同様の方法により、架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−3を得た。得られた架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−3を、実施例1と同様の方法で、純水中に浸漬して膨潤させた。架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−3の膨潤度q(q=w1/w2)は6であり、含水率は83wt%であった。
【0070】
<架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−3の拡散係数>
また、実施例1と同じ方法により、架橋ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンA−3中のポンソー3Rの拡散係数を求めたところ、0.78×10−10/sであった。
【0071】
(比較例1)
トキタは、Tokita, M., Jpn. J. Appl. Phys. 34,
2418-2422 (1995)において、ポリアクリルアミドゲル(含水率:95%、厚み:およそ1mm)中のポンソー3Rの拡散係数の測定に関して記載している。ここでは、実施例1と全く同じ条件、即ち、同じタイムラグ法を用いて同じ測定条件(緩衝溶液は、トリス−塩酸緩衝剤(pH6.9))で測定した。その結果は、0.98×10−10/sであった。
なお、ポリアクリルアミドは、上述したように、非特許文献1と同じ方法により得た。
【0072】
実施例1〜3及び比較例1の結果を表1に示す。また、表1には、実効拡散係数D/q1/3も記述した。
表1から次のことがわかる。即ち、含水率がほぼ同じ実施例2(含水率94%)と比較例1(含水率95%)とを比較すると、実施例2のA−2中のポンソー3Rの拡散係数は、比較例1のポリアクリルアミドゲルより、およそ3倍以上大きくなったことがわかる。
比較例1(含水率95%)より含水率が低い、実施例1(含水率90%)の拡散係数(1.88)も、比較例1のそれ(0.98)よりも2倍ぐらい大きくなったことがわかる。
実施例3(含水率83%)は、比較例1(含水率95%)と比較すると、やや小さな拡散係数を持つことがわかる。
これらの結果より、本発明と比較例1とを比較すると、同じ含水率の場合、本発明の材料は、その中でのポンソー3Rが速く拡散することがわかる。これは、架橋ポリロタキサンの網目鎖が化学ゲルよりフレキシブルな構造を持ち、拡散に対する制限が小さくなっているためと考えられる。
【0073】
実施例1〜3の結果から次のことがわかる。
ゲル材料の膨潤度が増大すると、その中の溶質の拡散係数は大きくなる。一般的には、ゲル材料中での溶質の拡散は、材料の網目サイズの増大につれて速くなる傾向がある。また、ゲル材料の網目サイズは、膨潤度qの1/3乗(q1/3)に比例する。即ち、q1/3は、溶質の拡散係数に直接関係する。膨潤度の異なるゲル材料の拡散性の比較を実効あるものとするためには、D/q1/3(D:拡散係数、q1/3:膨潤度)という実効拡散係数を用いて評価するのがよい。
実施例3(q=6)と比較例1(q=20)とを比較すると、本発明は、膨潤度が低く且つ含水率が低くても、高い実効拡散係数、つまり高い拡散性を有する材料を提供できることがわかる。
また、実施例2と比較例1とを比較すると、膨潤度及び含水率が同程度の材料である場合、本発明は、実効拡散係数が約3.5倍である材料を提供できることがわかる。
【0074】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明において、拡散係数を測定するサイドバイサイドセルの概略を示す図である。
【図2】実施例1の実験結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)第1のポリロタキサン、
ii)以下のa)及び/又はb)の物質、
a)ポリロタキサン以外である第1のポリマー;
b)第2のポリロタキサン、
iii)溶媒、及び
iv)第1の溶質;
を有する材料であって、
前記i)第1のポリロタキサンの少なくとも一部と前記ii)物質の少なくとも一部とが化学的及び/又は物理的に架橋してなり、
前記第1のポリロタキサンは、第1の環状分子、該第1の環状分子を串刺し状に包接する第1の直鎖状分子、及び該第1の直鎖状分子から前記第1の環状分子が脱離しないように前記第1の直鎖状分子の両端に配置される第1の封鎖基を有し、
前記第2のポリロタキサンは、前記第1の環状分子と同じであっても異なってもよい第2の環状分子、該第2の環状分子を串刺し状に包接する第2の直鎖状分子であって前記第1の直鎖状分子と同じであっても異なってもよい第2の直鎖状分子、及び該第2の直鎖状分子から前記第2の環状分子が脱離しないように前記第2の直鎖状分子の両端に配置される第2の封鎖基であって前記第1の封鎖基と同じであっても異なってもよい第2の封鎖基を有し、
前記材料における前記第1の溶質の実効拡散係数D/q1/3(D:拡散係数、q:材料の膨潤度)は、ポリ(アクリルアミド)、水、トリス−塩酸緩衝剤、及び第2の溶質としてジナトリウム 3-ヒドロキシ-4-[(2,4,5-トリメチルフェニル)アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホナートのみからなる比較試料であって水の含有率が95%である比較試料における前記第2の溶質の実効拡散係数の1.1倍以上である、上記材料。
【請求項2】
前記ii)物質が、a)第1のポリマーを有し、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第1のポリマーの少なくとも一部とが化学的及び/又は物理的に架橋する請求項1記載の材料。
【請求項3】
第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第1のポリマーの少なくとも一部とが、環状分子を介して化学的に結合する請求項1又は2記載の材料。
【請求項4】
前記ii)物質が、b)第2のポリロタキサンを有し、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第2のポリロタキサンの少なくとも一部とが化学的及び/又は物理的に架橋する請求項1〜3のいずれか1項記載の材料。
【請求項5】
第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第2のポリロタキサンの少なくとも一部とが、環状分子を介して化学的に結合する請求項1〜4のいずれか1項記載の材料。
【請求項6】
前記溶媒が、水、非水系溶媒、及び水と非水系溶媒との混合物からなる群から選ばれる請求項1〜5のいずれか1項記載の材料。
【請求項7】
前記非水系溶媒が、天然油、アルコール類、脂肪酸、エーテル類、アビエチン酸エチル、及びシリコーン油からなる群から選ばれる請求項6記載の材料。
【請求項8】
前記溶媒と前記ポリロタキサンとの重量比(溶媒:ポリロタキサン)が、1:99〜99.9:0.1である請求項1〜7のいずれか1項記載の材料。
【請求項9】
前記第1の溶質が、気体分子、酸、塩基、塩化物、ヨウ化物、リチウム塩、金属イオン、多価アルコール、ポリエチレングリコール及びその誘導体、脂質、脂肪酸、糖類、アミノ酸及びその誘導体、ビタミン及びその誘導体、色素分子、薬物分子、コロイド粒子、生体分子からなる群から選ばれる請求項1〜8のいずれか1項記載の材料。
【請求項10】
前記材料が、外用薬;ドラッグデリバリシステム用担体材料;創傷被覆材;水浄化剤;化粧品;細胞培地;植物組織培地;電池用電解質;及びコンタクトレンズからなる群から選ばれるいずれか1種に用いられる請求項1〜9のいずれか1項記載の材料。
【請求項11】
前記第1及び/又は第2の直鎖状分子が、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれる請求項1〜10のいずれか1項記載の材料。
【請求項12】
前記第1及び/又は第2の直鎖状分子は、その分子量が1万以上である請求項1〜11のいずれか1項記載の材料。
【請求項13】
前記第1及び/又は第2の封鎖基が、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類、置換されていてもよい多核芳香族類、及びステロイド類からなる群から選ばれる請求項1〜12のいずれか1項記載の材料。
【請求項14】
前記第1及び/又は第2の環状分子が置換されていてもよいシクロデキストリン分子である請求項1〜13のいずれか1項記載の材料。
【請求項15】
前記第1及び/又は第2の環状分子が置換されていてもよいシクロデキストリン分子であり、該シクロデキストリン分子がα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリン、並びにその誘導体からなる群から選ばれる請求項1〜14のいずれか1項記載の材料。
【請求項16】
前記第1及び/又は第2の環状分子が置換されていてもよいα−シクロデキストリンであり、前記第1及び/又は第2の直鎖状分子がポリエチレングリコールである請求項1〜15のいずれか1項記載の材料。
【請求項17】
前記第1の環状分子が第1の直鎖状分子により串刺し状に包接される際に第1の環状分子が最大限に包接される量を1とした場合、前記第1の環状分子が0.001〜0.6の量で第1の直鎖状分子に串刺し状に包接され、第2のポリロタキサンを有する場合、前記第2の環状分子が第2の直鎖状分子により串刺し状に包接される際に第2の環状分子が最大限に包接される量を1とした場合、前記第2の環状分子が0.001〜0.6の量で第2の直鎖状分子に串刺し状に包接される請求項1〜16のいずれか1項記載の材料。
【請求項18】
i)第1のポリロタキサン、
ii)以下のa)及び/又はb)の物質、
a)ポリロタキサン以外である第1のポリマー;
b)第2のポリロタキサン、
iii)溶媒、及び
iv)第1の溶質;を有する材料の製造方法であって、
A)第1の環状分子、該第1の環状分子を串刺し状に包接する第1の直鎖状分子、及び該第1の直鎖状分子から第1の環状分子が脱離しないように第1の直鎖状分子の両端に配置される第1の封鎖基を有する第1のポリロタキサンを準備する工程;
B)以下のa’)及び/又はb’)の工程により、ii)物質を準備する工程、
a’)第1のポリマーを準備する工程;又は
b’)第2のポリロタキサンを準備する工程であって、前記第1の環状分子と同じであっても異なってもよい第2の環状分子、該第2の環状分子を串刺し状に包接する第2の直鎖状分子であって前記第1の直鎖状分子と同じであっても異なってもよい第2の直鎖状分子、及び該第2の直鎖状分子から前記第2の環状分子が脱離しないように前記第2の直鎖状分子の両端に配置される第2の封鎖基であって前記第1の封鎖基と同じであっても異なってもよい第2の封鎖基を有する第2のポリロタキサンを準備する工程;
C)前記i)第1のポリロタキサンの少なくとも一部と前記ii)物質の少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させて架橋ポリロタキサンを得る工程;
D)前記iii)溶媒及び前記iv)第1の溶質を有する溶液を準備する工程;及び
E)前記架橋ポリロタキサンを前記溶液に接触させて前記材料を得る工程;
を有し、
前記材料における前記第1の溶質の実効拡散係数D/q1/3(D:拡散係数、q:材料の膨潤度)は、ポリ(アクリルアミド)、水、トリス−塩酸緩衝剤、及び第2の溶質としてジナトリウム 3-ヒドロキシ-4-[(2,4,5-トリメチルフェニル)アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホナートのみからなる比較試料であって水の含有率が95%である比較試料における前記第2の溶質の実効拡散係数の1.1倍以上である、上記方法。
【請求項19】
前記ii)物質がa)第1のポリマーを有し、前記C)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第1のポリマーの少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させる請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記C)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第1のポリマーの少なくとも一部とを、環状分子を介して化学的に結合させる請求項18又は19記載の方法。
【請求項21】
前記ii)物質がb)第2のポリロタキサンを有し、前記C)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第2のポリロタキサンの少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させる請求項18〜20のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
前記C)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第2のポリロタキサンの少なくとも一部とを、環状分子を介して化学的に結合させる請求項18〜21のいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
i)第1のポリロタキサン、
ii)以下のa)及び/又はb)の物質、
a)ポリロタキサン以外である第1のポリマー;
b)第2のポリロタキサン、
iii)溶媒、及び
iv)第1の溶質;を有する材料の製造方法であって、
A)第1の環状分子、該第1の環状分子を串刺し状に包接する第1の直鎖状分子、及び該第1の直鎖状分子から第1の環状分子が脱離しないように第1の直鎖状分子の両端に配置される第1の封鎖基を有する第1のポリロタキサンを準備する工程;
B)以下のa’)及び/又はb’)の工程により、ii)物質を準備する工程、
a’)第1のポリマー又はその前駆体を準備する工程;又は
b’)第2のポリロタキサンを準備する工程であって、前記第1の環状分子と同じであっても異なってもよい第2の環状分子、該第2の環状分子を串刺し状に包接する第2の直鎖状分子であって前記第1の直鎖状分子と同じであっても異なってもよい第2の直鎖状分子、及び該第2の直鎖状分子から前記第2の環状分子が脱離しないように前記第2の直鎖状分子の両端に配置される第2の封鎖基であって前記第1の封鎖基と同じであっても異なってもよい第2の封鎖基を有する第2のポリロタキサンを準備する工程;
D)前記iii)溶媒及び前記iv)第1の溶質を有する溶液を準備する工程;
F)前記i)第1のポリロタキサンと前記ii)物質とを前記溶液に加える工程;及び
G)前記溶液中のi)第1のポリロタキサンの少なくとも一部と前記ii)物質の少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させて前記材料を得る工程;
を有し、
前記材料における前記第1の溶質の実効拡散係数D/q1/3(D:拡散係数、q:材料の膨潤度)は、ポリ(アクリルアミド)、水、トリス−塩酸緩衝剤、及び第2の溶質としてジナトリウム 3-ヒドロキシ-4-[(2,4,5-トリメチルフェニル)アゾ]-2,7-ナフタレンジスルホナートのみからなる比較試料であって水の含有率が95%である比較試料における前記第2の溶質の実効拡散係数の1.1倍以上である、上記方法。
【請求項24】
前記ii)物質がa)第1のポリマーを有し、前記G)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第1のポリマーの少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させる請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記G)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第1のポリマーの少なくとも一部とを、環状分子を介して化学的に結合させる請求項23又は24記載の方法。
【請求項26】
前記ii)物質がb)第2のポリロタキサンを有し、前記G)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第2のポリロタキサンの少なくとも一部とを化学的及び/又は物理的に架橋させる請求項23〜25のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
前記G)工程において、第1のポリロタキサンの少なくとも一部と第2のポリロタキサンの少なくとも一部とを、環状分子を介して化学的に結合させる請求項23〜26記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−45055(P2008−45055A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223054(P2006−223054)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(505136963)アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社 (19)
【Fターム(参考)】